連載小説
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三十四話 吹雪と兵士階層
進軍が始まった、俺の参加しているプリオン・ドラウ両男爵の部隊が担当するのは市民階層と同じく守りの硬い南東門。クルツが中心とはいえ志願してきた民兵が大半の昊がいる南西門部隊や、平崎のいる姫様率いる南門部隊に比べると正規兵が中心だから、その分きつい役割を担うことになるのも当然だろう。
仕事の内容は「武器格納庫」の制圧と貴族階層につながる通用門の占拠。
「フブキ君、少しいいかな?」
声をかけてきたのはマイオスさん……だったはずだ、ベッケラーさんかもしれない。多分マイオスさんで合ってる、魔物の娘がいるほうだからマイオスさんだと思う。
硬そうな黒髪をオールバックにして、顎鬚を蓄えた紳士だ。
「俺に何か御用です?」
「いや、さっきの君の戦いぶり……見事だった。体捌きから剣の扱い、一撃で確実に相手を倒しながら殺しもしない技術。いったいどこで身に着けたんだ?」
「いろんなところで。話はそれで終わりですか?」
聞かれても答えづらいし、俺が身に着けている今の技術はあくまでもともと習っていた十夜亜流剣術にラギオン流の棒術の技を後付したものだから、参考にはならない。
「………その若さであれだけの戦技を体得するとは、君の故郷はどんなところだったんだ?」
どうやら俺たちのいた世界についての知識はほぼ持ち合わせていないらしく、不思議そうな顔で俺に訊ねてくる、きっと殺し合いが日常茶飯事の地獄のような世界を想像しているんだろう。
「物の面ではこの世界、特にこの国よりは恵まれてましたよ。技術水準も高かったし治安も良かったし、この国からしたら天国に見えたかもしれません。」
この世界に来て、たまに向こうが良かったんじゃないのかとふと思いなおすことがあったのもこれが理由だ、悲惨な状況に陥らない限り、食うに困ることはほとんどなかった。
「けど、人心は多分この国とどっこいか、物があるぶんあっちの方が酷かったかもしれません。暇つぶしで誰かを虐めるガキ。遊ぶ金欲しさに人を殺す若者。自分のためだけ考えて他者を蹴落とす大人。納得のいかない理不尽が多いのは、この国と変わりません。」
「………君の戦技は? そんな平和な国でどうやって?」
「俺は親に捨てられて施設で育ったんです。そのこととか他にもまぁいろんなことがあったせいで一時期俺が荒れてた時に先生に出会ってボコボコにされて。半ば強引なやり方で弟子入りさせられたんですよ。」
正しくは不良数人をボコボコにした俺のところにいきなり現れて「戦いに無駄が多いし無理ばかりしてはいつか死ぬ」と言い切り、言いかえした俺を叩きのめしたわけだ。
『強くなりたいだろうから稽古をつけてあげる、ああ授業料ならいらないよ』とまぁそんなことを言われ、馬鹿正直に道場に通いだしたのがそもそもの始まりだった。
最初は俺より強い門下生の方が多かったけど、そのうち俺の実力がついてくると徐々にほかの連中との差が詰り、追い抜いて行って俺は道場の門下生で二番目に強くなった。
先生の娘で年下のミカゲと先生にだけは勝てなかったけど。
「随分と変わった人なんだな。」
「よく言われたらしいです、人外なんじゃないかと思う動きもしますし。」
人間の限界無視したとしか思えない高速移動に明らかにシックスセンスが開花してる勘の良さ。あの人に比べればハートや英奈さんの方がよっぽど人間に見える。
「まさか………なぁ。」
俺たちの過ごしていた世界には魔物はいなかったはずだけど、あの人のことを思い出すともしかして先生は魔物だったんじゃないのかとも思ってしまう。
「前線部隊が敵と接触! 敵はバリケードを張って通路を封鎖しています!」
「始まった、俺も行きます。」
「待ってくれ、君は……姫様の客人だしこの軍の将だろう? あまり前に出るのは……」
