第三話 森林から草原へ
うへへぇ、とうとうスコッドとエッチしちゃったんだよぉ〜♪
ニヤニヤが止まらないんだよぉ〜♪
「まったく、いつまでニヤニヤしているんだよ」
「むふふ〜、スコッド〜ちゅ〜」
「おいおい...」
呆れ顔でもしっかりちゅっちゅしてくれる。
んんっ〜幸せすぎるんだよぉ〜♪
本当はこのままスコッドのおちんぽ咥えたり〜ずぽずぽしたいけど旅が進まないからお預けなんだよ〜。
「夜まで我慢出来るか?・・・ん?」
「ま、まかせるんだよ」
「俺達は夜まで我慢できねぇなぁ〜」
ごそごそっと盗賊達が現れた!なんだよ。
ボロッボロの服にぜんっぜん洗って無さそうな髪。
ナイフに木の棒に刃毀れしてる剣。
・・・というか突然すぎるんだよ。
「なぁティナ、ココらへんも通常の人間界か?」
「そうだよスコッド、この大陸は人が移ってから100年経ってないから大きめな町以外はそこまで魔界になっていないんだよ」
「へー・・・いや、魔物娘が居る所なのに盗賊なんてやってる男どもって言うのがレアだと思ってな」
「けっ、好きでこんな所に居るわけじゃねぇ!それに俺の好みはお淑やかな女だ!ただのどエロイ魔物娘なんざ眼中にねぇ!!」
眼帯付けていかにもボスっぽい男が好みのタイプを自分からばらしているんだよ。
「というかちったぁ恐怖しやがれ、なーにおとなしく身ぐるみ剥がれれば命までは取りゃしねぇ・・・」
「けけけ、ボスは怖いぜぇ・・・魔界から出てきた魔界豚を一人でのしちまうんだからなぁ!」
「魔界豚?」
「魔界で生きてる野生の豚さんなんだよ、おっきくて、生きてるとガチガチに硬いけど殺したら肉が柔らかくなって食べると美味しいの」
「・・・おまえら」
お、盗賊さん達がプルプル震えてるんだよ。
んー、どうしようか・・・スコッドは元騎士って言ってたし。
「ティナ、自分の身は守れるか?」
「うん、あの人達よりとんでもない獲物を小さい頃から狩ってたし平気だよ」
「流石狩猟種族だ、とりあえず俺の後ろに居ろよ」
むふー!騎士とお姫様みたいなんだよぉ〜。
ま、そんなの私には似合ってくれないだろうけど。
「舐めてんじゃねぇぞ!やっちまえおめぇら!」
うぉぉぉ!とうっさい声を上げながら突撃してくる盗賊たち、数は6人。
あ、女の人も居るんだね服とかは男っぽくしてるけど魔物娘にそんな変装は通用しないんだよ。
ま、いいやとりあえず毛皮から分割銛を取り出してガチョンと接続。
さーこい!
「男のほうを先にしばいてしまえ!」
「あいよ!」
スコッドはひょいひょいと盗賊達の攻撃を避けて避けて、また避けて。
・・・んー?攻撃しないの?
「おい!魔物娘の方は縛っておけ!」
「あいさー!・・・なんかぽけーっとしてるなこの子、頭の帽子もなんか間抜けっぽいし」
「そうっすね〜さー、痛くしないから縛られてねー」
あ、一応女の子は優しくするのか。
ふむ・・・なんで盗賊なんてやってるんだろ。
「んー、ちなみに聞くけど私を縛ったらスコッドと荷物はどうするの?」
「ん?そりゃー抵抗されちゃぁアレだから軽くボコって半分くらい荷物はもらうけど」
「それじゃ、縛られるわけには行かないんだよ、恋人が傷付けられるのが魔物娘は一番キライなんだから」
片方は長身細身の男、片方は女の人なんだよ。
とりあえずぶんぶんと銛を振り回して距離を離させる。
それで私を縛ろうとした二人がナイフを構える。
スコッドの方はナイフを持っている手を蹴飛ばしたり関節技で無力化していってるんだよ。
「だ、大丈夫っすか先輩・・・魔物娘ってかなり強いんじゃ・・・」
「ばっきゃろ、ドラゴンとかとは違うただのアザラシだ。そこまで強くねぇだろうし魔物娘は人間を傷つけるのを本能で嫌うって話じゃねか、あの槍だって脅しさ」
「その予想はハズレだよ?」
とりあえず油断してるから銛の土手っ腹で何か言ってる男の人の腹部を殴打、樹の幹までホームラン。
油断してくれてありがとうなんだよー、下手に避けられると刃が当たって血を出されても嫌だからね。
「なっ!?」
「だいじょうぶだよー、気絶させただけだから」
「な、ななな、なんで普通に人間の男をぶん殴ってるんすかぁ!?」
「そりゃ、好きな人を傷付けられるかもしれないってなったら人を殴る気持ち悪さなんてどうでもいいんだよ〜、魔界銀の武器なら容赦なく攻撃できるんだけどねぇ」
女の人を蹴り飛ばしてすっ転ばせる。
「それに」
銛を両手で構えて振り上げる。
「ひぃ!?」
振り下ろして女の人の顔の真横に突き立てる。
「脅しくらいなら、この銛でも十分なんだよー」
「あ、ああああああ」
ふふふー、心がガクガクと震えてるんだよ〜。
あぁ、愉悦。
簡単に捕まえられると思っていた相手にのされて震え上がる小物達・・・この光景をみて喜ばない人なんてまず居ないんだよぉ・・・あぁ愉悦。
と言うのは置いておいて。
「それじゃ手元が滑ってサクッと刺さらないうちにさっきの人と一緒に縛らせてもらうんだよー」
「わ、わかりまし・・・た」
それで持ってるロープでよいしょ、よいしょっと。
はい、盗賊二人の簀巻き完成なんだよー。
スコッドの方は大丈夫かな?
