第四章:堕落してゆく性活!
二人で裸でベッドの上で目覚める事に、何の違和感も覚えなくなっていた。
股間が温かい。目を開けると、目の前に見事に実った桃尻と、朝露に濡れた女の花が咲いていた。
見下ろすと、エンナが朝から僕のものをしゃぶっていた。
じゅる、じゅる、ずぞぞ、じゅる。
寝覚めの身には少々爽やかさに欠ける音色と光景ではあったものの、しかし不思議と僕はそれが嫌では無かった。むしろ胸が高鳴り、一気に目が冴えた。
花についていた朝露に唇を押し付ける。舌を出して舐め取り、さらに花の蜜を求めて花びらや雌しべを舌で転がす。
花はすぐに馨しい芳香を立て始め、蜜を溢れさせ始める。
僕は夢中になって、朝一番の蜜で喉を潤した。そしてまたぐらから突き上げる衝動のまま、エンナの喉奥に射精した。
シャワーで身を清め、匂いを洗い流しながら、これからの事を考えた。
両親が居なくなってわずか二日にして、僕の生活は爛れ切ってしまった。
けれども、流石に学校でまでそんな性生活を続ける事は出来ない。周りにクラスメイト達も居るし、先生たちの目もある。
ひっそりとするにしても、相当の注意を払わなければならない。音も出るし、匂いもするのだ。
鏡に映った自分は、笑っていた。僕はそれを見て、はっと我に返る。
何という事だろう。自分の思考は、すでにもうエンナとセックスすることが前提になってしまっているのだ。
以前の自分に戻るべきだろうか。けれど、今更エンナから離れられるかと言えば、それも不可能だ。
本当に、わずか二日しか経っていないにも関わらず、今の僕はもうエンナの身体に中毒のような状態になってたようだ。考え事をしている今でさえも、エンナの事を想っただけでまたやりたくなってしまっている。
エンナがまだ家に居れば、多分またベッドに誘ってしまっただろう。けれど、今日はエンナは既にシャワーを済ませて登校してしまっているのだ。
「放課後まで、我慢できるかなぁ」
学校でも出来たらいいのになぁ。
自分も早く学校に行かなければならないにも関わらずそんな事を考えている自分に、僕はもう違和感すら無くなり始めていた。
学校での生活はこれまで通り変わらない、そう思っていた。流石にエンナも人前では僕を誘惑しては来ないだろうし、僕の方も誰かが居る前でエンナを誘えるほど大胆でも無かったからだ。
けれど、それは甘い考えに過ぎなかった。
僕もエンナも、行動の面では大人しくしていた。していたことと言えば、ちょっと視線を合わせて微笑み合う程度の事だった。
だが、生理現象の方はそういうわけにはいかなかった。
隣から匂い立つエンナの雌の匂いが強烈に僕の雄を刺激して、勃起を抑えるために常に気をそらしていなければならなかったのだ。
周りは匂いの話など一切していなかったので、恐らく僕にだけ効くフェロモンのようなものなのだろう。対象が僕一人に限られているせいなのか、その効き目も本当に濃厚だった。
状況はエンナも同じようなものだったらしい。彼女はいつも頬を染めて、目つきもとろんとしたものになっていた。
授業がこんなに長く感じたことは無かった。トイレを我慢しているときでさえ、ここまで辛いと思った事は無かった。
それでも何とか午前の授業が終わり、放課後まで持たせることが出来そうだった。
……と、油断したのがいけなかったのかもしれない。昼ご飯の後で気が緩んだこともあったのだろう。午後一の授業で、僕は睡魔に襲われて一瞬気が遠くなってしまった。
それが崩壊の始まりだった。
眠気事体はすぐに冴えた。痛みと、不快な窮屈さを感じて。
僕は机の下を見て冷や汗を流した。ズボンが、これまでに無いほどに大きくテントを張っていた。
自分でも自分の身体に驚いた。これまでこんなに大きくなったことは無かった。
二日にわたる魔物娘との交わりのせいなのか、僕の一物は肥大化し始めているようだった。
肥大化し、勃起した一物にはズボンが窮屈すぎた。痛くて堪らなかった。
それでも少しの間大人しくしていれば萎えてくるだろうと耐え続けたが、僕の自身はいつまでたっても元に戻ってくれなかった。
脂汗が顔に滲む。
痛みもあるが、このまま収まらなかったらどうすればいいのだろう。
僕が困り果てていると、先生がこちらを見た。まずい。と思ったが、なぜか先生はすぐに僕の隣の席に視線をずらした。
「どうした」
見れば、エンナが挙手していた。
「先生。猿渡君が気分が悪そうなので、保健室に連れて行ってもいいですか」
「そうなのか。猿渡」
「……ちょっと、お腹が痛くて」
「なら連れて行ってやりなさい」
エンナは席を立って、僕の横から腕をとった。
「大丈夫?」
囁くような問いかけに、僕も小声で返した。
「あぁ、何とか」
「すぐ、楽にしてあげるから」
エンナは僕にだけ分かるように片目をつむり、僕を介抱するようにしてクラスメイト達から隠しながら、教室から連れ出してくれた。
てっきり保健室に連れて行かれるのかと思ったのだが、辿り着いたところは立ち入り禁止の屋上の前の、物置みたいにいろいろなものが積み上げられた踊り場だった。
「こんなところで何をするんだ」
「何って、ナニをするのよ」
エンナは僕の腰に抱き付くと、かちゃかちゃとベルトを外してファスナーを下ろした。
下着の中にほっそりした指が侵入してきて、熱くそそり立ったそれが跳ねるように勢いよく外の世界へと解放される。
「ごめんね。こんなになるまで、何もしてあげられなくて」
「いや、いいんだよ。しばらく放っておけば、興奮も収まって元に」
「多分、どんなに時間を置いても元には戻らないと思う。私が抜いてあげない限り、もうマサルの勃起は止まらないよ」
「……え?」
エンナが何を言っているのか分からなかった。
「マサルは、私達の存在に近くなったの。私達はそういう男の人の事をインキュバスって呼んでる」
「インキュバス? 魔物に、なってしまったってことか?」
「そうなるのかな。でも、姿形が変わることは無いし、体力や精力も高まるから人間だったころよりも健康にもなるんだよ。病気になることも無くなるし。
セックスしていれば伴侶の魔物娘から魔力を得られるから、寝なくても食べなくても平気になるし」
僕は苦笑いを浮かべる。
「いいことばかりだけど、流石に最後のは淫魔っぽいな」
「あと、性欲が高まるの。もちろん誰にでもっていうわけでは無くて、マサルがパートナーとして認めた魔物娘に対してだけ、なんだけどね」
エンナは顔を赤くして、僕から目をそらした。
「この場合、私、って事だよね。あのね、えっと……。嬉しい。……とっても。えへへ」
言葉は無くとも、身体が相手を必要としている。そういう事か。
これ以上ない告白、という事になるのだろうか。あれだけ濃厚な交わりを繰り返した後ではちょっと今更な気もしてしまうが、エンナにとってはやはり嬉しい事だったようだ。
「けど、それでなんで勃起が収まらなくなるんだ」
