幕間:眠り姫オーヴァードライブ 弐
智鶴がゲーム内でのっぴきならない状況にある中、
204号室に屯する同僚の面々は………
「492…493…494…495…496…497…498…499…500!
ふぅ……二セットはなかなかいい汗かくな!よっしゃ、
鴻池が起きるまでもう一セットやっとくか!」
「暑苦しいわよ油屋。そんなに体を持て余すなら外で走り込んできなさい。」
「おいおい冗談じゃないぜ?ダチを放っておいて外出なんざできるか。」
「私たち執行部がいるから大丈夫よ。あなたがいなくてもなんとかなるわ。」
「そう言いつつ我らが会長はさっきからなに本棚だのベットの下だのを
一生懸命まさぐってんだよ。ヘソクリさがそうったってそうはいかないぜ。」
「あいにく私の目的はちーちゃんのへそくりじゃないわ。
この年代の男子が絶対隠していると言われる例のアレを捜索中よ。」
「おいコラまてや!会長権限使って何やってやがる!」
「先輩方、申し訳ありませんがもう少し大人しくしてもらえると助かりますわ。」
時刻は午後6時を少し回ったころだろうか。
夕焼けの朱色が照らす部屋でいろいろと作業する貫太郎と生徒会役員たちだったが、
状況が特異過ぎて事態の解決の見通しが全く立たないでいた。
とりあえず神近会長と九重副会長は周囲の物品に
何かきっかけとなるようなものがないかどうか念入りに探索し、
風宮会計局長は自分の寮室から持ち込んだノートPCで
目下調査中である。看護は相川書記がやってくれている。
やることのない貫太郎だったが、智鶴が心配なのに加えて
自分のいない間に役員どもが何をするかわからないので
いつもの走り込みをすることもなく、部屋での自主トレに終始する。
「ふっ…ふっ…どうだ風宮、何か分かったか?」
「少々お待ちください。現在シヴィライゼーションの基礎知識を頭に入れるために
シヴィクロペディア(civの用語辞典のようなもの)に目を通していますので。」
「更科津…そんなの見てたら日付変わっちゃうわよ。(←本気でそれくらいの情報量がある)
最近作られたmod類にこれに関係するものがないかだけチェックしなさい。」
「承知致しました。……ふむ。」
「会長、部屋の隅々まで捜索しましたが、怪しいものは見つかりませんでした。」
「じゃあ次は隠し扉を探しましょうか。」
「んなもんあるかよ!男子寮をなんだと思ってやがるんだ!」
「神近会長、そろそろ日も暮れますので今後の予定についても決めておかないと。」
「そうね……」
と、ここで真織は安らかな顔で寝息を立てる智鶴を覗き込むと…
「ちーちゃんったら本当に何をしても起きないわね。
ん〜……ほ〜ほ〜…うりうりっと……」
「おいおい、何をそんなにべたべた触ってるんだ。鴻池は人形じゃねぇんだぞ。」
「まあ見てなさい。」
親指と人差し指を智鶴の眼尻と瞼に添えて、無理やり瞳を
クパァッ
『!?』
起きないとはいえあんまりな力技に、場の空気が一瞬固まる。
「あ、あのですね神近会長、もう少し優しく扱ってあげましょうよ…」
「うふふ♪ちーちゃんの瞳はまるでガラス球のようね。」
「てめぇ……あんまり鴻池をいじったら部屋から追い出すぞ…」
こんなことをしても平然とする真織だったが、
ここでふと九重があることに思い当たる。
「もしかして眼球運動ですか?」
「ぴんぽーん。その通り♪」
「あれか?レム睡眠とかノンレム睡眠とかいうやつか?」
人間は眠っているときに周期的に深い睡眠(ノンレム睡眠)と浅い睡眠(レム睡眠)
を繰り返す。通常は深い睡眠から始まり、1時間半から2時間ほどで浅い睡眠に移る。
レム睡眠の時には身体が眠っているのに脳が活動している状態なので、
瞼を開いてみると、眼球が動いているのが見える。これは睡眠時の
