第9期:援軍
今期の格言
「最後に殺す敵」と書いて『とも』と読む。
友人は大事にしよう、そして後で裏切ろう。
建国帝チェザール・アクスト(アクストT世)
智鶴率いるダークエルフ国は東に位置する新大陸への探索を開始し、
初出航を迎えたガレー船に探検隊を載せて海の向こうに向かわせた。
だが、それと同時に智鶴は、空からも探検隊を送り出していた。
「到着ーっ!あたし一番乗り!」
東の大陸の一番西の都市…ビートル共和国領『エルエスの巣』
(ビートル共和国の都市は『〜の巣』と呼ばれるのが慣例)
に、闇色の羽を持つ少女が降り立った。
彼女はつい最近ダークエルフたちに雇われたブラックハーピーの斥候で、
首都から飛び立ちはるばる海を越えてここまでやってきたのだ。
これからダークエルフたちの未知領域探索は彼女たちの仕事になるだろう。
戦闘能力は持たないが、その代り攻撃されることもなく、
さらに隠れた敵を見つけ出す能力を持っている、なかなかの便利屋と言える。
「はあぁ〜……変わってるなーこの町。建物が全部、土で出来てるよー。
これ全部ジャイアントアントたちが作ったんだってね。
でもあたしは昼間でも薄暗いあの森林都市のほうが性に合ってるかな。」
大勢のジャイアントアントと人間たちが行き来するこの都市は、
地形を大胆に利用した粘土と煉瓦の住居を洞窟のように構えている。
例えるなら、トルコの文化遺産『カッパドキア』がもっと大規模になったようなものだ。
とにかく人口が多いビートル共和国ならではの光景と言える。
「よーしっ!俄然探検が楽しみになってきたよーっ!
未来の旦那さんを手に入れるためにも、智鶴様に名前をもらうためにも!」
ブラックハーピーの少女はグッと意気込むと、再び新大陸の大空に舞いあがる。
まだ見ぬ大陸勢力との接触を求めて………
一方、本国の方では智鶴の指示で、ダークエルフ軍が次々とリートゥスの救援に出撃。
首都の防衛軍は最低限に残し、弓兵を主力とした部隊を、首都インスマスに向かわせた。
すでにトメニア王国軍はライネル将軍率いる部隊が国境を越え、
トメニア側に最も近い都市パラデラはすでに敵の攻撃にさらされている。
「彼女たちがやられたら次は僕たちが危機に陥ってしまう!何としてでも助けないと!」
「ですが智鶴様、今攻められてるのは国境の都市ですよ……首都を経由すると間に合いません!」
「エミィ……今攻められてるところに駆けつけてもそれこそ間に合わないよ。
せめてリートゥスの首都だけでも生き残ってもらわないと。」
「ちーちゃんの言うとおりね。リートゥスの首都は私たちの経済の生命線……
ここを落とされたら苦しくなるわ、戦力は一点に絞りましょ。」
トメニア王国軍の動きは素早い。
宣戦布告から2ターン後にはパラデラは陥落し、リートゥスがあわてて差し向けた
増援部隊はトメニアの騎乗兵によって瞬く間に蹴散らされてしまい、
逆に後方の都市がその分手薄になってしまったようだ。
智鶴の言う通り、今から前線の救援に行っても間に合わない。
リートゥスにしても聖エロニア共和国にしてもそうだったが、
戦争が下手な国は一ヵ所が
兵力をその場その場で考えなしに投入してしまう癖がある。
これでは敵に経験値を捧げるようなものだ。
「ぐわっはっはっはっは!弱い弱い!所詮は陸に上がった魚、手ごたえが全くない!」
「ふん、大陸最強のわが軍と比べる方が間違っているのだ。
ほれほれ、敵の第二都市も騎馬隊だけで落ちそうではないか。」
へリング元帥とポータル将軍はあまりにも弱いリートゥス相手に余裕綽々で、
すでに勝ちを確信しているようだった。で、面白くないのが
後方で歩みの遅い攻城兵器を率いてのろのろ進軍するグレープ将軍だ。
「おいおい、少しは俺にも出番を残しておいてくれよ。お前らだけずるいぜ。」
「残念ながらお前の出番はなさそうだなカルピス将軍?