「インキュバスの身体に慣れていれば性欲もある程度は制御出来るようになるらしいんだけど、マサルはまだ変化したばかりだし、たぶん欲求を発散しない限り無理だと思うんだ」
「なるほどなぁ。……でも、インキュバスっていうのはそんなに簡単になってしまうものなのか。魔物娘のカップルもいるけど、みんな男はインキュバスになってるのか」
「そういうわけでも無いと思う。パートナーがサキュバスならインキュバスにもなりやすいけど、それ以外の種族はそうでもないし。
けど、サルは人間に近いっていうから、私の魔力が染み込みやすかったのかも。それに二日も、一晩中やりっぱなしだったし」
何となく合点がいった気がした。
「とにかく、僕はエンナにしてもらわないと、どうにもならないってことだね」
エンナは頷く。
そして、少し遠慮がちに僕を見上げた。
「あの、マサル。こんなところ、だけど、今ここでしゃぶっていい?」
「エンナがいいなら、お願いするよ」
エンナは表情をだらしなく緩めると、露出した僕の一物にむしゃぶりついてきた。
その瞬間の感覚は、何とも言えなかった。もちろんエンナの口の気持ち良さはあったが、それとともにこれまでには無かった安堵感ややすらぎのようなものを感じた。
体に必要なものが染み込んでくるような感覚だった。朝から飲まず食わずで全力疾走を続けた後に、ようやく水を一杯飲んだかのような、そんな充足感に満たされた。
エンナは尻尾を振りながら、僕のペニスに夢中になっていた。頬の内側の肉に亀頭を擦りつけてみたり、口から舌を出してぺろぺろと嘗め回したり。猿の魔物のカク猿なのに、まるで散々お預けを食らった後の犬みたいになっていた。
僕はもうエンナがいなければ生きていけない身体になってしまったんだと実感した。けれどエンナもきっと僕と同じなのだと思う。
もしかしたら、これまでの事は全てエンナの策略だったのかもしれない。
最初は普通の女の子の振りをして僕の気を引いて、それなりの好意を抱かせたところで、無理やり襲って肉体関係を結ぶ。好意を持っていれば嫌がることは無いから、強引なセックスも受け入れられやすいだろう。そして身体の良さを教えたところで、一度引く。嫌われたくないからと我慢するそぶりを見せて、男の方から求めるように仕向ける……。
いや、考えすぎだろう。大体やろうとしても、風呂場でオナニーしている姿をわざわざ見せつける事までしなくたっていいはずだ。
本能的にやっている可能性は否定できない。けれど、仮に今までのエンナの行動全てが計算ずくだったとしても、そんなことはもうどうでもいいことだ。
エンナが居れば、僕はそれでいい。エンナとエッチなことが出来れば、僕はそれだけで満たされる。これまで感じたことも無いほどに生を実感出来るのだから。
僕はエンナの髪を撫でる。エンナは嬉しそうに、潤んだ瞳で僕を見上げた。
「そろそろ、出そう」
エンナはこくんと頷いた。
腰から熱が突き上がってくる。僕がそれを制御せずに、勢いに任せるまま体を解放しようとした。
「そこに、誰かいるの」
まさに射精する瞬間だった。
誰も来ないはずの踊り場に、人の声が聞こえた。聞き覚えのある女の子の声だった。
でも、まさか、そんなはずはない。だってまだチャイムだって鳴ってないんだから、彼女が来るはずが無い。
「猿渡君? エンナさん?」
僕の中の雄が暴れだす。一度解放の寸前までいった熱は、もう戻そうとしても戻せるものでは無かった。僕はまずいと思いつつも、エンナの口の中に射精せずにいられなかった。
抑えきれない熱い欲望が尿道を駆け抜ける。エンナの喉奥に向かって勢いよく注がれてゆく。
「ん、んんっ」
「やっぱり誰かいるのね」
壁の陰から女の子が顔をのぞかせる。階段を昇ってきていたのは、やっぱりクラスメイトの犬飼だった。
犬飼が僕達の姿を捉える。エンナの口に放精し続ける僕と、目が合う。
「猿渡、君?」
犬飼の場所からは、僕達の姿はどう見えていたのだろう。隣の席の男の子と、その股間に顔をうずめるクラスメイトの魔物娘。初心な犬飼は、まさか学校で口淫をしているなどとは思わないだろうが。
早く股間を隠せば、何とかなるだろうか。
「ぷはぁ。あぁん。やっぱりマサルの精液、最高っ」
……もう、どうにもなりそうになかった。
犬飼の気配に気づいていなかったエンナは、何のお構いも無しに僕のものを握りながらにやにや笑う。
「このまま、エッチもしちゃおっか」
「……授業中に何しているの。二人とも」
犬飼の唇が真一文字に引き結ばれる。光が眼鏡に反射して、今はもう彼女がどんな目をしているかも伺い知ることは出来なかった。
怒っているのだろうか。まぁ、普通はそうなるだろう。授業中に具合が悪いと偽って教室を抜け出し、淫行に耽っていたのだから。
「犬飼さん。これは」
「フェラチオしてたんだよ。犬飼ちゃん」
エンナはすくっと立ち上がると、犬飼に正面から向き合った。こちらに背中を向ける形となるので、僕の位置からだとエンナの顔は見えなかった。
「フェラチオって……何よ」
「知らないの? 口でおちんちんを気持ちよくして、射精させてあげる事だよ」
「そういう事を言っているんじゃないの。今、授業中なんだよ。みんな勉強してるのに、どうして二人は教室を抜け出してそんなことしているのって聞いているの」
「どうしてって……」
エンナは顔に手を当てて考えているそぶりを見せる。
「したかったから、かな」
「したかったって……」
「大好きな人に触りたかったの。一番敏感で大事なところを、優しく包んであげたかったの。苦しそうにしていたから、気持ち良くしてあげたかったの。だから、口でしてあげたんだよ。もちろん、私も気持ちよくなりたかったっていうのもあるけどね。
私、何かおかしなこと言ってるかな?」
犬飼の表情が凍り付いていくのが分かる。わなわなと、小刻みに震えているようにさえ見える。
「……あなた達魔物娘は、我慢て事を知らないの?」
「我慢したよ。教室ではしなかったもん」
犬飼は溜息を吐くと、僕の方を向いた。
「猿渡君。あなたがこんな、こんなふしだらで下品な人だなんて思わなかったわ。だから魔物娘には気を付けてって言ったのに。見損なったわ、こんな最低な男子だとは思わなかった」
「犬飼さん、僕は」
「犬飼ちゃん、ひょっとして妬いてるの」
僕の弁明は、再度エンナに遮られる。
犬飼は、しばらく押し黙った。沈黙というものはこんなにも空気を重くするものであるという事を、僕は生まれて初めて知った。
「そんなわけないでしょ。おかしなこと言わないで」
「だって犬飼ちゃんもマサルの事好きでしょ? 匂いでわかるもん」
「匂いって何? 馬鹿にしているの?」
「魔物の鼻は人間よりもそういう事に敏感なの。誰かが誰かに発情していれば、すぐに分かるんだよ」
「発情って……」
「最初は悩んだんだぁ。私もマサルの事気に入っちゃったけど、他にもマサルに気がある女の子が居たから。でも、犬飼ちゃんマサルと特に恋人同士ってわけでも無かったし、アプローチしてたわけでも無いみたいだったから、じゃあいいかなぁって思って」
