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ある女戦士のクロニクル

ビビりなディタトーレ

INDEX

  • あらすじ
  • %02 c=15d 第1章『Precipitation And Awakening 』
  • %02 c=15d 第2章『Midnight Battle』
  • %02 c=15d 第3章『Separation And Departure』
  • %02 c=15d 第4章 『I Go Because・・・』
  • %02 c=15d 第5章『The Strange Walkers』
  • %02 c=15d 第6章『Road Under The Ground』
  • 第1章『Precipitation And Awakening 』

    第1章 『Precipitation And Awakening 』
    栄暦1459年4月16日 午前4時56分
    人間界 エルメッド大陸 ブリジカ共和国
    メルブェシティー スラム街

    窓の隙間から入ってくる冷気が、アタシの毎日の目覚まし代わりだ。
    寒さには敏感なアタシにはかなり有効だが、いつか風邪ひいちまうんじゃないかとも思う。
    ま、目覚まし時計買う金なんざアタシにゃねーけど。
    …っと、こんなことして時間を無駄にはしてられない。
    北の大地にあるこの街にも、そろそろ『春』が来はじめてる。
    てことは、太陽も早く昇りだすってことで――
    急がなきゃ、アタシの大好きな『あれ』見逃すかもしれない。
    アタシは万年床から体のバネを使って跳ね起き、ベランダに出る。
    そこから飛び、屋根の上へ。
    そして、いつもの場所へと駆け出した。

    「・・・」
    毎日毎日見慣れているはず、そして、ごくありふれているはずの景色。
    だけど、アタシはそれを美しいと思った。
    東の方――ちょうど、この国の王様が住んでいる城の一番低い尖塔に半分ほどその身を隠しながら、いつもと同じように朝日が昇ってきた。
    朝焼けがいつから大好きになったのか、細かい時期は思い出せない。
    少なくとも11年前には好きになっていたが、それより前となると記憶が怪しい。
    まあ、6歳の頃の自分なんて覚えてる奴の方が少ないだろうが。

    こうして朝焼けを眺めていると、普段は考えないようなことをいろいろ考える。
    例えば、なんで『主神』と魔王様は仲良くできないのかとか。
    なんで『主神』は平和を望むとか言いながら、あっち側の人間とか神族とかと協力して戦を起こすのかとか。
    だらしなくてキモチいい事が好きなのって、そんなに悪い事なのかとか。
    世界の設定なんぞわざわざ書き換えなくたってみんな元気に暮らしてるのに、なんで魔王様は世界を変えたがるのかとか。
    まとまりなく膨大に、好き勝手に広がっていく思考。
    考えてるはずなのに頭がボーっとして、そのうち頭の内側がふんわりねっとりしてくる。
    その感触が心地よくて、アタシは目を閉じて寝っころがる。

    目を覚ますと、いつの間にか結構な高さに登った太陽の光ががアタシの肌をじんわり照らしていた。寝てしまっていたらしい。
    今日もいい天気だ。
    「…へっくし!」
    だが、どんなに天気がよかろうと、北国の4月は寒い。
    これでも1月前よりはだいぶ暖かくなったんだが、さすがのアタシも、外でタンクトップ一丁で寝るのはまだ無理だってことだろう。
    病気への抵抗力は人間の比じゃないからまず大丈夫だろうが、念のためあったかいもんでも食って体を温めよう。
    そう思って瞬間。
    ぐるぐるぐる。
    我ながらわかりやすい体だなおい。
    アタシは、屋根の上を家に向かって走り始めた。