投石器と一緒にゆっくりと来るといい、首都には自分が旗を立てといてやる。」
「黙れアンポンタン!騎兵ばっかりで首都を落とせると思うなよ!」
「んだと!やんのかコノヤロー!」
「将軍ども!喧嘩してる場合か!さっさと敵の首都を余に献上せよ!」
『うへーーっ!!』
こんなやり取りがあっても、トメニア王国軍の攻撃は止まらず、
とうとう第二都市キングスポートまで接近を許した。
「あなた〜!どうしましょう、敵がもうすぐそこまで!」
「大丈夫だルミナ…こうなったら僕がこの身を張ってでも止めてみせる!」
第二都市の危機に、ルミナとその夫ガイブラシは
少ない軍隊を割いて増援に向かわせようとする。
しかし…
「待った待った!今その軍隊を動かさないで!」
「智鶴さん!?」
「だがしかし、このままでは町の人々が…!」
彼らの行動に智鶴が待ったをかけた。
「いいかい、救援に行っても中途半端な戦力じゃ守りきれないんだ。
見捨てろとは言わないけど…このままじゃ首都を守る力すら失っちゃうよ…
ルミナさんたちも聖エロニア共和国の二の舞にはなりたくないでしょ。」
「うぅ……確かに、ごめんなさい…私たちの大切な人たち……私が非力だったから…」
「ルミナ、辛いだろうけど…後で僕が取り戻して見せるから!」
大切な民衆を守れない無念さに涙を流すルミナを、
ガイブラシがやさしく抱きしめた。
「同盟国とはいえ、他人のために全力を尽くすっていうのはあまり気が乗らないわね。」
「そう言わないでよ、ルーお姉ちゃん。リートゥスは戦略的にも重要なんだから。」
首都に戻った智鶴は休憩もかねてルーツィエとザリーチェ相手にお茶しているところ。
エミリアは仕事に行っているのでこの場にはいない。
「智鶴君はどう思ってるか知らないけど、私たち魔物って仲間思いなの。
だから仲がいい国が困っているとそれを見過ごせない……もちろん例外もあるけどね。」
「例外ってもしかして私のことかしらザリーチェさん。」
「よくわかってるじゃないダークエルフちゃん。」
「あのね、私だって裏切ってばかりじゃないわよ……」
ルーツィエは薄情というわけではないのだが、
ダークエルフらしく義理人情をあまり重んじない性格なのだ。
柔らかなソファーに腰掛ける彼女は、隣に座っている智鶴の手を無意識に引くと
そのまま自分の膝の上に載せて後ろからぎゅっと抱きしめる。
そして、ほぼ毎日のことなのですっかり無抵抗で抱きしめられる智鶴。
「でもねザリーチェ。私はほかの国と仲良く平和な世界を保つだなんて
甘いことは考えていないわ。私はちーちゃんをこの世界の頂点に立たせたいのよ。
そのためには……時には同盟国だって蹴落とすかもしれないし、
誰もが眉をひそめる手段をとることだって厭わないわ。」
「ルーおねえちゃん……。」
「この世界では、二位は敗者の中の一位に過ぎない……。
エルフたちだって、リートゥスだって、ビートル共和国だって、
最終目的はこの世界の頂点に立つこと…一緒にゴールなんてありえないわ。」
「なるほど、あなたらしい考えね。でも間違ってはいないと思う。」
ルーツィエの腕に抱かれながらお茶をすする智鶴は、
改めてこの世界は容赦ない競争の世界であることを覚えた。
(いつもパソコンの画面の外からプレイするのとは勝手が違うな…。
実際に世界の中に入ってみると、どうしてもこの世界の人たちに愛着がわいちゃうよ。)
いつものゲームであればユニットは駒でありほかの勢力は倒すべき敵でしかない。
だが、果たして自分はこの世界の中で同じことができるのだろうか?
