連載小説
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三十五話 昊と如月と王城
編成された王城攻略部隊は僕と天満、吹雪に如月の異世界組。ランスにハロルドさん。ナンナさんとその部下二人に加え、マイオス男爵とベッケラー男爵から貸し与えられた精鋭二人ずつ。そして、姫様と近衛騎士三人。
残りの兵はそれぞれ指揮権を与えられたネリスと両男爵に指揮され、王城を包囲している。
「起動、土巨人。」
ランスが土の巨人を作りだし、城門を殴りつけるとあっさり門が破壊される。
場内に入ると、いきなり数人の男が物凄い勢いで接近してきた。
涎を垂らし、狂った目を僕たちに向けて突っ込んでくるそれは間違いなく僕たちが聞かされていた「狂戦士の操法」により狂戦士にされ、脳の破壊が限界近くまで進んだ人間のなれの果ての姿だった。
「治療法を確立できるかもしれないからできれば生け捕りって言われてたよな?」
「言われた気がするね、出来るの? あれ。」
吹雪の確認の言葉に返事をするけど、僕なら躊躇なくぶち殺す、あれはなんかもう昔見た麻薬でラリっちゃった人よりひどい状態だと思う。完璧、アウトだよ。
吹雪が顔面を刀で殴り飛ばし、僕も近づいてきた相手を三体纏めて吹き飛ばす。
吹雪の一発は死んでもおかしくない威力だったはずなのに、まるでダメージがないように当たり前に立ち上がる。
「起動、石腕の呪縛。」
ランスが魔法を行使して、床から石でできたたくさんの腕を作りだし絡み付け、抑え込んで拘束する。しかし狂戦士たちはそれをなんともないかのように破壊して脱出した。
「おいおい、父さんでもあれの拘束をそこまであっさり抜けられねーぞ。」
ランスが戦慄する、生け捕りどころの話じゃないようだ。
魔法の起動を始めるけど、結構敵が、しかも狂戦士ばかりが増えている。
「久しぶりの餌だ! あいつらを食ってしまえ!!」
三階くらいの高さのところから、高笑いしながら多数の集団がこっちを見ている。
女性に子供に、いろいろな人が混じっているが一様に僕たちを見る目は完全に見下しきった虫けらを見るようなもの。
「あいつらが貴族議会か、見るからに嫌そうなツラしてんなぁ。」
ランスがそんなことを言いながら狂戦士の進行を壁で防ぐ。
「………私とリィレとキサラギさん、それとナンナで彼らを捕縛に向かいます。彼らのうち誰かが……狂戦士を操作しているかもしれません。」
そう姫様が言って、玄関ホールの奥の階段めがけて走り出す。
リィレさんと如月とナンナさんがそれを援護し、僕たちも彼女らを守る。
「ハロルドさん、ランス。ここは僕たちで何とかする、狂戦士の操作者を探してほしい。」
操作している誰かを抑えられれば、狂戦士を無力化できるかもしれない。
「起動、誘導風弾・五連」
玄関ホールの狂戦士は八体、これ以上数が増えないことを祈りつつ、魔法を起動する。
ナイフを風に乗せて飛ばし、手近な二体の狂戦士の足めがけて高速で飛ばす。
風に乗って高速で移動するナイフはきれいに二体の足の腱を切り裂いて狂戦士を転倒させる、更に高速飛行するナイフをいったん戻し、無事に接近してきた狂戦士の腕を斬る。
僕に向かってきた狂戦士は「腕が使えなくなった」ことにも構わず今度は噛みつこうとしてくるが、天満が氷の玉で口を塞いだ。
「足がなくなっても這ってるから。」
天満が出した氷柱が這っている狂戦士を床に縫い付ける。
三匹生け捕り成功、とはまだ言い切れない。
「ぐルぉオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
味方を攻撃されたからかそれともただの偶然か狂戦士たちが吼える。
やっぱりそれは、人間の出す声とは到底思えない声だった。
残り五体の狂戦士が一気に突っ込んでくる、爆風を手から出して吹っ飛ばし、飛んで行った狂戦士に向けてナイフを飛ばし、手足の腱を切り捨てる。
全ての狂戦士が動きを封じられると、僕たちも一息つく。
