連載小説
[TOP][目次]
間章T†過去:半勇と火山攻略†
魔王領とは敵対するマスカー領に聳え立つとある拠点。
拠点といっても、領内に無数とある拠点のひとつに過ぎず、
特に首都の近くにあるような強固な拠点でもなければ
これといって目立った戦闘兵器があるわけでもない。
ましてや配属されている兵士の総人数など1000も満たないような
どちらかと言えば少数派の拠点である。

しかし、ここにはひとつだけ……他の拠点にはない最大の特徴がある、
なにを隠そう、あの『ゼム・バンドー』が配属している拠点なのである……。


これは、ザーンたちの物語が始まる前の話……。
魔王軍と敵対する人間の勇者バンドーがマスカー領の片田舎拠点にて
騎馬隊長に選抜された経緯と、後に起こった魔王軍との戦いの物語である。



(※今章はバンドーを主人公としている番外編となっております、
  つまり敵であるマスカー側の視点を描いている為、
  魔物要素は前半は薄く、後半からとなっております。
  さらにはその後半部分も戦闘展開であり、
  魔物娘が傷ついてしまう演出が残念ながらございますが……
  できる限り控えるよう精一杯努力したつもりです!
  ですので今章を読んで下さる方は、どうかご了承お願いします!)



----------------------------------------------------------------------



拠点での話の前にまず、彼が隊長として選抜された経緯を振り返ろうと思う。

きっかけはマスカーの首都…………いや、巨大な城が聳え立つそこは
王都と呼ぶのに相応しいだろう………。




『王都マスカールファー』。



世界に名を連ねる始教帝レインケラーが治める
最大にして最強のマスカーの王都。
巨大な城を初めとし、その下で連なる城下町。
当然、そこには魔物の姿は一切なく、ただごく当たり前の日常を送っている
人間だけがそこでの生活を謳歌していた。




マスカールファーの説明は今はこれくらいでいいだろう。
今回重要なのは、その城と城下町を繋ぐ道のりの途中にある建物だ。
そこは言うならば斡旋所(あっせんじょ)といったところか……。

斡旋所。
現代風に言えば仕事やまたは店舗などを紹介する場所だ。
まぁ、簡単に言えばギルドみたいなものだと言ったほうがわかりやすいか?
ここの斡旋所はマスカー軍の傘下にある場所であり、
マスカーの斡旋状なだけあり、傭兵や旅人などを招きいれ、
戦場にて一時的に雇う為の契約場所となっている。


そしてある日の夕方のことである。
斡旋所の受付で現在大勢のギャラリーが集まっていた。
原因は一人の男……バンドーによるものだった、当時の彼は17歳だある。



「なぁネェちゃん頼むよっ!
上に掛け合って俺をこの国の兵士にしてくれよっ!!」
「あ、あの……でしたらこちらの契約書にサインを……」
「それは傭兵としでの雇用契約書だろぉがっ!
それじゃねぇよっ!!正式な兵士として雇ってくれって言ってんだよッ!!」


バンッ と机を強く叩き、受付嬢と一方的な口論をするバンドー。
この時の彼の姿は、布でできたボロボロの貧そうな服を着用し、
その手には古ぼけたハルバードと薄汚れたリュックを肩に背負った、
見るからに「上京してきたばかりの田舎者」という印象であった。

「し、しかし国軍としての正式な兵士志願でしたら士官学校にて………」
「だぁーーっかぁーーーーらーーーっ!!
そんなまどろっこしいことは無しで今すぐ兵士として雇ってくれっ!!」
「そ、そんな無茶ですぅ〜〜…」(半泣き)


「いやぁ〜、威勢のいい兄ちゃんだなぁっ!」
「俺にもあんな情熱的な時期がありましたねぇ〜…」
「どうなるか見物だぜ、おら兄ちゃん踏ん張れ踏ん張れっ!!」
「うふふっ、若いうちに無茶しときなさいなかっこいいお兄さん♪」


周りのギャラリーもそんなバンドーのやり取りを面白がって傍観していたが
次第に建物の出入り口の向こうから大勢の蹄の音が聞こえてきた。


「おい若いの!早く逃げたほうがいいぜ、憲兵さんたちのお出迎えだッ!」

「憲兵だぁ〜…?」


すると緑の鎧衣服をまとった、マスカーの憲兵たちが現れた。
数にして十から十五といったところだ。


「斡旋所にて暴れている男がいると聞いて来たが……
見る限りでは、その男と見て間違いないな?」



静まり返ったその場にいたギャラリー全員が無言の肯定をした。

「チッ、だれだよ通報しやがったのは………
田舎からわざわざ上京していきなりこれかよ……」

「動くな!そちらが武器を持っている以上、こちらも警戒させてもらう。
おとなしく武器を渡して、我々に従って投降せよ少年。
そうすれば危害も加えないことを約束しよう…」

「…………………」


バンドーは手に持っていたハルバードをゆっくりとその憲兵に向けた。
その憲兵も「それでいい」と言葉を零し、ハルバードを受け取ろうとしたが…

【バギッ】「うがっ!!?」

もう片方の手に持っていったリュックを思いっきって振り下ろし、
憲兵を地面へと叩き付けたっ!
その行動に、ほかの憲兵たちが反射的に剣や槍に手をかけた。

『貴様ッ!!』
「くそがぁっ!!喧嘩なら買ってやるぞっ!オラァかかってこいッ!!
もうキレたぞっ!こっちは長い道のり旅して
やっとここまで来たっていうのによぉ〜〜ッ!!」

十以上の剣、槍の刃を向けられながらも、
バンドーは自らのハルバードを持ち直し、戦闘態勢へと移り
憲兵隊に向かって突撃した。


「うわぁああんっ!受付の前で暴れないでぇ〜〜」(号泣)

受付嬢の悲願も虚しく、バンドーはハルバードを持つ手に力を込め、
憲兵隊に突撃していった。



----------------------------------------------------------------------





バンドーは戦闘のなか、斡旋所の建物から街道へと移動していた。
(まぁ建物の中は言わずもがなでボロボロになったが)
しかし、さらに集まってきたギャラリーたちも驚きを隠せないでいた。
十数人いた憲兵たちが今では3人残してほかは全員、
峰打ちや頭部打撃などで倒され、道端で悶絶していたのだった。


「くっ、この小僧何者だッ!?
応援だ!応援を……【ドガッ】 よヴぇッ!?」

「オラ次だ次ィッ!次来いよぉっ!!」


僅かな隙を見逃さず、バンドーは確実に一人、また一人と倒していき
ついに大勢いた憲兵隊も残り二人となってしまった。
当然、周囲のギャラリーは一層の盛り上がりを見せる。
バンドーか憲兵か、どちらが勝とうとも盛り上がる。
マスカーという国では、このような好戦的な国民も珍しくもないのだ。
親魔物領の町が好色的であるように…………。


「いいぞぉ!にいちゃんがんばれよぉっ!!」
「そらぁ!憲兵さんたちも負けるな負けるな!」






…………そして、その野次馬のなか
ギャラリーたちとはまた違う見方でバンドーのことを見ていた男がいた。

……パイプを咥えた男………ダヴァドフである…。

周囲が盛り上がる中、この男はパイプを手に持つと
にやりっ と口元を緩めた。

(こいつぁ掘り出しモノって奴かな?
最近の若者はすごいねぇ〜〜、おじさん参っちゃうぜ………くくっ…)

ダヴァドフは再びパイプを咥えるとその場を後にし、
一旦人ごみを避けると、ポケットから小型の水晶を取り出した。


「どうもクランギトーさん、実は今面白いのを見つけちまった次第でな……」



この時……ダヴァドフによってバンドーという存在が
クランギトーの耳に入ったという偶然が、
すべての始まりだったといっても過言ではないのかもしれない………。

いや……もしかしたら偶然とは程遠い……なんらかの運命の巡り合わせ……
そう述べたほうが様になっているのかもしれない………

少なからず、このダヴァドフの一報が
バンドーの運命を大きく動かし……、
それと同時に一部の魔物の運命を大きく動かしたのだから……………。












----------------------------------------------------------------------


王都マスカールファーにあるとある留置所。




「出せコラァッ!!」



いくら腕の立つバンドーでも限界というものがあるということだ。
戦闘にこそは有利に立っていた彼ではあったが、
次から次へと増援が現れ、あっという間に数で押され、
取り押さえられてしまい現在に至る。

独房にて檻を握り締めながら、
動物園の猛獣に引きを取らない暴れっぷりを見せていた。


「ふぅぬぬぬぬぬッ………!!チクショォやっぱ無理かッ!!」


檻を力尽くで開けようとしてもそれは叶わなかったが、
続けざまに檻に蹴りを入れまくった。



………これを見ていた見張り役の看守の話によると、
「怖かったが、見ててちょっと面白かった」
との事らしい。ますます動物園である。














そして同じ留置所内にて、
バンドーが入っている檻の部屋とはまた別の一室。

「こちらになります」
「ふむ………」

夕日も完全に沈み、薄暗くなった部屋を照らすのは数本の蝋燭からの光。
そしてその光が照らした先で映し出されていたのは、
この留置所の看守長から、バンドーの持っていたボロのハルバードを受け取る
ローブについたフードで顔を隠した男………クランギトーの姿だった。


「………席を外してくれんか?」
「はっ!」


ハルバードを少し眺めた後、クランギトーは看守長に部屋を退出してもらう。
バタンッ と扉を閉めた瞬間、蝋燭の光は部屋の反対側の壁に
いつの間にかもたれかかっていたダヴァドフを映し出した。

「………このハルバードをどう思うかね…?」

ダヴァドフに背を向けたまま、クランギトーが質問すると
パイプに火をつけ、鮮明に照ら出されたダヴァドフの顔がそこにはあった。


「ふ…、ボロを纏ってはいるが…相当な業物だなそいつは…。
おそらく永い間、使われもせず倉庫にでもしまわれてたんだろうさ、
もったいねぇ…、あのにいちゃんソイツの価値に気付いてないんだぜ。
宝の持ち腐れ……ってわけでもないかな………?」

「ほう…、では質問を変えて…… それはなぜだ と質問しようか」

「アンタ様もあのにいちゃんを見ればわかる………、
だからわざわざオレが言う必要もないだろうが…
あの小僧は化ける……それだけは言っておくさ……」


その答えにフードから僅かに露出している口元がニヤリと歪んだ。


「……良き答えだ…」









----------------------------------------------------------------------

所戻って、再び牢屋部屋。


「クランギトー様っ、危険です!
あの小僧は凶暴なうえ、今でも牢内で暴れておりますッ!」
「かまわんかまわん、この目で見極める必要があるが故よ」




「……あん?」(クランギトーだと……?)

牢屋の暗闇の向こうから、バンドーの耳にそれは届いた。
先程まで暴れまわっていた彼であったが、
暗闇の先より現れたフード姿の其れを見た瞬間、ピタリと動きが止まった。
そして檻の向こうから、その姿が鮮明に自分の視界にへと入り、
檻の前でそのフード姿の其れは足を止め、自分を見ていた。


「クランギトー……へぇ〜、この国のお偉いさんが
わざわざ俺みたいなのに会いにこんなしみったれた所に来てくれるとは、
俺も随分偉くなったもんだ。軍の有名人ってのはそんなに暇なのかい?」

田舎育ちのバンドーでさえ、その名前が行き届いているほど
クランギトーはという存在はこの国にとっては偉大なものなのである…。
しかしバンドーのその発言に、クランギトーの付き添いである
数名の騎士が檻越しから剣を抜こうとした。


「貴様ッ身の程をわきまえんかッ!
この檻にいる以上、貴様をいつでも処刑できるのだぞっ!?」
「オーッおもしれぇっ!やれんならやってみろこの梨野郎ッ!」

そんな彼らの間にクランギトーが手を伸ばし割って入った。

「まぁコレ、双方そう熱くなることもなかろうて。
威勢が良いではないか、若者はこれぐらいの元気でないとな、ほっはっはっ」

「は……ははっ!」
「…………ケッ…」

一見穏やかな言い回しではあったが、
その言葉の影に潜んだただならぬ威圧感をバンドーたちを押し黙らせた。


「…よろしい、私がここに来たのは君に興味があるからだ。少年…名は?」
「………バンドー………ゼム・バンドー…」


その名を聞いた時、クランギトーの眉が僅かに動いた。
まぁフードで顔を隠しているため、それをわかる者はだれもいないが…。

(…バンドー?………もしや……、
ふむ、なるほど。あのハルバードの納得がいったわ……。
そうか……この少年は、あの『クレイナ・バンドー』の………
ほっはっは、これは面白い…。かつてその名と武器を捨てたあの戦乙女の子が
今再びその手に武器を持ち………あろうことかこの私の前に立っておる……
一体これは如何なるの運命の巡り合わせであろうか………。
それとも、彼の中に眠るであろう受け継がれた勇者の血が、
この少年を本能的に導いたのか………………)


「クレイナ殿の子か………確かに面影もあるのぉ…。
ほれ、明かりをここに……。もっとよくその顔を見せてみぃ………」

「……! おふくろを知っているのか……ッ!?」

「ふむ、君は自分の母親をどれぐらいまで知っておる……?」

「…………………………」

「………ふむっ、話にくいか。ならば………ほれっ」



するとクランギトーは後ろの騎士たちに対して手先を前後に振り
「退室しろ」というジェスチャーを送った。
しかし、一国の要人が檻の中にいる野蛮人と二人きりになりたいという
異常な命令に騎士たちも困惑した。

「よ、よろしいので……?」
「かまわんよ、若者は傷つきやすいからの。
デリケートに扱ってやらんといかん」

「……………………」(俺は壺かなんかか…?)