「ふふふ、難しい顔をしてるわね智鶴君。でもいいのよ、
智鶴君は元の世界で政治家だったわけじゃないんだし、
うまくいかないことだってこの先数多く出てくると思う。」
「お姉ちゃんもエミィも、ちーちゃんのためだったら何でもするわ。
少しずつ大きくなっていこ?まだ未来は決まってるわけじゃないんだから。」
「…そうだね!僕はルーお姉ちゃんと一緒に世界一になるためにこの世界に来たんだ!」
(智鶴君もまだまだ子供……甘いところもあるわ。何度もつらい思いをするかもしれない。
でも、智鶴君が呼ばれたのは、その心の強さがあってこそ……。)
ザリーチェは時々こうして何気ない形で智鶴にこの世界の心得を覚えさせているのだった。
しばらくすると、パタパタと足音を立てながらエミリアが帰ってくる。
「智鶴様〜!ただいまもどりました〜!」
「あらおかえりエミィ。」
「あー!ルーツィエさんもザリーチェさんもずるいー!エミィがいない間に
智鶴様といちゃいちゃするなんて〜!む〜!」
「大丈夫だよ、エミィの分もちゃんとあるから♪」
「そうじゃなくて!エミィが欲しいのはー!とりゃーっ♪」
「うわっ!?」
ボフッ
「えへへ……智鶴様に抱っこしてもらうんだ〜」
「まったく、あなたも随分変わったわね。」
昔のまじめ然としていた白のエミリアのずいぶんな変わりように、
ザリーチェは心から嬉しそうな表情で見守る。
彼女を幸せにできたのもすべては智鶴による手腕によるものだ。
(そうね、心配なんかしなくても智鶴君なら世界全体を幸せに出来るはず。
私もいつかこの『枷』が外れた時に……きっと。)
と、ここで、書記官からの報告が入った。
「智鶴様、族長!東の大陸に渡ったブラックハーピーが新たな文明に遭遇しました!」
「え!もう新しい文明が!」
新文明発見の報告に、智鶴はわくわくしながら外交画面を開いた。
久々の新顔と接触だ。
―――――《他文明発見》―――――
・イースターラビット
指導者:ロバイカ・カルカディア元首 男性 種族:人間 属性:中立
志向:哲学/勤労 固有志向:伐採生産力 50%
外交態度:用心している
国教:キルモフのルーン
ロバイカ元首からのメッセージ
「イースターラビットへようこそ。まずは茶など飲みながら話でもしようかな。
われらの国はいつでも客人を出迎える用意がある。それがたとえ、
鼻つまみ者であったとしても…だ。」
外交画面に現れたのは、白髪交じりの金髪にやや頬骨が目立つ
50代くらいの男性だった。国王の威厳とか将軍の勇敢さなどといったものとは無縁な、
共和制の元老といった雰囲気を持つ温和そうな者である。
「ふーん……イースターラビットね。」
「ちょっと待った!哲学/勤労志向って、めちゃくちゃ強い組み合わせだよ!」
「あら、智鶴君は彼の恐ろしさがよくわかってるみたいね。」
「たしかに僕は初心者だけど……この組み合わせがいかにやばいかはわかるよ。
偉人をどしどし輩出して、研究加速、遺産乱立、それはもうやりたい放題だ。」
イースターラビット。彼らは数学を司る神を信仰する民族たちの国。
人間の数学の基礎となった理論の大半はこの国の数学者たちが発祥だとされており、
長年にわたって周辺国の庇護のもと、学問の発達に力を注いできた
歴史と伝統ある国なのである。
「心配することはないわちーちゃん。」
「ルーお姉ちゃん…?何か対策があるの?」
「簡単なことよ。私たちダークエルフの力をもってすれば
この国はむしろカモ当然よ。ま、今に見てるとわかるわ。」
やや不安がる智鶴とは対照的に、おいしい獲物を見つけたかのような目をするルーツィエ。
なんのことはない。ダークエルフ文明の偵察ユニットには特殊能力に
『他勢力の偉人を誘拐する』というものがあるのだ。
偉人をうまく使えないAIは都市に溜めこむ傾向があるので、
どうせだったら片っ端からもらってしまおう。
ただし、誘拐に失敗すると即戦争になる点には注意したい。
チートという点ではダークエルフ文明も他とは引けを取らないといわれる所以である…
数ターン経過……
リートゥスの第二都市キングスポートがトメニア王国の猛攻の前にあっという間に陥落した。
