連載小説
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リリムと終わらない物語 〜穏やかな時間〜
この世は不平等だ。
神の名の下に全ての人々は平等だと教団は謳っているが、それが欺瞞であることは子供だって理解している。
生まれた時から不自由なく暮らしている者がいる裏側で貧困に喘ぐ者もいる。
俺はその後者だった。
気がつけば孤児院にいた。
両親は戦火に巻き込まれて命を落としたと聞かされた。
それが本当かはわからないが、幼かった自分はその言葉を素直に受け入れ、顔も覚えていない。
幼い頃から両親を亡くした時点で不幸だったはずだが、自分だけが不幸だと思うには、回りに同じ境遇の者が多すぎた。
性格がひねくれなかったのは、そのおかげかもしれない。
商売が繁盛するのはいいことだが、孤児院が繁盛するのだけは誰も喜ばない。
それだけ不幸を背負った子がいるということだからだ。
実際、俺がいた孤児院ではシスターが毎日のように慌ただしく足を動かしていた覚えがある。
下はろくに言葉も話せない子から、上は数年で社会に出て行く歳になる者と、実に様々な子がいた。
歳を重ねるごとに手間がかからなくなり、やがて仕事を得て出て行く者がいる一方で新しく入ってくる幼い子がいる。
いつまでもその繰り返しだった。
国が運営する孤児院だったため、資金繰りで困るということはなかったはずだが、それでも俺は仕送りとして稼いだ金のいくらかを毎月送っていた。
長い間世話になった場所だから、少しでも恩返しがしたかったのだ。
そんな俺が手にした職は国に仕える騎士だ。
商売の才能があるとは思えなかったし、職人を目指すほど興味を持てることもなかった。
幸か不幸か、俺のいた国は他国との争いが絶えなかったから、常に兵を欲しがっていたということもあって、あっさり騎士になると決めた覚えがある。
自分のような子を増やさないためにとの青臭い考えを抱いてだ。
そして、現実は優しくないということを思い知らされた。
騎士になって数年後、国はいよいよ国交問題が深刻となり、ついに他国と戦争を開始し、やがて敗北。歴史からその名を消すことになった。
俺がいた孤児院は国というパトロンを失ったことですぐに経営難となり、程なくして国と同じ道を辿ったと聞いている。
そこにいた子供達がどうなったかはわからない。
恐らくは他の孤児院に流れたのだろう。
孤児院への恩返しとして騎士になった。
しかし、守りたいものはあっと言う間に俺の手から零れ落ちていった。
騎士になって得られたのは、そこで出会った親友くらいなものだ。
その友と、国は守れなくても自分の大切なものだけは守ろうと誓い、そして―。


ふと目が覚めた。
夢による懐かしい記憶巡りが唐突に終わり、目を瞬かせる。
自分の顔をそっと撫で、その感覚が夢ではないことを確認すると口から小さなため息がもれた。
あの後のことが、全て夢であったならよかったのに、と。
馬鹿馬鹿しい考えを振り払うように身体を起こすと、目だけを横に向ける。
そこに彼女の姿はない。
朝起きるのは早い方だと自覚しているが、彼女は俺より早いらしい。
魔物の性質は一応知っているつもりなので、夜に活発で朝は弱いと勝手に思っていたのだが、少し考えを改めなければいけないようだ。
そんなことを思いつつ、ベッドから下りて隣りの部屋へと移動すれば、香ばしい匂いが漂っていることに気づいた。
匂いは台所からのようで、なんとなく覗いてみると、エプロンを着けたミリアがフライパンの上でなにかを焼いていた。
誰がどう見たって普通に料理をしているだけなのだが、なぜか視線が釘付けになてしまう。
声をかけるでもなくただ見つめていると、彼女はやがて俺の視線に気づいたようだ。
顔がこちらに向き、清々しい笑顔を向けてきた。
「起きたのね。おはよう、グレン。今、朝食を作っているところだから、もう少し待ってね」
「ああ……」
そんな彼女に対して、自分が返すのはたったそれだけの言葉。
好きで返したわけではない。
ミリアに見つめられると、なぜか言葉が詰まったのだ。
それを言い訳にする気はないが、おはようの一言さえ言えない自分がろくでもない人間に思えてくる。
いや、俺は実際にろくでもない人間だったな……。
自分自身の認識にため息がもれる。
いつから自分はまともな人間になったというのだろう。
まったく馬鹿な話だ。
自分に呆れると、ミリアの邪魔にならないようにと席に着く。
俺が座っている席は調理台と向かい合っているので、必然的にミリアの背中が視界に入る。
どういう仕組みなのかさっぱりわからないが、昨日見た黒翼は消えていて、代わりに腰の辺りにまで垂らされた絹のような美しい銀色の髪に目がいく。
「……」
しばらく無言で眺め、そして不意に意識が現実に戻るとすぐに視線を逸らした。
あまりじろじろと眺めていいものではない。
しかし、頭ではそう思っているはずなのに、逸らした視線は吸い寄せられるように再びミリアへと向いてしまう。
それがリリムである彼女の力によるものなのか、それとも別の要因なのかはわからない。
どちらにしても俺に選択の余地はなく、ただ見つめ続けるだけ。
そうこうしているうちに、朝食の準備ができたらしい。
テーブルに様々な種類のサンドイッチの載せた皿が置かれた。
「待たせたわね。飲み物はコーヒーと紅茶、どちらがいいかしら?」
「……紅茶で」
水でいい、と言おうかとも思ったが、お言葉に甘えて紅茶を選ぶ。
彼女はうなずき、さっそくティーポットに紅茶を準備し始めた。
そして俺の前にカップが置かれ、そこに淹れたばかりの紅茶が注がれる。
そんな彼女の様子になぜか見入ってしまう。
ただ紅茶を淹れてくれているだけなのに、不思議と魅力的に映るのだ。
「さてと。じゃあ、あなたが薬を飲んだら食べましょうか」
気がつけばカップは紅茶で満たされ、目の前にスプーンと薬、水が置かれた。
席に着いたミリアは薬を飲むのを待っていてくれているようなので、一すくいして口に入れる。
途端に口内に広がる爽やかな風味はほとんど薬とは思えない。
わざわざこういう薬をミリアが用意してくれたのかはわからないが、とても飲みやすい。
最後に水で飲み下すと、彼女は小さく笑った。
「じゃあ、食べましょ」
テーブルの中央に置かれた皿には、彼女が作った様々なサンドイッチがある。
ミリアはその中からハムと野菜を挟んだものを選んだらしい。
俺はといえば、鶏肉とレタスを挟んだものを手にとった。
先程ミリアがフライパンで焼いていたのはこの鶏肉らしく、手にするとほんのりと温かい。
一口食べてみれば、鶏肉は胡椒によるシンプルな味付けで、一緒に挟んであるレタスのシャキシャキとした歯ごたえと相まって、さっぱりとした仕上がりになっていた。
「どう?口に合うかしら?」
「ああ……」
笑顔の中に少しだけ心配の色を含んでいるのが少女のようで、妙に愛しく感じる。
