第十二章†奪還の予兆†
現在も尚続く魔王軍とマスカー軍の緊張状態。
先の大戦をきっかけに魔王軍は
集中的兵力を用いての大規模な攻撃は極力控えている傾向がある。
殲滅大戦で魔王軍が受けた傷跡はあまりにも大きかったからだ。
勝利を確信したときほど脆いものはない。
大戦時の魔王軍は紛れもなく其れだった、
かつてザーンは言っていた、「あの戦いは後一歩で勝てた戦いだった」
言い換えれば、その『一歩』ほど魔王軍が脆い時はなかったのだ。
それを立証したのが始教帝レインケラーの奇跡的逆転劇、
戦場で見せたその巻き返しは魔王軍にとっては想像もできない痛手であった。
次々と倒れていく魔物娘やその夫たち、
その戦いで魔王軍が失ったのはあまりにも大きい。
そしてそれは今尚続いている…、
電撃的勢いに乗ったマスカーたちはその勢力を拡大し、
大陸のほとんどを支配下に治めていた魔王領を侵略……、
今でこそ多少は落ち着いているが、その被害も決して軽くはない。
しかし僅かながら回復の兆しもある。
人間とは違い魔物は種族にもよるが成長段階が早く、
生まれながらにして強力な戦闘力を持つ者も多い…、
だからこそ現在の魔王軍は大勢の魔物が
犠牲になる恐れがある戦闘を極力さけ、
互いの領土を奪っては奪い返しの繰り返しを続けている。
魔王軍も痛手を負っているが当然それはマスカーも同じこと…
だからこそ向こうもこちら同様に
小規模な戦闘で出来る限りの現状を維持しているのだ。
…だがどちらも確信はしている。
またいずれ、免れることもできない大規模な戦いは必ず起こる。
いわば今の小規模な戦闘はその為の備え……、
必ずまた、どちらもが大勢傷つく戦いが起こる。
しかしどちらも引けないものがある。
魔物として人間として、魔王軍として教団として
決して屈することもできない長年のシガラミがある。
そしてザーンたち第四部隊もまた、
そのシガラミに縛られるままに戦いに赴くこととなるだろう……
魔王軍の手足として、軍人としている限り、彼らに戦い以外の道はない……。
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≪主人公:ザーン視点≫
コーヒーでの謎の騒動一件を後にし、
私とリゼッタは会議室にて、キャスリン将軍やネルディ隊長、
そのほかの隊長格たちとともに、情報交換及び、
これからの方針を話し合っていた。
それぞれの隊長が自分の所有している情報を提供し、
送られてくる情報は、私の後ろに立っているリゼッタが
手に持つファイルに書き留めていた。
「以上のことから、まやかし兵に関しては本城に報告のうえ
最善の注意を呼びかけるべきかと…………」
私もまた、隊長である以上その一人だ。
先程リゼッタとサキサの二人と話し合って整理した情報を
キャスリン将軍たちに報告。
「そのダヴァドフという男の特徴は?」
「はい、長身・顎鬚を蓄え………」
そして向こうからの質問を精密に返答していた。
…それから先程の会話で「本城」という単語が出てきたが、
コレは説明するまでもないだろうが、「魔王城」のことである。
「……ではこれで本日の会議を終了するわ、みんなお疲れ様。
それぞれいつもの訓練に励むようにお願いね、
私たちがマスカーとの戦いに勝つかどうかで
どこかで平和に暮らしている魔物や人間たちの命運を分けるということを
くれぐれも忘れないようにね?」
『はっ!!』
キャスリン将軍の言葉を合図に私たちは一斉に敬礼をした。
そしてそれぞれが持ち出してきた書類などをまとめ出し会議室を後とする。
私もリゼッタにいくつか書類を手渡した後、
彼女と共にその場を後にしようとしたが、キャスリン将軍が声をかけてきた。
「ああ、ちょっと待ってザーン隊長」
「…はい、なんでしょうか?」
私が足を止めれば、リゼッタも私の後ろで足を止めた。
「ふふっ、そんなかしこまなくてもいいわよ。
ちょっとした世間話、隊員さんたちの調子はどう?」
其れを聞けば、私は将軍に報告すべきことを思い出す。
「将軍殿らの処置のおかげでみな全快へと向かっております。
それで、将軍殿に報告したいことがあるのですが……」
「報告ね…言わなくてもわかるわ、シュザント拠点に戻るんでしょう?」
「ええ、こちらでお世話になったことは私もこのリゼッタも…
隊員たち全員が心より感謝しております…。
ですがあまり長居しては、カナリア公の大目玉を受けかねませんので」
「ふふっ、あの吸血鬼さんらしいわね…了解したわ。
シュザント拠点までの転送陣を用意しておくから
準備が整ったら声をかけて頂戴、私はいつもの将軍室にいるから」
「はっ!」
私が敬礼をすれば、リゼッタもそれにつられて後ろで敬礼をする。
其れを見れば将軍はクスッ、と微笑み「そんなかしこまなくてもいいのに…」
とだけ呟いてその場を後にした。
改めて思うが、本当にデュラハンらしくないお方だな彼女は…。
強気で意地を張る姿こそデュラハンの典型だが、
将軍のように、ああもおしとやかな雰囲気を持ったデュラハンも珍しい…。
などとも考えるも、私とリゼッタは今度こそ会議室を後にするのだった。
(いくら典型とはいえ、それぞれの個性もあるだろうさ…
なにもすべての同種が同じ人格というのも些か偏見かもしれんな)
「ザーン隊長?どうかしましたか?」
廊下にてキャスリン将軍のことを少し考えていると
リゼッタが上目遣いで私の顔を覗き込んだ。
「…いやすまん、なんでもない。とりあえずはだ…リゼッタ
他の隊員たちに報告を頼む、『各員、帰還の仕度』をだ。
そうだな…一時間後にて中庭訓練場にて集合するように頼む」
「はい、了解しました」
あの演習にて関係が深まったからもあるのだろうが、
リゼッタがこれまたいい笑顔で敬礼し、すぐさま報告に向かうのだった。
私とは違い、リゼッタはワーウルフであり嗅覚や機動力が優れているからな…
このような報告は彼女に頼めばあっという間だ。
改めて、私は優秀な補佐を持ったな。と至福に思うのだった…。
しかし…その一方で、サキサと交わったことを彼女はどう思うのだろうという
罪悪感を強く感じてしまうのだった…。
別段、サキサと交わったことに後悔はない…
しかしそれでも彼女たちの想いを傷つけてしまうようなことは
この命に代えても避けたい……、さて…どうするべきか…。
私は荷物をまとめ(とは言っても大したものは持ってきてはいないが…)
中庭の訓練場に向かおうとすれば、その道中で意外な相手に出くわした。
「…スーア?」
「……………」【ぺこりっ】
廊下の曲がりで、この拠点ではあまり見慣れない
サハギン特有の水色の鰭のような手足や尻尾。
そしてなにより、その無表情でクールな外見が特徴的と言える。
礼儀正しくこちらに向けて頭を下げ、そこから再び上げれば
その水底のような目が真っ直ぐと私を見ていた。
「…不思議だ、なぜかお前と会うのが久しぶりのように感じる」
「……無理も、ないと思う……だって…貴方、二日間寝込んでたから…、
昨日だって…会ってない……私だって、久しぶりに…感じる…」
口元を極限まで小さく開きながらも、その言葉を私の耳に届ける。
「ほぉ…しかし、将軍から話は聞いている。ここの食事は満足したか?」
キャスリン将軍は彼女たちの働きを賞賛し感謝を礼を込め、
スーアたち森のサハギンたちを招き入れ豪勢な食事を与えたという…
……言っておくが、食事といっても『アチラ』の方ではない、
ちゃんとして食べ物のことだ……。
「うん……森や川にはない…おいしいの、たくさん…
みんなと一緒に…、食べれた……。でも…それも今日まで…」
「…森へ帰るのか?」
私がそう答えれば、スーアは無言で頷いた。
「うん……ここの食べ物…満喫したから……私も、みんなも…もう十分…」
「そうか、あの時…お前たちには大いに助けられたからな、
しかし私自身は…お前に何も恩を返せていない…。許してくれ」
「………………」
私が謝罪の言葉を呟けば、突然スーアが何かを考え込んでいるのか
顔をうつむけはじめ、しばらくしてから再び私の顔を凝視し始めた。
「………ねぇ…」
「なんだ?」
「…もし…よかったら…今…返して」
「なに…?」
「……だから…恩…」
無表情で呟くように答えてはいるが…気のせいか、
今のスーアの顔は無表情というよりも、ぎこちないように感じる。
「…わかった、だが私も今隊員たちを待たせている。あまり時間は…」
「時間は…取らせないから……だから、ね…屈んで?」
「屈む…?これでいいか?」
私は膝をつき、出来る限りスーアと同じ目線の高さまで身を低くした。
「…うん、でも…まだ…目…瞑って…?」
「……こうか?」
サハギンはその無表情さから、心情を読み取ることが出来ない。
元より彼女たち魔物の思考と人間の思考は多少ズレた差異がある、
故にスーアがなにをしたいのか見当も付かないが為に、
私は彼女の言うとおり行動した。
【チュッ】
…………………………………………………んっ!?
「……………………」
頬に伝わる感触に反応して目を開ければ、
両目を瞑り、その小さな唇を私の頬に当てているスーアの顔が映った。
これには流石に私も体が硬直してしまったが、
恐る恐るスーアが目を開き、ゆっくりと唇を離した。
「………スーア、お前…」
彼女のこの行動である程度の
その心情を察することはできたが同時に疑問が生まれる。
元来サハギンとはその口数の少なさから、
極端な行動で自分の想いを示す魔物だ。
スーアが私の頬にキスをしたという行動は
つまりあろうことか、彼女は私に浅からぬ好意を持っているということだ。
しかし、それなら……もっと大胆なはずだ。
体を密着させる然り、押し倒す然り………それがサハギンという魔物だ…
しかしスーアの行動は『頬にキスをするだけ』だった…
其処に私は深い疑問を生むこととなる。
私は再び立ち上がり、まっすぐとこちらを見上げるスーアを見下ろした。
「……ありがとう……今は、これで満足…」
そしてその小さな口元からスーアは呟いた。
「今は…?」
「うん……今は」
「…どういうことだ?」
「そういうこと…貴方の周り…大切な人たちでいっぱい…だから…今はダメ」
「…………?」
「…私が、どんなに頑張っても…多分、あの人たちよりも…
貴方っていう域…にまで、いけないとおもう…」
「私の域だと?」
「忠実……でもどこか一人ぼっち…」
「……………………」
スーアのそんな物言いは、どこか…私の心を苦しませるところがあった…。
「…あの人たち、なにがなんでも…貴方の傍に、立ちたいと思ってる…
だから、せめて今は…私…これでいい……だから……」
その感情こそ感じられないはずの顔が、
なぞかどこか不安そうに変化したように見え、
私を真っ直ぐと見るその瞳を見た。
「また……会える?」
「…ああ、またいつか」
「……………………」
小さく、彼女が呟けば…私に背を向け、廊下の奥へと歩いていくと
再び振り向き、私を見れば……。
「…またね」
廊下の曲がりを進み私の視界から消えていったのだった。
「……ああいった魔物は、どこか侮れんな」
既にスーアも誰もいないその廊下を眺めながら
私は何気なく呟くのであった。
『たあぁいいぃぃちょぅおぉ〜〜〜〜〜…………』
【ギックゥッ!!】
背後より聞き覚えのある二つに重なった暗い声、
内心でかなり驚きながら肩を跳ねさせ、私は恐る恐る振り返った。
一瞬そこにいる二人の姿が少女の姿をした悪鬼がいるような錯覚を覚えた。
……魔物である以上、大方間違ってはいないような気もするが…。
この二人は場合は鬼ではなく狼と蜥蜴である……。
「ふふっ、やっぱり隊長はモテモテですよねぇ〜〜……
そう思いませんかサキサさん?」
「うむ、そうだなぁリゼッタ……
なんせ私たち二人をモノにする程の御仁なのだからなぁ〜〜……」
満面なる笑顔とは裏腹に、そのゆらゆらと動く狼の尻尾と蜥蜴の尻尾が
このただよらぬ雰囲気をさらに強調し、
どういうわけか、リゼッタたちの鼻の上から顔半分を黒い影が
覆っているようにも見える…錯覚か?