都市は焼かれ、大量の難民が年から逃げ出すなか、守備隊は最後の一兵まで戦い全滅。
とうとう、首都インスマスにあと一歩の距離まで迫ってきたのだった。
「ルミナ、城壁の建設は何とか間に合ったよ!」
「よかったわ……、後はダークエルフさんたちの増援が…」
「リートゥス軍のみんなお待たせ!私たちダークエルフが助けに来たわよ!」
「ルーツィエさん!よかった……!」
「ちーちゃんは約束を破ったりはしないわ。さあ、力を合わせて
あのちょび髭の軍隊をコテンパンにやっつけるわよ!」
ダークエルフたちの部隊……剣士5ユニットと弓兵7ユニットが到着し、
ようやく満足な守備ができるようになったようだ。
しかしルーツィエはこの舞台はあくまで専守防衛にするつもりであり、
反撃用の主力軍は別方面から進ませるつもりであった。
「え〜、トメニアの皆様。遠路はるばるご苦労様でした〜。
ここからは私たちダークエルフがあなたたちの欲望を正面から受け止めるわ♪」
「なにぃっ!ダークエルフだと!?小賢しい、人魚もろとも馬蹄で蹂躙してくれるわ!突撃!」
ワーワー
ポータル将軍率いる騎乗兵が海岸沿いの高台にある首都に攻撃を開始。
守備隊を蹴散らして強くなったトメニア騎兵隊の攻撃はなかなか強力で、
おまけにリートゥスの主力である弓兵にたいして有利な補正がついている。
苦しい戦いになるだろう。
「みんな頑張れ!ここが踏ん張りどころだー!僕は何もできないけど…せめて歌を歌って応援を!
まっもるもせっむるもくろがねのぉ〜♪うっかべるし〜ろぞたのみなるっ♪」
「気が散るわ。少し黙っててもらえるかしら。」
「すんません。」
まだ戦場に出れないガイブラシはせめてもの手伝いと、得意の歌で味方を元気づけようとするも
ルーツィエにあっさり止められてしまったとさ。
「弓隊!うてーーっ!」
「怯むなっ!トメニアの旗を城壁に突き刺せ!」
ワーワー
で、そんなこんなで戦闘は続き、両軍とも大きな被害をこうむったが、
城の防備と、守備隊の奮闘によりダークエルフ・リートゥスの連合軍が防衛に成功した。
「くそっ!もう少しだったのに!それでもお前たちはトメニア王国が誇る精鋭か!」
「将軍、このままでは矢の的です!撤退を!」
「わかってる…」
せっかく作った騎乗兵が全滅してしまったので、
ポータル将軍は仕方なく苦虫をかみしめた表情のまま撤退した。
一方のリートゥスのルミナは、ようやく人心地つくことができた。
「危ないところでした…。みなさん、無事ですか?」
「被害は大きいけど、休めば回復するわ。でもそろそろ第二波が来る…。」
「ま、まだ来るんですか?」
「あのね……あれは単なる野戦用部隊よ。私たちが偵察したところによると、
どうやらトメニアの主力は投石器を持ってるらしいの。
もし投石器がこの都市に来たら……まあ、あっという間に押しつぶされるわね。」
「そんなぁ!わ、私たちはどうすれば…!」
「ルミナ、後は私たちに任せなさい。ちーちゃんが今別働部隊を動かしてるわ、
野戦に強い騎兵をわざと城に誘い込んで消耗させた今なら、
主力を奇襲できるチャンスよ。大丈夫、私たちを信じて。」
「……ごめんなさい、私たちが弱いばかりに苦労かけさせてしまって。」
「いいのいいの。その代り私たちは余力があればトメニアに逆進行をかけて、
エロニアの時と同じようにそのまま征服してしまおうと思ってるから。」
「そこまで…」
ルーツィエには勝算があった。
別行動部隊はフレイヤを中心としたダークエルフ軍の精鋭だ。
騎乗兵相手ならともかく、戦闘経験がほとんどないトメニア軍の歩兵相手なら
問題なく勝てるだろう。それに…主力に交えて、新たに編成した魔道士部隊もいる。
ルーツィエは将来の主力を担う魔道士たちの育成のいい機会だと思っているようだ。
(いずれイクシーと決着をつけるには強力な魔法使いが必要。
だったら今のうちからある程度育てておくに越したことはないわ。
ま、確実に勝てるってわけでもないけどね。)
さて、こちらはトメニア軍主力が滞在する陣地。
投石器を含む10ユニット以上の大軍が、元リートゥス領の
森林地帯を走る街道で休息を取っている。
「聞いたぜアンポンタン。首都攻略に失敗して、兵士は壊滅状態だって?