心配しなくても、このサンドイッチは美味しく作れている。
昨夜のシチューもそうだったが、彼女の料理からは不思議な温かさを感じる。
家庭的な美味しさがあるとでもいえばいいのだろうか。
そのせいか、孤児院で育った俺には高級な料理よりも美味しく思う。
しかし、声には出ないのだ。
挨拶もそうだったが、彼女に見つめられると言葉が喉に詰まって、言いたいことが言えない。
結果、無愛想な返事しか返せないというのに、彼女は優しく微笑んでくれているのだから、こちらは申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「すまない……」
「あら、なぜ謝るの?」
「いや……もう少しうまい言い回しができればと思ってな……」
つくづく口下手な自分が情けない。
親友なら、もう少しうまく会話をすることだろう。
思わずため息をつくと、視線を感じた。
他に誰がいるわけでもないので、顔を上げれば、楽しそうに笑っているミリアがいた。
「そんなことを気にしていたの?言ったでしょ、気のきいた言葉を言ってもらいたいわけではないと。普通に話してくれればそれでいいのよ。まあ、慣れない言葉を言おうと頑張る姿を見せてくれるなら、それはそれで嬉しいのだけど」
本当に気にしていないようで、ミリアは口元に笑みを浮かべたまま、ゆっくりと紅茶を飲む。
その仕草の一つ一つに落ち着きと余裕が感じられる。
そんな彼女と一緒に食事をしているという事実が、俺には不思議で仕方がない。
自分の仕事を考えれば、尚更だ。
ただ、こんな穏やかな時間は嫌いではない。
だから、彼女の顔から笑顔が消えないようにしたい。
そのためには、やはり会話が必要だ。
昨夜の食事の時のように上手くいけばいいのだが、女性を楽しませる会話を提供できるほど俺は口が上手くない。
それ以前に、なにを話していいかもわからない。
結果、口から出たのは恐ろしくつまらない台詞だった。
「俺が慣れない言葉を口にしたら、恐らく失笑ものだ。だからやめておく。それより、君の今日の予定は?」
「今日の予定?」
紅茶を飲む手を止め、ミリアは小さく首をかしげた。
そんな仕草でさえもが魅力的で、言葉がつかえそうになる。
「ああ……。君のおかげで、身体の調子も悪くない。だから、手伝えることがあるなら、手を貸そうかと」
世話になっているだけの現在の状況は本意ではない。
少しでもいい、なにか彼女に返したい。
「今日は特別なにかをするつもりはないの。だから、手伝ってもらうようなことはないわね」
少なくない期待を込めて言った言葉はあっさりと否定されてしまった。
おかげで口からため息が出そうになるが、続くミリアの言葉でそれは封じられた。
「代わりと言ってはなんだけど、食事が終わったら少し散歩に行かない?」
「散歩?」
「ええ。家に籠りきりというのも気が滅入るだろうし、家の近くを少し歩いてこないかと思ってね。もちろん、あなたの体調と気分に相談した上でだけど」
体調は問題ないし、ミリアが望むなら俺の気分など関係ない。
だから、返事は即答だった。
「わかった、つき合おう」
そうと決まればうかうかしてはいられない。
別に急ぐわけでもないのだが、朝食を手早くすませてしまおうと手が動く。
「そう急がなくても、散歩は逃げないわ。だから、ゆっくり食べてね」
そしてミリアに苦笑されたのだった。


朝食をすませ、ミリアが洗い物を終えたところで家を出た。
途端に少し冷たい朝の空気が頬を撫で、目を細める。
見上げた空は雲こそあるが、雨が降るような空色ではなく、少し歩く分には問題ないだろう。
「そういえば、ここは魔界ではないのだな」
「ええ。私は家の位置をちょくちょく変えるけど、今は魔界ではない場所にしてあるわ。あなたが勝手にインキュバス化しても悪いしね」
大事にされている。
どうしてもそう思ってしまう。
そんな心配をせずとも、普通の人と違って、俺はそう簡単にインキュバスにはならないというのに。
「なったらなったで構わない。それより、行かないか?」
「あら、意外に積極的ね。そうね、じゃあ行きましょうか」
歩き出したミリアに合わせ、足を動かす。
そういえば、こうして女性と並んで歩くのは初めてな気がする。
別にそれだけのことなのだが、やはりミリアが隣りにいると緊張する。
彼女から見れば、今の俺は無愛想な顔をしているに違いない。
そのせいで、散歩の空気まで悪くならないといいのだが。
「散歩はよくするのか……?」
自然と言葉が出たことが、自分でも意外だ。
彼女も同じように思ったのか、顔をこちらに向けてくる。
「よくと言うほどでもないけどね。退屈は好きじゃないから、こうしてぶらぶらするの。まあ、いつもは違う散歩をしているのだけど」
笑みを浮かべながら、彼女はそう答えてくれた。
「ぶらぶらするのは楽しいか?」
「場所によるわね。でも、どこだろうと、それを共有してくれる人がいるなら、退屈はしない。今はあなたがいるから、それなりに楽しいわ」
二人で森を歩いているだけ。
たったそれだけなのに、彼女はそれが楽しいと言う。
つまり、俺でも役に立てているということだろうか。
「楽しいか?俺と一緒で」
「ええ。あなたはどう?ただ森を散歩するだけでは、つまらないかしら?」
「……嫌ではない。君と一緒にいると落ち着くからな……」
時々見せる女らしい仕草にはドキリとするし緊張もするが、それでも落ち着くというのは本音だ。
矛盾しているようだが、ミリアが傍にいてくれるだけで酷く心が安らぐ。
それは、今までにない経験だった。
ところが、なにがいけなかったのか、ミリアは足を止めてまじまじとこちらを見てきた。
まるで、嘘を見透かそうとしているかのように。
「……あなたは、時々ずるいわ」
言葉は非難するものなのに、そう言ったミリアはどこか楽しそうだった。
「どういう意味だ?」
なにか卑怯な真似をしただろうか。
「ふふ、私達は相性がいいということよ」
なぜか笑っているが、そう言われてもまったく実感できない。
こうして会話が成り立っているのも、全てはミリアのおかげだ。
これのどこが相性がいいと言うのだろう。
「君は変わったリリムだな……」
「それは、性格のこと?それとも、容姿がかしら?」
目を細めながら微笑みとともに問われ、ようやく気づいた。
今まで状況に流されて気にも止めなかったが、言われてみれば彼女の容姿は俺の知っているリリムと違う。
「性格のつもりだったが、言われてみれば容姿も違うな。特に、翼は……」
直後、バサリと羽ばたく音がした。
「これのこと?」
楽しそうに笑う彼女の背には、初めて見た時と少しも変わらない黒翼が出現していた。
出した時に抜け落ちたのか、その背後では黒い羽がいくつか宙を舞っている。
「ああ。俺から見れば、見事な翼だと思う。だというのに、なぜ隠すようなことを?」
初めて見た時のことは鮮明に覚えている。
