第四部隊隊長を務める私としては、
彼女たちのそれぞれの特化した能力を見極める必要がある。
その見極めにはまず彼女たちの訓練の際現れる特徴を観察すればわかる。

「イッチニー、イッチニー………よし！
ランニングはここまでとし、つぎは遠距離攻撃の練習に入る！
それぞれ、自分にあった遠距離武器を用意しろ！！」
『はいっ！！』

この遠距離攻撃の訓練は１００メートル離れた的を射抜く、
この訓練で特に実力を発揮するのはケンタウロスであるキリアナだ。
彼女は元々シュザントに入隊する前は狩人として生計を立てていたらしく、
我が隊では彼女の弓の実力は群を抜いており、非常に頼もしい。
ほかにもキリアナは薙刀のような槍を扱うことにも長けており、
近中遠距離、そのすべてを彼女は補うことができる。

そんな彼女に比べて弓やボーガンの扱いが非常に不得意なのが
ミノタウロスのシウカだ。
どうも矢を放つ際に一番大切な集中力がないのが原因らしい………、
しかし彼女の場合はそれをも補う斧による強力な破壊力がある為、
重装備を持った敵に対しては非常に頼もしい。

接近戦でいうのなら、リザードマンのサキサも実力は十分だ。
シウカのような破壊力こそないものの、多少弓は扱える上
的確な攻撃で確実に相手を倒す技術に長けている。

そして次にワーウルフのリゼッタだが、
彼女はその素早い身のこなしで、連続的な攻撃を得意としている。
並の人間が相手では、その素早い動きに翻弄され、いつの間にかやられている
という悲しい敗北を味わうだろう。

次にブラックハーピーのノーザは頭脳面が優れており、
相手の動きや考えを予想し、それに対処した動きができる、
さらに羽を有しているため　制空権を自分のものとすることによって、
人間では対処できないような攻撃が展開できる上、空からの偵察が可能だ。

最後にアラクネのヴィアナだが、これがなかなかの曲者。
自慢の糸を器用に操り、戦場の無数の罠を張るため
少しずつ敵の数を減らすこともできれば、敵を誘い出し
一網打尽にすることもできる。
（だが彼女曰く、時々味方の兵士も罠に掛かってしまうのはお約束らしい）

このように、私は隊長として彼女たちの特性を熟知し
戦場で各々の能力をうまい具合に効率よく使い分ける必要があるという訳だ。
その使い分けが戦場での彼女達の生死を左右するのだからな………。



午前の訓練が終わり、今日は隊員たちに１２時から１６時までという
満足のいく有意義な休息をとらせてやることにした。
ヴィアナやシウカが言ったとおり、最近訓練詰めだったからな。
その間、私は隊長室である自室で上官からの報告書などを確認していた。
するとその時、扉からノックが聞こえてきた。

「隊長、お時間よろしいだろうか？」
「この声……サキサか、入れ」
「失礼します」

ガチャリと扉の音を鳴らし、サキサが入ってくる。
私も手にもっていた書類を机に置いた。

「どうした？総隊長からなにか伝言でも預かってきたか？」

ついでに総隊長というのは、私が所属するこの拠点そのものを統一している
我々隊長格の隊長と言ったところだ。
じきに会うだろうから、君にはその時に詳しく紹介するとしよう。

「いや、今回は私用で参らせていただいた。
隊長！私と手合わせをしてくれないだろうかっ！？」

その言葉に私の体がぴたりと止まってしまった。

「………お前、自分がリザードマンだと自覚してそれを言ってるのか？」
「ご、ご、ご、誤解しないでくれ隊長！
私が頼んでいるのはあくまで『手合わせ』であって、『試合』じゃない！
け、けっして隊長をお、お、夫にしたいとか、そういうのではないッ！！」

赤面で手を大げさに動かし、サキサは必死で否定する。
なにもそこまで全力で大げさに否定することもないだろうに………。

「しかし随分と突然なのだな、なにかあったのか？」
「い、いや。別にそんなおおそれた理由はない。
ただここ最近、隊員同士の模擬戦訓練では物足りなくなってしまってな。
それで考えてみれば、私は隊長と一度も手合わせしたことがない。
それで隊長がもしよければと思い………」
「…………ふむ、」

確かに考えてみれば第四部隊の隊長となり　
隊員の何人かとは手合わせしたことはあったが、サキサとは一度もない。
隊長として、一度手合わせをしてみれば
また新しい特徴の発見ができるかもしれない。
それにここ数日出動命令もなかった為、自分の腕が鈍っている可能性がある。
丁度良いかもしれん、
なによりサキサの剣の腕は我が隊でも上のほうだ、
彼女から学ぶものも多だあるだろう。

