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第三十話 吹雪と決戦前夜
袈裟懸けに切りつけてきた剣を右に逸らし、逆に首筋を狙って攻撃を仕掛ける。
しかしハートも滑るように回避して、距離を取る。
今度は俺から突っ込み、ハートの肩の付け根を狙って突きをする、最初に会ったときはこれを使って関節を外した、その痛みを覚えてるからなのかハートは躊躇なく逃げる。
しかし俺はそのまま急加速、ハートの懐に潜り込み、両手で木刀を持ってハートの腹を打ち据える、距離が距離だったゆえに回避しきれなかったハートは俺の一撃をまともに食らう。
「………ッ!!」
ハートの反撃を軽々躱して、すぐに距離を取る。
「一本、それまで。」
英奈さんのその声と同時に、ハートが地面に座り込んだ。
「やっぱり強いな、まだ勝てないか。」
これで今日の組手も俺の勝ち、こうやって組手をするようになって以来、俺が負けたことは一度もなく、ハートが勝ったことも一度もない。一度だけ引き分けがあったくらいだ。
ハートの弱点は分かる、純粋というか単純というかまぁそこら辺の性格が裏目に出て、どう斬ってくるのか、どうすれば隙をつけるかが非常にわかりやすい。
こればっかりは言ってもしょうがないし、下手に助言したせいで修正しようと剣が乱れるよりはこの型を突き詰めていった方がよっぽど上達は早いだろう。
それに明日は決戦、無駄な迷いを持ち込ませない方がいい。
「もう一回!」
「はいはい。」
再度構えたハートに、俺も構えて向き直る。
基本的な剣術の腕前は俺の方が上だから、武器性能がほとんど同じの組手ではその差が大きくなる、もちろんハートの腕が落ちてるわけじゃないが、最近は俺の身体能力の上り幅が増して体力も近づいてきてる。
「始め!」
開始早々、ハートが突進突きを仕掛けてくる。
ハートの背側に回り込むように横に回避して逆に足を狙うが、俺の一撃を察知して俺が動いた方向と逆に転がるように逃げた。
後ろから仕掛けようと振りかぶったところで、潜り込むように下から突っ込んできた尻尾が俺の顔を掠めた。点を取られなかったとはいえ、尻尾を忘れるとは迂闊。
ブンブンと火の粉を散らしながら動く尻尾のせいで、ハートが立ち上がるまでの時間稼ぎをさせてしまう。
「尻尾も体の一部だしなぁ、使うなって言う方が理不尽だな。」
「そう言うことだ。今のは思い付きだけど。」
ハートともう一度向かい合う。
尻尾の存在を今の今まで忘れてたのは攻撃に一度も使われなかったからだ。
ここから先、剣ばかりに気を取られたら尻尾に攻撃されるかもしれない。
意外に厄介かもしれん。
何より、背後が死角じゃなくなるのが厳しい。
またさっきと同じように突っ込んできたハートの攻撃を背後に回るように避ける、ハートは一瞬で踏みとどまってから尻尾で攻撃してくるが、すぐに距離を取って回避する。
さすがに走りながら尻尾を攻撃に使うのは厳しいらしい。
振り向きながら剣で薙ぎ、ハートが俺の方を向いた瞬間を狙って距離を詰め、袈裟懸けに 殴りつける。
彼女はそれを少しだけ後ろに動いて回避すると逆に俺の首を狙って切り付けてくる。
それを屈んで躱すと今度は右足での蹴り、これを後方に跳んで避けると、次の瞬間には遠ざかっていたはずのハートが一瞬で俺との距離を詰めていた。
右足が上がっていた状態からは考えられない超速移動、さすがに俺も面食らう。
剣戟を後ろに倒れこむように避け、ハートの追撃が来る前に横に跳び、体勢を立て直す。
「何だ今のマジック。」
俺の急加速と同等かそれ以上の速度での突進、恐らくタネは
「尻尾か、そう言う使い道もあるのか。」
尻尾と地面についていた左足を利用したんだろう、意外と応用が利くみたいで
「おっそろしく厄介だな………」
一気にハートが手ごわい相手に化けた。
けど、対応しきれない相手ではまだない。
ハートが切り込んできたのを、カウンターで頭部狙いの突き。
予想通り回避のためにハートが止まったところで木刀を構えなおしながら一気に接近、懐に潜り込んでそのまま腹を打ち据え、クロードさんから習った震撃を決める。
