リリムの散歩
私は少し変わっているらしい。 リリムとしてこの世に生を受けた私は、他の姉妹と違う点がいくつかあった。 まず、私には角がない。 これについて他の姉妹は、「夫に頭を撫でてもらう時に邪魔だから羨ましい」と言う者もいれば、「角がないと威厳がないように見える」と言う者もいた。 個人的には、威厳などどうでもいいので角は無くてよかったかもしれない。 次に翼。 私の翼は他の姉妹とは形がかなり違った。 他の姉妹の翼が蝙蝠の翼に似たものであるのに対して、私の翼は鳥のそれに近い形だった。しかも、翼が生えている位置が腰ではなく、背中。まるで人が描く天使のような翼が私の背にあるのだ。もっとも、色は天使とは似ても似つかない漆黒の翼だが。 この翼についても姉妹の意見は様々だった。「なんかそっちのほうが色っぽい」という意見もあれば、「堕天使みたい」という意見も。 これについても個人的な意見を言わせてもらうと、正直飛べればどんな形でもいい。 最後に魔力。というか実力。 どうも私の力は他の姉妹と比べて頭一つ飛び出てるらしい。らしいというのは、私自身、母様からそう言われただけでいまいち実感がないのだ。 これが一番どうでもよかった。だってその力を振るう相手がいないのだ。男を落とすだけなら、リリムとしての容姿と魔法だけで事足りる。だから、いくら強い力を持っていようと、それを使う相手がいなければ意味なんてない。つまり宝の持ち腐れ。 おまけで性格。 どうやら私は他の姉妹と比べて性欲が低いらしい。どれくらい低いかというと、「どうしてこんな子が生まれたのだろう」と母様が首をひねったくらい。 だが、私もリリムなので性欲がないわけじゃない。 だから夫になりそうな人を探しに行ったりだってしてるのだ。(それも母様に言われてからだが) 母様が勇者の男を夫にしたので、その娘である自分も親に習って勇者の男を夫にしようと思い、人の間ではそこそこ有名な勇者の元へ行ってみた。 しかし、その男はこちらが姿を見せると即座に武器を捨てて、早く犯してくれと言わんばかりに荒い息を吐きながら熱っぽい目でこちらを見てきたのだ。 これはない。いくらこちらがリリムだからといって、責めて少しは抵抗してほしい。 そんなわけで、この男はなかったことにして、他の勇者の元へも行ってみたのだが、結果はどれも同じだった。 そんなことをしていたら、あまりにも勇者を(骨抜きにして)全滅させるからか、『勇者殺し』なんて二つ名を何年か前に頂戴してしまった。私は真面目に夫を探していただけで、勇者の命を奪ったことなど一度もないのに、この異名はないと思う。 当然、この二つ名は両親の耳にも入り、元勇者の父様は苦笑い。母様からは「少しは妥協しなさい」と説教される始末。 理想の男がそう簡単に見つかるとは思っていないので、こっちだって妥協するつもりだ。今の時代の勇者がこちらが妥協できる最低ラインに達していないだけにすぎない。 そんなわけで、ここ最近は夫探しをすっかり止めてしまった。ただ、そうなるとすることがない。 魔王の娘ということで、何から何まで使用人が全てやってくれてしまうのだ。簡単に言ってしまえば、のんびりと一日を過ごす貴族のような(貴族だが)生活。そんな生活もいいかと思っていたが、5日で飽きてしまった。 だから私は世界を見て回ることにした。 世界を見て見識を広めるのはいいことだと父様が言っていたからだ。 「旅に出る?」 父様と交わっていた母様は顔を上げると、そう聞き返してきた。 この間喧嘩をしていたので、今の二人の状態は仲直りのようなものだろう。 「はい。なので、その許可を頂きたいのです」 私の頼みに対して母様は、 「いいぞ」 と即答。 父様にも許可をもらおうと思ったが、犯されている父様にそんな余裕はなさそうだったので、さっさと二人の部屋から出ていくことにした。 部屋を出る間際、 「あまり勇者を全滅させるなよ。お前が気に入らなくても他の魔物が気に入るかもしれんからな」 と母様に言われた。 最もだが、現在進行形で父様という勇者を全滅させている母様には言われたくない。 それでも私はうやうやしく返事を返すと、部屋を後にした。 あの調子だと近いうちにまた新しい姉妹が増えることだろう。そんなことを考えながら、私は魔王城を後にしたのだった。 それから2年。 私はある一軒家で目を覚ます。 この家は誕生日プレゼントだとかで、母様が用意してくれた私だけの別荘。 生活に必要な物は全て揃っていて、結婚したらすぐに二人の愛の巣にできる代物らしい。その証拠にベッドは二人用だ。 「今日はどこに行こうかしら」 城を出た私が毎日してること。それは散歩だ。世界の各地を見て回るのだ。 一般的にそれは旅というが、転移魔法ですぐにこの家に戻ってこれるので、私は散歩と言うことにしている。 「今日はどんなものが見られるか楽しみね」 まだ見ぬ様々なものに思いを馳せながら、私は笑みをこぼす。 その頭の比率は新しいもの、珍しいもの見たさ9割、夫探しその他諸々1割といったところ。 他の姉妹がこの比率を見たらおかしいと口を揃えて言うはずだが、本人は全く気にしていないのだから仕方ない。 そんなわけで、リリムの1人であるミリアは今日も『散歩』に出かけたのだった。 |
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