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ある女戦士のクロニクル

ビビりなディタトーレ

INDEX

  • あらすじ
  • %02 c=15d 第1章『Precipitation And Awakening 』
  • %02 c=15d 第2章『Midnight Battle』
  • %02 c=15d 第3章『Separation And Departure』
  • %02 c=15d 第4章 『I Go Because・・・』
  • %02 c=15d 第5章『The Strange Walkers』
  • %02 c=15d 第6章『Road Under The Ground』
  • 第4章 『I Go Because・・・』

    第4章 『I Go Because・・・』
    栄暦1459年4月25日 午前5時06分
    人間界 エルメッド大陸 ブリジカ共和国
    メルヴェシティー 37番街道

    「ついてくるな」
    「良いじゃんか」
    横にいるアルスに言われ、アタシはへらへら答える。
    「旅は道連れ世は情けっていうだろ。一人より二人の方が楽しいって」
    「オレは同行者を必要としてないし、この旅に楽しさも求めていない」
    「固いこと言うなって」
    相変わらずフードを被っているので、表情はあまり読めない。
    だが、上機嫌そうな顔はしていないだろう。絶対。
    「・・・第一、オレに同行することで、お前に何のメリットがある?スラムで職を得て暮らした方が余程楽だろう」
    まあ、普通に考えたらそう思うよな。
    でも、アタシは違う。
    「・・・アタシは、何も知らない。自分の生きてる、この世界について」
    「そんなの、他人に聞くなり書物を読むなりすればいいじゃないか。わざわざ旅に出てまでする事じゃないだろう」
    これもまた、正論ではある。
    でも、やっぱりアタシは違う。
    「アタシが知りたいのは、ほかの奴が見たり聞いたり書いたりした世界じゃないんだ。自分の目で見て、耳で聞いて、肌で感じた世界なんだよ」
    アタシたちサラマンダ−は、若いうちに自分の婿を探して旅に出る。
    アタシの場合は、それが『世界を知ること』に変わった。
    それだけだ。
    ・・・だって、コイツ以外の男なんか・・・なぁ。
    しかし、やはりアルスは認めない。アタシを追い返そうとする。
    「だったら一人で旅しろ。何でオレと行く必要がある?」
    ・・・いや、分かるんだ。アルスが正しいってことくらいは。
    アルスのいう事は正論だし、アタシは今とんでもなく無茶苦茶で自己中心的なこと言ってるってのも分かるんだ。
    アルスの言う通り、アタシはアルスの旅の障害にしかならないのかもしれない。
    武でも知力でも、多分アタシは負けてる。
    役に立たないお荷物にしかならないのかもしれない。
    だけど。

    「・・・アタシは、アンタが好きなんだ。だから、できるだけ一緒にいたいんだよ」
    そう言うと、アルスが、初めて家を出てから足を止めた。つられて、アタシも足を止める。
    「『好き』だって?」
    心底驚いたような声だ。
    フードのせいで目がどうなっているかは見えないが、口を見る限り、どうやら本気で驚いているらしい。
    「ああ」
    答えてから気付く。
    ・・・ああ、顔が熱持ってきた。きっと真っ赤になってるんだろうな、アタシの顔。
    「・・・つくづく変な女だな。出会ってまだ3日と経たない男に惚れたというのか?とても正気の沙汰とは・・・」
    「人間が人間を好きになるのにどれだけの時間がかかるのかは知らないけど、アタシらには5分あれば十分。そいつが、自分の運命の男ならね」
    「・・・じゃあもし、その男が自分を好いていなかったらどうする?」
    それが単なる質問でないことは、容易に察せられた。
    だから、あえて慎重さを捨ててアタシは答えた。