騎士たちがぞろぞろと部屋を退室していくと、
クランギトーは自分の懐をあさり始めた。
すると取り出したものはなんと牢屋の鍵であった。

「ほっはっは、見張りからこっそりくすね取ってやったわ……」

しかもその鍵を使って檻を開けたかと思うと、
なんと自分から檻の中へと入ってきたではないか。

「ーーーーッ?!!」

一国の名軍師とはとても思えないその行動にバンドーは驚きを隠せなかった。
しかし驚いている間にも、当の本人は牢内に置いてあった椅子に腰を掛け、
さらにあろうことか牢の扉は開いているままなのだ。           


「どうした、君もベッドの上にでも腰掛ければよかろう。
立ったままでは体に悪かろうて?」

「……………………」


絶句にも近い形でバンドーは今の呆れ果てたが、
逆に考えれば、目の前のこいつは仮に自分が開いている扉から牢を抜け出した
としても逃がさないという絶対的な自信があるという威圧を感じ、
今はただ、相手の言うとおりベッドの上に腰掛けるしかなかった。


「ここは牢屋にしては清潔であろう?」
「………………はっ?」
「まぁ聞いとくれ、年寄りの他愛もない無駄口とでも思っておくれ」

「あぁ…………………?」
(なんなんだこのジジイ?……いや、ここはあえて会話を合わせておくか。
会話の内容がどうであるにしろ、このジジイの真意がわかるかもしれねぇ…)
「………たしかに、牢屋ってのは小汚いってのが大体の様ってもんだよな」

「左様、しかし魔物には小汚い場所を好んで寄ってくる輩もおるのでな、
それを考慮して私が清潔にするように命じたのだ、
魔物を寄らせんというのが大まかな理由なのだが、
最悪。牢内の囚人がその魔物を使って脱走したというケースもあるからのぉ
いやはや、なかなかどうして侮れんものよな……ほっはっはっはっ!」

「…………小汚い場所?」
「ふむ、ラージマウスやらバブルスライムやらなんとやら……
失礼だがバンドー君、君は魔物をどれぐらいまで知っておる……?」

「………スライムとかそれのさらに強いバージョンのレッドスライム…」
「違う違うそうではないわ。君にとって魔物が人間にとって
どのような存在だと教えられたかと聞いておるのだ」

「人間にとって魔物が…………その質問に何の意味があるんだアンタ?」
「ん、なにか癪にでも障ったか?」


この発言にバンドーは感情的に立ち上がった。

「そういう問題じゃねぇだろぉがっ!てめぇオレをなめてんのかっ!?
そんなガキでも知ってような常識を聞いてなんになる!?
このオレが気にふれたような狂人に見えるかッ!?
魔物?はっ、言うまでもなく人類の敵だ!
今となっては懐かしいぜ、おふくろがよく聞かせてくれたもんだ!
女子供の姿に化けているからっていうのも性質の悪い話だっ………。
大体オレはカウンセラーを受ける為にこの王都に来たんじゃねぇっ!!
この手でおふくろの無念を晴らすために来たんだっ!」


「………………………ほっ……」

「おい……?どうした、さっさと…………」






「ほっ……………っはっはっはっはっはっはっはっはっはっはぁっ!!!」



薄暗き牢の中で、本来の老人のような低い声が
笑い声という異様な高き奇声で響き渡った。



「………ッ!?てめぇ何が可笑しいんだコラァッ!!」

怒りを覚え、相手に掴み掛からんとする勢いであったが
相手が相手だけあり下手な行動はできない、
その為相手の笑い声も掻き消すような大声でバンドーは吼えた。

「はっはっ……いやぁスマンなぁ…。笑うつもりはなかったのだが、
しかし………ハハッ、まさか今時………この御時世で君のような
実直者も返って珍しい……それがどうも……、ほっはっはっはっ…。
そうかそうか、君の母であるクレイナが君に『そう教えた』のか……」

「…………???」

「勇者を退役した身でありながらも君に魔物を憎ませるため
そのように教えたのも何か余程の理由があると伺えるわ……
クレイナは今どうしておる…………?」


その質問に、バンドーは先ほどまでの怒りが急激に静まっていく感覚を覚えた
彼にとって母親とはそれほどの心の傷なのである。


「………………死んだ……五ヶ月に………」
「ほう……これは私の予想なのだが……
死因は魔物絡みか…………そう考えれば君のその妙に早まった合点がゆくぞ」

怒りを少し落ち着かせたバンドーはそのままベッドに再び腰を下ろした。

「…………さすがだな、そんなことまでわかるんか?
頭がいいってのは便利なもんだな、オレももう少し利口ならな……。
アンタの言うとおり…………親父を魔物に攫われた、それが事の発端だ」


この時、バンドーはクランギトーから顔を逸らした。
やはり思い出し、語るのが彼にとってはとても辛いのだろう。


「なるほど…母の…いや、両親の無念を晴らしたいと?」

「そうだ、おふくろは親父を奪われた恨みを抱きながら何年も苦しんできた…
オレはそんなおふくろを見て育った………だから決めたんだよ、
この国の兵士になってあの世にいるおふくろたちに、
オレが殺してやった魔物の死という手向けの花を送ってやるんだ………」


そして再び、バンドーはクランギトーを見た。
その目はただ憎しみと込みあがった怒りを物語った目だった。
その目を見たクランギトーもなにか納得させるものを感じさせ
彼の手が顎下へと移動した。


「ふむ……、魔物に対する憎悪は本物か。
相当腕も立つらしいが、なるほど…あの戦乙女からというのなら納得よ」

「………ああ、勇者の血ってのは凄いもんだな……………」

「………………………」


クランギトーは言葉を返さなかったが、
バンドーのこの言葉にはある意味があった。
そして彼はかつての自分を思い出していた。



----------------------------------------------------------------------


勇者の血。
神からの恩恵、偉大なる力の授与。

バンドーの母親クレイナは、
戦場で得た数々の功績の元、その力を授かった。
勇者の力で得た強靭的な生命力、スタミナなどあらゆる身体能力が
人間を凌駕し魔物とすらも渡り合う。

知っているであろうがバンドーは母親を……
つまりクレイナを病により失っている。

言わばバンドーは病を患った状態の母親から訓練を受けていたのだ、
勇者であるクレイナが、自身の息子であり勇者の力を引き継いでいるであろう
バンドーにかつて勇者であった自分の持つすべての戦闘技術を授ける。
それは『教える側、教えられる側両方』に負担が掛かることなのである。
バンドーは若かった、しかしクレイナは違った。


クレイナが患っていた病。
それは整った環境、休養さえとれば大したのない小さなものだった。
しかし自身のもっとも愛する夫を奪われたクレイナには絶望……
そして『復讐』のふたつしか残っていなかった。

クレイナは病を治して、自ら再び教会へ戻り復帰も考えたことがあった。
しかし悲しきかな…勇者の力があったところで所詮は人間。
自身に迫りくる歳には勝てなかった。


そこで初めて目を付けたのが自身の息子バンドーなんである………。
当時 ゼム・バンドー 十歳。



自分を愛する息子。当然父親を突然失い絶望している……、
唯一自分の絶望を共存してくれる家族……。
そしてクレイナは決断した。
息子ゼム・バンドーを自分の復讐の代行してもらうと……………。



バンドーにとって、それからの母の変わりようは
異常としか言いようのないものだろう。


かつて温かかった食卓はすべて肉体の健康バランスだけを考えたモノ。
そこには冷たさしかなかった。

決められた就寝と起床。
幼い子供の限界ぎりぎりの過酷な訓練。
休みを与えられても自宅にて武器、体技に関する訓練書の読破。

『七年』

これは七年も続いたバンドーの人生なのである。
しかし、当の本人バンドーは決して母には逆らわなかった。
それどころか自ら進んでこの訓練を受けていたのである。

バンドーは知っていた。
父を奪われる前の母の優しさを、だからこそバンドーは逆らわなかった。
「魔物さえ滅ぼせば母は元に戻る」
「どんなに厳しくても母は元々優しい母だ」
「今母が望んでいることは自分の強き成長。それに従って母を安心させる」
十歳という物心をとうの昔から持つバンドーはそれだけを信じた。
かつての温かい家庭が帰ってくることを信じて……。


だがそれは……戻ってくることはなかった。


バンドーが 十七歳 の時、訓練中に母は倒れた。
抱いていた病がついに母の限界地を超えたのである。

この時………『バンドーは初めて母の病を知った』

クレイナは息子に病を隠していたのである……。
息子はまっすぐな子、自分の病を知ったら自分を気遣って
訓練を疎かにするだろう。

それに入院には膨大な治療費が必要となる、
そんなことをすれば息子を鍛えるための本や道具が買えなくなる。
この子が立派になったらゆっくりと休養を取ればいい………
どうせ軽い病だ…休めば直ぐ治る……。でも今はその時間すらも惜しい。
今はただこの子の成長にすべてを注ぎ込む……。


…………これがクレイナの死を招いた理由のひとつなのである。


そしてバンドーは医師から告げられた母の病を知り、気づいた。

           そして歓喜した。

やはり自分は母から愛されていたんだ!この七年……無駄ではなかった!


そしてクレイナは死の間際、バンドーに遺言を残す。

「マスカールファーに向かい騎士となれ」

それが自身の復讐の為か、息子に居場所を与える為か、
今では誰にもわからない……。
だがその言葉を最後に母は死んだ。
バンドーにはそれだけがわかった………………。

そして彼は物置に収められていたかつて母が使っていた
使い古しのハルバードをその手に持ち旅に出た。

行き先は王都マスカールファー。

魔物を打つ破るべく立ち向かう同志たちが集う都。
名声も金も女も自分にはいらない、ただ母の無念を晴らすため………
自分の心にあるこの魔物に対する『黒い憎悪』を満たすために……。





----------------------------------------------------------------------



ぴちょんっ、と何処からか小さな水音が牢屋に響きバンドーは我に返った。

「……なぁ、ひとつ聞いていいか?
おふくろは…一体どんなひとだったんだ…?
勇者……だってのは知ってはいたがそれ以外のことを俺が聞いても……
訓練に集中しろ、としか言わなかったかさ…」



…………クレイナ・バンドー…………

元は一介の兵士であったが、魔物の生態を理解した状況判断・行動能力が高く
後に数々の功績を得て勇者へとなった…………。
出生はレスカティエ教国。
その為あって、勇者としての適応能力は十分に有しており、
勇者メルセ・ダスカロスの指導を受け、勇者としての力を挙げる。
戦場では師であるメルセ・ダスカロスの影響もありハルバードを好んで使う、
持ち前の知識と着実に身に着けていく戦闘技術は教会に強く貢献し
一挙にその名を上げるが、突如教会を去ると申し出る。
罵倒迫害軽蔑を受けて尚その心は曲がらず、ついにはレスカティエを去る。


「これが私の知るすべてだ……」

「………はっ、驚いた。まさかあの有名なレスカティエの勇者だったとは…」

「父親の血で若干薄れてはいるが、君は間違いなくレスカティエ人の…
強力な勇者の血をその身に宿しておる……誇るといい…。
そして母親に感謝せい……、彼女はレスカティエ崩落の2年前に
あの地を去ったのだ……レスカティエ人もほぼ崩落した今では貴重よのぉ、
君の中に眠るレスカティエ人の血は…………」


言葉とは裏腹に、クランギトーはあることに気づいていた。

(しかし皮肉なことよ、愛するものを得て国を去り
運よく魔の手から逃れたが……そのせいで彼のような若者を生み出した……
運命とは残酷よな………人の心を容赦なく殺しおるわ……)

そしてクランギトーは決断した。
自身の横顔にフード越しから手を置いて座るその出で立ち……
まさにこの国の要のひとつとして相応しき迫力があった。



「ふむ、わかった………君と会話して私も決心がついた…
君がここに来たときのように…………。
ゼム・バンドー………、マスカーは君を正式な兵として迎えれよう」


その言葉はバンドーがこの王都に来て一番待ち望んだ言葉ある。
とうの本人も反射的に立ち上がった。


「その言葉………嘘はないな…ッ!」

「ない。先程も言ったが君はレスカティエ人の血を宿し勇者の力を持つ。
さらに言えば君は勇者から永きに渡って修行を受け、
この国に雇われることを望んでおるのなら拒絶する理由などありわすまい…
だが、ひとつだけ条件が私にはある……」
「………なんだ?」