「ふ、ふざけないでよ!」
何かが爆発したのかと思った。それほど大きな音だった。犬飼が、廊下の壁を思い切り叩いたのだ。
「私が猿渡君の事を好き? そんなわけないでしょ。顔もそんなにかっこよくないし、ヘタレだし、運動も出来ないし。そりゃ、ちょっと優しいけど。
でも私は、もっと格好良くて運動が出来て、私をリードしてくれるような人が好きなの。猿渡君の事なんて別に何とも思ってないんだから」
「ふぅん。じゃあ別にそこまで怒らなくたっていいじゃん」
「え……」
犬飼は、虚を突かれたようにぽかんとなる。
「別にクラスの誰にも迷惑かけてるわけでも無いんだし。これから誰にも見つからないところに行くからさ、今回は大目に見てよ」
犬飼は俯き、再び黙り込んでしまった。
「もう知らない。好きにすればいいじゃない」
そしてそれだけ言うと、とうとう僕達に背を向けて歩いて行ってしまった。
僕はしばらく何も言えなかった。エンナも何も言わず、犬飼を見送り続けていた。
それからしばらくして、ようやくチャイムが鳴った。
「……犬飼さん、泣いてたかな」
「そうかもしれない」
「悪いことしちゃったかな」
「でも、しょうがないよ。ねぇ、気晴らしにエッチしよ。ここの屋上、魔物娘達の休憩所の一つになってるらしいからさ」
エンナは明るい声でそう言った。多分、エンナなりに気を使ってくれたのだろう。
僕はそんな彼女の計らいに甘える事にした。
「そうだね。何か凄く疲れた気がする」
「ふふ。たっぷりご奉仕してあげるね」
嫌なことを忘れるためだけに、女の子を抱く。なんだか本当に、自分は最底辺の人間になってしまった気がした。
……いや、もう人間でも無いんだったか。
放課後前の最後の授業の間中、僕はエンナを抱き続けた。
制服を着たままのエッチは裸でのそれとはまた違う趣があって、いつもとは違う高揚感があった。けど、行為の間も犬飼の事が頭にこびりついて離れなかった。
彼女の事は嫌いでは無かった。好意とまではいかないが、気になる存在ではあった。その犬飼からあんな風に思われていたのだ。今はエンナと言う恋人が居るからそこまで傷つきもしなかったが、やはりヘタレだとか格好悪いとか思われていたのはショックだった。
犬飼の事を考えると、僕はさらに激しくエンナを抱かずにはいられなかった。
きっと心配して見に来てくれたというのに、あんなところを見せてしまったという罪悪感。好みの男では無かったという、失恋にも似た喪失感。
そこに授業中だという背徳感や、エンナに対する申し訳なさも加わって、僕の胸の中は黒いどろどろした情念でもみくちゃになっていた。
不快な感情を忘れたくて、癒されたくて、僕はエンナに夢中になろうとした。
身体中の快楽を掻き集めて下半身を滾らせた。何度も何度もエンナを突き上げて、精液をぶちまけ続けた。
エンナはそんな僕の事を分かっているのかいないのか、ただただひたすら僕に優しくしてくれた。
時間はあっという間に過ぎて、すぐに放課後になった。
チャイムが鳴ると、僕達と同じように屋上でいちゃついていたカップルが帰って行ったり、逆に男子生徒を連れた魔物娘がやってきたりした。魔物娘達は昆虫型、獣型、天使等と様々だったが、やっていることは大体一緒だった。
「僕達も帰ろうか」
「うーん。私、今日ちょっと寄りたいところがあるから先に帰ってて」
「えー。一緒に帰ろうよ」
駄々をこねる僕をぎゅっと強く抱きしめてから、エンナはあっという間に僕から離れてしまった。
流石魔物娘と言う身のこなしで、だらけていた僕には目で捕える事すら出来なかった。
「うふふ。焦らしプレイってやつ? 家にはちゃんと帰るから、ご飯作って待ってて?」
「インキュバスになると飯食わなくてもいいんだろ?」
「でも、魔界の食べ物にはエッチをさらに気持ち良くさせるものもあるんだよ? 解説本も持ってきてるから、色々試してみようよ」
「……浮気とかじゃ、無いよね」
「マサル以外の男の子に興味なんて無いよ。何なら貞操帯でも付けようか?」
僕は頭をかきながら、しぶしぶ頷いた。
「安心して。私はマサルが喜んでくれる事しかしないから」
エンナは僕に向かって片目をつむると、さっそうと屋上から去って行った。
魔物娘カップル達がいちゃつく屋上に、僕一人が残される。流石にいたたまれなくなり、僕は先に家に帰ることにした。
いつ運び込まれたのか、確かに自宅には魔界産だという食材が段ボール一箱分届いていた。
魔界の紀行本も同封されていた。食べ物の産地や効能、おすすめの料理法等が書かれていて、これを読むだけで料理も出来そうだった。
どの食材も面白そうだったが、特に目に付いたのは、ネバリタケとマタンゴモドキと言うキノコだ。粘りが強いとのことだったので、きのこ汁がよさそうだった。
あとは主菜として、魔界の豚の細切れ肉と、キャベツのような形をした魔界の野菜、まといの野菜で炒め物を作ることにした。
独りで料理をしているうちに、エンナの事が気になって胸が少しざわついてきた。
もしかしたら、エンナは怒っているのかもしれない。結局僕はエンナに甘えていただけで、エンナを抱きながら犬飼の事を考えていたのだから。男として最悪の事をしていた事になる。
帰ってきたら、ちゃんと謝ろう。そのあと、うんと優しくしてやろう。
二品とも手間のかかる料理では無かったので、調理はあっという間に終わった。そのうちすぐにご飯も炊けてしまった。
日も暮れ落ち始めて、部屋の中が夕日の赤でいっぱいになっていった。
僕は独りだった。こんなに孤独を実感したのは初めてかもしれなかった。
家にはいつも母さんが居たし、両親が図鑑世界へ仕事に行ってからも、いつもエンナがそばに居てくれた。
高校生にもなってこんなことを思うのはちょっと恥ずかしくもあったけれど、なんだか無性に寂しかった。
やがて日は完全に落ちて、窓の外には夜の闇が広がった。蛍光灯の光は白々しくて、なんだか部屋が乾いて見えた。
エンナ。まだ帰ってこないのかな。もしかして、もう帰ってこないんじゃ……。
不安を感じ始めたちょうどそのとき、玄関が開く音がした。
「ただいまー。マサルー、帰ったよー」
気付いたら立ち上がっていた。
向かってくるエンナと、廊下で鉢合わせた。エンナはカバンを放り投げて、いきなり僕に抱き付き口づけしてきた。
気のせいだろうか。いつもと違う匂いが混じっている気がした。
「ん、んっ。んん」
けれどそんな違和感は、舌を絡めているうちにすぐに消えた。舌の上がエンナの味で犯され、鼻腔の奥もエンナの匂いに満たされる。
エンナは上気した目で僕を見上げて来た。その頬も、ちょっと赤い。
「やっとキスできた。我慢するのって、結構辛いよねぇ」
「遅かったじゃないか。どこかに行くのなら誘ってくれればよかったのに」
「大丈夫。明日は一緒に出来るよ。今日はそのための準備してたの」
