天を仰ぐは誰がために
前章 蒼い気持ち:ジパング お母さんは我慢強い白蛇(ひと)だった。 お父さん――想い人のために幾重にも策を張り巡らして、甘い罠に堕としたらしい。 お母さんの蒼い炎にお父さんを浸して毎夜毎夜、肌よりも髪よりも白くなるくらい交わったそうだ。 そうして産まれたのがぼく。お母さんとお父さんの結晶。白い髪、白い肌、白い尾、白い耳。 ぼくはお母さんもお父さんも大好き。優しくて、温かくて、心がぽかぽかする。 でもお母さんとお父さんが仲良く触れ合っている姿はもっと大好き。 一度だけお母さんとお父さんの交わりを見たことがあった。 すごかった。本当に全部真っ白だった。 ぼくもいつか。そう思うと、お母さんたちといるときよりも心がぽかぽかした。 悲しかった、と思う。お母さんたちといるよりも心がぽかぽかしたから。ぼくは悪い子なんだと思った。 お父さんが気づいてくれた。不思議とぼくはこの気持ちを喋っていた。 お父さんは笑っていて、すぐあとで聞いたお母さんも嬉しそうに笑っていた。 この心のぽかぽかを大事にしなさいとお母さんは教えてくれた。悪いことじゃないと教えてくれた。 それはお父さんがお母さんを想うときのぽかぽかと一緒なんだよと教えてもくれた。 お母さんがお父さんを想うときとも同じなのよとも教えてくれた。 大事にしよう、そう思った。 一緒のときのお母さんとお父さんが一番好きだから。 大好きなお母さんとお父さんみたいになりたいと思ったから。 このぽかぽかは、お母さんにとってのお父さんを想う気持ちだとわかったから。 だから、ぼくもお母さんのお父さんみたいな人を、ぼくの炎で浸すんだ。 甘い罠で、ぼくの尾で絡め取るんだ。お母さんとお父さんのような仲になれるように。 でも。 彼を見た瞬間、ぼくのその考えは竜のブレスで吹き飛ばされたように消えていた。 ぼくはお母さんみたいに我慢強くなかったみたいだ。 この気持ちを抑えられない。いますぐにでも駆け寄りたい。あそこまで登っていきたい。 脇目もふらず、ただこの身を捧げたい。想いを伝えたい。 お母さんは言ってくれた。あなたのしたいことをしなさいと。 お父さんは言ってくれた。大事なのは本当の気持ちを伝えることだと。 だから。 ぼくは天を仰いだ。彼を求めて。 |
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