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ある女戦士のクロニクル

ビビりなディタトーレ

INDEX

  • あらすじ
  • %02 c=15d 第1章『Precipitation And Awakening 』
  • %02 c=15d 第2章『Midnight Battle』
  • %02 c=15d 第3章『Separation And Departure』
  • %02 c=15d 第4章 『I Go Because・・・』
  • %02 c=15d 第5章『The Strange Walkers』
  • %02 c=15d 第6章『Road Under The Ground』
  • 第3章『Separation And Departure』

    第3章 『Separation And Departure』
    栄暦1459年4月24日 午後4時35分
    人間界 エルメッド大陸 ブリジカ共和国
    メルヴェシティー スラム街

    ホカホカと湯気を上げる料理を前に、アタシは考える。
    「・・・アタシ、魚なんか買ったっけか?」
    久々に見る魚料理。多分ムニエルかなんかだろう。
    世界大会で優勝して戻ってきた時、城でやった優勝パーティで食った気がする。
    別に魚が嫌いとかいう訳じゃないが、普段のアタシなら魚を買う金があったら肉を買う。
    魚を買うのは、本当に他に何も売ってなかった時だけ。
    最近、そんな事は無かったと思うんだが・・・
    「・・・食べないのか?」
    テーブルの向こうの男――アルスの声で、はっと我に返った。
    いけないいけない。冷めちまう。
    さっそく手をフォークに伸ばす。
    「いただきます!」
    大きな声であいさつし、ムニエルにフォークを突き刺す。
    そのまま、骨付き肉感覚でガブリ。
    ・・・って。
    「う・・・うまい」
    本当においしい物食うと、なぜだか声が小さくなる。
    王国の宮廷料理なんか目じゃない旨さ。どうやったらこんな味出せるんだ。
    アタシの賛辞に対して、アルスは無言。表情一つ変えない。
    黙々と食器のみを動かす。
    部屋の中だってのに、フードも脱いでない。
    だからって、別に脱げと薦める気も無いが。
    母さんの教え。「人には人の考えがある」。
    つまり、他人に自分の常識を押し付けんなって事だ。
    だからアタシもそれ以上何も言わず、黙々とフォークを動かした。
    ・・・しかし、うまいな。

    食い終わったのは、食事が始まってから15分ほど後。
    黙って食ったせいか、ずいぶんと早く食べ終わった。
    食後の沈黙を破ったのは、意外なことに、それまで一言も発しなかったアルスだった。
    「・・・ありがとうな」
    ??
    何言ってんだコイツ。
    礼を言うのはむしろこっちだ。
    倒れたアタシを介抱してくれて、家まで運んでくれて、その後もずっと見ていてくれて、さらには飯まで作ってくれて。
    感謝してもしきれない。
    と言ったところ、アルスが感謝した訳を説明した。
    ついでに、ちょっとした身の上話も。
    アルスは北から来た(ダジャレ)旅人で、歩いてここまで来たらしい。
    この町へは物資の補充と情報収集のために来たのだが、着いたときにはもう真っ暗。
    店が閉まっていたのはもちろんだが、不運にも泊まれそうな安宿まで全部満室。
    食料も尽きていたので、空腹のまま野宿場所を探してスラムまで流れてきたところ、さっきのチンピラどもに遭遇。
    で、アタシと闘い、倒れたアタシを介抱。
    つまりは、アタシが戦いを挑みに行ったことで、アルスは一晩過ごせる宿を手に入れ、朝・昼・夜の食事をどうにかすることもでき、ついでにここを拠点に市場へ赴いて物資まで手に入れられたって事だ。
    というか。
    「・・・そんなの、アタシに感謝することでもないだろうが。だってあんたは、アタシを見捨てたってよかったんだ。あんたはアタシに救われたんじゃなくて、自分の優しさに救われたんだよ」
    「優しさ?それは違う。オレは、刃を交えた者には敬意を持つべきだと思っている。お前を助けたのも、その延長だ」
    「それを優しさっていうんだよ」
    アルスは、フードの中からこっちを見てくる。
    「・・・変な女だ」
    「アンタもな」

    ところで。
    「アンタ、北から来たって言ったよな?」
    「ああ」
    「てことは、アンタはインキュバスなのか?」
    「インキュバス?いや、違う」
    え?
    「・・・ここから北は、魔界なんだぞ?」
    「それが?」
    この町は、人間界と魔界の境界線の近くにある。
    たしか、ここは人間界のエルメッド大陸最北端の街だ。
    魔界に一度入ってしまえば、どんな男でも高濃度の魔力であっという間にインキュバス化するって話だが。
    まあ、偶然か。
    次に、何気にかなり気になっていた質問をする。
    「どこに行くんだ?」
    今度の質問には、すぐ答えなかった。
    暫しの沈黙の後、ぽつりと言った。

