第三層の居住区は特に変わっていなかった。
しいて言えば、幻覚魔法で見せかけのボロ床と漆喰の壁が偽装されていることぐらいで、間取りは何も変わっていない。
フロアの中心である螺旋階段から十字状に廊下が伸びており、廊下の両側にはサバトのメンバーのための部屋が列をなしている。
魔法で空間をいじくっているため、本来なら廊下は無限に伸びているはずだが、今はある程度行ったところで漆喰の壁が立ちふさがっているのが見える。
「ここが子供たちと俺が寝泊まりする所だ」
「おいおい、こんな刑務所みたいなところで寝てんのかよ」
エドに対してライルが非難の声を上げる。
なるほど、殺風景な廊下に並ぶ鉄扉の列は、たしかに刑務所のように見えなくもない。
「しかたないだろ。教会は清貧がモットーなんだ。さあ、ついて来てくれ。会わせたい子がいる」
傭兵たちはエドに続いて廊下を歩きはじめる。
「おいおい、エド」
廊下を歩きながら、エムリスが言った。
「なんだ？」
「なにか聞こえてこないか？こう、喘ぎ声というか」
しまった。と、エドは思った。
サバトのメンバーはこの作戦のために、一時的に部屋に戻ってもらっている。
特に『お兄ちゃん』がいるメンバーがお兄ちゃんと部屋で二人きりになれば、ヤることは一つだ。
それに、この声は間違いなくアルラだ。この作戦の準備で溜まったストレスをナイアスとヤることで発散しているに違いない。
「えっと、実はな、この教会は病院も兼ねているんだ」
「病院？それにしては看護婦も医者も見当たらないが……」
「病院なんて名ばかりさ……治らない病で今にも死にそうな人が、主神の加護を求めてやって来るのさ。発作で痛々しく喘いでいるのに、俺たちは何も出来ねえ……」
「なるほど、確かに痛々しいな……」
よほどヒートアップしているのか、扉の外にまで嬌声を響かせているアルラの部屋の前を通った時、グリンバルトが重々しく呟いた。
傭兵たちは痛ましい現実から逃れるように、エドは作戦が失敗しないかひやひやしながら廊下を足早に進む。
やがて一行は、一つの鉄扉の前で止まった。
「ここだ。一つ約束してくれ」
「なんだよ？」
ライルが聞く。
「この部屋の中の子は、この孤児院で一番ひどい病気にかかっている。だが、自分の病気が治ると信じている。だから、不治の病とかそういう事は口に出さないでくれ」
「わかった。絶対に言わねえ」
ライルは少年らしい一本気な返事を返す。
エドはコンコンと扉をノックした。
「ニア、入るぞ」
「どうぞ……」
か細い返事を聞いて、エドは扉を開けた。



質素な一室だった。
家具は古びたタンスと、粗末なベッドだけ。
床や壁はあちこち穴があいており、今にもネズミが飛び出してきそうだ。
「エドお兄ちゃん、こんばんは……」
粗末なベッドに寝ている赤い髪の少女が、苦しそうにエドに声をかけた。
火山の噴火と共に産まれ、時に隕石をブレスで焼き溶かしたと謳われる。
伝説のレッドドラゴン、青炎のガルニアその人である。
やはり人化の魔法によって、ベッドで寝たきりの哀れな人間の少女にしか見えない。
「こんばんは、ニア。今日は傭兵団の皆さんがお見舞いに来てくれたぞ」
エドは笑いをこらえながら言った。
氷河の底に沈めようが風邪一つ引きそうにない強大なドラゴンが、こんな粗末な部屋で病に臥せっているフリをしていると聞いたら、彼女の同胞たちはどう思うだろうか。
「こんばんは、皆さん……ゴホッゴホッ」
ガルニアが咳をするたびに、傭兵たちの顔は青くなり、エドの顔は笑いをこらえて真っ赤になった。
「よ、よう。その、病気は大丈夫かよ」
一番年が近い外見をしているライルが、ガルニアに話しかけた。
「うん、大丈夫。最近は良くなってきてるって、シスターも……げほっげほっ！」
ガルニアの咳は止まらず、身体をうつむかせて苦しみ始めた。
「おい、大丈夫かよ！エド！」
「ライル！背中をさすれ！早く！」
ライルがガルニアの背中をさすると、咳は落ち着いた。
「ありがとう、ライルお兄ちゃん……」
潤んだ目でガルニアがライルを見つめる。
