連載小説
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第六章†安息と不穏な影†
21時を過ぎており、辺りはすっかりと夜の闇に包まれていた。
そんななか私とリゼッタはいまだに手を繋げたまま木々の間を掻い潜って
川を沿って獣道を歩いていた。
一応言っておくがまだ手を握っているのは暗いからだぞ?理解できるな?
だってはぐれたり躓いたりしたら危ないし………。

「フフッ、隊長………♪」

その筈なんだがなぁ…………

「リゼッタ、手を握るのは許可したが身を寄せろとは言っとらんぞ……」

先程からリゼッタは私と手を握りながら身を必要以上に寄せてくるのだ。
そりゃあモフモフした体毛やピコピコした耳が
腕や顔に当たって気持ちよくはあるが
こういった獣道ではいささか歩きにくいというもの…………。
実際リゼッタに注意するのもこれで3度目だ。

「みんなと合流したらこんなことできませんからいやです♪」
「お前……いくらなんでもものの程度というものがあるだろに」

……少しきつく言ってやればワーウルフの本能で
それなりに従うのだが、実際そうしないところから考えて私自身
リゼッタにこうしてもらうのが結構気に入っているのかもしれないな……。
そう思いながら私はリゼッタのほうを見ると、
なんとも幸せそうな顔で頬を染めて、私に寄り添っていたので、
もうしばらくこのままでいいかと納得するのだった。まだまだ青いな私も……

「おっと………、見つけたぞ明かりだ」

向こうのほうに木々の間から漏れたひとつの明かりが目に入った。
私に釣られリゼッタも光の方角を見る。

「キリアナさんたちですか?」
「十中八九間違いないだろうな」

この広大な自然は魔王軍関係者が訓練用に特別管理している土地だ。
そんなところで火を灯す者など私たち以外考えられない。
ある意味今が夜で幸運だった、そうでなかったらまだ当分迷っていただろう。
私はさすがにここまでだと思いリゼッタと手を離し、
明かり目指して進むのだった。リゼッタ……そんな残念そうな顔しないでくれ







「隊長!無事だったのですね!」

明かりに向かって辿り着いた先には案の定みんなが火を囲っており、
一番初めに私たちの存在に気がついたキリアナが声をあげた。

「おお隊長、リゼッタも……あまりにも遅いから心配したぞ!
なにかあったのか!?」

キリアナに続いてサキサも声をあげてやって来た、
ノーザとヴィアナもその声を聞きつけたのか、
上から飛び降りてきた、木の上にでもいたのだろう。

「隊長、リゼッタ そこらじゅう飛び回ったんですよ!と私は思います」
「無事でなにより、安心したわふたりとも…………でも大丈夫?
随分と怪我が多いみたいだけど………?」

皆が皆で私たちに集まって気をかけてくれている、
ふむ……、隊長として隊員が仲間の身を心配するこの様子は見ていて
なかなか微笑ましいものだ。

「みなさん、心配かけて本当にごめんなさい」

横でリゼッタが頭を下げ、私は懐中時計に目をやった。
21時半か、随分と経っているな……
とりあえず私はキリアナたちに崖から川に落ちて流された経緯を説明した。
当然リゼッタとの情事については黙秘した、言えると思おてか?



「…………あれ?そういえばシウカさんは?」
「なに?」

リゼッタの発言に私も気付いた、
今この場で集まっている隊員たちのなかであいつだけがどこにもいない。

「大丈夫ですよ隊長、シウカさんは今少し手の離せないんです。
敗者の『罰ゲーム』で…………と私は思います」
「なるほど、シウカのやつめ。あの状況から巻き返せなかったか……」
「隊長たちが行方不明ではあったが、状況がはっきりするまで
正当なる軍事演習を止めるわけにはいかないからな。
ひとつしかないシウカのバッジと、私たちのバッジを総合、
そして隊長にバッジを奪われたシウカの話を聞いて
奴が一番のビリだとすぐにわかったぞ。あろうことかやつめ、
隊長にバッジを奪われた後、寝過ごしたそうだ」
「ははっ、シウカさんらしいですね」
「まったくだな、それでシウカはどこに?」
「隊長さんたちが来るちょっと前に鍋に水を汲みに
行ったから〜〜〜………時間的に考えてそろそろじゃない?
隊長さんったら、入れ違いになっちゃったわねぇ♪」
「らしいな……」

