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ある女戦士のクロニクル

ビビりなディタトーレ

INDEX

  • あらすじ
  • %02 c=15d 第1章『Precipitation And Awakening 』
  • %02 c=15d 第2章『Midnight Battle』
  • %02 c=15d 第3章『Separation And Departure』
  • %02 c=15d 第4章 『I Go Because・・・』
  • %02 c=15d 第5章『The Strange Walkers』
  • %02 c=15d 第6章『Road Under The Ground』
  • 第5章『The Strange Walkers』

    第5章 『The Strange Walkers』
    栄暦1459年4月27日 午前9時50分
    人間界 エルメッド大陸 ブリジカ共和国
    5番街道 国境線まであと3km

    二日という時間は、あっという間に過ぎ去った。
    その間アタシとアルスは、夜野宿する時以外はほとんど口を聞くこともなく黙々と歩み続けた。
    たまにすれ違う旅人や行商人から情報を得つつ、ただ歩く。
    退屈だったろうって?そんなことはない。
    ブリジカからほとんど外に出たことのなかったアタシには、見るものすべてが新鮮だ。
    色とりどりの布をかけたいくつもの荷物を馬車に引かせる商人。
    でかい体に無骨な鎧をまとい笑い合う傭兵達。
    白いローブを着て長い杖をつきながら歩く魔導士っぽい男。
    すれ違うのは人間だけじゃない。
    ブリジカは中立国、つまり反魔物でも親魔物でもない国なので、魔物の往来もそこそこ活発だ。
    本を片手に歩くのは、サバトの宣教魔女だろうか。
    群れをなして走っているゴブリンもいる。
    「・・・すごいな」
    世界のあちこちを見て見聞を広げるつもりだったが、家から二日歩いただけでも知らないものは山のようにあった。

    ただ、一つ気になることがある。
    それは、アルスに向けられる魔物たちの視線だ。
    アルスはフードを深くかぶっているので、顔が半分以上見えない。
    巡礼者とかならフードかぶってても不思議じゃないが、アルスは余りにもかぶり方が深い。
    だから、人間からは時たま変な視線を向けられる。
    だが、魔物たちの視線にはそういう珍妙なものを見る目は含まれていないように思える。
    では何か。

    恐怖。

    具体的なものではない。
    何というか、『何かあの人怖い』という類のものだ。
    アタシの気のせいなのかもしれないが、もしそうなのだとしたらなぜだろう。
    アタシにはそんな気配は感じられなかったんだけどな・・・

    「・・・リナ?ヴェリナ!聞いてるのか!」
    はっ。
    「あ、ごめん、考え事してたんだ」
    ここは道沿いにある、旅人の休憩所のようなところ。
    小規模だが食堂や商店、安宿などもあり、旅の助けになるところだ。
    国内にはこういうのがいくつもあるらしい。
    アタシとアルスは、ここで早めの昼食を取ろうと立ち寄ったのだ。
    「全く・・・」
    アルスは少しため息を付き、手に持っていたふかしたジャガイモを口に放り込んだ。
    「まあ、常時ピリピリしてろとは言わんが、あまり気は抜きすぎるなよ。いつの時代も、旅での危険はそのへんにいくつもゴロゴロしてるからな」
    「そうなのか?」
    「ああ」
    アルスがそう言った瞬間。
    「おい、客共!命が惜しけりゃ、金をよこせ!」
    野太い男の大声が、食堂内に響きわたる。
    声のした方を見ると、そこには薄汚くてやたら大きな服をきた男。
    手には剣と、ぼんやりと光る魔符。魔導士か。
    それより何より――
    (あれは・・・十字!?)
    服の左胸あたりに描かれた模様。
    ほぼ消えかけているが、間違いなくあれは『主神教団』のシンボルマークだ。
    まさか、あいつ・・・!
    「違う」
    耳元で鋭く囁かれたアルスの声。
    「え・・・何の事だ?」
    「奴は『教団』とはなんの関わりもない」
    いや、でも確かに胸に・・・
    って。
    「なんでアタシの考えてることが」
    「実に簡単。顔に出てるんだよ。『あいつは主神教団の回し者だ』ってな」
    ・・・へ?
    いやいやいやいや。ちょっと待て。
    確かに『主神教団』のはぐれ魔導士かとは思ったが、別に回し者なんて思っちゃいない。
    アタシは教団をあまり良く思っちゃいないが、全ての黒幕だと何の根拠もなく決め付けるほど嫌ってはいない。
    あいつらの言うこと(あいつらの神が言うことか)も一理あると思うこと、結構あるし。
    「・・・で?」
    「え?」
    「お前なら、この場をどう切り抜ける?」
    どう切り抜ける、って・・・
    アタシは魔導士の方を見る。
    どうやら全身の魔力を放出しているらしい。顔は醜く歪み、額からは汗が垂れている。
    にもかかわらず、感じられる魔力はわずか。
    魔導士の命綱たる魔符さえ、まるで雲の厚い日の陽の光のように薄ぼんやりと光るだけ。
    と、なれば。
    「アタシは、脅されただけでホイホイ財布やるほどお人好しじゃない」
    「ほう」
    「魔符の光り方から見ると、あいつはほぼ確実に雑魚だ」
    「ああ」
    「で、アタシにゃ刀がある」
    「ああ」
    「だったら」
    アタシは立ち上がり、床を蹴る。
    物音に反応して強盗がこちらを見るが、視線の先にアタシはいない。
    タン、という音がした0.1秒後には、アタシは強盗の後ろに回り込んでいたからだ。
    そして。
    そいつの首筋を、(アタシとしては)軽く柄で突いた。
    「グフォッ!」
    男は一瞬その場で痙攣したのち、口から泡を吹いて倒れた。
    数秒間、沈黙が店を支配する。
    その直後、アタシは大歓声の中にいた。

