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まもむすゼーション!!

バーソロミュ

INDEX

  • あらすじ
  • %02 c=15d 第0期:ようこそ、図鑑世界(ゲーム)へ!
  • %02 c=15d 第1期:お姉ちゃんが出来ました
  • %02 c=15d 第2期:偵察!探検!調教!
  • %02 c=15d 第3期:現人神の決断
  • %02 c=15d 第4期:貴公の首は柱に吊るされるのがお似合いだ!
  • %02 c=15d 第5期:筆記は剣より強し
  • %02 c=15d 第6期:反撃は三倍返しで
  • %02 c=15d 第6期外伝:白きエミリア 黒きエミィ
  • %02 c=15d 第7期:井の中の蛙、海の広さを知る
  • %02 c=15d 幕間:眠り姫オーヴァードライブ 壱
  • %02 c=15d 第8期:興奮と驚愕と共に歩む日常
  • %02 c=15d 第9期:援軍
  • %02 c=15d 第10期:妹の心姉知らず
  • %02 c=15d 第11期:閣下は相当カッカしているようです
  • %02 c=15d 幕間:眠り姫オーヴァードライブ 弐
  • %02 c=15d 番外:まだ見ぬ指導者たちの肖像…(1)
  • %02 c=15d 番外:まだ見ぬ指導者たちの肖像…(2)
  • %02 c=15d 第12期:ハーピーたちの歌声が告げる
  • %02 c=15d 第13期:仁義なき姉妹喧嘩
  • %02 c=15d 13期外伝:みんな我慢してたんです
  • 番外:まだ見ぬ指導者たちの肖像…(2)

    今期の格言
    隣の国同士は大抵仲が悪い。
    仲が良かったらそもそも国境など存在しないはず。

    『政治学史U巻』




    中央大陸の内陸に位置する、高原と深い谷間が入り乱れる地…
    万年雪をいただく高山を目前に眺められる谷間にある村で、
    一人の少年が仰向けになり、青空を眺めていた。
    少年は一日の仕事にひと段落つけると、こうしてお気に入りの場所で
    高い空を眺めることが日課となっている。
    彼の目当ては、青空を悠々と飛ぶ複数の大きな影、
    ワイバーンとそれに騎乗する騎士たち…この国が誇る切り札にして
    大陸最精鋭との誉れ高い『竜騎士』の編隊飛行だった。

    「あぁ、いつか僕もあんなふうに……ワイバーンに乗って空を飛んでみたいな。」

    ごく普通の村人に生まれた彼にとって竜騎士は憧れの存在だった。
    自分ではきっと叶わぬ夢だということは薄々分かってはいるが、
    それでもワイバーンに乗って大空を駆け巡ってみたいという思いは、
    成長期の少年の心を躍らせた。

    「もしも僕に翼があったら…空は僕のもの。高く高く、飛ぶんだ…」

    ではどうやって?残念ながら肝心の方法が分からない。しかし…


    「そこの君、なかなか大逸れたこと言ってるじゃない。
    しかもまだこんなに小さい子なのに、お姉さん感心しちゃうな。」
    「え?えっと…」

    いつからいたのだろう。少年の背後には、黒色の鱗のワイバーンが降り立っていた。

    「よしよし、お姉さんが君の願いを叶えてあげよう。えっへん。」
    「本当!?ってことはワイバーンのお姉ちゃんが僕を乗せてくれるの?」
    「もちろんよ。ただし、ひとつ条件があるの!」
    「条件?」
    「うん、それはね……」

    黒い鱗のワイバーンは、その場で少年をゆっくりと押し倒し
    自身の唇を少年のそれに重ね合わせる。

    「……!?」
    「君のたった一つしかない『モノ』…お姉ちゃんにくれるなら…ね♪」


    この日、谷間の小さな村の片隅で、少年と少女の嬌声が数時間に渡って響き渡った。
    それと同時に…この国の将来の英雄がその歴史舞台への一歩を踏み出す。







    「平和ですね、お兄様。」
    「そう、だな。民草の顔はどれを見ても笑顔で、不安を一切感じさせない。
    これも全て、彼らがわが国を心から信頼し、安心している証拠なのだろう。」