話の内容で納得しながら、私は近場にあった丸太状の長椅子に腰を下ろした。

「…………隊長さん、ちょっとごめんなさいね」
「ん……ああ、すまないな」

ヴィアナが私の隣に座り込むと、
彼女は日頃持ち歩いている携帯用の医療用具一式を取り出し、
私の傷口に薬を塗った。これはヴィアナのもつ意外な特技といったところだ。

「リゼッタちゃんも薬塗る?」
「いえ、私はもうほとんど回復していますから……」
「それならよかったわ。でも隊長さんも人間で大変よねぇ〜〜
いっそのことインキュバスにでもなっちゃえば多少なりマシだと思うのにぃ」

少し大きめの傷口に包帯を巻きながらヴィアナが言った。

「インキュバスか……、確かに考えたことはあったが
正直のところあまり興味がないというのが本心だな」
「どうして?インキュバスになれば寿命は伸びるし色々と便利よ?」

「確かにそうだろうな、だが私は魔人連合軍シュザントの人間の隊長だ。
そして私が戦っている相手は私と同じ人間、
お前たち魔物が性欲によって人間との共存を望むように、
私は人間として人間なりのやり方で彼らの背中を後押ししてやりたい…、
私の単なる自己満足かもしれないが………そういうことだ。
まぁ確かに、魔物との共存を意味するのであればインキュバスになるのも
ひとつの手なのだがな……………」

「………それが隊長さんなりの考え方ってわけか…
まっ、それじゃあしょうがないわねぇ…………はい、これで治療完了♪」
「………ふむ、たいしたもんだ。全然痛みが感じない」
「ふふ、当然よ。なんたってその包帯は私の糸で作った特別製だもの
粘着質とかで傷口を自然に塞ぎにかかるようになってるから
痛みなんてあっという間に引いちゃうってわけ♪」

ほーぅっ……っと、私たちを見下ろしていたキリアナが声をこぼした。

「なるほど、器用なものだな。前々から思っていたんだがヴィアナ、
君はどこでこんな技術を学んだんだ?素人の独学ではこうはいかないぞ?」
「…………………ふふっ、まっ 色々あったのよ…」

ヴィアナのこの違和感のあるモノ言いに、
そして彼女らしくもない口では笑っているが目では笑っていない複雑な表情
私も質問したキリアナも彼女の心境を察し、これ以上追求しないことにした。
機会があれば隊長として、知ることにもなるかもしれない。





「隊長!無事だったのかよッ!?」

突然背後の森から喧しい声が聞こえた。
まあ、十中八九罰で食事当番をやらされているシウカだろうが……
私は振り向いて目を疑った。
森から現れたミノタウロスはいつもの乱暴な印象は一切なく、
エプロンを身につけ、その手には大きな鍋を持っていた為
どこか家庭的な印象がある。
だが露出が目立つ本来のあの格好の上にエプロン………、
いやにいかがわしいものを感じてしまうな。これは男のサガか……?