バッカじゃねぇの!手柄を焦って連携を怠るからこうなるんだ。ざまーみろ!」
「うっさいわカルピス!勝つ日もあれば負ける日もある……。次は負けん!」
「それはどうかな?うちの閣下は失敗すると容赦ないからな。」
「わかってらい。貴様もダサイ失敗するなよ。」
「うるさいぞお前たち。のんびり食事もできやしない。」
勝敗のことで言い争うポータル将軍とクレープ将軍。
それを冷ややかな目で見ながら食事をするへリング元帥。
彼らは敵がすぐそこまで迫っていることに全く気が付いていなかった。
森の中から陣地を眺める人影が。
「フレイヤ隊長、奴らはのんびり食事をしているようですね。」
「連中もう勝ったと思ってるらしいな。前線が敗北したというのにまったく警戒していない。
よし、トメニアの兵士たちを存分に教育してやるか。いくぞ。」
『あいさー!』
フレイヤ率いるダークエルフ軍は、智鶴の指示で国境付近の森林に身を伏せていた。
そこへトメニア王国軍がちょうどいいところに森林地帯に布陣した。
森林を自由自在に移動でき、なおかつ戦闘が得意なダークエルフにとって
格好の獲物でしかなかった。
ダークエルフの主力12ユニットは深い森の中からトメニア軍に襲いかかった。
ワーワー
「アイエエエ!?ダークエルフ!?ダークエルフなんで!?」
「て、敵襲ーーー!敵が来――うばわらたっ!?」
「敵はうろたえているぞ!私に続けー!」
「あいさーーーっ!」
「うっふっふっふっふ、今夜はたっぷり楽しみましょう♪」
「お姉さんたちが一発昇天させて、あ・げ・る♪」
奇襲は見事に成功!突然の出現に混乱するトメニア軍は、
反撃をする暇もなく次々とダークエルフたちに屈服させられてしまう。
「お、落ち着け!反撃だ!投石器だけは何としても死守しろ!」
「投石器を探して壊すんだ!あれがなければこの先ぐっと楽になる!」
戦闘の結果、ダークエルフ軍は剣士1ユニットを失ったものの、
敵主力の大半を撃破。さらに、あわてて逃げ出す敵を、
森を生かして追撃し、木っ端微塵に打ち砕いてしまった。
「よし!私たちの勝利だ!同盟国を守りきったんだ!」
「さすがフレイヤ隊長!お見事です!
これでまた私たちの愛玩奴隷が増えて、もうホクホクですっ!」
「………まあ、喜んでくれるならいいんだ。」
「そういうフレイヤ隊長も可愛い子見つけたらどうですか♪
隊長の腕前ならより取り見取りですって、なんなら私が…」
「わ、私のことはいいんだ!それより本国に報告だ!」
ダークエルフへいたちは素直にフレイヤの言うことを聞いてくれるのは
ありがたかったが、普段話しているとやはり相手は魔物娘なんだと
嫌でも実感するのだった……。
再びダークエルフ国の宮殿にて。
「智鶴さま!フレイヤ部隊から敵撃破の報告が!」
「偵察はーピーが新たな文明に接触したようですー!」
「それと同時に新たな都市国家に遭遇したようです!」
「有名な賢者様がクロケア・モルスに移住を願い出てきまして…」
「イースターラビットから相互通行条約の申し出が。」
「アルブム・ルーベン周辺で葡萄の豊作ですっ!」
「智鶴様の新しい衣装の案を考えてみました!」
「い、一辺に言われても聞き取れないよ!順番にお願い!」
「ほらみんな、一列に並びなさい。智鶴君が困ってるでしょ。」
周辺情勢があまりにも活発に動くので、
報告が山のようにどんどん届く。
まるで文化祭の準備に追われている時期のようだった。
さすがに一度には無理なので、ザリーチェが
ひとつずつ順番に報告をあげることにした。
「まずはトメニア戦線ね。首都も守りきれたようだし、
敵の主力は私たちの精鋭部隊が完膚なきまで撃破したようね。」
「1ユニット失っちゃったのはつらいけど、決定的勝利だ。
これで少しは時間が稼るといいんだけど、偵察の様子だと
トメニア本国にはまだいっぱい兵士がいるみたいだ。」