「準備?」
「うん。それより、私お腹すいちゃった」
下腹部を撫で、淫猥な表情から発せられるその言葉は、とてもではないが文字通りの意味には聞こえなかった。
「子宮が空っぽでキュンキュン言ってるの。精液欲しくてうずうずしてるの」
僕のペニスも、大体同じような状態だった。キスしたことで、エンナに対する欲望が再燃し始めていた。
ただ、せっかく作った料理を食べないのももったいない。
「ご飯食べてからにしないか? せっかく作ったんだし」
「マサルの手料理! そうだった。それは食べなきゃ」
エンナは一瞬で腹ペコの子供になると、尻尾を大きく揺らしながら駆けて行った。
「ちゃんと手を洗えよ」
可愛いけれど、相変わらず読めないなぁ。僕はエンナのカバンを持って、彼女の後に続いた。
「ネバリタケとマタンゴモドキのきのこ汁に、魔界豚とまといの野菜炒め。マサル、なかなか食材の使い方が分かってるね」
「いや、適当に使ってみただけだよ。美味いかどうかまだわからない」
二人でいただきますをして、僕達は夕食を始めた。
エンナは本当に美味しそうに僕の作った料理を食べてくれる。作った方としては、こんなに嬉しいことも無い。
「美味しいね! これ!」
「僕はまだ食べてないよ」
苦笑いしつつ、きのこ汁に口をつける。
出汁や調味料をほとんど使っていないにも関わらず、その味は奥深くて風味豊かだった。ネバリタケにもともとついているらしい甘辛い味わいに、マタンゴモドキの奥深い甘さが重なって、ピリッと刺激がありつつもまろやかな味に仕上がっていた。
汁自体のとろみも強く、後を引く美味さがあった。
「ねぇ、知ってる? ネバリタケを食べると、体液が凄くねばねばするんだって。あと、マタンゴモドキを食べると男の人のキノコの事しか考えられなくなっちゃうんだって」
「へぇー」
なんだか凄いことを言いつつも、エンナはしかし食事の手は止めない。効果を分かっていて食べているのか、それとも火を通せば効果が薄れるようなものなのだろうか。
ともかく作ったものは食べなければもったいない。
僕は肉野菜炒めの方に手を付ける。
結構火を通したにも関わらず、魔界豚の肉はとけてしまうように柔らかかった。脂身もジューシーでいてしつこくなく、味も濃厚で、単純に美味しくてご飯がどんどん進んだ。
炒め物だけでなく、コロッケやステーキにしても美味しそうだ。
一緒に炒めたまといの野菜もほんのりと甘く、しゃきしゃきとした歯ごたえが楽しめた。こってりした肉の油に、さっぱりとした甘みがよく合っていた。
素人の僕が適当に料理しただけでこんなにも美味しく料理出来るのだとしたら、本場の料理人が調理したらいったいどれだけのものが出来上がるのだろうか。
「ちなみに魔界豚は栄養価が高いから、食べるとインキュバスでなくても三日三晩ぶっ通しでエッチ出来るようになるみたいだよ。
まといの野菜も美肌効果と肌の活性化の効果が凄いんだって。食べすぎると肌が敏感になりすぎて服を着てられなくなっちゃうって噂だよぉ」
エンナはリスみたいに口の中を一杯にしている。かわいい。食べる姿がかわいすぎて、あまり話を聞いていなかった。
「あ、これ何」
エンナは小皿に乗った、赤みがかったグミのようなそれを見る。
「まといの野菜の真ん中にあったんだ。芯みたいなものかなぁ。食べられるか分からなかったんだけど、一応お皿に盛ってはみたんだ」
「ねぇ、私もらっていい?」
「え、いいけど」
美味しい物なのだろうか。とにかく、エンナが食べたいというならそれで構わないだろう。
エンナは楽しそうに食事を続ける。なんだかちょっと水を差してしまう気もしたが、今言っておかなければ忘れてしまう気がした。
「あ、あのさ、エンナ」
エンナはお椀から、視線だけこちらに向ける。
「さっきは、その、屋上の時は、ごめん」
「何が?」
「その、余計なこと考えてたっていうか」
「犬飼ちゃんの事考えてた事?」
僕はすぐに返事が出来ない。
「別に気にしてないよ。最初にした時にも言ったけど、実際マサルがセックスして、射精した相手は私なんだし。……でも」
エンナはちょっと意地悪で、それでいてちょっと寂しそうにも見える、何とも言えない笑顔で言った。
「浮気は、嫌かな。私の知らないところで、私の知らない女の人とエッチしてたら、嫉妬に狂ってマサルの事監禁しちゃうかも」
「それは、怖いな」
「痛がることはしないよ。でも、私の気が済むまでエッチ以外の事は何もさせないと思う。気が済むのが一週間後か、一か月後かはわからないけど」
「……まぁ、エンナ以外とする気になんてなれないんだけどね」
「ふふ、そうだよね。マサルは私にぞっこんだもんね」
「エンナだってそうだろ」
「もちろん。はい、ごちそうさま」
のろけ話ではなく、エンナは本当に食べ終わっていた。
デザート代わりか、最後に残ったまといの野菜の芯を口に含んで、舌の上で転がし始める。
しばらくそうして味を楽しむと、喉を鳴らして嚥下した。その喉の動きが精飲した時と似ていて、僕はどきりとしてしまった。
エンナはそんな僕の顔を見て、にやりと笑う。
「何か、肌が火照ってきちゃったなぁ」
僕の目の前で、ゆっくり少しずつ制服を脱ぎ始める。
「ねぇマサル、早く食べてエッチしようよぉ」
リボンを外して、ベストを脱ぐ。ブラウスは見事に大きな乳房に押し上げられていて、赤色のブラが透けて見えていた。
「学校でベスト脱いで無いの気づいてる? 脱いだら、下着透けちゃうからだよ? マサル以外には、ブラ透けだって見せたくないの」
エンナは、ブラウスのボタンも一つ一つ外してゆく。
「脱がしたくない? 早くしないと、全部脱いじゃうよ?」
見とれていた僕は、慌てて残っている料理を掻き込んだ。美味しいのにもったいない気もしたが、このまま全部脱がれてしまうのももったいない。
「ほら、ほら」
エンナはブラのホックに手をかけ始めていた。
僕は急いで最後の一口を飲み込んで、急いでエンナのもとに駆け寄った。
ベットの上がいい、と言うので、僕の部屋ですることにした。
エンナはベットに横になり、僕に流し目を送る。
裸のエンナも見てきた。制服のエンナも見てきた。けれど、脱げかけの姿もまた強く惹かれるものがあった。
ブラウスの隙間から、ブラジャーに包まれた柔らかな双丘が顔を覗かせている。食い込み気味のそれが、たまらなくセクシーだった。
「エンナ。このまましちゃおうか?」
「だぁめ。今日はマサルの身体を肌で直に感じたいの。……早く、脱がせて」
僕はエンナの上に覆いかぶさって、ブラウスに手をかける。
ほっそりした肩を、腕を滑らせブラウスを脱がせる。エンナを覆うものが無くなってゆく。
次はスカートだ。ファスナーを下ろすと、エンナは自ら腰を上げて僕を手伝ってくれた。
残るは、下着だけだ。
「マサルの方も脱がさないとね」
エンナは器用に僕のシャツを脱がす。はいていたズボンも、尻尾だけを使ってするすると簡単に脱がされてしまった。