シウカにもいきさつを説明し、彼女が料理したシチューが入った
鍋を焚き火の上に吊り上げ、其々が用意した器にシチューを入れ
全員で手を合わせて「いただきます」をした。
そして我々は木製のスプーンを持ち
シウカが作ったクリームシチューを食すことにした。

「すごくおいしいです……と私は思います」

ノーザが言うとおり、シウカの料理は初めて食べるがこれが意外にもうまい。
ヴィアナといいシウカといい、これまた意外なモノを私たちは感じていた。
いささか肉が多いような気もするが、美味いものは美味いのだ。
今日と言う一日の疲れが吹っ飛んでいきそうだ。

「相変わらすシウカが作る料理はおいしぃわねぇ〜♪」
「ヴィアナさんはなんどか食べたことはあるんですか?」

確かにこの二人の仲ならおかしくはない話だ。

「まぁね〜、エッチした後時々食べさせてくれるんだけど
クリームシチューはシウカの一番得意料理なのよ」
「やめないかヴィアナ、食事中にそういう下品な発言は!」
「キリアナよ、この淫乱蜘蛛になにを言っても無駄だ……」
「はっはっは、違いねぇな」

サキサが呆れ返り、あきらめたようにキリアナが溜め息をつく。
シウカが豪快に笑う。
私はあえて何も言わず彼女達の好きなように言わせ、
クリームシチューをたいらげるのだった……。
うむ、やはりうまい。演習の後にこういった料理は実に最高だ。
今夜は心地よく寝れそうだな。






           




           ≪シュザント:シウカ視点≫

「ハッ……………ハァックショォオンッ!!」

おぉ寒ッ……、アタイは演習の罰ゲームとして
料理を作らされた挙句、今こうやって冷える夜を一人見張りをしていた。
まぁ料理は嫌いじゃねぇけどさ………、なんか悔しいぜ。
寝ている間に演習が終わってたなんてあいつらも卑怯だぜ!
なんで起こしてくれなかったんだよ!
……………………やめよ、なんか虚しくなる。

「あーあ、ヴィアナたち今頃ぐっすり寝てんだろうなぁ〜〜……」

アタイは丸太に座った状態で
ヴィアナたちが眠っているテントに目を向けた。
そこにあるテントは全部で4つ、どれもこれも小さなもので
隊長以外は二人一組で寝ることになっている。
基本的そのペアって言うのが大抵は、
リゼッタとノーザ
キリアナとサキサ
ヴィアナとアタイことシウカ
って感じになっている。
だから今はヴィアナの奴があのテントで暖かい毛布を包み
一人のびのびとしてぐっすり寝てるんだ、うらやましぃっ!!

アタイはイライラと愚痴を零しながら焚き火に火をくべりながら
体を少しでも暖めることにした。
それでもやはりこんな小さな火では限界がある。
……くそっ、いっそのことヴィアナに夜の相手でもしてもらって
体温めてもらおうか…………でもそれやると
アタイ絶対そのまま寝ちまうんだよなぁ〜〜〜、
そうなったら隊長に絶対さらに厳しい罰を言われちまうし………。
あーあ、今日は厄日だわっ!


「ふぁ〜〜…ねむ…、一体今何時なんだよ……」
「午前2時半だ」
「うえぇ〜〜、後三時間以上はあるじゃねぇか………って、隊長!?」

突然後ろからの声にアタイはびっくりして振り返ると、
いつもの軍服を身にまとった隊長がそこに立っていた。
そして何事もなかったかのようにアタイの向かいに座り込む。

「な、なんだよ隊長びっくりした。寝てなんじゃなかったのかよ?」
「まぁ、寝てはいたが途中で起きた。
お前なぁ、見張るにしたってもう少し静かにできんのか?」

うっ……、言い返せねぇあたりがくやしいぃ〜〜。

「おかげで目が覚めてしまった……、まったくいい迷惑だ。
私が変わりに見張ってやるからお前はテントに戻っていいぞ」

………え?