「勝利に喜んでばかりはいられないわね。前線は何か言ってきてる?」
「それが、士気の高い今ならリートゥスの領土を取り返してすぐに
トメニア本土まで進行できる余力はあるそうです。いかがしますか?」
「…今はまだ攻める時期じゃない。この後敵の出方を見てからでも
遅くは無いと思うんだ。無理に攻めて被害をこうむるとまずいからね。」
「ははっ、前線にお伝えします。」
次に、新たに発見した都市国家を見ることにする。
―――――《都市国家発見》―――――
・錬金国家ケミカリア
長:ヘレン=ドーラ 女性
種族:ゴーレム 属性:中立
都市志向:学術的
同盟国:特になし 国教:キルモフのルーン
ヘレン=ドーラからのメッセージ
「合縁奇縁。感慨無量。歓迎感謝。学問万歳。」
「ろ、ロボット?」
「ロボットじゃなくてゴーレムね。こういう国家があるとは聞いてたけど、
いざ会ってみるとなんだか個性的な子ね……。」
「そういえば、ローレアープ鉱山連邦も、ゴーレムがどうとか言ってたっけ。」
「ローレアープ…あそこは独立運動で活躍した末に機能停止した
ゴーレムの英雄がいるのよ。でもね…あの子を動かすには
ちょっと特殊な条件があるのよね。あの子達に出来るかしら?
まあいいわ、接触した文明のほうも見てみましょう。」
―――――《他文明発見》―――――
・アルムテン
指導者:フォーレリィ・グランゼリウス
女性 種族:人間 属性:中立
志向:占星(哲学/秘術/拡張) 固有志向:無政府状態が最大1ターン
外交態度:不満はない
国教:特になし
フォーレリィからのメッセージ。
「やあ、はじめまして。私はフォーレリィ……
私は夜に在り、数多星々をつかさどる星の女王。
ここであなたと会えたのも星の巡り合わせ。
運命の導きに感謝して、ともに歩むことを望みたい。」
「げ…、この国は……。」
「どうやら結構礼儀正しい国みたいだね、よかったよかった。」
外交画面に映る女性…フォーレリィ・グランゼリウスは
ルーツィエをも上回る高身長かつスレンダーな体型で、
長く伸びたクリーム色のポニーテールに、ダークエルフに似た
褐色肌がほかの国には無いエキゾティックな気配を漂わせる。
服装も、どこか現実世界のインド・東南アジアのようだ。
「…?ザリーチェさんはこの国が嫌いなの?苦い顔して。」
「そうね…嫌いというか、やっかいというか……
志向の欄に『占星』っていうのが見えるかしら。」
「うん、珍しい志向だね。なにこれ。」
「この子はね…星占いで勝手に志向を変えちゃうの。
だからいまいち動向がつかみにくくて面倒な相手なのよ。」
「…………それはまた変わってるね。」
フォーレリィは例外的に基礎志向を三つ持てるのだが、
毎ターン5%の確率でころころと志向が変わってしまうのだ。
なので、強いときと弱いときで非常に斑があり、
なかなか面倒な相手といえる。
(分かる人には「パーペンタク」とだけ言っておく)
「とりあえず新大陸は比較的穏やかな文明が多そうだね。
イースターラビットとも、アルムテンとも通商条約を結んでおこう。」
「わかったわ。新大陸とは友好路線で確定ね。
それと、さっき言ってた移住を申し出てきた偉大な賢者さんが
『昇神の儀式』のための祭壇建設を提案してきているの。
「昇神?…それはいったい何の儀式なの?」
「そうね……今はまだ知らないほうがいいかもしれない。
でも、私たち魔物にとってはとても重要な儀式……
『昇神の儀式』を完成させればこの世界の頂点に立つことも
不可能じゃないわ。やってみる価値はあると思うの。」
「むぅ、教えてくれたっていいのに。」
(ふっふふ…とりあえず智鶴君には引き返せないところまで行ってもらうつもりよ。
途中で決心が鈍ると困るから……念のため。)
■作者メッセージ
システム解説その8……偉人
さて、そろそろ専門的な分野の解説が混じってくるので、