急速眼球ん道と呼ばれていて、脳が活性化している証拠である。
「そろそろ周期の時間だと思うけど
今見たところ、ちーちゃんには眼球運動が見られないわ。」
「はぁ……ですが、それだけではなんとも。」
「ま、いいわ、それよりそろそろ………」
……
学院第2男子寮食堂。
「はい、せーの、いただきます。」
『いただきます。』
テーブルが大きめの喫茶店のような雰囲気の食堂。
とりあえず腹ごしらえをすることに決めた生徒会役員たちと貫太郎は
適当な四人がけのテーブルを選んで腰かけた。
夕食の時間と言うことで第2男子寮住まいの生徒たちでにぎわっているが、
今日はそれだけではなく、寮が設立してから初めて女生徒が
利用するということでどことなく緊張に満ちた雰囲気であった。
「ずいぶん殺伐としてるわね。男子寮っていつもこうなのかしらね。」
「仕方ありません会長。女性の人権擁護法が緩和されたといっても
いまだに我々男子にとってとの女子との接触はリスクが大きいのです。」
「そうだそうだ。ここが首都の学校だったら下手すりゃここにいる男子は
全員更生院行きだぜ。本当は女子寮に戻るか、商店街で食ってくれりゃいいのに。」
「せっかく安い寮食堂がすぐ下の階にあるのに遠出する意味はないわ。」
「ふぅん。まあ…それはそれでいいんだが……」
ちなみに女子寮は男子生徒立ち入り禁止だが、男子寮には特に規定はない。
しかし妙な噂を建てられるリスクを背負ってまで入る物好きはいないはずだ。
「…のんきに飯食ってる場合か?」
「腹が減っては戦はできませんよ円谷先輩。
評議長の容体は相川が見てますからご安心ください。」
「事前にいろいろ準備しておかなきゃね。いずれにしろ
今晩はあの部屋に合宿状態になる予定だしね。」
「おいおい男子生徒の部屋に泊まるだなんて正気かよ神近。」
「大丈夫よ、傍から見れば生徒会役員が集まって作業している風にしか見えないわ。」
「だから、女子が男子の部屋に入ること自体問題があるんだってばよ。」
「だったら一晩中外で走り込みしてるか、
他の友達の部屋にでも泊めてもらえばいいじゃない。」
「頼むから少しは家主のことも気遣ってくれ……」
先のことを思うとさすがの貫太郎もがっくりとするしかない。
日替わりのミックスフライ定食を突きつつため息をつく。
「でもよ、鴻池の奴がゲームの中に意識があるとするならば、
奴はいったいどんな感じでゲームをプレイしてるんだろうな?」
「さてね。入ってみないと分からないんじゃないかしら。」
「戦争ゲームですから……危ないことに巻き込まれてないといいのですが。」
九重の言葉に一同はうんうんと頷く。
「いずれにしろ早めに事態の打開を図った方がいいわ。
そのためにはまず大まかな方針を決めておかないとね。」
「そうなりますと、あのパソコンの中に干渉することが
当面の課題と言っていいでしょう。そのための器具は
俺のパソコンを使えば問題ありませんが、ゲームデーターは…」
「シヴィライゼーションのディスクは私が用意するわ。
後で一度女子寮に戻って取りに行ってくるわ。」
「では私はお茶とお茶菓子などを用意いたしますわ。」
「それと洗面用具も持ってきた方がいいかもしれないわね。」
「ふふふ…神近会長、生徒会役員で合宿と言うのは初めてですわね♪
更科津君、お茶とお茶菓子代は特別会計から落ちるかしら?」
「だめ。金ならおれのポケットから出すからそれで買ってきてくれ。」
「……お前ら、ノリがまるっきり夏合宿じゃねぇか。」
「いいじゃない、どんなノリだってやることは同じよ。」
たいした問題じゃないとばかりに軽く笑う真織だったが、
内心自分の手に負える問題なのかどうか不安でもあった。
高等部生たちの生活の基礎を支える生徒会役員のリーダーとして、
下手に弱気な姿勢は見せられないと思っているのだろう。
