連載小説
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第五章†山林地帯軍事演習†
私は隊員たちとの関係を深めるため、野外での演習を提案した。
カナリア公に渋々の承諾を得て、
魔王軍の所有地であるとある山林地帯での演習が許可された。
期限は四日、その間に隊員たちとより互いの事を知り合う必要がある。
軍人として、この演習が効果的ならいいが………なかなか不安なところだ。


私たちは現在、移動用の馬車に乗って演習場である山林地帯に向かっている。
シュザント拠点から4時間程のところだが、周りには民家もないため
演習にはもってこいだ。しかしまぁ場所が山林なため、
サバイバルに近いところはあるだろうな…………。


「なぁ隊長ぉ〜、まだつかねぇのかよぉ〜〜?」

手綱を引いている私に座席に座っているシウカが愚痴を零してきた。

「いい加減腰が痛くてしょうがねぇぜ、
おっかしぃなぁ、日頃ヴィアナとヤってるから腰は強い筈なんだけどなぁ〜」
「ちょ、ちょっとシウカさん!はしたないこと言わないでくださいよ!?」
「あ〜あリゼッタったらそんな顔赤くしちゃってぇかわいいんだぁ〜〜♪
そうだぁシウカぁ、こんどする時リゼッタも混ぜてあげなぁい?」
「お、それいいなっ!」
「えっ!?い、嫌ですよっ!?私そんな趣味は………ッ!」
「お前たちそれぐらいにしておけ」

これ以上あの二人に弄らせるとさすがにリゼッタが不憫と思い、
私はすぐに二人を止めた。そしてポケットから懐中時計を出し、
シウカの質問に答えてやる。

「目的地まではあと30分ぐらいだ……それまで辛抱しろシウカ」
「ぶぅ〜〜〜〜………」

どうでもいい事だが牛のこいつがぶぅ〜と愚痴ると妙な違和感があるもんだ。

「隊長、森が見えてきました!」

馬車の隣で走っているキリアナの言葉に私たちは前方を凝視した、
キリアナの言うとおり、森が見え、その奥に山も見えてきた。

「よし、森の中にキャンプ場がある。
そこにテントを立て一時的な拠点とする」




山林地帯なだけあり、周囲にはとても背の高い木が大量に聳え立ち、
草花も限りなく生い茂っている。
その隙間から差し込んでいる太陽の光がその光景を美しく輝かしている。
そんな光景がしばらく続くと、
赤い旗が立てられてある指定されたポイントへと辿り着いた。

「よし、私は馬車を適当なところに片付けてる。
お前たちは先にテントを準備しておいてくれ」

隊員たちがそれぞれに了解と呟き、
馬車の荷台にあるキャンプ用具を取り出し、準備に取り掛かった。





「隊長、さっそく演習内容の説明をお願いしたい」

好戦的なサキサは一刻も早く戦いたくてうずうずいているようだ。
テントの用意を一通り済ませ、いち早く私に尋ねてきた。
それに続き、ほかの隊員たちも集ってくる。

「…………そうだな、そろそろ説明するとしよう。みんな聞いてくれ!
今回の演習は第四部隊だけで行う、
できれば魔王軍の部隊にも合同を願いたかったが、
この間のマスカーの一件で、どこも手が外せないらしい…………
よって今回はできる限りのサバイバル方式で執り行う」
「サバイバル方式ですか?」
「そうだキリアナ、これだけ広い自然地帯だ、これを使わない手はない。
我々は軍人だがどこでどんな戦いが起こるかわからないからな、
場合によっては隊から離れて孤立する状況だってある。
今回の演習はそのような状況をふまえてのものだ」

そして次に私は懐からスケジュール表を取り出した。
昨日の夜、寝る間を惜しんで仕上げたものだ。その為今はちょっと眠い。
その眠気を振り払い、私はスケジュール表をみんなに見せる為広げた。