アッパー。
「ぐえっ」
回し蹴り。
「あばっ」
ぎゅるると空中で飛んでひねって回転しながら掴んだ相手も回転させて地面に叩きつける。
「ぎゃふ」
「3人完了っと」
「なんなんだよてめぇらぁぁあ!?」
あ、もうすぐ終わりそうなんだよ、残ってるのは親玉みたい。
とりあえずスコッドも傷が無いみたいだし安心かな。
「俺か?ガルド大陸その人ありと言われた破壊勇者の元付き人、弓兵スコッドだ」
「な・・・破壊勇者だと・・・!?敵対した奴の骨という骨を根こそぎ折ってしまうという・・・!」
「ふふふ、恐れいったか?」
縛られてる手下がこそこそ話しているんだよ。
側まで近づいてみる。
「なぁ、破壊勇者は結構有名だが・・・付き人なんて居たんだな」
「初めて聞いたっす」
「嘘じゃねーの?弓持ってねーしあの兄ちゃん」
「うわ、それってすっげーカッコわりぃっす、虎の威を借る狐っす。嬢ちゃん、嘘つく男はダメっすよー?」
「もう好きになっちゃたからどこまでも好きになるんだよー」
「ホント魔物娘は一途だねぇ、でも素手で俺たちボコりやがりましたし」
「けどなぁ・・・」
「ウソっぽいっすよねぇ」
・・・散々な言われようなんだよ。
「まぁ知らなくても当たり前か、俺は結構前に抜けちまったし」
スコッドもスコッドでくじけてないんだよ。
そういう所も好きだよ。
「なぁおめぇら・・・とっ捕まってるのになんでそんな呑気なんだ?」
「だっておやびん、こいつらならヒドイことしなさそうですよ?ノリいいですし」
ああ、そういう考えだったのか〜。
んじゃ一言言っておこうかな。
「え?この後魔物娘たちを呼んで山分けさせるよ?」
お、盗賊さん達の血の気が引いてく。
くふふふふ。
「ぎゃぁぁぁぁ!いやっすー!結婚するなら人間の女の子ぉぉぉぉ!!」
「どエロの変態なんて嫌だァァァァァ!」
「おやびん助けてええええええ!」
「ただ持ち物で金目になりそうな物半分ブンドルつもりだっただけなのにー!!」
失礼な、変態な魔物娘なんてそうそう居ないんだよ。
というかそういう分捕り行為がいけないんだよ、ぎるてぃ。
あ、盗賊の親玉がスコッドにふっ飛ばされた。
よし、縛るんだよ〜。
・
・
・
「よし、コレで完了だな」
もうすぐ森の範囲を抜けようかという所で襲ってきやがった盗賊ども。
かる〜く捻り潰すことは出来たが近くの村までかなりの距離が有るため警備隊とかに引き渡すことは出来ない上にこのまま放っておくと他の旅人が襲われかねない。
さぁどうするかと思った所でティナが魔物娘達に任せるという考えを言った。
たしかにそれならばこいつらは二度と悪さが出来ないしこの辺の魔物娘も旦那が出来る。
と、言うことで。
簀巻きで束ねて頑丈そうな木の枝に吊るすことにした。
ギャーギャー喚いているがこれは俺のせいじゃない、俺達に手を出したお前らが悪い。
というか弱すぎだって、あれなら俺の国の訓練兵のほうが強いぞ。
「それじゃ、呼ぶね〜」
「あぁ、頼む」
魔物娘を呼ぶ方法はティナが知っているらしく任せることにした。
ティナは俺から数メートル程離れると大げさに感じるほど深呼吸を繰り返す。
そして叫んだ。
「ここに相手の居ない男がいるぞおおおおおおおおおおおおお!!!」
・・・鼓膜が破れるかと思ったほどの大声、数秒たっても耳の奥がキーンと痛い。
どうやら今ので盗賊どもは気絶したようだ。
そして耳が慣れてきた頃には四方八方から迫り来るであろう怒号。
「どこだ男ォォ!」
「私よ!私が夫にするの!」
「邪魔をするな!我らの群れに加えるのだ!」
来るわ来るわ、いろんな魔物娘が来るわ。
どいつもこいつも飢えて目が血走っとる。
馬に狼に蜂に熊に蛇に鳥に羊に牛にスライムに蜘蛛に・・・数えきれん。
とにかく全てが血に飢えた猛獣と化している、どんだけ男旱りなんだよココらへんは。
「ぎゃぁぁぁぁ!気絶から復帰したら下が地獄と化してるっすーーー!」
「あぁ、もうダメだ・・・年貢の納め時だ」
「こんな肉食系の女なんていやだぁぁぁぁ!」
確か東方の国ではこういう時こう言うんだったな、南無。
ふとティナを見てみると毛皮から明らかに収まりきるとは思えない大きさの袋を取り出し、中身を広げていく。
怪しい薬に明らかにエロ道具と思えるものばかり。
おい...この前の町で1日の収入が俺より多かったのって、まさか・・・。
「皆ー!サバト製のグッズはいかがー!お金がなくてもブツブツ交換で構わないんだよー!」
こいつ売ってやがったーーーーーーー!
「うぉぉ!?こいつぁウンディーネの水かい!?アルラウネの蜜もあるし...おいおい、こいつぁなんちゅうものを置いてくれてるんだ...じゅるっ」
「アラクネの糸っ!?丁度切らしていたのよ!」
「ちょっとそれは私のよ!」
「この干しネバリダケをクレ!」
「あーうー、押さないでー数量限定だけど押さないで〜」
・・・あっという間にティナの周りに人だかり、じゃなくて魔物娘の群れが出来上がった。
あいつ、これを見越して盗賊どもを縛ったのか...だとすると恐ろしい。
「...い...くるまえ....は...く」
「ん?」
見上げた先でゴソゴソと動いている盗賊達。
ちょいと聞こえた『おい、あいつらが戻る前に早くしろ』
ふむふむ、そうかそうか。
「おい、お前ら・・・そのロープ切って逃げようとか考えるなよ?股間の玉を潰さない程度に蹴り上げるぞ」
「スイヤセンデシタァァ!」
此処で逃げられたら店を開いたティナの責任になりかねん。
魔物娘達でしかもあんだけ飢えていればすぐに捕まえられるだろうが...念のためにな。
・・・というか、後ろの魔物娘達の殺気がすげぇ怖い。
男を傷つけるような発言はアウトか、覚えておこう。
その後、魔物娘達と別れた俺達は後ろを見ないでそのまま進むことにした。
後ろから聞こえる悲鳴を聞き流しながら・・・。
今までの森を抜けると広大な草原が広がっていた、所々ワーシープ等の草原で暮らしている魔物娘達が見える。。
日差しから守ってくれていた枝葉が無くなったことで太陽が俺達を照らす、少し眩しいがこの程度なら心地良いといった感じだろう。
「ひゃっほーーー!」
ティナが急に駆け出す。おいおい、そんなにはしゃいだら・・・。
ずってーん
あーあ、顔面から行ったよ...言わんこっちゃない...。
地面が草や土で柔らかそうだから大丈夫だと思うが。
「おーい、大丈夫か?」
沈黙。
側でしゃがんで揺するがビクともしない...って、おい大丈夫か本当に!?