    地上から少年が見上げていた竜騎士の編隊…
    実は、この国の指導者が数人の部下たちを連れて視察にきていたのだ。
    燃えるような赤い髪に精悍な顔立ち、そして赤い鱗のワイバーンにまたがる姿は、
    この国が誇る竜騎士の頂点に立つものに相応しい威厳があった。

    「ですが…この平和は決して長続きしないでしょう。
    われらが争いを望まずとも、他国がその戦渦を広げてくることは必定、
    その時こそ、お兄様と私たちの真価が問われるのでしょうね。」
    「順境は王の名を高め、逆境は王の名を試す……ふん、
    この世から王が居なくなっても、人々が平和に暮らせる世界はこないものか。」

    束の間の平和。しかしそれは長続きしないことなど明らかだった。
    ならば王はこの世界で何を望む?
    時刻の平和を第一に過ごすか、それとも理不尽な世界に挑むか……







     
     
     
     
     
     
    エルフ大陸のリチャード・ライオンハート、
    ニューイーストのアスティナ女皇、
    どこの大陸にも狂信者と呼ばれる指導者が存在する。
    そしてこの中央大陸においてもそれは例外ではない。

    「魂の堕落……それは世界を愛と快楽で包む…。
    ああ、堕落の女神アガレス様…いま、あなたのお声が聞こえます…」

    この世界で『蒼褪めたヴェール』が創始されました

    中央大陸南端の海岸地帯に広がるこの国で、
    ちょうど今、このゲームを代表する魔の宗教『蒼褪めたヴェール』が創始された。
    堕落神の熱心な信者であるこの国の指導者は、国民へ、ひいては大陸全土に
    堕落神の教えを広めて、この世を魔界に変えようともくろんでいたのだが、
    その大きな節目となる発展的な宗教を創始したことによって、
    その動きはますます加速していくことだろう。

    「ああ、女神様。本日も1単位の人口の人々を、堕落の道へと誘いました。
    国民は愛するものを片時も離さず睦みあい、眠っているときは誰もが淫夢に喘ぎます。
    ですが……まだ、まだ足りません。これはまだ、あなた様と私にとって
    始まりに過ぎないのです。この世界を…桃色に染め上げるその日まで……」

    漆黒の修道服をまとい、堕落の色に染まった羽をはためかせる彼女は、
    淡々と信仰する神への祈りをささげているように見えるが、
    ちょっと下に視線を移すと、そこには彼女に組み敷かれ
    腰を振られながら喘ぐ男性の姿があった。

    「ふふふ……、そろそろ観念して、私に愛を捧げて下さい♪」
    「だ、誰が……君なんかに…っ、屈するものか……っ!」
    「そんなこと言われましても、すでに私の中に50回は出しているんですよ♪
    首を縦に振ってくれるまで……私は祈りを捧げ続けますから…
    それでも我慢しますか?ふふ、いいんですよ♪我慢すればするほど
    そのあとにはより深い心地よさがあるのですから………ふふ、ふふふ…」


    ガラーン…ガラーン…


    この首都の中央に位置する大聖堂の鐘が鳴る。
    それは、新たな神がこの世界に降り立った合図…


    「国教院より通達!本日、この国に堕落の女神様が光臨なされた!!
    よって、わが国は『蒼褪めたヴェール』の下、よりいっそうの信仰を誓い、
    この世界を愛に満ちた素晴らしい世界へと変えていくものとする!」
    『おぉーーーっ!』

    大聖堂のバルコニーから、この国の幹部の一員のアークインプが
    聖堂前広場に集まる国民たちに大声で通達した。
    今期からこの国は国教を変えた。そしてその効果は、
    たちまち国の隅々までいきわたる。

    堕落神の加護により、国民はわずかに残っていた細かい不満や不安を感じなくなり、
    それに引き換え今まで以上に、性欲の増加傾向が見られた。
    喜びに湧き上がる人々や魔物たち……、魂の堕落は進む。




    さて、堕落神を大いに崇める国の隣国にも宗教を重視する国がある。
    こちらは隣国とは逆に秩序の宗教を重視する国ではあるが、
    もっともポピュラーなのは『愛の女神』信仰だと言われている。

    城下では信教の自由が保障されており、指導者の方針として
    お互いの価値観を認め合うことをモットーとしている。
    領土こそ小さく豊かとはいえないが、隣国との関係はどことも良好を保っている。
    しかしながら、どこか一つの国に肩入れするというわけでもなく、
    あくまで中立を保つ………