いや、それ以前に彼女たちの背後からも
見えてはいけないなにかとんでもない何かまで感じてしまう。
鏡を見ないと分からないが、恐らく今の私の顔は彼女たちとは逆に
青ざめてを通り越して蒼白になっているかもしれない。
「お、おい待てお前たち……話を…」
「話すまでもないですよザーン隊長ぉ?
私たちずっとその物陰で見てたんですからぁ〜〜…」
「そうだぞぉ〜?ザーン隊長が来るのがあまりにも遅いものだから
私たちが心配になって見に来たというのに………」
「いや、だからだな…」
「サキサさんと二人で廊下の角を曲がったらビックリですよ。
ザーン隊長がスーアちゃんに…スーアちゃんにぃいい…」
「ほっぺに…ほっぺに…チュウされてぇぇぇええ…」
ぅおーい、さっきと打って変わって二人して涙目にならんでも…
私はてっきり二人が怒っているとばかり思ったが、
これはどちらかというと嫉妬に近いらしい……
確かに私にも責はあるかもしれんが……ん、待て…モノにした…?
「…質問してもいいかサキサ」
「うぅっ…なんだ?」
「私の聞き違いでなければ、お前は先程『二人をモノにした』と言った…
この発言から思い浮かぶのは…つまり…お前たち…」
『…………………………』
リゼッタとサキサは一瞬互いに顔を合わせた後、
二人して俯きはじめた。
「……話したか…いつだ?」
サキサは顔を俯かせたまま、小さく頷いた。
顔を上げると、申し訳なさそうな顔で口を開けた。
「……ついさっきだ…それだけじゃないぞ、リゼッタからも聞いた…
隊長が…あの演習の日に、リゼッタを抱いたって…………」
「………………………」
「……そうか…」
ああ…、これは厄介なことになった…。
私はそんな感情を表すかのようにため息を吐き捨てるのであった…。
≪ 時遡って数十分前 ≫
「隊長、少し遅いですね……」
中庭の訓練場にて、第四部隊の隊員全員が荷物を纏め、
帰還準備を完了させ集合したものの
今だ現れない自分たちの上司の到着にリゼッタはポツリと呟いた。
リゼッタのその発言にサキサやほかの隊員たちも同意するかのような
それぞれのリアクションを見せる。
「本当ねぇ、こういう時はいつもキッチリしてる筈なのに…」
まず最初にリアクションを見せたのは
片手を自分の頬を覆うように当てたヴィアナだった。
「うーん…、腹でもイテェのかな?」
「シウカさん、下品なこと言わないでください。と私は忠告します」
シウカの意見にノーザが素早いツッコミを入れた。
「あの方に関してもしものこともないと思うが、様子を見てこようか?」
こういう状況で気の利いた意見を述べるキリアナが
その馬の体を動かそうとした。
「あ、それでしたら私が探しに行きますから
みなさんはここで待っていて………」
「待てリゼッタ、それなら私も行く」
「……サキサさんも?」
「……不満か?」
「いえ、別にそういうわけじゃ……」
その気まずい雰囲気に何かを察したのか、
咄嗟にヴィアナが助け舟を出した。
「なら決まりね、ほらっそんなギクシャクしてないで
さっさと行ってらっしゃい、あんまりレディを待たすもんじゃないわよって
隊長さんに伝えて頂戴な」
「あ、はい…わかりました」
「リゼッタ、そこは普通に承諾するところか?」
などとサキサがツッコミを入れれば、少し和らいだ雰囲気のなか
リゼッタとサキサは共にその場を後にするのだったが…。
「………………………」
「………………………」
やはりいざ、二人で行動を共にするとなると、
一瞬でその気まずい雰囲気は戻ってくるのだった。
共に廊下を歩きながらも、互いに顔を合わそうとせず、
見事なまでに二人ともその歩き方からギクシャク感を表していた。
現にリゼッタの心境は…。
(きっ、気まずい…。どうしよう…この空気、重すぎます…!
前回のコーヒー…というか、間接キスの一件もあって
サキサさんの顔を見る事ができません……っ!)
などと思案しながら、時々サキサのほうに目を向けるものの
彼女がこちらに目を向けそうになると即座に目を逸らすなどという
行為の繰り返しであった。対するサキサも同じこと…。
(お、重い…っ!ついていくと言ったのは私だが、
まさかここまで居心地が悪いとは……まずい、ホントどうしよう…
さっきからリゼッタが凄くこっちの様子を伺っているし…、
こ、これは私から何か話題を振るべきか…?いやいやいやっ!
話題を振るにしたって、間接キスの時の雪辱がどうしても…)
などと此方もリゼッタとまるで似た思考を繰り広げていた。
(そ、そうですよ!とりあえず、もっと別の話題で
せめてこの空気をどうにかしないと…!)
(そ、そうだとも!いくら間接キスを奪われたからって
過ぎたことじゃないか、うん!
大体間接キス以前にもう私はザーン隊長と一夜を共に過ごしたじゃないか!
引きずってはダメだ!うん、よし決めた!何か別の話題を…!)
「あのサキサさん……!」「あの…だな…リゼッタ…!」
あろうことか二人は同時に声をかけてしまった。
「「……………………………………」」((お、重い…))
「あ、あの…サキサさんからお先にどうぞ…」
「い、いや…先にリゼッタから言うといい…」
あまりにもその空気にサキサはリゼッタから目を背けてそう呟いてしまった。
この散々な空気をどうにかしようとリゼッタも必死で言葉を探す。
「は、はい……あ、あの〜…あれですよね!……え、えっとぉ〜…
そ、そう…!サキサさん、今日は随分と隊長と仲良かったです…ね……」
「えっ?」
「ほ、ほら…なんというか…凄く…気分がいいと言うか…
いつも以上に可愛らしいというか………」
しかしその必死に口から吐き捨てた言葉に彼女は後悔した。
(や、やっちゃったぁ〜〜…っ!何言ってんですか私はぁっ!?
サキサさんが隊長とそういう仲になったっていうのは
気づいてるのにこんな話題振っちゃったら余計気まずく…!)
と、自分の失態を内心で激しく後悔し、改めてサキサのほを見てみると…。
「わ、わかるかリゼッタっ!」
(あ…あれ!?)
なぜか先程とは打って変わって歓喜を表し始めた表情を見せていた。
その意外な反応にリゼッタは内心混乱してしまう。
しかしそんな彼女の混乱も知らず、サキサはその訳を説明し始める。
周囲に目を向けて、傍に自分たち以外は誰も居ないことを確認すると、
サキサはそっとリゼッタに近づき、耳打つをし始めた。
「ま、まだ誰にも話していないのだがなリゼッタ…
じ、実はな…私…その、き…昨日…隊長と……その…なんというか、
し、試合をしたんだ…。リ、リザードマンの試合の意味くらい
お前にもわかるだろ……?」
「…ええ、まぁ…」
(というよりも、交わったことも匂いで気づいてはいるんですけどね…)
リゼッタは第四部隊の中でも…というよりも並みのワーウルフよりも
群を抜いて鍛えられた優れた嗅覚を持つワーウルフだ。
前回でも彼女自身が語ったことだが、
リゼッタはサキサとザーンが交わったことに
気づいておりそれを受け入れている。
だがサキサは別だった。いくら魔物と言えどリザードマンは
ワーウルフほど嗅覚には優れておらず、
何よりそれ以前にサキサ自体がどこか恋愛や色沙汰に鈍いところがあった。
それ故に、サキサはリゼッタがあの演習場でザーンと交えたことを知らず、
あろうことか、今この時…サキサはザーンとの恋愛感情に強く芽生えており、
『自分が隊長との初めての相手♪』と勘違いしているのだ。
嗅覚のほかにも、補佐役として頭脳にも優れているリゼッタが
その勘違いに気づくのはサキサの反応を見て直ぐだった…。
(そ、それは私だって気持ちはわかりますよ…?
で、でも…だからって目の前で…なんですかその反応………ッ!)
…そう、リゼッタはそのサキサの反応が…物凄く気に入らなかったのである。
……つまりまぁ、簡単な話……嫉妬だ。
(……なにこの人!?なに勘違いしてるんですか!?
そんな嬉しそうに顔赤くしちゃって!隊長の初めては私ですよ…!?)
内心で凄まじき嫉妬の気配を巻き上げる一方で、
サキサは顔を赤くしたまま、両手を頬に当て乙女のような
幸福感に満たされた反応を表していた。
だがサキサに悪気があるわけじゃない、
リゼッタを同じ隊の仲間として、同時にこの幸福を誰かに知らせたいという
純粋な想いが単純に彼女の口から告げられているに過ぎない。
サキサがもう少し、頭の回転が速く察しが良ければ
まだ言葉の選びようもあっただろうが……。
「隊長…いや…ザーン隊長。昨日私になんて言ってくれたと思う?
戦士として、女として、リザードマンとしての幸福を約束する。って!」
「へ、へぇ〜…そうですかぁ〜……」【ゴゴゴゴゴゴゴッ】
満面の笑みを浮かべるサキサと、その一方で笑みを浮かべているリゼッタ。
しかし…リゼッタのほうは鼻より上が黒い影で覆われており
その笑顔の奥からも只ならぬ威圧感を放っていた。
だが記憶から蘇る昨夜の出来事を思い出し幸福オーラに包まれたサキサには
その威圧を感じ取ることはなかった。
簡単に言えば、リゼッタの嫉妬オーラがサキサの幸福オーラに届かないのだ。
「そ、それでな…♪隊長ったら私をだ、抱いてる時に…小声で…
き、『綺麗』って!綺麗だってぇーーー!!
戦うことしか知らない私に綺麗だってぇーーーーっ!!」
「お、おぉ〜…よ、よかったですねぇ〜〜…へぇ〜……」
(良くない、全然良くないですよこんなの!?)
両手を体の前で上下に振って、幸福に興奮する乙女チックなリアクションを
目の前で見せ付けられ、リゼッタの黒い威圧は高まるばかりだった。
それはつまり嫉妬の増幅を意味していた……。
だが賢しいリゼッタの理性がソレを必死で抑えようと抵抗し、
その意識を急いで隊長探しで気を紛らわそうとするのだったが、
それでも彼女にも意地があった、女として…魔物としての意地があった。
ザーンという一人の男に対する愛があった。
「うんうんうん♪それでなそれでなぁ〜〜…ん、どうしたリゼッタ?」
「…………うっ……」
「うっ?」
「ぅうるさぁぁああーーーーーーーーーーーーーーいっ!!!」
「うわぁっ!!?」
モフモフした両耳を押さえ、両目を瞑ってリゼッタがついに吠えた!