「将であろうが俺は前で戦う方が好きなので、勝手にやらせてもらいますよ。」
そう宣言した俺は刀を構え、兵士たちの合間を突っ切って前線に殴りこんだ。最前列の大きな盾を持った兵士の横をすり抜け、俺が一番軍の中で前に出た。
いくつもの弩と矢が俺を睨む、しかし止まらず、バリケードに向けて突進する。
放たれた矢を必要最低限の動きで回避する、そして次が装填されるより前にバリケードの許に潜り込むと、矢を射かけるための穴の一つに刀を突っ込んだ。
「うおっ!! しゃあ!!!!」
力任せに刀を振り、木製の簡素なバリケードを叩き破り、強引に作った穴から内側に侵入、我ながら無茶苦茶なことをしてるとは分かってるが、この猛進が味方のためになるんだから喜んでやる。
最初に目があった男の腹に刀をねじ込み、その勢いのまま後ろの二人もまとめて壁に叩きつける。更に振り向きざまに背後に立っていた男の頭を回し蹴り、その勢いのままその後ろの一人の頭に刀を叩きつける。
後衛が接近していることに気付き、どうしようかと逡巡していると穴からハートも転がり込んできた。
「私もまぜろぉ!!」
物凄く楽しそうな表情で、でかい鉈剣を構える。意表を突いた登場に唖然とする周囲の兵士をその隙に仕留め、バリケードのすぐ裏にいた弓兵を全滅させた。
あとは相手方の接近戦部隊。弓兵は潰したしバリケードは後ろの皆が何とかしてくれるだろう。俺たちが今すべきは、ここで敵の部隊の再配備を食い止めること。
槍を構え、一列になって敵兵が突っ込んでくる。
タイミングを見計らって跳び、逆に空中から体をひねって勢いをつけた木刀で頭を吹っ飛ばすくらい本気でぶん殴り、まとめて四人気絶させる。
ハートも相手の槍を叩き斬り、得物を失った相手を蹴りと尻尾で倒している。
前列の槍部隊を失っても敵はひるまず、盾と斧を持った兵団が今度は接近してきた。
その頭上から、いくつもの矢が俺とハートに向けて飛んでくる。
一瞬の逡巡ののち、俺はハートを引っ張ってバリケードの裏まで戻り、味方の盾の陰に隠れる。既にバリケードもほとんど破壊してあって、矢の雨が止まるとみんなでバリケードを壊した。
敵の斧兵とこちらの前線部隊が敵と接触。
しっかりした指揮官がいるこっちはこのタイミングで援護射撃を行い、敵の数を減らす。
そしてまた俺も殴りこむ、ハートも一緒で、今度は英奈さんもついてきた。
他のやつに気を取られていた斧兵一人を後ろから転ばせ、味方にあとを任せる。
奥で再度の援護射撃を試みようとしている弓兵に向かって突撃を開始する。
しかし俺が到達するよりずっと早く、英奈さんが放ったと思しき炎が敵兵を包み込んだ。
あれは死ぬんじゃないかと思ったが、そうはせず男たちは何やら腰をカクカクさせ……
「うっわ気持ち悪い光景だなオイ。」
虚ろな目で表情はどこか夢見心地な大の大人、人数はおそらく八十名ほど、それが立ち膝の状態で腰カクカクさせてたら気持ち悪い以外の感想が浮かんでくるはずもない。
「何だこれは!?」「何があったんだ! 近づきたくないぞ!」「ええい騒ぐな、とりあえず拘束しろ、処遇は後で考える!!」「イカくせぇ!?」
こっちの味方も大混乱だ。
「英奈さん………何なさったんです?」
「ええ、ちょっと幻覚を見ていただいているだけです。一時間もあれば自然に解けますよ。」
「そうですか………何と言うかその、すごい光景ですね。」
正直事実を知ってなお近づきたくはない。あ、あいつズボンにシミがある。
とはいえ拘束して退けないと先に進めないわけで、手分けして拘束作業が始まったわけだ。
しかめっ面をして敵兵を拘束する味方と、彼らを置いて進軍する兵士。
俺は進軍側に回り、兵士階層の北東部にある武器庫制圧側の部隊に加わった、敵軍の武器補給を妨げ、出来ることならばこちらが利用できそうな兵器を確保することが目的だ。
軍隊がある程度移動したところで、敵が現れた。
五十人ほどの敵兵が馬に乗って。