「対多数なら圧倒的だな。」
吹雪がそんな風に言う。確かに僕の魔法は相手の数が多い方が戦いやすいみたいだけれど、相手がただただ突っ込んでくるだけだからこんなに早く片付いたんだろうとも思う。
「ここ片付いたみたいだし、僕たちも動こうか。」
仕留め終わったと思しき狂戦士たちを置いていこうとして、通路から新しく五体の狂戦士が来るのが見えた。
「まだちょっとかかりそうだね。」



「ああもう……邪魔ですね。」
貴族議会の議員たちを追跡していたところ、いきなり現れた誰かに邪魔をされた。
私たちの邪魔をした、貴族議会の男たちからはエーガンと呼ばれていた若い男は私たち三人相手に全く後れを取らず行く手を阻んでいる。
「ガルベロ侯爵家二男エーガン………武人として名を挙げたという話は聞かん。『祝福』の力を得ていたのはライドンだけではなかったということか。カーターめ、いい加減な仕事をする。」
「ふん、パージュ家ご自慢のメルフィダもとんだ役立たずだな。大口叩いておきながらこうもあっさり我々の聖域たる王城までの侵入を許すとは。」
エーガンはそう言って盾と剣を構え私たちに切りかかってきた。
狙いはリィレさん、速いけれども軌道が大雑把でわかりやすいその剣をあっさりと回避して逆に頭を狙い切りかかるけれどそれが盾で止められる。そのうちにナンナさんが頭を狙って炎の球を放つけれど、エーガンは飛びのいてそれを回避する。
私はエーガンの着地点近くまで回り込んで切りかかったけれどそれもやはり簡単に盾で防御され、弾かれる。
頭を狙って振り下ろされた剣を手元に戻し交差した剣で防ぐけれど、
メキッ ビキビキッ
そんな音がして、私の剣にひびが入る。
「重いっ!!? 何この力………!」
力も強いなんてものじゃない、電柱を受け止めてるみたいだ。
リィレさんがエーガンの後ろに回り込んで腹を深々と切りつける、その隙に私はエーガンの攻撃を逃れて退避した。
「大丈夫か?」
「体は、けど剣がまずいです。」
あちこち刃毀れでボロボロ、罅も入っていて、危険な状態。
短時間にこれだけ一気に破壊されてしまったことも考えると防御はしない方がよさそう。
「ふぅ………この程度か?」
メーガンが余裕たっぷりに言う、リィレさんが裂いた腹がほとんど塞がっていた。
「身体強化に自動再生………どれだけの犠牲を費やしたのですか………」
姫様が震える声で言う、その声音は今にも泣きだしそうなほど弱弱しいものだった。
「必要な犠牲だろう、世界を救うにはな!」
その言葉に、私たち四人がほぼ同時に反応した。
「世界を………救うですって? そう仰ったんですか?」
「そうとも! 勇者ライドンの指導の下この力を使いすべての魔物を殲滅し、この半島を、ひいては世界を魔物の手から取り戻すのだ! ランバルド卿の仰った偉大なる計画よ!!」
メーガンは高らかに叫び、笑って見せるけれど、
「真に優れた我らだからこそ世界を救い得る! 父たちは愚かだったのだ! 我らが成すべき偉業を惰弱な愚民に任せ、揚句魔物と友好を築く敵を放置したのだからな!!」
声高に明らかにおかしなことを言ってのける。
しかも言っている本人はそれがどうおかしいのかもわかってないみたいだ。
「………だが我らは違う! ランバルド卿の教えで目が覚めた! 我らは刃向う全てのものを打倒し従順な者たちを救い、それを治めよう!! 今までに払ったすべての損失はそのための必要経費だ!」
言ってることが馬鹿馬鹿しすぎて突っ込む気にもならない演説が終わると、姫様が手を挙げた。
「イグノー王国から誘拐した人魚はどうしたのです?」
「血を搾りだした後アッシュが処分した。奴もメルフィダも偉大な不死の統治者となれる機会をむざむざ棒に振るとはどこまで愚かなのだ。」
「愚かなのは貴様の方だ!!」
リィレさんが首を狙って剣を振る、しかしそれも盾で受け止められ、弾かれる。
「私のどこが愚かなのだ? 崇高な目的を持ち世界のために戦う我々のことを多くの愚民が受け入れ崇めるだろう。我らの計画の素晴らしさを理解できん貴様らの方が愚かだ。」