「ふぅーーーーっ…!ふぅーーーーっ……!!ふぅーーーーっ!!!」
「リ、リゼッタ…?」
大声で叫んだ後、リゼッタは酷く息を荒げ、
サキサが少し心配して声をかけるも、リゼッタはキッとサキサを睨んだ。
「なに勘違いしてるんですかサキサさん!!」
「えっ!?か、勘違い……?」
「そうです!!隊長の初めて!?…はっ!残念でしたね!
隊長は!貴方を抱く前に、あの森での演習で!
既に私のこと抱いてくれてるんですよッ!!」
「なっ………!?」
「勘違いしやすいサキサさんの為に言っておきますけど!
抱くっていうのは、抱きしめるの抱くじゃないですよ!?
エッチ!セックス!!既成事実っ!!魔物にとっての幸福っ!!!」
「な、なななっ…なんだとぉーーーーーーーーっ!!!!???」
内に潜めていた抑制心が爆発したリゼッタは
これでもかというほどの問題発言を連発するも、
とうのサキサはそんなリゼッタから告げられた驚愕の事実に
驚きを隠せないでいた。
「お、お、お、お前とザーン隊長がかッ!?」
「ハイそうです!私とザーン隊長がです!!なんです文句あります!?
言っておきますけど!順番で言えば私が先なんですからね!!」
驚愕の事実に驚きを隠せないサキサであったが、
そのリゼッタの一言には流石に反感を覚えた。
ショックこそはあるものの、元々リザードマンという種族の特性もあり、
引き下がらない強さというものをサキサは有していたのだ。
元よりサキサは前回の間接キスの件で、無意識のうちにリゼッタに対して
ライバル的な意識を持っていたというのも強い要因だろう。
「くっ…!さっきから聞いていれば好き勝手言ってくれる…!
た、確かに…まさかお前がザーン隊長と
既に交わっていたというのは悔しくてたまらないが、
魔物としての幸福ならば私とて同じことだ!順番など関係ない!!」
「うぐ…っ!?」
そのサキサの意外な反撃にリゼッタはついたじろいでしまい、
さらにサキサの反撃の勢いは増す。
「そう…そうだ!順番なんて関係ない!
私だって昨日心満たされるまで隊長に愛されたんだぞ!
それもザーン隊長は私を幸せにするとまで言ってくれたのだ!」
「うぐぐぐ……ッ!!?」【グサグサグサグサッ】
その発言にリゼッタは己の胸に突き刺さるものを感じてしまう。
先程とは形勢逆転、完璧にサキサが優位に立っている。
「そうだとも!考えてみれば、お前はどうなんだリゼッタ!
私は隊長と正式な試合を経て、種族の誇りとあの方からの
合意の上で互いに体を交えたのだ!お前はどうだったのだ!?」
「ぐっはっぁっ!!」【グッシャァッ】
サキサの止めの一言で、リゼッタはその胸の内が粉砕する錯覚を覚えた。
無理もない……サキサとは違いリゼッタは
水浸しで透けた己の裸をザーンに見られて発情してしまい、
その勢いで以前から抱いていた想いをぶつけて体を交え事なきを得た…。
そう…この『勢い』がリゼッタにとっては一番の負い目とも言えた。
そんな自分に比べ、正当なる形でザーンと交わったサキサに
リゼッタはどうしようもない差を思い知らされているのだ。
「…ふふんっ、どうやらその様子では
あまり好ましいシュチュエーションではなかったようだな?
わかったかリゼッタ?同じ男を愛する魔物にとって順番など
苦し紛れの言い訳……………隊長?」
「……えっ!?」
と、その激しい論争の最中にサキサは己の居る廊下から、
遥か向こうにザーンの姿を発見した。
それに釣られリゼッタも慌てて己の背後たる廊下の奥に目を向ける。
先程までの慌しい論争もどうやらザーンたちの
居るところまでは届いていないらしい……。
しかも良く見れば、ザーンのほかにも誰か居ることにも二人は気づく。
「「………スーア(ちゃん)?」」
そう、ザーンの体に隠れて姿こそははっきり見えなかったが、
その正体がサハギンのスーアであることに二人は気づく…が、その瞬間!
「「…………………なぁッ!!!!??」」
スーアが突然、ザーンの頬にキスをしたその光景に
二人は見事に絶句してしまったのであった。
「……………………………………」
「……………………………………」
スーアがその場から立ち去った後、
二人はそぉ〜っと、まるでゴーストの如く動きでザーンに近づいた。
『たあぁいいぃぃちょぅおぉ〜〜〜〜〜…………』
これが先程までの事の経緯である……。
≪時戻り再びザーン視点≫
「……………………………………」
「……………………………………」
「……………………………………」
…まず初めに言っておこう、
回想から戻りはしたが、現状はだいぶ変わっている。
まず一つに、今私たちが居る部屋は『シュザント拠点の隊長室』
つまり『私の部屋』だ。
あのきまづい空気の中、私は一旦シュザントの拠点に戻ろうと提案した。
…言わせて貰うが、逃げたわけではない。状況が状況だったからだ。
キャスリン将軍には既に報告をしていた上に、
あの時、第四部隊の隊員たちを中庭に待たせたままだった。
ソレを察してくれたリゼッタとサキサを連れて、私は隊員たちと合流し、
出迎えてくれたキャスリン将軍たちに礼を残し、
転送陣を用いてシュザント拠点に帰還したのだった。
帰還してすぐにカナリア公から小言を浴びながらも、
一通りの報告を済ませ、部屋に戻ろうとすれば、
あらかじめ呼び出したリゼッタとサキサが私の部屋の前で待機しており、
今だ私たちは互いに言葉を交わすことなく、
彼女たちを部屋に招き入れ扉を閉めれば今に至る……というわけだ。
「……………………………………」
「……………………………………」
「……………………………………」
「……なにか飲むか?」
「いいえ、結構です」
「私も遠慮しよう」
「……そうか…」
このあまりにも重圧な空気をどうにかしようと適当に言葉を出すも、
こうもあっさりと断られてはいかに私といえど対処のしようがない。
…私とて、こんな状況はいつまでも続いて欲しくない。
隊の中でこのような状態関係が続いては間違いなく戦場で支障をきたす……
…………いいや、よそう。このような説明をしているようではいけない。
なぜなら、このような現状を招いたのはほかでもならぬ私自身だ…。
故に、覚悟を決めねばならない。
いつまでも事を偽って逃げるようでは前に進めるわけがないのだ…。
「……リゼッタ、サキサ」
「「…………………」」
私は二人を一度に視界に捉える事が出来る位置にて話しかけ、
彼女たちも二人して私の顔を見上げてきた。
「…黙っているのならばそれでいい、私が一方的に話そう。
お前たちの純情を汚したのはすまないと思っている…
…私自身、自分で招いたこととはいえこういった事態に
なにをどうすればいいのかなど見当もつかないが、伝えることは伝えたい…」
「「…………………」」
今だ彼女たちは何も言わない……
私のことをそこまで見放しているのか、それはわからない…
しかし、それでもこのまま何もせず彼女たちと距離を取るという
事態だけは避けたかった…もし、彼女たちとの関係が終わるとしても、
せめて彼女たちの名誉のため、後腐れなく事を済ませたい。
「私は……「いいんだザーン隊長…」……なに?」
すると、黙っていたはずのサキサの突然口にした言葉に
逆に私が黙るかのように唖然としてしまった。
「…そうですよザーン隊長、貴方はなにも悪くないんです」
「リゼッタ…?」
「隊長が来る前に、私とサキサさん…二人で考えたんですよ…色々と…。
…どう考えたって結論はひとつ…とっても簡単なようで複雑…
でも隊長ったら、戦術家のくせにこういうことは鈍いんですから…」
「まったく…卑怯じゃないか隊長。隊長が悩むとその原因である
私たちも一緒に悩んでしまう…さっきだってそうだぞ?