「おい、おい!大丈夫かティナ!」
慌ててティナをうつ伏せから仰向けにひっくり返す。
「ふにゃぁ〜〜草なんだよぉスコッドー」
「はぁ?」
「こんなにひろーい草原、私初めて見るんだよ!見れば見るだけ草、草、草!たまに木!」
あぁ、そうか・・・考えてみればティナが育った所は雪原というか氷で出来た浮き島を転々としていて、この大陸にと言うか俺と出会うまで海路を進んでいたんだ。確かに見渡すかぎりの草原なんて初めてだろうな。
俺もティナの隣に座って寝転んでみる。
さらさらと頬を撫でる風、ひんやりと湿っている柔らかな土、丁度いい温かさを恵んでくれる太陽。
この感覚、久しいな...ガキの頃以来か。
「そーだよなー、雪国育ちだとこんな草っ原は経験無いよな」
「明日はひなたぼっこして居ようよ〜」
ごろごろと転がって俺にピッタリくっついてきたティナを軽く撫でる。
すりすりと犬や猫のように自分の頭を擦り付ける所がなんともペットっぽい。
「ダメだ、と言いたいがそうだな・・・これほど気持ちいいと俺もゆったり過ごしたくなる。だが、ちゃんと雨宿りできる所を見つけてからな?」
「は〜い」
そうだ、さっきのことも聞いておくか。
「所でさっきの売ってた薬とかだが」
「ん〜?あれは、旅をしてる魔物娘向けにサバトがしてることで、試供品を配ったり品物を売るとお金をもらえるの〜」
「試供品を渡すだけでか?」
「正確には、試供品と一緒に割引券になる名刺を渡すの。で、お客さんがその割引券でお買い物すると試供品を渡した人にサバトに行く度にお小遣いが入るの!」
まぁ、試供品を渡すことで宣伝になるし旅をしている魔物娘的には旅費を稼げる。
はっきり言って損得で考えると良い物とは思えんが、渡したり売ってるのはエログッズだし買いに行く率は高いのかもな。
「ちなみに割引券を利用したお客さんが多い人にはグレードアップしていくんだよ!私はシルバー会員なのだ!」
むっふーと偉そうに胸を張るアザラシ娘。
いやいや、シルバーがどれ位エライのか分からんから。
「ちなみにシルバーだとどう違うんだ?」
「お客さんが買った代金の10%がやってくる!ちなみにシルバー会員を維持するには年間で40人のお客さんを呼ばなきゃいけないのだ!」
やってくるお金たっか!!
どんだけ気前いいんだよサバト!!!
そりゃ20組以上の買い物客居てそれが買い物して・・・で、一回だけじゃないだろうから何度も利用するとして・・・うわ、そりゃ俺の一日働いた金より高いわ、魔物娘ってそういうものに金使いそうだし。
町から町への移動で最短数日だし、チコ町の時は船に2週間近く居たわけだし。
しかし、20人以上ってスゲェよな。さっきの方法以外だと・・・カップルに片っ端から声を掛けるとかそんな感じか?
「どんだけ頑張ってるんだよ・・・」
「いやいやぁ〜お外で興奮し始めてるカップルや魔物娘にそれとなーく聞いて渡してるんだよ〜、カップルさんが愛しあうお手伝いをしているんだよ〜」
明らかに腹にひとつ拵えてそうな悪い顔で楽しそうに話す、この調子だとその愛し合ってる所も覗き見してそうな気がしてきたぞ。
ちゃんと正しく使えているか心配だから見張ってるーとか何か理由つけて。
「ま、そんな事はいいんだよスコッド。とりあえずこのまままっすーぐ進んで、おっきな森まで行ってみるんだよ」
ジャケットのポケットから地図を取り出して今オレたちが居る周辺の箇所を見る。
これから向かおうとする森の大きさとさっき抜けたばかりの森の規模と比べると20倍は余裕であるな。
大きいと言うレベルじゃないぞ、小規模な国なら2つは入りかねん。
全く、そんな所で何をしたいのか・・・。
いいか、どうせ期限なんて無い旅だ、ゆったり気ままに歩けばイイ。
「スコッドー、この前におっきな木があるよー!今日はあそこで野宿しよー!」
なるほど、確かにかなり遠くに大きそうな木が草原のど真ん中に立っている。
あれなら雨が降っても大丈夫だろう。
ティナがまた転ばないように手を握って、日が暮れないうちにたどり着けるようなスピードで進むことにした。
思い返すは怒号。
両腕は返り血でペンキ缶に腕を突っ込んだような有り様になっていて、周りを振り返ると全方位が敵、敵、敵。
俺達の足元にはその敵の死体や両腕がありえない方向にねじ曲げられたり胴体の鎧が巨大な鉄塊に押しつぶされたように凹まされている怪我人達。
俺達に向けられるのは殺気、戦友を殺された傷つけられた怒り。
おいおい、よしてくれよ・・・殺しているのは俺だぜ?ハイドとアルは一人も殺してねぇって。
まぁ、二度と戦士になれないようにはしてるがな。
襲い掛かってくる刃。それら全てを躱し、鎧の隙間に矢をねじ込む。
呻き声を上げて倒れそうになる奴を蹴り飛ばしほか数人を下敷きにする。
弓に矢を3本つがえ、他の兵士を踏み台にして飛び上がり、倒れた奴の顔面に矢を突き刺す。
遠くに味方の声が聞こえてくる、あと10分も戦えば十分か。
次の瞬間風切り声が聞こえ、手を伸ばし、飛んできた矢を掴みとる。
おいおい、こんだけ周りが味方だらけなのに矢を射ってくるって正気か?
死角からの矢を止めたことで周りの雑兵が戸惑い襲ってこない、これはいい。
矢が飛んできた方を見るとずいぶんと若い弓兵が木の上で既に矢をつがえていた。
それを見て俺も右手の中指と薬指で追加の矢をストックして掴んだ矢をつがえ、構える。
相手が矢を放つ、俺も放ち直ぐ様指に挟んでいた矢をつがえて放つ。
1本目の矢が相手の矢を砕き、2本目の矢が眉間に風穴を開けた。
ザマーミロ。
味方の声がずいぶんと近づいてきた。
さて、最期に一発行きますか。
現在進行形で戦っているアルに向かって全速力で走ると見えても居ないのにこちらに盾を構えてくれる。
いいねぇ、これでこそ以心伝心、親友ってもんよ。
俺は飛び上がって盾を踏みつける、その瞬間馬鹿力で空へと飛ばされた。
この飛び上がる瞬間が心地いい。
矢筒に残っている21本の矢を両手に持ち、上昇中に14本、てっぺんで2本、落下時に4本伝令役と思われる敵周辺を狙って射る。
着地した直後に最期の一本、真っ赤に染められた鏑矢を天に向けて放つ。
空に向けて放たれた矢は独特の音を奏でながら打ち上がっていく。
後は味方が来るまで耐えるだけ、俺達の位置は教えたから後は此処目掛けて味方が来てくれる。。
斬りかかってきた奴を足元の死体から剣を拝借して脇腹から肩目掛けて突き刺す。
あ?子供の名前か?そんな大事ならこんな戦争になんか参加するなって、俺に向かってくるなって。
ある日、戦争から帰ってきたら俺達の国が無くなっていた。
合併とか言ってやがったがつまり裏からこねくり回してぶん取られたわけだ。
次からは今まで殺してきた相手の家族のとかために戦わなきゃならない!?ふざけんな!