    「最近、この国も人が多くなってまいりましたなぁ。」
    「賑やかになりましたわいな。これも聖女様の徳によるものですかな。」

    首都の宮殿がある大聖堂で、女性の司祭と男性の司祭が
    大きな天蓋付きベッドの前で話し合いをする。
    両者とも髪の毛はすべて白く色が抜け、肌には皺が刻まれている。
    すでに百を超える老人…老い先短いこの二人が
    現在この国の実質的な指揮を執っているのである。

    ではこの国の指導者はどこにいるのだろう?
    指導者は二人のすぐ近くにいた。ベッドの上に横たわる少女がそれだった。
    見た目は十代前半、雪のように白い肌に輝く銀の髪の毛、
    その上絹で出来た白いローブを纏って、仰向けのまま眠っている。
    眠りは深く、寝息すら聞こえないため初めに教えておかなければ
    人形と勘違いしてしまうに違いない。それほどまでに人間離れした…
    どちらかというと『造形美』に近い彼女が、生きていると確信できるのは、
    かすかに胸に耳を当てると心音が聞こえるから。

    「ところで、わしらはいつまでこうしていればいいんじゃろうな?」
    「はて?私にもわかりませんよ。最近では何の技術を開発しているか
    すらも忘れるありさまじゃからな。今朝食べたものも覚えとりません。」
    「わしなんか隣国のリーダーの名前すら忘れたわい。
    なんじゃったっけ、ポチじゃったっけな?」
    「いやですわ、それは飼っている猫の名前じゃありませんか。」
    「おおそうじゃったな。で、わしらは何の話をしておったか?」
    「はて?私にもわかりませんよ。最近では何の技術を開発しているか
    すらも忘れるありさまじゃからな。今朝食べたものも覚えとりません。」
    「うむ、お互いボケたくないものじゃな。わしなんか隣国の…」

    で、指導者が起きないので何もすることがないこの国は
    そろそろ政治代行がボケ始めてきているのである意味崩壊の危機と言っていいかもしれない。
    当然のことながら周囲からは全く危険視されておらず、宗教狂いの
    隣国のダークプリーストですらこの国は優先順位ダントツ最下位なんだそうだ。

    「平和ですなぁ。」
    「平和ですねぇ。」


    「あ〜も〜、これだからご老人方は…。呆れちゃうね。
    あれはもう平和とかそれ以前に『枯れてる』んじゃないの?
    あたしは絶対あんな風にならないように、聖女様のために頑張らなきゃ!」

    そこに一匹のワーラビットが、老人二人の様子を見て
    毎日のごとく呆れた様子でため息をつく。
    一応彼女が政治代行をさらに代行する形で研究機関に指示を出したり、
    国民の生活の維持などをやっている。彼女もまたこの国の指導者を
    聖女として崇めている者のひとりであり、周りが適当に国家経営をする中で
    必死に仕事に取り組んでいるがんばり屋であった。


    「おお、猫よ。ちょうどよかった、飯はまだかのう?」
    「ちょっと!?あたしゃウサギですよU・SA・GI!!」
    「何を言っているのです。昨日食べたばかりではありませんか。」
    「毎日食べさせてやってください!!それよりも!海洋探索に出ていたハーピーさんたちが
    西の海上に大陸を見つけたと言っていますので、早速現地の文明と
    友好関係を構築しておこうと思うのですがどうでしょうかっ!」
    「いいのではないかしら。笑顔で対応するのよ。」
    「ついでに聖女様のブロマイドも差し上げるのじゃ。」
    「たまには真面目に政治やってください……」

    頭を抱えつつ、彼女は事務的に報告を終えると、
    もうこの老人たちとはかかわりたくないとばかりに急いで部屋から出ようとする。


    「のう、猫よ。」
    「ウサギです!!まだ何か用ですか?」

    と、部屋から出る直前に老婆司祭から呼び止められる。

    「くれぐれも人を見た目で判断せぬようにな。」
    「は、はぁ…」

    意味深な言葉を残しつつ
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    中央大陸の指導者たちは出そろったようだ。