いつ、隊長の口から言ってくれるか期待していたのに………
私たちはとうに答えを出しているのに、それでまた悩むんじゃあ…
まるでバカみたいじゃないか……だから隊長、この際はっきり言おう…」
「たとえほかの魔物と愛し合ってもいい……」
「たとえ私が一番じゃなくてもいい……」
「それでも私の想いは変わりません……」
「この想いに嘘をつくことなどできない……」
「……私は、ワーウルフのリゼッタはザーン隊長を愛してます…」
「……同じく、リザードマンのサキサも心からザーン隊長を愛している…」
「………お前たち…」
これ以上に、言葉が出なかった…
たとえ、頭の中で魔物という性質を理解していても…
その理解を押し殺すような衝撃を受けているからだ。
こんな…対処のしようなどあるはずがない……。
「………………………」
片手で顔を隠すような形で俯いてしまった。
顔の熱が高まっていることがわかる、心臓の鼓動も早い。
「………………………」
「「……隊長?…!…きゃぁっ!?」」
私のなかのなにかが吹っ切れたような感覚だった。
二人が私に声をかけてきたことに反応し、
両腕を広げ、二人を同時に抱きしめるような形をとった。
「………私も、愛している…。お前たちを…心から…」
「……はい…♥」
「……ふふっ…とんだ幸せ者だな私たちは…♪」
…私には過去がある、その過去は決して許されるものではない、
その償いために戦っている…魔物(かのじょ)たちの為に剣を取る。
それは自分自身の自己満足な罪滅ぼしだと分かっている、
どれだけ偽っても罪は常にこの身を覆っている……この心を縛っている。
その縛られた心にこんなに暖かな温もりがある…、
私は、間違いなく今この時を今人生最高の幸福だと感じていた。
私は彼女たちに導かれるかのように隊長室に置いてあるベッドへと向かった。
魔王軍の男性兵のベッドはこういう時のために大型サイズのものも
設置されている為、私たち三人でも事足りていた。
『…………………………』
互いに交わす言葉などなかった、
しかしそれは先程のような沈黙とはまったく違い、
言葉にせずとも、互いになにかが交わしているような…そんなものだった。
リゼッタとサキサたちが手際よく私の衣服を脱がし始め、
私もそれに合わせて二人の衣服を脱がしていった。
互いに生まれたままの姿になれば、ベッドに横になり
その両端を二人が抱きついてきた。
「ふふっ…♥」
すると最初に唇を重ねてきたのがリゼッタだった。
「あっ!?ずるいぞリゼッタ!」
「んっ…ぷはぁ…ふふん、はやい者勝ちですよぉ♪」
「くっ、ならば次は私…んっ…♥」
リゼッタが唇を離した隙を付き、今度はサキサが唇を重ねてきた。
「んっ…んぁ…はぁ…隊長ぉ〜…♥」
「ふふっ……♪」
リゼッタはサキサのように悔しがるような仕草はせず、
どちらかというと、私たちの口づけを見て愉しんでいるようだった。
さすがにいつまでも見られていると言うのもあれだったので、
私はサキサとの口づけを交わしながらも、
片手でリゼッタの豊胸な乳房の先端を摘んでやった。
「んぁっ…♥…もぉ…隊長…♥」
リゼッタだけというのも不平等を感じ、
もう片方の手ではサキサの乳房を優しく触れる。
「ああぁっ…ふふっ…隊長は大きなおっぱいが好きなんだな♥」
その返答には少し迷った…嫌いではないが…。
確かに豊かに乳房に触れ、それに感じる彼女たちの姿を見れば
私自身にそそるものはある。
「そら、見てみろリゼッタ。隊長のアレがもうあんなに…♥」
「うわっ、本当ですね…このままじゃぁ爆発しちゃいますね…♥」
私の逸物を見て、魔物特有の獲物を捕らえたような淫乱な笑みを浮かべ、
二人はその逸物に顔を寄せたと思うと、
なんと双方の巨大な乳房が同時にその逸物を挟み込んできたのだ。
「ふふっ、どうですザーン隊長?気持ちいでしょう…♥」
「ヴィアナから教えてもらったんだが、
俗に言うダブルパイズリというやつらしいぞ♥」
……あいつめ、今度会ったら叱ってやればいいのか褒めてやればいいのか…。
両乳房で逸物を鋏みながらも、時折二人で熱心の舌を伸ばし
その快楽は底を知らなかったが、私はそれにも懸命に耐え、
目の前の二人を愛でてその頭を優しく撫で回した。
そうしてやれば、二人のトカゲと狼の尻尾は嬉しそうな動きを見せる。
「わふぅ…♪」
「んっ……♪」
二人の表情も幸福に満ちたものだと分かる、
私自身、感情を表情に出すのは苦手だが、今間違いなく幸せだ。
それはこの二人も分かっていてくれている…故に幸福なのだ。
「…うっ……」
そんなことを考えているうちに、私の逸物の限界地が来たようだ。
「きゃぁっ……♪」
「おおっ………♪」
二人の乳房や顔に向かってその熱いものが噴出していった。
結果としては乳房も顔をも白くなってしまいながらも、
彼女たちはその幸福そうな表情で、指でそれを摘み取り自らの口へと運んだ。
「んぁっ…ちゅっ…隊長のぉ…♥」
「んんっ…ちゅぱっ…はぁ……♥」
その光景はあまりにも刺激的で、
それを見ているだけで直ぐに私のそれは固さを戻していった。
「えへへ…隊長のエッチ…♥」
「もうこんなに固いとは…まったくなんて男だ♥」
その様子を見た二人は悪戯じみた笑みを浮かべるのだった。
「ザーン隊長ぉ…♥」
「…入るぞ」
私が体を横にし、その上にリゼッタが跨ってきた。
そんな横でサキサが私の体を舐め回すように舌を這わしている。
最初こそサキサが先だという主張があったが、
リゼッタが順番的主張を持ちかけ、先にリゼッタからの挿入が決定した。
先端と入り口が少しずつキスをする、互いに粘液でべたついたそれは
いとも簡単に互いを向かいいれ、まるでソレを望んでいたかのように
私の逸物は飲み込まれていった。
「ぁっ、はぁぁぁああっ♥」
たとえ一度交わした体でも、
まるで互いに初心のようにその快楽の波は押し寄せてきた。
正直入れた瞬間、だいぶ危なかった…。
しかも、そんなことお構い無しにリゼッタは腰を激しく動かしてくる。
「はぁっ…!ああぁっ…!わふぁっぁ〜…♥」
「うっわ、凄い…あんなに激しく…」
私の横でそのリゼッタの様子を眺めているサキサが驚いていた。
日頃ワーウルフながらも大人めのリゼッタが今まさに獣の如く迫力で
私を攻めているのだ、無理も無いだろう…。
すると、私はサキサが自分で自分の秘所に手を伸ばし
盛大に濡らしながらも弄っていたことに気付いた。
だがその顔は未だにリゼッタを見ている、無意識か…それとも熱心なのか。
「……………」
「んわぁっ…た、たいちょぉっ…♥」
こういう時の快楽を与えるのは男の勤めだということは承知していた。
直ぐにサキサの手を離させ、私の手は懸命にサキサの秘所を弄っていた。
「ひゃぁっ…は、激しいぞザーンたいちょ…んっ…んんっ♥」
問答無用、その唇を塞いでやり秘所弄りの快楽に陥れようとした。
「わふっ…んっ…隊長ぉ…私ぃ…もぉおお♥」
だが先に墜ちてしまったのはリゼッタのほうだった。
腰を動かすスピードが増し、リゼッタ自身は勿論、
この私までをも共にイかせようと必死だった。
当然、そんなことをされればこちらも無事ではすまない。
サキサを弄っていた手を離し、リゼッタの腰を両手で触れてやれば、
ソレを合図にするかのようにリゼッタが
腰を大きく浮かし一気に叩き下ろしてくれば、互いに絶頂を向かいいれ、
私はリゼッタの体内に注げるだけのものを注いだ。
「あっ、あっ、あっぁふぁあああああああぁぁぁっ……♥」
ふぅーっ、と私は息を大きく吐き捨てれば
リゼッタは淫らな顔で全身を震わせていたが、
サキサのことを気遣ってか、思いの外直ぐに気を取り直し
逸物を抜き、私の横に寝転がってくれば唇を重ねてきた。
「ふふっ…ご馳走さまですザーン隊長♥」
気を取り直した、といったがコレは違った…
リゼッタは素早くあらゆる方面から私を味わいたい、
そういう一心さが目の前の淫らな瞳から伝わってきた。
「さって、次は私だな…ふふん、隊長…
さっきはよくも好き勝手やってくれたな。今度は私が………んひゃぁっ♥」
…ひとつわかった、サキサはどれだけ頑張ろうとも
私に対して攻めの一心で行く事は難しいだろう…。
挿れただけでこうも淫らになるのだ、無理もない…。
すると、あまりの快楽に腰でも砕けたのか、
サキサはその状態のまま私のほうへと体を傾け、無理に唇に吸い付いてきた。
「んん〜…隊長ぉ〜♥」
「あっ、ちょっとサキサさ…私がまだ、途中なのに……♥」
そう、その行為が結果として三人同時に
互いにキスをするという事態になってしまっている。
そっと唇を離せば、三つに分かれた銀の糸橋が垂れ、
サキサはそのまま私に抱きついたまま腰を動かした。
「んあぁっ…ザーン、隊長…私は…幸せ…今この時が…一番…ッ♥」
互いの腰をぶつけ合いながらも、サキサは決して私から目を離さなかった。
自らの幸福を常にその瞳に映したいのか、サキサの瞳に映っている私は
私自身にそう問いかけるのだった。
「くっ…サキサ…限界だ。出すぞ…!」
「だしてぇ…!遠慮せず…あぁっ、イクッ!…わたしのなかにぃ…♥
んあぁああああああああっ♥」
此方も一気に限界に達し、私は再び大きく息を吐きながらも、
二人から降り注がれるような唇の嵐を受け入れるのだった。
「「ザーン隊長ぉ〜〜♥♥♥」」
情事は夜が明けるまで続き、
翌朝ベッドで寝静まった二人の隙をついてシャワーを浴びようとすれば
そこに入り込まれ、実質明朝の訓練まで
この幸福なひと時は終わることはなかったのだった。
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二人との事を負えた次の日。
私はその日の晩、カナリア公からの
呼び出しを受け、総隊長室の扉にノックをすれば、
中から聞こえる「入れ」という言葉でドアノブを捻った。
「失礼します、第四部隊隊長ザーン・シトロテアただ今参りました」
相も変わらず全体的に赤いデザインが目立ったその部屋の内装に
少し目が痛むような感覚を感じながらも、席に座り込むカナリア公の前まで
足を進めれば、一定の位置でその足を止めた。
「……来たか…ザーン・シトロテア。まずはお前に質問する…
我らシュザント、その組織としての存在意義はなんだ?」
片手に赤い液体が入ったワイングラスを軽く傾け回しながら
カナリア公は私に質問した。
「はっ、この世界のどこかで平和に暮らす魔物たちの為……。
その平穏を脅かすマスカーを打ち破る為、それが我らの存在意義です」
「そうだ、この世は決して平等ではない。
誰かが幸福であれば誰かが不幸を担わなければいけない…
忌まわしき因果律とも言えるだろう……、
誰かが誰かを守れば必ず起こり得る事象、守る側と傷つく側……
戦争などが起きれば嫌でもその現象を思い知らされる…
本当に忌々しい限りだ……!」
「………………」
回転式の椅子より私に背を向け、窓の外を眺めどこか虚しい声を出す
カナリア公に私は言葉を返さずにはいられなかった。
「…お言葉ながら、カナリア公」
「……………なんだ?」
「貴方の言の通り、ソレは仕方無き法則とも言えるでしょう…
ですが我々は…いいえ、私は軍人…この身を軍役に置いたその時より、
その立ち居地がどちらかなど、弁えております」
「………ふん、融通が利かないやつめ。
お前に言われるまでもなくそんなことはわかっておるわ!
まったく、人の小言をいちいち丁寧に返されてはかえって肩が凝る……」
愚痴を零すように小言を並べるカナリア公だったが、
其処からすぐに両の手の指を交互に絡ませ、肘を机に乗せれば
本題に乗り出してくることが伺えた。
「……魔王城の本隊よりの要請が来た。
恐らく中規模…いや、場合によっては高規模な戦いが予想されるだろう…」
「…内容は?」
「それを今から言うところだ、急かすな馬鹿者め。
最終攻撃目標…ヴェンガデン火山。
数ヶ月前にマスカーの侵略を受け忌まわしくも奪われた火山だ…。
何より当時の戦闘被害が凄まじく…火山にいた魔物たちは
『すべてが死亡・行方不明』といった状況だ…」
「………………………」
その内容に、私は自らの手を握る力を僅かに強めてしまった…。
「…だが望みもある、なぜなら火山という土地ならば
人間の踏み入れん場所も多いだろうし、
何より魔物の生命力は人間のソレと比べ物にならんからな……
命からがら生き延びている者がいても十分におかしくは無い。
魔王城の連中も攻略されて以来、火山の様子を伺っては時を待っていた……。
そしてついにその時は来た…、ようやく周囲の小規模戦闘の区切りがつき、
我らシュザントのほうでもお前たち第四部隊という援軍を送ることができ、
これにより火山奪還を目的とした
マスカー領攻略戦を繰り広げられる十分な戦力が整った……」
そしてカナリア公は席を立ち、私を指差した。
「故に、第四部隊隊長ザーン・シトロテアよ!お前に命令する!!
三日後、魔王領国境沿いにあるポルグラ町に向かえ!