「上手になったでしょ」
「エロい事ばかり上達してないか」
「マサルに言われたくないなぁ」
僕はエンナの腰元にしゃがみ込んで、彼女の膝を押し広げて股間に顔を近づける。
エンナの強い匂いがする。クロッチの部分が、もうぐっしょり濡れていた。
指先でなでると、エンナは太ももを震わせた。指を離すと、糸を引いた。
試しに軽く舐めてみると、エンナの強い味がした。パンツ越しなのに、愛液がねっとりと舌にまとわりついてきた。
「マサルのせいだからね。ネバリタケなんて使うから」
僕はエンナの脚を抱え上げてパンツを脱がせる。
薄い生地の下で、エンナは粘つく涎を垂れ流しながら、僕を求めてあそこをひくひくさせていた。
「お願い。今すぐちんぽ入れて」
あまり聞いたことのない、エンナの切羽詰まった声だった。
「ごめんね。いつもみたいに舐め合ったりしたいよね。でも、なんか今日はおちんちん欲しくてしょうがないの。一秒でも早く、欲しいの」
いつもの余裕がどこにもなかった。ただ必死で雄を求める雌の姿に、僕はすぐに獣に堕ちてしまう。
胸元ににじり寄り、ブラのホックを外して口で咥えて取り外す。真っ白なおっぱいの谷間に顔を埋めながら、僕は腰の位置を合わせる。
粘つく蜜に濡れた柔肉が先端に触れる。僕はそのまま、腰を突き込んでゆく。
「あ、あ、あっ。あああぁー」
エンナの艶っぽい吐息が理性を更に蕩けさせてゆく。
獣毛の生えた両腕が、更に強く僕を胸元に抱き寄せる。脚も腰に絡みつかれて、僕は身動きが取れなくなるほど、強く深くエンナの身体に囚われる。
「しあわせぇー」
エンナは蕩けきった表情で僕を見下ろす。
さっきまでの必死さはどこへ行ったのか、すべて満たされて今にも微睡んでしまいそうな顔だった。
「マサルぅ、もっとおくぅ」
エンナの脚が締まる。腰が奥まで招き入れられる。僕の先端が、エンナの最奥を擦りあげる。
エンナは声にならない声を上げて、キュッと膣を締め上げてくる。
身体の外から、中から強く抱きしめられ、僕の方もまた強い充足感に満たされ始める。
そして、それと同時にいつものような獣欲もまた湧き上がる。
僕は本能に身を任せ、腰を振ろうとする。しかし、腰が、身体が上手く動かせなかった。
膣と男根がぴったりとくっついて離れたがっていないみたいだった。エンナの締め付けが強すぎるのと、彼女の愛液と僕の我慢汁の粘り気が強くなりすぎて、ねばねばと接合部に絡みついて、かなりゆっくりと動かさないと抜き差しすることも出来なかった。
「エンナ、これ、まずくないか?」
「何がぁ? いいじゃないぃ、一晩中、こうしてよぉー。朝も変わらなかったらぁ、明日も続ければいいんだしぃ」
エンナは僕の頬を両手で包み込んで、口づけしてきた。
唾液も、いつもよりねっとりと絡みついてくる。それは僕の方も変わらないようで、僕達はすぐに顔じゅうべたべたになった。
「気持ちいいねぇ、マサルぅ」
確かに、気持ち良かった。
入れているだけではあったが、エンナの膣は精子をねだるようにゆったりと蠕動し、ねっとりとした愛液に濡れた柔襞が繊細に揉み解すように動き続けていた。
勿体つけるような感触に、逆にいつも以上に追いつめられてゆく。動かないことによって、エンナの形が、動きが、細やかに伝わってくる。
膣の動きだけでは無い。呼吸の音、心臓の鼓動、肌の震え。
たまらず、最初の一発を吐き出した。
「あっ。くぁあ、マサルのせぃえき、濃くて、粘ついてる」
僕は彼女の背に強く腕を回して、抱きしめる。
「凄い、どろどろ。膣の奥に、子宮の中に張り付いて……。中に、入ったまま、出て、来ない。これ、やばい」
彼女の肌が少しずつ汗ばんでくる。その汗さえとろみを帯びて、ローションみたいに僕達の肌の滑りを良くさせた。
エンナの顔は、お酒を飲んだみたいに真っ赤になっていた。その目はもう獣欲に濁り切っていて、本当に酔っぱらってしまっているみたいだった。
肌も敏感になっているのか、少し肌が触れ合っただけでもエンナはびくんと肌を震わせた。
僕は目をつむって、彼女の身体をゆったりと抱きしめる。今日は激しく動くより、こうやって静かに互いの身体を抱き合っていた方が楽しめそうだった。
僕達は一晩中ずっと、身体の外側も内側も、貝みたいにぴったりくっつきあって過ごした。
膣の動きはもちろんのこと、僕達はお互いの息遣いや体温で、少しずつ少しずつ時間をかけて大きな快楽へと上り詰めて行った。
そして二人で頂上へとたどり着き、いつ終わるともしれない長くて深い絶頂を迎えた。
僕の止まらない射精を、エンナは全て優しく受け入れ、貪欲に飲み干してゆく。そして彼女の声が、匂いが、味が、鼓動が、僕に降り注いで、また力を与えてくれた。
愛欲は循環し、終わらない快楽に僕達は延々と酔いしれつづけた。
股間が温かい。目を開けると、目の前に見事に実った桃尻と、朝露に濡れた女の花が咲いていた。
見下ろすと、エンナが朝から僕のものをしゃぶっていた。
じゅる、じゅる、ずぞぞ、じゅる。
寝覚めの身には少々爽やかさに欠ける音色と光景ではあったものの、しかし不思議と僕はそれが嫌では無かった。むしろ胸が高鳴り、一気に目が冴えた。
花についていた朝露に唇を押し付ける。舌を出して舐め取り、さらに花の蜜を求めて花びらや雌しべを舌で転がす。
花はすぐに馨しい芳香を立て始め、蜜を溢れさせ始める。
僕は夢中になって、朝一番の蜜で喉を潤した。そしてまたぐらから突き上げる衝動のまま、エンナの喉奥に射精した。
シャワーで身を清め、匂いを洗い流しながら、これからの事を考えた。
両親が居なくなってわずか二日にして、僕の生活は爛れ切ってしまった。
けれども、流石に学校でまでそんな性生活を続ける事は出来ない。周りにクラスメイト達も居るし、先生たちの目もある。
ひっそりとするにしても、相当の注意を払わなければならない。音も出るし、匂いもするのだ。
鏡に映った自分は、笑っていた。僕はそれを見て、はっと我に返る。
何という事だろう。自分の思考は、すでにもうエンナとセックスすることが前提になってしまっているのだ。
以前の自分に戻るべきだろうか。けれど、今更エンナから離れられるかと言えば、それも不可能だ。
本当に、わずか二日しか経っていないにも関わらず、今の僕はもうエンナの身体に中毒のような状態になってたようだ。考え事をしている今でさえも、エンナの事を想っただけでまたやりたくなってしまっている。
エンナがまだ家に居れば、多分またベッドに誘ってしまっただろう。けれど、今日はエンナは既にシャワーを済ませて登校してしまっているのだ。
「放課後まで、我慢できるかなぁ」
学校でも出来たらいいのになぁ。
自分も早く学校に行かなければならないにも関わらずそんな事を考えている自分に、僕はもう違和感すら無くなり始めていた。