    この家で生活し始めてからもう10年経つのか。月日の流れってのは早いものだ。
    自分で作ったヤギ肉と豆のピリ辛(アタシには)雑炊をかき込みながら、ふとそんなことを思った。
    アタシは、基本的に市場で食材を買う。
    ホントなら狩りでもして自給自足の生活をしたいところだが、ここら一帯には野生の動物がほとんどいない。
    寒い中何とか作物を育てようにも、スラム街の土地はやせまくっててそばさえ育たない。
    豊かな土地もあるにはあるが、大地主やら国やらに全部押さえられてる。
    はっきり言って、生活は苦しい。
    ――でも。
    「あーっ、ねえちゃんお肉とりすぎだろー!」
    「おまえこそとりすぎ!ねえちゃんのこといえねーぞ!」
    「そうよ!あんたこそみんなの事考えなさいよ!」
    「ケンカしてる暇なんかあんのかー?フフフ…」
    「あっ、ねえちゃんずるい!ごはんいっぱいとってった!」
    昼飯の用意をしていたところ、こいつらに嗅ぎつけられた。つくづくハナの良い奴らだ。
    で、急きょ材料を足し、4人分の飯をこしらえたって訳だ。
    こいつらとは、近所のガキども。
    とはいっても孤児って訳じゃなく、ちゃんと親も兄弟もいる。
    だが、こいつらはアタシの事も家族同然に思っていてくれているらしい。
    よく遊ぶし、週に5度はこうやって一緒に飯を食う。
    その上こいつらは、アタシも知らない街の事情に結構通じている。
    例えば、だれがどこの不良に因縁つけられて困ってるらしいとか。
    そういうトラブルを何とかするのがアタシの生業だ。
    といっても、腕に物言わせたら何とかなるトラブル限定。
    頭使うのはそれほど得意じゃない。
    ゴロツキを探し出し、
    ぶっ飛ばし、
    「二度とその顔見せんなよ」という。これだけだ。
    この界隈じゃかなり名を知られていて、恐れられている、らしい。らしい、というのは、ここにいる奴らから町のうわさ話という形で聞いた話であり、あたしがきいたわけじゃないからだ。
    …まあ、でも、それなりに名は売れてるだろう。
    10か月前。アタシは、市場でその張り紙を見た。
    ――――――――――――――――――――――――――――
    告知
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    今こそ己が武で世界を掴め!
    ――――――――――――――――――――――――――――
    最初から出る気は満々だった。
    スラムの仕事は、『人助けしてる』という快感はあっても、アタシたちサラマンダーが求めるような『強い奴と戦ってる』という快感とは無縁だった。
    といっても、最初は世界をつかもうなんて気は毛頭なく、「強い奴と戦いまくりたい」位の気持ちだった。
    いくらスラムで名を売ってると言っても、所詮は素人の我流で荒削りな剣術だ。
    正規の訓練をみっちり受けた正規軍の騎士(デュラハン)やら歴戦の傭兵(人間)相手に勝てるとは思ってなかった。
    予選会は楽しかった。『興奮する』ってことと『燃える』ってことがどういう事か初めて知った。
    アタシは興奮しまくった。夢中で剣を振るった。自分でも驚くほど体が思うがままに動いた。
    世界大会はもっと楽しかった。アタシが見たことも聞いたこともないような魔物がいっぱいいた。
    バフォメットとかいう奴は、ちっこい体してでけぇ鎌見事に使いこなしてきた。何とか隙をついて、尻尾で思いっきりホームランした。
    リリムとかいう奴は、何でも魔王様の娘らしい。バフォメットもすごかったが、こいつは本気の黒魔術でフィールド半分消し飛ばした。そのとき出た砂塵を利用して接近し、けさがけに斬り倒した。
    ドラゴンはさすがにアタシも知ってたが、やっぱり本物は違う。鋭い爪で八つ裂きにされかけたかと思えば、尻尾で打ち殺されそうになり、炎で丸焼きにされかけた。サラマンダ-なのに。力押しじゃどうにもならなさそうだったから、相手が殴りつけてきたとき腕をつかんで全力で地面に叩きつけた。
    東から来たウシオニとかいう奴もいた。途方もなく耐久力と治癒力あったもんだから、失血させて気絶させるのに3時間もかかった。
    試合中、いや試合が終わってからも、しばらくは尻尾が余韻でゴウゴウ燃えていた。
    もちろんあちこち切り傷とか打撲とかしたが、その痛みさえ心地よかった。
    ただ、アタシは運悪く人間の男とは組み合わさらなかった。結婚相手もひそかに探していたアタシとしては残念だったが、それを引いても文句なく人生最高の時だった。

    そして、気が付いたら世界の王者になっていた。

    『気が付いたら』といったが、本当に『気が付いたら』だった。
    その時のアタシはただ『あのすげぇ奴らと戦える』という興奮にのめりこんでいて、本来持っているはずの『世界一になる』という目的は綺麗さっぱり忘れていた。
    …いや、この言い方はおかしいか。
    そもそも最初っから『強い奴と戦いたかった』だけで、国の名誉とか賞金とかどうでもよかったな。アタシは。

    優勝しちまったせいで、あとがいろいろ面倒だった。軍には剣技指導官にと誘われ、地元のギャングからは用心棒にと誘われ、自分の名を上げようとするゴロツキ共からは狙われた。
    とりあえず就職のお誘いは丁重にきっぱり断り、ゴロツキ共は全員返り討ちにした。
    アタシには、町の中心での豊かで安定した暮らしよりもこのスラムで貧しく精一杯生き抜く暮らしの方がはるかに性に合う。
    ――だが。
    幸せそうな顔で飯を食うガキどもを眺めながら、アタシは考える。
    ここの暮らしは、確かに性には合っている。
    だが、アタシはここで終わることを望んでいるだろうか?