ソレより先は現地の将軍からの指揮で動くがいい!以上だ、わかったな!!」
「ハッ!!」
私は敬礼を持ってして、己の決意を示すのであった…。
カナリア公の部屋を後にし、私はこの事を隊員たちに報告しようと
足を進めていたが…一度、誰もいない廊下にてその足を止めた。
「……再び、私は彼女たちを引きつれ戦場に立つこことなる…
いつ、命を落としてもおかしくは無い危険な地に
隊長という立場で彼女たちを導かなければならない……。
だが、彼女たちも軍人だ…それぞれが強い意思あって戦場に立っている。
ならば彼女たちを束ねる立場にある私の使命などわかりきっている…
彼女たちを守り、共に勝利を得る……………それだけのことだ…」
己の片手を広げれば、その意志を強く実感するため
広げた手を強く握り締め、私はその場を後にするのだった…。
次なる目的はヴェンガデン火山…
さらなる戦いが私たちを待ち受ける………。
……負けはせん…絶対に…な。
先の大戦をきっかけに魔王軍は
集中的兵力を用いての大規模な攻撃は極力控えている傾向がある。
殲滅大戦で魔王軍が受けた傷跡はあまりにも大きかったからだ。
勝利を確信したときほど脆いものはない。
大戦時の魔王軍は紛れもなく其れだった、
かつてザーンは言っていた、「あの戦いは後一歩で勝てた戦いだった」
言い換えれば、その『一歩』ほど魔王軍が脆い時はなかったのだ。
それを立証したのが始教帝レインケラーの奇跡的逆転劇、
戦場で見せたその巻き返しは魔王軍にとっては想像もできない痛手であった。
次々と倒れていく魔物娘やその夫たち、
その戦いで魔王軍が失ったのはあまりにも大きい。
そしてそれは今尚続いている…、
電撃的勢いに乗ったマスカーたちはその勢力を拡大し、
大陸のほとんどを支配下に治めていた魔王領を侵略……、
今でこそ多少は落ち着いているが、その被害も決して軽くはない。
しかし僅かながら回復の兆しもある。
人間とは違い魔物は種族にもよるが成長段階が早く、
生まれながらにして強力な戦闘力を持つ者も多い…、
だからこそ現在の魔王軍は大勢の魔物が
犠牲になる恐れがある戦闘を極力さけ、
互いの領土を奪っては奪い返しの繰り返しを続けている。
魔王軍も痛手を負っているが当然それはマスカーも同じこと…
だからこそ向こうもこちら同様に
小規模な戦闘で出来る限りの現状を維持しているのだ。
…だがどちらも確信はしている。
またいずれ、免れることもできない大規模な戦いは必ず起こる。
いわば今の小規模な戦闘はその為の備え……、
必ずまた、どちらもが大勢傷つく戦いが起こる。
しかしどちらも引けないものがある。
魔物として人間として、魔王軍として教団として
決して屈することもできない長年のシガラミがある。
そしてザーンたち第四部隊もまた、
そのシガラミに縛られるままに戦いに赴くこととなるだろう……
魔王軍の手足として、軍人としている限り、彼らに戦い以外の道はない……。
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≪主人公:ザーン視点≫
コーヒーでの謎の騒動一件を後にし、
私とリゼッタは会議室にて、キャスリン将軍やネルディ隊長、
そのほかの隊長格たちとともに、情報交換及び、
これからの方針を話し合っていた。
それぞれの隊長が自分の所有している情報を提供し、
送られてくる情報は、私の後ろに立っているリゼッタが
手に持つファイルに書き留めていた。
「以上のことから、まやかし兵に関しては本城に報告のうえ
最善の注意を呼びかけるべきかと…………」
私もまた、隊長である以上その一人だ。
先程リゼッタとサキサの二人と話し合って整理した情報を
キャスリン将軍たちに報告。
「そのダヴァドフという男の特徴は?」
「はい、長身・顎鬚を蓄え………」
そして向こうからの質問を精密に返答していた。
…それから先程の会話で「本城」という単語が出てきたが、
コレは説明するまでもないだろうが、「魔王城」のことである。
「……ではこれで本日の会議を終了するわ、みんなお疲れ様。
それぞれいつもの訓練に励むようにお願いね、
私たちがマスカーとの戦いに勝つかどうかで
どこかで平和に暮らしている魔物や人間たちの命運を分けるということを
くれぐれも忘れないようにね?」
『はっ!!』
キャスリン将軍の言葉を合図に私たちは一斉に敬礼をした。
そしてそれぞれが持ち出してきた書類などをまとめ出し会議室を後とする。
私もリゼッタにいくつか書類を手渡した後、
彼女と共にその場を後にしようとしたが、キャスリン将軍が声をかけてきた。
「ああ、ちょっと待ってザーン隊長」
「…はい、なんでしょうか?」
私が足を止めれば、リゼッタも私の後ろで足を止めた。
「ふふっ、そんなかしこまなくてもいいわよ。
ちょっとした世間話、隊員さんたちの調子はどう?」
其れを聞けば、私は将軍に報告すべきことを思い出す。
「将軍殿らの処置のおかげでみな全快へと向かっております。
それで、将軍殿に報告したいことがあるのですが……」
「報告ね…言わなくてもわかるわ、シュザント拠点に戻るんでしょう?」
「ええ、こちらでお世話になったことは私もこのリゼッタも…
隊員たち全員が心より感謝しております…。
ですがあまり長居しては、カナリア公の大目玉を受けかねませんので」
「ふふっ、あの吸血鬼さんらしいわね…了解したわ。
シュザント拠点までの転送陣を用意しておくから
準備が整ったら声をかけて頂戴、私はいつもの将軍室にいるから」
「はっ!」
私が敬礼をすれば、リゼッタもそれにつられて後ろで敬礼をする。
其れを見れば将軍はクスッ、と微笑み「そんなかしこまなくてもいいのに…」
とだけ呟いてその場を後にした。
改めて思うが、本当にデュラハンらしくないお方だな彼女は…。
強気で意地を張る姿こそデュラハンの典型だが、
将軍のように、ああもおしとやかな雰囲気を持ったデュラハンも珍しい…。
などとも考えるも、私とリゼッタは今度こそ会議室を後にするのだった。
(いくら典型とはいえ、それぞれの個性もあるだろうさ…
なにもすべての同種が同じ人格というのも些か偏見かもしれんな)
「ザーン隊長?どうかしましたか?」
廊下にてキャスリン将軍のことを少し考えていると
リゼッタが上目遣いで私の顔を覗き込んだ。
「…いやすまん、なんでもない。とりあえずはだ…リゼッタ
他の隊員たちに報告を頼む、『各員、帰還の仕度』をだ。
そうだな…一時間後にて中庭訓練場にて集合するように頼む」
「はい、了解しました」
あの演習にて関係が深まったからもあるのだろうが、
リゼッタがこれまたいい笑顔で敬礼し、すぐさま報告に向かうのだった。
私とは違い、リゼッタはワーウルフであり嗅覚や機動力が優れているからな…
このような報告は彼女に頼めばあっという間だ。
改めて、私は優秀な補佐を持ったな。と至福に思うのだった…。
しかし…その一方で、サキサと交わったことを彼女はどう思うのだろうという
罪悪感を強く感じてしまうのだった…。
別段、サキサと交わったことに後悔はない…
しかしそれでも彼女たちの想いを傷つけてしまうようなことは
この命に代えても避けたい……、さて…どうするべきか…。
私は荷物をまとめ(とは言っても大したものは持ってきてはいないが…)
中庭の訓練場に向かおうとすれば、その道中で意外な相手に出くわした。
「…スーア?」
「……………」【ぺこりっ】
廊下の曲がりで、この拠点ではあまり見慣れない
サハギン特有の水色の鰭のような手足や尻尾。
そしてなにより、その無表情でクールな外見が特徴的と言える。
礼儀正しくこちらに向けて頭を下げ、そこから再び上げれば
その水底のような目が真っ直ぐと私を見ていた。
「…不思議だ、なぜかお前と会うのが久しぶりのように感じる」
「……無理も、ないと思う……だって…貴方、二日間寝込んでたから…、
昨日だって…会ってない……私だって、久しぶりに…感じる…」
口元を極限まで小さく開きながらも、その言葉を私の耳に届ける。
「ほぉ…しかし、将軍から話は聞いている。ここの食事は満足したか?」
キャスリン将軍は彼女たちの働きを賞賛し感謝を礼を込め、
スーアたち森のサハギンたちを招き入れ豪勢な食事を与えたという…
……言っておくが、食事といっても『アチラ』の方ではない、
ちゃんとして食べ物のことだ……。
「うん……森や川にはない…おいしいの、たくさん…
みんなと一緒に…、食べれた……。でも…それも今日まで…」
「…森へ帰るのか?」
私がそう答えれば、スーアは無言で頷いた。
「うん……ここの食べ物…満喫したから……私も、みんなも…もう十分…」
「そうか、あの時…お前たちには大いに助けられたからな、
しかし私自身は…お前に何も恩を返せていない…。許してくれ」
「………………」
私が謝罪の言葉を呟けば、突然スーアが何かを考え込んでいるのか
顔をうつむけはじめ、しばらくしてから再び私の顔を凝視し始めた。
「………ねぇ…」
「なんだ?」
「…もし…よかったら…今…返して」
「なに…?」
「……だから…恩…」
無表情で呟くように答えてはいるが…気のせいか、
今のスーアの顔は無表情というよりも、ぎこちないように感じる。
「…わかった、だが私も今隊員たちを待たせている。あまり時間は…」
「時間は…取らせないから……だから、ね…屈んで?」
「屈む…?これでいいか?」
私は膝をつき、出来る限りスーアと同じ目線の高さまで身を低くした。
「…うん、でも…まだ…目…瞑って…?」
「……こうか?」
サハギンはその無表情さから、心情を読み取ることが出来ない。
元より彼女たち魔物の思考と人間の思考は多少ズレた差異がある、
故にスーアがなにをしたいのか見当も付かないが為に、
私は彼女の言うとおり行動した。
【チュッ】
…………………………………………………んっ!?
「……………………」
頬に伝わる感触に反応して目を開ければ、
両目を瞑り、その小さな唇を私の頬に当てているスーアの顔が映った。
これには流石に私も体が硬直してしまったが、
恐る恐るスーアが目を開き、ゆっくりと唇を離した。
「………スーア、お前…」
彼女のこの行動である程度の
その心情を察することはできたが同時に疑問が生まれる。
元来サハギンとはその口数の少なさから、
極端な行動で自分の想いを示す魔物だ。
スーアが私の頬にキスをしたという行動は
つまりあろうことか、彼女は私に浅からぬ好意を持っているということだ。
しかし、それなら……もっと大胆なはずだ。
体を密着させる然り、押し倒す然り………それがサハギンという魔物だ…
しかしスーアの行動は『頬にキスをするだけ』だった…
其処に私は深い疑問を生むこととなる。
私は再び立ち上がり、まっすぐとこちらを見上げるスーアを見下ろした。
「……ありがとう……今は、これで満足…」
そしてその小さな口元からスーアは呟いた。
「今は…?」
「うん……今は」
「…どういうことだ?」
「そういうこと…貴方の周り…大切な人たちでいっぱい…だから…今はダメ」
「…………?」
「…私が、どんなに頑張っても…多分、あの人たちよりも…
貴方っていう域…にまで、いけないとおもう…」
「私の域だと?」
「忠実……でもどこか一人ぼっち…」
「……………………」
スーアのそんな物言いは、どこか…私の心を苦しませるところがあった…。
「…あの人たち、なにがなんでも…貴方の傍に、立ちたいと思ってる…
だから、せめて今は…私…これでいい……だから……」
その感情こそ感じられないはずの顔が、
なぞかどこか不安そうに変化したように見え、
私を真っ直ぐと見るその瞳を見た。
「また……会える?」
「…ああ、またいつか」
「……………………」
小さく、彼女が呟けば…私に背を向け、廊下の奥へと歩いていくと
再び振り向き、私を見れば……。
「…またね」
廊下の曲がりを進み私の視界から消えていったのだった。
「……ああいった魔物は、どこか侮れんな」
既にスーアも誰もいないその廊下を眺めながら
私は何気なく呟くのであった。
『たあぁいいぃぃちょぅおぉ〜〜〜〜〜…………』
【ギックゥッ!!】
背後より聞き覚えのある二つに重なった暗い声、
内心でかなり驚きながら肩を跳ねさせ、私は恐る恐る振り返った。
一瞬そこにいる二人の姿が少女の姿をした悪鬼がいるような錯覚を覚えた。
……魔物である以上、大方間違ってはいないような気もするが…。
この二人は場合は鬼ではなく狼と蜥蜴である……。
「ふふっ、やっぱり隊長はモテモテですよねぇ〜〜……
そう思いませんかサキサさん?」
「うむ、そうだなぁリゼッタ……
なんせ私たち二人をモノにする程の御仁なのだからなぁ〜〜……」
満面なる笑顔とは裏腹に、そのゆらゆらと動く狼の尻尾と蜥蜴の尻尾が
このただよらぬ雰囲気をさらに強調し、
どういうわけか、リゼッタたちの鼻の上から顔半分を黒い影が
覆っているようにも見える…錯覚か?