教団に追われ、寒さと出血で身体も動かなくなり、見つかるのは時間の問題だった。
あの時は死を覚悟した。
だから、最初は地獄への使者が現れたのだと思った。
しかし、彼女は地獄なんてものとは無縁なくらいに美しかった。
翼こそ堕天使のような黒だったが、それでも俺には神聖なものに見えた。
そんな黒翼を携えた彼女はどうしようもないくらいに輝いて見えて、追われていることも忘れて目を奪われた。
服装こそ違うが、今のミリアはあの時と同じ姿だ。
おかげで、彼女から目が離せない。
「別に隠しているわけじゃないのよ。私の翼は見てのとおり大きいから、家や人のいる場所だと邪魔になるの。だから、場合によっては魔法で消しているのよ」
黒翼が僅かに揺れた。
「なるほど。しかし、止むを得ないとはいえ、その見事な翼を見ることができないのは少し残念な気がするな」
「あら、そんなに気に入っているの?なら、少し触ってみる?」
予想すらしなかった提案をされ、不覚にも驚いてしまう。
「……いいのか?」
「ええ。褒めてくれたお礼ということでね」
そう言うミリアは、少し嬉しそうに見える。
褒めただけで、お礼をされるようなことではないと思うが、それでもその提案には抗い難い魅力が伴っている。
触れてみたいという思いには勝てず、彼女の翼に手を伸ばした時だ。
「あ……」
ミリアが思い出したように声を上げたせいで、伸ばしかけた腕が止まる。
「どうした?」
「ちょっとね。大したことではないのだけど……」
悪戯を思いついたような顔で、彼女は顎を引き、目を細めた。
「で、どうしたんだ?」
やはり、触ってほしくないということだろうか。
そう思った矢先に、それは告げられた。
「優しくしてね?」
さすがの俺でも冗談だとわかる一言。
それだというのに、胸はどきりと一際大きく高鳴り、身体は石にでもなったかのように硬直する。
もしかしたら、顔にも変化が出ていたかもしれない。
「……俺も男だ。女性に粗雑に触れるような真似はしない」
その相手がミリアなら、尚更だ。
いつも通りの声で言えた気はするが、少し怪しいかもしれない。
それに気づいているのか、ミリアはくすぐったそうに笑った。
「じゃあ、存分にどうぞ」
彼女が一歩前に出たことで、手を伸ばせば届く距離に翼がきた。
どこか神聖さを感じさせるその黒翼に委縮しかけるが、それを振り切って今度こそは触れた。
「ん……」
僅かに聞こえたミリアの艶っぽい声。
だが、それを気にかける余裕はなかった。
その原因はもちろん彼女の翼の手触りだ。
黒光りという表現がこれほど似合うものもないと思えるくらいに光沢を持った無数の羽。
それは最上級の絹のようで、無意識のうちに手が撫でるように動いてしまう。
触れてはならないものに触れている感覚に背中が鳥肌を立てるが、つやつやとした手触りに加えて感じる確かな温もりが、同じ血の通った生き物のものなのだと実感させる。
「どう?手入れはきちんとしているつもりだけど、変かしら?」
「いや、そんなことはない。世辞にしか聞こえないかもしれないが、見事な手触りだ……」
ずっと触れていたいという欲望が沸々と湧いてくるが、それを強引に押さえ込むと手を離す。
それだけで、手の先には名残惜しさが少なからず残った。
「もういいの?」
「ああ。俺が触れていて、汚れてしまっては申し訳ないからな……」
「まるで、自分は汚れているような台詞ね」
僅かに口元を自嘲の形にすると、俯いてしまう。
そう、汚れているのだ。
だからこそ、俺の手でミリアの翼を汚してしまうわけにはいかない。
あの艶が損なわれていいわけがないのだから。
本当なら、最初から触るべきではなかった。
頭では理解していたはずなのに、思ってしまったのだ。
神聖さを伴うあの翼に触れたなら、俺の汚れも少しは落ちるだろうかと。
自分の手は、それくらい汚れている。
少しだけ持ち上げた右手を閉じたり開いたりしてみても、この手が生み出した罪は消えない。
そんな罪の色に染まった俺の手に、突如、彫像のような白い手が置かれた。
次いで感じる温もりに顔を上げれば、いたわるような笑みのミリアと目が合った。
「あまり自分を卑下するものじゃないわ」
言葉とともに重ねられた手が握られ、そのまま引き寄せられた。
手が引かれれば、つられて体も動くわけで、一歩前に出る。
よりミリアに近づいたことで、彼女の甘い香りが鼻をくすぐった。
「この手が今までなにを為してきたのかはわからないけど、触れればこうして温もりを感じる手よ。この手のどこが汚れていると言うのかしら」
ミリアはわかっていて言っている。
それでも反論はできなかった。
この穏やかな空気を壊したくなかった。
俺がなにも答えなかったからか、ミリアは更に俺の手を引き寄せ、自分の顔へと向かわせる。
その行き先が彼女の頬なのだとわかった瞬間、熱湯に手を入れた時のように手を引いていた。
「っ!」
右手をかばうようにしつつ彼女を見つめると、ミリアは少し驚いた表情を笑みへと変えた。
「私の頬に触れるのは嫌だった?それとも、汚してしまうからかしら?」
「……後者だ」
「なら、触れるのは嫌ではないということね」
どう答えたものか、困ってしまう。
「そういうことは、君の相手となる男としてくれ。顔に触れるなど、俺に許された範疇を超えている」
世話になっている身分で、そこまで親しい真似をしていいわけがない。
「残念だけど、今は私にそういう特定の男はいないのよ。でも、決まった男がいないからといって、誰でも触れることを許すわけじゃない。あなただから許したのよ」
不意を突かれるとはこういうことだろう。
彼女の言葉がゆっくりと頭に染み込んでいき、表情が崩れるのを自覚する。
「それは……」
触れることを許すくらいには、気に入ってくれている。
そう思うのは、自意識過剰だろうか。
「意味は自分で考えてみて」
楽しげな笑みを浮かべ、ミリアは歩きだした。
尻尾がゆらゆらと揺れているのは、機嫌が良いからだろうか。
だとしたら、からかわれただけなのかもしれない。
それでも腹は立たない。
言われた通りに意味を考えながら、彼女の後を追うように歩き出す。
このように、のんびりとした時間を過ごすのも悪くないと思いながら。


散歩から戻っても、他愛のない会話は続いた。
それは時間を忘れるほどに心地良く、それが昼まで続くものだと思っていた。
だが、そんな会話は来客を知らせるノック音で途切れてしまった。
「ごめんなさい。ちょっと見てくるわ」
やれやれといった様子で玄関に向かったミリアだが、すぐに戻ってきた。
その背後には、やけに冷めた表情のサキュバスの少女がいる。
見るからに機嫌が悪そうだが、ミリアは気にしていないのか、笑顔で彼女の紹介を始めた。
「グレン、この子は友達のルカ。男には手厳しいけど、気にしないであげて」
紹介を受けても少女、ルカはつんとしたままでこちらと目を合わせようともしない。