「それがこの四日間の予定ですか?」

地面に広げたスケジュールを見てリゼッタが質問してきた。

「ああ、さっそく今日一日は夜までの演習を行う
そして明日なんだが……、その日はお前たちとともに休日を過ごそうと思う」
『えっ?』

みんなが声を揃えて目を見開いている、まあ当然だろうな。
こんなことを私が言い出すなんて自分でも意外だと思っているんだ。

「不満か?私としてはお前たちと関係を深めようと思っての考えなんだが…」
「い、いえいえ!不満だなんてちっとも思ってませんっ!」

まっさきにそう言ってくれたのはリゼッタだった。

「隊長が自分からそんな事言うなんて正直意外ですと私は思います」
「私自身もついさっきそう思っていたところだ
だが…………昨日、お前たちと食事をしていて気付いたことがある」
「気付いたこと?」
「そうだな…………例えばサキサ、私の嫌いな食べ物は?」
「嫌いな食べ物だと?」

サキサは考え込むように押し黙る、
尻尾をくねくねさしているのは無意識だろうか?少し気になる。

「隊長の嫌いな食べ物など、私は知らんぞ?」
「そうだな、私はお前に話していないし、
私もお前の嫌いな食べ物を知らない、ついでに私は豆腐が嫌いだ」
「………ふっ、なるほどそういうことか。なら私は辛いものが苦手だ」

その一通りの流れを見て、
隊員のみんなが私がなにを言いたいのか察したようだ。

「つまり………どういうことなんだよっ!?」
『……………………』

一人わかっていない牛娘がいたな…………。

「もぉ〜鈍いわねぇシウカァ〜♪
つ・ま・り・隊長さんは私たちと親睦を深めたいって言ってるのよぉ〜」
「は……お、おおっ!な、なるほどな!!」
「本当にわかってるんですか?と私は思います」
「ふふっ、怪しいところだろうな」
「な、なんだよぉ!ノーザもキリアナも二人してからかうなよぉ〜……」

そのやりとりに彼女たちは互いに笑い合った。
私からしてみてもこういう場の空気を作れたのは成功だと思う。



「だがまだそれは明日になってからだ。
さっきも言ったように、今日一日はサバイバル演習に励むとする。
では続けて演習の時間帯と詳細内容を説明する」

私は懐中時計に目をやると、丁度針は昼過ぎの時間を指していた。

「昼食はこの演習中に各自が独自の判断で執り行うこと。
現在の時間は12時17分、12時半に各自解散し13時に演習開始だ
終了時間は20時とする」
「隊長、ひとついいですか?」

私が内容を説明しているとキリアナが手を上げた。

「なんだキリアナ?」
「サバイバル方式ということは
自分以外がみんな敵だと考えていいのですよね?」
「そうだ、さっきも言ったとおり隊から離れて戦場や敵地で
孤立した場合をふまえての訓練だからな」
「ならこの演習で敵との勝敗方法は?」
「それを今から説明しようとしていたところだ。
私も色々考えたのだが今回はコイツを使うことにする」

私はそう言って、自分のカバンから
少さめの袋を取り出し中身をあけた。

「これは…………バッジですか?」

中から出てきたのは ○ △ □ の形をした無数のバッジだった。

「そうだ、この三種類のバッジを一人ひとつずつ服に付ける
この三つのバッジがお前たちの命と思え」
「なるほどな……つまり自分についているこの三つのバッジを奪われず
他人からより多く奪うというのが今回のルールだな」
「察しがいいなサキサ、
お前の言うとおり一番多くバッジを集められた者を勝者とする
戦って相手を気絶させて奪うも自由、
隙を見て奪うも自由だ。だが間違っても殺すなよ……?
バッジを付ける場所については相手にわかる所であればどこでもかまわん
そしてバッジ三つ全て奪われたその瞬間にその者は敗北、
つまりリタイヤ扱いする。そしてリタイヤした者は……………」

この時私は無意識にイジワルそうな声と顔をしていたのかもしれない。

「今晩の食事当番と夜の見張りをしてもらう」
『えぇーーっ!?』

みんなが不服そうな声を揃えてあげる。
ふっ、どこか学生時代を思い出すな………。





「よし、12時半だ。それでは全員解散!」

それぞれが必要最低限の荷物を持ってキャンプ場から解散する。
私もその様子を見届けると、
○のバッジを胸ポケットに、△を首元に、□を袖に付け
みんなとはまた別の方向へと移動した。

初めに一応言っておくが私を含む第四部隊が
この山林に来たのは今日が初めてだ。
私も当然土地勘はないし、それは彼女たちも同じことだ。
だが忘れてはいけない、彼女たちは魔物だ、
私や君のような人間にはない能力を多々に有しているのだから、
こういった場所で「自分と同じ条件」で考えるのはまず間違いだ。