いや、それ以前に彼女たちの背後からも
見えてはいけないなにかとんでもない何かまで感じてしまう。
鏡を見ないと分からないが、恐らく今の私の顔は彼女たちとは逆に
青ざめてを通り越して蒼白になっているかもしれない。
「お、おい待てお前たち……話を…」
「話すまでもないですよザーン隊長ぉ?
私たちずっとその物陰で見てたんですからぁ〜〜…」
「そうだぞぉ〜?ザーン隊長が来るのがあまりにも遅いものだから
私たちが心配になって見に来たというのに………」
「いや、だからだな…」
「サキサさんと二人で廊下の角を曲がったらビックリですよ。
ザーン隊長がスーアちゃんに…スーアちゃんにぃいい…」
「ほっぺに…ほっぺに…チュウされてぇぇぇええ…」
ぅおーい、さっきと打って変わって二人して涙目にならんでも…
私はてっきり二人が怒っているとばかり思ったが、
これはどちらかというと嫉妬に近いらしい……
確かに私にも責はあるかもしれんが……ん、待て…モノにした…?
「…質問してもいいかサキサ」
「うぅっ…なんだ?」
「私の聞き違いでなければ、お前は先程『二人をモノにした』と言った…
この発言から思い浮かぶのは…つまり…お前たち…」
『…………………………』
リゼッタとサキサは一瞬互いに顔を合わせた後、
二人して俯きはじめた。
「……話したか…いつだ?」
サキサは顔を俯かせたまま、小さく頷いた。
顔を上げると、申し訳なさそうな顔で口を開けた。
「……ついさっきだ…それだけじゃないぞ、リゼッタからも聞いた…
隊長が…あの演習の日に、リゼッタを抱いたって…………」
「………………………」
「……そうか…」
ああ…、これは厄介なことになった…。
私はそんな感情を表すかのようにため息を吐き捨てるのであった…。
≪ 時遡って数十分前 ≫
「隊長、少し遅いですね……」
中庭の訓練場にて、第四部隊の隊員全員が荷物を纏め、
帰還準備を完了させ集合したものの
今だ現れない自分たちの上司の到着にリゼッタはポツリと呟いた。
リゼッタのその発言にサキサやほかの隊員たちも同意するかのような
それぞれのリアクションを見せる。
「本当ねぇ、こういう時はいつもキッチリしてる筈なのに…」
まず最初にリアクションを見せたのは
片手を自分の頬を覆うように当てたヴィアナだった。
「うーん…、腹でもイテェのかな?」
「シウカさん、下品なこと言わないでください。と私は忠告します」
シウカの意見にノーザが素早いツッコミを入れた。
「あの方に関してもしものこともないと思うが、様子を見てこようか?」
こういう状況で気の利いた意見を述べるキリアナが
その馬の体を動かそうとした。
「あ、それでしたら私が探しに行きますから
みなさんはここで待っていて………」
「待てリゼッタ、それなら私も行く」
「……サキサさんも?」
「……不満か?」
「いえ、別にそういうわけじゃ……」
その気まずい雰囲気に何かを察したのか、
咄嗟にヴィアナが助け舟を出した。
「なら決まりね、ほらっそんなギクシャクしてないで
さっさと行ってらっしゃい、あんまりレディを待たすもんじゃないわよって
隊長さんに伝えて頂戴な」
「あ、はい…わかりました」
「リゼッタ、そこは普通に承諾するところか?」
などとサキサがツッコミを入れれば、少し和らいだ雰囲気のなか
リゼッタとサキサは共にその場を後にするのだったが…。
「………………………」
「………………………」
やはりいざ、二人で行動を共にするとなると、
一瞬でその気まずい雰囲気は戻ってくるのだった。
共に廊下を歩きながらも、互いに顔を合わそうとせず、
見事なまでに二人ともその歩き方からギクシャク感を表していた。
現にリゼッタの心境は…。
(きっ、気まずい…。どうしよう…この空気、重すぎます…!
前回のコーヒー…というか、間接キスの一件もあって
サキサさんの顔を見る事ができません……っ!)
などと思案しながら、時々サキサのほうに目を向けるものの
彼女がこちらに目を向けそうになると即座に目を逸らすなどという
行為の繰り返しであった。対するサキサも同じこと…。
(お、重い…っ!ついていくと言ったのは私だが、
まさかここまで居心地が悪いとは……まずい、ホントどうしよう…
さっきからリゼッタが凄くこっちの様子を伺っているし…、
こ、これは私から何か話題を振るべきか…?いやいやいやっ!
話題を振るにしたって、間接キスの時の雪辱がどうしても…)
などと此方もリゼッタとまるで似た思考を繰り広げていた。
(そ、そうですよ!とりあえず、もっと別の話題で
せめてこの空気をどうにかしないと…!)
(そ、そうだとも!いくら間接キスを奪われたからって
過ぎたことじゃないか、うん!
大体間接キス以前にもう私はザーン隊長と一夜を共に過ごしたじゃないか!
引きずってはダメだ!うん、よし決めた!何か別の話題を…!)
「あのサキサさん……!」「あの…だな…リゼッタ…!」
あろうことか二人は同時に声をかけてしまった。
「「……………………………………」」((お、重い…))
「あ、あの…サキサさんからお先にどうぞ…」
「い、いや…先にリゼッタから言うといい…」
あまりにもその空気にサキサはリゼッタから目を背けてそう呟いてしまった。
この散々な空気をどうにかしようとリゼッタも必死で言葉を探す。
「は、はい……あ、あの〜…あれですよね!……え、えっとぉ〜…
そ、そう…!サキサさん、今日は随分と隊長と仲良かったです…ね……」
「えっ?」
「ほ、ほら…なんというか…凄く…気分がいいと言うか…
いつも以上に可愛らしいというか………」
しかしその必死に口から吐き捨てた言葉に彼女は後悔した。
(や、やっちゃったぁ〜〜…っ!何言ってんですか私はぁっ!?
サキサさんが隊長とそういう仲になったっていうのは
気づいてるのにこんな話題振っちゃったら余計気まずく…!)
と、自分の失態を内心で激しく後悔し、改めてサキサのほを見てみると…。
「わ、わかるかリゼッタっ!」
(あ…あれ!?)
なぜか先程とは打って変わって歓喜を表し始めた表情を見せていた。
その意外な反応にリゼッタは内心混乱してしまう。
しかしそんな彼女の混乱も知らず、サキサはその訳を説明し始める。
周囲に目を向けて、傍に自分たち以外は誰も居ないことを確認すると、
サキサはそっとリゼッタに近づき、耳打つをし始めた。
「ま、まだ誰にも話していないのだがなリゼッタ…
じ、実はな…私…その、き…昨日…隊長と……その…なんというか、
し、試合をしたんだ…。リ、リザードマンの試合の意味くらい
お前にもわかるだろ……?」
「…ええ、まぁ…」
(というよりも、交わったことも匂いで気づいてはいるんですけどね…)
リゼッタは第四部隊の中でも…というよりも並みのワーウルフよりも
群を抜いて鍛えられた優れた嗅覚を持つワーウルフだ。
前回でも彼女自身が語ったことだが、
リゼッタはサキサとザーンが交わったことに
気づいておりそれを受け入れている。
だがサキサは別だった。いくら魔物と言えどリザードマンは
ワーウルフほど嗅覚には優れておらず、
何よりそれ以前にサキサ自体がどこか恋愛や色沙汰に鈍いところがあった。
それ故に、サキサはリゼッタがあの演習場でザーンと交えたことを知らず、
あろうことか、今この時…サキサはザーンとの恋愛感情に強く芽生えており、
『自分が隊長との初めての相手♪』と勘違いしているのだ。
嗅覚のほかにも、補佐役として頭脳にも優れているリゼッタが
その勘違いに気づくのはサキサの反応を見て直ぐだった…。
(そ、それは私だって気持ちはわかりますよ…?
で、でも…だからって目の前で…なんですかその反応………ッ!)
…そう、リゼッタはそのサキサの反応が…物凄く気に入らなかったのである。
……つまりまぁ、簡単な話……嫉妬だ。
(……なにこの人!?なに勘違いしてるんですか!?
そんな嬉しそうに顔赤くしちゃって!隊長の初めては私ですよ…!?)
内心で凄まじき嫉妬の気配を巻き上げる一方で、
サキサは顔を赤くしたまま、両手を頬に当て乙女のような
幸福感に満たされた反応を表していた。
だがサキサに悪気があるわけじゃない、
リゼッタを同じ隊の仲間として、同時にこの幸福を誰かに知らせたいという
純粋な想いが単純に彼女の口から告げられているに過ぎない。
サキサがもう少し、頭の回転が速く察しが良ければ
まだ言葉の選びようもあっただろうが……。
「隊長…いや…ザーン隊長。昨日私になんて言ってくれたと思う?
戦士として、女として、リザードマンとしての幸福を約束する。って!」
「へ、へぇ〜…そうですかぁ〜……」【ゴゴゴゴゴゴゴッ】
満面の笑みを浮かべるサキサと、その一方で笑みを浮かべているリゼッタ。
しかし…リゼッタのほうは鼻より上が黒い影で覆われており
その笑顔の奥からも只ならぬ威圧感を放っていた。
だが記憶から蘇る昨夜の出来事を思い出し幸福オーラに包まれたサキサには
その威圧を感じ取ることはなかった。
簡単に言えば、リゼッタの嫉妬オーラがサキサの幸福オーラに届かないのだ。
「そ、それでな…♪隊長ったら私をだ、抱いてる時に…小声で…
き、『綺麗』って!綺麗だってぇーーー!!
戦うことしか知らない私に綺麗だってぇーーーーっ!!」
「お、おぉ〜…よ、よかったですねぇ〜〜…へぇ〜……」
(良くない、全然良くないですよこんなの!?)
両手を体の前で上下に振って、幸福に興奮する乙女チックなリアクションを
目の前で見せ付けられ、リゼッタの黒い威圧は高まるばかりだった。
それはつまり嫉妬の増幅を意味していた……。
だが賢しいリゼッタの理性がソレを必死で抑えようと抵抗し、
その意識を急いで隊長探しで気を紛らわそうとするのだったが、
それでも彼女にも意地があった、女として…魔物としての意地があった。
ザーンという一人の男に対する愛があった。
「うんうんうん♪それでなそれでなぁ〜〜…ん、どうしたリゼッタ?」
「…………うっ……」
「うっ?」
「ぅうるさぁぁああーーーーーーーーーーーーーーいっ!!!」
「うわぁっ!!?」
モフモフした両耳を押さえ、両目を瞑ってリゼッタがついに吠えた!