人によっては感じが悪いと思うかもしれないが、愛想については俺も他人のことは言えないので、特に気にならなかった。
「グレンだ」
紹介された以上はこちらも名乗らなければと思い、そう言ったのだが、ルカはちらりとこちらを見やるとすぐにぷいとあらぬ方向を向いてしまった。
「もう、ルカったら。彼とも仲よくしてね?」
「……努力はするわ」
しれっと言うだけのルカにミリアはため息をつくと、座るように勧める。
「じゃあ、私はそろそろ昼の準備に入るわ。仲よくしててね」
ルカの分の飲み物を用意すると、ミリアはそのまま台所に行ってしまった。
仲よくしろとのことだが、俺には正直どうしていいかわからない。
ルカも同じなのか、黙々と飲み物に口をつけるだけで、話しかけてくる素振りは一切ない。
「……」
「……」
ひたすら沈黙。
これではよくないと思うが、ルカからは話しかけるなとでも言わんばかりの空気が発せられている。
だからというわけでもないが、声はかけずに視線を向けるだけにとどめる。
一体、ミリアとはどういう会話をするのだろうと。
「……なに見てんのよ」
「……すまない」
刺すように睨まれ、視線を逸らさざるを得なかった。
やはり機嫌がよろしくない。
俺にはいい感情を持っていないのかもしれない。
こうしてミリアの世話になっているわけだし、友人である彼女から見れば、ろくでもない男に映っていておかしくない。
なら、俺にできることは黙っていることだけだ。
余計なことを言わなければ、彼女も気分を害することはないはず。
そう判断し、ミリアが戻ってくるまではこのままでいようとコーヒーを飲んだ時だ。
向かい側から強い視線を感じた。
他に誰がいるわけでもない。
「なんだ?」
逸らしていた視線を向けると、一瞬だけ目が合った後に逸らされた。
「別に、なんでもないわよ」
だからこっちを見るなとでも言いたそうな横顔だ。
俺としても彼女ともめる気は毛頭ないので、それならと顔を別方向に向ける。
しかし、意外なことにルカから続けて言葉が放たれた。
「あんた、何者なわけ?」
不意打ち気味に放たれたのは直球な問いだった。
顔を向けると、ルカは変わらずそっぽを向いたままでこちらを見ようともしてない。
面と向かって話すつもりはないが、会話はしてやるということだろうか。
だが、その問いに答えるわけにはいかない。
まだ、ミリアにも話していないのだから。
「……」
無言なのを話す気はないと受け取ったのか、ルカの目が細まる。
「だんまり、ね。ま、いいわ。言いたくないことを聞くつもりはないし、今日来た目的は別にあるしね」
言葉とともに、ルカが初めて真っ直ぐに俺を見た。
「あんたが何者だろうと、どうでもいいわ。でも、あの子を傷つけるような真似してみなさい。タダじゃおかないから」
ルカの纏う空気が変わった。
少女の見かけからは想像もできないほど鋭い目で睨みつけながら、ルカはそう告げた。
声は抑えているものの、そこに含まれている怒気はそこらの男とは比べ物にならない。
少し驚いてしまうが、同時に彼女がそうするだけの理由も十分に理解できた。
それくらい、ミリアを大切にしているということなのだろう。
「ミリアは恩人だ。そんなことをするつもりはない」
嘘偽りなくそんなことをする気はない。
「……今日のところは信用してあげるわ。今日のところは、ね」
まったく信用していないように聞こえたが、次の瞬間にはルカは睨むのを止め、纏っていた空気も素っ気ないものに戻っていく。
そこで足音がすることに気づいた。
ミリアが戻ってきたのだ。
「お待たせ。食事の準備ができたわ。いい子にしてた、ルカ?」
「子供扱いすんじゃないわよ」
少しむくれて、鬱陶しそうに言うルカ。
だが、先程までとは違って声音も柔らかい上に、その表情には愛想がある。
けっこうな様変わりなので、人によってはまるで別人だと思うかもしれない。
「グレン、ルカにいじめられなかった?」
今度は俺に笑みと問いが向けられた。
ルカの方をちらりと窺えば、彼女はまったく興味なさそうに横を向いて知らんぷりだ。
「いや、少しおしゃべりをしただけだ」
おしゃべりというよりは釘を刺されただけだが、言葉を交わしたことに嘘はない。
「あら、そうなの?」
ミリアの目がルカに向かう。
「私が出会った頃はろくにおしゃべりもしてくれなかったのに、グレンとは話すの?なんだかんだでルカも意外と……」
口元を隠すように手を当てて目を細めるミリアは、ちょっとした悪戯を思いついた少女のようだ。
どう見ても機嫌がいいとは思えないルカにそんなことを言って大丈夫なのかと思うが、それは杞憂だったらしい。
なぜなら、途端に顔を赤くしたルカが叫んでいたからだ。
「ち、違うわよ!アタシがこんなぼろくて無愛想なヤツに興味持つわけないでしょ!」
「私はまだなにも言ってないのだけど」
しっかりと言質を取ったミリアが妖艶な笑みを浮かべたのを見て、ルカは余計な発言をしてしまったと気づいたらしい。
「あ……ぐ、……う……」
呻き声とともに、ルカは酸欠にでもなったかのように口をぱくぱくさせる。
それでもどうにかこの状況をするための秘策を思いついたらしく、勢いよく椅子から立ち上がった。
「帰る!帰るから!」
そう宣言し、大股で玄関に逃亡を図る。
しかし、彼女が家を出ることは叶わなかった。
音もないまま、一瞬でルカの背後に移動したミリアがルカを抱き止めたのだ。
少女の姿でしかないルカは、当然のようにミリアの懐に納まってしまう。
「ちょっ!?離しなさ―」
それでもなおもがくルカに、ミリアは笑顔で告げた。
「ちゃんとルカの分も作ったのに、私の作った昼食、食べてくれないの?」
「う……」
ぴたりとルカの動きが止まった。
そこへたたみかけるようにミリアは言葉を続ける。
「それとも、グレンと一緒の食事は恥ずかしくて食べられな」
「わかったわよっ!食べればいいんでしょ、食べれば!」
あきらめたようにルカはわめいた。
食べる宣言をしたからか、ミリアは彼女を解放し、微笑む。
「そうでなくちゃ。楽しい食事になりそうね?」
「それはあんただけでしょ……」
ルカの口からため息がもれていた。
見かけは少女なのに、そんな仕草が妙に様になっている。
この様子では、普段から苦労してそうだ。
「ほら、グレンも移動して」
座ったままでいたからか、腕が掴まれた。
「一緒でいいのか?嫌われているようなら、少し散歩でもしてくるが」
ご立腹であると顔に大書してあるルカと俺が一緒に食事などしたら、余計に機嫌を損ねそうである。
それなら、俺は席を外したほうがいい。
「それは余計な気遣いよ。ルカは本当に嫌いだったら、一緒に食事なんて絶対にしない子だから」
そっとそんなことを耳打ちされた。
ルカに聞こえないようにとの配慮だろうが、ミリアに耳元で囁かれたおかげで肌が泡立っていく。
「……わかった」
まあ、駄目そうだったら席を外せばいい。
そんなことを考えつつ、台所の席に着く。