「うぐぅっ…………」
ハートは声も上げずにその場にへたり込む、どれだけ頑丈なハートでも、これを食らってダウンするなという方が無理、それくらい威力はともかく制圧力のある技だ。
まだこいつに負けてやるつもりはない。
「お前………今まで手を抜いてたのかよ。」
「尻尾を武器に使わなかったままのお前に対して戦略に組み込めるか怪しい技を使う必要がなかっただけだ、手を抜いてたわけじゃない。」
正直なところ、まだ震撃の成功率は高いとは言えない。足捌きと両立を可能にした結果七割程度しか成功しないような技では、使わず勝てる相手の組手にリスクの方が大きい。
しかし、あの動きをしてくるハート相手なら使ったほうが勝率が高いから使った。
「まったく、お前は、」
ごう、と。
尻尾の炎が燃え上がった瞬間、ハートは素晴らしいスピードで俺に抱きついてきた、組手していた時よりもさらに速い。この速度で組手ができるなら最初から俺も大技使ったろう。
「必要なときに優しいこと言いやがって、この女ったらし。」
そんなつもりはなかったんだが、ハートは興奮して下着をずらし、まだ大きくもなってない俺の肉棒を無理やり飲み込んでいく、彼女の方は既に驚くほど濡れていた。
「この……変態トカゲ……」
膣内がきゅうきゅうと締めつけ、襞が丁寧に絡んでくるハートの膣内は本人よりもはるかに繊細で技巧派だ。更に体を密着され大きな胸を胸板で押しつぶし口ではキスまでされると、否応なく息子が熱く硬くなっていく。
「変態なのはお前に対してだけだ、だからいいだろ?」
「そんな問題じゃないんだがな、俺が言いたいのは。」
そう言って俺はハートのお尻を鷲掴みにして、少し乱暴に揉んだ。
「はふぅん! お前だってノリノリじゃんか………」
「こんな人目に付くところでいきなり発情して襲ってくるなってことなんだよ。」
ハートの挑発を意に介さず、訓練用の幕舎の中という誰が来てもおかしくないようなところで発情して俺を押し倒したエロトカゲに対する文句を言わせてもらう。
「見せつけてやればいいじゃないか。」
「却下、お前や英奈さんの裸を見ていいのは女と俺だけ。」
そう言って、英奈さんに目配せをする。何も言わないまま英奈さんは頷き、俺たちを尻尾でくるむと次の瞬間には俺たちは自分たちの幕舎のベッドの上にいた。
この瞬間移動魔法、「知ってる場所しか行けない」「距離は俺たちの世界で言う100メートルほど」という制限はあるがこの通りハートが所構わず発情したときにはとても有効な魔法だった。
興奮しっぱなしのハートが俺の上で腰を振るので、俺もハートの腰をつかみ、腰を上下させてやる。するとハートも気持ちよさそうな顔をするので、もう少し動いてやろうと思った瞬間、なにやらホカホカした濡れたものが俺の顔に覆いかぶさった。
「吹雪さん、私にもお願いします。」
英奈さんだ、英奈さんが俺の顔の上に跨り、股間を押し付けている。
お願いとは言っていても実際拒否権なんかないだろうから、俺は大人しく英奈さんの陰唇を舐め、たまにクリトリスを優しく噛む。
そうすると英奈さんも気持ちいいらしく腰を押しつけ、俺の頭の上でエロい声を出す。
「エナ…お前いい加減私のフブキに手ぇ出すの止めろよ……お楽しみのところ毎度毎度邪魔しやがって……」
怒気のこもった声でハートは英奈さんに文句を言う、いまさら言っても仕方ないことだろうとは思うんだが、口が半ば塞がれてるからそれを口にも出せない。
「これはすみません、ですけど私が『貴女の旦那様』を愛してしまって忘れようもないことも事実です、どうかお許しください。」
その英奈さんの言葉にハートが動揺したのを、顔が見えてない状況にありながら俺は確かに感じ取った、英奈さんが俺のことを「ハートの夫」と言ったんだから、当たり前だ。
今まで英奈さんが俺に迫ってきたとき俺に結婚してほしいとかそんなニュアンスのことを言っていた、イグノーは一夫一妻の国だから、どちらかの夫にしかなれないからだ。