・・・何のためにあんだけ人を殺していたんだよ俺は!!!
『人殺し!』
『父さんの敵!』
『よくも俺の友を!』
「......ス...ッド....スコッド」
「っ!?」
「うなされてたよ」
「・・・すまん」
身体を覆うのは優しい温もり。
俺を抱きしめてくれていたティナの頭を撫でる。
いつも通りきゅーと鳴いて喜んでくれる、あまり人の頭に触れるのは好きではなかったんだがこの喜ぶ顔を見ると楽しくなってきちまう。
一瞬自分の腕が赤く見えてしまい思わずティナから手を離す。
だが...ティナはそんな俺の腕を掴んで自分の頭に載せた。
「赤くなるなら諸共、なんだよ」
絶対に、絶対にこの子だけは守ろう。
例え神を敵にしても友を敵にしたとしても。
気がつけば俺はティナを抱きしめていた。
・
・
・
最奥ともなれば太陽の恵みの光すら届かなくなる森の中。
数体のワーウルフとその夫達が獲物である鹿の群れを追っていた。
鹿を左右から挟み込むようにして逃げ道を無くし、後ろから追いかけてく。
常人では鹿に・・・いや、野生動物に追い付くことなど早々出来ない、しかしそれを余力を持って出来てしまうのが魔物娘だ。
まして彼女たちは狼、鹿を追い回し続けて疲れさせる程度造作も無い。
鹿の右側を走るワーウルフが抑えめに吠える。
数十メートル先の木の枝に一人のワーウルフが立っていた。
腰まで伸ばした黒髪にわずかに混じった赤毛、他のワーウルフと違い両腕に枷鎖を付けている。
そして何より、彼女は目を拘束具のようなもので覆っていた。
「いくわよ」
小さくつぶやくとワーウルフは両腕を勢い良く左右それぞれに伸ばす。
すると手首の枷鎖の鎖が勢い良く伸び出し、木々の間を走りながらシカたちの前に飛び越すことのできない鎖の壁を創りだした。
突如現れた網に驚き左右に回ろうとしてワーウルフに仕留められるものも居れば、飛び越そうとしてジャンプし鎖に絡め取られる鹿も居た。
「流石ね、貴女が来てから狩りが楽になったわ」
「そんなこと無い、私が居なくとも猟れる相手だったさ」
拘束して動けなくなった鹿の心臓をナイフで一突きにし、慣れた手つきで吊り下げた後首を切り血抜きを行う。
目隠しをした状態で刃物を扱うと言う事に初めて見る者はそこはかとなく恐怖を感じる・・・だが、ワーウルフの慣れた動きを見れば誰もが安心した。
「・・・次は相手が見つかるといいわね」
目隠しのワーウルフの隣で別のワーウルフが同じように血抜きの作業をしながら話しかける。
目隠しは鼻で笑いながら返事をする。
「どうせ次もその次もいい男なんて見つからないさ」
「諦めてどーするのよ、まったく」
「諦めてなんか居ないさ、期待していないだけ」
他のワーウルフが何かを言おうとしたが目隠しのワーウルフはあっという間に木の上に登り、そのまま去ってしまった。
「はぁ・・・折角同じ種族の群れを見つけて仲間に入って1年位経ったというのに」
森の入り口近くまで走り飛び、バタンと草原に寝転ぶ。
独身の男ならばそのスタイルの良さに間違いなく視線を向けてしまうであろうプロポーション。
事実捕まえたり群れに引き入れた男たちは何人も彼女を自分の女にしようと思った。
だが・・・。
「まぁ、無理ないわ」
自分の股間に触れてため息を付く。
ホットパンツを履いている上に腰布を巻いている、そうでないと隠せないからだ。
彼女の身体には生まれつき『男性器』が付いている。
抱こうとして服を脱がしたら自分の物より立派なキノコがそびえ立っていた・・・なんて状況になり男は驚いたり引いたりとにかくマイナスなリアクションを取って他のワーウルフのところへ行ってしまう。
そんな風にやられれば白けてしまうものである。
そんな事が何度も合ったせいで元から捻くれかけていた性格が捻じれに捻れて逆に真っ直ぐになりかけてしまったのだ。
遂には青空に浮かぶ白い雲を眺めながらほぼ日課になっている自分呪いを始めてしまった。
中途半端な身体で産んだ両親には怒りとかそう云うのは一切無い、普通の子として親への愛はある。
中途半端に魔物化してしまった時の研究員の人達にも感謝している、殺されてもおかしくない状況なのに色々と優しくしてくれた。
私を初めて抱いてくれた初恋のあの人の行方は未だ分かっていない、いつか・・・また会って恋人とか居なければまた愛し合いたい。
一番の問題はピエロ野郎だ、次に合う時があったら鎖で簀巻きにして壁という壁を全て破壊するまで振り回してやると枕元でいつも考えている。
そして、男たちの自分の体を見た時の表情を思い出して呆れ返ってしまった。
「もういいや、女だけ愛していこう・・・」
魔物娘としてそれが不可能であることは彼女自身理解している。
けれども、そう思いたくなるほど嫌になってしまった。
周りが番となりおっぱじめて、その淫気で自分が発情しても慰めてくれるのは男ではなく自分か同じように相手が見つからなかったワーウルフ。
とうとう寝転ぶことすら辛くなり立ち上がってふらふらと歩き出す。
どこへ行こうとか考えず、とりあえず群れの所に日没までには帰れる距離でトボトボと。
のほほんと幸せそうに寝転ぶワーシープとそのワーシープを抱きまくらや枕にして眠る魔物娘達が羨ましかった。
「ん?なにかしらあれ」
