ダーツェニカより
乗合馬車の揺れが止まり、まどろみの内にあったあなたは目を開いた。 御者の声にあなたは座席を立ち、馬車から石畳へ降り立った。 陽光と喧騒と風が、あなたを迎える。 乗合馬車が止まっていたのは、見上げるほど高い城壁の側だった。 城壁は人々の行き交う街道を遮るようにそびえ立ち、左右にどこまでも続くかのように広がっていた。 あなたは城壁の一角、街道の突き当たりに目を向けた。 そこにあったのは、外に向かって左右に開く巨大な門扉。 そして門を潜る為の審査を待つ人や馬車が、列を成しており、門扉の近くの様子はあまり見えなかった。 あなたは荷物を手に、人々の列に加わりしばし待った。 列はゆっくりとだが着実に進み、やがてあなたの目に大きく開いた門扉の手前側の様子が映った。 門扉の手前にはテーブルが幾列か並べられており、衛兵達が人々や馬車の荷物を調べ、書類を手渡し、署名を求めていた。 やがて、あなたの順番がめぐり、空いたテーブルの一つに向かった。 荷物をここに 衛兵に言われる通り、あなたは手にしていた鞄をテーブルの上に置いた。 衣料品と医薬品と小物がいくつか…武器の類は? 鞄を開いて中を確認する衛兵の言葉に、あなたは腰に下げていた護身用の短剣を抜き、鞄の隣に並べた。 これだけだな? あなたは大きく一つ、頷いて見せた。 ではここと、ここに署名を 差し出されたペンと紙で、あなたは自分の名前を書き記した。 はい、確かに あなたの署名した紙とペンを受け取ると、衛兵は紙を裂いて、片方をあなたに渡した。 滞在中は常にこいつを携帯し、街を出る時に門番の衛兵に渡してくれ あなたは、自身の名前の記された紙片を懐に収めると、テーブルの上の鞄と短剣を手に取り、テーブルを離れた。 ああ、そうだ 衛兵が、あなたの背中に向けて、何か言い忘れていたといった様子で声を掛けた。 ようこそ、ダーツェニカへ 衛兵の言葉を背に、あなたは門をくぐり、城壁の内側へ。 ダーツェニカへ入っていった。 一度死んだ街が、あなたを迎えた。 |
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