    では次に、智鶴たちがまだ見つけていない最後の大陸、
    『未知の大陸』を覗いてみよう。

    未知の大陸は大きさがエルフ大陸とほぼ同じくらいの面積で、
    初期には7つの文明が配置されていた。
    しかし、この大陸もまた過酷な環境らしく、
    現在生き残っているのは4つの文明のみである。



    ……
     
     
     
     
    まずは大陸南西に位置する国から。

    領土を拡大し続け、一部中央大陸まで進出したこの国は
    最強の種族ドラゴンが率いる軍事国家であった。

    この国では強さこそがすべてあり、
    国で一番強い者が全体を統治するシステムになっている。
    平和を愛する魔物はあまり集まらないが、強い男を求める魔物が
    各地から集まり、その影響もあって常備軍は精強である。
    また、各年には闘技場が建設されており、毎日市民でにぎわっており、
    噂では首都には尋常ではない猛者しか出場できない地下闘技場があるとか。

    指導者のドラゴンは金色に輝く鱗が見る者を畏怖させる堂々たる人物で、
    生まれてこの方一傷もおったことがない。
    そんな彼女は、首都から遠く離れた前線の町で、主力軍に交じって
    格闘術の訓練をしながら次の侵攻計画を練る。

    「くーっ…たまらんねぇ!!都市の守備隊6ユニットに対して
    先遣隊10ユニットが壊滅だ!しかもご丁寧に周囲は火の罠で固めて
    徹底抗戦の構え……さあ、あの都市国家どんだけ粘るなか?」

    彼女の次の標的はどうやら都市国家のようだが、
    幸か不幸かその都市国家はこの国の侵攻を見事にはねのけたようで、
    それが彼女の闘争心に火をつけた。


    「おいおい、都市国家一つのために主力を投入する気か
    もう少しましな用途があるんじゃないのか?」

    ここで、彼女の友人の白い鱗を持つドラゴンが指導者に意見する。
    白いドラゴンは国全体の闘技場を管理する役目を担っていて、
    直接的に指導者に仕えているというわけではないようだ。

    「何言ってんだ!都市国家の癖に頑張ってるんだぜ!
    こうなったら全力で相手してやらないと失礼にあたるってもんだ!
    よしよし、次はやっぱ騎兵だな。素早く包囲してしまおうか。次は負けないぜ!」
    「…バカにつける薬はないようだな。だいたい貴様、戦争ばかりして
    技術があまり進歩してないではないか。もう少し内政をだな…」
    「いいや!それは違うぞ強敵(とも)よ!覇道というのは
    後に言い訳さえ許さず完膚無きまでに叩き潰すことを言う!」

    彼女も正真正銘のバカと言うわけではないし、
    人並みの常識とプラス性欲は持ち合わせている。
    が、どうしても熱血気分が強すぎる。

    そんな彼女を兵士たちはどう思ってるかというと……

    「さすがは私たちの覇竜閣下!」
    「きっと閣下なら世界を征服できる!」
    「むしろ私も蹂躙してほしい!」

    この指導者ありてこの兵士たちありといったところか。

    「ふん、まあ……その自信と強さが貴様の長所でもあるからな。
    世界は広い、お前が好き勝手に暴れるくらいの余裕はあるだろう。」
    「そうだろうそうだろう!私はまだ見ぬ強敵をもとめて突っ走るぜ!」

    とにかく…物騒な国であることはお分かりいただけただろう。
     
     
     
     
     
     
     
     

     
     
     
    次に、大陸南西部に目を向けてみる。
    ここは国全体に謎の霧が漂っていて、それが直射日光を遮るため
    昼間でもまるで夕方のような薄暗い空が広がる。
    それゆえ、農業生産力がそれほど高くなく、食糧はもっぱら
    日航に頼らないで育つ怪しげな食物か、あるいは他国からの輸入で賄っている。
    もっとも、ここは吸血鬼…ヴァンパイアたちの国、食べ物はあまり必要としない。
    封建制がいきわたった貴族たちが納める領地が点在し、それらを纏める
    大貴族のうちの一人が公女となり、指導者の権力を握る。

