パンが無ければマンドラゴラの根っこを食べればいいじゃない %02 c=15d %02 c=15d %02 c=15d %02 c=15d %02 c=15d %02 c=15d %02 c=15d

食休み〜2〜

「でね!でね!フランたらもう、すっごいのよ!私の足を掴んでぇ、乱暴に何度も何度も、はぁ〜♥」
「そ、そうなんだぁ。は、はは…、はぁ。」
「………。」<カチャカチャ
 どんよりとした厚い紫の雲に覆われた魔界の昼前。
 人間にとってはこれ以上ないほど気を滅入らせる不吉な天気だが、魔物にとってはこれ以上ないほどのお茶会日和である。
 シャルロットとロゼ、それと遊びに来ていたマンドラゴラのアリシアは、身体に染み渡る魔力の空気と柔らかく包み込むような太陽の魔光を楽しむため、庭の一角にテーブルを出し、ハーブティーとケーキを楽しんでいた。
 あの社根会の夜から約2週間。今日はゴルドも執事長も公務で出払って居ない。メイド達と奥方であるシャルロット、友達のアリシアしか居ない完全な女子会モードである。
「そうなのよ!でね!でね!量もすごいのよ!見て、私のお腹!はぅ〜♥この染み込む感じがたまらないのよ〜♥」
 見れば、確かにアリシアの腹は大きく膨れ、臨月の妊婦の様になっていた。
「あはは、す、すごいねぇ〜。」
 言葉では驚いてみせたが、シャルロットにとってはこれくらいはほぼ毎日の出来事なので、内心ではあまり驚いてはいなかった。
 むしろ、その膨れた子宮をゴルドのあの馬の様なちんぽでさらにかき混ぜられ、腹の上から子宮の形が分かる程にボコボコにされたことがあるシャルロットにとって、「それで満足できるのかしら?」と逆に心配してしまう程度のものでしかなかった。
 そんな不満そうな雰囲気が態度に混じったのだろう。大した驚きも見せないシャルロットにアリシアは敏感に反応した。
 もちろん、こう言う態度で返されることは予測済みである。
 アリシアは含み笑いを見せるとシャルロットの耳に顔を近づけ、一言つぶやいた。
「実はね…、できちゃったの♥」
「えっ!うそッ!?」
 思わず身体を引いてしまったシャルロットは、改めてアリシアのお腹を見直す。
 幼い10代の身体に不釣合なほど膨れた腹、その下で肥大の原因になっている子宮。その中に命が宿っているかと思うと宝石の様な輝きと神々しさを感じられた。
「ほぇぇぇ〜、あかちゃん、ここに…。」
「お医者さんが言うにはねぇ、種で産まれてくるんだって。それでね、すっごく気持ちいいんだって!!」
 マンドラゴラにとって親子関係と言うものは実感のあるものではない。産まれた種は少しの間、母親に抱かれて放浪した後、成長に適した土壌に埋められ、それ以来、顔を合わすこともない。
 つまり、大地が乳母なのだ。
 もちろん、アリシアもシャルロットも実の母を知らない。
 しかし、二人はそのことに悲観したことはない。
 産み落とされるまでにお腹の中で感じた母の愛と大地から受けた溢れる栄養と魔力のおかげで寂しさも飢えもなかったからだ。
 二人は本能で知っているのだ。自分達には母が二人も居たことを。
 まじまじと見つめていると、アリシアの腹が急にぶるぶると震え始めた。
 驚いたシャルロットは再び身を引いてしまっていた。
「う、動いた!?」
「あ♥ん///種でも動くんだって、でも、ンアッ♥この子、動きすぎで、いうっ!」
<ゴロ、ゴロゴロゴロ
「お、おぉ〜…。」
「フフ、元気なお嬢様ですこと。」<カチャ
 顔のニヤケが止まらないアリシアと驚きっぱなしのシャルロットの前にハーブティーが置かれた。
 独特の真緑色をした液体からは、爽やかで上品な香りに混じる少しの苦味が感じられ、二人の興味を惹き付けるには十分な効果を発揮した。
「ありがとう、えと、ロゼ…さん。」
「フフ、まだ慣れませんか?奥様はコンデ家の奥様なのですから召使風情、呼び捨てにして頂いても構いませんのに。」
 奥様と呼ばれたのが余程恥ずかしいのか、それとも居心地か悪いのか。シャルロットは出されたティーカップを両手に持つと顔を隠す様に口を付けた。
「そんな///奥様だなんて///えへへ///」
「いいわよねぇ〜、若奥様って響き〜。って何これ苦ッ!これがハーブティー!?」
「抹茶と言うジパングのハーブティーで御座います、アリシア様。ケーキなどの甘いものを食べた後に飲むとバランスが取れていいですよ。」
「へぇ〜、もぐもぐ、コクコク、あ、確かにいいかも〜♪」