しかし今英奈さんは、俺がハートの夫になることを容認することを言った。
これに驚かなくて何に驚けばいいんだか。
「今なんつった?」
ハートの方は恋敵のいきなりの白旗に思考停止を起こしたらしく、英奈さんの言ったことを聞き直す。英奈さんはそれに対して
「貴女と吹雪さんの結婚の邪魔はしない。と言ったんです。」
躊躇なくそう言いかえした、口が塞がってなかったら俺も何言ってるんだこの人と叫んでいただろう。今までハートが何言っても引き下がらなかったのに、自分から諦めるとは思えない。
「…………何企んでるんだお前」
「いえ、よく考えてみたら簡単な事実があったんですよ。」
凄く嫌な予感しかしない声色だったが、やっぱり何も言えず俺は下からハートを突き上げ英奈さんの秘部を舌で愛撫する作業に勤しむことにした。
「……何だよそれ、私がフブキと結婚してもお前が困らないみたいだな。」
「ええ、だって私は愛人でも構いませんし……ハートさんより長生きですから。」
ハートより長生き、それだけで言いたいことが分かった、ハートが死んでバツイチになった俺を今度こそ籠絡するつもりで、結婚していいと言ってるんだこの人は。
「絶対お前より先に死んでやらねー」
怒った感じでハートが言う、自分が死んだあとの話をされればそれは当然怒るだろうが、英奈さんはあまり変わらない調子で「寿命は気合で伸ばせませんよ、少なくとも妖狐はサラマンダーの二倍は生きますので。」と言い返す。
「そんなもん関係ねーよ、お前に触れさせずに生活してりゃ私と同じ寿命で死ぬ。」
「無理ですよ、吹雪さんは既に『私の魔力で』インキュバス化なさっていますので。」
「ぐぬぬぬぬ………お前ぇええええええ……」
凄まじく悔しそうにハートが唸り声を上げる、このまま俺の体の上で喧嘩を起こさないか心配だが、今のところその気配がない。もし喧嘩されたら被害は確定だ。
「フブキ! お前は私とエナのどっちを嫁にしたい!?」
ハートが訊ね、英奈さんが俺に答えやすいように体を俺の上から退ける。
「それは私も聞きたいですね、愛していない人と強引に結ばれるなど考えられない屈辱でしょうし、結婚した相手にとっても幸せではないでしょう。」
そう言って二人は並んで俺に迫る、どちらも大変に魅力的だし、俺とは体の相性もいい。
それにどちらも同じくらい俺は愛しいと思っている。いい加減で不誠実な親がやったような馬鹿をやらかしかねないような気の多さだ。
「迷ってらっしゃるのですね、それはどちらも愛せないという意味ですか?」
「まさか他に女がいるのか……私たちは遊ばれてたのか……?」
悲しそうな顔をする二人に向かい、俺は迷わず「そう言うことじゃない!」と言った。
こうなれば、もううだうだと考えるほうがダメなんだろう、男らしくないだろう。
「ハート、英奈さん、この戦争が終わったら三人でイグノーに帰って一緒に暮らそう!」
三人で帰って一緒に暮らす、それが俺の答えの前半分、
「ハート、結婚してくれ。英奈さんも……妻になれなくても俺についてきてくれますか?」
それが俺の答えだった、英奈さんの言っていたことに一応のる形とはいえ、これが一番問題も少ないだろうし何よりも男として責任を果たせるいい形だと勝手に思ってる。
「英奈を愛人にするのは嫌だけど、フブキが言うなら仕方ないな。」
「あらあら、勿論ついていきますよ。」
二人もにっこり笑って俺の言葉を受け入れてくれた。
「じゃあ、今晩はじっくり楽しみましょうか。」
そう言って、英奈さんが俺を押し倒した。
やっぱり、俺は早まった決断を下したのかもしれない。


12/08/09 23:24更新 / なるつき
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■作者メッセージ
はいはい石は投げないでくださいね、もげろとか言ってあげないで。
吹雪君だって彼なりに悩んだり苦労したりいろいろあるんですからね。

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