「な、なんだよ隊長。アタイのこと気遣ってんのかよ?」
「…………別に、だな。実のところ リゼッタと川に落ちた際
気を失っていたんでな、さっきまでは一応寝ていたしそれで十分だ」

適当なこと言いやがって、
そんなこと言って朝になると大あくびするのが
隊長のいつものことなんだよ!このお人好し!あ、いや魔物好し!!
アタイがそんなんで引き下がるほど安い女じゃあねぇぜ!
まぁ寝たいのはすんげー山々だけど………

「なんかこのまま隊長に後任せると、
それはそれで悔しいからアタイはこのままいさせてもらうよ!」
「……好きにしろ、だができる限り静かにな……
ウチの隊にはリゼッタのような聴覚が優れて敏感な魔物がいるんだからな」

あーあー、リゼッタの奴隊長に気を使われて羨ましいねホント。
リゼッタと一緒に川に落ちたってのは聞いたけど、
本当にそれだけかってのもあやしいもんだな。

「ほら、コーヒー淹れたが飲むだろ?」
「おお、サンキュウ…………ヅッ!……あっちぃ…」
「当たり前だ、そういうものはゆっくり時間をかけて飲め。
夜はまだまだ長いんだからな………」
「ふん、そういうセリフはベットの上で聞きたいね」
「仮にお前とベットの上の関係になっていたら、
こういったセリフを言うのはまず間違いなくお前のほうだと思うがな」
「うっ……そういう例えはアタイ嫌いだよ!////」

自分で振った話題だが隊長がこう言うとなんだか
様にもなく照れてしまう、らしくないねぇアタイも………。
隊長の前だといつもこれだ、まったくどうしちまったんだろうねぇ〜〜。



「なぁ隊長……」
「なんだ?」
「この間のハルケギ村での戦いで、最後に現れた気味悪い奴いただろ?」
「クランギトーのことか」
「そうそいつ……、実はアタイあんまりマスカーの
有名人とか歴史にあんま詳しくなくてさ…、
せっかくだしいろいろと教えてくれねぇか?」
「お前それ軍人としてどうなんだ?」

まったくだね。いいよ!どうせ頭悪いミノタウロスだよ!!
寝てばっかの牛女だよちくしょーめー!

「まぁ………確かに暇だしな…。
わかった、私の知っている限りであればいろいろと教えよう」

文句は言うけど、ちゃんと隊員の要望に答えてくれるのは
隊長のいいところだとアタイは思うよ………。





「まずはマスカーの創立経由は知っているか?」
「教団と反魔物派の人間が集まって作り上げた反魔物連合国家だろ?」
「ああそうだ、ではマスカーの創立者は誰だ?」

それはさすがにアタイでも知っていた。
なんたってアタイたち魔物にとって
そいつ憎んでも憎みきれないほどの奴だからね………。

「『始教帝レインケラー』だろ?」
「そう、正式名は 『ブランドン・オリハル・レインケラー』
教団そのものを創立したとも言われた始まりの反魔物主義者だ
身元や出生などは多くの謎に包まれた男だ、
あの『レスカティエ教国』の創立にも一枚噛んでいたとまで言われている」
「教団を創立したって……え、仮にそうだとしたらって
それって旧魔王時代の話じゃねぇか!どんだけジジィなんだよ!?」
「あくまで噂だ、実際のところ私たち魔王軍で
奴の正体を知るものはだれもいない、
聞いた話では魔王ですら知らないだそうだ。だからこそ謎なんだ。
捕まえた教団側の捕虜も………ましてや現『魔界国家レスカティエ』の
元教団上層部の者も、誰もが奴の正体を一切知らない」

その話にアタイは違和感を覚えた。

「もしかしてよ………レインケラーって実はとっくの前に死んでるとか?」
「確かに教団内での士気の向上、維持としてならその考えも十分にありえる
だがそれは今のところ断定はできない」
「な、なんでだよ?」
「シュザントが結成される前に、
魔王軍がマスカーに総攻撃をしたあの戦いを覚えているだろう?」
「あ、ああ……… マスカー殲滅大戦 だろ?
結局引き分けにおわったけど……………」
「どうもあの戦いは魔王軍にとって後一歩で勝てた戦いだったらしい………」
「は……?どういうことだよ……………おいおいまさか?」
「そうだ、その時に戦場の最前線に窮地に陥っていたマスカー軍を
導き始めたのが蒼白の鎧で身を纏ったレインケラーだ。
いや、レインケラーの名を語った別人という説もある。
だが、敗北寸前だった戦場を引き分けとまで導いた驚異的な結果を残した」