これが重要な要素だ、「馬に乗って。」
「ッ!? 騎馬部隊だぁ!?」「狼狽えるな! 防御態勢!!」
どうにか味方は身を守ろうとするが、いきなり現れた重武装の騎兵を相手に士気を保つことは容易ではない。怯えて盾を取り落した兵のせいで防御陣が崩れ、もろに部隊は突撃を浴びる。
馬に轢かれ重傷を負うもの、槍に突き刺され絶命するものが相次ぎ、部隊は一気に混乱し指揮官の声も届かない。反撃しようにも分厚い装甲に守られ素早く移動する馬に攻撃を当てることは難しく、止まっていない騎兵はなかなか落とせない。
その中を騎兵がさらにかき回し、無防備な後方部隊にも騎兵の手が伸びようとしていた。
ほぼ無意識だろう、俺はその状況を妙に客観的に見て、そして行動を開始した。
俺に向かって突撃してきた騎兵の槍を足場に馬上の兵を殴り落とすと、その馬を震撃で気絶させる。ハートに至っては真っ向馬の首を切り落とし転倒させている、どんな馬鹿力だ。
俺とハートが走行中の騎兵を迎撃し始めると、味方も少しずつ落ち着いて行動をとるようになってくる、盾で突撃を受け止めればいきなり致命傷になることはないし、何よりも密集して「怯えず対峙すれば」騎兵の突撃は大きく被害を防げるようだ。
苦戦はしたが騎兵部隊を倒し終えると、味方の被害者と死者を収容するための部隊がやってきて、あとを彼らに任せ俺たちは進軍する。
あくまであの騎馬軍団は足止めのための奇策でしかなかったらしい、さっさと離脱すればよかったものをいつまでもこっちの射程内でうろうろしていたところを見ても、あいつらが時間稼ぎだったのはよくわかる。
「前に進め! 敵に時間を与えるな!」
後方から指令が下り、軍がどんどん前に進んでいく。
道を塞ぐ敵兵に接触し、攻撃態勢に移ろうとした瞬間だ。
敵兵の背後で大きな爆発が起きた。
「何だ!?」
離れていても衝撃が体に伝わってくるほどの爆発と、もうもうと立ち上る黒い煙はちょうど俺たちの進行方向で発生している。
「あそこは……姫様が私たちに見せてくださった地図で把握している限り武器庫のある場所ですね、特に火薬類が厳重に保管されている場所ではないかと………。」
俺の後ろで英奈さんがそう言った、唖然と呆ける王女軍と王国軍が次の動きに気付いたのが、その数秒後だった。
突然だった、突然、王国軍の隊一つが味方に対して攻撃を始めた。
「今度はなんだ!?」「構わん好機だ、王国軍を打倒せ!」
マイオスさんのその号令に従い、俺たちは攻撃を仕掛けた、王国軍の裏切った隊もそれを援護し、瞬く間に敵軍は壊滅状態まで追い込まれる。
「………プリオン領主マイオス殿、ドラウ領主ベッケラー殿とお見受けします。」
隊の指揮を執っていた若い男が、マイオスさんとベッケラーさんに話しかけた。
茜色と呼ぶには少し暗い赤髪をした中背の肉付きのいい男は「アッシュ・ソクト様の命により反乱部隊の指揮を執っていたメーサーと申します。」と名乗り、二人の指揮下に入ることを宣言した。
彼によると、アッシュ・ソクト司祭は王国軍の一部部隊に働きかけ、戦後の報奨などを条件に幾らかの部隊を王女軍側に寝返らせるように工作していたらしい。
そして、反乱のタイミングが「火薬庫の爆破」だったのだという。
それはいい、むしろ助かるくらいだったんだが、しかしそれにしたってそんな事実くらい先に教えておいてくれても良かっただろう。それとも何か、俺たちの中にスパイがいる可能性でも疑ってたんだろうか。
「してやられたな、内通者がいたとは思わなかった。」
兵士階層の奥の方、平崎たちのいる南門部隊が向かっていたはずの方角から、多くの部下を伴った男が姿を現した。
黒い鎧に身を包み、鎧と同じ色の兜を身に着けた背の高い男。
「…………パージュ……」
そいつを見たマイオスさんの目つきが厳しくなる。
兵士が槍を構え盾を構え弓を構え、その男の率いてきた部隊に向き合う、今まで倒してきた連中と比べて強力であるとうかがえた、何より、装備の質が明らかに高い。