ふと、青々と茂った草原には見られない色の物体が転がっているのが見えた。
そしてそれが彼女の人生をトンデモない方向へねじ曲げてくれる分岐点となるのを...彼女は知る由もない。
つづく
ニヤニヤが止まらないんだよぉ〜♪
「まったく、いつまでニヤニヤしているんだよ」
「むふふ〜、スコッド〜ちゅ〜」
「おいおい...」
呆れ顔でもしっかりちゅっちゅしてくれる。
んんっ〜幸せすぎるんだよぉ〜♪
本当はこのままスコッドのおちんぽ咥えたり〜ずぽずぽしたいけど旅が進まないからお預けなんだよ〜。
「夜まで我慢出来るか?・・・ん?」
「ま、まかせるんだよ」
「俺達は夜まで我慢できねぇなぁ〜」
ごそごそっと盗賊達が現れた!なんだよ。
ボロッボロの服にぜんっぜん洗って無さそうな髪。
ナイフに木の棒に刃毀れしてる剣。
・・・というか突然すぎるんだよ。
「なぁティナ、ココらへんも通常の人間界か?」
「そうだよスコッド、この大陸は人が移ってから100年経ってないから大きめな町以外はそこまで魔界になっていないんだよ」
「へー・・・いや、魔物娘が居る所なのに盗賊なんてやってる男どもって言うのがレアだと思ってな」
「けっ、好きでこんな所に居るわけじゃねぇ!それに俺の好みはお淑やかな女だ!ただのどエロイ魔物娘なんざ眼中にねぇ!!」
眼帯付けていかにもボスっぽい男が好みのタイプを自分からばらしているんだよ。
「というかちったぁ恐怖しやがれ、なーにおとなしく身ぐるみ剥がれれば命までは取りゃしねぇ・・・」
「けけけ、ボスは怖いぜぇ・・・魔界から出てきた魔界豚を一人でのしちまうんだからなぁ!」
「魔界豚?」
「魔界で生きてる野生の豚さんなんだよ、おっきくて、生きてるとガチガチに硬いけど殺したら肉が柔らかくなって食べると美味しいの」
「・・・おまえら」
お、盗賊さん達がプルプル震えてるんだよ。
んー、どうしようか・・・スコッドは元騎士って言ってたし。
「ティナ、自分の身は守れるか?」
「うん、あの人達よりとんでもない獲物を小さい頃から狩ってたし平気だよ」
「流石狩猟種族だ、とりあえず俺の後ろに居ろよ」
むふー!騎士とお姫様みたいなんだよぉ〜。
ま、そんなの私には似合ってくれないだろうけど。
「舐めてんじゃねぇぞ!やっちまえおめぇら!」
うぉぉぉ!とうっさい声を上げながら突撃してくる盗賊たち、数は6人。
あ、女の人も居るんだね服とかは男っぽくしてるけど魔物娘にそんな変装は通用しないんだよ。
ま、いいやとりあえず毛皮から分割銛を取り出してガチョンと接続。
さーこい!
「男のほうを先にしばいてしまえ!」
「あいよ!」
スコッドはひょいひょいと盗賊達の攻撃を避けて避けて、また避けて。
・・・んー?攻撃しないの?
「おい!魔物娘の方は縛っておけ!」
「あいさー!・・・なんかぽけーっとしてるなこの子、頭の帽子もなんか間抜けっぽいし」
「そうっすね〜さー、痛くしないから縛られてねー」
あ、一応女の子は優しくするのか。
ふむ・・・なんで盗賊なんてやってるんだろ。
「んー、ちなみに聞くけど私を縛ったらスコッドと荷物はどうするの?」
「ん?そりゃー抵抗されちゃぁアレだから軽くボコって半分くらい荷物はもらうけど」
「それじゃ、縛られるわけには行かないんだよ、恋人が傷付けられるのが魔物娘は一番キライなんだから」
片方は長身細身の男、片方は女の人なんだよ。
とりあえずぶんぶんと銛を振り回して距離を離させる。
それで私を縛ろうとした二人がナイフを構える。
スコッドの方はナイフを持っている手を蹴飛ばしたり関節技で無力化していってるんだよ。
「だ、大丈夫っすか先輩・・・魔物娘ってかなり強いんじゃ・・・」
「ばっきゃろ、ドラゴンとかとは違うただのアザラシだ。そこまで強くねぇだろうし魔物娘は人間を傷つけるのを本能で嫌うって話じゃねか、あの槍だって脅しさ」
「その予想はハズレだよ?」
とりあえず油断してるから銛の土手っ腹で何か言ってる男の人の腹部を殴打、樹の幹までホームラン。
油断してくれてありがとうなんだよー、下手に避けられると刃が当たって血を出されても嫌だからね。
「なっ!?」
「だいじょうぶだよー、気絶させただけだから」
「な、ななな、なんで普通に人間の男をぶん殴ってるんすかぁ!?」
「そりゃ、好きな人を傷付けられるかもしれないってなったら人を殴る気持ち悪さなんてどうでもいいんだよ〜、魔界銀の武器なら容赦なく攻撃できるんだけどねぇ」
女の人を蹴り飛ばしてすっ転ばせる。
「それに」
銛を両手で構えて振り上げる。
「ひぃ!?」
振り下ろして女の人の顔の真横に突き立てる。
「脅しくらいなら、この銛でも十分なんだよー」
「あ、ああああああ」
ふふふー、心がガクガクと震えてるんだよ〜。
あぁ、愉悦。
簡単に捕まえられると思っていた相手にのされて震え上がる小物達・・・この光景をみて喜ばない人なんてまず居ないんだよぉ・・・あぁ愉悦。
と言うのは置いておいて。
「それじゃ手元が滑ってサクッと刺さらないうちにさっきの人と一緒に縛らせてもらうんだよー」
「わ、わかりまし・・・た」
それで持ってるロープでよいしょ、よいしょっと。
はい、盗賊二人の簀巻き完成なんだよー。
スコッドの方は大丈夫かな?