    「何故あの場であいつを取り押さえた?」
    強盗を憲兵に引き渡した後、不意にアルスに聞かれた。
    「何故って・・・」
    「財布を大人しくくれてやる気はないというのは分かる。だが、それならわざわざあんな行動をとらなくても良かった。数人の客がそうしていたように、オレたちも目立たないように逃げればよかったんだ。そうすれば、余計なリスクは負わずに済んだろう?」
    ああ、そういうことか。
    答える前に、アルスの目をじっと見る。
    その目には、責める気持ちは微塵もなく、ただ「何故」という疑問だけがあるような気がした。
    「・・・アタシさ、アンタと出会うまでは、ずーっとスラムで暮らしてきたんだ」
    「ああ」
    「分かると思うけど、スラムって色々とかなり凄いことになってるんだよ。衛生とか、治安とか」
    「そうだろうな」
    「アタシは、そういう所で11年暮らした。まともな職になんてありつけなかったから、金が得られることならほとんど何でもやった」
    8歳ごろまでは、市場から野菜を盗んだり、食堂のまだ新しい食べ残しをかっぱらったりしてた。
    その後、9歳を少し過ぎたアタシは、裏の仕事をするようになった。
    と言っても本当にちまちました仕事しかなく、何かが入ったカバンを運んだり、道端に変な服を着て立って、話しかけてくる者たちに得体のしれない小瓶を渡したりしてた。
    で、その日の飯代だけなんとか稼いだら、出来るだけ雨風をしのげそうなところで寝る。
    そういう毎日だった。
    ゴロツキをぶっ飛ばして生計を立てるようになったのは、ある程度腕力が付いてきた12歳頃からか。
    「・・・そんな生活を送っているうちに、アタシは気づいたんだ」
    「どういうことに?」
    アタシの世渡り法。
    「人を見捨てられない奴は、長生きできない。でも、人を助けられない奴は、もっと長生きできない」
    これは、あくまでアタシの経験に基づくものだから、実際の真理とは違うのかもしれないけど。
    でも、アタシはこれで国内最悪の無法地帯を11年も生き延びた。