「ふぅーーーーっ…!ふぅーーーーっ……!!ふぅーーーーっ!!!」
「リ、リゼッタ…?」
大声で叫んだ後、リゼッタは酷く息を荒げ、
サキサが少し心配して声をかけるも、リゼッタはキッとサキサを睨んだ。
「なに勘違いしてるんですかサキサさん!!」
「えっ!?か、勘違い……?」
「そうです!!隊長の初めて!?…はっ!残念でしたね!
隊長は!貴方を抱く前に、あの森での演習で!
既に私のこと抱いてくれてるんですよッ!!」
「なっ………!?」
「勘違いしやすいサキサさんの為に言っておきますけど!
抱くっていうのは、抱きしめるの抱くじゃないですよ!?
エッチ!セックス!!既成事実っ!!魔物にとっての幸福っ!!!」
「な、なななっ…なんだとぉーーーーーーーーっ!!!!???」
内に潜めていた抑制心が爆発したリゼッタは
これでもかというほどの問題発言を連発するも、
とうのサキサはそんなリゼッタから告げられた驚愕の事実に
驚きを隠せないでいた。
「お、お、お、お前とザーン隊長がかッ!?」
「ハイそうです!私とザーン隊長がです!!なんです文句あります!?
言っておきますけど!順番で言えば私が先なんですからね!!」
驚愕の事実に驚きを隠せないサキサであったが、
そのリゼッタの一言には流石に反感を覚えた。
ショックこそはあるものの、元々リザードマンという種族の特性もあり、
引き下がらない強さというものをサキサは有していたのだ。
元よりサキサは前回の間接キスの件で、無意識のうちにリゼッタに対して
ライバル的な意識を持っていたというのも強い要因だろう。
「くっ…!さっきから聞いていれば好き勝手言ってくれる…!
た、確かに…まさかお前がザーン隊長と
既に交わっていたというのは悔しくてたまらないが、
魔物としての幸福ならば私とて同じことだ!順番など関係ない!!」
「うぐ…っ!?」
そのサキサの意外な反撃にリゼッタはついたじろいでしまい、
さらにサキサの反撃の勢いは増す。
「そう…そうだ!順番なんて関係ない!
私だって昨日心満たされるまで隊長に愛されたんだぞ!
それもザーン隊長は私を幸せにするとまで言ってくれたのだ!」
「うぐぐぐ……ッ!!?」【グサグサグサグサッ】
その発言にリゼッタは己の胸に突き刺さるものを感じてしまう。
先程とは形勢逆転、完璧にサキサが優位に立っている。
「そうだとも!考えてみれば、お前はどうなんだリゼッタ!
私は隊長と正式な試合を経て、種族の誇りとあの方からの
合意の上で互いに体を交えたのだ!お前はどうだったのだ!?」
「ぐっはっぁっ!!」【グッシャァッ】
サキサの止めの一言で、リゼッタはその胸の内が粉砕する錯覚を覚えた。
無理もない……サキサとは違いリゼッタは
水浸しで透けた己の裸をザーンに見られて発情してしまい、
その勢いで以前から抱いていた想いをぶつけて体を交え事なきを得た…。
そう…この『勢い』がリゼッタにとっては一番の負い目とも言えた。
そんな自分に比べ、正当なる形でザーンと交わったサキサに
リゼッタはどうしようもない差を思い知らされているのだ。
「…ふふんっ、どうやらその様子では
あまり好ましいシュチュエーションではなかったようだな?
わかったかリゼッタ?同じ男を愛する魔物にとって順番など
苦し紛れの言い訳……………隊長?」
「……えっ!?」
と、その激しい論争の最中にサキサは己の居る廊下から、
遥か向こうにザーンの姿を発見した。
それに釣られリゼッタも慌てて己の背後たる廊下の奥に目を向ける。
先程までの慌しい論争もどうやらザーンたちの
居るところまでは届いていないらしい……。
しかも良く見れば、ザーンのほかにも誰か居ることにも二人は気づく。
「「………スーア(ちゃん)?」」
そう、ザーンの体に隠れて姿こそははっきり見えなかったが、
その正体がサハギンのスーアであることに二人は気づく…が、その瞬間!
「「…………………なぁッ!!!!??」」
スーアが突然、ザーンの頬にキスをしたその光景に
二人は見事に絶句してしまったのであった。
「……………………………………」
「……………………………………」
スーアがその場から立ち去った後、
二人はそぉ〜っと、まるでゴーストの如く動きでザーンに近づいた。
『たあぁいいぃぃちょぅおぉ〜〜〜〜〜…………』
これが先程までの事の経緯である……。
≪時戻り再びザーン視点≫
「……………………………………」
「……………………………………」
「……………………………………」
…まず初めに言っておこう、
回想から戻りはしたが、現状はだいぶ変わっている。
まず一つに、今私たちが居る部屋は『シュザント拠点の隊長室』
つまり『私の部屋』だ。
あのきまづい空気の中、私は一旦シュザントの拠点に戻ろうと提案した。
…言わせて貰うが、逃げたわけではない。状況が状況だったからだ。
キャスリン将軍には既に報告をしていた上に、
あの時、第四部隊の隊員たちを中庭に待たせたままだった。
ソレを察してくれたリゼッタとサキサを連れて、私は隊員たちと合流し、
出迎えてくれたキャスリン将軍たちに礼を残し、
転送陣を用いてシュザント拠点に帰還したのだった。
帰還してすぐにカナリア公から小言を浴びながらも、
一通りの報告を済ませ、部屋に戻ろうとすれば、
あらかじめ呼び出したリゼッタとサキサが私の部屋の前で待機しており、
今だ私たちは互いに言葉を交わすことなく、
彼女たちを部屋に招き入れ扉を閉めれば今に至る……というわけだ。
「……………………………………」
「……………………………………」
「……………………………………」
「……なにか飲むか?」
「いいえ、結構です」
「私も遠慮しよう」
「……そうか…」
このあまりにも重圧な空気をどうにかしようと適当に言葉を出すも、
こうもあっさりと断られてはいかに私といえど対処のしようがない。
…私とて、こんな状況はいつまでも続いて欲しくない。
隊の中でこのような状態関係が続いては間違いなく戦場で支障をきたす……
…………いいや、よそう。このような説明をしているようではいけない。
なぜなら、このような現状を招いたのはほかでもならぬ私自身だ…。
故に、覚悟を決めねばならない。
いつまでも事を偽って逃げるようでは前に進めるわけがないのだ…。
「……リゼッタ、サキサ」
「「…………………」」
私は二人を一度に視界に捉える事が出来る位置にて話しかけ、
彼女たちも二人して私の顔を見上げてきた。
「…黙っているのならばそれでいい、私が一方的に話そう。
お前たちの純情を汚したのはすまないと思っている…
…私自身、自分で招いたこととはいえこういった事態に
なにをどうすればいいのかなど見当もつかないが、伝えることは伝えたい…」
「「…………………」」
今だ彼女たちは何も言わない……
私のことをそこまで見放しているのか、それはわからない…
しかし、それでもこのまま何もせず彼女たちと距離を取るという
事態だけは避けたかった…もし、彼女たちとの関係が終わるとしても、
せめて彼女たちの名誉のため、後腐れなく事を済ませたい。
「私は……「いいんだザーン隊長…」……なに?」
すると、黙っていたはずのサキサの突然口にした言葉に
逆に私が黙るかのように唖然としてしまった。
「…そうですよザーン隊長、貴方はなにも悪くないんです」
「リゼッタ…?」
「隊長が来る前に、私とサキサさん…二人で考えたんですよ…色々と…。
…どう考えたって結論はひとつ…とっても簡単なようで複雑…
でも隊長ったら、戦術家のくせにこういうことは鈍いんですから…」
「まったく…卑怯じゃないか隊長。隊長が悩むとその原因である
私たちも一緒に悩んでしまう…さっきだってそうだぞ?