ぱきっ、 と焚き火の音が夜の静寂に響いた。
アタイもさすがに押し黙ってしまった。
始教帝レインケラー 本気で謎に包まれた奴だ。
マジで人間かどうかも怪しいもんだぜ。

「レインケラーの導いた奇跡の引き分けは
たちまち全世界の反魔物派の心に火をつけた。
瞬く間に大勢の人間、実力者が次々とマスカーの門下に加わっていった
この間の防衛線でマスカーを束ねていたバンドーのようなやつもな……」

ああ、あの妙に顔が良いうるさい奴か。
まぁ、アタイも人のこと言えねぇな……。

「アタイがさっき言ったクランギトーも?」
「いや、クランギトーは殲滅大戦で目撃されている。
人魚喰らいのクランギトー、全身をローブに纏い、その素顔は誰も知らない
しかし魔導師としての高い実力、
頭が非常にキレ、軍師としてレインケラーの代わりに
今の戦場を導いていっている。
事実やつの頭脳で魔王軍は6度も敗北し領地を奪われている。
そして奴が現れた戦場となった海域は人魚が一斉に姿を消すという噂がある」
「まさか、奴ら人魚を攫って喰ってんのか!!?」

あまりにも衝撃的でアタイはつい立ち上がってしまった。

「座れシウカ、それと静かにしろ、あくまで噂だ。
その真相を知る奴は未だに判明されていない」
「……………笑えない話だな…」
「軍歴なんてそんなもんさ………」

隊長が口直しにコーヒーを啜り、アタイもソレにつられコーヒーを飲んだ。

「………シウカ」
「なんだよ?」
「なぜマスカーが『マスカー』と呼ばれるか知ってるか?」
「…………………………?」

考えたことなかった……、
確かに国や国家を作りあげるにはその創立者の名前をつけるのが
この世界での主流だ。
ならなぜマスカーはレインケラーじゃなくマスカーなんだ?




「………………………………………息子だ」
「え……………?」


「レインケラーには一人息子がいるんだ。
         『マスカー・グレンツ・レインケラー』
レインケラーの意志を継ぐ正式なる嫡子だ」











             ≪主人公:ザーン視点≫




「この一人息子の存在は魔王軍も正式に確認している
そしてその潜在能力も父レインケラーに並ぶものと噂されている……」
「それじゃあ始教帝レインケラーはその息子にすべてを託す気なのかよ!?」

さすがにここまで話すとシウカも興奮と驚きを
むき出しにせざる得ないらしい。

「始教帝は生きているにしても間違いなく相当な歳だ。
それを息子に託すというのも実に合法的な話だろうな………
そしてシウカ、よく覚えておけ……」

私は焚き火越しにシウカの目をまっすぐと見た。

「私たちはそんなマスカーと専門的に敵対するシュザントだ
いつか近いうちに、こいつらと戦うときが来るかもしれない………
だが決して軽はずみな真似はするなよ、お前は私の大切な部下だ……
人間にしか過ぎない私だが、お前たちの命を護るための隊長だからな……」

焚き火のせいだろうか、シウカは少し顔を赤くして
おうっと承諾の声と共に頷いた。











翌朝。
私とシウカは大欠伸をあけながら、
朝の日差しに刺激されながら、朝食の用意に取り掛かった。
しかし料理方面ではシウカのほうが圧倒的上なので
私は彼女の補助を努めることにした。
卵とハムを使った料理らしい、ふむ、実に家庭的だ。