    「・・・本当に訳のわからん女だな」
    聞いたアルスは無感情に、しかしどこか楽しげな(口元の形から推測する限りでは)表情で言った。
    「え?」
    発言の意味が分からず、戸惑うアタシ。
    何か、意味不明なこと言っただろうか?
    「しつこいようだが、今一度聞く。お前、本当の本当にサラマンダーなんだよな?」
    「・・・ああ、何度も言ってるだろ」
    「本当にそうだと思うなら、これ読んでみろ」
    そう言うとアルスは、アタシに何かの本から破りとったかのような紙を一枚手渡してきた。
    タイトルには、こう書いてあった。
    『リザード属 爬虫類型 サラマンダー』
    ――――――――――――――――――――――――――――――――――――
    以下、本文については魔物娘図鑑『サラマンダー』の項を参照
    ――――――――――――――――――――――――――――――――――――
    目からウロコが落ちた。
    「これって・・・」
    「人間、それも『主神教団』の連中がまとめた、魔物に関する図鑑だ。本来は門外不出の本だが、ちょっとした機会があってな。少しもらってきた」
    こんなものが存在すること自体、今日初めて知った。
    いや、門外不出なら当然か。
    「まあ読めばわかると思うが、お前の言動や行動にはサラマンダーとしては不自然な点が少なからずある。・・・自分で気づいてなかったのか?」
    ・・・薄々、気づいてはいた。
    初めて自覚したのは1年位前だったか。
    アタシは世界武闘選手権の世界大会の待機時間、ほかの選手たちの試合を観ていた。
    で、その場で偶然サラマンダーの一団と隣になった。
    今ではもう顔も思い出せないが、そいつらは確か観戦ついでに自分の旦那を探しにやってきていたと思う。
    で、そいつらの話を何となく聞いていたとき、そいつらの話すことがあまり自分に当てはまらないことに気付いた。
    例えば、強い相手と死闘を繰り広げている時は、尻尾だけでなくアソコもアツくなる、とか。
    戦闘後の昂った気持ちが抑えられなくて、そのまま相手を襲ってしまう(無論あっちの意味で)とか。
    戦闘中に気分が高まり、尻尾の炎が爆ぜ、すごく楽しい気分になる、ってとこまでは同じ。
    でも、そこから性欲には結びつかない。
    その時のアタシは、「ま、サラマンダーにも色々いるんだろ」位に思って、特に深刻に気にはしなかった。
    だが、これを読むと・・・
    当然、これを書いた奴は、いろいろなサラマンダーを観察し、会って話を聞き・・・ということを何度もしたんだろう。
    つまりこの図鑑は、アタシ達サラマンダーの姿をほとんどそのまま写し取ったものなんだろう。
    「人間にいろいろいるように、魔物にもいろいろいる。それはそうだ。だが、魔物の場合は、ある一定の『型』のようなものがあって、そこからあまり外れることはないはずだ」
    そう言って、アルスはアタシの方を見て言った。
    「これがオレがお前に抱いた興味その2だ。ヴェリナ、お前は何なんだ?ただの変わったサラマンダーなのか、それとも別の何かなのか」
    「別の何か、って言われても・・・アタシはアタシだよ。ヴェリナ=リルティって名前の、ただのサラマンダー」
    ・・・というか、『お前は何なんだ?』っていうのは、むしろこっちのセリフなんだけどな。
    こうして話しながら歩いてる間にも、周囲の魔物たちはアルスのことを怯えの混じった視線で見ている。
    中には、アルスの姿を認めるなり、回れ右して立ち去る奴さえいるのだ。
    アタシはこれまで、アルスの素性とかを疑問に思ったことはなかった。
    でも、さっきの会話のせいか、アタシの中にもアルスに対する疑問が膨らんでくるのを感じる。
    アルス、お前こそ、一体何者なんだ?