林の木々の間を歩きながら、私はとりあえず高台の山方向を目指し
懐中時計を見た、いつの間にか針は開始三十秒前を刻んでいるのを確認し
近くの大木を背に身を潜め鞘に納めた剣を握り締める。

10秒前………………………5,4,3,2,1……… 「オラァッ!!」
開始の時を刻むと同時に草陰から「そいつ」が飛び出してきた。
だが私も当然先程から気付いていたからこそ剣を握っていたのだ。

【キィイッン!】

私の剣と「シウカ」の大斧が大きな音を立ててぶつかり合った。

「さすがだぜ隊長、気付いてたのかよっ!?」
「まあな、お前はリゼッタほど身を隠すのはうまくないからな。
しかしまぁ……開始時間までに私の後をつけて身を潜めるとは……
実にお前らしいな。こんな方法を実行する奴など隊ではお前ぐらいだぞ?」
「へっへ〜、褒め言葉として受け取っといてやるぜ!
アンタがサキサと手合わせしたあのときからアタイはアンタと戦いたくて
うずうずしてたんだからなぁっ!」
「ほぅ、それは光栄だ」

剣と斧がいがみ合う間に私はシウカのバッジの位置を確認した。
首に連なる両側ベルトに□と△、そして腕に巻いているベルトに○がある。
シウカの視線も私のバッジを確認したらしい、それさえ終われば………
コイツのことだ、一気に仕掛けてくるっ!

「ミノタウロスのアタイに力で勝てると思ったか隊長っ!!」

ぶつかり合う剣と斧。シウカは一気に斧を持つ力を強めてきた。
私の体が少しずつ押されているのがわかる。

「力で勝とうなんて思わんさっ」
「うおっ!?」

私はその力の反動を利用し、シウカを上から飛び越えた。
ただのジャンプじゃない、空中で体を一回転させた特殊跳躍だ。
シウカはとっさに後ろを取られないように振り向くが
私はシウカから1メートル程離れた地点に着地した。

「だが頭の機転と技術でなら勝てる」

私は剣を持たないもう片方の手を掲げる、
そしてその指の間に□と△のバッジが挟まっていた。

「なっ!!?」

シウカが慌てて自分の首もとのベルトに触れる、
いくら触れても二つバッジの感触はないだろうがな…………、






          ≪シュザント:シウカ視点≫
          【バッジ:○1 △0 □0】

参ったぜ………、まさかこんなにあっさりバッジを
ふたつも取られるとは思わなかったよ………ざまぁないねっ!

「やってくれたな隊長!」

だがおもしれぇっ!戦いはやっぱりこうでなくっちゃなっ!!
アタイは一気に距離を詰め、自慢の大斧を力一杯振り下ろした。
確かにアタイは頭も悪いし鈍い、だが力だったら隊の誰よりも強いっ!!
アタイみたいな馬鹿でもそれだけは断言できるっ!!

「ぐあっ!?」

これには隊長も必死でよけるしかないようだな、
しかしアタイの大斧に圧倒されてかさっきみたいに綺麗には避けれはしねぇ
どちらかと言えばアタイの大斧が地面をえぐった衝撃に流されたような感じだ
どうだ見たかいっ!アタイが本気になったらこんなもんさっ!!
隊長の体はそのままだと後ろの木にぶつかるだろうな。
あれはイテェだろぉ〜なぁ〜〜………って、なにぃっ!!?
アタイは目を疑った、隊長が木にぶつかったと思ったら
隊長の姿がいなくなってたんだぜっ!?

「ごほっごほっ……相変わらず凄まじいパワーだなお前は……ゴホッ」

声に反応してアタイは咄嗟に顔を上げた。
すると隊長が木の上で斧の衝撃のせいなのか咽ながら立っていた、
…………まさか体がぶつける直前に体勢を直して
木を蹴って上に飛び移ったのかいっ!?
それなら消えたように見えたのも納得がいくが………、
アタイは時々隊長が本当に人間か疑うよマジで……………。
だが例え隊長が人間だろうが化け物だろうが何だろうが関係ないねっ!
どんな奴が相手でも、ようは全力で勝てばいいだけなんだからねっ!!