「そう構えてくれるなプリオン男爵、この戦は既に私たちの負けだよ。」
「…………信じられんな。」
余裕たっぷりのパージュとか言うらしい男を見据えて、マイオスさんが反論する。
「内通者により武器・兵糧・さらに言えば部隊配備に陣営までほぼ崩れきった今。これ以上の抵抗は無意味と判断したまでのことだ。」
「ならばなぜ、我々の方まで来たのだ? 中央で指揮を執っていたのならば姫様たちに降伏と投降を宣言すべきだろう。」
「………なに、武人として最後の意地を見せようと思ったのでね。」
そう言うと、パージュは剣を抜いた。そしてその剣の切っ先を俺に向けて、
「王国軍元帥メルフィダ・パージュ。君に決闘を申し込む。」
「……………は?」


とりあえずだ。俺は決闘を申し込まれ、半ば強制的に受けることになってしまった。
パージュの要求してきた内容は「もしパージュが勝ったら部下たちのことを見逃してほしい」で、俺が出した内容は「敗北の時点で全員無条件降伏」
黄色の煙弾が上がった、決闘の合図らしい。
そんなわけで多くの兵士が固唾を呑んで見守る中、俺とパージュは向き合って剣を構え、集団の中央に立っていた。
「始め!!」
開始と同時に突っ込むと、パージュは何の迷いもなく接近する俺の頭に向けて剣を振り下ろしてきた、体勢を低くしたまま左に逸れるがすぐに追撃が来る。
パージュの横腹に刀を叩き込みながら俺は跳び退り、刀を構える。
「速い……届かなかったか。」
「皮一枚だよ、危ないところだ。」
服が切れ、俺の横腹にも小さな切り傷が入った、怪我と認識するようなでかい傷ではないとはいえさすがに相手は敵の大ボス、今までの敵とはだいぶ格が違うらしい。
少し後ろに下がったパージュは今度は自分から向かってくる。
袈裟懸けに切りつけてきたのを一歩後ろに下がって避け、逆に腹を狙って薙ぐが返す刀が襲いかかってきて諦める、更にパージュが俺の首を狙い突いてきたのを刀で剣を逸らし、兜に刀を叩きつけた。
ガコーン
大きな音がして、パージュの頭を守っていた兜が吹っ飛ぶ。
パージュも転倒し、紺碧の髪をした若い男の顔が初めて露わになった。パージュは即座に剣で俺を牽制し立ち上がるが、俺が狙ったのは兜だった、刀をひっかけ、遠くに放りだす。
「………くっ。」
「これで頭は守れないだろ?」
攻め手が大きく広がった、邪魔な兜をどけられたのは大きい。
「続きと行こうか。」
今度は俺もパージュも動かない、実力は拮抗しているがほんのわずかに俺の方が上。
とはいえ、一瞬でも油断すればその場で覆されるほどわずかな差なら、無いと思った方が良い。足運びを工夫して左足を前に出すと、俺は一気に「前に跳んだ」
急加速による突進をものともせずパージュは俺に合わせカウンターを狙う、しかし同じような要領で急停止してカウンターのタイミングをずらし、無防備な頭を狙い刀を振り下ろす。
パージュも体をのけ反らせて避けるが、その代わりに剣がコントロールをほぼ失う。
首を狙って突きをかますと、いきなりパージュの剣が跳びあがってきて俺の鼻先を掠めた。
俺の腕がもう少し短いか、もしくは踏み込みがあと一瞬早ければ避けきれず顔面を切られて死んでいただろう、わずかに遅れた踏み込みが命を救うとはなんという偶然か。
空中に浮かびあがった自分の剣をキャッチすると、パージュはそのまま剣で突き、薙ぎ払い、振り下ろしてくる。俺はそのすべてを回避して、いったん距離を取った。
おそらく剣を蹴りあげたんだろう、たまに俺も使う手段だが自分がやられるとこうも意表を突かれるものかと思わざるを得ない。
「あっぶねぇ………」
「今ので決まったと思ったのだが。」
「悪いな、思うようにいかなくて。」
再び俺から突っ込んで、頭を狙い片手だけで薙ぐ、パージュはそれを剣で受け止め、力で弾くと防御の開いた俺の腹を狙って切り付ける。