好物のラザニアも、この日ばかりは味があまり感じられなかった。
…
「ごちそうさま。」
『ごちそうさまでした。』
食事を終え、配膳を返却口に戻すと、女子はいったん自分の寮に戻って
必要な物を取りに行くついでに軽く体を洗いに行く。
その間に男子二人は智鶴の看護を相川書記からバトンタッチ、
風宮は再びパソコンで調べものに没頭し、貫太郎は先に一風呂浴びておくことにする。
「……有志の手で作られたModはかなりの数があるが、
どれもこれも装いが全く異なるな。会長が言うにはこれだけ大規模で完成度も高ければ
少なくとも製作者は一人だけではないということだが、ん〜…あるいは個人製作
のみで一般のネット上には流通していないものなのかもしれないな。」
いくら探せど何も手がかりがなく、ネット検索は完全に暗礁に乗り上げた。
しかし分かったこともある。少なくとも過去にはこうした
プレイヤーが突然意識不明の状態に陥った事例はないということだ。
「それに、だ。こちらのゲームの内容も変わった点が多い。
どうやら亜人類がいる世界らしいが、そのすべてが人間女性に近い姿だ。
エルフもドワーフも、ゴブリンもスライムも、そしてドラゴンも。
一体どのような意図でそのような設定がなされているのか気になるな。」
しかし残念なことに、彼が『魔物娘』というキーワードにたどり着くことはなかった。
チャッチャラチャーチャー♪チャッチャラチャーチャー♪
チャッチャラチャーチャー♪チャッチャチャ〜〜♪
「何かと思ったら、評議長の携帯電話か。発信者は…評議長の
ご友人のようだな。仕方がない、伝言くらいは受け取ってやろう。」
ピッ
「もしもし。」
「あれ?声が鴻池じゃないぞ?間違えたかな…?」
「いえ、間違ってはいません。俺は生徒会会計局長の風宮と申します。
現在評議長は所用により手が離せない状態ですので、俺が代わりに言伝を―」
「あんた生徒会役員か!実はちょっと事件が起きたんだ、来てくれないか!」
「事件?」
この後、事態をさらに複雑にする出来事が発生することになる。
……
場面は変わってゲーム内の世界。
時間的にはトメニア王国がヴァルハリア教国に首都を落とされた直後くらいだろうか。
大陸北西部の丘陵地帯に領土を持つゴルカス鉱山国。その首都クラリオンにて。
「……つまりですね、この鉱山の含有率はこれだけあると予想されますため
現在のような坑道式ではなく頭頂部から露天式に採掘する方が
今後のコスト、および安全面では優れていると思われます。」
「山ごと削るのか!なるほど…君の革新的な考えには驚かされるよ!
なぁに、労働力なら掃いて捨てるほどある!さっそく実行に移そう!」
今、国有鉱山を見上げて立ち話をするのは指導者のワーラ・ゴルカスと
メガネをかけた真面目そうな男性だった。
男性の服装はこの世界では見たことのない作り……いや、
この服を着ている者はこの世界で二人しかいないだろう。
「いやー、しかし君のおかげでうちの生産力は大きく伸びた。
できることなら、その……ずっといてくれてもいいんだよ。
住むところだって用意するし、食べ物にも不自由させないよ。」
「ご厚意はありがたいのですが、僕には帰らなくてはならないところがあるんです。」
「あはは、そうだったね!私たちにできることは限られてるけど
ある程度だったら協力するよ。なんたって君は我が国初の『偉人』なんだから!」
「…………」
彼はこの世界の住人ではない。
気が付いた時にはこの国の宮殿の大広間に倒れていたという。
「しかし、こういうのもなんだが、今のところ最も確実な方法は一つ…。
それは私たちゴルカス鉱山国が世界を手に入れることだ!
君の言葉が正しいとするならば、この世界の勝者こそが
この世界を自由にできる権限を得られるはずなんだ!