「健康にもいいですし、オススメですよ♪」
「でも、あの、ロゼさんも忙しいのに付合わせちゃって、そのごめんなさい。」
「あら?なぜそう思われるのですか?心外ですわ。私はメイドの身分なのにお茶の席に招待されて楽しんでいるというのに。」
「だって、その、ロゼさんも子供が出来たばかりだって言うし。」
「ああ、そのことですか?フフ、奥様、あちらをご覧下さい。」
「ふぇ?」
 言われるがままにロゼの触手が指す方を見ると二人の人影が言い争っている姿が見えた。と言うより、一方的に片方が片方にまくし立てている様子に近い。
 片方はコンデ家のメイド姿、もう片方は漆黒に塗られた鎧を着込み冑だけを外した騎士姿。
 騎士のまくし立てに顔をキョロキョロさせて逃げているメイドにはどこか見覚えがあったがシャルロットは思い出せないでいた。
 まぁ、無理もない。熱に浮かされながら根っこで犯した相手の顔を、精液でボテ腹にされながら覚えるなんて至難の業である。
「あれが私の娘。アナトリアでございます、奥様。2週間程前からお屋敷で働かせて頂いております。」
「へぇ〜。」
「あっちの騎士様は?シャルのお屋敷ってメイドさんばっかりなんでしょ?執事さんの趣味で。」
「………それは否定しませんが、あちらのお方は隣国の近衛騎士隊に所属する騎士様です。何でも新進気鋭の若獅子とか。」
「おぉ〜。」
「アナトリアの故郷のお方で、今日の旦那様の公務に出席なされる王様の護衛の任務を預かっているのだそうです。」
「ほぉ〜。」
「で?その若獅子様は王様の近くに居ないで何してるの?」
「まぁまぁ、それは見ていてのお楽しみでございます♪」
「あ。逃げたわよ。」
 見れば、アナトリアは、身をひるがえし、走り逃げようとしていたが、騎士にその左手を掴まれ、逃げられないでいた。
 そして、騎士は、強引にアナトリアの身体を引き寄せるとその腕で優しく抱き込んだ。
 さらに騎士が何やら呟くとバッと顔を上げたアナトリアが感極まった様に泣き出した。
「何やら凄い劇みたいね。」
「す、すごい…。」
 食い入るように見つめる少女達を後目に、ロゼは実に誇らしげな表情をしていた。
「まだまだ、これからですわ。」
 ロゼが得意気にそう言うと、アナトリアが泣きながら騎士に何か問いかけていた。
 その問いに微笑みながら騎士が答えると状況は一変した。
 アナトリアのエプロンドレスが急に膨れ上がり、20や30ではきかない程の触手が飛び出したのだ。
 飛び出した触手は、ドーム状にアナトリア達を包み込む。完全に二人が見えないくらいに触手が編み込まれると、その一部が変形し、吐き出すように黒い塊を吹き出した。
 ドロドロの粘液が滴るそれは、騎士が着込んでいた鎧であった。
「いいなぁ…。」
「まったくよね…。」
「こればかりは私にもなんとも…。」
 大事な政(まつりごと)の為と言えども、片や旦那や調教師にほっとかれている三人。片や、その政を捨て置いて恋人が会いに来てくれたアナトリア。
 嫉妬とまではいかないが、羨ましく感じるのは仕方のないことである。
 なんとも気が滅入ってくる繭玉ならぬ触手玉から目を離したアリシアは、空気を変えようと今日の本題を話始めた。
「そ、そう言えば、シャル?今日は何か話があるんじゃなかった?」
「えっ!?あ、え、っと、そ、そそそうなんだよね!う、うん。」
 顔を赤らめながらアリシアに振り向いたシャルロットは慌てて答えた。
 誤魔化すようにカップに戻した手がべちょべちょになっている。どうやら、アナトリアにあてられて、自分を慰めていたようだ。
 とことん、貪欲な娘である。
「(まぁ、それくらいじゃないとあのデブの相手は務まらないか…。)で、話って?」
 さらに話を進めようとする。
 しかし、シャルロットはうーんと唸るばかりで一向に切り出そうとしない。そればかりか、熱が冷めるように、だんだんとしょげた雰囲気になっていくのだ。
 これにはアリシアも本気で心配になり始めた。
「ちょっとちょっと、どうしたのよぉ?ねぇ、ロゼ?ほんとになにがあったの?」
 不安が増すアリシアはロゼに問いただすが、ロゼは「本人に聞いてください」と言わんばりに目も合わせずにお茶を嗜み始めた。
 訳がわからない。シャルが黙りこくり、ロゼがこんな態度を取る出来事とは一体…。
 思い悩むアリシアについに決心を固めたのか、シャルロットは顔を上げると少し怒鳴る様に口にした。