しかし、俺はそれを好機ととらえた。
上に浮かされた刀を一気に全力で振り下ろし、パージュの腕に震撃を叩き込んだ、籠手越しで威力は多少弱まるし右腕には当たらなかったとはいえ、それでも左腕はしばらく使えないだろう。
「グっ………」
苦し紛れにパージュは右腕だけで反撃してみせるが、今までずっと両手で扱っていた剣をいきなり片手で使いこなすのは無理だ、剣術の使い手としてそれくらい理解してる。
「厄介な技を使うな……」
「身に着けたのは最近だし、ここまで綺麗に決まると思ってなかった。」
成功率は七割だし、それも訓練中の数字であって実戦でどこまで成功するかはわからなかった、そもそも使う必要があるほどの相手に会わなかった。
「降参するかい? 俺としちゃそうしてくれるととっても楽なんだが。」
「悪いが聞き入れられんな、片手で戦えないという言い訳を元帥がするわけにはいかん。」
期待はしてなかったけどここまでにべもなく断られるとなんだか傷つく。
「じゃあ、遠慮せず行くぞ。」
また突進し頭を狙った攻撃を連続で行うが、弾かれる、止められる。
反撃してこないところを見ると左手がまた使えるようになるまで時間稼ぎをする算段だろう、ついでに俺の体力もすり減らすつもりか。
(その考えが甘いことをさっきの攻防で理解したろうに。)
距離を取って刀を構える、そして一気に突進し、防御に構えた剣に震撃を叩き込んだ。
衝撃で剣を取り落したパージュの腹を全力で殴りつけ、地面に引き倒す。
倒れたパージュの右腕を踏み、首元に刀を突きつけた。
「これで、あとは分かってくれるな?」
「…………そうだな、私の負けだ。油断していたつもりもなかったのだが………」
周囲の人々からは歓喜と落胆の声、そしてけたたましいほどの拍手が鳴り響く。
「フブキ!!」
人混みをかき分けハートが俺に突っ込んできて、飛びついた。
後からは「しょうがないですね。」と言いたげな顔で英奈さんもついてきている。
「すげぇじゃねーか! 相手の軍で一番強いやつに一人で勝っちまったぞ!!」
「はしゃぎ過ぎだ馬鹿……苦しいんだよ………」
息が切れてるし体のあちこちも切れてる、ハートの抱擁は若干どころじゃなく、痛い。
「ですが、ハートさんのおっしゃることも頷けますよ。間違いなく今日一番戦功を挙げたのは吹雪さんでしょう。『王国軍元帥を実力で撃破』ですからね。」
静かに、本当に静かに周囲の人々は見守っていた。
これですべてが終わったと、みんな思っているように安心しきった表情だった。


敵軍の拘束、武装解除にとやることがすべて終わった俺たちが合流ポイントまで移動すると、他の部隊はすべて進軍完了して集まっていた、時間帯としては、既に日が傾き始めているくらい。
「お疲れ様、王国軍元帥と戦ったんだって? 大したものだよ。」
俺を迎えた昊はそんな風に言い切った、なんだか見下されてるような気がしなくもないが、とりあえず褒め言葉として受け取って「まぁな、けど危なかった。」と答える。
「報告! 貴族階層に敵影なし! 王国軍残存兵力は王城内部で待機している模様。」
「わかりました、王女軍のうち、限られたものだけで王城を攻略します。それ以外の兵はすべて城外を包囲、蟻の子一匹逃さないよう厳重にお願いします。」
これが最後の戦いだ、だからこそ、皆が力を振り絞っていた。


12/08/22 12:00更新 / なるつき
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■作者メッセージ
残存戦力
王女軍:1875 兵士損耗:112名  死者:34名(うちクルツ住民10名)
王国軍:44名 兵士損耗:1724名 死者:207名
注:王国軍残存戦力には「非戦闘要員の貴族」は含まれない。

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