そうすれば……私の手で君をもとの世界に戻してあげられる。」
「ワーラさん、わがままを言って申し訳ありません。」
「いいってことよ!お互い様じゃない!じゃあ私は宮殿に戻るから、
後は好きにしてもらって構わないよ!」
「はい、お言葉に甘えます。」
ワーラがその場から立ち去って、その背が見えなくなるまで見送ると
メガネの男性は「ふぅ」と軽くため息をつく。
「まったく…僕も厄介な人に気に入られたようですね。
人間がドワーフを奴隷にする国家…実際に見ると心が痛みますね。」
ふと視線を鉱山の入り口に向けると、馬にひかれた護送車の中に
何人ものドワーフがぐったりした表情で鎖につながれている。
おそらく満足な食事も与えられず過酷な労働を強いられているのであろう。
しかしながら彼には止める手段はない。
もしも彼が普段から体を鍛えていたとしても、勇者でもない限り
一人でこの状況を打破するのは不可能に等しい。
(…いえ、僕は他人のことまで気を回す余裕はないはずです。
しっかりしなければ、元の世界に戻るなど夢のまた夢…)
果たしてこの男の正体とは……
204号室に屯する同僚の面々は………
「492…493…494…495…496…497…498…499…500!
ふぅ……二セットはなかなかいい汗かくな!よっしゃ、
鴻池が起きるまでもう一セットやっとくか!」
「暑苦しいわよ油屋。そんなに体を持て余すなら外で走り込んできなさい。」
「おいおい冗談じゃないぜ?ダチを放っておいて外出なんざできるか。」
「私たち執行部がいるから大丈夫よ。あなたがいなくてもなんとかなるわ。」
「そう言いつつ我らが会長はさっきからなに本棚だのベットの下だのを
一生懸命まさぐってんだよ。ヘソクリさがそうったってそうはいかないぜ。」
「あいにく私の目的はちーちゃんのへそくりじゃないわ。
この年代の男子が絶対隠していると言われる例のアレを捜索中よ。」
「おいコラまてや!会長権限使って何やってやがる!」
「先輩方、申し訳ありませんがもう少し大人しくしてもらえると助かりますわ。」
時刻は午後6時を少し回ったころだろうか。
夕焼けの朱色が照らす部屋でいろいろと作業する貫太郎と生徒会役員たちだったが、
状況が特異過ぎて事態の解決の見通しが全く立たないでいた。
とりあえず神近会長と九重副会長は周囲の物品に
何かきっかけとなるようなものがないかどうか念入りに探索し、
風宮会計局長は自分の寮室から持ち込んだノートPCで
目下調査中である。看護は相川書記がやってくれている。
やることのない貫太郎だったが、智鶴が心配なのに加えて
自分のいない間に役員どもが何をするかわからないので
いつもの走り込みをすることもなく、部屋での自主トレに終始する。
「ふっ…ふっ…どうだ風宮、何か分かったか?」
「少々お待ちください。現在シヴィライゼーションの基礎知識を頭に入れるために
シヴィクロペディア(civの用語辞典のようなもの)に目を通していますので。」
「更科津…そんなの見てたら日付変わっちゃうわよ。(←本気でそれくらいの情報量がある)
最近作られたmod類にこれに関係するものがないかだけチェックしなさい。」
「承知致しました。……ふむ。」
「会長、部屋の隅々まで捜索しましたが、怪しいものは見つかりませんでした。」
「じゃあ次は隠し扉を探しましょうか。」
「んなもんあるかよ!男子寮をなんだと思ってやがるんだ!」
「神近会長、そろそろ日も暮れますので今後の予定についても決めておかないと。」
「そうね……」
と、ここで真織は安らかな顔で寝息を立てる智鶴を覗き込むと…
「ちーちゃんったら本当に何をしても起きないわね。
ん〜……ほ〜ほ〜…うりうりっと……」