「休む暇は与えないよ!!」

アタイは隊長が咽こんでいる内に木を大斧で切断した!
木は地面に倒れこみ、その衝撃で地面の砂煙が立ち上る。
……………それがまずかったんだろうねぇ

「…………あれ?隊長がいねぇ…」

砂煙が晴れたころには隊長はどこにもいなかったんだ。
これを見てアタイは初めて「してやられた!」と思った。

「アタイから奪うだけ奪って逃げやがったぁ!」(ガーンッlll)←効果音

口ではこう言うが、アタイの本心では
隊長のこの行動を卑怯などとは一切思わなかった。
だってアタイたち軍人だぜ?
勝つ為、生き残る為、ヤる為ならなんだってやるのが当然のこと。
サキサみてぇなリザードマンの頭でっかちとは違い、
隊長のこの行動は実に効率的なもんだ。さすがだぜまったく………。

「しっかしどーしよっかなー……まっ、いっか。
まだ演習は始まったばっかだし、時間なんていくらでもあるんだし……
バッジ後一個だけど大丈夫大丈夫!よし決めた!
寝ちまおっか♪考えるのはその後でも遅くねぇし…………ぐーッ…」

アタイは大斧を枕代わりにし、
心地豊かな自然の中で夢の世界に旅立つことにした………
そんじゃあそういうわけだからおやす……ぐーーっ…









         ≪主人公:ザーン隊長視点≫
         【バッジ:○1 △2 □2】

ゴホッ……、私は砂煙に紛れて山に向かった木々に身を引かせた。
しかし相変わらずシウカのパワーはたいしたものだ。
大斧自体の攻撃を交わしても、その際に生まれる衝撃波は
まるで巨漢に体当たりされたような威力を誇るのだ。
斧を交わす際に体をガードしたものの、全身がズキズキ言っている。
あそこで身を引いて正解だったな。

「なによりバッジを二つ手に入れたのが大きいな」

私は手に持っている□と△のバッジを確認すると、
その二つを首元と袖に付けていた同じバッジの隣に付ける。
まずは5個集まった。相手があの単純なシウカで助かったな、
ほかの連中ならこうはいかないだろう。
そう思いながら、私は剣を鞘に納めた。

どうやらシウカは私を追ってきてはいないらしい、
よし、ならば当初の目的通り高台である山を目指そう、
高台からならほかの隊員の姿を把握できるかもしれないし
仮に奇襲や戦闘にあったとしても山でなら逃げやすい、
飛び降りて林の木に突っ込めばいいだけの話だからな…………。
なに、ソレはソレで危険?なぜだ?別にたいしたことでもないだろうに。

とにかく私は山の進む方向を視界で定め、足を踏み出そうとした。
しかしその時…………       
              【ガササッ…】

「………!」

私の潜んでいる茂みの遥か背後から草を掻き分ける音が聞こえてきた。
              【ガサ…ガサ…】
しかも少しずつこちらに近づいてきている。
まずいな、だれかに気付かれたか。
反対方向なのでシウカではない(まぁ、シウカなら飛び出してきてるからな)
この茂みの高さから考えて、下半身が馬と蜘蛛のキリアナやヴィアナではない
となると考えられるのはリゼッタ、サキサ、ノーザのどれか……
              【ガサッ……】 
…………考えている暇もないな、私はその草音から逃げるように
姿勢を低くしたまま茂みを掻き分け、山の方角を目指し進んでいく。
そしてついてに茂みが生えていない途切れ明けた場所に出てしまった。
              【ガサササササッ】
早めてきたっ!追いつかれる!!
私は茂みから飛び出し、山道を駆け抜けることにした。

「逃がさないッ!!」

私の後を追って背後からの追撃者が茂みから姿を現した。

「リゼッタか……ッ!」
「そうですよ隊長、いざ勝負っ! タアァッ!!」

坂道なのにも関わらず、リゼッタは驚異的な脚力と跳躍力で
山道を飛び駆け巡り、とび蹴りを放ってきた。
その顔は今まで私をサポートしてきた仲間の顔ではなく、
純粋に戦闘を味わう戦人のそれだった……。

「でやぁッ!」

とび蹴りに対応して私は体を反転させ、回し蹴りで
リゼッタのとび蹴りに対抗した。

ガアァアッンッ!