「三年……君にはこのマスカールファーの士官学校を通ってもらう」

「なっ!!?」


その言葉を聞いてバンドーは驚愕した。
折角勇者としてこの国で戦えると思ったのに、
折角七年も修行したのに、まだ三年も修行しろというのか。

「そんな馬鹿なっ!?折角の思いでここまで来たんだぞッ!?」
「君の気持ちは理解しておる……。だが君も理解してくれんか。
軍隊とは『個ではなく群』で戦うもの……、
確かに君は勇者クレイナから鍛錬を受けたのであろうが
それはもはや我々にとって過去の技術だ…」

「お前ッ!おふくろの努力を無駄だと言いてぇのかっ!!?」
「そうとまでは言っておらん……。事実君の技術はレスカティエ特有のモノ
それこそ無くすには惜しい逸材……だがわかってほしい………
この世界…生半可な技術だけで潜り抜けるほど甘くもないことをのぉ…」

「………………………」


バンドーはベッドに座って頭の上に手を置いた。
自分のない頭をフル活動しているのだろう…。
そして数分後、彼を覚悟を決めた顔でクランギトーに話しかけた。

「……三年、本当に三年で俺は兵士になれるんだな…」

「約束しよう、それに兵士だけではない……
士官学校で好成績さえ収めれば隊長……運よくば将軍も夢ではない…、
なにせこの国は実力こそが功績なのだからのぉ………。
この国にいる間、君の住む場所も用意しよう。
必要以上の物も供えて……のぅ…」

「………へっ、ありがたいこった…」





こうして、ゼム・バンドー新たな人生の幕開けとなった……。

決して魔物にとっては嬉しくもない幕が……
クランギトーによって開かれてしまったのである…。

















----------------------------------------------------------------------

      ≪三年後:王都マスカールファーのとある教官室≫




マスカールファーの士官学校。
そしてそこにある教官室で二人の男が会話していた。
どちらも風格がある中年男性だがどこか緊迫な雰囲気だ。


「成績を捏造しろだとっ!?」

一人の男、士官学校の教官がそう叫んだ。
そしてもう一人の男は気まずい表情のまま頷いた。
この男はどうやら士官学校の教師関係者ではなく、一介の騎士のようだ。
しかも身に纏う鎧についた装飾品から、位の高い……隊長格だとわかる。

「なぁ頼む!やっとの思いで維持してる隊長の座なんだ!
それをあんな田舎から来たワケのわからない野蛮人に奪われてたまるか…っ!
この通りだ!親友のよしみで助けてくれっ!俺の未来が掛かってるんだ!!」

「馬鹿な!バレたら軍法会議モノだっ!!
私の地位まで危うくなる!それこそ私の未来も掛かっている!
諦めたどうだ?少なくとも…あいつの実力は本物なんだぞ…」


どうやら騎士と教官は親友同士で、騎士の男が
何者かに隊長としての立場を奪われそうになっているため
親友である教官に、その何者かの成績表の捏造を依頼しているようだ。


「俺もできる限りは協力する、それに……くくっ…いい案があるんだ…」
「なんだと?」

「なにも俺は奴の隊長任命を否定しているわけじゃない………
ただ神聖なるマスカールファーの騎士団騎馬隊長に選んでほしくないだけだ、
あんな野蛮人など、片田舎の拠点にでもくれてやればお似合いだ」

「そ、それは……っ!確かに、隊長格任命は取り下げられんが…
転属先の変更なら………できるかもしれん…………」
「だろ?元々奴は学もなく、実技だけで試練を乗り越えてきただけの脳筋だ
それにあいつには身よりもいない……、うまくいくさ…………」
















そしてさらに数週間後、その教官はファイルを手に仕官学校内にある
学生寮の一室にへと訪れた。

【こんこんっ】

「入るぞ………。 ゼム・バンドー…」


ガチャリ、と音を立てその部屋の扉は開かれるのであった。
その部屋の奥、窓の前にその男はいた。
手に持つ林檎を齧りながら……………。


「貴様っ!敬礼をせんかっ!!」
「………ああ、申し訳ございませんねぇ教官殿…」

ガブリッ、持っていた林檎を芯丸ごと飲み込むと
バンドーはムシャムシャ音を立てながら敬礼をした。
それを見た教官はため息を吐いた。

「はぁ…まぁいい、随分と時間を取らせはしたが
今朝、お前の配属される拠点がようやく決まった。
ここに大体のことは記されてある……」

手渡されたファイルを受け取り中身を確認する。

「………あ〜ぁ、こりゃまた随分と田舎ですねぇ教官殿」
「口答えは聞かんぞ、自分が学年一番の問題児だということを忘れたか?
私もお前の実力は認めてはいるが…………、
あったところで通用しないこともあるということだ…………」

「へぇ〜……、『力こそすべて』なマスカーらしくない理由ですな教官殿?」


その一言に教官は一瞬嫌な汗を感じた。

「と……とにかく!これはもはや決定事項だ!!
二日後迎えの馬車が来る、それまでに準備を整えておくように!以上だ!」


そう言い残し、まるで逃げるように教官はその部屋を退室した。
バンドーは今一度受け取ったファイルを読み直し、ニヤリと笑った。


「…ふんっ、まぁいいさ。むしろ王都付近じゃないなら好都合だな…
魔王領に近い拠点なら……魔物どもをこの手で八つ裂きにできる機会も
増えるってもんだ………くくっ……それにしても……」

バンドーはファイルに書かれたある一行を見てほくそ笑んだ。

「ゼム・バンドー 騎馬聖兵隊長任命 とは………な…くくくっ……」

ゼム・バンドー当時 二十歳。
彼のマスカーてしての軍人生活が幕を開けようとしていた…。










              ≪二日後≫


王都から走り去る一台の馬車を
王城のとある一室から見下ろすクランギトーがそこにはいた。


「……………………」

「よかったんですかい?
あの小僧をあんな田舎拠点にやっちまうなんて宝の持ち腐れもいいところだ
あんたの事だ、とっくに教官の不正行為も知ってるんだろ?
………いや…、知っていて尚…そうさせた……というわけか…?」


その一室にある椅子にいつの間にか座っているダヴァドフを
見ることなく、クランギトーは馬車を眺め続けながら
彼の質問を返した。


「獅子は我が子を鍛えるために崖へと突き落とす……といった言葉がある。
あの少年の場合はまさにそれよな………、
潜在能力は確かに一線を画すが、まだそれでも尚足りんものがある……」

「…………ああ、実戦経験か?」

「それもあろう………、
出撃比率が多少高い拠点ぐらいが今の彼には丁度よいて……
いずれ彼がこの王都に戻った時には…ほっほ、どれぐらい化けておるか……
楽しみが増えるばかりよな……………」



馬車が視界から消えるのを確認し、クランギトーもダヴァドフの
向かいの椅子にへと腰をおろした。



「しかしあんたもヒデェことをするもんだ………
よかったのかい?『魔物は女の姿に化けている』なんて、
『今時のガキだって信じてない』ようなとっくの昔の言い伝えを
あの小僧に思い込ませたままで………」

「あやつの母が彼にそう教え込ませたのだ………
それを部外者である私がどうこう言うのも無粋な事であろう」

「そうじゃない、あの小僧が魔物と出会ってもしも真相を知ったらどうなる?最悪俺たちに敵対する恐れもあるってもんだぜ?」



唯一露出しているクランギトーが口元がニヤつく。



「簡単に言うが、彼の場合は簡単なことでもないということよ。
彼は母親という柵に捕らわれた哀れな囚人よ、
囚人は看守の忠実な奴隷、彼は母親の奴隷であり、主の言いつけは絶対だ。
例え私が言っても、魔物が言っても……彼は信じない………
母親という柵にいる以上………彼は魔物を憎み続ける………」




「……ヒューッ、なんともえげつないこった……怖い怖ぇ。
ああ、それと俺の方からもあんたに報告だ」
「……なにかね?」

「大まかな準備が大体整いつつある、ついに難攻不落と言われた
あの『ヴェンガデン火山』を攻める時も近いってな………」

「そうか…、ほっはっは。丁度いい…実にいい頃合だ……」



その時、クランギトーの視線はもはや見えなくなった
馬車に乗ったバンドーへと向けられているのであった……。










----------------------------------------------------------------------





            ≪マスカー:バンドー視点≫


【ざわざわっ…………がやがやっ……】


ここが俺の配属されることとなった拠点か………なるほど田舎だな。
俺も田舎村出身ではあるが、三年間も王都暮らしじゃあ違和感も感じる。

この時期、俺のように士官学校を卒業した連中が
マスカー領のあらゆる拠点に配属されるからな、
田舎ではあるが、今だけはそれなりの賑わいを見せている。

マスカーの士官学校ってのは王都以外にも、
領内でそれなりに栄えた都市ならばいくらでもあるらしい。
それもあってか、やはり見知った顔よりも見知らない顔が多い。
まぁ元々こんな田舎に配属されるような王都直属士官学校生は
俺のような嫌われ者か、成績の低いドベ共ぐらいだ。

…………そのせいもあるんだろうが、
俺が今立っている開かれている門の前や、
後からやってきた馬車から降りてくる連中を見る限りじゃあ
ちぃとガラの悪い奴も目立つ。
まぁ俺も似たようなもんなんだろうけどな………。

とは言え記念すべき俺の配属されての軍人生活一日目だ。
今はできる限り大人しくしておこう………。



【ドンッ】「オイ気をつけろッ!!どこに目玉つけてやがるっ!?」
「ああんっ?」

すると馬車から降りて俺とすれ違った連中の一人とぶつかると
その相手が声を荒げて俺に突っかかってきた。
………前言撤回、大人しくしておこうと思ったがぁ〜……、
林檎食ったって治まらねぇ程に俺の眉毛がぴくぴくしてやがる……。

「誰に向かって口きいてやがるコラ?」

俺は自身の目玉を血走らせるような勢いの睨みを相手にきかせる、
そいつは俺よりもデカイ大男のハゲ頭野郎だった。
そのハゲも俺の言い返しを予想していなかったのか、
振り向いたときの顔が間抜け面そのものだった。
だが自分よりも小柄な俺の姿を見た瞬間、鼻で笑いやがった。

「おいおい兄ちゃんよ、言葉に気をつけろよ?
いきがるのは結構だが相手選んでモノを言えってんだよ、
折角の配属記念日に病院行きたくはないだろ、お?」

完璧に舐めてるなコラァ……。
俺の手元には武器はない、この後にある新兵歓迎式で手渡されるからだ。
それならこのハゲも同じことだが、見た限りじゃ力もありそうだ……。
さてぇ、どうやってシバいてやろうか…………。



「コラそこっ!何をしているか!!」


するとそこに声を掛けたのがこの拠点の上官だった。
目の前のハゲ野郎もそれを見るや否やバツを悪そうにその場を去っていった。

「けっ、命拾いしたな糞チビ」
「…………………………………」

上官が俺のほうに向かってきていたから我慢したが………、
俺の両手は今にも血管がはち切れそうなくらい力いっぱい震えていた…。

「答えろ、なにをしていた?」
「別に………ああ、それより…今日からこちらで世話になる
ゼム・バンドーってもんです、どうぞよろしくお願いします……」

一応軍人である以上最低限の礼儀ぐらいは学んでいるので
俺はその上官に対して敬礼を送った。

「………!お前がゼム・バンドーか、話には聞いている。
よくぞ我が拠点に来てくれた、歓迎しよう」
「………話?なんのことで…?」
「まぁ知らんのも無理はない、情けない話だが我が拠点ではお前のような
士官学校を卒業してそのまま隊長格に抜擢されるような優秀な人材は
初めてでな、拠点長から丁重に扱うようにと命令されている」

なるほど、田舎なだけあり集まってくる新参兵も
さっきのようなゴロツキばかりじゃあ無理もねぇな。

「別に丁重なんていらねぇですがね……………」
「そう固くならなくてもいい、今はとりあえず
この後の歓迎式でみなの前で顔を出してくれればそれでいい、
隊長として与えられるお前の部屋や武器などは後ほど教えよう」
「どうもご丁寧に…恐縮な限りで…ってやつですよ」

下手糞な敬語だと思ってるかもしれねぇが、
コレでも精一杯なんでね。まぁ、生まれながらの体質みてぇなもんさ。
生き方が生き方のせいで、目上に対する礼儀やら敬意ってもんが
如何せん苦手でね………。








それから上官の案内の元、俺は新参兵たちが集まっている拠点中庭とは
別の場所でしばらく待機させられていた。
時間が経つにつれ上官方のかったるい演説が終わり、
ようやく俺の紹介が来たようだ。
『隊長紹介』は新参兵にとってはもっとも緊張するときのひとつだ。
これから自分が仕えてる相手だし、期待と同時に緊張もするだろうよ。
まぁそんな連中の前に俺みたいな若造が現れたんじゃあ
そりゃこんだけざわめきもするわな、面倒極まりないが……。


「彼が今日から諸君らの隊長として勤めるゼム・バンドーだ、
王都直属士官学校で優秀な成績をおさめ、隊長へと抜擢された実力者だ。
まだ若いが勇者の力を持っおり、必ずや諸君らを勝利に導いてくれるだろう」


……まぁ、俺がその気になれば隊長格なんざちょろいちょろい。
いやぁ〜〜、いざこんなほめられ方をされると
鼻が伸びてしょうがねぇなぁ〜このやろぉ〜〜〜!(←超嬉しそう)