椅子は全部で四つあるが、ルカが俺の隣りに座るなんてことはなく、彼女はミリアの隣りへと座った。
結果、俺は二人の女性と向かい合っている形だ。
こうして始まった三人での食事。
ミリアと二人きりの時とは違い、それはやはり賑やかだった。……主にミリアとルカが。
「ルカ、食べカスがついているわ」
「えっ、ど、どこよ!?」
頬を赤くしながら、ルカは自分の顔をぺたぺたと探る。
「落ち着いて。私が取ってあげるわ」
ちなみにだが、ルカの顔にはなにもついていない。
それなのに、ミリアはどういうつもりであんなことを言ったのだろうと事の次第を眺めていると、ミリアの両手がルカの頭に伸びた。
「へ?」
なんで頭に手が向かうのかと間抜けな声を上げるルカ。
そんな彼女の頭を動かないように固定すると、ミリアはルカへと自分の顔を近づけていく。
まるでこのまま口づけをするように。
それでルカは全て察したらしい。
慌ててミリアの手を払いのけた。
「ちょ、ちょっとあんた!なにしようとしてんのよ!?」
「食べカスを取ってあげようとしただけよ。口で」
悪びれもせずにさらりと言うミリアに、ルカは顔を真っ赤にして声を上げた。
「手で取ればいいでしょ!?それ以前に、そういう恥ずかしい真似を人前ですんじゃないわよ!」
「ここ、私の家よ?」
「そうじゃないわよ!こいつがいるでしょ!?」
ルカの指が俺に向けられる。
「だからじゃない。彼にあなたがどういう子かを知ってもらうには、実際に見せた方が早いもの。そういうわけだから、食べカスなんてついてないわ」
「なっ……だったら説明すればいいでしょ!?おしゃべりで!!」
さっきの意趣返しのつもりらしい。
しかし、そんなことで動じるミリアではなかった。
「それは無理ね。言葉では、あなたの魅力を説明できないもの。だから見てもらったの」
しっかり言い返され、口では勝てないと判断したらしい。
怒り心頭といった様子のルカだったが、ため息とともに脱力したようだ。
「もういい……。疲れたわ……」
ルカの敗北を認める宣言に、ミリアは実に楽しそうな笑みを俺に向けてきた。
「どうグレン。ルカがどんな子かわかってくれたかしら?」
今のやり取りを見てルカがどんな人物かと言われれば、意地っ張りで素直じゃないといったところだろうか。
ただ、それを馬鹿正直に言えば、火に油を注ぐことになりかねない。
「二人の仲がいいのはわかった」
あの気難しそうなルカだが、ミリアを相手にするとああなるらしい。
そういった意味ではルカがどんな人物かわかったといえなくもないのだが、俺としてはミリアの新しい一面を見た方が大きい。
落ち着いた大人の女性といった感じがあったが、他人をからかう茶目っ気も持ち合わせているようだ。
今朝の散歩でのやり取りも、これで説明がつく。
単純にからかっただけなのだろう。
「その点については否定しないわ。で、あなたには仲のいい人はいるの?」
「親友と呼べる者なら一人いる。腐れ縁と言ってもいいほど、付き合いは長いな」
「あなたにもいるのね。付き合いの長さについては、私達は長いとはいえないけど、仲のよさなら負けないわよ?」
楽しげなミリアに、隣りのルカは盛大にため息をこぼした。
「なんでそこで張り合おうとすんのよ……」
「あなたの負けず嫌いがうつったのかもね」
くつくつと笑うミリアと複雑そうなルカは、俺から見ても仲のいい二人組に映る。
昔の自分と親友も、他人から見ればこんなふうに映ったのだろうか。
「そうだな。親しさでいったら、君達の方が上だろう……」
俺は既に裏切るという選択をしたのだから、親友はさぞ怒っていることだろう。
これでもし会うことがあったなら、小一時間は罵声を浴びせてくるに違いない。
それを想像すると、なぜか可笑しかった。
もしかしたら、既に引き返せないところまで来てしまったからかもしれない。
それでも後悔はない。
全ては償いのために、自分で選択したことなのだから。
「少し複雑そうね」
そう言ったミリアの顔も、同じくらいに複雑そうだ。
その指摘は間違いではない。
それでも顔には出さなかったはずだが、彼女にはわかったのだろうか。
「すまない。雰囲気を悪くしたな」
「まったくね。どうせなら、あんたの馬鹿話でもしなさいよ。鼻で笑ってあげるわ」
勝ち誇った笑みを浮かべるルカは、なにを言っても鼻で笑いそうである。
それを見ていると、本当に人と魔物は大差ないのだと思う。
それが再確認できただけでも幸運だ。
「そうだな……。馬鹿な話といえば……」
「グレン、無理しなくていいのよ?ルカの無茶振りなんだから」
気遣いの言葉をかけてくれるミリアに大丈夫だと手で合図し、記憶の中から無難なものを選び出す。
これが功を奏し、食事中どころか、陽が落ちるまで語ることになったのだった。


これほどしゃべったのは何年ぶりだろうか。
疲れるくらいに会話をしていたのは、初めてかもしれない。
すっかり夜になり、夕食をすませてルカは帰っていった。
「賑やかな時間だったな……」
「ええ、そうね。それよりグレン、疲れた顔をしているけど、大丈夫かしら。先にお風呂、入る?」
「いや、後でいい。君が先に入ってくれ」
「そう?じゃあ、先に入らせてもらうわね」
手をひらひらさせながら風呂場へと向かうミリアを見送ると、ソファに体を預ける。
あっという間に一日が終わった。
思い返してみても、これといったことはしていない。
ただ、のんびりとした時間を過ごしただけだ。
だというのに、一日がこんなに早く終わることを初めて知った。
「ここでは初めて体験することばかりだな……」
それは、俺にはとても価値のあるものに感じられた。
明日もまたこんなふうに新しいことを体験するのだろうか。
そう考えると、明日が待ち遠しい。
同時に、自分が狭い世界で生きていたのだと自嘲の笑みが浮かんでしまう。
「俺は、本当に人形だったのだな……」
ミリアが聞いたら、なんと言うだろうか。
いずれ全てを話した時、彼女はこんな俺をどう思うのか、少し気になる。
そんな想像をしてみたが、すぐに結論が出た。
彼女は他人の生き方を笑うような性格ではない。
それだけに、俺のしてきたことも許されてしまうのではないかという懸念が出てきてしまう。
「難儀なものだな……」
やはり、もう少し時間をもらうしかない。
それでうまい説明が思いつくかはわからないが、そうするしかないだろう。
ため息をつくと顔を上げる。
そして、その後は寝る直前まで思案し続けたのだった。


どれだけ悩み事があっても、人はきちんと眠れるものらしい。
目を開けると、閉じられたカーテンの隙間から差し込む光が朝であることを告げていた。
頭が覚醒し、体の感覚を取り戻していく。
そして、すぐに嗅覚が反応した。
くどさを感じない、優しく甘い香りだ。
その匂いがなんなのかはわかっている。
ただ、今日はそれが一段と強い気がする。
そう思って横を見れば、今日は隣りにミリアがいた。
どうやら今日は俺の方が先に目が覚めたらしい。