いつ、隊長の口から言ってくれるか期待していたのに………
私たちはとうに答えを出しているのに、それでまた悩むんじゃあ…
まるでバカみたいじゃないか……だから隊長、この際はっきり言おう…」
「たとえほかの魔物と愛し合ってもいい……」
「たとえ私が一番じゃなくてもいい……」
「それでも私の想いは変わりません……」
「この想いに嘘をつくことなどできない……」
「……私は、ワーウルフのリゼッタはザーン隊長を愛してます…」
「……同じく、リザードマンのサキサも心からザーン隊長を愛している…」
「………お前たち…」
これ以上に、言葉が出なかった…
たとえ、頭の中で魔物という性質を理解していても…
その理解を押し殺すような衝撃を受けているからだ。
こんな…対処のしようなどあるはずがない……。
「………………………」
片手で顔を隠すような形で俯いてしまった。
顔の熱が高まっていることがわかる、心臓の鼓動も早い。
「………………………」
「「……隊長?…!…きゃぁっ!?」」
私のなかのなにかが吹っ切れたような感覚だった。
二人が私に声をかけてきたことに反応し、
両腕を広げ、二人を同時に抱きしめるような形をとった。
「………私も、愛している…。お前たちを…心から…」
「……はい…♥」
「……ふふっ…とんだ幸せ者だな私たちは…♪」
…私には過去がある、その過去は決して許されるものではない、
その償いために戦っている…魔物(かのじょ)たちの為に剣を取る。
それは自分自身の自己満足な罪滅ぼしだと分かっている、
どれだけ偽っても罪は常にこの身を覆っている……この心を縛っている。
その縛られた心にこんなに暖かな温もりがある…、
私は、間違いなく今この時を今人生最高の幸福だと感じていた。
私は彼女たちに導かれるかのように隊長室に置いてあるベッドへと向かった。
魔王軍の男性兵のベッドはこういう時のために大型サイズのものも
設置されている為、私たち三人でも事足りていた。
『…………………………』
互いに交わす言葉などなかった、
しかしそれは先程のような沈黙とはまったく違い、
言葉にせずとも、互いになにかが交わしているような…そんなものだった。
リゼッタとサキサたちが手際よく私の衣服を脱がし始め、
私もそれに合わせて二人の衣服を脱がしていった。
互いに生まれたままの姿になれば、ベッドに横になり
その両端を二人が抱きついてきた。
「ふふっ…♥」
すると最初に唇を重ねてきたのがリゼッタだった。
「あっ!?ずるいぞリゼッタ!」
「んっ…ぷはぁ…ふふん、はやい者勝ちですよぉ♪」
「くっ、ならば次は私…んっ…♥」
リゼッタが唇を離した隙を付き、今度はサキサが唇を重ねてきた。
「んっ…んぁ…はぁ…隊長ぉ〜…♥」
「ふふっ……♪」
リゼッタはサキサのように悔しがるような仕草はせず、
どちらかというと、私たちの口づけを見て愉しんでいるようだった。
さすがにいつまでも見られていると言うのもあれだったので、
私はサキサとの口づけを交わしながらも、
片手でリゼッタの豊胸な乳房の先端を摘んでやった。
「んぁっ…♥…もぉ…隊長…♥」
リゼッタだけというのも不平等を感じ、
もう片方の手ではサキサの乳房を優しく触れる。
「ああぁっ…ふふっ…隊長は大きなおっぱいが好きなんだな♥」
その返答には少し迷った…嫌いではないが…。
確かに豊かに乳房に触れ、それに感じる彼女たちの姿を見れば
私自身にそそるものはある。
「そら、見てみろリゼッタ。隊長のアレがもうあんなに…♥」
「うわっ、本当ですね…このままじゃぁ爆発しちゃいますね…♥」
私の逸物を見て、魔物特有の獲物を捕らえたような淫乱な笑みを浮かべ、
二人はその逸物に顔を寄せたと思うと、
なんと双方の巨大な乳房が同時にその逸物を挟み込んできたのだ。
「ふふっ、どうですザーン隊長?気持ちいでしょう…♥」
「ヴィアナから教えてもらったんだが、
俗に言うダブルパイズリというやつらしいぞ♥」
……あいつめ、今度会ったら叱ってやればいいのか褒めてやればいいのか…。
両乳房で逸物を鋏みながらも、時折二人で熱心の舌を伸ばし
その快楽は底を知らなかったが、私はそれにも懸命に耐え、
目の前の二人を愛でてその頭を優しく撫で回した。
そうしてやれば、二人のトカゲと狼の尻尾は嬉しそうな動きを見せる。
「わふぅ…♪」
「んっ……♪」
二人の表情も幸福に満ちたものだと分かる、
私自身、感情を表情に出すのは苦手だが、今間違いなく幸せだ。
それはこの二人も分かっていてくれている…故に幸福なのだ。
「…うっ……」
そんなことを考えているうちに、私の逸物の限界地が来たようだ。
「きゃぁっ……♪」
「おおっ………♪」
二人の乳房や顔に向かってその熱いものが噴出していった。
結果としては乳房も顔をも白くなってしまいながらも、
彼女たちはその幸福そうな表情で、指でそれを摘み取り自らの口へと運んだ。
「んぁっ…ちゅっ…隊長のぉ…♥」
「んんっ…ちゅぱっ…はぁ……♥」
その光景はあまりにも刺激的で、
それを見ているだけで直ぐに私のそれは固さを戻していった。
「えへへ…隊長のエッチ…♥」
「もうこんなに固いとは…まったくなんて男だ♥」
その様子を見た二人は悪戯じみた笑みを浮かべるのだった。
「ザーン隊長ぉ…♥」
「…入るぞ」
私が体を横にし、その上にリゼッタが跨ってきた。
そんな横でサキサが私の体を舐め回すように舌を這わしている。
最初こそサキサが先だという主張があったが、
リゼッタが順番的主張を持ちかけ、先にリゼッタからの挿入が決定した。
先端と入り口が少しずつキスをする、互いに粘液でべたついたそれは
いとも簡単に互いを向かいいれ、まるでソレを望んでいたかのように
私の逸物は飲み込まれていった。
「ぁっ、はぁぁぁああっ♥」
たとえ一度交わした体でも、
まるで互いに初心のようにその快楽の波は押し寄せてきた。
正直入れた瞬間、だいぶ危なかった…。
しかも、そんなことお構い無しにリゼッタは腰を激しく動かしてくる。
「はぁっ…!ああぁっ…!わふぁっぁ〜…♥」
「うっわ、凄い…あんなに激しく…」
私の横でそのリゼッタの様子を眺めているサキサが驚いていた。
日頃ワーウルフながらも大人めのリゼッタが今まさに獣の如く迫力で
私を攻めているのだ、無理も無いだろう…。
すると、私はサキサが自分で自分の秘所に手を伸ばし
盛大に濡らしながらも弄っていたことに気付いた。
だがその顔は未だにリゼッタを見ている、無意識か…それとも熱心なのか。
「……………」
「んわぁっ…た、たいちょぉっ…♥」
こういう時の快楽を与えるのは男の勤めだということは承知していた。
直ぐにサキサの手を離させ、私の手は懸命にサキサの秘所を弄っていた。
「ひゃぁっ…は、激しいぞザーンたいちょ…んっ…んんっ♥」
問答無用、その唇を塞いでやり秘所弄りの快楽に陥れようとした。
「わふっ…んっ…隊長ぉ…私ぃ…もぉおお♥」
だが先に墜ちてしまったのはリゼッタのほうだった。
腰を動かすスピードが増し、リゼッタ自身は勿論、
この私までをも共にイかせようと必死だった。
当然、そんなことをされればこちらも無事ではすまない。
サキサを弄っていた手を離し、リゼッタの腰を両手で触れてやれば、
ソレを合図にするかのようにリゼッタが
腰を大きく浮かし一気に叩き下ろしてくれば、互いに絶頂を向かいいれ、
私はリゼッタの体内に注げるだけのものを注いだ。
「あっ、あっ、あっぁふぁあああああああぁぁぁっ……♥」
ふぅーっ、と私は息を大きく吐き捨てれば
リゼッタは淫らな顔で全身を震わせていたが、
サキサのことを気遣ってか、思いの外直ぐに気を取り直し
逸物を抜き、私の横に寝転がってくれば唇を重ねてきた。
「ふふっ…ご馳走さまですザーン隊長♥」
気を取り直した、といったがコレは違った…
リゼッタは素早くあらゆる方面から私を味わいたい、
そういう一心さが目の前の淫らな瞳から伝わってきた。
「さって、次は私だな…ふふん、隊長…
さっきはよくも好き勝手やってくれたな。今度は私が………んひゃぁっ♥」
…ひとつわかった、サキサはどれだけ頑張ろうとも
私に対して攻めの一心で行く事は難しいだろう…。
挿れただけでこうも淫らになるのだ、無理もない…。
すると、あまりの快楽に腰でも砕けたのか、
サキサはその状態のまま私のほうへと体を傾け、無理に唇に吸い付いてきた。
「んん〜…隊長ぉ〜♥」
「あっ、ちょっとサキサさ…私がまだ、途中なのに……♥」
そう、その行為が結果として三人同時に
互いにキスをするという事態になってしまっている。
そっと唇を離せば、三つに分かれた銀の糸橋が垂れ、
サキサはそのまま私に抱きついたまま腰を動かした。
「んあぁっ…ザーン、隊長…私は…幸せ…今この時が…一番…ッ♥」
互いの腰をぶつけ合いながらも、サキサは決して私から目を離さなかった。
自らの幸福を常にその瞳に映したいのか、サキサの瞳に映っている私は
私自身にそう問いかけるのだった。
「くっ…サキサ…限界だ。出すぞ…!」
「だしてぇ…!遠慮せず…あぁっ、イクッ!…わたしのなかにぃ…♥
んあぁああああああああっ♥」
此方も一気に限界に達し、私は再び大きく息を吐きながらも、
二人から降り注がれるような唇の嵐を受け入れるのだった。
「「ザーン隊長ぉ〜〜♥♥♥」」
情事は夜が明けるまで続き、
翌朝ベッドで寝静まった二人の隙をついてシャワーを浴びようとすれば
そこに入り込まれ、実質明朝の訓練まで
この幸福なひと時は終わることはなかったのだった。
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二人との事を負えた次の日。
私はその日の晩、カナリア公からの
呼び出しを受け、総隊長室の扉にノックをすれば、
中から聞こえる「入れ」という言葉でドアノブを捻った。
「失礼します、第四部隊隊長ザーン・シトロテアただ今参りました」
相も変わらず全体的に赤いデザインが目立ったその部屋の内装に
少し目が痛むような感覚を感じながらも、席に座り込むカナリア公の前まで
足を進めれば、一定の位置でその足を止めた。
「……来たか…ザーン・シトロテア。まずはお前に質問する…
我らシュザント、その組織としての存在意義はなんだ?」
片手に赤い液体が入ったワイングラスを軽く傾け回しながら
カナリア公は私に質問した。
「はっ、この世界のどこかで平和に暮らす魔物たちの為……。
その平穏を脅かすマスカーを打ち破る為、それが我らの存在意義です」
「そうだ、この世は決して平等ではない。
誰かが幸福であれば誰かが不幸を担わなければいけない…
忌まわしき因果律とも言えるだろう……、
誰かが誰かを守れば必ず起こり得る事象、守る側と傷つく側……
戦争などが起きれば嫌でもその現象を思い知らされる…
本当に忌々しい限りだ……!」
「………………」
回転式の椅子より私に背を向け、窓の外を眺めどこか虚しい声を出す
カナリア公に私は言葉を返さずにはいられなかった。
「…お言葉ながら、カナリア公」
「……………なんだ?」
「貴方の言の通り、ソレは仕方無き法則とも言えるでしょう…
ですが我々は…いいえ、私は軍人…この身を軍役に置いたその時より、
その立ち居地がどちらかなど、弁えております」
「………ふん、融通が利かないやつめ。
お前に言われるまでもなくそんなことはわかっておるわ!
まったく、人の小言をいちいち丁寧に返されてはかえって肩が凝る……」
愚痴を零すように小言を並べるカナリア公だったが、
其処からすぐに両の手の指を交互に絡ませ、肘を机に乗せれば
本題に乗り出してくることが伺えた。
「……魔王城の本隊よりの要請が来た。
恐らく中規模…いや、場合によっては高規模な戦いが予想されるだろう…」
「…内容は?」
「それを今から言うところだ、急かすな馬鹿者め。
最終攻撃目標…ヴェンガデン火山。
数ヶ月前にマスカーの侵略を受け忌まわしくも奪われた火山だ…。
何より当時の戦闘被害が凄まじく…火山にいた魔物たちは
『すべてが死亡・行方不明』といった状況だ…」
「………………………」
その内容に、私は自らの手を握る力を僅かに強めてしまった…。
「…だが望みもある、なぜなら火山という土地ならば
人間の踏み入れん場所も多いだろうし、
何より魔物の生命力は人間のソレと比べ物にならんからな……
命からがら生き延びている者がいても十分におかしくは無い。
魔王城の連中も攻略されて以来、火山の様子を伺っては時を待っていた……。
そしてついにその時は来た…、ようやく周囲の小規模戦闘の区切りがつき、
我らシュザントのほうでもお前たち第四部隊という援軍を送ることができ、
これにより火山奪還を目的とした
マスカー領攻略戦を繰り広げられる十分な戦力が整った……」
そしてカナリア公は席を立ち、私を指差した。
「故に、第四部隊隊長ザーン・シトロテアよ!お前に命令する!!
三日後、魔王領国境沿いにあるポルグラ町に向かえ!
ソレより先は現地の将軍からの指揮で動くがいい!以上だ、わかったな!!」
「ハッ!!」
私は敬礼を持ってして、己の決意を示すのであった…。
カナリア公の部屋を後にし、私はこの事を隊員たちに報告しようと
足を進めていたが…一度、誰もいない廊下にてその足を止めた。
「……再び、私は彼女たちを引きつれ戦場に立つこことなる…
いつ、命を落としてもおかしくは無い危険な地に
隊長という立場で彼女たちを導かなければならない……。
だが、彼女たちも軍人だ…それぞれが強い意思あって戦場に立っている。
ならば彼女たちを束ねる立場にある私の使命などわかりきっている…
彼女たちを守り、共に勝利を得る……………それだけのことだ…」
己の片手を広げれば、その意志を強く実感するため
広げた手を強く握り締め、私はその場を後にするのだった…。
次なる目的はヴェンガデン火山…
さらなる戦いが私たちを待ち受ける………。
……負けはせん…絶対に…な。
12/11/14 02:56更新 / 修羅咎人
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