「ちょっと待ってくれよ上官殿……俺は納得できねぇぞ…」


……誰だよ、人が気分いいときにしらけさせること言いやがるのはよ…?
…おぉい、さっきのハゲじゃねぇか。
あれも俺の部下ってか?冗談きついぜ…まったく。
すると先程まで演説していた上官とハゲが口論を開始した。

「説明しただろう、彼は勇者の力を持っている。
隊長として抜擢される理由も十分…………」
「はん、勇者の力?どこが?そのチビのどこにそんな力があるってんで?
何処からどう見てもクソ生意気そうなガキじゃねぇですかい」
「言葉に気をつけろ、実質的彼はお前の上官だぞ!」
「それこそお言葉ですがね、俺以外にも納得してないやつが
随分いるようですがここらへんはどう収拾をつけるつもりで……?」
「それは後々……」

「ああもういいですぜ上官殿…」

「お、おい!?」「おおう?」


その口論のよこから俺が割って入ってやった。
正直今日は馬車の長旅で疲れてるんでな、
めんどくさい揉め事はさっさと終わらしたいってのが本心なんだよ。
まぁ、俺の顔を見た瞬間、また鼻で笑いやがったこの糞ハゲに対して
怒りで頭がイカレちまいそうだってのも本心だがな。



「おうおうわかったようじゃねぇか兄ちゃん、
そうそうお前みてぇなチビに隊長の素質なんて………」

「なに勘違いしてんだ糞ハゲこらっ。
俺ぁは手っ取り早い方法で決着を付けるって言ってんだぜ?」

「なんだとぉ…?」


俺は自分でもびっくりするぐらいの低い声で言ってやった。
かっこいいだろ?聞こえないだろうけど、こう…雰囲気的に。

「実力で教えてやるって言ってんだ、格の違いってやつさ……」







俺はマスカーの兵科で言うと、『騎馬聖兵』と言う兵科に分類される。
ギルドや冒険者でいうところの職業みたいなものだが
その分類は士官時代での成績を通して、教官たちが指定してくれる。
俺の場合は使いこなしている武器がハルバードだからという理由が強い。
ガキの頃からおふくろに叩きこまれてきた武器だからな…
士官学校で色んな武器を練習したが、やっぱりコレが一番肌に合う。
乗馬も士官学校で多少は慣れてはいるつもりだ。

当然俺の部下になるはずだったあのハゲも騎馬聖兵だ。
つまり馬に乗った決闘であり、与えられる馬は軍内で支給される軍馬だ。
隊長格の軍馬なら相当なものを用意されるのだが、
この『決闘』はちがう。
決闘という神聖な場では最低限、対等でなければならない。
その為、今用意されたのは一般兵に支給される普通の軍馬だった。


「勝敗はどちらかが敗北を認めるか、
こちらが戦闘続行不可能と判断して執り行う。間違っても『相手を殺すな』
これは正式な決闘であり諸君らは偉大なる主神の名の元、
その手に武器を持っているのだ、くれぐれも忘れないように………」



上官たちも俺達の決闘を許可してくれたのは正直意外だったが、
おそらく上官どもも本心では俺を疑っていたか、
あるいはこの決闘でどちらが勝とうにしろ新参兵たちの励みになるか…
とでも企んでるんだろうよ。

ギャラリーが大勢集まった決闘場所は拠点中庭。
俺は鎧を纏い、一般兵用のハルバードを手に取った。
そして軍馬へと跨り、三年掛けて磨いた乗馬技術で乗りこなす。

あのハゲも鎧を纏うと、大型の戦斧を持って軍馬へと跨った。
俺を睨みながらも口元が下品にニヤついている…。

「怖かったら土下座して誤ったほうが身のためだぜ糞チビ。
俺が変わりに隊長になってやるよ、ありがたく思うんだな」
「…………せいぜい言ってろ」


たくっ…見た目だけで勇者の力を侮るとは………、
俺も人のことは言えないだろうが、田舎者って可哀想なもんだなホント…。

俺達の間にいる審判役をやってくださる上官殿が
準備ができたのを確認すると手を掲げ宣言した。


「では両者…誇りある良き決闘を期待している。
それでは…………はじめっ!!!」


その手が振り下ろされたことによって
俺達の手綱が一気にはじかれたッ!




【ズガンッ】



そして一瞬で決着がつく。
格が違うんだ、当たり前だろ?


『……………えっ?』


ギャラリーからしてみれば審判の手が振り下ろされて間もなく、
あのハゲが落馬している光景が目に入ったって感じだろうな。
くっ……くっはっはっ……いやはやまったく気分がいいもんだ、
正式な決闘でこうも大胆にあのハゲをぶちのめせた現状がまったく最高だ。


「そ、そこまで!勝者 ゼム・バンドー!
………!……おい!担架だ、担架もってこいっ!!」


そして落馬して血を流している相手を見下しているこの光景が実に心地いい。
相手が魔物じゃないのがちょっと残念だが………まぁいいさ。
言ってる間に機会がくる、今はまぁ……鬱憤晴らしの達成感に酔っておくさ。
まぁ最後に決めとくか……、ざわついている『俺の部下』たちにな……。

「まだ俺に不満がある奴はいるか?」


……全員びびって頭も動かせないか。
いやぁ達成感があるよホントになぁ………。まぁ…仲良くしようや…。
魔物を滅ぼすために有意義に使ってやっからよぉ〜………。

だが…俺に負けたあのハゲは別だ、
我ながら器用に手足の腱を切ってやったからな、戦前復帰は二度とないさ。
ご愁傷様、同情なんてしてやらねぇがな。

まっ、気にすんなってこったなハゲ野郎。
お前のいない分も俺が魔物どもを滅ぼしてやるからよ、
そこんところはありがたく敬意を込めな、病院のベッドで泣きながらなぁ…。

もし仮に運よく治癒魔術で傷が治ったら、いつでも相手になってやるぜ?
そんな勇気があったらの話しだが……くっはっはっ、改めてご愁傷様だ。

さぁ、幕開けだ…俺の偉大なる軍人人生のなぁっ…!







----------------------------------------------------------------------




あの決闘からさらに数日が過ぎた。
正式な軍隊長となったのはいいが、なんといか………
世の中自分が思ったとおりに事は進まないもんだなってに腹が立つぜ。
コレといって出撃命令はないし、魔物すら見ていない……。

おまけにこの拠点の連中との関係もはっきり言って今では最悪さ。
この数日で、鍛錬や組み手でほかの隊長格や上官たちと手合わせしたんだが、
如何せん俺が強すぎるのと、必要以上に相手を痛めつけちまう癖が理由で
見事なまでに嫌われちまったよ。てめぇらが弱いのがいけねぇんだろうが…。

たくっ、毎日命がけで魔物との殺し合いを想像してたってのに現実はどうだ?
毎日同じように部下たちの乗馬訓練だの手加減しての組み手だの
上官に対しての定期報告だの退屈で仕方がないことばかりだ。
…そりゃあ戦場に備えて体を鍛えるってのも大事だろうが
それでもいくらなんでもってやつだ、何のためのマスカーだ………。

すぐそこに魔物どもが轟く魔王領があるってのに……
上官方に聞いたら、「敵がまだ動かない以上、命令があるまで待機」
ってのが拠点での常識ってやつらしいから仕方ないかもしれねぇが………。




まぁそれなら今日はちょっと期待できそうだな。
なんでか?実は言うとついさっき隊長全員を集めた号令があってな、
会議室に俺たちを集めて拠点長がなにか伝えてくれるらしい……。

この拠点に来て以来こんなことは一度もない、
いよいよもってこれは期待できそうだぜ!




そして今、俺を含む隊長格全員が会議室に集められていた。
とはいえ小さな田舎拠点だからな、
そう多くいるわけでもなく俺以外にも隊長格がいるってったって、
所詮両手で数えられる程度だ。



「…よし、全員集まっているようだな………。
今回集まってもらったのは他でもない、
我らが偉大なる軍師クランギトー様より、侵略支援要請がきた!」

『おおぉっ!』

現れた拠点長の言葉に
会議室中にいるほとんど奴らが歓喜の声を上げる。
そりゃそうさ、あの軍師殿は
それほどマスカーにとっては偉大な人物だってことさ、
その偉大なお方より要請が来たんだ、喜ぶのも無理はない。

まぁ俺は別の意味で喜んじゃいるさ…、
ようやくだ…ようやく魔物どもをこの手で葬れる機会が来たんだ……!


(………ごくっ)


…ちっ……変に緊張してきたな…。
もっと余裕を持てよ俺、俺の強さは俺が一番良く知ってるだろうよ……。
並大抵の魔物になら引きをとらねぇ自信だってある、
そうだ…これは緊張じゃない、ワクワク…つまり期待感ってやつだ!
うん、それだ!間違いない!
なんたって待ちに待った時なんだ、鼓動も高まるはずだぜ!


「それで、その内容は?」
「それを今から私が言うところだ、黙っていろバンドー」
「…………………………」


これだよ……さっき言った嫌われてるっていうのはまぁこんな感じだ。
手合わせで負けたのを根に持っているのか………、
それとも俺に立場を奪われることを恐れているのか……。
とはいえ、俺は出世欲なんてほとんどないんで知ったことじゃないが…。



「…今回の侵略対象はヴェンガデン火山だ。
既に知る者もいるだろうが、ヴェンガデン火山は今やマスカー領に囲まれ、
魔王領から我々が引き離し、マスカー領内に孤立させた中型火山だ。
永きに渡って火山に巣くう魔物どもが抵抗を続けてきたが、
クランギトー軍師殿がついに強行侵略を決意された。
二日後、王都マスカールファー直属の本隊が攻略を開始する。
我々の任務は本隊のサポート、兼ねては本隊共々魔物どもの駆逐である!」



『ヴェンガデン火山』………、
聞いたことはある、確か……数ヶ月前にマスカー軍が魔王領を侵略した際、
その侵略に成功した範囲で唯一今でも抵抗を続けている火山だったか?

火山っていう土地が土地なため、いくら大軍を率いて攻略を試みても
火山という戦場を利用した魔物特有の体質と土地勘が
非常に厄介らしく、数ヶ月経った今でも抵抗を続けているらしいな。
だがその火山周囲の土地は完全にマスカー領と化したため、
援軍も撤退もできない完全孤立状態にはしてあるそうだが………

(そうか……あの軍師殿がついに強行を決意したか…。
あの侮れないお方の事だ、何かしら策があるんだろうが……おもしろい…
王都直属の本隊ってことは、当然あの軍師殿も現れるだろう……
運がよければ、あの軍師殿の実力を見ることができるいい機会かもしれん…)


期待に胸を膨らましながらも、俺たち隊長にそれぞれ与えられる任務を
拠点長が火山の地図を広げながら説明に入った。

「貴殿たち飛射兵部隊はここで援護射撃……………貴殿の部隊は………」

……チッ、こんな田舎拠点の兵団じゃあ期待されていねぇのか
マジで片隅っこのサポートばっかじゃねぇか!
あーあ、折角の初戦だってのにこれじゃあ魔物を倒す機会も糞も………。

「次に……バンドーら騎馬聖兵部隊だが……」
「はっ!」
「………貴殿の部隊は本隊と合流し、敵将の討伐にあたれ……」
「…………はッ!?」

敬礼の発声と驚きの声が混ざってしまったような変な声が出ちまった…。
本隊と合流して敵将の討伐!? どういうことだ!?
さっきまでの連中とはまったく違うじゃねぇか!?
驚いてるのは俺だけじゃない、ほかの隊長どももざわついている、当然だ!

「…拠点長、それは一体どういう風の吹き回しで……」
「……上からの要請のひとつ、とだけ伝えておこう……」

そう言って拠点長はバツの悪そうに作戦の説明を再開したが、
もう俺の耳にはそれすらも入ってこない。

(上からの要請…?上って本隊……つまり王都直々のってことか……?)

