連載小説
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第二部:デュラハンからは逃げられない。
「どうやら、撒いたようだな。」
俺は近くの木に背中を預ける、「木だと思ったらドリアードでした。」なんて間抜けなことはない。
師匠に拾われてから独り立ちするまでずっと森の中で育ってきたんだ、その程度の区別ぐらいつかないと生きて行けない。
まだ俺が年端も行かない餓鬼だった頃にドリアードに襲われそうになったときには何処からともなく師匠があらわれてその木を両断したものだ、横ではなくて縦に。

さて、どうしたものかな。
ケ・セラ・セラに帰る。ダメだ、門番には見つからねぇが領主に見つからねぇ自信がねぇ。
おとなしく魔王軍に入隊する。こいつもダメだ、確実に干からびる。
このまま流浪の旅に出る。こいつが良さそうだ。今まで居た場所に未練がねぇ訳じゃあねぇが面倒事に巻き込まれるよりずっとましだ。
よし、そうと決まれば、まずは一服。

懐から煙管を取り出す、紙巻き煙草?葉巻?甘ぇな、ジパング男児はこいつを格好良く吸うのが粋ってもんよ。
続いて刻み煙草を…くそっ、湿気ってやがる。まあいい、こいつで我慢するか。
若干湿気った刻み煙草の入った袋の中に雁首を突っ込み煙草を詰める。
大陸で手に入れた黄燐マッチなる物をその辺の木に擦りつけ着火させる、こいつはすげぇぞ、魔法が使えねぇ俺みてぇな人間でも何処でも火が付けられる、今度ジパングに持って行けば一儲けできそうだ。
深く吸い込んだ空気を煙と共に吐き出す、
張り詰めていた気を緩め、
心を落ち着かせる、
心なしか時間の流れもゆったりとしたものになる、
この味、この香り、
やっぱ、煙草は煙管で吸うのが一番だ。

「いよっと」
木に預けていた身体を起こす、
俺は盛大に煙を吐くと持っていた煙管を逆さにし軽く叩いて灰を落とす、
若干赤みの残った灰を草履で踏みつけて火を消す、
歩き出そうと一歩目を踏み出したその時、

「捕まえた。」
一瞬前までそこになかった気配が現れ、背後から両腕で抱きしめるようにして俺を拘束する。
気配を読み違えた?
そんな筈はない、確かに先刻までそこには何もいなかった。
暗がりでよく見えないが感触からして相手は鎧を着込んでいる、
対してこちらにあるのは右手に火の消えた煙管が一本、どうしようもねぇ。
力づくでどうこう…は出来そうにねぇな、
情けない事にそのまま押し倒され、仰向けにされ、馬乗りの体勢を取られる、これで美人なら言うことねぇが四十過ぎるとそうも言えねぇな。
半ば折れかけた心で馬乗りになった相手の顔を見るとそこには、
「シルビア!?」
「デュラハンからは逃げられない。ご存知、ないのですか?」
顔を上気させているシルヴィアが居た。
11/07/03 02:27更新 / おいちゃん
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■作者メッセージ
まずはごめんなさい。またしても予告を裏切ってしまったおいちゃんです。
言い訳ですが、出来た物があまりに面白くなかったのでお蔵入りとさせていただきました。楽しみにしていた方は本当にごめんなさい。
もう、予告しない。

デュラハンからは逃げられない。
真相は闇の中ですが、逃げられないものは逃げられない。
ほら、貴方のうちの郵便受けにもデュラハンからの手紙が。

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