「それが愚かだとリィレは言っているのですよ。ランバルドが世界を救うものの舵取りをする? 手も口も自分のためにしか使わないあの男がそんなことするわけないでしょう。」
姫様が冷たい声音でそう言い切った、それに対しエーガンはにやにやと下卑た笑いを見せながら
「負け惜しみですか。本来ライドンの妻として我らとともにることのできた栄誉を捨て最後に発するのがそんな言葉とは惨めですな。」
「思考放棄した躯に成り下がりランバルドの手足として働くあなたよりはよっぽど人間らしいあり方ですよ愚かなエーガン。」
姫様の冷たい言葉に一瞬だけエーガンが眉をしかめる。
「何が言いたい………」
「ランバルドにとって貴方たちは彼の富や名声のために働くただの駒です。使いやすいように物事を教え、力と寿命を与えて利用しているだけのこと。年が上のメルフィダやアッシュ、ファリオンはランバルドの息のかかった教育係に会わなかっただけ幸運ですね。」
「貴様! ランバルド卿を愚弄するか!」
姫様に跳びかかろうとエーガンが剣を振りかぶる。
しかしそれよりもずっと早く
「起動、炎神の吐息。」
ごう と音を立ててナンナさんが放った燃え上がる炎が、エーガンを包んだ。
「ぎゃぁあああああああああああああっ!!」
全身火だるまになりながらもエーガンは火を消そうと床を転げまわる、しかしそれを阻むように、リィレさんがエーガンの左腕を切り落とした。
私もエーガンに歩み寄り、火を消し終わって起き上がろうとしたところで蹴っておいた。
「ご高説有難う、とても参考になったのでたっぷりお礼をしよう。痛くしても、そう簡単には死なないようだからな。」
ナンナさんがそう言い切って、もう一度炎を浴びせる。
酷い悲鳴をあげながら転げまわるエーガンは、火を消し終わらないうちに逃げ出した。
足が妙に速く、私たちが走ってもなかなか追いつけない、まさか逃げるなんて予想してなかったからと言うのもあるけど、それを抜きにしても速すぎる。
大急ぎで逃げるエーガンを守るように五人の兵士が姿を現すけれど、何の能力もない一般兵で止められるほどの戦力じゃない。あっさり倒して、剣を拝借する。
エーガンが逃げて行った先にたどり着くと、そこには袋小路に一つ魔法陣があった。
「転送魔法陣!? 誰がこんなものを………」
「私です、姫様。」
いきなり私たちの背後から声がして、振り向くとそこに立っていたのは穏やかな雰囲気の感じられる二十代後半あたりであろう男性が、ぼろぼろの服を着て立っていた。
「アッシュ!? どうしたのですその怪我は……それに転送魔法陣をあなたが仕掛けたとは………?」
「この怪我はランバルドが従えていた魔術師に少し苦戦しまして。魔法陣についてはご心配なく、城の地下牢獄に強制転移する罠です。いざと言うときの逃げ道を用意しろと貴族議会に命令されたので城の中に四つほど仕掛けておきました。」
「そうですか………ではこの魔方陣の先は気にしないで良いのですね?」
姫様がそう確認を取ると、アッシュさんは首を横に振った。
姫様はそれに構わずアッシュさんに回復魔法を使用して傷をいやす、あの状態で敵に襲われたら死んでしまうだろうから当然の判断だと思う。
「ランバルド配下の魔術師が作った魔法陣が二つあり、それだけは王都の外まで直通で抜け出してしまいます。そこを封鎖しなくては逃走する貴族が出てしまうでしょう。」
「わかりました、障害になりうるのは勇者の力を持つ数名でよろしいですね?」
「ええ、特にライドンは別格です……今はどうやらエントランスで誰かと戦っているようですが……」
エントランスと言えば、昊君や天満ちゃん、因幡君が戦っているところだ。
こっちの部隊の大部分がエントランスに置いてこられているはずなので、つまりこっちの本隊がライドンと戦っていることになる。
危機感を覚えなかったのかと言われればウソになるけれど、私が行って何ができるのか疑問に思った、だからこそ私は駆けだす足を抑えられた。
