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第六話 スキュラのパスティナ

第四層は資料区だ。所狭しと本が詰まった本棚が、粗末な内装の中に並んでいる。
そのほとんどが、魔物が使う魔法の本だったり、魔界の情報が書かれた禁書なのだが、そのすべてが魔法によって聖書めいた外装に偽装されている。
「ここは資料室だ。教会の歴史書とか聖歌の本が並んでいる」
「興味ねえな。教会の歴史なんて知ったこっちゃねえ」
グリンバルトは興味なさそうに言う。
「なあ、エド。教会の魔法書もここにあるのか?」
興味津々に聞いたのは、魔術師のエムリスだ。
「いや、そこまでは分からんな。ここは俺の担当じゃないし」
「もしかしたら、私が力になれるかもしれません」
本棚の陰から姿を現したのは、一人のシスターだった。
人化の魔法で、人間の少女の姿になったパスティナだ。
オレンジ色の髪を垂らし、薄手の黒いローブが少女の身体つきを際立たせている。
「ああ、パスティナかちょうどよかった」
もうちょっとシスターらしい厚手の恰好をしてください。と言いかけるのを我慢しながら、エドはパスティナに言った。
「良ければ、エムリスを案内してやってくれ。教会の魔法に興味があるらしい」
「分かりましたわ。それでは、エムリスさん。こちらにどうぞ」
パスティナはエムリスの手を取って、資料室の奥へと導いていく。
「そんじゃ、少し調べ物をしてから行くわ。先行っててくれ」
「お、おい、エムリス」
「いいじゃないか、隊長。最後に好きにさせてやろうぜ」
グリンバルトが止めようとするのを、エドは止めた。
「……ああ、それもそうだな」
「次で最後だ。隊長にはとっておきのものを見せてやるよ」
先に螺旋階段降りていくエドの背中に疑惑の目を向けながら、グリンバルトはそれに付いていった。



「こりゃ、すげえ……」
エムリスは興奮していた。
机に積み重なった魔法書は、どれもエムリスの知らない魔法ばかりが書かれており、教会の監査が入れば一発で禁書扱いされるものばかりだった。
「こんな掘り出し物が、ここにあるなんてな」
「お気に召しましたか?」
「ああ、こんなに貴重な魔法の本があるなんて」
「エムリス様に喜んでもらえるなら、私も嬉しいですわ」
パスティナは優雅な微笑みをエムリスに向ける。
エムリスは思った。最高の魔法書と、美人のシスター。ここでしばらくゆっくりするのも悪くないな。
「んん?」
魔法書をめくっていくうちに、エムリスはある事に気づいた。
魔法書に書かれている魔法のどれもが、人間が使うことを想定していないのだ。
ぱらぱらとページをめくっていくうちに、エムリスの予感は的中していく。
一旦本を置いて、別の本を開いても同じ。術者を指して使われる言葉は……
「魔物……か。なあ、パスティナちゃん」
「なんですか?紅茶がご所望でしたら、淹れてきましょうか?」
「いんや」
エムリスは椅子から立ち、机に立てかけた杖を握ってパスティナに向けた。
「ちょっと聞きたい事がね!」
杖の先から電撃がほとばしった。
が、電撃はパスティナを覆う、透明な壁に阻まれた。
「魔力障壁……!やはり魔物か」
「ふふふ、ご名答ですわ。エムリス様はやはり頭のよろしいお方」
人化の魔法が解け、パスティナの足がスキュラの触手、タコのような八本足に変わっていく。
「褒められても、嬉しくねえよ!」
エムリスは杖の先から炎弾を放つ。
それをパスティナは、またも魔力障壁で阻んだ。
「ふふ、可愛らしい魔法……」
「可愛らしい、だと?」
「ええ、ザッハーグから魔法を学んだ私にとっては、どれもこれも、子供のお遊戯に見えますわ」
エムリスの額に青筋が浮かぶ。
「お遊戯だと……?俺は……」
「レスカティエ魔法学院の主席。そう言いたいのでしょう?」
「なんでそれを……」
パスティナは笑みを崩さずに言う。
「レスカティエ魔法学院を主席で卒業したあなたは、主神教団の特殊魔法部門に就職。けど、皆から期待されたあなたは、たった一年でそこを辞めてしまった」
「……お前にゃ、関係ないだろ」
エムリスは思い出す。魔法を学び出したのは、自身が魔法に向いていたからだけではない。
傭兵の父に育てられたエムリスは、戦場で手足をなくしたり、心に深い傷を負った父の友人たちを見て育った。
そんな彼らは、エムリスを子供だからと見下すことも無く、一人の友人として扱ってくれた。
エムリスは彼らを救うための魔術を学びたかったから、必死に勉強し、魔法の極致を求めて主神教団の中に入り込んだのだ。
しかし、そこで行われていたのは、ただひたすらに魔物を倒すために魔法を開発する非人道的な実験だけだった。
ただ魔物を滅するため。ただそれだけのために魔法を使う。傷ついた人間は必要な犠牲にすぎない。
失望した。エムリスは捕らわれていた魔物を逃がし、レスカティエから逃げ出したのだ。
「あなたは戦場を渡り歩き、人々の傷を癒す方法を探った。けど、うまくいかなかったそうですね」
「……手を生やすべきところから足が生えたり、傷をふさぐどころか、腐り落ちてしまうこともあったよ」