アッパー。
「ぐえっ」
回し蹴り。
「あばっ」
ぎゅるると空中で飛んでひねって回転しながら掴んだ相手も回転させて地面に叩きつける。
「ぎゃふ」
「3人完了っと」
「なんなんだよてめぇらぁぁあ!?」
あ、もうすぐ終わりそうなんだよ、残ってるのは親玉みたい。
とりあえずスコッドも傷が無いみたいだし安心かな。
「俺か?ガルド大陸その人ありと言われた破壊勇者の元付き人、弓兵スコッドだ」
「な・・・破壊勇者だと・・・!?敵対した奴の骨という骨を根こそぎ折ってしまうという・・・!」
「ふふふ、恐れいったか?」
縛られてる手下がこそこそ話しているんだよ。
側まで近づいてみる。
「なぁ、破壊勇者は結構有名だが・・・付き人なんて居たんだな」
「初めて聞いたっす」
「嘘じゃねーの?弓持ってねーしあの兄ちゃん」
「うわ、それってすっげーカッコわりぃっす、虎の威を借る狐っす。嬢ちゃん、嘘つく男はダメっすよー?」
「もう好きになっちゃたからどこまでも好きになるんだよー」
「ホント魔物娘は一途だねぇ、でも素手で俺たちボコりやがりましたし」
「けどなぁ・・・」
「ウソっぽいっすよねぇ」
・・・散々な言われようなんだよ。
「まぁ知らなくても当たり前か、俺は結構前に抜けちまったし」
スコッドもスコッドでくじけてないんだよ。
そういう所も好きだよ。
「なぁおめぇら・・・とっ捕まってるのになんでそんな呑気なんだ?」
「だっておやびん、こいつらならヒドイことしなさそうですよ?ノリいいですし」
ああ、そういう考えだったのか〜。
んじゃ一言言っておこうかな。
「え?この後魔物娘たちを呼んで山分けさせるよ?」
お、盗賊さん達の血の気が引いてく。
くふふふふ。
「ぎゃぁぁぁぁ!いやっすー!結婚するなら人間の女の子ぉぉぉぉ!!」
「どエロの変態なんて嫌だァァァァァ!」
「おやびん助けてええええええ!」
「ただ持ち物で金目になりそうな物半分ブンドルつもりだっただけなのにー!!」
失礼な、変態な魔物娘なんてそうそう居ないんだよ。
というかそういう分捕り行為がいけないんだよ、ぎるてぃ。
あ、盗賊の親玉がスコッドにふっ飛ばされた。
よし、縛るんだよ〜。
・
・
・
「よし、コレで完了だな」
もうすぐ森の範囲を抜けようかという所で襲ってきやがった盗賊ども。
かる〜く捻り潰すことは出来たが近くの村までかなりの距離が有るため警備隊とかに引き渡すことは出来ない上にこのまま放っておくと他の旅人が襲われかねない。
さぁどうするかと思った所でティナが魔物娘達に任せるという考えを言った。
たしかにそれならばこいつらは二度と悪さが出来ないしこの辺の魔物娘も旦那が出来る。
と、言うことで。
簀巻きで束ねて頑丈そうな木の枝に吊るすことにした。
ギャーギャー喚いているがこれは俺のせいじゃない、俺達に手を出したお前らが悪い。
というか弱すぎだって、あれなら俺の国の訓練兵のほうが強いぞ。
「それじゃ、呼ぶね〜」
「あぁ、頼む」
魔物娘を呼ぶ方法はティナが知っているらしく任せることにした。
ティナは俺から数メートル程離れると大げさに感じるほど深呼吸を繰り返す。
そして叫んだ。
「ここに相手の居ない男がいるぞおおおおおおおおおおおおお!!!」
・・・鼓膜が破れるかと思ったほどの大声、数秒たっても耳の奥がキーンと痛い。
どうやら今ので盗賊どもは気絶したようだ。
そして耳が慣れてきた頃には四方八方から迫り来るであろう怒号。
「どこだ男ォォ!」
「私よ!私が夫にするの!」
「邪魔をするな!我らの群れに加えるのだ!」
来るわ来るわ、いろんな魔物娘が来るわ。
どいつもこいつも飢えて目が血走っとる。
馬に狼に蜂に熊に蛇に鳥に羊に牛にスライムに蜘蛛に・・・数えきれん。
とにかく全てが血に飢えた猛獣と化している、どんだけ男旱りなんだよココらへんは。
「ぎゃぁぁぁぁ!気絶から復帰したら下が地獄と化してるっすーーー!」
「あぁ、もうダメだ・・・年貢の納め時だ」
「こんな肉食系の女なんていやだぁぁぁぁ!」
確か東方の国ではこういう時こう言うんだったな、南無。
ふとティナを見てみると毛皮から明らかに収まりきるとは思えない大きさの袋を取り出し、中身を広げていく。
怪しい薬に明らかにエロ道具と思えるものばかり。
おい...この前の町で1日の収入が俺より多かったのって、まさか・・・。
「皆ー!サバト製のグッズはいかがー!お金がなくてもブツブツ交換で構わないんだよー!」
こいつ売ってやがったーーーーーーー!
「うぉぉ!?こいつぁウンディーネの水かい!?アルラウネの蜜もあるし...おいおい、こいつぁなんちゅうものを置いてくれてるんだ...じゅるっ」
「アラクネの糸っ!?丁度切らしていたのよ!」
「ちょっとそれは私のよ!」
「この干しネバリダケをクレ!」
「あーうー、押さないでー数量限定だけど押さないで〜」
・・・あっという間にティナの周りに人だかり、じゃなくて魔物娘の群れが出来上がった。
あいつ、これを見越して盗賊どもを縛ったのか...だとすると恐ろしい。
「...い...くるまえ....は...く」
「ん?」
見上げた先でゴソゴソと動いている盗賊達。
ちょいと聞こえた『おい、あいつらが戻る前に早くしろ』
ふむふむ、そうかそうか。
「おい、お前ら・・・そのロープ切って逃げようとか考えるなよ?股間の玉を潰さない程度に蹴り上げるぞ」
「スイヤセンデシタァァ!」
此処で逃げられたら店を開いたティナの責任になりかねん。
魔物娘達でしかもあんだけ飢えていればすぐに捕まえられるだろうが...念のためにな。
・・・というか、後ろの魔物娘達の殺気がすげぇ怖い。
男を傷つけるような発言はアウトか、覚えておこう。
その後、魔物娘達と別れた俺達は後ろを見ないでそのまま進むことにした。
後ろから聞こえる悲鳴を聞き流しながら・・・。
今までの森を抜けると広大な草原が広がっていた、所々ワーシープ等の草原で暮らしている魔物娘達が見える。。
日差しから守ってくれていた枝葉が無くなったことで太陽が俺達を照らす、少し眩しいがこの程度なら心地良いといった感じだろう。
「ひゃっほーーー!」
ティナが急に駆け出す。おいおい、そんなにはしゃいだら・・・。
ずってーん
あーあ、顔面から行ったよ...言わんこっちゃない...。
地面が草や土で柔らかそうだから大丈夫だと思うが。
「おーい、大丈夫か?」
沈黙。
側でしゃがんで揺するがビクともしない...って、おい大丈夫か本当に!?