そこまで考えればさすがの俺でも予想がついた、
俺みたいな新参の隊長にこんな任務を下すような酔狂者など
あのお方以外思い浮かばなかったからな。


(クランギトー様よ、アンタが俺にそこまで期待しているのなら………
応えようじゃないですか、貴方の望むままにね…………)

気がつけば、俺の口元は自然と笑っていた、
………決して他所から見てもいい笑顔ってわけじゃないが…。
まぁ、雰囲気は出てるだろうよ。これじゃあまるで俺が悪役みたいだが…。








----------------------------------------------------------------------




決戦当日、天気は快晴、場所はヴェンガデン火山の麓付近にて。
緑色の格好を主張とした大勢のマスカー兵が
軍勢となって山を取り囲んでいた。

それぞれが殺伐とした雰囲気の中、戦闘準備を整えている。
その麓からさらに離れた森の中で本隊と合流した我が騎馬聖兵部隊がいた。
俺は隊長格戦闘で支給される強化型ハルバードを持ち
ふと後ろを見れば、部下たちは明らかに緊張した表情で固まっている。


「オラお前ら、情けない顔してんじゃねぇよ。本隊の連中に笑われるぞ?」
「で、でですが隊長。お、俺たち戦場にでた経験なんてほとんどないし…
しししかも初戦でいきなり難攻不落のヴェンガデン火山だなんて……」

そいつの言葉に後ろにいる連中も賛同するように頷く。
あ〜ぁ〜、戦う前からこれじゃあ先が思いやられるぜ。
しゃぁねぇな、適当に屁理屈捏ねて自信つかせてやるか。
俺って優しいぃ〜……。

「確かに初戦でいきなり、ってのはあるな。
正直俺も昨日まで緊張していたが今は結構落ち着いている」
「……バンドー隊長の場合は実力があるからでしょうぉ〜…」
「けっ、これでもそれなりに理屈があって落ちついてんだよ馬鹿が」
「と、言いますと……?」

「…俺たちはまだ運が良い方だってことだ。
ここからでも見えるが、俺たちが今から攻め落とそうとしている
ヴェンガデン火山は見ての通り、森に囲まれた場所にある火山だ。
聞いた話では、以前はその森自体も未だ魔王領のテリトリーとして
魔物どもが抵抗をしていたらしいんだが、
大勢の兵士の犠牲のもと、何とかあの火山に追い込むことができたそうだ」


俺の説明を聞いて、部下たちが なるほど… と声を上げ始めた。


「その犠牲に入らなかっただけまだマシってこったな。
それにこの作戦だって、王都直属の本隊と合流しての戦いなんだぜ?
初戦の俺たちにとっちゃあ贅沢なくらいのありがたみだな」

「で、ですがバンドー隊長。本当に大丈夫なんですか?
か、火山ですよ!?そんな場所をどうしろって…………」

「…魔物どもは火山内部に陣を築いてるらしいが、
その内部へと繋がっている火山洞窟があるらしい、
今は敵がなにかしらの方法でその入り口を塞いでいるだろうが、
そこから内部に侵入できりゃあ………」

「そうじゃなくて!火山内みたいな業熱地獄で
どうやって戦えっていうんですか!!
魔物ならまだしも、人間に過ぎない我々じゃあひとたまりもないですよ!?」

「………さぁーね」

「さぁーねって………ッ!?」

「俺もそこらへんは詳しく教えられていない、
なんでも今はクランギトー殿の命令があるまでは動くなだそうだ」
(まぁあの軍師殿が俺に期待してくれている以上、
そんな相当ヤバイ命令はないだろうが………祈るぜ、それでも……?)



俺は火山を見上げると、山頂に近づくにつれ黒ずんでいる空を見て、
一滴の冷や汗を肌に感じた………。
そしてそんな火山を根城としている『魔物の敵将』………、
そいつが一体どんな奴でどれほどの実力か
という妙な期待を抱きながら、加速する胸の鼓動を静かに感じていた。
火口から昇る煙のように………。




〔聞くがよい、我らがマスカーの勇士たち〕


『!!!』



そして突然、火山・森全体を覆うような声が俺たちの耳に届いた。

「バンドー隊長!あれを!!」
「見えてるから黙ってろ!我らが軍師様のありがたい演説だぜ…」

そう、俺たちが轟く一方の空の上に軍師様が『でかく映っていた』。
恐らく『水晶』を使って空に映し出した特大スクリーンみたいなもんだろう。
いやほんと便利なもんだな水晶ってもんは………。



〔諸君らがこれより戦わんとする戦場は知っての通り難攻不落の魔境……
私は決して臆するなとは言わん、恐怖という物を知ってこそ人の証でもあり、
人であるからこそ強さの証でもあるからよ。
そう、諸君らには勇気がある。知恵がある。力がある。それ即ち人間である。
人間とは無限の可能性を秘めこの世に君臨する存在……。
それを知らしめんとせしは我らがマスカー!我らが人間ッ!!
この世に魔物などという異形の産物はもはや不要!
それを彼奴らに痛感させるがいいッ!〕



『オオオオオオおおおおおおおおおおおおおぉぉっ!!!!!!』




雄叫びと共に俺たちはそれぞれの武器を掲げた。
あのお方の演説はそれほどまでの士気向上効果があったのだ。
俺の後ろで震えていた部下たちも今では勇ましく叫んでいるのがいい証拠だ。

それからすぐ俺たちの元に数名の騎馬兵がやって来た、
すると大きめの袋の中に入った『瓶』をひとつずつ俺たちに配り始めた。
触っただけでその瓶の冷たさが俺の肌に伝わった、
中身も透明なくらいに白く、液体から冷気であろう湯気が上がっていた。

俺たちは今まで見たことのないその瓶を手に持って眺めながら
みんながみんなして、これはなんなのか。と思案していると
それに見計らったかのように軍師殿が答えてくれた、
まぁ実際兵士全員に瓶が回るまで待っていたんだろうが………。



〔現在諸君らに手渡されたその瓶の中身は
私たち魔道部隊が量産的に作り上げることに成功した一種の耐性薬である。
それを飲めば一時的ではあるが、火山内のような高温地帯であろうと
諸君らの身を悪しき業火から守ってくれるであろう………、
これで諸君らの準備も整おう……、そして…いざ参らん!
諸君らに偉大なる人間の可能性あらんことをッ!!〕






その言葉がきっかけだった………、
火山を取り囲む大勢の兵士たちが駆け出すきっかけ……
地面に空となった無数の瓶を落としながら、
マスカーの兵士たちは咆哮と共に火山内部を目指した。

火山の入り口がどこにあるかはわからないが、
麓から少しずつ山の斜面を兵士たちが昇っていく形になっている。
それさえ炙り出せば一気にマスカー兵をなだれ込ませることができる。
問題は入り口が見つかるまでと見つけた直後だ、
恐らくそのタイミングで奴らは何かしら仕掛けてくるはずだ。


「ぎゃあぁっ!?」

すると、斜面を登って入り口を探していた兵士の一人が
突然何らかの力に吹き飛ばされた。
よく見ると、其処からは蛇の尻尾が生えていた。
恐らく見つけられそうになって咄嗟にその尻尾で反撃したんだろうが………、
もっと穏便にやるべきだったな、マスカーの猛者どもが目を光らしたぞ…。


「見つけたぞッ!あそこだなだれこめぇッ!!」

マスカー側の将軍が吼えると同時に
尻尾が飛び出した穴へと兵士たちは駆け出した、
しかし穴から飛び出した尻尾が引っ込まると、
その穴はどんどん崩れるように広まり、
ある程度の人数ならまとめて通れる程の『入り口』へとなっていった。
そしてその入り口から次々と『ソレ』は湧き出てきた。



−−−ドクンッ−−−


くっ…ははっ…、ようやくお目にかかれたぞ………『魔物』ッ……!
その入り口から這い出てきやがったのは無数のラミアどもだった。
下半身は蛇、だが上半身は女………。
なるほど、聞いたとおりの化け物だ……見ているだけで苛立ちを感じる……。
俺の人間的本能が敵意として反応してるってわけだ……、
はっ、まったくとんだまがい物だ。


「こいつらを火山に入れちゃダメよっ!」
『おおぉーーーーーーっ!!』

一匹のラミアの掛け声からほかのラミアたちも吼える、
……妙に可愛らしい声ってのが返って腹立たしい。

…………だが、やはり魔物なだけあって身体能力は人間を凌駕するか、
やつらと対峙したマスカー兵が次々と蛇の尻尾でやられ、
さらに女の形をした人間部分もかなりの怪力だ。
盾で防いでも相当な衝撃で相手を殴り弾いてしまうとはとんだデタラメだぜ。
しかし数には敵わないってことだ、徐々に魔物どもが押され始めている…。
となると…………そろそろ頃合だな……。

ああ、一応今のうちに前もって言っておくが…、
俺たちが今いるのは『まだ森の中』だぜ。

そしてとうとう、本隊の指揮官が声を上げた。


「よし、今こそ好機!作戦通り我々はこのまま隙を突いて奴らを強襲する!
みなの者ッ!続けぇーーーーーーーーッ!!!」


指揮官の合図と共に本隊の騎馬聖兵が次々と馬を駆け出した。
そしてそれを見た俺もハルバードを掲げ、部下たちに合図として送った。

「いよいよか……遅れを取るわけにいかねぇ、バンドー隊出撃するぞ!!
一匹でも多く魔物どもを滅せっ!本隊の連中の手柄を横取りしてやれッ!!
俺たちの栄光ある初戦だ!悔いや恥など残したら承知しねぇぞ!」

『おおぉっ!!』


そう、歩兵による白兵戦で魔物どもの第一陣営である迎撃部隊を弱らせ、
その隙に俺たち身を潜めていた騎馬部隊が一気に駆け抜けるという作戦だ。
迅速さを求める作戦の為、強襲する騎馬部隊は100以下と少ないが、
敵の第一陣営さえ突破して洞窟までの道を開いてやれば
後から来る歩兵たちも一気になだれ込む事ができる。

というのが大体の流れだ、俺は瓶の中身を飲み干し、
いよいよ戦いへ赴くという喜びの笑みで今一度口元をゆがめた。





「なっ、新手!?」

次々とラミアどもが俺たちの存在に気づき始めたが、
向こうは向こうで歩兵たちと対峙しているんだ。
俺たちに気をとられていたらそれこそ命取りだ、
まぁ、歩兵ばかり気にしていてもどっちみち命取りになるんだがな……。


「そらよぉっ!」
【ザシュッ】「きゃぁっ!!」


そして……俺はとうとう…
俺は一番近くにいたラミアを一匹、ハルバードで攻撃してやった。
死に至る傷ではなかったが、多少弱らせれば後の歩兵たちが倒すだろう…
今は迅速に入り口の確保に専念しなきゃぁいけねぇ……。
俺はハルバードにこびり付いた魔物の赤い血が一瞬目に入ったが、
妙な苛立ちを抑えたまま、そのまま馬を走らせた。

(………迷うな…あれは魔物だ…俺は女を斬ったんじゃない……。
ここまできて何を躊躇う…ッ!おふくろの無念を晴らす時だぞ…!!
この胸の鼓動だってそうだ…俺は奴らを倒すことに歓喜している……
俺自身が奴らを倒すことを望んでいるんだ……そこに迷いなど必要ないっ!)



「こいつらを洞窟に近づけたら駄目よっ
みんな!ひとまず火山内まで撤収よ!兵力を集中させないと……ッ!」


「おい、予備の槍をよこせ!」
「はっ!」


俺は混乱している状況を落ち着かせようとするラミアを見た。
隊長格ではないようだが、指揮能力はありそうなため
手早く排除しておいたほうがいいと判断した……。
部下から予備の槍を受け取ると俺はそれを逆手に持ち、
そのラミアに向かって投げ付けた。


【ドシュッ】「いっ………ッ…!」


………ちっ、かすっただけか……。
だがまぁあの傷なら後は歩兵隊に任せればいい………。
それにリーダーシップが高い奴を弱らせれば当然周囲の仲間も動揺する。
やるだけ無駄だったってわけでもないな。

そう確認するや否や、本隊の指揮官が声を張り上げてきた。


「よし!もうすぐ入り口だ!このまま一気に確保す…………るッ……」

「なにっ!?」


すると突然、その指揮官の声が途切れたと思うと、
そいつはいつの間にか乗っていた馬と丸ごと『石』になっていた。
指揮官の突然の変貌にみなが驚きを隠せず、
そこで兵の一人が洞窟の入り口を震えた手で指差した。


「メ、メ、メドゥーサだぁーーっ!!?」


そう、その入り口を複数のラミアと……
その上位種であるメドゥーサが陣取っていた。
目を合わせたものを石化させる能力がある魔物……、
さっきの指揮官もこれにやられたのか……。


「石になりたい奴から前に出るのねッ!
仲間の仇よッ!一瞬で石にしてやるわッ!」

途中で蛇と化している髪が威嚇するように唸る。
それに怯え、マスカー側では顔をうつむける奴や
必死で目を閉じる奴が続出する始末だ。
しかもその隙をつかれ、さっきのラミアたちにやられ始めてしまっている。
尻尾で叩きつけられ気絶する奴がほとんどだが、
このままではこの攻略作戦が失敗に終わる………ッ!

俺は意を決してそのメドゥーサに向かって馬を走らせた。
向こうもそれに気づいてあざ笑うかのような表情で俺に話しかけやがった。
目は何度かあったが石にされていないところを見ると相当舐められてるな…。


「ふん、次はアンタが石になりたいの?
だったらありがたく思いなさい……、
石になるだけならまだ痛い目にあうこともないんだから………」

「……お前は隊長格のようだが、将軍じゃないらしいな…。
だったら生憎とお前は前座だな…………俺の敵じゃない」

「………なんですって…ッ!」

「この肌に纏わりつくような緊張感が教えてくれるぜ…
だがお前は違う、山一つ支配するほどの魔物だったらこんなもんじゃねぇ…
……一応言うだけ言ってやるが、おとなしく諦めたらどうだ?
魔王領にいるお仲間に期待しているのかは知らんが…お前たちは終わりだ、
俺の前に現れたんじゃあ…ご愁傷様としか言いいようがないな。
まぁ同情などお前たち魔物に対しては論外だがな………」

「……そう…なら、覚悟するのね…この人間風情がっ!!」

「ははっ、やっぱりお前らは獰猛のほうが良く似合う………
そのほうが俺としてもやりやすいんでなッ!!助かるぜホントっ!!」
(不思議だ…あんなに緊張していた鼓動も今では安定している……、
自分でも気味が悪いぐらい落ち着いている…負ける気がしねぇ…!)