「おはよう隊長」
「おはようございます隊長」
「ああおはようサキサ、キリアナ」

この二人は本当に規則正しい。
戦士は常に体調管理から始まる と以前聞いたことがあるが、
指定した時間丁度に起きるというのも少し変な話だ。
アヌビス顔負けだな。
そんな二人に続いて次々とほかの隊員たちもテントから現れた。
今日は最初に言ったとおり、訓練もない自由な日。
私たちは軍人であることを忘れ、朝食をとりながら
お互いの何気ない雑談話で盛り上がっていた。


「そしてら隊長ったら私の事投げ飛ばしといて、
自分から崖に飛び出したんですよ!」
「おおさすが隊長!部下を思い己が身を省みない精神、感服するぞ!」
「だがよぉサキサ、いくらなんでも
部下助けて隊長が犠牲になったら元の子もねぇとアタイは思うがなぁ〜」
「ですがそんな助け方をしてもらうなんてなんだか憧れます
と私は思います」
「魔物にとってそんな助けかたされるなんてたまらないわねぇ〜〜…
演習じゃなくて、実際の戦いなら
そういったところから恋が生まれるのよね〜〜♪」
「ほう、なかなかピュアなことを言うじゃないかヴィアナ」
「まぁね〜、私魔物としての恋心には目がないのよぉ♪」
「だったら作家にでもなったらいいんじゃないですか?と私は思います」
「あら、なかなか魅力的な考えねぇソレ……♪」
「十中八九官能小説ができるな」
「あら隊長さんひっどぉ〜い!
そんなこと言うと作品の主人公のモデル、隊長さんにしちゃうわよぉ〜♪」
「おい馬鹿やめろ!」
「はっはっはっはっ!!見ろよ珍しく隊長が焦ってるぜ?」

やはり私はこの隊の隊長として幸福だと思う………。
そんな人間でしかない私が彼女達の命を握り導いている。
私が一番恐ろしいのは彼女たちを失うことだ。
正直、彼女たちをより知っていくにつれて
失うときの重さが恐ろしいという不安はある。
だがそんな私を隊長認めてくれる彼女たち、
願わくば、彼女たちと共に歩む道のりは険しくも幸福でありますように……。











           


          ≪マスカー:バンドー視点≫



シャリシャリと音を鳴らして、
俺はマスカー領のとある会議室で林檎を齧っていた。
あぁん?また林檎のくだりかだと?ほっとけ!好きで食ってんだ悪いかッ!?

その会議室に集まっている面々は俺様含め、
マスカーでも少数な隊長格の実力者達だ。
まぁ集まっているって言ったって俺含めて3、4人ぐらいだがな……。
しかしどいつもこいつもがただ黙々と椅子に座っているだけ。
会議室では俺が林檎を齧っている音だけしか響いてこない………
ナニコレすんげー気まずいんですけど………。

「なぁ軍師殿。いつまでここにいないといけないんです?
いい加減この重い空気我慢なりませんぜ………」

俺は隣に座っている我らが名軍師、クランギトー氏に小声で耳打ちをした。

「君もマスカーの指揮官隊長格なら
こういったところには慣れておきなさい」

ローブで顔を隠しながらも、
僅かに露出した口元から不敵な笑みが浮かび上がっている。
そうは言われても所詮農民上がりの俺にゃあ
どうもこういうところは肌に合わんというか歯痒いというか………。
とりあえず林檎を芯ごと噛み砕き飲み込んだのだった。

しかし呼び出されたから来たものの一体何の会議だ?
まっ、なんだっていいさ。命令があれば俺は出動して魔物どもを滅ぼせば良い
この間の首なし女………キャスリンだったか、
あいつと戦ったあの日以来、あいつのことがムカついて仕方がないんだ!
夢にまで出てくるし、俺はあいつを滅ぼさねぇ限りこの苛立ちは
絶対におさまることはねぇ!
あいつに会う為、なにがなんでも戦場に出て暴れねぇとなぁ………。