「わかった、場所は中庭でいいな？」
「うむ、問題ない。隊長なら受けてくれると思っていたぞ！」

とても嬉しそうな顔でサキサが私の部屋を後にする。
私も腰に差してある愛剣を少し確認し、その後を追うのだった。
中庭の訓練場に到着すると、既にサキサが剣を抜いており
私の準備を待っていた。ふむ、どうやらやる気十分らしい。
しかしふとサキサの後ろを見てみると、キリアナがそこには立っていた。

「隊長、この手合わせの審判、立会人として
我が盟友キリアナに来てもらったが不満はないな？」
「問題ない、では始めるとしよう。
ほかの隊員たちが来たらなにかと騒がしいだろう？」
「ふっ、違いない。ではキリアナ、よろしく頼む」
「了解した」

サキサとキリアナは軍に入隊する以前からの親友同士らしく、
それ故に第四部隊の最強コンビなどとも言われている。
そしてそのキリアナが私とサキサの間に入り片腕を掲げる。
それを見て私もサキサも互いに剣を抜く。
サキサが扱う剣は刀身が太いブロードソードだが、
私の扱う剣は刀身がレイピアのように細長いロングソード。
よく「こんな細長い剣では折れるのではないのか？」と疑問に思われるが、
この剣の作り手は、魔界では有名なプロの鍛冶屋、
私の知り合いであるとあるサイクロプスとドワーフの二人組だ。
その強度と切れ味はお墨付きといっても過言ではない。

「両者、素晴らしい戦いを期待しています
準備はよろしいですね？では…………初めッ！！」

その言葉を合図に私とサキサは大きく前に駆け出す。

「でやぁっ！！」

サキサが剣を横に薙ぎ払ってくる。
サキサは女性だが魔物ゆえ、そのパワーは凄まじい、
私は大きくジャンプし、その攻撃を回避する。
そこからすぐさま、私は宙に浮いた姿勢のまま反撃行動に移した。
その攻撃の軌道には薄黒い線が浮かび上がった。

「くっ！？」

サキサが咄嗟に後ろに飛び退き、私の攻撃を回避した。

「さすがだな隊長。相変わらず凄まじく鋭い剣捌き
いつ見ても惚れ惚れするぞ、私達を束ねる男はそうでなくてはな！」
「世辞をしてくれても手加減はしてやらんぞ？」
「そんなものいらん、私は正直な感想を言っているだけだ、なあキリアナ？」
「ええ、サキサの言ってることがもっともですよ隊長。
いつ見ても素晴らしい見事な斬撃です、
攻撃の軌道が空気中で線を描くだなんて芸当、
隊長ぐらいにしか起こせませんよ」


キリアナが言う空気中で線を描くというのは、私の斬撃の際起こる現象だ。
私自身の剣の腕も多少はあるのだろうが、先に言ったように私が使うこの剣は
知り合いのサイクロプスとドワーフが作り上げてくれてくれた代物だ。
彼女達が作ったこの細長く鋭利な剣だからこそ起こせる現象………、
どういう原理なのかは詳しく聞かされていないが、
見る人から見れば、攻撃の軌道に沿って薄黒い線が引かれているように見える
なぜ薄黒いのかというと剣の強化材質に使われている
特殊な魔力物質が原因らしい。
別に薄黒くなる材質ではなくてもよかったらしいが、
そのサイクロプスとドワーフの二人組が言うには、
「せっかくカッコイイ黒ずくめの軍服なんだから、全部黒で決めないと！！」
との事らしい。一体私になにを求めているのだろうなあいつら………
しかもその際に、私の茶髪も黒に染めないかとまで持ちかけてきたのだから、
とんでもなくはた迷惑な話である。


「………？隊長、手合わせの最中だというのになにをボーッとしている！」
「……いや、なんでもない。では次はこちらから行こう……」

そう言って私は一歩力強く踏み込み、
その勢いで一気にサキサの目の前まで飛び出す。

「くっ！？」

サキサからしてみれば相手に一瞬で間合いまで詰め込まれた感覚だろう。
私はそのまま彼女に突きを放った。
しかしさすがは魔物だ、その動体視力は人間をはるかに超越しており
この至近距離だというのに、彼女は咄嗟に自分の剣の刀身を盾にし
私の剣の突きを受け止めた。

「お前達魔物のそういった能力は正直言って羨ましいぞ………、
私達人間には到底真似できないからな……、……だが…」
「う……、なにっ！？　うわぁあっ……！！？」

刀身を盾にしたのは咄嗟の判断にしては上等。
だが咄嗟の防御だった為か、刀身を下に向けている姿勢なっている。
剣先を地面に向けているということは
剣のそのものを持つ重力が必ず下に集中してしまうのだ。
私はサキサの剣のグリップ部分を彼女の手の上から強く掴み、
そのまま力一杯地面に突き刺したのだ。
そして私はそのまま彼女の喉先に剣を突き付けた。