難しい話が多くなるかもしれないが、興味があったら目を通してほしい。
偉人とは、その分野のエキスパートたちのことであり、
歴史上すぐに名前が上がる有名人、大物、天才たちの総称だ。
彼らは文明に非常に大きな利益をもたらし、繁栄の手助けとなってくれるだろう。
ちなみに、偉人達にはユニットそれぞれにランダムで名前がついているが、
能力は同じである。また、つけられる名前はランダムなので、
時として秩序勢力に魔物の偉人が誕生したりすることもあるが、気にしない。
システム上の仕様だと思ってくれたまえ。
では、偉人はどのように輩出されるのか。
偉人は都市で「偉人ポイント」を一定値蓄積することで輩出される。
つまり、都市ごとにたまりやすい都市と溜まりにくい都市ができるのだ。
偉人が誕生するごとに次の偉人輩出への必要ポイントは増加する。
後半になると出にくくなるが、そのかわり偉人を輩出しやすくする工夫はいくらでもできる。
計画的に偉人を出したい場合は中盤の都市計画が肝となるだろう。
この時、指導者が哲学志向を持っていると偉人ポイントが2倍速くたまる。
これでようやく哲学志向の恐ろしさがわかっていただけたと思う。
偉人ポイントはどのようにして溜めるのか。
手っ取り早いのは、都市で『専門家』を雇うこと。専門家は、各分野に特化した市民のことで
何でもできる一般市民とは異なり、得意分野を伸ばしたい場合に向いている。
(ただし、雇える専門家の人数は都市に立っている施設の数で決まるので注意)
さらに専門家を雇うことで偉人ポイントを3産出する。輩出する偉人の種類はその専門家と同じになる。
偉大なる商人を出したかったら、とにかく商人の専門家を雇うことで、方向性を決定できるのだ。
また、遺産は世界遺産であれ国家遺産であれ偉人ポイントを産出する。
例えばルーツィエたちが建てた「大図書館」には偉大なる賢者を出す確率を高める効果がある。
だいたいの遺産は見た目でどの分野に強いかわかるはずなので、
余裕があれば狙ってみるといいかもしれない。
それ以外にも、偉人プールの問題や専門家管理の問題等あるが、物語に深くかかわらないので割愛する。
次に、偉人ユニットの用途について。
その1:定住
特に急いで使う用事がなければ、都市に定住させるのが最も安定している。
定住させた偉人は『超専門家』となって都市に住み着き、専門家以上に各分野に貢献してくれるだろう。
その2:固有技能を使う
各分野の偉人にはそれぞれ固有能力があり、どれもなかなか強力な効果を有する。
詳しくは後で説明するが、中には勝利に必要な施設を建設する重要な役割もあるので
狙いたい勝利があれば偉人輩出計画をあらかじめ練っておこう。
その3:黄金期
2人以上の偉人を消費して「黄金期」に突入する事もできる。黄金期が発動すると
8ターンの間生産と商業の産出が高まる。他の偉人の用途に比べて利益を得る期間が短いので
本当に必要な時のみ使うこと。または、現状特に必要ない偉人が出てきてしまって
使い道がないときなどに黄金期要因としよう。
その4:技術取得
偉人は自分の得意分野の技術を大きく進めることができる。中盤までの技術なら
偉人に研究してもらうだけで一気に開発が終了するだろう。(後半の技術はそうはいかないが)
どの技術が取得可能か確認し、戦略上重要と思われれば偉人の消費するのも一考だろう。
例えば技術ツリーが別々になっていて研究が難しかったり、AIからもらった技術を
応用したいときに使うといい。
偉人はすぐに使わなくとも逃げることはない。(ただしダークエルフの誘拐には注意)
必要な時まで保存しておくのも戦略である。
・偉人の種類
ゲームには特殊な偉人を含めて7種類の偉人が登場する。
偉大なる吟遊詩人
歌って踊れる吟遊詩人たち。文化面に力を発揮する。
固有能力「偉大なる作品の完成」は、都市の文化値を大幅に上昇させる。