「ランバルドの部下が設置した魔法陣の片方はランバルドの私室にあります。私の仕掛けた罠がランバルドを抑えているうちに、行きましょう。奴を逃すと後に問題がありすぎる。」
そう言って、アッシュさんは走り出したけれど、その肩をリィレさんがつかんだ。
「待てアッシュ……姫様にあれだけ言っておいて私には挨拶もないのか?」
「今はそんな時ではないだろう………」
「そうかも知れんがっ! ……まぁいい許す。後でしっかり話を聞かせてもらう。」
今度こそ私たちは移動を開始した、私とナンナさんだけが道を知らないようなので他三人の後ろについていく、階段を上り、明らかに煌びやかに飾り立てられた階に出る。
「お兄様!?」
姫様が私たちの前を走る男を見てそんなひっくり返り気味の声を上げた。
姫様と同じ見事な金髪の男はこちらに振り向くと、また一目散に逃げ出すが
「起動、光交塞壁」
アッシュさんは何の迷いもなく魔法を使い男の前に光の壁を作り出した。
「あ・ああああアッシュ!? 貴様裏切ったのか!?」
「そちらの感覚で言えばそうなります。もっとも、私はもともとリィレや姫様の味方でしたしそちらを裏切っても微塵も罪悪感を感じ得ませんが。」
私たちがゆっくり近づいていくと、男は必死に逃げようと光る壁を叩く。
姫様がこの男を兄と呼ぶということはこの男は今この国の王位についているマウソル王子だということになる、けれどもその姿は一国の王としてはあまりに惨めでみっともないものだった。
マウソルに姫様が近づいていくと、マウソルは必死に姫様を睨みつける。
「アリアン!! 貴様私をどうするつもりだ! 私はお前の兄でありこの国の正統な王だぞ! その私に向けてこんな扱いをしてただで済むと思うなよ!!」
喚きたてるマウソルの襟首をつかみ、姫様は何も言わず平手打ちをした。
更に一発、二発、三発四発とひっぱたいてから襟首を放す。
「本当に……あなたはどこまで私を泣き虫にすれば気が済むんですか……大好きだったのに……妹として普通の家族のように接したかったのに……」
姫様はボロボロと大粒の涙を流して泣きながら、そう言った。
「妹として!? 貴様のせいで私がどれほど侮られ蔑まれてきたか分かっているのか!? 妹に劣る劣悪な兄として貴族はおろか平民どもにすら陰口をたたかれ非礼を尽くされた私の心中を知ればそんなふざけた口は叩けん!」
「じゃああなたは子供のころから期待され大役を任される重責がわかるんですか!?」
思わず口を開いて言い返していた。
いつもいつも、私が知る姫様は小さな手で抱えきるのが難しいほどの重圧を背負ってきた。私が知る短い間でもそうなんだから、世継ぎとして期待されてきた重圧は計り知れないものだったはずだ。
しかし姫様は私を手で制すると、
「王位の僭称者マウソル、貴方をここで拘束します。」
と宣言した、アッシュさんが何かの魔法を使い、マウソルの体を光の縄が縛り付ける。
猿轡も噛まされたマウソルは何も言えずにアッシュさんに引きずられる。
そして少し進んだところにある重苦しい扉を開くと、そこにはマウソル同様光の縄に縛り付けられた状態の、紺色の髪と髭を持つ太った男がいた。
「アッシュ!? アリアンロッド!? なぜ貴様らがここにいる!! 第一これは何のつもりだ! この私を誰だと思っている!!」
「これはどうも、反乱の首謀者、国逆の徒ランバルド。あなたの壮大な王国乗っ取り計画はここで終わります。厳罰は覚悟してくださいね?」
「な、何を言っている私は神の啓示を受け民を救うために」
「アッシュ、魔法陣を解除できますね?」
ランバルドの苦し言い訳を無視して姫様はアッシュさんにそう尋ねた、アッシュさんは頷いで迷わず魔法陣のところまで歩いていき、魔法陣を解除した。
「キサラギさん、ナンナ、それにアッシュ。もう一つの魔法陣も解除を頼みます。私は、ライドンと話があります。」
姫様はそう言って、リィレさんを伴って部屋を出て行った。



エントランスホールで僕と吹雪は偉そうな茶髪の男と戦っている。