一から魔法を開発するというのは、とても難しい事だ。
大工が図面も無しに家を建てようとするようなもので、無理に実行すれば奇怪なオブジェが出来上がるだけだ。
本来なら綿密な術式を立て、何度も実験を行うことで魔法を洗練させていくのだが、戦場では資料も設備も足りなさ過ぎた。
「行く先々で能無しと笑われ、馬鹿にされ、ヤブ医者とも呼ばれたとか」
「そうだ。傭兵団に入ったのは、あいつらが俺を笑わなかったからだ。立派な目的だ、失敗くらい誰にでもある。と肩を叩いてくれたからだ。どうだ?俺の過去を暴いて楽しいか?ああ!?」
杖の先から氷の矢がパスティナに向かって放たれる。
しかし、パスティナはそれを魔力障壁で簡単に弾いた。
「くそっ!くそっ!いつも上手くいかねえ!傷は塞げるようになった!けど、失った四肢はどうにもならねえ!脳の欠損も治せねえ!血が足りない奴が死んでいくのを見ている事しかできねえ!感染症も!破傷風も!ネズミが食材をかじるせいで発生する病気も!俺は!俺は!!!」
エムリスはなんども机を殴りつけた。拳が砕け、血がにじみ出る。
「エムリス様」
パスティナがエムリスの傍に寄った。
机の上の魔法書のひとつを手に取り、ページを開く。
「痛いでしょう、この魔法はどうですか?」
「うるせえ!このくらい治せらあ!」
エムリスは怪我をしていない方の手で魔法を発動し、砕けた拳に当てる。
だが、一向に怪我は治らない。
「くそっ!骨がイカれたか?だったらこれで……」
「エムリス様、こうです」
パスティナはエムリスの手を取り、代わりに魔法を詠唱する。
エムリスの手の先に魔法陣が構築され、怪我が治っていく。
「これは……」
「グレイリア・サバトが作った治癒魔法です」
「この魔法なら……!なるほど、魔力で人体構造を補うのではなく、活性化と肉体構築を同時に……うっ」
エムリスが頭をおさえて、机にもたれる。
「魔力が……」
「向いてない攻撃魔法を乱発するから。ほら、力を抜いて……」
パスティナはエムリスに、そっとキスをした。
魔力が流れ込んできて、意識がはっきりとする。
「……すまねえな。けど、なんで魔物が俺を助ける?」
「私、エムリスお兄様の考えに感銘を受けたの」
パスティナはエムリスの身体を床に横たえ、もう一度キスをする。
こんどは甘ったるいパスティナの唾液を流し込まれ、身体の中が熱くなっていくのを感じる。
「知ってる?人間が魔物と交わると、魔力が互いの身体で増幅されて、どんどん増していくのを」
「それが……なんだ?」
エムリスの視界は既にピンク色にぼやけ、理性がまるで働かない。これも何かの魔法なのか?
「魅了の魔法、しっかり効いているみたいね〜。ふふふ、魔物の魔法を極めれば、お兄様の目的も果たせるってこと。それには……」
パスティナはエムリスのズボンを引き下げ、既にいきり立ったエムリスのペニスをあらわにした。
「ガンガンセックスして、魔力をどんどん上げればいいってわけ」
腰に跨ったパスティナは、既にとろとろになった性器にペニスを押し込んだ。
「っぐう……!」
「っはあ……気持ちいい……ほら、お兄様。手を出して」
「こう……か?」
無数の触手でペニスをなぶられる感覚の中、エムリスははっきりしない意識で手を差し出す。
「そうそう、こうやって……」
パスティナがエムリスの手に指を絡めて握ると、頭の中に様々な術式が流れ込んでくる。
自然治癒、肉体構築、血液生成、骨組織再生、神経連結、どれもこれもエムリスが長年求めていた知識である。
「パスティナ……これは……」
「ふふふ。私、結構物知りなの。っ……!!!」
「ううっ!!!」
ずっと膣内でなぶられていたペニスが限界を迎え、パスティナの子宮を精子が満たしていく。
パスティナの体内に魔力が満ちていき、増幅された魔力がエムリスの体内に還っていく。
「この魔力は……」
「言ったでしょ、魔力が増幅するって。さあ、実際に魔法を使ってみましょう。まずはリジェネレーションから」
繋がった手から、必要な術式の知識がエムリスの頭に流れ込んでくる。
「こう……か?」
空いた手でエムリスが魔法を発動すると、二人の身体の中で術式が構築され、性器同士が繋がっているだけで疲れが消えていく感覚が生まれる。
それと同時に快感も増幅し、まるで暖かい海に潜っていくような感覚にとらわれる。
「んん……とっても気持ちいい……ありがと、お兄様」
「すごい効き目だ……それに、こんな気持ちいいなんて……」
「それじゃ、次は感覚共有の魔法を使ってみよっか……少し楽しみでしょ?」
「ああ……どうすればいいんだ?」
「この術式を使ってみて……」
繋がった手から、次の術式がエムリスの頭に流れ込む。
新しい知識への渇望、本能が求める生殖に対する欲求、そのどちらもパスティナによって満たされていく。
エムリスはただ幸福感に浸りながら、パスティナが与える禁忌の魔法の知識に溺れていく。
そうして、二人きりの魔法講習は続いていくのだった。
20/06/08 19:09更新 / KSニンジャ
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