静かに顔を傾け、自分の位置を確かめる。
少しでも寝返りをうてばベッドから落ちるような位置にいることを確認し、安堵のため息がもれた。
俺がどこで寝るかについてもめて、結局二人で寝ることにしたわけだが、自分で言い出したとはいえ、なぜあの時はあんなことを言ったのか未だに理解できない。
雨風をしのぐものなどなにもない平原で野宿をしたことはいくらでもあるのだから、それを考えれば俺はソファでも十分だった。
しかし、それは許されなかった。
結果、こうしてベッドで寝ることになったわけだが、やはり申し訳ないと思う。
彼女はどう思っているかわからないが、ダブルベッドとはいえ、これは本来ミリアが一人で使っていたものだ。
そこへもう一人寝る者が増えれば狭くなるのは当然のこと。
しかも、俺は男だからどうしても場所を取ってしまう。
そのせいで彼女に窮屈な思いをさせないようになるべく端で寝るようにしているが、今のところは問題なさそうだった。
「ん……」
無防備な、それでいてくらっとくるような甘い声が聞こえた。
どうやらミリアが目覚めたらしい。
横目を向ければ、彼女はゆっくりと体を起こしているところだった。
こちらに背を向けて寝ていたので、そのまま体を起こせば俺に見えるのは彼女の背中。
濃い青の寝巻とその上に垂らされたマントのような銀髪の後ろ姿が妙に艶めかしい。
いとも簡単に目を奪われ、そのまま意識まで奪われそうになる。
そうしている間にもミリアはベッドから下りてしまう。
それを見て我に返った。
のん気に見惚れている場合ではない。
せっかくこうして最高の機会に恵まれたのだ。
昨日はできなかった挨拶をきちんとしなければ。
だから、おはようと、その一言を言おうと口が動きかける。
だが、俺の口から声が出ることはなかった。
ミリアが寝巻の上に手をかけ、一息にたくしあげたのだ。
「っ!」
咄嗟に顔を反対方向へと逸らしたが、閃光のように眩しく光って見えたのは恐らくミリアの腰の辺りの白い肌。
それはあまりにも鮮明に俺の目に焼きついた。
心臓がすごい早さで脈動している。
その音は耳にやかましいくらいに響き、ミリアにも聞こえてしまうのではないかとさえ思った。
そんな鼓動に混じって、衣擦れの音が聞こえる。
続けてパタリと扉が閉まる音。
きっかり五分は寝ているふりをした後にようやく体を起こすと、勝手にため息がもれた。
ものすごく申し訳ないことをしてしまった気がする。
「……」
忘れよう……。
女性の着替えを不可抗力とはいえ覗くなど、最低の行いもいいところだ。
忘れろと自分に言い聞かせつつ深呼吸し、早鐘のように鳴る心臓を落ち着かせる。
そうしてようやく動悸を静めると、ベッドから下りて寝室を後にした。
ミリアは今日も朝食作りに励んでいるようで、台所に彼女の姿があった。
「おはよう、グレン。もしかして、起こしてしまったかしら?」
「いや……目が覚めただけだ」
申し訳ないやら他意のない笑顔が眩しいやらで、正視できない。
「そう?じゃあ、座って待っていて。今飲み物を用意するわ」
顔を向けようとしない俺の様子を気にするわけでもなく、カップやティーポットの準備を始めるミリア。
その後ろ姿をちらりと眺めると、瞬時に先程の光景が頭に蘇った。
「!」
頭を振ってそれを追い払おうとするも、俺の脳は今朝の光景をきちんと記憶してしまったらしく、なかなか消えてくれない。
「難しい顔をしてどうしたの、グレン?」
「少し馬鹿なことを考えていた……」
目は合わせられない。
合わせれば、そこから全てばれてしまいそうに感じた。
そんな俺の胸中が読めたのか、ミリアはふと笑う。
「ほどほどにね」
淹れた紅茶を置くと、彼女は俺の頭を軽くぽんぽんと叩き、朝食の準備に戻る。
それでも、頭の光景は消えてくれない。
受難の一日が始まった。


「買い物?」
「ええ。あなたの具合もよさそうだし、一緒に行きましょう。いつまでもその格好ではあんまりだもの。好きな服を買ってあげるわ」
そう言われて自分の格好を見る。
俺の姿は教団に追われていた時からそのままだ。
暗い色のシャツだから血の後は目立たないが、ところどころ剣によってつけられた切り傷のせいで、少しみっともない。
ルカがぼろいと言ったのも納得ものだ。
「わかった。だが、買ってもらわずともいい。多くはないが、服を買う分くらいは持っている」
財布にそれなりの金があるのは事実だが、ミリアは俺が意地を張っているとでも思ったらしい。
無邪気な子供を見るように、くすりと笑った。
「そう。じゃあ、さっそく行きましょうか」
ミリアの足元を中心に魔法陣が展開される。
それが光を放ったと思ったら、見慣れない街に立っていた。
「転移魔法か……」
かなり高度な魔法のはずだが、それを苦もなくやってのけるあたり、さすがリリムだと感心する。
「大して面白い魔法でもないわ。それより、こっちよ」
腕を引かれては歩かないわけにもいかず、そのまま彼女と並んで歩きだす。
街には同じように並んで歩く男女がこれでもかといるため、俺達が同じことをしてもおかしくはない。
おかしくはないのだが、魔物が当然のようにあちこちにいる街を俺が歩いている現実が不思議で仕方ない。
しかも、隣りには魔物の頂点といえるリリム。
首をかしげたくなるのも無理はなかった。
そんな俺の腕を引きながら、ミリアは迷う素振りも見せずに歩いていく。
その過程で多くの人にすれ違った。
どうやらこの街は魔物の方が人数が多いようで、一人で歩いている男はまず見かけない。
逆に、一人で歩いている魔物は頻繁に見かけた。
性に奔放な彼女達はその誰もが美人だ。
中には、かなり際どい姿の者もいる。
だが、男なら間違いなく目を奪われるような姿をした魔物を見ても、俺にはなぜか色あせた景色にしか映らなかった。
魔物とは認識しても、それ以外にはなにも感じない。
騎士団時代には同僚達からもう少し異性に関心を向けたらどうだとよく言われたが、さして興味も湧かなかった。
その結果がこれなのだろうか。
だとしたら、俺は根本的に性に無関心なのだろう。
そう思い、隣りに目を向ける。
そして、無意識のうちに足を止めていた。
そこには俺の腕を引くミリアがいる。
その俺が立ち止まったせいで、逆に腕を引かれる形になったミリアが不思議そうにこちらを見た。
「どうかしたの?」
遠慮なく見つめてくる彼女は、俺の目には景色ではなく一人の女性として映っている。
なぜ、彼女だけが?
「グレン?」
胸の奥で、心臓が大きく高鳴った。
出会った日から感じていたが、彼女に名を呼ばれるとどきりと心臓が跳ねる。
ミリアの声と、グレンという音の相性がいいからだと思っていたが、違っていたのか?
自問するが、答えは出ない。
「すまない。少し、考え事をしていた……」
「あなたは朝からそればかりね。頭を使うのは悪いことじゃないけど、今は考えるのをやめて買い物を楽しんでほしいわ」
買い物を楽しむ?