我ながら悪びれた笑みを浮かべ、
俺は手に構えるハルバードを真上に掲げた。

「…………!?…一体なんのつもり………ッ!?」

【ぴかぁっ】

「!…あっ、ああぁーーッ!? め、目が……私の目がぁっ……!!」


この快晴の空、太陽が火山の煙に隠れていないところにあって運が良かった。
ハルバードの斧部分に太陽光を反射させて奴の目を潰してやったぜ!
髪の蛇ども揃って仲良くなぁ………いやぁ我ながらうまくいったぜ。

『おおっ!?』

後ろにいた兵たちも俺の奇策に驚愕の声を上げている。
ほかのラミアどもも自分たちの隊長が
こうも簡単に打ち破られたことに驚きを隠せないようだ、
だがそんな隊長を守らんと続々とラミアたちがメドゥーサの前に集った。

「や、やらせないわ!」
「みんな!隊長を守るのよ!」
「この人間を止めろッ!」


「はん、死にたがりめ。おらっ!お前らもぼさっとしてないで俺に続けッ!
現時点よりこの奇襲騎馬隊の指揮は俺が取る!
文句ある奴はここで待つなり勝手にしろ………いくぞおぉっ!!!」
『お、おおうっ!』


騎馬隊を率いていた指揮官が石になっちまったことで
俺が臨時的に連中を率いるべきだと判断した。
この作戦はスピード勝負だ、無駄な時間は割ることはできねぇっ…
俺の部下たちはともかく、首都からの連中も意外と利口で助かるぜ…
指揮権が俺に回ったことに不安はあるだろうが、誰も文句言わず俺に従う。
即座に俺は騎馬隊を整え、そいつらと共に入り口へと突撃した。



『キャアアアアァァァッ…!!』

立ちはだかるラミアたちを馬で轢き退け、
俺たちは火山内の侵入を成功させた。
先程のメドゥーサの末路は……まぁ、言わずもがなだ。
目も使えないんだ、後から続く歩兵隊の餌食になるのが目に見える…。
そんな当たり前の結果をわざわざ語るのも……無粋ってもんだろ?












火山内溶岩洞窟。
そこはまさに灼熱地獄、洞窟全体が流れ出るマグマによって赤く染まり、
俺たちがいる足場のすぐ其処では川のように
マグマがそこらじゅうをかけ流れる。
こんなのに体が当たったら一溜まりもないな……、
いや…本来なら洞窟中に漂う高熱で踏み入ることも不可能だったはずだ。
だがさっき飲んだ薬のおかげか、全然なんともねぇ……。
それどこらどういうわけか俺が乗っている馬もなんともないようだ、
……どういう仕組みかはさっぱりだが…
恐らく飲んだ本人に触れている、ってのが大まかな理由だと簡単に予測する。


「よし、火山内に突入したぜ!」

だが今はそれどころじゃない、この火山にはまだ『敵将』が潜んでいる…。
そいつを倒さない限り俺たちの作戦は成功しない………ッ!
この火山に侵入できた今こそが本当の戦いの始まりだッ!

そう思うや矢先、洞窟の奥から赤く照らされながらも大勢の影が見えた。
遠目だがはっきりわかる。さっきとはまた別のラミアの大軍だ。
蛇の体を引きずりながら、こちらのほうへと進撃している。



「はん、性懲りもなくまたラミアか……だがメドゥーサはいないようだな、
いいかお前ら!ラミアなどさっきのメドゥーサに比べりゃあ
取るに足らねぇ雑魚だ!奴らは後続の歩兵隊に任せりゃあいい、
俺たちはこのまま一気に敵本陣を目指して突破するぞぉッ!!」

『はっ!!』





「−−−−−いいや、わざわざ本陣まで来て貰う必要なんてないよ−−」


『!!?』


瞬間、俺たちが一気に馬を走らせようとした瞬間だ。
洞窟全体に轟くかのような女の声がした。
しかしその声だけは俺たちを静止させるほどの威圧があった……、
この感覚…さっきのメドゥーサとは比べ物にならないプレッシャー…、
…まちがいない、この声の正体は『敵将』……俺たちの最終目標ッ!!
俺たちは周りを見渡した、正面に近づいてくるラミアたちとは別に、
この洞窟は奥へ続く道以外はほとんどがマグマで満ちている……、
そんななか、一体この声はどこから………。

そう思った矢先だった。俺たちからそう離れていない所のマグマが
急に沸騰したかのように激しく泡立ち始めた……、まさかおい嘘だろっ!?



「ひゃっほぉーーーーーーーーーーーいっ!!!」



勢い良く……まさにそれだ、
これほどまでデタラメか…マグマから魔物が飛び出してきやがった……!
褐色の肌、溶岩を連想させた色合いの手足や鱗……。

『サラマンダー』  士官学校時代に
俺が記憶した魔物の種類のひとつに、あいつがいた。
ズンッ、と大きな着地音を響かせ、そいつは俺たちの前に降り立った。
しかもあろう事か、それに気を取られているうちに
さっきのラミアたちまでもがそいつと共に俺たちの前に立ちはだかる。



「ジィナ将軍!本陣で私たちの朗報があるまで
ジッとしていてくださいって言ったじゃないですか!」

すると、そのうち一匹のラミアが将軍格であるサラマンダーに声をかけた。
どうやらそのサラマンダーはジィナと呼ばれているらしい…。

「悪いねみんな、でもね…仲間がやられてるなか
頑張って戦ってくれているのにジッとしてられるほど、
あたしらサラマンダーは薄情な種族じゃないんだよ……!」

そういうや否や、そいつは手に持っている
サラマンダー特有のデザインをしたブロードソードを俺たちへと向けてきた。
その目は鋭く、言葉通り俺たちを目の仇としている。と言った感じだ。


「でもまぁしかし驚いたねぇ〜…、
まさかこうもあっさり洞窟の侵入を許すなんてさ…」

「………………………」


とくにどういうわけか、このサラマンダーは俺をじっと見ていた。
そしてそっと、静かに目を閉じ始めた。

「…洞窟の入り口を守っていたメドゥーサ…
あれ…あたしの親友だったんだよ………、
いつも業務にだらしのないあたしをしょっちゅう叱ってくれてさ、
それだけじゃなく、この火山の魔物みんなに気を配ってくれてたよ…
言葉は厳しかったけどね………でもねあいつは………」


再びサラマンダーが目を開いた。
先程と同じように俺を睨みながらも、僅かながら…涙で濡れていやがった…。


「ここにいる誰よりも優しい奴だったよ……ッ!!」


言葉が俺たちの耳に届いた直後と言ってもいい、
そいつは俺たちの目の前にいた。
ブロードソードをその手に、乗馬している俺たちを狙って
一人単独で飛び込んできやがった……!?


「おわっ!?」【ヒュンッ】

【ザシュッ】「ぐあぁっ!」


咄嗟に身を屈め奴の剣筋を回避した俺だったが、
変わりに後ろにいた兵士が流れ弾ならぬ流れ斬りで攻撃された。

(はええぇ…ッ、ダメだ…固まっていたらやられちまう!)

「全員散開!一箇所に固まるな!常に仲間と一定の距離をとれ!
互いに互いをサポートするんだ!!」

「へぇ〜、咄嗟にしてはいい指示じゃないか。
でもね…それをミスミス許すようなあたしたちじゃないよ!
みんな、かかれぇーーーーーっ!!」


距離を取ったサラマンダーが剣を掲げ叫ぶと同時に、
背後にいたラミアどもも一気に攻撃を仕掛けてきやがった。

「こんのぉ!」
「チィッ!」【ガギィンッ】


襲い掛かるラミアの尻尾攻撃を防ぎながらも、
状況判断の思考を張り巡らせれば状況は間違いなく悪い。
だが決してではない、なんたって直に後続の歩兵隊がなだれ込んでくる。
そうなりゃあこいつらは終わりだぜ!

元々篭城を続けていた連中だ、度重なる緊張状態からの
疲労やらで多少は動きが鈍ってるだろうし、
火山内にいる数だってそこまで多いわけでもない。

それに対してこっちは王都の部隊と合流しているほどだ、
数で畳み掛けりゃあこっちのもんだぜ!
火山という土地で永いこと抵抗を続けていても、
耐性薬を量産開発されちまったんじゃあもうこいつらは終わりだ!


「オラぁっ!」
「きゃあっ!」

目の前のラミアを一匹弾き飛びして周囲を見渡すと俺はあることに気づいた。
周りにいるのが魔物はラミアだけで、さっきのサラマンダーがいねぇ…!

(逃げた…?いや、わざわざ俺たちの前に
姿を現すような魔物だぞ…まさか…)

その俺たちに対して何かを仕掛けようと身を隠してる…?
不思議と咄嗟にそんなことが頭をよぎった。
別段俺は勉学があるわけでもない、ただ…本能なのか…直感なのか…
言葉通りの意味で頭をよぎったんだ…これも、勇者の血の影響か…?

「バンドー隊長危ない!!」
「はっ!?」

部下の一人が俺に声を掛けてくれたお陰で思考への意識が戻った。
だがお陰で、反射的に馬を動かせることができた。
束かるラミアどもが突然二手に分かれたと思ったら
奥に隠れていたのか…、さっきのサラマンダーが構えていた…。
剣を赤く光らせて…………。

(…まさか…魔剣技かッ!?)

剣などの武器が輝くのは魔力を刃に蓄積させることが
大まかな理由だと聞いた事がある。
俺自身そういった技は持っていないが、
士官学校で教官から見せてもらったことはある……だが相手は魔物だ…、
さらに言えば魔王軍の将……まずい、これは………
とうとう奴が構えていた剣を振り上げ始めた……来るッ!!?


「くらいなぁっ…… 『爆剣レッド砲』ぉッ!!!」



「回避しろぉっ!!」

奴が剣を振り下ろす同時だった…。
剣先にできていた炎の塊のような赤い球体がどんどん大きくなり、
振り下ろされた勢いで飛んできやがった…!
俺たちは馬に乗った部隊だ、それが幸いしたのか…
咄嗟ながら全員が、敵が放った火炎球を避けることができたぜ!

「はんっ、外れたなノーコンめっ!!」

「チッチッチィ〜、狙いはお前らじゃないんだよ…」

「なんだよ……?」

人差し指を左右させたいかにもな動きを見せつけ、
俺たちの後ろにけたたましい着弾音が響いた…。

【ドォーーーーンッ…………ガラガラガラッ…】

………ん?
着弾音の後に続いた…なにかが崩れる音………ッ!!?

「しまったっ!洞窟の入り口かッ!!」

俺の言葉に反応し、ほかの騎馬兵連中も後ろを見た。
俺たちが入ってきた洞窟が見事に崩れてしまい、
出入り口を塞いでしまっている。


「くそ、やられた…ッ!」

「隊長…!これじゃあ後続の歩兵隊が……!」
「やべぇよぉ…逆に俺たちが孤立させられちまったぁ…!」


(やばい、兵士たちの士気が下がってきてやがる……
………!……まて、だがこれは………いけるッ!)
「はぁっ!!」

俺は一気に馬を走らせた。

『なっ!?』
「うおっ、マジかよっ!?」

サラマンダーとその部下の魔物たちが驚愕の声を上げた、
俺の行動は魔物どもも予想できなかったらしい。
まぁ無理もないが、チャンスを作ってくれたのはソッチだぜ?

あのサラマンダーの攻撃の際に二手に分かれてできた道筋…



「これほどの勝利への道筋もないよなぉっ!!」

予想外の反応に魔物どもの動きも遅れた。
俺への妨害も間に合わず、俺は真っ直ぐサラマンダーまで突撃できた!