とても足のぶつかり合うとは思えない硬い音を鳴らし、
互いの蹴りのパワーは相殺された。
その時、リゼッタのバッジが見えた。三つとも下の布きれに付けているな。

「まだまだぁ!」

リゼッタは続けてその狼の爪で切り裂こうと攻撃してくる。
私はボクシングに近いフットワークで上半身だけを動かしそれを回避するが
はっきりいってかなりギリギリといったところだ。

普通のワーウルフならともかく、リゼッタは訓練を積んだ軍人だ、
その強さはワーウルフのなかでも折り紙つきと言ってもいいだろう。

そして何よりこの地形だ。
かなり凸凹した坂となって傾いている山道、
体のバランスが取り難いはずなのにリゼッタはなんなく移動している。
狼ならではの動きだな、人間ではとても真似できない芸当だ。
だが………人間には人間にしかできない芸当だってある。

「隊長………、なんでさっき剣を抜かないんです…?」
「…………剣を使う必要がないからだ」
「………ッ!舐めるなぁっ!!」

尖った犬歯をはにかませ、
リゼッタが高速で私の周囲をぐるぐると走りまわりだした。
あまりの速さに残像が生まれ、
無数のリゼッタが連なって円を作っている見える。

さて、君に対しての突然の質問だが
リゼッタも言ったがなぜ私は
さっきから剣を抜かなかったかわかるか?
考えてもみろ。リゼッタのような素早い格闘タイプには
この地形は絶好の狩場でもあるし、こちらはバランスがつかみ難い故に
剣術は全力で出せない状態だ。
そんな状態で下手に剣など抜いたら弾き飛ばされるのが目に見えている。

そして私が先程言った人間にしかできない芸当…………それは……

「もらったァッ!」

リゼッタが残像の円から飛び出してきた。

「だが甘いな」
「えっ!?」

リゼッタの爪が私の顔目掛けて飛来してきたが
私はその瞬間に身を屈ませ、リゼッタの腕を流すように押さえ
腹を蹴ってリゼッタの体を投げ飛ばした。
ジパングの「ジュードー」でいう巴投げというやつだ。




「……………!?」


ソレがいけなかった。

私は自分の行動を心から後悔した。
投げ飛ばしたさきは…………崖だったのだ。

「リゼッタッ!!!」

私は叫んだ、そして駆け出した。
崖の下がどうなっているのかなど一切考えられなかった。
いけるところまで走り、私はリゼッタ目掛けて飛び出した。

「た、隊長…………ッ!?」

リゼッタの体を庇うように抱き寄せ、力尽くで体をしがみつかせた。
そしてそのまま私は目を瞑り、重力が全力で下に向くのを感じながら
突然体に強い衝撃を感じ、意識を手放すのだった。













懐かしい夢を見た。
魔王の世代が変わってまだ間もない時。
人々は魔物たちの変化に混乱し、日に日に世界に浸透していく彼女たち。

そして幼き頃の私がそこにいた。ここは私の故郷。
かつて世界的に栄えていた城下町。夜だというのに火に包まれ明るく照らし
あたり一面に大勢の人間と魔物の死体が転がっていた。
目の前にいるこの幼き私はその業火と死体に包まれた街中で
薄汚れたスケッチブックを持っていた。
幼き私はこちらを見て…無表情で……スケッチブックのページを開けた……。

          『オマエハナニヲシテイルンダ』

血のような赤い色でソレは殴り書きされていた……………
















……ょう……長………隊長……………隊長!!」

薄暗い意識の中で私の体を誰かが揺らしている。
いや、この声は…………意識が少しずつはっきりしてくる。
この声は間違いなくリゼッタだ、私は朦朧とした意識のなかで
目をゆっくりと開かせた。

「隊長……ああ、よかった…ッ!」

私が目を開けたのを確認すると、
リゼッタは横になっている私の体をもたれかかるように抱きついてきた。
リゼッタの肩が震えている、泣いているのか?
いや、それとも高いところから落ちて怖かったのか…………