自分が欲しい物を選び、お金と引き換える。
買い物とはそういうもので、そこに楽しむような余地があっただろうか。
それを真剣に考慮しようとしたところで、再び腕を引かれた。
「ほら、もうすぐ着くわ。考えるのは終わりよ」
本当にすぐだったようで、程なくして目的の店に到着した。
その店はこの街の中でも上位に入るんじゃないかと思えるくらいに大きく、広い店内では商品を手に取って眺める客が何人もいた。
そんな店内を移動し、成人男性用の服が置かれている棚を眺める。
「さて、どれにしましょうか。あなたには落ち着いた感じの服が似合いそうだし……」
棚に置かれた服を品定めするミリアは、割と真面目に眺めているようだった。
「君は、自分の服を買わないのか?」
「今日はいいわ。それよりグレン。あなたはどういう服がいいの?」
「どういう、か……」
棚に目をやって服を眺めるが、正直これがいいという感覚がない。
強いて言うなら、明るい色は合わないと思っているくらいだろうか。
「その様子だと、服にはあまり関心がなさそうね」
「……正直に言うとそうなるな」
白状すると、彼女はなぜか少しだけ笑みを浮かべた。
「じゃあ、私が見繕ってあげるわ。ほら、腕を広げて」
言われた通りに腕を広げると、ミリアは服を取って俺の体に当ててみた。
「悪くはないわね……」
服を押し当てた姿を眺め、次の服に変えていく。
それを何度か繰り返し、最終的に四着の服を選び出した。
「こんなところね。さてグレン。この中であなたがいいと思うものは?」
選び出されたのは紺や黒の服ばかりで、俺に合わない明るい色は一つもない。
ミリアはそこから選べと言うが、彼女がわざわざ選び出してくれたのだ。
そこから更に選ぶつもりはなかった。
「せっかく選んでもらったんだ。ここから更に選ぶことはできない」
俺としては、全て買うと言ったつもりだった。
しかし、なにか誤解を招いたらしく、ミリアは少しだけ驚いたようにこちらを見やり、すぐに薄く笑った。
「全部欲しいの?じゃあ、そうしましょうか」
そしてなぜか、選んだ服を手早くまとめて会計へと歩き出した。
「ミリア、支払いは俺が」
「買ってあげるって言ったでしょ。そういうわけだから、会計を済ませてくるわ。あなたは他に欲しい服がないか見ていて」
微笑みを残して行ってしまった。
それをほとんど呆然としながら見送り、立ち尽くす。
彼女の中で、俺はどういう扱いになっているのかさっぱりわからない。
わかるのは、そんなミリアが嫌ではないということだ。
ぼんやりと考えながら、頭に合わせるように足を動かす。
嫌いなわけがない。
それどころか―。
「馬鹿な……」
唐突に辿り着いた答えに声が出てしまう。
嫌いではないならなんだ?
自分でも信じられないが、それしかない。
彼女を慕っている。
親友は、お前は鈍いと言っていたから、俺は鈍いのだろう。
それでも、答えが見つかればそうとしか考えられない。
そして、そうなのだと仮定すれば今まで感じた数々の疑問も納得できてしまう。
一体いつからこうなったのかと記憶をさかのぼれば、恐らくは最初から。
初めて会ったあの時から、一目で心を奪われていたのだ。
だからこそ、内心驚いてしまう。
誰かに想いを寄せる。
それは、俺には関係のないものだと思っていた。
騎士団時代には、よく同僚達がそんな話をしていたのは憶えている。
あの酒場の娘が好きだ、街に来ている劇団の女が王女みたいな容姿で、一目で惚れた等々……。
時にはその会話に参加していたこともあるが、俺にはどこか別の世界の話のように感じていた。
そんな彼らと同じ状況になっている。
違う点は、想い人がすぐ傍にいるということだろうか。
それは、とても幸福なことで―。
「こんなところにいたの?」
彼女の声が耳に届き、意識が現実へと戻る。
見れば、ミリアが目の前にいた。
「ミリア……」
「見ていてとは言ったけど、こんなものを見ているなんて、無関心なようで意外と興味があるということかしら?」
くすりと笑うミリアは、面白いおもちゃを見るような目を向けてくる。
そこに若干のからかいの色が含まれていることが不思議で、初めて辺りを見回す。
そしてすぐに、自分がとんでもない所にいることに気づいた。
俺が立っていたのは、女性の下着がこれでもかと陳列された場所だった。
服屋だから下着があるのは当然だが、どうやら考えに没頭しているうちにここに来てしまったらしい。
こんな場所に一人でいれば、どうしたって誤解されるのは当然だ。
「いや、そういうわけでは……」
「どれがいいの?」
弁解する暇もなく、言葉が被せられた。
「……どういう意味だ?」
「あなた好みの下着はどれかと聞いているのよ」
ミリアの言葉を先読みすると、それを買うから教えろということになる。
当然、男の俺がそれを身に付けるはずはないから、必然的にそれを付けるのはミリアになるわけで。
そこまで考え、体が硬直する。
目の前には、色はもちろん、デザインまで様々な下着の数々。
中には眉をひそめたくなるようなデザインのものまである。
俺が選んだら、ミリアはこれを身に付けるということだろうか。
「……」
沈黙するしかない俺に焦れたのか、ミリアは俺の目の前の下着を手に取った。
「これがいいの?」
至って普通……と思われるデザインの青の下着を取って尋ねてくるミリア。
その顔は怒っているどころか楽しそうに笑っていたのだが、俺に返事ができるはずもなかった。
棒立ちになって黙っているとミリアは俺の右手を取り、そこへ手にしていた下着を持たせる。
「?」
なにをするつもりかと困惑する俺の前で、彼女は愉快そうに両腕を広げてみせた。
「私がさっきあなたにそうしたように、似合うかどうか当ててみて」
そう言われて、ようやく彼女の意図を理解した。
つい先程、ミリアは俺の体に服を当てて似合うかどうかを見ていた。
今度は俺に同じことをしろと言っているのだ。
あまりの無茶振りに目を見開く。
普通の服でさえできそうにないと思うのだから、下着など完全にお手上げだ。
「あまりからかわないでくれ……」
なんとか搾り出すように言った言葉はミリアのお気に召したらしい。
屈託なく笑い、俺の手から下着を取って棚へと戻した。
「それは残念ね。あなたがどういう下着が好みなのか、興味があったのだけど」
「そういうやり取りは夫とするべきだ」
「その夫がいないんだから仕方ないじゃない。それとも、あなたはこういうおふざけは嫌いかしら?」
「嫌ではない。だが、やはりそういうことは恋人か―」
夫、と言いかけ、鼻に彼女の真っ白な指が当てられた。
「なら、今日はあなたが私の恋人代わりよ。ほら、行きましょ」
くすりと笑い、ミリアが再び俺の腕を引いていく。
だが、彼女はその一言がどれだけ内心で俺を狼狽させたかわからないだろう。
恋人代わり?