「どうする、続けるか？」
「………フッ、参った…降参だ」

彼女はそう言って両腕を軽く掲げる。

「勝者、ザーン・シトロテアッ！！」

キリアナが試合でもないのに大声で私の勝利を宣言すると、
私は剣を数回振りかざし、鞘に納めた。

『キャアアアアアアアァァァァァッ！！』

すると突然私の後ろから歓声が飛んできた。
驚いて後ろを振り向くと、我が隊の残りの隊員達がそこには集まっていた。
……………いつからいたのだ？
そしてそんな中から一番先に飛び出してきたのがリゼッタだった。
それに続いてノーザ、ヴィアナ、シウカもやってきた。

「お見事でした隊長！」
「やっぱり隊長はさすがですっ！と私は思います！」
「はぁ〜、戦っている隊長の姿っていつ見てもかっこいいわぁ〜♪」
「まったくだぜ隊長！なぁ、今度はアタイと勝負してくれよ！」
「………………お前達いつからいた？」
『剣を抜いたとこから』
「…………………」

手合わせが始まる前からいたのか、気付かないとは私も未熟だな。

「隊長！アタイと勝負勝負！！」
「よさないかシウカ、隊長はサキサと戦い終わったばかりだぞ」

闘争本能がいきり立って興奮しているシウカをキリアナが止めに入る。
私はそれをよそに、剣を抜いて鞘に納めているサキサのほうを向いた。
私が顔を向けたのも見て、先にサキサから声をかけてきた。

「隊長、いい鍛錬になった。手合わせの相手感謝する」
「それはこちらも同じことだサキサ、
だがやはり些細なミスが命取りとしているぞ。
先ほどの刀身での防御のとき、お前はグリップを両腕で握っていたな。
本来そんな持ち方では、刀身で攻撃を受けるときの反動を強く受けるのだが
お前は自分の魔物としての能力に頼りすぎている。
だから先ほどのような、私に剣を捕まれるような隙を生んでしまうのだ。
次からは刀身で防御する時は、刀身の反対側も片腕でいいから抑えろ」
「ふむ………なるほどな、了解した隊長。
戦闘指南、誠に感謝する！片手で刀身を抑える………こうだなっ！？」

サキサはすぐさま剣を抜き、私が言ったとおりに
片手でグリップを持ち、もう一方の手で刀身を抑えた。
私はソレを見て素早く剣を抜き、彼女の刀身を突き刺した。
剣と剣がぶつかり合う金属音が響き、しばしの静寂が流れ
私は静かに剣を鞘にへと納めた。

「それでいい、次からは実戦でうまく扱うといい」
「はっ！」

サキサもすぐに刀を納め、私に向かって敬礼の意を示した。



「あ、隊長。総隊長から伝言を預かっております」

一通りの指南も終えると、リゼッタがそう告げてきた。
ふむ、総隊長が…………

「内容は？」
「はい、『至急私の部屋に来いッ！』とのこと」
「………わかった、時間は…………まだ１５時か、
お前達は休息を続けていて構わん、言ったとおり１６時には訓練を再開する」

私はソレだけを言い残し、その場を後にした。
そして廊下を早歩きで進み総隊長室にへと辿り着く、
私はその扉を二回ノックし、扉の向こうから「入れ」と聞こえてきた。

「ザーン・シトロテア、入ります！」

ある程度声を張り上げて私はその扉を開け中に入る。
総隊長という重要な役割だけあり、中は私の部屋より豪華な作りである。
しかしこれは………やはり何度来てもこの部屋は慣れないな。
外から見てみればまさに別世界と言ってもいい。
赤い絨毯やカーテンが張り巡らされており、
アンティークな家具が数々と置かれ、壁などは金品などで着飾られている。
その上、天井にはシャンデリアが吊るされている始末。

「遅いッ！私は１０分前にリゼッタに伝言を預けた筈なのに、
これ程の時間が掛かるとはどういうつもりだっ！！」

そして部屋の奥にある机を前に威厳に満ちた雰囲気で椅子に座っているのは
我らが総隊長であり、一番隊隊長　ヴァンパイア、「カナリア」公である。

「申し訳ありませんカナリア公。
リゼッタはちゃんと職務を果たしていたのですが、
自分がなにとぞ手が放せない状況でした故………」
「そんなこと貴様が言わなくてもわかっている！
リゼッタが私の命令を疎かにするなどありえんことだ。
どうせ貴様が不甲斐無いのが原因だろう！
たくっ……、これだから人間など使えんのだッ！！」

カナリア公の人間嫌いは相変わらずのようだ。
しかし公の言うとおり、今回は私がサキサとの手合わせを終えるまで
リゼッタを待たせてしまった事に原因がある。彼女に罪はない。