学校での生活はこれまで通り変わらない、そう思っていた。流石にエンナも人前では僕を誘惑しては来ないだろうし、僕の方も誰かが居る前でエンナを誘えるほど大胆でも無かったからだ。
けれど、それは甘い考えに過ぎなかった。
僕もエンナも、行動の面では大人しくしていた。していたことと言えば、ちょっと視線を合わせて微笑み合う程度の事だった。
だが、生理現象の方はそういうわけにはいかなかった。
隣から匂い立つエンナの雌の匂いが強烈に僕の雄を刺激して、勃起を抑えるために常に気をそらしていなければならなかったのだ。
周りは匂いの話など一切していなかったので、恐らく僕にだけ効くフェロモンのようなものなのだろう。対象が僕一人に限られているせいなのか、その効き目も本当に濃厚だった。
状況はエンナも同じようなものだったらしい。彼女はいつも頬を染めて、目つきもとろんとしたものになっていた。
授業がこんなに長く感じたことは無かった。トイレを我慢しているときでさえ、ここまで辛いと思った事は無かった。
それでも何とか午前の授業が終わり、放課後まで持たせることが出来そうだった。
……と、油断したのがいけなかったのかもしれない。昼ご飯の後で気が緩んだこともあったのだろう。午後一の授業で、僕は睡魔に襲われて一瞬気が遠くなってしまった。
それが崩壊の始まりだった。
眠気事体はすぐに冴えた。痛みと、不快な窮屈さを感じて。
僕は机の下を見て冷や汗を流した。ズボンが、これまでに無いほどに大きくテントを張っていた。
自分でも自分の身体に驚いた。これまでこんなに大きくなったことは無かった。
二日にわたる魔物娘との交わりのせいなのか、僕の一物は肥大化し始めているようだった。
肥大化し、勃起した一物にはズボンが窮屈すぎた。痛くて堪らなかった。
それでも少しの間大人しくしていれば萎えてくるだろうと耐え続けたが、僕の自身はいつまでたっても元に戻ってくれなかった。
脂汗が顔に滲む。
痛みもあるが、このまま収まらなかったらどうすればいいのだろう。
僕が困り果てていると、先生がこちらを見た。まずい。と思ったが、なぜか先生はすぐに僕の隣の席に視線をずらした。
「どうした」
見れば、エンナが挙手していた。
「先生。猿渡君が気分が悪そうなので、保健室に連れて行ってもいいですか」
「そうなのか。猿渡」
「……ちょっと、お腹が痛くて」
「なら連れて行ってやりなさい」
エンナは席を立って、僕の横から腕をとった。
「大丈夫?」
囁くような問いかけに、僕も小声で返した。
「あぁ、何とか」
「すぐ、楽にしてあげるから」
エンナは僕にだけ分かるように片目をつむり、僕を介抱するようにしてクラスメイト達から隠しながら、教室から連れ出してくれた。
てっきり保健室に連れて行かれるのかと思ったのだが、辿り着いたところは立ち入り禁止の屋上の前の、物置みたいにいろいろなものが積み上げられた踊り場だった。
「こんなところで何をするんだ」
「何って、ナニをするのよ」
エンナは僕の腰に抱き付くと、かちゃかちゃとベルトを外してファスナーを下ろした。
下着の中にほっそりした指が侵入してきて、熱くそそり立ったそれが跳ねるように勢いよく外の世界へと解放される。
「ごめんね。こんなになるまで、何もしてあげられなくて」
「いや、いいんだよ。しばらく放っておけば、興奮も収まって元に」
「多分、どんなに時間を置いても元には戻らないと思う。私が抜いてあげない限り、もうマサルの勃起は止まらないよ」
「……え?」
エンナが何を言っているのか分からなかった。
「マサルは、私達の存在に近くなったの。私達はそういう男の人の事をインキュバスって呼んでる」
「インキュバス? 魔物に、なってしまったってことか?」
「そうなるのかな。でも、姿形が変わることは無いし、体力や精力も高まるから人間だったころよりも健康にもなるんだよ。病気になることも無くなるし。
セックスしていれば伴侶の魔物娘から魔力を得られるから、寝なくても食べなくても平気になるし」
僕は苦笑いを浮かべる。
「いいことばかりだけど、流石に最後のは淫魔っぽいな」
「あと、性欲が高まるの。もちろん誰にでもっていうわけでは無くて、マサルがパートナーとして認めた魔物娘に対してだけ、なんだけどね」
エンナは顔を赤くして、僕から目をそらした。
「この場合、私、って事だよね。あのね、えっと……。嬉しい。……とっても。えへへ」
言葉は無くとも、身体が相手を必要としている。そういう事か。
これ以上ない告白、という事になるのだろうか。あれだけ濃厚な交わりを繰り返した後ではちょっと今更な気もしてしまうが、エンナにとってはやはり嬉しい事だったようだ。
「けど、それでなんで勃起が収まらなくなるんだ」
「インキュバスの身体に慣れていれば性欲もある程度は制御出来るようになるらしいんだけど、マサルはまだ変化したばかりだし、たぶん欲求を発散しない限り無理だと思うんだ」
「なるほどなぁ。……でも、インキュバスっていうのはそんなに簡単になってしまうものなのか。魔物娘のカップルもいるけど、みんな男はインキュバスになってるのか」
「そういうわけでも無いと思う。パートナーがサキュバスならインキュバスにもなりやすいけど、それ以外の種族はそうでもないし。
けど、サルは人間に近いっていうから、私の魔力が染み込みやすかったのかも。それに二日も、一晩中やりっぱなしだったし」
何となく合点がいった気がした。
「とにかく、僕はエンナにしてもらわないと、どうにもならないってことだね」
エンナは頷く。
そして、少し遠慮がちに僕を見上げた。
「あの、マサル。こんなところ、だけど、今ここでしゃぶっていい?」
「エンナがいいなら、お願いするよ」
エンナは表情をだらしなく緩めると、露出した僕の一物にむしゃぶりついてきた。
その瞬間の感覚は、何とも言えなかった。もちろんエンナの口の気持ち良さはあったが、それとともにこれまでには無かった安堵感ややすらぎのようなものを感じた。
体に必要なものが染み込んでくるような感覚だった。朝から飲まず食わずで全力疾走を続けた後に、ようやく水を一杯飲んだかのような、そんな充足感に満たされた。
エンナは尻尾を振りながら、僕のペニスに夢中になっていた。頬の内側の肉に亀頭を擦りつけてみたり、口から舌を出してぺろぺろと嘗め回したり。猿の魔物のカク猿なのに、まるで散々お預けを食らった後の犬みたいになっていた。
僕はもうエンナがいなければ生きていけない身体になってしまったんだと実感した。けれどエンナもきっと僕と同じなのだと思う。
もしかしたら、これまでの事は全てエンナの策略だったのかもしれない。
最初は普通の女の子の振りをして僕の気を引いて、それなりの好意を抱かせたところで、無理やり襲って肉体関係を結ぶ。好意を持っていれば嫌がることは無いから、強引なセックスも受け入れられやすいだろう。そして身体の良さを教えたところで、一度引く。嫌われたくないからと我慢するそぶりを見せて、男の方から求めるように仕向ける……。