「くらいなッ!!」
「うぐあっ……!?」【ガァアンッ】

俺のハルバードが敵将を襲い、
剣でガードれたものの、馬からの突撃は強力で
奴を体ごと吹っ飛ばしてやったぜ。


「ジィナ将軍!この…よくも将軍を!!」

「……! い、今だ…隊長に続け!」

「…ッ!しまった!」


俺に攻撃を仕掛けようとしたラミアたちだったが、
意識を俺に向けている隙をついて部下どもが背後から同然の攻撃を再開した。
……正直そこまで考えていたわけじゃないけど結果オーライだな。
結果的に言えば、部下たちがラミアどもを押さえ込んでくれているおかげで
俺は目の前のこいつに集中して相手をできる。

俺はハルバードを器用に回転させながら攻撃態勢に入る。
吹っ飛ばしたサラマンダーはまだ倒れたままだ、このまま一気に決めてやる!
距離を詰め寄り、馬の上から力いっぱいハルバードを振り下ろした。


【ガァアンッ】


しかし、奴はすばやく頭を上げ、剣で俺の攻撃を防御しやがった…。
体が横になってる態勢から防御できるもんじゃないだろ普通……
くそ、こいつらどこまでデタラメなんだ…忌々しい。
振り下ろす力を入れても微動だにしやしない…、
互いの刃がいがみ合う音を鳴らしながら、そのサラマンダーは俺を睨んだ。
しかしどういうわけか、口元は笑みを浮かべていて
まるでこの状況を楽しんでいるように見える。


「いいねぇ〜、お前…無謀じゃあるが…なかなか勇敢じゃないかい…。
正直面食らったよ、あそこから単騎特攻とは…おもしろいじゃないのさ!」


そのうれしそうに俺を見るその顔が……俺には堪らなく憎く感じた。
俺を舐めてるのか! とかそんなんじゃない…、うまく言えないが…
その笑みは、まるで俺の…俺たちの戦う意義を否定しているようで………
なんというか、癪にさわって仕方がなかった……。

本能でそれを感じれば、俺はハルバードを素早く戻し再び攻撃を再開した。
力ではこいつには勝てない……なら、ものはやりようだ…
パワーではなくテクニックの応用で繰り出す連続攻撃を試みた。
槍部分で突いてはすぐに引き戻しすぐさま斧部分で何度も叩きつければ
今度はそこから薙ぎ払いに掛かる。

「おらっ!オラオラオラぁっ!!!」【ブンブンブゥンッ】
「はっはぁーっ!いいねぇいいねぇ〜ッ!!」【ガンガンガンガンッ】

侮っていた…、こいつはパワーだけが自慢の魔物なんかじゃない。
あらゆる攻撃を防御できる巧みな剣技、人間とは比べ物にならない動体視力、
いや…、その動体視力自体が並の魔物を超えている……
これが将軍格ともなる魔物の強さなのか……?

(とんでもねぇな……)

間抜けにも実直な感想が俺の思考として浮かび上がった。
人間、神経が極限状態になると思考が単純になるとかって話を以前、
嘘かホントか聞いたが、案外これがそうなのかもな。
俺は必死だ、ただ相手を倒すことだけを考え攻撃しても
このサラマンダーはそれらすべてを防いでくれやがる……。
反撃こそしてこないが、いつ来るかもわからない攻撃を警戒し、
そんな暇を与えないとハルバードを振り回す今の俺が必死と言わずなんだ?

「オラよっ!!」【ガァアンッ】

そこ俺は馬の動きに合わせてハルバードを大振りに薙ぎ払う攻撃を仕掛けた。
当然の如くこの攻撃も防がれたが、その反動を利用し距離をとった。

(まともにやっても勝てる見込みは薄いな畜生……)

浪費した体力を少しでも回復させながら、
必死でない思考を張り巡らす……ああ、くそ…とうとう頭痛くなってきた…。
そんな俺の様子を見て奴は自分の剣を肩に置き、ニヤニヤと笑いやがる。



「はっはぁ〜!人間にしては中々がんばるじゃないかお前!
たいしたもんだよホントに………、
でもそろそろ息もあがってきたんじゃないのかい?」
「………………」

「でも、ここまでだね。正直言えば、もっともっと楽しみたいんだけどねぇ
さっさとお前を倒して向こうで戦ってる仲間たちの援護に回らないと
いけないからねぇ。まったく、残念でしかたがないよ…」
「……なにが残念なんだ?」

「……あん?そんなの当然、アンタが負けてこの戦いが終わることがだよ」
「…はんっ、舐めるなよぉっ!!」


奴の発言をスイッチに、ハルバードを回転させながら
一気に相手まで直進していった。ここまで言われて黙ってられるか…ッ!


「あーらら、敵の挑発にまんまと乗るようじゃあまだまだだねぇ〜。
でもあたしは嫌いじゃないよぉっ、そんな真っ直ぐな奴はねぇッ!!」



奴もその発言を最後に剣を構え、迎撃態勢に入った。
お互いの緊張状態を考え、こうなってしまえば……勝負は一瞬だっ!

我がハルバードが地面を抉り上げるように、
馬上から派手に薙ぎ払えば、奴はそれを跳躍で回避する。
しかし今までの戦いの流れから考えればその動きも予想がつく…、
馬を手綱で素早く刺激してやり、馬を前進させて奴と距離を取れば、
その後を奴の剣が襲っていた……。
再びその隙を狙って、俺は奴に無数の突きを放ってやった!


「ソーーラソラソラソラソラソラソラソラソラソラァッ!!!」

「うぉおっ!!?」(はやいっ、やばいコイツはっ!)


馬上より雨のように降り注ぐ刃の連撃…、
こちとら必死の全身全霊の攻撃だっていうのに、
向こうは見事に防ぎやがるぜ……だが手応えはある。
防御の隙間などを通して奴の肩や脇腹などの体の隅から
少しずつではあるがダメージを与えている。

奴自身それを実感しているようで、防御に専念しながらも、
次第に雄叫びを上げ始めた。しかしその表情は…くくっ、辛いか?


「うおりゃああぁぁぁぁっ!!」(くそっ、この男…こんな技をッ!?)


ガガガガっと、お互いの刃が即座にぶつかり合う音が鳴り続ける。
この攻撃…『魔槍技』、というわけではないが
普通の攻撃ではない特殊な技だ。技と言うよりもテクニックに近い。
勇者特有の魔力を上半身から腕の先までに集中させ、
武器ではなく、使い手本人の身体能力を各段に向上させているカラクリだ。
その為、魔物ですら苦戦するような強力な連続が可能となる。


しかし、『あくまで使い手本人の肉体だけ』だ。
その過度な連続攻撃は、武器を酷く痛めつけてしまう…
武器自体がこの俺についてこれていないということだ…。

ピキィッ…

お陰でさっきからハルバードに嫌な違和感を感じる。
いくら隊長用に用意された武器だからといって…
この灼熱の環境…そしてラミアどもとの打ち合い、
そしてなによりこのサラマンダーとの打ち合い……
ここまで酷使されればそうもなるか?
まぁ、もともとあんな田舎拠点で配布したようなハルバードだ。
程度なんぞ初めからそんなモンだったってことだな…くそったれが。


バッキィンッ…


ああ、まったく最高だ…ここぞって時に折れてくれるなんてな…。




「折れた…!あたしの勝ちだねッ!!」



 
『狙った通りに事が進んでくれるとは』、まったく最高だ…!


「ところがどっこいィッ!」


如何なる生き物も、勝利を確信した瞬間ほどの隙はない…。
今のこいつの場合は…その性格から考えても尚更だ。

我がハルバードが折れ、最早俺に打つ手がないと思わせ…
実はそれこそが真の狙いってなぁ!

(ははっ、案の定…隙だらけだぜ…ッ。そして喰らえッ!!)

折れたことにより、宙を舞った先端槍部分の破片を掴み取り
俺はそれを……一気に突き刺してやろうと振り下ろしたッ!


「えっ…!?…う、うあああぁあぁあああっ!!!」

ようやく思考が追いついたのか、怯えや焦りを露にした雄叫びと表情とともに
奴もすぐさま防御しようと隙だらけだった剣を咄嗟に持ち直した…。


「だが、遅いな!」







ザクッ……と、生々しい音と感触を実感した。
腕と耳から其れが伝わり、脳が理解し前進を駆け回る…、
鳥肌が浮かび上がる感覚……。

しかし俺が、ようやくその『失敗』に気づいたのは
少し時間がかかった…。



「ぐっ…いっつ…うくっ…」

【ギギギギッ】

「……チィッ…この赤トカゲ女がぁ…!!」

咄嗟に防御に回っていた奴の剣の『グリップ』が、
運悪く…、俺のふりおろした手を止めやがった……ッ!
だが、それでも手応えはある…。
俺の手は止めたが辛うじて…その手に持つ破片が奴の右肩を突き刺している。

「チィッ、なんでだ…なんでテメェのような魔物がこんな…。
俺は神を信じてなんていないが、恨んでやるぞ…
なんたってこんな魔物に勝利の女神は微笑もうとしやがるんだっ!!」

手の力を強めても一向にそれ以上腕が下りない。

(肩を突き刺されていやがるってのに、まだ止めれるだけの力が…!)

「うっ…くぅ、こん…ちく…しょうっ!!」
【ドゴォ】「ぐおォっ!?」

すると衝撃だよ…、奴が俺の乗った馬に膝蹴りをかまし、
そのダメージで馬が怯えて前足を上げて仰け反り、
俺は咄嗟に破片を持つ手を離してしまい、
仕方なしと、奴から距離をとり、馬を落ち着かせる。
そして奴はその破片を引き抜くマグマへと放り投げた。
その傷口を片手で押さえながらももう片手で剣を未だに持っている。



「…………くくっ、勝負あったか?」

しかし肩から流れ出る奴の血を見れば達成感が込みあがる…。
だが油断はしないさ、それじゃあ奴の二の舞だからな…。
俺は折れたハルバードの破片で、さっきの破片とはまた違う
もう一方の、尖った棒みたいになっちまった奴を拾い上げて構えた。
無いだけマシだ、武器を確保しとりあえずはと奴の様子を見た。


「はぁ…はぁ…くそっ……やりやがったな…この野郎!」
「バカめ、こっちは初めからそのつもりで戦っているんだぜ。
さぁ、どうする…この火山の将軍だっていうお前がそんな深手じゃあ、
勝負あったんじゃあねぇのか?」
「ほざくんじゃないよッ!あたしはまだ……ッ……!」
「その体たらくでか?それに、見てみろ。お前の部下どものラミアどもを…」

戦いに集中していて、向こうの戦いの様子に気づかなかったな、
まさか…部下たちがあんなに優位に戦っているとは…。

「くっ、そんな…なんだってあいつらが……」
「…部下どもの初めの奇襲がよほど効果的だったか?
いや、違うな……あのラミアどもは、お前のせいで負けたんだろうぜ」
「な…に…?」
「見てみろよ、あのラミアども…ちょくちょくこっちを見ていやがる。
お前のことがよほど心配なんだろうな、
今だって…お前の元に駆け寄りたくても、俺の部下でものおかげで
それもできないようだぜ?ふん、なんとも微笑ましい友情ゴッコだな…。
それに比べ俺の部下どもはなんとも優秀だな…
みんなやられないように、目の前の敵だけに必死だな……」

俺がそう吐き捨ててやると、サラマンダーを俺を睨んで吠えた。


「黙りやがれこの野郎ッ!あたしたちは…魔物は…!
お前らマスカーのような人でなしどもとは違うんだよ!
互いに手を取り合って…助け合って生きてるんだ…!!」

「お前ら人間でもない奴が『人でなし』とはな…それは洒落か?
正直笑えねぇな、助け合って生きるのなら…それは俺たち人間様だ…
それなのに魔物のお前らが助け合いを語るなんてなぁお門違いもいい所だ」

「違う!あたしたち魔物は…助け合って生きているんだ…!
魔物同士で…人間と共に…共存してこそあたしたちがあるんだよ!
なのに、それを邪魔してるのがお前たちマスカーなんじゃないかいっ!」

「そんなものは理想論だ、少なくとも…俺はそんなもの望まねぇ…。
……正直、魔物の言葉に少し興味があって
お前にこうして話しかけたが…時間の無駄だったな……
そのふざけた理想は…てめぇの中だけで抱いてあの世に持ってけ!」


俺は手綱を弾き、一気に畳み掛けようとしたその時だった。


【ドップォオオオンッ】

『!?』


突然、場所的に俺たちの間から向こう側のマグマが
水柱ならぬマグマ柱を作り上げ、溶岩が高々と飛び散った。

「なんだっ!?てめぇ…まだ仲間がいるのかッ!?」
「いや…そんな筈…、だってもうこの火山内にはあたしとあいつら以外誰も」

【ヒュヒュヒュヒューーーンッ】

「うおおぉっ!?」

するとそのマグマ柱の中から次々と火球が飛び出し俺に襲い掛かってきた。
慌てて馬を走らせ其れを回避したが、お陰であのサラマンダーとかなり
引き離されてしまった…。
そして、そのマグマ柱が徐々に沈めば、そこからさらに数人の人影が
姿を現した…全身が、赤黒く…大胆にも全裸で、
その体も炎のようにメラメラついて…そう、それは…。


「魔精霊…『イグニス』だとっ!?
馬鹿なっ…そんな情報は聞いていねぇぞっ!!」

そう、イグニスだった。しかも全身が黒ずむその姿は…
間違いなく魔物にへと堕落した…すなわち俺たちの敵と化した精霊…!
だが、あのサラマンダーはもうこの火山には自分たち以外
仲間はいないと言っていた…、じゃあ…奴らは一体…。
まさか、魔王領からの救援か……!?
確かにマグマの中を移動してきたというなら……
いや、だがいくらなんでも…。


「あ、あんたたち何者だい!?どっから入ってきた!?」
『……………』

サラマンダーが連中に声をかけたが、イグニスたちは黙ってこちらを見てる。
だがあの口ぶり…やはり奴らの出現はあのサラマンダー自身予想外のようだ。
つまり援軍じゃない?
確かにマグマを伝って来れるのなら、
この火山の守りは格段に強固だった筈だろうし…
マグマの中を移動できるこのサラマンダーだって今頃…。

(……ダメだ、いくら考えてもさっぱり検討もつかねぇ…
だが、魔物である以上…俺たちの敵であることには変わりは…)

自身の中でそう納得しようとした時、
そのイグニスどもは全員が一斉に両腕を掲げだし、
何かを唱えているように見える…というより言われなくてもわかる…
またマグマを使ったヤバイ技を使う気だ。
そう判断すれば馬を動かし距離を広げようとする。

すると俺は目の前の光景が信じられなくなった。
灼熱の赤いマグマがまるで大波のように舞い上がり、
俺たちに向かって迫ってきやがったんだ。信じたくもない光景だろう?