「……カナリア公。ご用件は？」
「フンッ！まあいい、貴様を呼び出したのはほかでもない。
とある村から救援要請が届いているのだ。
村の名前はハルケギ村、魔王軍の領土にある村なのだが
今日の昼ごろ、マスカーからの侵略攻撃を受けたそうだ………。
その地方の管轄である魔王軍が現在交戦中だが、
村人を守りながら戦闘のため、忌々しくも苦戦に強いられているらしい…
現在我がシュザントで手が空いているのは貴様の第四部隊だけだ、
貴様に命令する！
直ちにハルケギ村に向かい、魔王軍を援護し、村人を守りつつ
忌々しきマスカーを血祭りにあげるのだっ！」

カナリア公はそういって机に置いていた地図を私に放り投げてきた。
そこには戦地となっているであろうハルケギ村までの
最短の道のりが示されていた。
私はソレを確認すると、突然カナリア公が私の胸倉を片腕で掴みかかった。

「だがな……これだけは覚えておくがいい　ザーン・シトロテア、
人間のお前のことなどどうなっても構わんが、お前のところの隊員たちは
私の大切な仲間たちだ！もし彼女らのひとりでも危険に晒してみろ……
貴様のハラワタをぶちまけ、手足を引きちぎり
この赤き絨毯を貴様の鮮血でより赤く染めてくれるわっ！！」
「…………了解しました、第四部隊隊長ザーン・シトロテア
これより隊を率いて、ハルケギ村に向かわせて頂きます………」
「………ふんっ、さっさと出て行くがいい…」

公の腕から解放され、私はそのまま総隊長室を後にした。



「感心しないぞリゼッタ。総隊長室の壁に耳を立てるなど
スパイ容疑で裁判にかけられてもおかしくはないぞ？」
「隊長………」

部屋を出てみると、壁に手と耳をつけていたリゼッタがそこにいた。
なにか言いたいようだが、総隊長に聞かれてはいろいろと面倒だと判断し、
私はそのまま廊下を歩くことにした。そんな私の後をリゼッタが追う。

「あの……隊長、すみませんでしたッ！」
「なんだ突然？」
「嫌な予感はしてたんです……、それで話を聞いていたら………
私が手合わせのとき、無理やりにでも隊長に伝言を伝えていれば……」
「………お前が謝ることではない」
「ですが隊長！それでは私の気が………」
「くどいぞ　リゼッタッ！！」
「………ッ！？」

私は大声を出し、リゼッタを無理やり抑圧させた。
彼女の言い分もわかるが、今私がやるべきことはほかにある。

「カナリア公より、出動要請が出た！
直ちにほかの隊員を収集、支度をさせ、門に集合させろ！
私は先に門で待っている。５分以内に来るように伝えろ、わかったなっ！？」
「は……はいっ！」

リゼッタは直ぐに敬礼をし、私は支度の為、駆け足で自室に向かった。
その途中に後ろから「隊長……」と寂しそうな声が聞こえた気がしたが、
私は今、そんなことに気をとられている暇はない。
自室に到着し、戦闘と移動に必要な装備を整え、私は門に向かうのだった…。

■作者メッセージ
二話から冒頭からこんなに主人公のバトルスタイル説明してよかったのか？
手合わせは普通の剣にして実戦の防衛線で明かしたほうが
見栄えがあってかっこよかったのでは！？
とかなり悩んだのですがやめました、頭痛くなるから！！

本文でもちょっとだけ説明しましたが、主人公のザーン隊長の特徴は

茶髪で少しオールバック、グレーの目、シワもない整った顔立ち、
黒の軍服で袖の隙間から白シャツを覗かせている感じです。
（※当初は金髪だったのですが茶髪に修正しました）

彼がなぜ、魔物たちに加担するのか、なぜ隊長となったのか
その剣の腕はだれから学んだのか！？
それについてはのちのち説明したいと思います
（本当はまだ全然考えてないなんていえない・・・）

隊長が着ている黒の軍服なんですが、一応私のイメージでは
魔王軍に属している人間軍人（隊長格）だけが着込む軍服で
一般の魔物兵は見た目だけで判別できるので、軍服を着込まず
図鑑どおりの格好って感じなのですが
そこらへんは皆さんのご想像にお任せします。

武器を作ってくれたと言うサイクロプスとドワーフの二人組なんですが、
一応ちゃんと作中に出す予定です。
後日談的なもので登場させようかと考えてはいたんですが、
隊長が第四部隊の隊長になったときの隊員たちとのやりとりもありますので
なにとぞご了承くださいませ。

もしなにか隊長や隊員、物語について参考かアドバイス頂ければ幸いです！
どうぞ遠慮せずお願いします！