    国境線には、昼前に着いた。
    国境に沿うように、高い木の柵がずっと向こうまで建てられている。
    「何か・・・意外だな」
    思わずそうつぶやく。
    「何故だ?自国の領土に勝手に入られないよう、こういうものを作っておくのは当然だと思うが」
    「アタシも直接見たことがあるわけじゃないけど、ここから先には延々と砂漠が広がってるはずなんだよ。ブリジカと敵対する奴らがいるって話も聞いたことないし・・・」
    そう。
    ブリジカの南の国境を超えた先は、広大な石の砂漠が広がっている。
    北にあるから気温はそれほど高くはならない。でも、調査して開発を進めるには広すぎるんで、ろくすっぽ人も入らない。
    外国から来る商人や旅人たちは、大体メルヴェから海を挟んで西にある大陸(たしかリメラークとか言ったっけ)から船でやってくるか、北の魔界から来るか、あるいは東から交易路を通ってくるか。
    いずれにせよ、南から人はまず来ない。
    その証拠に、そこで国境警備にあたっていると思われる兵士は、検問所の中で寝息を立てている。
    正直黙って通ってもバレないと思うが、後で面倒なことになるのも嫌なので、素直に声をかけることにした。
    「あの、すみません。出国したいんですが」
    応答無し。
    「あの」
    応答無し。
    「すみません!!出国したいんですが!!」
    「ふぇっ!?ふわ、は、はいっ!」
    起きた。というかよく見たら女だった。
    ・・・なんか、ものすごくホケーっとした子だな。だからここに配属されたのかも。
    「えっと、出国ですね。通行手形はお持ちですか?」
    一年前の大会の際、国に作ってもらったものを出す。期限は5年のはずだから、余裕で使えるはずだ。
    アルスも自分のポケットから、くしゃくしゃの手形を出した。
    警備兵はアタシとアルスの手形を、手元の正規品と見比べる。
    「・・・はい。確かに本物ですね。お返しします」
    アタシとアルスの手に、手形が戻る。
    警備兵は、アルスに向かって言う。
    「そちらの方の手形はもう使用できませんが、その手形は絶対に無くさないでください。ブリジカへの再入国、あるいは第三国への入国に必要になります」
    「ああ、わかった」
    これで、手続きは全て終わり。
    だったのだが。
    「・・・あのう」
    警備兵が遠慮がちに声をかけてくる。
    「差し出がましいようですが、どちらへ行かれるおつもりですか?」
    「え・・・?」
    「いや、だって、ここから先にはいくつかポツポツと集落があるくらいで、観光するようなところは何もないですし・・・」
    当然の疑問だと思う。
    しかし、アルスは何でもないように答えた。
    「砂漠を超える」
    「え!?いや、あの・・・正気ですか!?」
    「ああ」
    「無理無理ムリムリ!絶対無理です!ご存知ないんですか!?過去にあそこで何があったか!」
    「・・・え?」
    「ほら、6年ほど前!政府の調査隊が、全員消息不明になったっていう・・・!」
    「・・・そうなのか?ヴェリナ」
    そんなこと、あったんだ。
    今更言うまでもないことだが、アタシは新聞なんか取ってなかったんで、国内のニュースにはかなり疎い。
    「いや・・・アタシも初めて聞いた」
    警備兵が、信じられないといった表情でアタシを見る。
    「とにかく、悪いことは言いませんから、引き返したほうがいいd」
    「いや」
    話を強引に止めて、アルスがきっぱり言った。
    「忠告には感謝する。だが、オレは行かなければならない。・・・ヴェリナ、引き返すなら今だぞ。おそらくここが、お前の安全が保証される最後の場所だ」
    ・・・はぁ?
    何言ってんだこいつ。
    「危険が怖くてサラマンダーやってられっかっての。アタシは行くよ!」
    即答。
    アルスが、アタシをじっと見る。
    暫しの沈黙。
    「・・・じゃあ、オレたちは行く。君の優しさに感謝する」
    突然、アルスは一方的に言って、歩き始めた。
    アタシもすぐに追う。
    後ろから聞こえる、なおも引き止めようとする兵士の声を振り切って。

    そしてアタシたちは、一緒に国境を越え、未知の世界へと足を踏み入れた。






    ふと、思う。
    無知と幸福って、同義語にかなり近いんじゃないか。
    窓の外に目をやると、ちらちらと雪が舞っている。
    唐突に、ノックの音が響いた。
    「・・・どうぞ」
    声をかけると、ドアが開いた。
    「失礼します」
    入ってきたのは、いつもの彼女。
    「閣下。そろそろお時間ですが・・・」
    ・・・ああ、忘れてた。
    そういえば、今日は人と会う約束があったっけ。
    アタシは手元の紙を机の中に入れ、立ち上がった。

    「わかった。今行く」

    12/01/26 23:05 ビビりなディタトーレ   

    ■作者メッセージ
    今回は一気に区切りの良いところまでやってしまおうと思ったので、字数が多くなりました。(5965字)
    2ヶ月もお待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。
    ご意見・ご感想などなど、書き込んでいただけたら幸いです。


    設定資料01
    ブリジカ共和国
    人口 950万人
    国土面積 20万平方キロ
    首都 メルヴェシティー
    主な産業 林業・漁業
    勢力 中立(親魔物派より)

    エルメッド大陸北部に位置する国。人間界の国家としては世界最北端。
    北の国境は魔界と隣接しているため、魔物娘の往来も割と活発。
    貿易相手は主に人間界の中立国家・親魔物派国家(反魔物派国家は基本的に中立・親魔物派国家とは国交を持たないため)。
    北部に位置するため一年を通して冷涼な気候。
    国民が年に一度選ぶ『総統』が政治の全権を握る。言わば民主的に選出された者による独裁体制である。
    比較的安定した経済的成長を遂げてきたが、近年はスラム街の拡大とそれに伴う治安悪化が社会問題化している。
    『主神教団』による布教活動は一応行われているものの、あまりはかどっていないようだ。