「できれば離れてくれリゼッタ、少し痛む……」
「あ、す……すみません…」

リゼッタが離れると、私は体を起こし現状を確認する。
嫌に頭が痛む、なにか夢を見ていたような………どうにも思い出せない。
頭痛から私は頭を手で抑えた。

「隊長、大丈夫ですか?」
「頭痛と全身が軽く痛むだけだ、お前は大事ないか?」
「私は少しかすり傷程度です、その………隊長が守ってくれましたから……」
「そうか………それならよかった」

そこで私ははじめて自分と彼女が濡れていることに気付いた。
そして近くで水が流れる音が聞こえる。

「近くに川が流れているのか?」
「はい、私と隊長 運よくそこに落ちたんです
ですが隊長、落ちる途中に崖から突き出ていた木にぶつかってしまった……」
「それで全身がこんなに冷たくて痛むわけだ。
運が良いのか悪いのやら………。だが命あるだけ儲けモノだろう」
「私も本当に心配しました、隊長 よくその程度で済みましたね………
かなり強く体を打ったと思ったのに………………」
「恐らくこの軍服のおかげだろうな………」
「軍服?」
「ああ………知らなかったか、この軍服は少し特別製でな
見た目や着心地こそは普通の服と変わらないが、
強度なら並の鎧と大差ない硬さを誇る」

簡単に一通り説明すると、リゼッタは納得したような声をあげるが
私は状況を確認した。

「どうやらだいぶ流されたようだな……」
「はい、確認しないとわかりませんが恐らく……」

そう言ってリゼッタが上を見上げ、周囲を匂いをかぎはじめた。
ワーウルフの嗅覚で周囲の様子を探っているようだ。
だが私は非常に目のやり場に困るものを見た、
川に流されて私もリゼッタも全身がずぶ濡れだ。
リゼッタが普段着ている布でできた服が濡れているせいで
布がモノの見事に透けてしまって体に張り付いているのだ、
しかも胸部あたりの先端が綺麗に形を作って突き出ている。

「隊長?どうかしたんですか?」
「いや……な、服が透けてるぞ………」
「え………?」

リゼッタが恐る恐る顔を下に向け、
そこで初めて自分の今の姿に気付いたらしい………
みるみるウチに顔が赤くなっていく。おー湯気がでてる。
まるでなにかの衝動抑えるような感じで、
彼女は肩を震わせ両手で胸部を隠し座り込んで俯いてしまった。

「………………」
「………………」

おいなんだこの沈黙。

「………とりあえず火でも起こすか、濡れた体を乾かさねば…」

私はこの空気に耐え切れずすぐさま懐中時計を見て、時間を確認。
17時44分。そらも少しずつ赤みがかかるころか……。
私は近くに火をくべるものがないかと思い立ち上がり、周囲を見渡した。
一刻も早くこの流れをなんとかしないと色々とマズイ気がする……。
だがそのマズイ予感は当たってしまった。お約束?なんのことだ?

「隊長ぉ……」
「お、おい…!?」

リゼッタは座り込んだまま抱きついてきた。
私の腰あたりに手を回し、顔を上げ赤くした顔で私を見上げている。

「もう………無理です、私……今まで我慢してきましたけど、
隊長が悪いんですよ?こんな恥かしい姿見られたんじゃあ……
魔物の本能が…………我慢できませんっ!」

そのまま彼女は力尽くで私を押し倒した。
このままではされるがままだぞ私…………なんとかせねば…

「よせリゼッタ。お前たちの本能は理解しているつもりだ
隊長として隊員の性欲処理も考えてはやっている……
だがな、隊長としてではなく知人として言っておく。
せめてそういうものは好意を持つ者に……「………好きです」……なに?」
「私は……隊長のことが……好きなんです。
かっこよくて……頭も良くて……いつも私たちのために色々考えてくれて…」
「………………………………」
「でもどこか愛らしくて、…………そして…どこか寂しそうで…」
「…………!」
「隊長、目を背けないでください!」

リゼッタの顔が一気に迫ってきた。
あと少し顔を近づければ唇が重なるような距離だ。

「だから私、少しでも隊長に見てもらおうと一生懸命努力してるんです。
毎朝隊長の起きる時間を見計らって………………
隊長がいないときは隊長の変わりにみんなをまとめて……
だから……隊長も聞かせてください、
貴方は……私の事をどう想っているん…です…か………?」
「………………」