「おい、おい!大丈夫かティナ!」
慌ててティナをうつ伏せから仰向けにひっくり返す。
「ふにゃぁ〜〜草なんだよぉスコッドー」
「はぁ?」
「こんなにひろーい草原、私初めて見るんだよ!見れば見るだけ草、草、草!たまに木!」
あぁ、そうか・・・考えてみればティナが育った所は雪原というか氷で出来た浮き島を転々としていて、この大陸にと言うか俺と出会うまで海路を進んでいたんだ。確かに見渡すかぎりの草原なんて初めてだろうな。
俺もティナの隣に座って寝転んでみる。
さらさらと頬を撫でる風、ひんやりと湿っている柔らかな土、丁度いい温かさを恵んでくれる太陽。
この感覚、久しいな...ガキの頃以来か。
「そーだよなー、雪国育ちだとこんな草っ原は経験無いよな」
「明日はひなたぼっこして居ようよ〜」
ごろごろと転がって俺にピッタリくっついてきたティナを軽く撫でる。
すりすりと犬や猫のように自分の頭を擦り付ける所がなんともペットっぽい。
「ダメだ、と言いたいがそうだな・・・これほど気持ちいいと俺もゆったり過ごしたくなる。だが、ちゃんと雨宿りできる所を見つけてからな?」
「は〜い」
そうだ、さっきのことも聞いておくか。
「所でさっきの売ってた薬とかだが」
「ん〜?あれは、旅をしてる魔物娘向けにサバトがしてることで、試供品を配ったり品物を売るとお金をもらえるの〜」
「試供品を渡すだけでか?」
「正確には、試供品と一緒に割引券になる名刺を渡すの。で、お客さんがその割引券でお買い物すると試供品を渡した人にサバトに行く度にお小遣いが入るの!」
まぁ、試供品を渡すことで宣伝になるし旅をしている魔物娘的には旅費を稼げる。
はっきり言って損得で考えると良い物とは思えんが、渡したり売ってるのはエログッズだし買いに行く率は高いのかもな。
「ちなみに割引券を利用したお客さんが多い人にはグレードアップしていくんだよ!私はシルバー会員なのだ!」
むっふーと偉そうに胸を張るアザラシ娘。
いやいや、シルバーがどれ位エライのか分からんから。
「ちなみにシルバーだとどう違うんだ?」
「お客さんが買った代金の10%がやってくる!ちなみにシルバー会員を維持するには年間で40人のお客さんを呼ばなきゃいけないのだ!」
やってくるお金たっか!!
どんだけ気前いいんだよサバト!!!
そりゃ20組以上の買い物客居てそれが買い物して・・・で、一回だけじゃないだろうから何度も利用するとして・・・うわ、そりゃ俺の一日働いた金より高いわ、魔物娘ってそういうものに金使いそうだし。
町から町への移動で最短数日だし、チコ町の時は船に2週間近く居たわけだし。
しかし、20人以上ってスゲェよな。さっきの方法以外だと・・・カップルに片っ端から声を掛けるとかそんな感じか?
「どんだけ頑張ってるんだよ・・・」
「いやいやぁ〜お外で興奮し始めてるカップルや魔物娘にそれとなーく聞いて渡してるんだよ〜、カップルさんが愛しあうお手伝いをしているんだよ〜」
明らかに腹にひとつ拵えてそうな悪い顔で楽しそうに話す、この調子だとその愛し合ってる所も覗き見してそうな気がしてきたぞ。
ちゃんと正しく使えているか心配だから見張ってるーとか何か理由つけて。
「ま、そんな事はいいんだよスコッド。とりあえずこのまままっすーぐ進んで、おっきな森まで行ってみるんだよ」
ジャケットのポケットから地図を取り出して今オレたちが居る周辺の箇所を見る。
これから向かおうとする森の大きさとさっき抜けたばかりの森の規模と比べると20倍は余裕であるな。
大きいと言うレベルじゃないぞ、小規模な国なら2つは入りかねん。
全く、そんな所で何をしたいのか・・・。
いいか、どうせ期限なんて無い旅だ、ゆったり気ままに歩けばイイ。
「スコッドー、この前におっきな木があるよー!今日はあそこで野宿しよー!」
なるほど、確かにかなり遠くに大きそうな木が草原のど真ん中に立っている。
あれなら雨が降っても大丈夫だろう。
ティナがまた転ばないように手を握って、日が暮れないうちにたどり着けるようなスピードで進むことにした。
思い返すは怒号。
両腕は返り血でペンキ缶に腕を突っ込んだような有り様になっていて、周りを振り返ると全方位が敵、敵、敵。
俺達の足元にはその敵の死体や両腕がありえない方向にねじ曲げられたり胴体の鎧が巨大な鉄塊に押しつぶされたように凹まされている怪我人達。
俺達に向けられるのは殺気、戦友を殺された傷つけられた怒り。
おいおい、よしてくれよ・・・殺しているのは俺だぜ?ハイドとアルは一人も殺してねぇって。
まぁ、二度と戦士になれないようにはしてるがな。
襲い掛かってくる刃。それら全てを躱し、鎧の隙間に矢をねじ込む。
呻き声を上げて倒れそうになる奴を蹴り飛ばしほか数人を下敷きにする。
弓に矢を3本つがえ、他の兵士を踏み台にして飛び上がり、倒れた奴の顔面に矢を突き刺す。
遠くに味方の声が聞こえてくる、あと10分も戦えば十分か。
次の瞬間風切り声が聞こえ、手を伸ばし、飛んできた矢を掴みとる。
おいおい、こんだけ周りが味方だらけなのに矢を射ってくるって正気か?
死角からの矢を止めたことで周りの雑兵が戸惑い襲ってこない、これはいい。
矢が飛んできた方を見るとずいぶんと若い弓兵が木の上で既に矢をつがえていた。
それを見て俺も右手の中指と薬指で追加の矢をストックして掴んだ矢をつがえ、構える。
相手が矢を放つ、俺も放ち直ぐ様指に挟んでいた矢をつがえて放つ。
1本目の矢が相手の矢を砕き、2本目の矢が眉間に風穴を開けた。
ザマーミロ。
味方の声がずいぶんと近づいてきた。
さて、最期に一発行きますか。
現在進行形で戦っているアルに向かって全速力で走ると見えても居ないのにこちらに盾を構えてくれる。
いいねぇ、これでこそ以心伝心、親友ってもんよ。
俺は飛び上がって盾を踏みつける、その瞬間馬鹿力で空へと飛ばされた。
この飛び上がる瞬間が心地いい。
矢筒に残っている21本の矢を両手に持ち、上昇中に14本、てっぺんで2本、落下時に4本伝令役と思われる敵周辺を狙って射る。
着地した直後に最期の一本、真っ赤に染められた鏑矢を天に向けて放つ。
空に向けて放たれた矢は独特の音を奏でながら打ち上がっていく。
後は味方が来るまで耐えるだけ、俺達の位置は教えたから後は此処目掛けて味方が来てくれる。。
斬りかかってきた奴を足元の死体から剣を拝借して脇腹から肩目掛けて突き刺す。
あ?子供の名前か?そんな大事ならこんな戦争になんか参加するなって、俺に向かってくるなって。
ある日、戦争から帰ってきたら俺達の国が無くなっていた。
合併とか言ってやがったがつまり裏からこねくり回してぶん取られたわけだ。
次からは今まで殺してきた相手の家族のとかために戦わなきゃならない!?ふざけんな!