「なっ!?あんたら、あたしの火山でなにをっ……!?」

サラマンダーが連中に怒鳴るのも余所に。

「おおぉぉぉわあああぁぁぁっ!!!??」

これにはさすがに俺も絶叫したな、うん。
跨る馬を全力疾走で走らせれば、其れを見た部下たちも
即座にラミアとの戦闘を中断し距離を取り始めた。
この火山の中、足場などたかが知れているがとりあえずいけるところまで走る

そしてそのマグマの波は拍子抜けにも俺たちが逃げたところのだいぶ手前の
足場を少し覆いかぶさった程度で終わった。



「………おいお前ら、なにびびってんだよみっともねぇっ!!」

『ええっ!!?』


俺がとりあえず周囲に当り散らせば
当然のようにツッコミが帰ってくるが無視する。
しかし気づかなかった、なんとあのマグマの波は…
あろうことかあのサラマンダーをはじめとするラミアどもを
飲み込んでいきやがった…。

「……死んだのか?」

無意識にでた一言だったが思い出す、
あのサラマンダーはマグマの中を移動できる。
ならばいくら波として飲み込まれても大丈夫な筈だ…、
そして覆ってきたマグマが徐々に引いていけば、
サラマンダーどころか、ラミアどもまで姿を消している…
まさかこれは……。

「…逃げられたのですか?」
「…チッ、そういうことだろうな」


こうして、俺たちの初戦はあっけない終わりを見せてしまうのだった。
しかしそれでも、全身を火傷や痣などでボロボロにしながらも
生き抜いたというその達成感だけは間違いなく本物だった。
しかし正直、こんな形の勝利を喜べばいいのか迷うところだな…。






----------------------------------------------------------------------






「敵将を取り逃がしただと!?
貴様…今まで一体何をしていたのだっ!?
取り返しようのない失態だぞ、わかっているのか!?
敵将だけならまだ知れず、ラミアどもまで取り逃がしおって……!」


戦いが終わり、火山近くの野営地にて俺は部下たちと共に
上官どもに手酷く説教を受けていた。
戦いが終わり、塞がれた洞窟の入り口は抉じ開けられ
俺たちは無事に火山内より脱出することができた。
しかしそんな俺たちを待っていたのは治療の手当てでもなければ、
まず最初に上官への結果報告とは、泣けてくるぜ。


「おのれぇ…バンドーよ、わかっているのか!
将軍級の魔物を取り逃がすということが一体どれだけの失態か…
貴様、それを理解しているのだろうな!?
貴様のその失態はさらに大勢の人間を苦しめる結果を招きかねないのだぞ!」

「お、お言葉ですが…隊長殿は我らのために死ぬ物狂いで…」
「そうですぜ!バンドーさんがいなかったら俺たちだってどうなってたか…」

「貴様ら下級兵は黙っていろ!私は彼という上級兵に質問しているのだ!」


「…………………でしたら上官殿、
せめて部下どもは先に手当てさせてやったらどうです?
どいつもこいつも、初戦が激戦でいろいろと参ってるもんで……。
まぁ、正直言えば…俺もさっさと手当てを受けたいかなぁ〜なんて…」

「却下だ!いいか?貴様の失敗は隊全体の失敗も等しい…
そして良く思い知るのだな、失敗には其れ相応の報いが回ってくるのだ!」


(つまり手当てもさせてくれないのは、失敗した報復ってか?
ああ、まったくいい趣味してますぜ上官殿よぉ……。
…差別もいいところだな、あの時…一時期ではあるが…
俺に付き従った王都の騎馬兵連中は、今頃手厚く施されてるんだろうぜ…)

「おいバンドー!聞いているのか!話はまだ終わって……」
「まぁまぁ、そう厳しくしてやることもなかろうに」

『!!?』


上官の怒声を一瞬で押し黙らせ、この野営地一帯を静かにさせかねない
静寂ながらも威圧ある声を聞いて、
俺たちはすぐさまその声の方向へと頭を振り返らせた。


「ク、ク、クランギトー様っ!?」

上官殿もその顔を見た瞬間、表情が凍りつき
これまた素早い動きでひざまづいた。
当然俺の部下たちはもちろん、俺も身分の関係上仕方なくひだまづく。

(…ああ、体いてぇ………)



「……軍師様、何用でこのような場に?」
「なに、彼の初戦勝利を祝いに来ただけに過ぎんさ。
そう畏まらなくてもよい。何用と問われれば私は私用としか変えせんからの
ほっはっはっはっはっはっ!」
「……………はっ、はぁ…。しかし…この者のような下賎な者に
軍師殿直々に赴くことも………」
「…些か、言葉が過ぎるのではないか?」
「えっ、あ…いや…も、申し訳ございませんっ!」

あーあ、軍師殿を前にしてあーんなに縮こまっちゃってまぁ…カッコ悪。


「さて…では改め、初戦勝利おめでとうかのぉバンドー君?
おっと、折角の隊長としての座なのだ…バンドー隊長とでも呼ぼうか。
まずは君を賞賛しよう、ヴェンガデン火山を制圧できたのは君のおかげだ。
我が王都部隊代表として礼を言おう。
なにより王都の騎馬部隊が君に随分と助けられたそうだからのぉ…
この賞賛は彼らからの伝言でもあるとでも思ってくれんか」

「……ですが、敵将及ぶ多くの魔物を取り逃がしたのは事実です…」

「なに、あの孤立状態でそこまでの抗いを見せれば私も鼻が高い、
そう自分を謙虚に振舞えこともない、似合わんからのぉ」

(けっ、大きなお世話だ…)
「あの、それで…報告したイグニスのことなのですが…」

「うむ、聞いておる。だが…正直それの出自がまだはっきりしておらんのだ」


その返答に俺は疑問を感じた。

「どういうことです?あのイグニスは魔に侵され黒に染まっていた…、
ソレはつまり魔物を意味し、魔物なら魔王軍の手の者と見て妥当では…?」

「…ほう、この三年で随分と頭を使えるようになったのぉ…。
…しかし、この件は今は保留としよう。こちらも未だ断定はできんしのぉ…。
だが今は、『魔物が決して魔王軍に属している』という
思想断定はせんことだ、と君に伝えておこう…」

「…………?」

「何、機会があればいづれわかるこよ…。
今はこの勝利を素直に喜べばよい……ああ、それと…」


その時、顔はローブで隠しているから分からないが
軍師殿の顔の角度的に考えて、彼は俺の壊れたハルバードを見ていた。

「手酷く打ち合ったのぉ、それとも…元の質が悪かったかの?」

彼がチラリと上官の方を見れば、上官は怯えたように顔を俯けた。

「…近いうち、彼の為に上質なハルバードを用意してやるがよい。
資金はこちらに回せばよい、…さて、そろそろ戻るとしようかのぉ…。
バンドー隊長よ、これからも期待しておるぞ…是非とも応えておくれよ?」




「…………………ええ、応えましょう…この世に魔物がいる限り…な」


俺の返答に満足したのか、ローブから僅かに露出している口元がニヤリと笑い
それ以上何も問うことなく、彼は野営地を後に去っていくのだった。

…ただその後姿を見送れば…俺はここで初めて、
あの火山での戦いの勝利を確信した…。
…柄にも無いが、恐らく今この時を、俺は絶対忘れないだろう…。 

俺が魔物と敵対し続ける限り…永遠にな…。








それから半年後…、21歳という若輩な身ではあるが、
俺は確実に自分の実力を高めていった。
軍師殿の計らいで手に入れた強力なハルバード…、
戦場にて的確に身に着ける乗馬技術……、魔物どもとの戦闘経験…、
身に付ければ付けるほど、俺は歓喜の実感を味わっていた…。

そして、そんなある日のことだった…
俺は魔王領のとある村に対する侵略を命じられ、
大勢の兵士を引き連れていった。

村の名前は『ハルケギ村』……。



其処で俺は奴らに出会う…。
もしかしたら、奴らに会って…俺の物語に本当の幕が上がったのかもしれない







12/04/21 13:48更新 / 修羅咎人
戻る 次へ

■作者メッセージ
初の番外編! でもあろうことか敵軍サイドのお話!
ここまで永くなるとは……力のいれる所間違ってるだろワシッ!

この話は、結構読者様方から反感を買いかねない覚悟で
書きましたがいかがでしたでしょうか? 
魔物娘が傷つくシーンは私自身抵抗があったので極力抑えたつもりでしたが…
ていうかそんあんでよく軍記ものの小説続けてるなワシ…。

読者様<今度魔物娘を傷つけたら指を縫いあわずぞ……。


え?火山戦でバンドーたちが使った薬って明らかに
モンハンのクーラードリンク…………?


ワシ<クーラードリンクだぁ〜?寝言言ってんじゃねぇよ、へへへっ…。

読者様<面白い奴だ、気に入った。殺すのは最後にしてやる…。

ワシ< (○△○)………………。

技解説

ジィナ 
 爆剣レッド砲(ばくけんれっどほう)
剣先にサラマンダー特有の強力な火属性魔力を集中させ発動する魔剣技。
巨大な火球を飛ばし、着弾すれば凄まじい爆発が起こる豪快な技。
しかし使い手であるジィナ本人は、実は人間であるバンドーたちを
間違って殺さないよう、洞窟の入り口を塞ぐ目的で使用した。



バンドーのその生い立ち簡単解説。

0歳。田舎村にて勇者クレイナのもと、生を受ける。
両親の愛情を受けて育った。
      ↓
10歳。仕事で外出した父を魔物に奪われる。
バンドー、絶望を受けた母クレイナから鍛錬を受ける。
      ↓
17歳。彼の人生が大きく動いた時期とも言える。病で母クレイナを亡くす。
その後、母の遺言を元に王都マスカールファーへと旅立つ。
王都へとたどり着き今章開始。
憲兵隊と一悶着を起こし、その様子をダヴァドフが目撃。
留置所内にてクランギトーと出会う。
      ↓
20歳。3年に渡る士官生活を送り本格的な実力をつける。
配属先にて決闘問題を起こし、多くの兵士の前でこれに圧勝、
それから直ぐにヴェンガデン火山攻略戦勃発。
サラマンダー、ジィナに辛くも勝利、自らの所詮に栄光を得る。
      ↓
21歳。それから半年、着実に実践的経験を積み
新たな魔王軍領地侵略を開始。本編突入!!

といった流れとなっております、矛盾点は…ない…はず?


正直、初めにバンドーを考えたとき
適当に出してデビルバグあたりに喰われてもらおうっていう感じの
いわゆる雑魚キャラのつもりでしたが…それをここまで引っ張るとは……。
我ながらめんどくさいことしてますよホント。
性格も結構はじめのところと見比べたらだいぶ変わってるし…。

どうでもいい裏話:
火山攻略初めに石化された指揮官なんですが
初めはバンドーを田舎に左遷させるように
仕組んだ奴にしようと考えたんですが、色々と悩んだ末
投稿の遅さからの焦り30% めんどくささ70%
だと思いまどろっこしくなるからやめました。


とりあえずは改めて一言、遅くなってしまって申し訳ないです!
リアルが忙しく…『世の中クソだな』状態ですよもうホント…。

そろそろ次辺り絵とかも入れて行きたいとも考えていますんで、
もしモンスター・ソードの登場人物で
このキャラを書いてほしい というリクエストありましたらコメントどうぞ!
全然うまくもない絵ですが、ご要望ありましたら頑張りたいと思います!     

感想返信!

TAT様

ふふっ、そのような覚悟の末で今章の投稿…ああ、叩かれないか不安だぁ!


四つ上のアホ 様

そう言ってくれて安心しました!
しかし今章の内容はかなり危険ラインに挑戦しています…
ですが、この話は魔王軍側の『とある人物』に深く関わっている為、
男がいて女がいる法則(?)を守っているつもりです!
とある人物 がだれかは予想できると思いますが…。



M。r Ryk 様

あざーっす!八時間という時間消費申し訳ございません!
長文と元気沸かせてくれる感想ありがとうございます!
よぉーしっ!次章に向かってがんばりますかぁっ!!

今章は敵方の男中心の物語となっておりますが、正直不安の塊です!
ですがそんな彼の人生に深く関わっている人物がいるんですよねぇ〜魔物に。
ですが今は花では無くて種でしょうねぇ…
その花を咲かせるためにこれからも続けて書いていきたいと思います!

また感想あればお願いしますね!ワシに元気を分けとくれ!! (元気玉)


マテマテーッ!   ヽ(´▽` )/=3=3=3=3



俺だ 様

今度余計な情報漏らすと指を縫い合わすぞ……。(エンリケス)




それではまた次章!さいなら!!






TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33