その姿は病床の少女の儚さまでも、見事に纏っていた。
「お、おう」
じっと見つめられたライルは、顔を赤らめながらそっぽを向く。
その隙に、ガルニアはエドに目配せをした。
こやつは我がもらう、と。
「さて、そろそろ行くか」
エドはそう言って、部屋の扉の方に向かおうとする。
「あ、ああ。そうだな」
「ライルお兄ちゃん……」
見れば、ガルニアはライルの手をしっかりと掴んでいる。
「な、なんだよ」
「眠れるまででいいから……傍にいて欲しいな……」
「けどよお……」
「傍にいてやれ、ライル。眠れるまででいいから」
グリンバルトが言った。
「わ、わかった……」
エドたちは、ベッドの端に腰を下ろしたライルを置いて、部屋から出た。



「みんな行っちゃったかな……」
「ああ、そろそろ眠れそうか？」
ライルはガルニアの手を握ると、ガルニアはうとうとした目で答える。
「もう、そろそろ……」
「そうか。ほら、寝ろよ。寝ないと良くならないぞ」
「うん。あのね、ライルお兄ちゃん」
「なんだ？」
「わたしね、ずっと一人だったの。ずっと一人きりで、さみしくて……」
「ああ……」
ライルは、傭兵団に入るまでの自分を思い出す。
孤児だったライルは、生き残るために何でもした。
盗み、かっぱらい、スリ……生まれつき身体能力が高かったライルは、何度もそれらに手を染めても、決して捕まることはなかった。
しかし、ある日初めて捕まった。
捕まえたのはグリンバルトだった。しかしグリンバルトはライルを衛兵に引き渡さず、盗人のライルを傭兵団に迎え入れてくれた。
その時から、一人じゃなくなった。共に戦い、共に飯を食う仲間ができた。
（けど、ニアを迎え入れてくれるのは、この粗末な部屋しかないんだな……）
そう思うと、ガルニアがあんまりにもかわいそうになった。
「なあ、ニア。何か願い事はなにか？」
「願い事？」
「そうだ。俺が一つだけ、なんでもかなえてやるよ」
ライルはどんと胸を叩いた。
「だったら……」
ガルニアの顔に、およそ病人とは思えない凄惨な笑みが浮かぶ。
「死ねえ！！！」
ぼろ布団を切り裂きながら、ライルに襲い掛かるドラゴンの爪！
「おわっ！！！」
ライルは転がってそれを躱し、壁に立てかけていた槍を手に取る。
「な、いきなりなんだよニア！」
「たわけめ！我はガルニア！偉大なるレッドドラゴンぞ！」
ガルニアはベッドから起き上がりながら名乗りを上げた。
着ていたパジャマは燃え上がり、ガルニアの本来の姿があらわになる。
頭から角を生やし、病で弱っていたはずの身体は赤い竜鱗に覆われ、赤い魔力のオーラを全身から放っている。
「ふ。不治の病のはずじゃ……」
「マグマの中から生まれ落ちた我が、病なんぞにかかるかああああああ！！！」
「騙してやがったな！魔物があああああああ！！！」
ライルは槍を構え、ガルニアに突きかかる！
「遅いわああああああああああ！！！」
ガルニアは突きを躱し、爪でライルに切りかかる。
「見え見えなんだよおおおおおおお！！！」
ライルはガルニアの腹に蹴りを入れる。
「見え見えなのはそっちだああああああああ！！！」
ガルニアは蹴りを受けとめると、ライルの足を掴んで振り回す。片足ジャイアントスイングだ。
ライルの手から槍が離れ、壁に突き刺さる。
「うおおおおおおお！！！死ねええええええええ！！！」
「ぐはああああああああ！！！」
ガルニアは床を突き破らん勢いで、ライルを叩きつけた。
「ふう、こんなところだろう。さて、こいつの精を搾り取るか。さすがに魔力が……」
「ころ……す……」
ガルニアが額をぬぐったその時、ライルは全身から殺意を放ちながら立ち上がった。
「へ？ま、まさか、人間がアレを喰らって立てるはずが……まさか貴様、勇者の……」
「殺す！！！」
先ほどとは桁違いの素早さで、ライルはガルニアに飛び掛かり、押し倒した。
「ぐう……！」
「殺す！殺す！殺すうううううううう！！！」
ライルは右腕を上げ、そこに魔力を集中させる。
魔力が十分な時ならまだしも、魔力が枯渇寸前の今では、ガルニアにとって致命傷になりかねない一撃だ。