    「ほかの奴がどうするかは知らないけど、アタシならすっぱり諦める」

    アルスと一緒にいたい。できれば、いつまでも。
    そのためなら、何でもする。
    好きになってもらうために、力を尽くす。
    ・・・でも、もしアルスに最後まで愛されなかったら。
    その時は、諦めよう。
    これもまた、事前に家で決めていたことだった。
    いくらアタシがアルスの事が好きでも、愛っていうのは押し付けるものじゃないと思う。
    じゃあどういうものだって言われても、答えられないけど。

    「・・・本当に変な女だ。お前、本当にサラマンダーか?」
    「そうだが?」
    「サラマンダーは、相手が自分を愛していようとなかろうと、地平線の果てまででも追っていき、一方的に愛を叫び、そして最終的には自分のモノにする種族だと聞いた」
    「そういう奴らが多いらしいな」
    「だから、オレはサラマンダーが大嫌いだ。すべての魔物達の中で五本の指に入るくらいな」
    う。
    ううう。
    これは、予想外に効いた。
    アタシの性格とか云々以前に『アタシがアタシである事』を全面的に否定されたような気分だ。
    ――これは、完全に脈なしかもなぁ・・・
    アルスがアタシを拒否する理由が「アタシがサラマンダーであるから」であるならば、もうアタシには打つ手はない。
    一度そう思ってしまうと、どんどん絶望感が膨らんでくる。
    無意識のうちに、アタシは俯いていた。
    だんだんと、地面が滲んでくる。

    「まあ、良いだろう」

    出し抜けに、アルスは言った。
    心なしか、ほんの少しだけ、声が柔らかくなっている気がした。
    「お前に興味が湧いた。一緒に来たいなら来ればいい」
    「・・・へ?」
    思わず、間抜けな声が漏れた。
    「だが、もし帰りたくなったら帰れ。引き止めはしない」
    一方的にそれだけ言うと、またアルスはすたすたと歩き始めた。
    「え、いや、ちょ・・・」
    アタシのいう事なんか一切耳に入れず、アルスは淡々と歩んでいく。
    止められそうもないので、歩きながら話すことにした。
    「な・・・なんか、さっき言ったことと噛み合って無いぞ」
    「何がだ?」
    「いや、さっきアンタ『サラマンダーが嫌い』って・・・」
    「だからどうした?」
    「え・・・」
    「『お前は嫌いだ』と言った覚えはない。一般的なサラマンダーが嫌いなだけだ」
    「一般的って・・・アタシも普通のサラマンダーだろ?」
    そう言うと、初めてアルスが少し笑った。
    まあ、いわゆる『冷笑』ってやつだろうが。
    アルスは、自分の服の裾を軽くつまんで言う。
    「・・・いつからこの世界じゃこの服にいくつも傷作れるような女を『普通』って呼ぶようになった?」
    え?
    「それ、ただの服じゃないのか?」
    「オレのこの服は、耐熱・耐火・耐水・防刃・耐魔性を持った布で作られている。電流も通さないから、ほとんどの物理攻撃は効果がない」
    そんな服があったのか。道理で手ごたえが弱いと思った。
    「・・・にもかかわらずだ。見ろ。お前のおかげであちこち切られてしまった」
    そして、アルスは言った。
    「オレがお前に抱いた興味の一つだ。お前はなぜ、この服に傷をつけられたのか」
    アルスの台詞に、アタシは少々カチンときた。
    そりゃ、アタシより強い奴はまだまだ山といるだろうし、世界大会で勝ったぐらいでいい気になるなんておこがましいにも程があるだろう。だが、いくらなんでも布ひとつまともに切れない(たとえそれにどんな細工がしてあろうとも、だ)ヘボ剣士に見られたくはない。
    「・・・あまり馬鹿にしてもらっちゃ困るぞ」
    アタシが言うと、アルスは「そうか」とだけ言った。
    そして、静寂。
    アタシはため息を一つつき、アルスの横に並んだ。