リゼッタの体が少し震えている。
………………怖いのか?私に否定されることが………




「リゼッタ、私は隊長という以前で………一人の男だ……………」
「………えっ?…………それって………むぐっ!?」

もうこれ以上口で言う必要もない。
私はリゼッタと唇を重ね合わし、彼女の口内を舌で犯し回した。
次第にリゼッタも舌を巧みに動かしまわし、舌同士を絡み合わせてきた。

「ふぁ……んぅ……たいひょぉ…お………♪」

唇を重ねながらリゼッタは私のズボンを下着ごと脱がし始め、
私も彼女の布の服を少し乱暴に脱がし始めた。
そしてそっと唇を離し、液状の透明の橋を作り上げた。

「いいんだな?私も後には引けんぞ」

今度は私が彼女のマウントポジションをとり、
なかなか豊かな彼女の胸を弄った。

「……ん……はぁあ……よく言いますよ
私のおっぱいそんなに弄り回して………………隊長もヤる気満々なくせに。
ここなんて……こんなにおっきくしちゃって………あぁ、大きい…♪」
「言っただろう、私も男だ。それぐらいの性欲はある………………」

そう言って私は自分の肉棒を彼女のピンク色の陰部に擦りつけた。

「あぁ、隊長……そんあぁ……じらさないで…クゥンッ!?」
「そうは言ってるものの………なかなか敏感じゃないか…」
「くぁっ……ん、もう……いじわるぅ…」

擦るつけるたびにリゼッタの陰部は滑り度を増していく。

「そろそろ……挿れるぞ。さすがに……我慢ならん、いけるか?」
「………正直、少し怖いです…でも…隊長となら大丈夫です。
戦場でも……いつも隊長に勇気をもらってますから……」
「だったら手を出せ、お前の気が済むまで握ってやる」

彼女は赤い顔でとても嬉しそうに私と手をつなぎ合わせた。
もふもふとした彼女の毛むくじゃらの手がどこか心地よい。
そして一気に彼女の陰部に肉棒を咥え込ませた。

「くぅああああああぁぁぁぁっぁんっ♪」

挿れただけでイってしまったか……。
だが私は止まらない。
性の快感で全身が痙攣したその体に私は容赦なく腰を振った。

「あっ!イッたばっかなのに…!そんな、激しくッ……んふぅ!!」

互いに腰を激しく動かし、再び唇を重ね合わせ口内を犯しあった。
そして一旦唇を離すと、私は彼女の耳に優しく噛み付いた。

「キュアァッン!耳……耳はぁ……はぁんっ!」
「う………おっ…!」

一気に彼女の締め付けが強くなってきた。
その強烈な刺激が私の我慢の限界値を突破した。

「でる、ぞ………リゼッタっ!」
「あぁ……隊…長………」
「…………こんな時ぐらいは、名前で呼んでくれ…」
「アアっ!はい、ザーン………隊長…。ザーン…さん……っ!!」
「リゼッタ………リゼッタッ…!」

互いの愛しき名前を呼び合い、
私はその愛しき隊員に膣に射精した……………。


「アアァァッ…ザーン…隊長ぉ、大…好きぃ…です。愛しています……
だから………貴方も……私のことを…」
「……………」

私はそっと彼女の唇にキスをし、無言の承諾をしたのだった……。








私は軍服を着込む、懐中時計で時間を確認した。
18時26分。………45分近くもヤっていたのか私は………。
案外溜まっていたのかもな。

「リゼッタ、立てるか?
とりあえずこれから川の流れる方向の反対側を目指すが……」

私の横で衣服を整えて着込んでいるリゼッタをみて私は尋ねた。

「大丈夫です、傷はだいぶ回復しましたから……
でも……その………よかったら手を貸してもらってもよろしいですか?」
「手を?」

疑問に思いつつも私は彼女に手を差し伸べる。
すると彼女は自分の指と私の指を絡み合わせるように握り合わせ
立ち上がった。

「隊長…、少しの間……こうしてて…いい…ですか…?」

握り合わせた手をリゼッタは強く握ってくる。
その顔はいまだ赤で覆われていた。

「……………転ばないように注意しろ…」
「……………はい♪」

私は小恥ずかしいのを隠す為彼女から顔を逸らし、
お互いに手を強く握ったまま、川に沿って隊員たちがいる
山林のキャンプ場へと向かうのだった……………。
12/03/18 02:14更新 / 修羅咎人
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■作者メッセージ
エロ展開って難しいっスわぁ〜…