「ゴルドさまがご飯を食べてくれないのーッ!!」

「…………………は?」

「………………………まぁ、そう言う事です。」

「うわーーーん!!」
 シャルロットは、急に泣き出すとアリシアの年齢のわりに豊満な胸に顔を埋め、堰切った様に話始めた。
「あのね!ゴルドさま、いつもわたしの根っこを食べる為にね、断食するとか言ってね、ご飯食べなくなるのッ!そしたらね!ゴルドさま、みるみる痩せてくの!すごく可哀想なの!」
「え、でも、あんまり痩せてるようには見えないような…。それに、交わってれば飢えることはないってよく聞くよ?ねぇ?」
「アリシア様の言う通りでございます。旦那様は、むしろ体重が増えて、馬車の引き手夫婦に文句を言われる始末です。」
 宥めるアリシアにロゼが同意する。
 しかし、そんなことは全然問題でないと言わんばかりに、シャルロットは首を振り、さらに訴えを続ける。
「ぜんぜん違うのッ!味とか濃さとかぜんっぜん違うのッ!前はね、すっごい濃くてね、わたし、何日も頭がふらふらしてゴルドさまから離れなれなくなって。それから、それから!根っこもね、今みたいに一ヶ月も待たなくていいくらいすぐ伸びてきたんだよ!それなのに…。うわーーーん!!」
「それは、今も変わりませんよ、奥様。この前も一ヶ月に渡って交わり続けていたではありませんか。アナトリアの為に根っこを頂く事がなければ、4mもの根っこを旦那様が一人で平らげていたことでしょう。明らかに食べ過ぎです。」
「そ、そうよ、シャル。食べ過ぎはよくないのよ。むしろ、コンデ公はよく自制してると思うわ。」
 ロゼは正論で、アリシアは心にもない言葉でシャルロットを宥めようとする。だが、シャルロットには全く効果がない。
 一見、何が問題なのか解らない訴えだが、これにはれっきとした理由があった。
 マンドラゴラの秘薬。それは男性の身体能力、精生産能力、回復力、その他もろもろの効果をもたらすが、マンドラゴラ自身にしてみれば、それらの効果の元は自分の魔力なのだ。それは食い飽きた食べ物のように実に味気ないものである。
 もちろん不味い訳ではない。旦那の増強された精の味に酔いしれ、自分の魔力の味など普段は感じることもないだろう。料理を食している合間に水を飲むようなものである。それはアリシアが証明している。
 だが、シャルロットは相手が悪かった。
 レスカティエで最も古い貴族のひとつであり、食の為ならまったく金に糸目をつけない美食家であるゴルド・コンデ。
 その精液に含まれる魔力と精は、まさに世界の珍味を凝縮したかのような絶品である。
 そんなものを生まれて初めての男に、生まれて初めて中出しされてしまったシャルロットは自分の魔力が味気なくて仕方ないのだ。
 実際のゴルドの体型や体調に関係なく、シャルロットが「痩せていく」と感じてしまうのは、この精に含まれる複雑な味がだんだんと蛋白になってしまうことに敏感に反応しているからだ。
 一種の贅沢病である。雑味のない、純粋なゴルドの精だけでも正気を失い、狂い、酔い、淫乱に堕ちるには十分だと言うのに。
「アリシアぁ、どうしたらいい?」
「どうしたらって聞かれても…。」
 アリシアには、荷が重い質問である。何しろアリシアは自分の旦那;フランソワ・ローライラスの精に不満など持ったことは無いのだ。
 いや、恐らくどの魔物娘においても起き得ない問題だろう。
 それはつまり、新魔王時代始まって以来の危機でもあった。
「ご飯を食べてくれるよう頼んだらいいんじゃない?前はそれで食べてくれたんでしょ?」
「食べないと根っこ食べさせないって言ったからだもん。今、料理長さん居ないのにそんなこと言ったらほんとに飢え死にしちゃうよぉ。」
「旦那様は、むしろ少し飢え死にした方がいいと思いますが…。」
「なんで料理長居ないのよ?その間、ご飯どうするのよ!」
「料理長様は、新しいレシピの考案の為に旅に出ております。いつ帰って来るかは誰も知りません。また、メイド達はある程度の家事ができますから、飢えるのは旦那様だけです。それに、、、」
 ロゼは顔を少し背けると若干上ずった声で続けた。
「私どもには、執事長様がおりますから///」
 朱が差した頬を両手で隠すが、緩んだ顔は隠せない。このメイドも、料理長夫人に負けないくらいの変わり者である。
「もー!どうすればいいか、わかんないよー!!」
 アリシアの胸にさらに顔を埋めるシャルロット。ほとほと困り果てたアリシアはあることを閃いた。
「じゃあさ、シャルがご飯作ればいいんじゃないかな?」
「ふぇえ?わたしが?」
「そうよ!いくら頑固で偏屈な変態でも、自分の奥さんの手料理も食べないなんてありえないでしょ!」
「でも、わたし、料理なんて…。」
「大丈夫よ!ロゼが教えてくれるから!ね!ロゼ!?」
「それは、まぁ、料理長様の様な変態料理ではない、普通の料理くらいでしたら。」
「ね!それで決まり!それでも食べないなら、根っこが入ってるからとでも言っとけばいいわよ。早速準備よ!」
 意気込むアリシア、不安で動揺が隠せないシャルロット、子供の遊びに仕方なく付き合う母のようなロゼ、三人だけの料理教室が今始まった。

