相手はリリムであり、すれ違った男全員が振り返るような美しさの女性だ。
当然、俺と同じように心を奪われ、想いを寄せる男は数えきれないほどいるだろう。
そんな一方通行の想いのなか、代役とはいえ彼女の恋人役をできるのは、計り知れない幸運なのではないだろうか。
そうでなくとも、想いを寄せているミリアとともに暮らしている。
まだ片手で数えられる程度だが、それでも彼女と過ごす時間はなにものにも代え難いと断言できる。
それがかけがえのないものだと気づいた時、胸の奥に鋭い痛みが走った。
「っ」
顔に出ていたかもしれないが、ミリアは気づいていないはずだ。
そのまま気づかないでほしい。
そう願いながら、引かれていない右腕を上げ、自分の手を見る。
間違いに気づいたあの日から、ずっと償いをしてきた。
だが、俺は俺の思っている以上に罪深い存在だったらしい。
この手で殺めてきた人の中には、今の俺と同じように大切な想い人と過ごしていた者もいるはずだ。
それをこの手は奪い、失わせてきた。
そんな自分が、幸せを享受していいわけがない。
それを伝えようと、彼女の名を呼ぶ。
「ミリア」
「なに?」
振り向き、紅玉のような瞳が真っ直ぐに見つめてくる。
それだけで、喉まで来ていた言葉が口から出ない。
まただ、と思う。
見つめられると言いたいことが言えなくなるのは、ミリアに惹かれているからだろうか。
頭でそんなことをつらつらと考えていると、こちらを見つめていたミリアはふと笑った。
そして、上げっぱなしだった俺の右手に自分の手を重ねると、白く細い指の一本一本を俺の指の間に入れ、それをしっかりと絡めてきたではないか。
思わず驚きの声を上げそうになるなか、彼女はまんざらでもなさそうに言う。
「こっちのほうが恋人らしいわね」
本気で恋人を演じろというのだろうか。
もしそうなら無理だと断りたいが、今や俺の手はミリアの手とつながれ、外れそうもない。
この時点で、俺に拒否権はないも同然だった。
ご機嫌そうにミリアが歩き出し、手がつながっている俺も並んで歩くことになる。
つながれた手から感じるミリアの体温は心地良く、そして辛い。
俺には、こんなことをする資格などない。
そう言って手を離すべきなのに、どうしてもつながれた手を離すことができない。
このままでいたいと思う想いと、こんなことをしていいわけがないと思う自責の想いが胸の奥で揺れ動く。
そして―。
「ミリア」
「どうかしたの、グレン?」
首をかしげる彼女へと左手を差し出した。
「荷物は俺が持とう」
ミリアの視線が自分の右手へと移る。
そこには、先程買った服が入った袋がある。
それと俺とを交互に見やり、ミリアはにこりと微笑んだ。
「大して重い物じゃないから、大丈夫よ」
「そういう問題じゃない。荷物持ちは男の役目だ。今日の俺は……恋人の代役なのだろう?」
魔物と恋人になった場合がどうなのかは知らないが、少なくとも人の恋人ならそうであるはずだ。
結局は今の状況へと甘んじる選択をしてしまい、同時に今日だけは、責めて限りあるこの時だけはと内心で言い訳をする。
甘えているだけなのはわかっている。
だが、ミリアの傍にいるとつい気を緩めてしまうのだ。
彼女はそうしてできた隙間にするりと入り込んでくる。
ミリアに想いを寄せていると気づいた以上、彼女とのやり取りはあまりにも強大な誘惑だ。
駄目だとわかっているのに、簡単に揺らいでしまう。
それでも、そんな葛藤は決して顔に出さずに言ったからか、ミリアは声なく笑って袋を預けてくれた。
「そうね。じゃあ、お願い」
差し出された袋を受け取る際に手が触れた。
そこに感じる温もりはずっと触れていたいと思うくらいに温かい。
今日だけは、こうすることを許してほしい。
胸中でそう呟きながら、袋を受け取ったのだった。


すっかり暗くなり、あちこちに鮮やかな明かりが宿る頃になってから、俺達はようやく家へと帰ってきた。
あの後、昼をレストランですませ、午後からは彼女の気の赴くままに街をふらついた。
時折、興味を持った店を覗いたり、噴水の傍にあるベンチで休憩したりしているうちにいい時間になり、せっかくだからと夕食もすませて戻ってきたのだ。
柔らかなソファに座って今日のことを思い出す。
一日のほとんどをあの街で過ごしたのだから、それなりの時間だったはずだが、こうして終わってみればあっという間だった。
それが恋慕の感情によるものなのかは、俺にはわからない。
だから、尋ねていた。
「ミリア、一つ聞いてもいいだろうか?」
「なにかしら?」
風呂の準備をしていたミリアが顔をこちらに向ける。
「一日が早く感じるのは、なぜだと思う?」
言ってみてから、妙な質問だと思う。
俺でさえそう感じるのだから、問われた彼女はもっとそう思っただろう。
しばしきょとんとしていたが、やがてゆっくりと表情が優しい笑みに変わった。
「満たされているからではないかしら」
「満たされている?」
「ええ。一日が充実しているから、時間の経過が早く感じる。言い換えれば、幸せだからじゃないかしら」
思わず呆然としてしまった。
「幸せ……?」
「ええ、そうよ。少なくとも、私はあなたがここに来てから毎日が充実しているわね。だから、あなたもそうだと嬉しいわ」
小さな微笑みを浮かべ、ミリアは風呂場に行ってしまった。
それを見送るとため息をこぼす。
「幸せか。俺にとっては、夢のようなものだな……」
俺からは縁遠い言葉だ。
それを手にする資格は俺にはない。
例え目の前にあろうと手を伸ばしてはいけないし、手に入れてはいけないものだ。
だから、いつまでもここにいるわけにはいかない。
ミリアとの生活はそれに当たるのだから。
彼女の言っていたことは正しかった。
今の俺は満たされている。
全ての人々のためにと剣を振るっていた俺が、望んだわけでもないのに幸せを手にしているのはなんの皮肉だろうか。
その価値を知ったからこそ、手放さなくてはならない。
そうでもしないと、償うと誓ったはずの決心が駄目になる。
ミリアの傍は、居心地が良すぎるのだ。
彼女の優しさに触れていると、自分を許してしまいそうになる。
「許されていいわけがない」
額に拳を当て、言い聞かせるように呟く。
そう、許されていいはずがない。
勇者として、俺は多くの罪を重ねてきたのだから。
「まったく、俺はどうしようもないほど愚かな男だな……」
口からもれた自嘲の言葉は、静かに虚空へと消えていった―。
14/05/17 20:54更新 / エンプティ
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■作者メッセージ
どうも、エンプティです。
最終章の第二話をお送りします。
今回はグレン視点でしたが、彼の心情をうまく書けていたか不安です。
そんな彼の正体が判明したわけですが、これはお気づきの人も多かったかと。
前回で宣言したイチャラブのうちのイチャイチャを今回デートという形で書いたわけですが、話の都合上これ以上は書きません。
あんなことやあ〜んなことをするんだろうなと思っていた方、控えめでごめんなさい。グレンが真面目で面倒なヤツなので、どうしても甘い展開にはなりませんでした。
では、今回も次回予告を。

「所詮、私もリリムというわけね……」

思いがけず手に入れた幸福はずっと続くのだと信じていた。
しかし、彼が告げた一言によってそれはいとも簡単に崩れ去っていく。
始めから、そうなると決まっていたかのように―。


では、また次回でお会いしましょう。

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