いやぁ〜、遅くなってしまって申し訳ない!
新しく買った戦場のヴァルキュリア2やったらどっぷりはまっちゃって
時間かかっちゃいました。アレクシスがかっこかわいいwww

その上、戦争としてのストーリー性も
なにかと参考になるものが多くありましたから
この作品にも後々生かしていきたいもんですなぁ〜♪

まずは今作はじめてのエロ展開、ちょっと無茶ぶりがあったかもしれませんが
魔物娘だからなぁ〜〜っという理由であんまり気にしないでくださいww
一応、ザーンには第四部隊の隊員全員性的に食ってもらう予定なので
次は誰がいいかリクエストあれば気軽にどうぞ!

今更ながらご感想返信!

>>KOJIMA さん

初感想ありがとうございます!
いやぁ〜自分も最初は「魔人」のフレーズ 
もしかしたらしょうもなく思われてるんじゃないのかって不安でしたけど
気に入ってくれてよかったです!
どうぞこれからも主人公たちの活躍を楽しみにしてください!

ザーン隊長の過去は結構最近出来上がってきています。(主に風呂の時とか)
問題のインキュバス化もするべきかさせないべきか悩んでるんですよねぇ〜
結構私的には、ザーンが反魔物派と戦うときには
「人間の敵としての敬意を払い人間として相手をする」
っていう考えを持つタイプだと私は考えているんですよね。
まぁ、インキュバスになるかならないかわこれからの物語の方針でって
ことにしておいてください。
貴方様のような読者のためにこれからも精一杯がんばらせていただきます!

>> >「第一章†シュザント第四部隊†」を読んだ感想 の名無しさん

私も当初は自分のこの考えに矛盾がないかいろいろ悩んだんですが
色んな作品のゲームなり漫画なり映画なり見てみますと、
よく 支配からの解放を目的とした「レジスタンス」っていう連中が現れるん
ですよ。 基本的彼らのようなタイプは主人公側なんですが
敵側にもこういう組織があってもいいと思うんですよ。
なによりこの魔物娘の基本設定の世界も 教団側からしてみれば
根本的目的は支配からの解放ですんで、
いわばマスカーは教団に反対派の人間たちが加わった
レジスタンスの敵版みたいな感じなんですよ。
こんないいかげんな設定ですがこれからも応援とご愛読お願いします!!

>>バーソロミュ さん

こちらこそどもです。
やっぱりこういう物語の主人公はでけぇことしないと!
……………ってところはありますが、軍の隊長格にできることと考えますと
なかなかどうして扱いが難しい…………。
確かにマスカーは反魔物派が集まった集団なんですが、
教団のような頭でっかちもいれば、三章に出てきたバンドーのような
私怨で魔物と敵対してる輩も結構いるんですよ。
ですから結構扱いやすいところはありますので、
これからの物語の方針で連中のやり方も変わっていくと思います。
でも上層幹部のキャラも考えているんですが、
こちらは結構クズい奴が多いんで、登場させるタイミングや戦場でのやり方に
よるでしょうね。
魔物娘目的かもしれませんがこういった奴らも評価してくれると助かります!

>>おいちゃん  さん

軍記ものいいですよねぇ〜、なんていうかロマン?がありますよね!
私もそういうのが好きでそれを魔物娘たちと組み合わせればと思い
この作品を書いているんですが、やっぱりなかなか難しいもんですよwwww

やっぱりかぁ〜、やっぱりバンドーさんのほうが印象強いかぁ〜www
ザーン隊長より印象強いってのもすこし失敗かなとも思いましたが
バンドーなら仕方がない!
元々バンドーはなんていうか読者から愛されるタイプの
敵役として考えたキャラだったんで、応援してくれると励みになります!
また近いうちに出番もあると思いますんで、どうぞよろしくお願いします!

>>TATさん&>「第四章†隊長として……†」を読んだ感想の名無しさん

ご投票ありがとうございます!
ご要望どおり、今回はリゼッタルートで物語を考えました!
いやぁ〜、女の子キャラの口調っつーのはなかなか難しいもんっすわぁ〜ww

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