    その首都では、富裕層と中流層と貧困層で完全に住居区が隔てられている
    完全身分制の都市で、主にヴァンパイアたちが富裕層の特権階級となって
    富の大半を独占、その他の魔物などが中流層として富裕層たちの生産消費を支え、
    最下層の貧困層には他国から流れてきたり、連れ去られた人間たちが詰め込まれている。
    彼らは単なる餌、または中流層の魔物たちが夫を漁る場でもある。
    このような前時代的な身分制度はヴァンパイアならではのユニークな統治形態と言える。

     
     
    「……………ふ〜む。」

    月明かりが照らす薄暗い部屋。
    豪華な調度品の数々に囲まれ、まさに貴族の住まいといった雰囲気の中で、
    女性が一人、机の上で羊皮紙にペンを走らせながら真剣に考え事をしている。
    吸い込まれそうなほど深い闇宵色の長い髪…血で染まったような真紅のドレス…
    女性の中では抜群の高さを持つ身長に、左目に懸けられた眼帯と
    今まで見たどの指導者にもない妖艶さを持つこの女性は、
    この国の『四公家』と呼ばれる大貴族の中から選ばれた最も優秀なヴァンパイア。

    「公女様は今日も真剣に悩んでおられますわ。」
    「…無理もございません。隣国は軍備拡張の一途をたどり、
    周囲をどん欲に併呑しようとしているのです。
    その牙がいつ我らに向けられてもおかしくはないのですから。」

    お付のメイド二人は、ここ数日間ずっと根詰めて机に向かっている姿を見て
    心配しながらも、さすがは国を述べる公女様は違うと、賞賛のまなざしを送る。

    と、ここで彼女は作業が一段落したのか、わずかに顔をあげて「ほうっ」と
    一息つくと、その場にゆっくり立ち上がる。

    「あなたたち。ここからは国家最高機密を扱うから、部屋から下がりなさい。」
    『承知いたしました』
    「それと、この部屋には何人たりとも入れてはならぬ。」
    『はっ』

    人払いを命じられたメイド二人は、きちっと一礼をした後
    すぐに部屋から退出すると、そのままドアの両脇を固めるように直立する。
     
     
     
     
    「さ、て、と…」

    ヴァンパイアは周囲をくまなく見まわして、誰もいないことを確認。そして…

    「ククク、また一人…死すべき運命から逃れられぬ者が来たか……。
    逢魔が支配する常夜の世界へようこそ。そして我こそが億千の年月を生きる
    気高き常夜の世界の女王……。幾星霜を眺める我にとって、貴様のような
    須臾の狭間で生に追われる者たちのことなどいちいち覚えてはいられぬのだが、
    もしここで我に永遠の忠誠を誓うというのならば(以下略)」

    突然珍妙なポーズで、やたら長く芝居がかったセリフを延々と詠唱し始める。


    「…どうやら、お仕事ではなく『あっち』のことで真剣になっていたご様子。」
    「公女様は我々にばれてないと思っているのでしょうか?」
    「…そこは知っていても黙ってお仕えするのが私たちの役目に御座います。」
    「聞いている限りでは、また新たな出会いのメッセージを考えているようですわ。」
    「…公女様は素直ではない方ですから。」

    側近に聞こえているとも知らず、指導者はすっかり自分の世界に入り込んでいるようで、
    「わが封印されし邪眼に見通せぬものはない」だの「これも血の運命(さだめ)…」など
    もはや言いたい放題。確かにこれは他人に見られたくない光景だ。


    タッタッタッタッタッタ!