いや、考えすぎだろう。大体やろうとしても、風呂場でオナニーしている姿をわざわざ見せつける事までしなくたっていいはずだ。
本能的にやっている可能性は否定できない。けれど、仮に今までのエンナの行動全てが計算ずくだったとしても、そんなことはもうどうでもいいことだ。
エンナが居れば、僕はそれでいい。エンナとエッチなことが出来れば、僕はそれだけで満たされる。これまで感じたことも無いほどに生を実感出来るのだから。
僕はエンナの髪を撫でる。エンナは嬉しそうに、潤んだ瞳で僕を見上げた。
「そろそろ、出そう」
エンナはこくんと頷いた。
腰から熱が突き上がってくる。僕がそれを制御せずに、勢いに任せるまま体を解放しようとした。
「そこに、誰かいるの」
まさに射精する瞬間だった。
誰も来ないはずの踊り場に、人の声が聞こえた。聞き覚えのある女の子の声だった。
でも、まさか、そんなはずはない。だってまだチャイムだって鳴ってないんだから、彼女が来るはずが無い。
「猿渡君? エンナさん?」
僕の中の雄が暴れだす。一度解放の寸前までいった熱は、もう戻そうとしても戻せるものでは無かった。僕はまずいと思いつつも、エンナの口の中に射精せずにいられなかった。
抑えきれない熱い欲望が尿道を駆け抜ける。エンナの喉奥に向かって勢いよく注がれてゆく。
「ん、んんっ」
「やっぱり誰かいるのね」
壁の陰から女の子が顔をのぞかせる。階段を昇ってきていたのは、やっぱりクラスメイトの犬飼だった。
犬飼が僕達の姿を捉える。エンナの口に放精し続ける僕と、目が合う。
「猿渡、君?」
犬飼の場所からは、僕達の姿はどう見えていたのだろう。隣の席の男の子と、その股間に顔をうずめるクラスメイトの魔物娘。初心な犬飼は、まさか学校で口淫をしているなどとは思わないだろうが。
早く股間を隠せば、何とかなるだろうか。
「ぷはぁ。あぁん。やっぱりマサルの精液、最高っ」
……もう、どうにもなりそうになかった。
犬飼の気配に気づいていなかったエンナは、何のお構いも無しに僕のものを握りながらにやにや笑う。
「このまま、エッチもしちゃおっか」
「……授業中に何しているの。二人とも」
犬飼の唇が真一文字に引き結ばれる。光が眼鏡に反射して、今はもう彼女がどんな目をしているかも伺い知ることは出来なかった。
怒っているのだろうか。まぁ、普通はそうなるだろう。授業中に具合が悪いと偽って教室を抜け出し、淫行に耽っていたのだから。
「犬飼さん。これは」
「フェラチオしてたんだよ。犬飼ちゃん」
エンナはすくっと立ち上がると、犬飼に正面から向き合った。こちらに背中を向ける形となるので、僕の位置からだとエンナの顔は見えなかった。
「フェラチオって……何よ」
「知らないの? 口でおちんちんを気持ちよくして、射精させてあげる事だよ」
「そういう事を言っているんじゃないの。今、授業中なんだよ。みんな勉強してるのに、どうして二人は教室を抜け出してそんなことしているのって聞いているの」
「どうしてって……」
エンナは顔に手を当てて考えているそぶりを見せる。
「したかったから、かな」
「したかったって……」
「大好きな人に触りたかったの。一番敏感で大事なところを、優しく包んであげたかったの。苦しそうにしていたから、気持ち良くしてあげたかったの。だから、口でしてあげたんだよ。もちろん、私も気持ちよくなりたかったっていうのもあるけどね。
私、何かおかしなこと言ってるかな?」
犬飼の表情が凍り付いていくのが分かる。わなわなと、小刻みに震えているようにさえ見える。
「……あなた達魔物娘は、我慢て事を知らないの?」
「我慢したよ。教室ではしなかったもん」
犬飼は溜息を吐くと、僕の方を向いた。
「猿渡君。あなたがこんな、こんなふしだらで下品な人だなんて思わなかったわ。だから魔物娘には気を付けてって言ったのに。見損なったわ、こんな最低な男子だとは思わなかった」
「犬飼さん、僕は」
「犬飼ちゃん、ひょっとして妬いてるの」
僕の弁明は、再度エンナに遮られる。
犬飼は、しばらく押し黙った。沈黙というものはこんなにも空気を重くするものであるという事を、僕は生まれて初めて知った。
「そんなわけないでしょ。おかしなこと言わないで」
「だって犬飼ちゃんもマサルの事好きでしょ? 匂いでわかるもん」
「匂いって何? 馬鹿にしているの?」
「魔物の鼻は人間よりもそういう事に敏感なの。誰かが誰かに発情していれば、すぐに分かるんだよ」
「発情って……」
「最初は悩んだんだぁ。私もマサルの事気に入っちゃったけど、他にもマサルに気がある女の子が居たから。でも、犬飼ちゃんマサルと特に恋人同士ってわけでも無かったし、アプローチしてたわけでも無いみたいだったから、じゃあいいかなぁって思って」
「ふ、ふざけないでよ!」
何かが爆発したのかと思った。それほど大きな音だった。犬飼が、廊下の壁を思い切り叩いたのだ。
「私が猿渡君の事を好き? そんなわけないでしょ。顔もそんなにかっこよくないし、ヘタレだし、運動も出来ないし。そりゃ、ちょっと優しいけど。
でも私は、もっと格好良くて運動が出来て、私をリードしてくれるような人が好きなの。猿渡君の事なんて別に何とも思ってないんだから」
「ふぅん。じゃあ別にそこまで怒らなくたっていいじゃん」
「え……」
犬飼は、虚を突かれたようにぽかんとなる。
「別にクラスの誰にも迷惑かけてるわけでも無いんだし。これから誰にも見つからないところに行くからさ、今回は大目に見てよ」
犬飼は俯き、再び黙り込んでしまった。
「もう知らない。好きにすればいいじゃない」
そしてそれだけ言うと、とうとう僕達に背を向けて歩いて行ってしまった。
僕はしばらく何も言えなかった。エンナも何も言わず、犬飼を見送り続けていた。
それからしばらくして、ようやくチャイムが鳴った。
「……犬飼さん、泣いてたかな」
「そうかもしれない」
「悪いことしちゃったかな」
「でも、しょうがないよ。ねぇ、気晴らしにエッチしよ。ここの屋上、魔物娘達の休憩所の一つになってるらしいからさ」
エンナは明るい声でそう言った。多分、エンナなりに気を使ってくれたのだろう。
僕はそんな彼女の計らいに甘える事にした。
「そうだね。何か凄く疲れた気がする」
「ふふ。たっぷりご奉仕してあげるね」
嫌なことを忘れるためだけに、女の子を抱く。なんだか本当に、自分は最底辺の人間になってしまった気がした。
……いや、もう人間でも無いんだったか。
放課後前の最後の授業の間中、僕はエンナを抱き続けた。
制服を着たままのエッチは裸でのそれとはまた違う趣があって、いつもとは違う高揚感があった。けど、行為の間も犬飼の事が頭にこびりついて離れなかった。