・・・何のためにあんだけ人を殺していたんだよ俺は!!!
『人殺し!』
『父さんの敵!』
『よくも俺の友を!』
「......ス...ッド....スコッド」
「っ!?」
「うなされてたよ」
「・・・すまん」
身体を覆うのは優しい温もり。
俺を抱きしめてくれていたティナの頭を撫でる。
いつも通りきゅーと鳴いて喜んでくれる、あまり人の頭に触れるのは好きではなかったんだがこの喜ぶ顔を見ると楽しくなってきちまう。
一瞬自分の腕が赤く見えてしまい思わずティナから手を離す。
だが...ティナはそんな俺の腕を掴んで自分の頭に載せた。
「赤くなるなら諸共、なんだよ」
絶対に、絶対にこの子だけは守ろう。
例え神を敵にしても友を敵にしたとしても。
気がつけば俺はティナを抱きしめていた。
・
・
・
最奥ともなれば太陽の恵みの光すら届かなくなる森の中。
数体のワーウルフとその夫達が獲物である鹿の群れを追っていた。
鹿を左右から挟み込むようにして逃げ道を無くし、後ろから追いかけてく。
常人では鹿に・・・いや、野生動物に追い付くことなど早々出来ない、しかしそれを余力を持って出来てしまうのが魔物娘だ。
まして彼女たちは狼、鹿を追い回し続けて疲れさせる程度造作も無い。
鹿の右側を走るワーウルフが抑えめに吠える。
数十メートル先の木の枝に一人のワーウルフが立っていた。
腰まで伸ばした黒髪にわずかに混じった赤毛、他のワーウルフと違い両腕に枷鎖を付けている。
そして何より、彼女は目を拘束具のようなもので覆っていた。
「いくわよ」
小さくつぶやくとワーウルフは両腕を勢い良く左右それぞれに伸ばす。
すると手首の枷鎖の鎖が勢い良く伸び出し、木々の間を走りながらシカたちの前に飛び越すことのできない鎖の壁を創りだした。
突如現れた網に驚き左右に回ろうとしてワーウルフに仕留められるものも居れば、飛び越そうとしてジャンプし鎖に絡め取られる鹿も居た。
「流石ね、貴女が来てから狩りが楽になったわ」
「そんなこと無い、私が居なくとも猟れる相手だったさ」
拘束して動けなくなった鹿の心臓をナイフで一突きにし、慣れた手つきで吊り下げた後首を切り血抜きを行う。
目隠しをした状態で刃物を扱うと言う事に初めて見る者はそこはかとなく恐怖を感じる・・・だが、ワーウルフの慣れた動きを見れば誰もが安心した。
「・・・次は相手が見つかるといいわね」
目隠しのワーウルフの隣で別のワーウルフが同じように血抜きの作業をしながら話しかける。
目隠しは鼻で笑いながら返事をする。
「どうせ次もその次もいい男なんて見つからないさ」
「諦めてどーするのよ、まったく」
「諦めてなんか居ないさ、期待していないだけ」
他のワーウルフが何かを言おうとしたが目隠しのワーウルフはあっという間に木の上に登り、そのまま去ってしまった。
「はぁ・・・折角同じ種族の群れを見つけて仲間に入って1年位経ったというのに」
森の入り口近くまで走り飛び、バタンと草原に寝転ぶ。
独身の男ならばそのスタイルの良さに間違いなく視線を向けてしまうであろうプロポーション。
事実捕まえたり群れに引き入れた男たちは何人も彼女を自分の女にしようと思った。
だが・・・。
「まぁ、無理ないわ」
自分の股間に触れてため息を付く。
ホットパンツを履いている上に腰布を巻いている、そうでないと隠せないからだ。
彼女の身体には生まれつき『男性器』が付いている。
抱こうとして服を脱がしたら自分の物より立派なキノコがそびえ立っていた・・・なんて状況になり男は驚いたり引いたりとにかくマイナスなリアクションを取って他のワーウルフのところへ行ってしまう。
そんな風にやられれば白けてしまうものである。
そんな事が何度も合ったせいで元から捻くれかけていた性格が捻じれに捻れて逆に真っ直ぐになりかけてしまったのだ。
遂には青空に浮かぶ白い雲を眺めながらほぼ日課になっている自分呪いを始めてしまった。
中途半端な身体で産んだ両親には怒りとかそう云うのは一切無い、普通の子として親への愛はある。
中途半端に魔物化してしまった時の研究員の人達にも感謝している、殺されてもおかしくない状況なのに色々と優しくしてくれた。
私を初めて抱いてくれた初恋のあの人の行方は未だ分かっていない、いつか・・・また会って恋人とか居なければまた愛し合いたい。
一番の問題はピエロ野郎だ、次に合う時があったら鎖で簀巻きにして壁という壁を全て破壊するまで振り回してやると枕元でいつも考えている。
そして、男たちの自分の体を見た時の表情を思い出して呆れ返ってしまった。
「もういいや、女だけ愛していこう・・・」
魔物娘としてそれが不可能であることは彼女自身理解している。
けれども、そう思いたくなるほど嫌になってしまった。
周りが番となりおっぱじめて、その淫気で自分が発情しても慰めてくれるのは男ではなく自分か同じように相手が見つからなかったワーウルフ。
とうとう寝転ぶことすら辛くなり立ち上がってふらふらと歩き出す。
どこへ行こうとか考えず、とりあえず群れの所に日没までには帰れる距離でトボトボと。
のほほんと幸せそうに寝転ぶワーシープとそのワーシープを抱きまくらや枕にして眠る魔物娘達が羨ましかった。
「ん?なにかしらあれ」
ふと、青々と茂った草原には見られない色の物体が転がっているのが見えた。
そしてそれが彼女の人生をトンデモない方向へねじ曲げてくれる分岐点となるのを...彼女は知る由もない。
つづく
15/05/06 17:24更新 / ホシニク
戻る
次へ