「さってと時間だ……結局集まったのは四人だけかね……」

突然、俺の隣にいたクランギトー氏が立ち上がりまわりを見渡した。

「ん?なにを驚いているんだバンドー隊長?
あ、おおそうだった。
すまないねぇ……実は君達を集めるように指示したのは
ほかでもなく私だったんだよ」
「ハアァっ!!?じゃあなんでさっさと言ってくれなかったんですか!?」
「いやなに、呼び出した時間までどれだけ来るか待ってみたんだよぉ
しかしさっきも言ったが結局集まったのは君を含め四人だけ………」

楽しさと皮肉さを混ぜたようなその喋りちょっとイラッてくるんですけど…。

「まぁ今はどこも戦いで人手不足だから贅沢もいえないか」
「失礼ですが軍師殿、一体なんのために私達を?」

別の席に座っている俺と同じ隊長格が質問した。
まぁ俺も気になっているところは同じだが………。
つまんねぇことだったらぐれるよ俺?

「ふむ、実は少しばかし特殊な作戦があってね。
君ら四人にそれを任したいと思う」
「特殊な任務?」

魔王領侵略で忙しいこの状況で一体どんな任務が………?

「………………ある人物の実践的戦闘訓練に護衛として付き合って欲しい」
「ある………人物?それに実践的な戦闘訓練って………」
「なぁに安心したまえ、私が付き添いで鍛え上げたため実力は確かだ、
実践的なものだから魔王領の侵攻も同時に行えるぞ、
だが如何せん彼にとっては始めての戦場でな、
持てる知識は限界まで持たせてあるが、
君らのサポートが必要になることも当然あるだろう…………」
「ま、待ってくださいクランギトー様!!
さっきからご自分だけ話されていて俺達には話がまったく見えませんぜ!?
一体だれのサポートを……………「俺だよっ」………!?……」

薄暗い会議室の奥から現れたその男。
俺はこの男を知っている、いやこの会議室にいる隊長格誰もが知っている。
俺を含め、クランギトー氏以外の隊長格全員がその男に対して
膝をつき、服従と忠誠を誓う敬礼を表した。

「さぁ………君にはとある森を侵攻してもらうが……大丈夫かね?」
「誰にモノを言ってるんだクランギトー?
魔王領にあるクレデンの森だっけか?
ぱっぱと蹴散らしてくりゃあいいんだろ、簡単な話だな!」
「ほっはっはっ、いやいや若い上に頼もしいこの上ない、
バンドー隊長たちも是非とも彼をサポートしてあげなさい。
…………………………期待してますよ、嫡子殿………」

鋼でできたような蒼白の鎧を身に纏ったこの男。
我らが偉大なる家系、レインケラー卿の嫡子。






…………そう マスカー・グレンツ・レインケラー その人だった………。




11/12/17 23:41更新 / 修羅咎人
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■作者メッセージ
レインケラー、マスカー、クランギトー、バンドー

…………………語尾伸ばすやつばっかじゃなぇかぁっ!!
このメッセージ書いてる今気付きましたwww
オリジナル人間キャラとして登場してくる彼らですが、
どうなんですかね?この魔物娘が中心のこのサイトの小説で
こう人間のオリジナルキャラをばんすか出すってのも…………。
自分なりに書いてて不思議と奇妙なもんですわ。
まぁまだ何人もいるけど………

やっぱ文で書いてるだけじゃあ彼らの容姿とか
読者からしてみれば想像しずらいですよねぇ〜……、
できるかぎるそういったところを補おうと考えているのですが、
如何せん難しいところです、
いっそのことラノベ小説みたいに絵とかつけたいとかは思ってるんですが、
絵は結構それなりに描くものの、
パソコン用のタッチペン持ってないんですよ、高いし!

でもま、所詮オリジナルの人間男キャラですからね。
読者の皆様からしてみれば大してどうでもいいと思いますに、
もしまたご意見ありましたらご感想お願いします。

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