使い道はさまざまあり、単純に文化勝利のお供だけでなく、建てたばかりで
文化が未熟な都市も、占領して間もなく反乱が勃発する都市も
一瞬にして華やかな文化都市に早変わりするのだ。
効果は地味かもしれないが使いどころは多い。
そのほかにも宗教『緑葉の同胞』が布教されている都市に特殊施設を作ることができる。
偉大なる預言者
偉い宗教家の方々。各宗教の『聖都』を作ることができる。聖都があると
全国からたくさんの信者がやってきてお金を落としてくれるので経済が非常に潤う。
さまざまな宗教の偉人が名前として出てくるが、特に意味は持たない。
極端な話主神教の偉い司祭でも魔王崇拝の聖都を立てることだってできるのだ。
それ以外の使い道としては各宗教の祭壇や、秩序勢力の勝利条件である
ルオンノタルの祭壇の建設も偉大なる予言者たちの仕事である。
他の偉人に比べて活躍の場が少ないのが欠点だろうか。
余談だが、ゲーム内の彼らは一様に禿げた老人の姿をしているため
プレイヤーたちからは『偉大なるハゲ』の名で親しまれている。
偉大なる賢者
学問のエキスパートたち。決して自家発電ばかりしている人たちではない。
彼らは技術開発に大きく貢献し、他の偉人と異なりすべてのテクノロジーを開発可能だ。
そのほかにも、都市にアカデミー(総合大学のような大規模な学校)を建設して
都市の研究力自体を高めたり、親魔物勢力の勝利条件である
『昇神の祭壇』を建てることもできる。おそらくもっとも使い道が幅広い偉人だろう。
偉大なる商人
商売の天才たち。彼らの固有能力『貿易使節団の指揮』は、ほかの都市に派遣して
その場で消費することで労せず驚くほどの大金を入手することが可能だ。
入手できる金額は首都からの距離が遠ければ遠いほど多くなる。
他の偉人とは異なり、ライバル領土を探索することもできるし、
蛮族以外からは攻撃されることはない。どんどん遠くに旅立たせよう。
彼らの任務はただそれだけなので、特にすぐ資金が必要でなければ
都市に定住して収入を大きく底上げしてもらおう。
偉大なる技師
素晴らしい腕を持つ技術者集団。建物の設計から高級細工品まで何でもござれ。
彼らの固有能力『緊急生産』は非常に便利で、都市で建設中の施設を
一瞬で完成させてしまうのだ。遺産を早く作りたいときにはなくてはならない存在であり、
特に後半の生産力を大量に必要とする世界遺産を作る際には非常にありがたい。
ただ、あまりに強力な能力なので気軽に使うことができない上に、
偉大な技師はほかの偉人に比べて輩出されにくい傾向がある。
偉大なる指揮官
最強の軍人である彼らは、ほかの偉人と違い戦闘を重ねるごとに
偉人ポイントがたまっていく仕組みになっている。
偉大なる指揮官はユニットに合流させることができ、合流したユニットは
指揮官でしかつけられない非常に強力な昇進を得ることができる。
また、指揮所を建設して生産したユニットに経験値を付加することで、
初めから強力なユニットを生産することが可能だ。ユニット生産力も向上する。
偉大なる指揮官は哲学志向ではなく帝国主義志向で出やすくなっている。
帝国主義志向を持つ文明と戦争する場合は注意したい。
冒険者
特殊な偉人ユニット。新米の冒険者たちである。
とある文明のみ輩出することが可能で、初めのうちは非常に弱い
戦闘ユニットの一つでしかない。しかしながら、彼らには『英雄』の昇進が
ついており、時間をかけて育成することで非常に強力なユニットに育つ。
こいつらが二桁単位でそろう頃にはもはやどの国にも負けない
無双ユニット集団が誕生していることだろう。
プレイヤーが使うと強力な偉人だが、AIは偉人の使い方がへたくそだったりする。
大抵はまとめて都市に移住させている場合が多いので、
偉人をため込んでいる都市を見かけたらありがたくいただいてしまおう。