正確には貸してもらった兵士二人も戦闘していたんだけれど、今はもう頭がなくなっている死体と下半身がなくなっている死体になっている。天満は隠れて道を氷で塞いでいる。狂戦士が入ってこないよう抑えておいてほしかった。
男の力は圧倒的だった、まるで金属のドアに柄をつけたような大きさの剣を軽々振り回し、吹雪に並ぶ速さで攻撃してくる。幸い今のところ動きが読みやすいおかげもあって簡単に避けられているが直撃を受けたら軽く死ぬだろう。
しかもどれだけ攻撃してもすぐさま回復してしまう、厄介にもほどがある。
「どうした愚民! この程度で僕に立ち向かう気なのか!?」
男があたりを壊しまくってできた物陰に隠れて、僕たちは機を窺っていた。
「どうするよ、あいつかなり強いぜ。」
「攻撃しても攻撃しても回復されるのは厄介だね。」
「そうだな、何か作戦は?」
吹雪が訊ねてくるけど、いいものは思いつかない、倒せないわけではないと思うけれどその方法で今可能なのがあるとしても現実味のないもの一択が現状。
そしてこいつがもし他のメンバーのところに行ってしまって対抗できるかも割と微妙。
ランスやハロルドさんならともかく如月やリィレさんには厳しい相手だろう。
「あると言えばあるよ、あいつを殺す気でぶっ叩き続ける。再生能力も無限とは思えないしいつかは消耗しきって動けなくなるはず。けど、それがいつかはわからないし、それまで僕たちが死なないとも限らない。」
「寒い策だな………けどそれしかないか。」
作戦らしくない作戦しかない作戦会議を終えて、男の前にもう一度出る。
「死ぬ覚悟はできたか?」
「しないよ、死なないから。」「する必要もない。」
男がとびかかって切り付けてきたのを僕は左、吹雪は右に避ける。
「起動・連結風尖刃 このまま待機  起動・十門風槍」
複数の風の刃を重ね合わせたドリルを作りだし、待機させる。そしてそれより威力の劣る細く鋭い風の槍を十本作り出す、威力は低いが速度はこっちの方が速い。
「十門風槍、発射。」
風の槍が男に向けて飛んでいく、その隙に手でナイフを用意し、風に乗せる。
男が剣を振ると、その風圧で風の槍の半数がかき消され残りは男の体を多方向から射抜く、すぐに傷はふさがったが、一瞬だけ男の動きが止まったところに背後から吹雪が一撃あてた。
「連結風尖刃、発射。起動・烈風弾右手左手で待機 廻れ旋風、刃よ踊れ。」
吹雪の技で男の体が痺れている隙を狙い、これでもかと強烈な攻撃を叩き込む。
まず風のドリルが男の腹に突き刺さり内臓を抉り、そこに入り込んだ烈風弾がさらに内側から爆風で傷を広げ、そして風の刃が少し遅れてガードに走った男の剣とぶつかって不協和音を出す。しかし剣を破壊するには至らず、風の刃が消える。
吹雪が後ろからもう一撃叩き込むけどこれはあまり効かなかったらしく、反撃を食らいそうになる吹雪を僕が先に風で吹き飛ばす。
男の腹の傷はふさがっている、傷痕ひとつなく、周囲に飛び散った鮮血がなければ誰も死んで当たり前の攻撃を受けたと思わないだろう。
「無駄だとまだわからないのか、これだから愚民は……」
呆れたように首を振るけど、ダメージが全くないわけではないらしい。
背後から吹雪が急所への三連打を浴びせ、さらに頭を蹴り飛ばすがやはり当然のように起き上がって反撃する、僕は足部を狙い
「誘導風弾・対象設定・狙撃。」
ナイフを乗せた風弾を五発撃つ、男の左足を太ももから踝まで五か所抉ったナイフにより男は転倒し、吹雪が頭に強烈な一撃を叩き込んだ。
「調子ィにっ!! 乗るなァっ!!」
そう叫んだ男の手から、光る弾丸が放たれる。
吹雪に当たるギリギリの位置を飛んで行った光る弾丸はそのままエントランスの壁まで飛んでいき、壁に当たると炸裂してその一帯を粉砕した。
「何だ今の!? 魔法?」
吹雪は驚いていたけれど僕は冷静に
「ただの魔術、手に魔力を固めた弾を作って飛ばしただけだよ。」
と答えた。とはいえ威力はとんでもない、これもまた一撃必殺だろう。
「死ねぇっ!!」