    「『氷壁の果て』」

    聞いたこともないところだ。
    「・・・それは、どこに?」
    「南だ」
    「南って・・・南は暖かいところなんじゃないのかよ?」
    「南は南でも、南の極みへ行くんだ」
    「だったらすごく暑いんじゃないか?」
    沈黙。どうやらアホなこと言ったらしい。

    しばらくは、各々好きなことをやっていた。
    アタシは刀を研ぎ、アルスは装備や物資のチェックをしていた。
    服はあちこち切られたままになっている。
    まあ、あとで縫うのだろう。

    そして。
    突然、言った。
    「・・・世話になった」
    「もう、行くのか?」
    「ああ。明日の明朝に出る」
    まあ、そうだろうと思った。
    もともと、アタシが邪魔しなければ、この町に長いこといるつもりはなかったんだろう。
    アタシが倒れたからこそ、コイツはアタシのために一日潰してくれたんだ。
    だが、アタシは治った。
    となれば、長居は無用。
    そして、アタシには、コイツを引き留められるだけの理由はない。
    「・・・そうか」
    と、言うほかなかった。
    アタシは、時計を見る。
    午後5時48分。
    まだ、間に合う。
    「ちょっと、外に出てくる」
    「?・・・ああ」
    家から出るとき、ふと思った。
    帰ってきたらいませんでした、なんて事にならなきゃいいな。

    ――ねえちゃん、こんな時間に『だいじな話』ってなに?
    ――しかも、みんな集めて。
    ――なにかあったの?
    ――・・・え?
    ――それって、どのくらい?いつかえってくるの?
    ――やだやだやだ!ねえちゃんとおわかれなんて、やだ!
    ――いかないでよ、ねえちゃぁん!
    ――いいかげんにしなさいよ!あんたたち!
    ――きっと、おねえちゃんもつらいのよ!
    ――でも、行かなきゃいけないのよ!
    ――だから・・・だからっ!
    ――みんなで、おねえちゃんにいってらっしゃいしよう!?
    ――おねえちゃんなら、きっとだいじょうぶだから・・・
    ――おねえちゃん・・・おねえちゃん!ぜったいげんきでかえってきてね!
    ――あたしたち、まってるからねっ!!!う・・・

    うわぁぁぁぁぁぁぁん!

    アタシは、家で荷物をまとめる。
    いまだに、少し涙で視界がゆがむ。
    アタシはあいつらを抱きしめたとき、あいつらと同じように大泣きしてしまった。
    一瞬、本気でやめようかな、と思った。
    ――だが。
    いましなければ、きっとこの先一生後悔する。
    そんな気がする。

    ずっと、考えてきたことだ。
    アタシは、ここで終わることを望んでいるのか?
    別に世界を制してやるとか、そんな気はない。
    ただ、知りたい。
    アタシは、スラムと自分の家と闘技場しか知らずに果てる人生を望んでなんかいない。
    もっと知りたい。
    世界には、どんな場所があるのか?
    世界には、どんな奴がいるのか?
    そいつは、どんなものを食べ、考え、生きるのか?
    全てをアタシの目で、耳で、肌で感じたい。
    何よりも――

    アイツ。
    四海最強と謳われたアタシを、あっさり負かしたアイツ。
    孤独に、一人旅する男。
    考えたら、まだ顔もまともに見ていない男。
    考えたら、謎だらけ。
    顔。
    性格。
    好み。
    考え方。
    アタシが惚れた、アイツ。

    報われなくたっていい。
    ただ、一緒にいたい。
    一緒に見たい。
    一緒に感じたい。
    一緒に喜んで、驚いて。
    そして、これはあくまで仮定の話だが。
    もし、もしあいつがアタシを好いてくれたら。
    その時は――

    結局、一睡もしなかった。
    まあ、何とかなるか。
    アタシは、家の前にいる。
    コート姿で、リュック一つ背負って。
    そして、目の前には。
    アタシを見る、アルス。
    すっかり旅支度も終わり、まさに出発しようとしていたところにアタシだ。
    少しは驚いたのか、固まっている。
    うだうだした能書きは苦手だ。
    アタシは、単刀直入に言った。
    「アタシも、行く」

    それは、栄暦1459年4月25日 午前5時04分の事だった。

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

    そこまで書いたところで、ヴェリナは一度ペンを置いた。
    かなり書いたせいか、若干手の筋肉が痛い。
    手を振って、痛みを和らげる。
    見返してみて、字の汚さと紙の汚さに苦笑した。
    まあ、仕方ない。
    何度も見直し、何度も書き直したような代物だ。
    まあ、読み手に頑張ってもらうとしよう。
    ヴェリナは少し笑って、再びペンをとった。

    11/12/03 21:44 ビビりなディタトーレ   

    ■作者メッセージ
    デザインを変えてみました。
    いかがでしょうか?

    今回は文字数が約3000字と若干少なめでした。(ふつうは5000字)
    次回からは戻していきたいと思っております。
    ・・・話の展開、少し駆け足すぎますか?
    ご意見・感想など、書き込んでいただけたら幸いです。