「おいおい、何をそんなにべたべた触ってるんだ。鴻池は人形じゃねぇんだぞ。」
「まあ見てなさい。」
親指と人差し指を智鶴の眼尻と瞼に添えて、無理やり瞳を
クパァッ
『!?』
起きないとはいえあんまりな力技に、場の空気が一瞬固まる。
「あ、あのですね神近会長、もう少し優しく扱ってあげましょうよ…」
「うふふ♪ちーちゃんの瞳はまるでガラス球のようね。」
「てめぇ……あんまり鴻池をいじったら部屋から追い出すぞ…」
こんなことをしても平然とする真織だったが、
ここでふと九重があることに思い当たる。
「もしかして眼球運動ですか?」
「ぴんぽーん。その通り♪」
「あれか?レム睡眠とかノンレム睡眠とかいうやつか?」
人間は眠っているときに周期的に深い睡眠(ノンレム睡眠)と浅い睡眠(レム睡眠)
を繰り返す。通常は深い睡眠から始まり、1時間半から2時間ほどで浅い睡眠に移る。
レム睡眠の時には身体が眠っているのに脳が活動している状態なので、
瞼を開いてみると、眼球が動いているのが見える。これは睡眠時の
急速眼球ん道と呼ばれていて、脳が活性化している証拠である。
「そろそろ周期の時間だと思うけど
今見たところ、ちーちゃんには眼球運動が見られないわ。」
「はぁ……ですが、それだけではなんとも。」
「ま、いいわ、それよりそろそろ………」
……
学院第2男子寮食堂。
「はい、せーの、いただきます。」
『いただきます。』
テーブルが大きめの喫茶店のような雰囲気の食堂。
とりあえず腹ごしらえをすることに決めた生徒会役員たちと貫太郎は
適当な四人がけのテーブルを選んで腰かけた。
夕食の時間と言うことで第2男子寮住まいの生徒たちでにぎわっているが、
今日はそれだけではなく、寮が設立してから初めて女生徒が
利用するということでどことなく緊張に満ちた雰囲気であった。
「ずいぶん殺伐としてるわね。男子寮っていつもこうなのかしらね。」
「仕方ありません会長。女性の人権擁護法が緩和されたといっても
いまだに我々男子にとってとの女子との接触はリスクが大きいのです。」
「そうだそうだ。ここが首都の学校だったら下手すりゃここにいる男子は
全員更生院行きだぜ。本当は女子寮に戻るか、商店街で食ってくれりゃいいのに。」
「せっかく安い寮食堂がすぐ下の階にあるのに遠出する意味はないわ。」
「ふぅん。まあ…それはそれでいいんだが……」
ちなみに女子寮は男子生徒立ち入り禁止だが、男子寮には特に規定はない。
しかし妙な噂を建てられるリスクを背負ってまで入る物好きはいないはずだ。
「…のんきに飯食ってる場合か?」
「腹が減っては戦はできませんよ円谷先輩。
評議長の容体は相川が見てますからご安心ください。」
「事前にいろいろ準備しておかなきゃね。いずれにしろ
今晩はあの部屋に合宿状態になる予定だしね。」
「おいおい男子生徒の部屋に泊まるだなんて正気かよ神近。」
「大丈夫よ、傍から見れば生徒会役員が集まって作業している風にしか見えないわ。」
「だから、女子が男子の部屋に入ること自体問題があるんだってばよ。」
「だったら一晩中外で走り込みしてるか、
他の友達の部屋にでも泊めてもらえばいいじゃない。」
「頼むから少しは家主のことも気遣ってくれ……」
先のことを思うとさすがの貫太郎もがっくりとするしかない。
日替わりのミックスフライ定食を突きつつため息をつく。
「でもよ、鴻池の奴がゲームの中に意識があるとするならば、
奴はいったいどんな感じでゲームをプレイしてるんだろうな?」
「さてね。入ってみないと分からないんじゃないかしら。」
「戦争ゲームですから……危ないことに巻き込まれてないといいのですが。」
九重の言葉に一同はうんうんと頷く。
「いずれにしろ早めに事態の打開を図った方がいいわ。