    と、薄暗い廊下の向こうから軽い駆け足の音がこちらに向かってくる。

    「ね〜さ〜ん、ねぇさ〜ん!海の向こうから未知文明の偵察隊がね〜!」

    やってきたのは指導者の妹。どうやら、前述の文明が飛ばしたハーピー部隊が
    この国までたどり着いたようで、その報告を姉に持ってきたのだろう。


    「あ、お妹様…。」
    「…要件なら私たちが承りますゆえ。」
    「いいよ、面倒だから。姉さん部屋の中にいるんでしょ、直接言えばいいのよ。」

    空気の読めない妹は、メイド二人の制止を無視し、姉の部屋に突入した。



    「無能な自称創造主が望むには不遜な 至尊の寶冠…頭上に戴くのは紅の歌姫がふさわしい……」
    「おーい、ねぇさーん。またなんかバカなことやってんの?」
    ―!?ちょ…ちょっと!何勝手に私の
    『封禁の麗居(ドムス・ファタ・モルガナ)』に入り込んでるの!ノックしなさいノック!」
    「なにその…どら・あん・もなかって?まったく、公女様ともあろうねぇさんが……」
    「う、うるさいわね!べつにあんたなんかにどうこう言われる筋合いはないわよ!
    それよりも、何か報告持ってきたんじゃないの?さっさと言いなさい。」
    「はいはい…、さっきから言ってるんだけど、海を隔てて西側から
    未知の文明から来たハーピーに出会ったの。姉さんは指導者だから
    とりあえず顔を出しておいた方がいいと思うんだけど。」
    「………クックック、なるほど。運命というのは実に面白い…
    今こそ、覚醒せし我が真の姿をこの世界へと轟かせ……」
    「あの、ねぇさん?」

    未知の文明と出会ったと聞いた瞬間、指導者は再び芝居がかった台詞を放つと、
    さっそく先ほどの練習の成果を披露すべく嬉々として外交画面を開いた。


    …相手の指導者代行には好評だったが、ワーラビットには思いっきり引かれましたとさ。
     
     
     
     
     
     
     
     


     
     
     

     
     
    小さな部屋があった。
    広さはちょうど、現代のマンションの一室より少し大きい程度だろうか。
    ピンク色の壁紙、フリル付きのカーテン、お姫様仕様のベット、
    そして部屋に所狭しと並べられている人形の数々……、
    普通の女性ではきっと落ち着かないだろう少女趣味全開のこの部屋に、
    指導者の一人がベッドの上で寝転がっている。

    見た目はまだ二十歳に届くか届かないかの少女。
    輝くようなくすみなく明るい金髪、手入れが行き届いたきめ細やかな肌、
    モデルも裸足で逃げ出すすらっとした長い手足に、つつましやかな胸、
    フリルやリボンがふんだんに使われた白い服に包まれている彼女を見れば、
    誰もが、彼女のことを『天使』だと評するだろう。
    しかしながら彼女は正真正銘の人間であり、その美しさは
    かの国でベッドに横たわる少女と遜色のないレベルに達している。

    大きく違うのは、彼女はふかふかのベッドに身体を預けながらも、はっきりと意識があること。
    物憂げな表情でお気に入りのエンジェルの人形を懐に抱えながら……

    「お兄様…私は寂しいのです。出来ることなら、早くお兄様の元へ走っていきたい…
    小さいころ私にしてくれたように、その胸に抱き寄せて、頭を撫でてほしい。」

    しかし、少女の夢はかなわない。彼女の兄はこの世界にはもういないのだから。

    「私は弱い女です…。まだ、泣き虫で、寂しがり屋で、甘えん坊で…
    でも、この弱さは決して他人には見せられないもの…。お兄様に甘えられるのは
    この部屋の中だけなのです。ですから……今は…、弱い私でいさせてください。」

    少女は甘える。たった数畳しかない空間でしか、彼女は安らげない。
    弱気少女は一国の指導者。こんな少女に一体何ができるというのか………


    リーン…ゴーン…リーン…ゴーン…


    「鐘の音…、時間か…。」

    首都の中心にある広場から大きな鐘の音が鳴る。
    それを聞いた彼女はベッドから跳躍して起き上がり、瞬間的に服を着替える。
    そして…わずかな未練を心に残しながら部屋の外へと歩みを進めた。
     
     
     
     
    未知の大陸中央には、ヴァルハリア教国に比する大国が存在する。
    恐らく国力は世界でも最大規模を誇り、強力な軍隊を持つ。
    人間の国家だが、男性人口に比べて女性人口が極端に多く、
    魔物国家でもないのに女性の力が圧倒的に強いアマゾネス的な帝国だ。
    そしてこの帝国を率いるのが、若いながらも圧倒的なカリスマで
    多くの人間を導く『女皇(カイゼリン)』と呼ばれる少女である。

    巨大な宮殿の中庭には、この国が誇る一騎当千の近衛兵団が整然と並ぶ。
    その前面のバルコニーから姿を現したのがこの国の指導者……
    それは先ほどまで少女趣味100%の部屋で弱音を吐いていた者と同一人物。
    しかしその醸し出す雰囲気は極端なまでに違った。