男は両手を駆使して連続で弾丸を飛ばしてくる。たまに僕を狙い吹雪を狙いと照準はあまり定まってないみたいだけれど、威力も範囲も相当だから非常に厄介だ。
弾丸を避け続けていくうちに周囲はどんどん破壊されてひどい状態になっていく。
そして、逃げ続ける僕の上から砕けた岩の破片が飛んできた。
「ぐぁっ!!?」
反応できずにもろに頭に当たって倒れてしまう。そこに容赦なく魔法弾が飛んできて、慌てて風の壁と防護膜を展開して身を守ったけれど大きなダメージを追う。
特に右足が重傷で、折れた感じがする。立とうにも力が入らず、接近してくる男のことを見ることしかできない。
「手こずらせてくれたが、これでおわ?」
がごぉ―――――――――――ン と言う大きな音を立てて、男が剣を取り落した。
「? ぉおおおおおおっ!!?」
いきなり今度は後ろにすっ転び、大の字になる。
吹雪が駆け寄ってきて、大の字になっている男の頭を刀の先でつついてから、剣を蹴って退ける。男は吹雪に向けて
「おいなんだ! お前僕の体に何をした!?」
と怒鳴るけれど、吹雪の方もむしろ困惑した表情で
「何もしてないし………むしろ俺があんた何やってんだと聞きたい気持ちで一杯だよ。」
吹雪は僕を助け起こすと近くの石の上に座らせる。
「で、こいついきなりどうしたんだ? 演技じゃなさそうだけど。」
「魔力が切れたんだよきっと、あれだけ自動回復で組織を回復して魔術を使いまくってたから無意識のうちにガス欠になってたんだろうね。ついでに、その結果なのか知らないけど宿ってた特別な力も失って、一気に無理してた結果が体に来た。」
僕の出した結論はこれ、割と真実味のある推量だと思うしそうでもないといきなりぶっ倒れて動けなくなるなんてこともないはずだ。
「僕が……僕が負けるはずがないっ! こんな下賤な……」
「いい加減にしてください、ライドン。」
そんな冷たい声とともに、天満とリィレさんを従えて姫様がやってきた。
「アリアン……君なのか………帰ってきてくれたんだね………」
「お久しぶりですライドン。その様子ではどうやら負けたようですね。」
そう言った姫様は倒れこんだ男の近くまで歩み寄ると、隣に腰かけた。
「初めて会ったのは私の五歳の時の式典で、お互いにまだ何も知らない子供でした。七歳の時だったでしょうか、一緒にたくさん遊びましたね。お互いの夢を語って、この人となら一生を過ごせるかもしれないと子供心に思いました。」
そんな思い出話を続けた姫様は、最後にこう言った。
「どうして、ここまで道が外れてしまったんでしょうね。」
そう言って、姫様は男の腹を一発ぶん殴った。
「貴方を捕縛します、抵抗できないとも思いますが……大人しくしてくださいね。」
姫様がそう言い切るのを待っていたかのように、壁の一部から細い光が噴き出して、その光は壁を四角く切り取るように動くと消え、その光が通った部分が破壊されていた。
そして切り取られた壁が倒れると、その向こうから如月と、僕たちの知らない若い男の人が一人、それにランスとハロルドさんが姿を見せた。
「お、終わってるみたいですね。」
「はい………でもこれから、凄く忙しくなりますよ?」
その姫様の宣言にみんなが苦笑いしていた。
これでひとまず戦いの日々は終わり。
夢をつかむために、欲しかったものを手に入れるために、譲れないものを守るために。それぞれの理由で戦ってきた人たちはまた元の世界に戻っていくのだろう。
扉を開きこの世界に来た、僕たちとは違って。


12/08/31 23:47更新 / なるつき
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■作者メッセージ
というわけで、これに後日談を追加して夢の扉は完結となります。
長いSSになってしまいましたがここまで読んでくださった方々には感謝しようともしきれません。

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