「ふ、不覚……だが、我より強い者の手で死ぬなら本望……」
ガルニアは潔く目を閉じた。が、いつまで待っても拳は振り下ろされない。
どうした、とガルニアが目を開けると、頭をかかえて苦しむライルの姿があった。
「うぐぐ……殺さない……殺す……殺さない……」
そして、全身から魔力を放出して、ぐったりとガルニアに倒れこんだ。
ガルニアはライルの下から這い出ると、ぜえぜえと息をするライルを抱え上げて、ベッドまで運んだ。
「まったく、看病する側がされる側に回るとはな」
「何の……つもり……だ。殺すんじゃ……ねえのか……」
「殺す？貴様を？その考え、主神教団の悪影響だな」
ガルニアがライルのズボンを脱がすと、股間に横たわるペニスが現れた。
「なにしやがる……」
「おとなしく寝ていろ。元気にしてやる」
そう言うと、ガルニアはペニスを咥えて、舌の上で転がす。
誇り高きドラゴンは、基本的に自分から奉仕することはない。
この行為は、ガルニアにとって最大の敬意と親愛の証である。
「ううう……なんだ？これ……」
ライルは未だ知らぬ快感に、わずかに腰をよじる。
すっかり出来上がったと口の中で感じ、ぷは、とガルニアは口をペニスから離した。
「ほう、まだ女を知らぬか。これは交じり甲斐がありそうだ」
ガルニアはパンツをずらし、既に愛液でぐちゅぐちゅになった性器をそそり立ったペニスにあてがうと、一気に腰を下ろした。
「うっ……！」
びゅるびゅるびゅる！！！
「んっ……はあ……！濃い……！！！」
挿入した瞬間に暴発したペニスから、大量の精子が吐き出され、ガルニアはそれを子宮で貪った。
「はぁ……どうだ？我の中は？」
「狭くて、きついのに、すごく柔らかい……ひだが纏わりついて……気持ちよすぎて……」
「くくく、生きていればこんな気持ちのいいことができるのに、貴様はなぜ死ぬために戦場にいくのだ？」
「な、なんでそれを……」
「エドの首から下がっているものから、お前たちの顔や声がとても良く見えたぞ」
「エドの奴、最初からこのつもりで……ううっ」
ガルニアが腰をねっとりと動かすと、ライルはあまりの快感に悶える。
「どうだ？戦いたいという理由のほかにも、何かわけがあるのだろう？」
「俺は……」
「ん？」
「俺は、ずっと一人だった。隊長に拾われるまで、路地裏で身を潜めているしかないガキだった」
ライルの目から涙がこぼれる。
「けど、隊長が俺を救ってくれた。団に入って、初めて一人じゃなくなった。だから、恩を返してえんだ」
「貴様の隊長は、貴様が一緒に死ぬことで喜ぶと思うか？」
「だって、他に考えつかなくてよ……」
「まあ、貴様の気持ちも、少しは分からなくもない。んっ……」
こつん、と子宮口にペニスを当てて快感を味わいながら、ガルニアは言う。
「我もずっと一人だった。火山の洞窟の中で一人きり、集めた宝物と共にぐうたらしていたのだ」
にちゃ、にちゃ、と水音が部屋に響く。
「ある日、ザッハーグがやってきたのだ。『儂と共に世界を変えて欲しい』とな。我は馬鹿らしいと思ったよ。たった数人集まったところで、何を変えるというのか。とな」
「ザッハーグって？」
「我々のリーダーといったところか、すぐに会わせてやるとも。好奇心からザッハーグの誘いを受けた我は、ザッハーグにめちゃくちゃにこき使われた。それこそ、百年以上もつがいを探す暇さえ無いほどにな……んっ！出していいぞ」
「んっ！あああ……！」
ライルのペニスから精子がほとばしり、ガルニアの子宮を白く染め上げていく。
二回も絶頂に至っても、ライルのペニスは硬いままだ。
「んっ……はぁ……だが、我は一人きりではなくなった。仲間もできた。寂しくもなくなった。なあ、ライル」
「なんだよ……」
竜の手がライルの頬を撫でる。青炎にも似た青い瞳が、ライルの瞳と交わった。
「我とお前は似た者同士だな？」
「……うるせえよ」
ライルは頬を赤らめながら、そっぽを向いて呟いた。
「くくく、素直じゃないなあ。だったら、こっちで素直にしてやろう」
そう言うと、ガルニアはねっとりとした腰つきをさらに加速させていくのだった。