                  〜レスカティエ王城・王宮内〜




「では、これにて調印の儀を終了致します。」
 薄暗い石造りの建物の中、王城内礼拝堂。
 赤と紫、そして黒のガラスを用いたステンドグラスから零れる光がこの部屋唯一の光源である。この礼拝堂が建てられた時の意匠とはだいぶ様変わりをしてしまったが、明かり取りとしての役割は変わらない。
 それでも暗い。高さ10mはあろうかという大ステンドグラスでさえ、明かり取りとしては不十分であった。元の光源、太陽そのものが暗いのだから仕方ないことではなったが。
 その礼拝堂には、いつもの礼拝者の為の長椅子ではなく、直径6mほどの机が置かれていた。

 円卓。

 貴族の間では、特に王族の間では、円卓は好まれていない。円卓には上座も下座もないからだ。常に平等、常に対等、それは王族を頂く国にとっては侮辱でしかない。
 だが、時と場合によってはその侮辱も許されることがある。そして、今がまさにその時と場合であった。
 席には三人の人間が座り、その周りに大中小の三つの人集がそれぞれの席の人間を守る様に立っている。
 一つは、漆黒の鎧を着込んだ騎士達の集団、王族としては質素な出で立ちに王冠を被った厳格そうな顔の若者を守っている。もう一つは、その王様よりもさらにボロを纏った修道士達の集団、五人ほどの取り巻きは目深にフードを被り、しきりにブツブツとつぶやいている。中でも、席に座る男は、長であるにもかかわらず、一番ボロい服を着ているようにも見えた。
 そして、最後の集団、席に座る醜く太った男;ゴルドと痩せたヤギの様な眼光鋭い男;執事長のたった二人の集団。
「では、書状をこちらへ。」
 三人の前に置かれていた書状がそれぞれの従者の手により纏められる。
 ダークプリーストが恭しく書状を受け取ると、それを少し離れたところに置かれた簡易の竈の所へと持って行き、灰にした。残った灰を竈の上で沸かしていた湯で溶かすと、それを三杯に注ぎ分けて席の三人へと配った。
 三人は、何を言うでもなく、杯を持つ手を軽く挙げて簡単な乾杯の動作を行うと一気にその白湯を飲み込んだ。甘い味はしなかったのだろう、ゴルドを除く二人は渋い顔を崩そうとはしなかった。
 緊張の瞬間が過ぎたことで耐え切れなくなったのか、修道士の長が詰まりながら口を開いた。
「こ、これで私共はレスカティエの守護の傘に守られるわけですね。それで間違いは御座いませんね!?」
「それで間違いはない。生憎と今日はフランツィスカ様はご都合が悪いもので私が調印いたしたが、このコンデ公の調印である。何も心配はない。」
「我らはただの小国と自治州であるが、そのことを差し引いても王不在の場で買わされた約定にどこまで効果があるのか判りかねますな。まぁ、その女王陛下様様もただの傀儡では誰が印を押しても同じであろうがな。ハッ!」