    「諸君!我々人間は決して弱い生き物ではない!この世界の頂点に立つのは
    我々人間である!先の戦いで我らの強さは証明された!しかしこれは始まりに過ぎない!
    例え魔物であろうと神であろうと屈服させる…それが我らの進む道なり!」
    『応!!』


    演説で大いに盛り上がる兵士たち。
    その声援を受けながら、彼女は身を翻し、指導者としての仕事に戻る。
    周囲を大勢の将軍が固め、堂々とした歩調で回廊を進む。
    その歩みにはどんなものも道をあけるのではないかと思われるほど…

    例外はあるが。


    「お姉さまーーーーーーーーっ!!」

    ギュッ☆!!

    「うにゃぁっ!?」

    女皇は突如廊下の曲りだ度から何者かに抱き着かれた。
    驚く指導者、そしてなぜか止めない周囲の部下たち。

    「お姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまーー!!」
    「待った待った待った!!どうして貴女がここに!?」
    「ダメです待てません!私ってば待てって言われて待てるほど指導者として
    出来がよくありませんし、ついでに言わせていただければお姉さまったら
    ここずっと戦争ばかりでちっとも会えなかったものですから、
    やっぱりもう我慢の限界なんですよー!あーん、お姉さまー!」
    「あのねぇ…く、来るならくるってあらかじめ言っておきなさいよ!」
    「いやですねお姉さま、あらかじめ知らせたらお姉さまを驚かせられないじゃないですかー♪」

    抱き着いてきたのはエメラルドの髪の長髪(よく考えたらこの大陸の指導者の髪の毛みんな長い)
    に『ザ・お姫様』と言わんばかりのふりふりのドレスの少女…
    何を隠そう、彼女もまた文明を率いる指導者の一人で、この帝国の北に領土を持ち
    帝国の庇護のもと、ほとんど軍備拡張を行わず過ごす文化国家である。

    そしてお姫様なのに女皇様大好きで、用もないのにしょっちゅう通ってきては
    おもむろに抱き着いてくるとんでもない指導者でもある。
    女皇にしてみれば迷惑なことこの上ないが、現在唯一の友好国なので
    無下にできないのであった。

    「分かった分かった!分かったから落ち着いて!そして今すぐ離れて!」
    「落ち着けだなんてそんな〜!お姉さまのためなら
    風よりも早く駆けつけ、林よりも静かに狙いを定め、
    この心は炎よりも熱く燃え盛り、その愛情は山よりも高く!」
    「将軍たちもこの子を引きはがすのを手伝って〜!」

    「女皇様、本日もごちそう様です(頬)」
    「素晴らしいご褒美です女皇様(頬)」
    「貴女達…あとで解任してやるわ……」
     
     
     
     
     
     

     
     
     
     
    さあ、すべての役者は出そろった。
    果たしてこの世界の頂点に立つのは誰なのか?

    ま…十中八九智鶴君が世界を手中に収めると思うのですがね。

    13/02/06 20:57 バーソロミュ   

    ■作者メッセージ
    御機嫌ようです読者の皆様。
    まだ見ぬ指導者たちの肖像の後編をお届けしました。

    今回は残り7つの文明が顔見せをしました。
    その中には、リクエストを受けたにもかかわらず設定を大幅に変えてしまった
    国がありますので、あらかじめお詫び申し上げます。
    この後話が進めば中央大陸の指導者たちは次々と出会うことになりますが、
    未知の大陸の指導者四人につきましては、おそらく登場はかなり後になるかと思います。
    (もっとも、そのうちの二つはオリジナルですが…)
    で、その代り思いっきりキャラ付けを濃くしたところ、

    熱血・中二病&ツンデレ・ブラコン・ガチ百合

    がひしめく、一歩も足を踏み入れたくない最悪な大陸が出来上がったとさ。
    そんなわけで、イメージ変更はまだ受け付けてますので修正案があったら
    お早めによろしくお願いします。また、どうしても滅ぼしてほしくない国や、
    そもそも戦争させたくない国があったら申し出てくださいね。

    ではついでに、現在の勢力図のような何かをご覧ください。
    本当はciv4のマップ編集で作りたかったのですが、
    どうもうまくいかない&めっちゃ時間がかかるのでペイントで適当書いたものをのせます…
    ちなみに、☆は首都がある場所を示しています。