    それから一週間、アタシは何事もなく過ごしていた。
    好きな時に寝て、起き、食べ、仕事をし、遊び、体を鍛えた。
    それまでの一週間と同じように。
    きっとこのまま、しばらくはこんな一週間が続いていくんだろうなと思っていた。
    4月23日、いや24日の午前1時。
    久々に結構運動したアタシ(仕事で)は、その日の疲れを癒すべくぐっすり眠りこんでいた。

    寝ていたアタシは、久しぶりに冷気以外の原因で起こされた。
    酔ってるっぽい若い人間の怒鳴り声。たぶん複数。
    「おい、てめー!この俺様をなめてやがんのか!アァ!?」
    「てめー、ヨソもんだからしらねぇんだろう!おしえてやるよ!この人はなぁ・・・」
    「このあたりのギャング仕切ってるハモンドさんだ!何人も部下がいて、ここらじゃ泣く子も黙るってんで有名なんだよ!」
    「黙ってんじゃねェよ!金出せや!10秒待ってやっからよ!」
    あー、あいつらか。前に一回やりあったことがある。
    アタシはむくりと起き上がり、窓から外をうかがいながら思い出していた。
    この界隈じゃそこそこデカいグループで、薬の密売から売春の斡旋までやってるらしい。
    前にスラムの商店街の店主に頼まれてボコった時は、確かボスに逃げられたんだったかな。
    いずれにせよ結構ヤバい奴らだ。みんな短剣やら棍棒やらで武装してるし、しかもそこそこ上手いと来てる。
    一対一ならともかく、複数相手にするとなったら素人じゃまず無理だ。
    アタシは棚に立てかけてある相棒を手にとり、いつでも飛び出せるように準備する。
    すると。
    「――5秒」
    ここからじゃゴロツキ共の体で顔も服も見えないが、おそらく今からまれてる男の声だろう。
    声は少し高め。大人になりかけの若い男だろうか。
    「5秒やるからその薄汚い顔をどけろ」
    声に似合わない、乱暴なセリフ。
    場を支配する沈黙。
    3秒たった時、へらりとチンピラの一人が笑った。
    次の瞬間。
    そいつがポケットからナイフを引き抜き、からまれてる男に突き出した。
    男はそれを軽くかわし、左手で突き出された右腕を掴んだ。
    息もつかせない勢いでチンピラの上腕部も右手でつかみ、そのまま押しながら右ひじに思いっきり膝蹴り。
    当然腕はあり得ない方向に曲がり――
    「…っぎゃああああああああああああああ!」
    グぎりという嫌な音と共に、にチンピラの絶叫が響いた。
    しかし男は止まらない。
    腕を折ったチンピラの腹を回し蹴りする。
    チンピラは吹っ飛び、斜め後ろにいた仲間を二人ほど巻き込んでスラムの空き家の一つに激突。
    そのまま壁をぶち破り、建物の中へと消えた。
    …って、おかしいだろ!あれはどう考えても人間の力じゃねえぞ!魔力は感じなかったんだから魔術でもないだろうし。
    とすると、あの男はインキュバスなんだろうか。
    いや、それにしても強すぎるんじゃ…
    しかし、アタシの思考はそこまでだった。
    再び男が動き出し、呆然とする二人のチンピラを一瞬で片付ける。
    そして――
    ボスに向き直り、一言。
    「まだやるというのであれば引き止めはしない。だが――」
    そこまで言ったところで、ボスは踵を返しておたおたと無様に逃げて行った。

    結構激しい動きにもかかわらず、男の呼吸は正常だ。
    それに気が付いたところで、アタシは、10か月ぶりに血が燃えているのに気が付いた。
    戦いたい。
    剣を交えたい。
    拳をぶつけ合いたい。
    もうこの尻尾の炎は止められない。
    戦え。
    戦え。
    戦え。
    体と心が叫んでいる。
    アタシは、欲求に素直に従った。
    ゆっくりと外に出て、男の方を見る。
    気配に気づいた男がこちらを見る。
    アタシは、懐のアタシの相棒――ジパングで作られた『慈焔村正』の柄を握りしめる。
    アタシは、男に言った。
    「アタシの名はヴェリナ」
    そして、抜刀。
    刀を突きつけ、叫んだ。
    「アタシと闘え!!」

    それが、アタシとアイツの出会いだった。

    12/01/04 22:17 ビビりなディタトーレ   

    ■作者メッセージ
    ということで第1章、いかがでしたか?
    誤字・脱字はどんどん指摘してください。
    不定期更新なのでSSの投稿が滞ってしまう時もあるかもしれませんが、長い目で見ていただけるとありがたいです。
    では今回はこの辺で。
    今後ともどうかよろしくお願いします。