そのためにはまず大まかな方針を決めておかないとね。」
「そうなりますと、あのパソコンの中に干渉することが
当面の課題と言っていいでしょう。そのための器具は
俺のパソコンを使えば問題ありませんが、ゲームデーターは…」
「シヴィライゼーションのディスクは私が用意するわ。
後で一度女子寮に戻って取りに行ってくるわ。」
「では私はお茶とお茶菓子などを用意いたしますわ。」
「それと洗面用具も持ってきた方がいいかもしれないわね。」
「ふふふ…神近会長、生徒会役員で合宿と言うのは初めてですわね♪
更科津君、お茶とお茶菓子代は特別会計から落ちるかしら?」
「だめ。金ならおれのポケットから出すからそれで買ってきてくれ。」
「……お前ら、ノリがまるっきり夏合宿じゃねぇか。」
「いいじゃない、どんなノリだってやることは同じよ。」
たいした問題じゃないとばかりに軽く笑う真織だったが、
内心自分の手に負える問題なのかどうか不安でもあった。
高等部生たちの生活の基礎を支える生徒会役員のリーダーとして、
下手に弱気な姿勢は見せられないと思っているのだろう。
好物のラザニアも、この日ばかりは味があまり感じられなかった。
…
「ごちそうさま。」
『ごちそうさまでした。』
食事を終え、配膳を返却口に戻すと、女子はいったん自分の寮に戻って
必要な物を取りに行くついでに軽く体を洗いに行く。
その間に男子二人は智鶴の看護を相川書記からバトンタッチ、
風宮は再びパソコンで調べものに没頭し、貫太郎は先に一風呂浴びておくことにする。
「……有志の手で作られたModはかなりの数があるが、
どれもこれも装いが全く異なるな。会長が言うにはこれだけ大規模で完成度も高ければ
少なくとも製作者は一人だけではないということだが、ん〜…あるいは個人製作
のみで一般のネット上には流通していないものなのかもしれないな。」
いくら探せど何も手がかりがなく、ネット検索は完全に暗礁に乗り上げた。
しかし分かったこともある。少なくとも過去にはこうした
プレイヤーが突然意識不明の状態に陥った事例はないということだ。
「それに、だ。こちらのゲームの内容も変わった点が多い。
どうやら亜人類がいる世界らしいが、そのすべてが人間女性に近い姿だ。
エルフもドワーフも、ゴブリンもスライムも、そしてドラゴンも。
一体どのような意図でそのような設定がなされているのか気になるな。」
しかし残念なことに、彼が『魔物娘』というキーワードにたどり着くことはなかった。
チャッチャラチャーチャー♪チャッチャラチャーチャー♪
チャッチャラチャーチャー♪チャッチャチャ〜〜♪
「何かと思ったら、評議長の携帯電話か。発信者は…評議長の
ご友人のようだな。仕方がない、伝言くらいは受け取ってやろう。」
ピッ
「もしもし。」
「あれ?声が鴻池じゃないぞ?間違えたかな…?」
「いえ、間違ってはいません。俺は生徒会会計局長の風宮と申します。
現在評議長は所用により手が離せない状態ですので、俺が代わりに言伝を―」
「あんた生徒会役員か!実はちょっと事件が起きたんだ、来てくれないか!」
「事件?」
この後、事態をさらに複雑にする出来事が発生することになる。
……
場面は変わってゲーム内の世界。
時間的にはトメニア王国がヴァルハリア教国に首都を落とされた直後くらいだろうか。
大陸北西部の丘陵地帯に領土を持つゴルカス鉱山国。その首都クラリオンにて。
「……つまりですね、この鉱山の含有率はこれだけあると予想されますため
現在のような坑道式ではなく頭頂部から露天式に採掘する方が
今後のコスト、および安全面では優れていると思われます。」
「山ごと削るのか!なるほど…君の革新的な考えには驚かされるよ!