    以下、ネタバレを含むので責任を持って閲覧してください。

     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    その1…テュポーン城塞都市連合
    指導者:ミシェイル=デューク・マケドニア 属性:中立
    種族:人間 志向:カリスマ/組織
    険しい地形に点在する都市国家の連合体。竜騎士が軍の中核を担う。

    その2…パンデモス教国
    指導者:サクリア 女性 属性:魔
    種族:ダークプリースト 志向:宗教/秘術/魅了
    堕落心を熱心に信仰する危ない雰囲気の国家。サクリアに犯されている男性、実は…

    その3…タルミナス中立国
    指導者:ララ・キリア 女性 属性:中立
    種族:人間 志向:宗教/組織/社交
    聖女様の加護で国が栄えると信じる国。政治が上手いのか杜撰なのかよくわからない。

    その4…覇権国家ファーン
    指導者:覇竜アポーピッツ 女性 属性:魔
    種族:ドラゴン 志向:攻撃/帝国主義
    とにかく強い者と戦うことを至上とする戦争重視の文明。指導者はバリバリの修造志向。

    その5…カラビナ公国
    指導者:ベアトクリス 女性 属性:魔
    種族:ヴァンパイア 志向:金融/組織
    厳格な身分性が敷かれた貴族たちの国。人間は基本奴隷。キルナス王国を敵視する。

    その6…ユリス帝国
    指導者:女皇フィーネルハイト 女性 属性:秩序
    種族:人間 志向:帝国主義/カリスマ
    戦争をすればするほど強くなるサイヤ人のような文明。人間至上主義を掲げている。

    その6…カルヘーツ
    指導者:ラプンツェル・エルフィライヒ 女性 属性:秩序
    種族:人間 志向:金融/哲学
    指導者が百合。しかしながらイースターラビットに並ぶ最強志向を持つ国でもある。

    地図の対応番号
    1…ダークエルフ 2…翠緑の護り手 3…リートゥス海神連合 4…ヴァルハリア教国
    5…ローレアープ山脈連邦 6…ゴルカス鉱山国 7…ビートル共和国 8…イースターラビット
    9…アルムテン 10…ミカイア行政区 11…ヒルパス連合 12…フォクシミアン共和国
    13…テュポーン城塞都市連合 14…キルナス王政国家 15…フリーダムトーチ 16…フェスタ
    17…パンデモス教国 18…タルミナス中立国 19…エアオーベルグ帝国 20…覇権国家ファーン
    21…カラビナ公国 22…ユリス帝国 23…カルヘーツ

    ちなみに、現在のスコア順位は

    1 ヒルパス連合…有無を言わせぬ超巨大国家
    2 ユリス帝国…国を二つ滅ぼした勢いで高得点
    3 ヴァルハリア教国…ライオンハート自重
    4 エアオーベルグ帝国…領土が豊かなのが大きい
    5 覇権国家ファーン…内政顧みず爆走する覇竜
    6 キルナス王政国家…実は技術開発速度は単独トップ
    7 カラビナ公国…吸血鬼ユニットは評価値が高め
    8 ビートル共和国…遺産祭り開催中
    9 ダークエルフ ←今ココ
    10 フリーダムトーチ…ユニットの多さが目に付くが、失った数も多い
    11 テュポーン城塞都市連合…土地が狭いのが若干不利か
    12 アルムテン…指導者の方向性が不安定
    13 パンデモス教国…宗教以外興味なし
    14 イースターラビット…遺産開発でビートル共和国に連敗中
    15 リートゥス海神連合…トメニア戦の傷が大きい
    16 カルヘーツ…お姉さまにくっついていくだけの簡単なお仕事
    17 ミカイア行政区…安定の絶望志向
    18 ローレアープ山脈連邦…鎖国すること徳川の如く
    19 翠緑の護り手…あまりエルフをいじめないでやってください
    20 フェスタ…キルナスの飼い犬状態
    21 ゴルカス鉱山国…ライオンハートに睨まれ青息吐息
    22 タルミナス中立国…平和なのはいいことだが…
    23 フォクシミアン共和国…そもそも一都市しかないので仕方ない

    …戦争屋はやはり得点が高い。