「…。」
「ぅ…ぅぅっ…。」<チラッチラッ
「…。」
 重苦しい空気が円卓を回るように漂う。元々、望んだ調印ではないのだから無理もない。
 山間の自治州は、教団への協力金が底を突き、支援していたはずの教団の撤退によって置いてきぼりを食らった末の同盟。
 隣国の騎士王国は、教団に兵を貸す度に大損害を受ける羽目になることに嫌気がさした末の同盟。
 嫌味の一つでも飛ばさなければやっていられない。自分達の悲劇の原因と仲良く手を繋いで笑い声をあげるなど、拷問にも等しい。
 ゴルドもそのことを解っているので、言い返すことはない。むしろ、この手の嫌味は慣れているので言い返すのも面倒なのだ。
「まあまあ、一先ずは終わったのです。これより先は宴の時間。存分に楽しんでイってください。」
<パンッ!パンッ!!
                   バゴンゥゥ!!>
「「「「おい出ませ!レスカティエ〜♪」」」」
 執事長が手を鳴らすと勢い良く扉が開かれ、手に手に料理や酒を持った魔物娘達がなだれ込んできた。
 これにはその場の一部を除くほぼ全員が驚いた。なにせ給仕に来た魔物娘全員の目が全く笑っていないのだ。まるで獲物に狙いを定めた猟犬の様に。
 闇の礼拝堂は、その渾名にふさわしい場所に成り果てた。

「や〜ん、騎士さま、騎士さまぁ♥、こちらの料理、わたしが作ったんですよ〜♪くひうぅひで、ど・ふぅ・ひょ・♥(口移しで、ど・う・ぞ・♥)」
「ま、待て!私はそのような破廉恥なまn、ングゥ!」
「ずる〜い、あの娘があの人取るなら…!…ねぇ〜、王さまぁ♥わたしの歌と踊り、見てくださるぅ?嫌でも囁いてあげますけどね♥」
「お前!セイレーンだろ!歌などよいから私から離れ  <Ah〜♪、あなたのぬくもり〜♪私を放さないで〜♪>  ぇぇぇ、ああ、放さないよ、放すもんか!」
「きゃん♪王様のえ・っ・ち♥」

「わたくしは清貧の誓いを、オブッ!ング、ゴクゴクゴク!」
「うるせぇ〜!オレが飲む時はおめぇも飲まなきゃだめなんだよぉ!オラ!そのろくに使ってないイチモツ出しやがれ!チュブチュバッ、くぅ〜!おめぇのチンカス酒、最高だァ!おまえは今日のお土だ!」
「ヴぁぁ、長様ぁ。」
「あ、貴女は、去年死んだ…!あ、あああ、なんてことだ!神様!」
「ヴあタシ、ごんなエッチナすガタで生キ返って。清めテ、清メテくださイぃぃ。」
「うううう、わああああああ!!これは試練だ!神が与えたもうた試練なのだ!この娘を清め、御下へと導いてやることが!うっくぅ!はぁ、ふぅ、ふぅ!」
「ヴあああ♥、あったかイイイイイイイイ♥、清めてエエエエ♪、白クうううう♪、精子デェエ♥、祝福ぅぅぅウぅウウウ♥」