    出発してから約2時間。
    アタシとアルスは、メルヴェシティーのはずれにいた。
    「・・・一度休憩しよう」
    そう言って、アルスは近くの岩に腰を下ろした。
    アタシも同じ岩に、ちょうどアルスと背中合わせになるような感じで座った。
    しばらくは、二人とも黙って休んでいた。
    「・・・別れを告げたければ、告げた方が良い」
    唐突に口を開いたアルスは言った。
    「何に?」
    「オレ達がこれから行くのは南の果て。ここは、どちらかというと北の果てに近い。・・・一度離れれば、少なくとも1〜2年は帰れないぞ」
    ああ、そういうことか。
    同時に、なぜここでアルスが休憩をとったのかを理解した。
    アルスはアタシに、故郷と別れを告げるための時間をくれたのだ。
    「・・・いい」
    だが、アタシには、それは不要だった。
    「別れなら、もう済ませてきたよ」
    ここをしばらく離れると告げた時の、アイツらの顔が脳裏に浮かぶ。
    ・・・絶対に、帰ってくるからな。
    今のアタシにできるのは、心の中でそう呟くことだった。

    「そろそろ行くが、その前に道を確認しておく。お前も見ておけ」
    そう言うと、アルスは後ろに背負っているバッグの中から黄ばんだ大きな地図を取り出し、岩の上に広げた。
    そこには、アタシ達のいるエルメッド大陸が精巧に描かれて――
    あれ?
    「今いるのはここだ」
    アルスは、地図の左上あたり――つまり、大陸が東へと寄り始める始点付近――を指差す。
    そこには、確かに「メルヴェ」と書かれている。
    書かれてはいるのだが。
    「これ、お前の手書きだろ?」
    その文字は、印刷されたものではなく、明らかに後から書き足されたものだった。
    「それに、ここ」
    アタシは、大陸の中央部に書かれた文字を指さす。
    たぶん、この大陸の名前が書かれているのだろうが・・・
    「見たことない言葉だけど、これで『エルメッド』って読むのか?」
    ずいぶんと古い地図だから、古代の言葉なのかもしれない。
    「・・・まあ、そんなところだ」
    そう言って、アルスは「メルヴェ」の文字に指を付ける。
    そして、鋭くつぶやいた。
    「記せ」
    その瞬間、あたしは自分の目を疑うようなものを見た。
    地図上のはるか北の一点が、まるで極小の爆発が起こったかのようにオレンジに光り輝いた。
    そこから、同じ色の線のようなものがわずかにうねりながらほぼ真っ直ぐに下へと伸びてくる。
    よく見ると、アルスの指先からも同じ線が上へと伸びて行っている。
    そして二本の線が出会った時。
    二本の線は、一本の直線となった。
    「何なんだよ、これ・・・」
    「察しが悪いな」
    そう言って、アルスは指を離す。
    わずかに光が糸を引いたが、すぐ消えた。
    「これは、オレが今まで歩いてきた道だ」
    「・・・結構遠いところから来たんだな」
    「ああ」
    そう言うと、また地図の上を指差す。
    今度は、ここよりずっと南だ。
    「そして、ここが当面の目的地」
    そこはこの大陸の西端に近い所。
    もちろん、行ったことはない。
    「・・・さて」
    地図を手早くたたんでバッグに押し込みながら、アルスは言った。
    「・・・行くか?」
    別れも済んだ。
    準備もできた。
    となれば、長居は無用。
    「ああ」
    アタシは、即答した。

    栄暦1459年4月25日、午前7時16分。
    アタシは住み慣れた故郷を背に、南へと歩み始めた。

    11/12/03 21:45 ビビりなディタトーレ   

    ■作者メッセージ
    ずいぶんとご無沙汰してしまいました。申し訳ありません。
    文字数も3945字と、前回お約束していた5000字を大きく下回ってしまいました。
    僕が見た作者さんの作品(連載)が平均5000字強だったので、それを目安にしていたのですが、なかなか僕にはキツイようです。
    ・・・皆さんの一番読みやすい文字数って、だいたいどれくらいなのでしょうか?
    ご意見・感想などなど、書き込んでいただけたら幸いです。