なぁに、労働力なら掃いて捨てるほどある!さっそく実行に移そう!」
今、国有鉱山を見上げて立ち話をするのは指導者のワーラ・ゴルカスと
メガネをかけた真面目そうな男性だった。
男性の服装はこの世界では見たことのない作り……いや、
この服を着ている者はこの世界で二人しかいないだろう。
「いやー、しかし君のおかげでうちの生産力は大きく伸びた。
できることなら、その……ずっといてくれてもいいんだよ。
住むところだって用意するし、食べ物にも不自由させないよ。」
「ご厚意はありがたいのですが、僕には帰らなくてはならないところがあるんです。」
「あはは、そうだったね!私たちにできることは限られてるけど
ある程度だったら協力するよ。なんたって君は我が国初の『偉人』なんだから!」
「…………」
彼はこの世界の住人ではない。
気が付いた時にはこの国の宮殿の大広間に倒れていたという。
「しかし、こういうのもなんだが、今のところ最も確実な方法は一つ…。
それは私たちゴルカス鉱山国が世界を手に入れることだ!
君の言葉が正しいとするならば、この世界の勝者こそが
この世界を自由にできる権限を得られるはずなんだ!
そうすれば……私の手で君をもとの世界に戻してあげられる。」
「ワーラさん、わがままを言って申し訳ありません。」
「いいってことよ!お互い様じゃない!じゃあ私は宮殿に戻るから、
後は好きにしてもらって構わないよ!」
「はい、お言葉に甘えます。」
ワーラがその場から立ち去って、その背が見えなくなるまで見送ると
メガネの男性は「ふぅ」と軽くため息をつく。
「まったく…僕も厄介な人に気に入られたようですね。
人間がドワーフを奴隷にする国家…実際に見ると心が痛みますね。」
ふと視線を鉱山の入り口に向けると、馬にひかれた護送車の中に
何人ものドワーフがぐったりした表情で鎖につながれている。
おそらく満足な食事も与えられず過酷な労働を強いられているのであろう。
しかしながら彼には止める手段はない。
もしも彼が普段から体を鍛えていたとしても、勇者でもない限り
一人でこの状況を打破するのは不可能に等しい。
(…いえ、僕は他人のことまで気を回す余裕はないはずです。
しっかりしなければ、元の世界に戻るなど夢のまた夢…)
果たしてこの男の正体とは……
■作者メッセージ
ザリーチェからのお知らせ!
はぁい読者のみんな、立ち絵が欲しくて仕方ないザリーチェ参上!
これが今年最後の更新になるということなので、新年に向けて
私から一つお知らせをするわね。
ズバリ!偉人・英雄を登場させてみようキャンペーン!開催!
読者様が他の中には自らSSを投稿している方もいるでしょう。
その中に出てくるキャラクターをゲーム内で活躍させたい、
または偉人として世界を盛り上げていきたいと思いませんか?
完全にパラレルワールドですので細かい矛盾は問題ナシ!
場合によっては敵として現れて、智鶴君たちを追い詰めてみたりもできるわ♪
すでに何人かの方のキャラクターを借りてるんだけど、
特定の方ばかりじゃ不公平だからってことで思い切り募集します!
応募は感想欄ではなく、メールの方にお願いしますとのこと、
設定の盛り込みは投稿者様が他の判断にお任せするわ。
キャラクター投稿、待ってるわよ!
はぁい読者のみんな、立ち絵が欲しくて仕方ないザリーチェ参上!
これが今年最後の更新になるということなので、新年に向けて
私から一つお知らせをするわね。
ズバリ!偉人・英雄を登場させてみようキャンペーン!開催!
読者様が他の中には自らSSを投稿している方もいるでしょう。
その中に出てくるキャラクターをゲーム内で活躍させたい、
または偉人として世界を盛り上げていきたいと思いませんか?
完全にパラレルワールドですので細かい矛盾は問題ナシ!
場合によっては敵として現れて、智鶴君たちを追い詰めてみたりもできるわ♪
すでに何人かの方のキャラクターを借りてるんだけど、
特定の方ばかりじゃ不公平だからってことで思い切り募集します!
応募は感想欄ではなく、メールの方にお願いしますとのこと、
設定の盛り込みは投稿者様が他の判断にお任せするわ。
キャラクター投稿、待ってるわよ!