 犯す者、犯される者、双方が入り乱れる中をゴルドと執事長は歩き、さっさと礼拝堂から出て行く。
「何処に行かれるのですか!ゴルド殿!この惨状をいかがする気か!!」
「コンデ公!!謀ったか!!まだ話は終わってぇぇ〜…!!」
<ギイイィィ〜、ゴウンン。。。


「上手く行きましたな。これでまた、しばらくは戦もなくすごせることでしょう。」
 長い廊下をゴルドの後ろを歩きながら執事長は話しかけた。礼拝堂からの媚声や喘ぎ声、善がり声は城中で行われる情事の音に混じり、ここまで聞こえることはない。
「奴らの集落や街には、すでにリプカが例の薬を撒いている。同盟など、ただのままごとに過ぎん。」
「コンデ公にとってはそうでしょうが、市井の者達にとっては違います。平和は実に尊い果実でありますから。」
「お前は平和を喜んでいるのではないだろう。お前は、自分のメイド達が卵を産み付ける為の女を確保できたから喜んでいるのだろうが。」
「その様に見えますか?」
 ゴルドは内心呆れていた。
 わかりますか?だと。
 その耳まで裂けそうなほくそ笑みとシワの様に目を歪ませた顔をしておいてわからない訳が無いだろうが、と。
「もうよい。早く馬車を回せ。今日はすぐに来るだろう。」
 ゴルドが面倒くさそうに手を振ると、執事長は一礼の後に闇に消えた。
 執事長が消え、水のような闇の中に一人取り残されても不安や恐怖が湧き上がることはない。そこかしこで聞こえる肉のぶつかる音、淫水を吹き出す音、気が狂った声、そして、囁かれる愛の誓い。
 そのどれもがまるで耳の真横で発せられているかの様に詳細に聞こえる。その昔、この同じ場所で、同じようにはっきりと聞こえていたものとは違う。陰口、悪口、陰謀、策略、それらが聞こえてくることはもう二度とないであろう。王城に住む化物達が、綺麗な衣装に隠しながら、それでいて隠しきれなかった汚い部分は、今は自分に向いていない。それがどれほど清々しいか。
 まるでタバコの煙や埃、香水、きつい香辛料をまぶした油料理などが満ちた部屋から飛び出したかのようだ。
 だが、清々しさは一瞬で泥のような感覚に厚く塗りつぶされた。
 それまで水程度の粘度と感じていた空気は、泥のように重く、霧のようにまとわりつき、蒸気のように熱く、変質した。
 空気が変わったのではない。より濃い存在によって押しのけられたのだ。
 そして、ゴルドはその理由を知っていた。汗が止まらない。自らを圧倒する存在を感じた時、恐怖や尊敬の念だけでは表現できない力で人は押しつぶされると言う。ゴルドは、靴底で潰されそうになっているカエルであり、自分の決定権すべてを握られていることを細胞レベルで理解していた。
 振り向くことはできない。
「あらあら♪、そんなに緊張する必要はなくてよ♪、コンデ公♥」

                 デルエラ

 レスカティエの真の支配者。
 ゴルドにできることは、この望まぬ謁見が早く終わってくれることを願うだけであった。
「これはこれは。最近はお目見えになることがなかったので心配いたしておりました。おかわりない様で何よりで御座います。」
「フフ♪、後ろを向いたままで何が解ると言うのかしら?確かに、調子はいいわよ♪。『あの子達』が新しい遊びを始めたから♪」
 『あの子達』とは、やはり『あの子達』なのだろう。新しい遊びがなんなのか、想像したくもないとも思うが、羨ましいとも思う。それだけ夫婦仲がいいと言う事なのだから。
 夫婦、その言葉を思うと何かモヤモヤが残る。
 シャルロットはよくなついているし、セックスに置いてもお互いに不満など無い筈だ。なのに最近は私よりも貪欲でより精を求めてくる。もちろん、その全てに野獣のように応えているのに、より寂しそうな顔をされる。それが心にモヤをかけて仕方なかった。
「あら?コンデ公ともあろう者が夫婦仲に手を焼いてるの?あんなにおとなしい娘に手を焼くだなんて♥、フフフ♥意外とカワイイのね♥」
 そっちこそ、あったこともない妻について何が解ると言うのか。
「失礼な人♪、私は魔王の娘よ♪。魔物については誰よりも詳しいわ♥。そう、貴方よりもね♥」
 背後から伸ばされる手がゴルドの首にまわされる。微妙に触れない距離を保っている腕は、触れていないからこそよりはっきり知ることができる尋常ではない魔力の塊。シャルロットの魔力がなければ今すぐにでも跪いて、その靴を舐めていただろう。
「私の考えは全てお見通しですか。ではこれ以上、好意もない男をいぶるのはやめていただきたい。妻がいらぬ疑いを持つのでね。」
「ウフフ♪アハハ!ごめんなさい♥。ちょっと労を労いたかっただけよ♪お詫びとお礼にこれをあげるわ♥」
 デルエラの手がひらひらとゴルドの目の前で揺れると、手品のようにその細い指の間から紫の小瓶が現れた。指の間で小瓶をくるくると回し、最後に親指と人差し指で摘んで目の前で揺らすとパッと手を離した。
 ほとんど条件反射の勢いで小瓶をキャッチした後には、デルエラの腕も、泥のように濃い空気も消え失せていた。
『奥さんと交わる時に使いなさい♥。中身を飲ませるだけでいいわ♥。じゃ、がんばってねぇ♥』

 その言葉を最後にデルエラの気配は完全に消えた。プレッシャーが消えたと同時に、ゴルドは壁に手を着き大きく息を吐きだして、何度も何度も深呼吸を繰り返した。
「ぷはぁぁぁぁ〜〜!!ひゅ〜〜、…はぁぁーーーー!!…クソ!相変わらずなんて気配をしておるのだ!ハァー、ヒュー、ぜぇー。」
「おや?どうなされました、旦那様!?」
 廊下の端から執事長が駆けてくる。どうやら執事長にはデルエラが見えなかったようだ。
「どうしたもこうしたもあるか!お前今まで何処に居た!」
「何処に居たかと言われましても、馬車を呼びに行けと命じたのは旦那様自身ではございませんか。それも、ほんの5分程の話。」
 ゴルドには1時間以上に感じられた謁見は、実際には5分ほどの立ち話でしかなかったようだ。あれで第四王女。あの上に姉が三人と母親までいるのだから恐ろしいものだ。
「?ゴルド様、それは?」
 執事長がゴルドの手に握られていた物を指さした。
 紫の小瓶。手の平に収まるほどに小さなその小瓶には、液体が入っているようで、振ればちゃぷちゃぷ音を立て、粘度が高そうなのでで油の様にも見える。そして、ほのかな暖かさも感じることができた。
 あのデルエラが直接手渡しで寄越した品物である。ただの香水や香油、媚薬の類ではないことは明白であろう。
「交わりの時に使え、か。まぁ、持っておいて損はないであろうな。」
「はぁ…。」
「行くぞ。こんな所に長居はしたくない。また何が出てくるか分かったもんじゃないからな。」
 踵を返し、執事長を放ってきびきびとゴルドは歩き出した。
 状況がよく理解できない執事長は、ゴルドがいた方向、自分が来た方向とは逆方向の廊下を睨む。炭の色でもない、夜の色でもない、真っ黒に、只々真っ黒に染め上げられた空気が広がる空間。
「…ッ!」
 急に寒気がしてきた執事長は、自分でも解らない感覚に突き動かされ、ゴルドの後を足早に追いかけた。

 人が闇を恐るのは、目が見えなくなることに対する不安感や孤独感からではない。その奥に潜む『何か』が自分を見ていることに恐怖するのだ。





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どうも、久しぶりの更新です。
この半分エターなる癖をどうにかしないといけません、特車2課です。
今回も、例によって「一話分」として書いていた物が長くなりすぎたので、半分だけ先行して公開したものです。
エロ部分は後ほど公開する予定で、次で最終回の予定です。
ですので、もうしばらくお待ちください。><

誤字脱字等があれば感想欄の方でお知らせください。

14/02/17 23:20 特車2課

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まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33