彼女の事は嫌いでは無かった。好意とまではいかないが、気になる存在ではあった。その犬飼からあんな風に思われていたのだ。今はエンナと言う恋人が居るからそこまで傷つきもしなかったが、やはりヘタレだとか格好悪いとか思われていたのはショックだった。
犬飼の事を考えると、僕はさらに激しくエンナを抱かずにはいられなかった。
きっと心配して見に来てくれたというのに、あんなところを見せてしまったという罪悪感。好みの男では無かったという、失恋にも似た喪失感。
そこに授業中だという背徳感や、エンナに対する申し訳なさも加わって、僕の胸の中は黒いどろどろした情念でもみくちゃになっていた。
不快な感情を忘れたくて、癒されたくて、僕はエンナに夢中になろうとした。
身体中の快楽を掻き集めて下半身を滾らせた。何度も何度もエンナを突き上げて、精液をぶちまけ続けた。
エンナはそんな僕の事を分かっているのかいないのか、ただただひたすら僕に優しくしてくれた。
時間はあっという間に過ぎて、すぐに放課後になった。
チャイムが鳴ると、僕達と同じように屋上でいちゃついていたカップルが帰って行ったり、逆に男子生徒を連れた魔物娘がやってきたりした。魔物娘達は昆虫型、獣型、天使等と様々だったが、やっていることは大体一緒だった。
「僕達も帰ろうか」
「うーん。私、今日ちょっと寄りたいところがあるから先に帰ってて」
「えー。一緒に帰ろうよ」
駄々をこねる僕をぎゅっと強く抱きしめてから、エンナはあっという間に僕から離れてしまった。
流石魔物娘と言う身のこなしで、だらけていた僕には目で捕える事すら出来なかった。
「うふふ。焦らしプレイってやつ? 家にはちゃんと帰るから、ご飯作って待ってて?」
「インキュバスになると飯食わなくてもいいんだろ?」
「でも、魔界の食べ物にはエッチをさらに気持ち良くさせるものもあるんだよ? 解説本も持ってきてるから、色々試してみようよ」
「……浮気とかじゃ、無いよね」
「マサル以外の男の子に興味なんて無いよ。何なら貞操帯でも付けようか?」
僕は頭をかきながら、しぶしぶ頷いた。
「安心して。私はマサルが喜んでくれる事しかしないから」
エンナは僕に向かって片目をつむると、さっそうと屋上から去って行った。
魔物娘カップル達がいちゃつく屋上に、僕一人が残される。流石にいたたまれなくなり、僕は先に家に帰ることにした。
いつ運び込まれたのか、確かに自宅には魔界産だという食材が段ボール一箱分届いていた。
魔界の紀行本も同封されていた。食べ物の産地や効能、おすすめの料理法等が書かれていて、これを読むだけで料理も出来そうだった。
どの食材も面白そうだったが、特に目に付いたのは、ネバリタケとマタンゴモドキと言うキノコだ。粘りが強いとのことだったので、きのこ汁がよさそうだった。
あとは主菜として、魔界の豚の細切れ肉と、キャベツのような形をした魔界の野菜、まといの野菜で炒め物を作ることにした。
独りで料理をしているうちに、エンナの事が気になって胸が少しざわついてきた。
もしかしたら、エンナは怒っているのかもしれない。結局僕はエンナに甘えていただけで、エンナを抱きながら犬飼の事を考えていたのだから。男として最悪の事をしていた事になる。
帰ってきたら、ちゃんと謝ろう。そのあと、うんと優しくしてやろう。
二品とも手間のかかる料理では無かったので、調理はあっという間に終わった。そのうちすぐにご飯も炊けてしまった。
日も暮れ落ち始めて、部屋の中が夕日の赤でいっぱいになっていった。
僕は独りだった。こんなに孤独を実感したのは初めてかもしれなかった。
家にはいつも母さんが居たし、両親が図鑑世界へ仕事に行ってからも、いつもエンナがそばに居てくれた。
高校生にもなってこんなことを思うのはちょっと恥ずかしくもあったけれど、なんだか無性に寂しかった。
やがて日は完全に落ちて、窓の外には夜の闇が広がった。蛍光灯の光は白々しくて、なんだか部屋が乾いて見えた。
エンナ。まだ帰ってこないのかな。もしかして、もう帰ってこないんじゃ……。
不安を感じ始めたちょうどそのとき、玄関が開く音がした。
「ただいまー。マサルー、帰ったよー」
気付いたら立ち上がっていた。
向かってくるエンナと、廊下で鉢合わせた。エンナはカバンを放り投げて、いきなり僕に抱き付き口づけしてきた。
気のせいだろうか。いつもと違う匂いが混じっている気がした。
「ん、んっ。んん」
けれどそんな違和感は、舌を絡めているうちにすぐに消えた。舌の上がエンナの味で犯され、鼻腔の奥もエンナの匂いに満たされる。
エンナは上気した目で僕を見上げて来た。その頬も、ちょっと赤い。
「やっとキスできた。我慢するのって、結構辛いよねぇ」
「遅かったじゃないか。どこかに行くのなら誘ってくれればよかったのに」
「大丈夫。明日は一緒に出来るよ。今日はそのための準備してたの」
「準備?」
「うん。それより、私お腹すいちゃった」
下腹部を撫で、淫猥な表情から発せられるその言葉は、とてもではないが文字通りの意味には聞こえなかった。
「子宮が空っぽでキュンキュン言ってるの。精液欲しくてうずうずしてるの」
僕のペニスも、大体同じような状態だった。キスしたことで、エンナに対する欲望が再燃し始めていた。
ただ、せっかく作った料理を食べないのももったいない。
「ご飯食べてからにしないか? せっかく作ったんだし」
「マサルの手料理! そうだった。それは食べなきゃ」
エンナは一瞬で腹ペコの子供になると、尻尾を大きく揺らしながら駆けて行った。
「ちゃんと手を洗えよ」
可愛いけれど、相変わらず読めないなぁ。僕はエンナのカバンを持って、彼女の後に続いた。
「ネバリタケとマタンゴモドキのきのこ汁に、魔界豚とまといの野菜炒め。マサル、なかなか食材の使い方が分かってるね」
「いや、適当に使ってみただけだよ。美味いかどうかまだわからない」
二人でいただきますをして、僕達は夕食を始めた。
エンナは本当に美味しそうに僕の作った料理を食べてくれる。作った方としては、こんなに嬉しいことも無い。
「美味しいね! これ!」
「僕はまだ食べてないよ」
苦笑いしつつ、きのこ汁に口をつける。
出汁や調味料をほとんど使っていないにも関わらず、その味は奥深くて風味豊かだった。ネバリタケにもともとついているらしい甘辛い味わいに、マタンゴモドキの奥深い甘さが重なって、ピリッと刺激がありつつもまろやかな味に仕上がっていた。
汁自体のとろみも強く、後を引く美味さがあった。
「ねぇ、知ってる? ネバリタケを食べると、体液が凄くねばねばするんだって。あと、マタンゴモドキを食べると男の人のキノコの事しか考えられなくなっちゃうんだって」
「へぇー」
なんだか凄いことを言いつつも、エンナはしかし食事の手は止めない。効果を分かっていて食べているのか、それとも火を通せば効果が薄れるようなものなのだろうか。
ともかく作ったものは食べなければもったいない。
僕は肉野菜炒めの方に手を付ける。
結構火を通したにも関わらず、魔界豚の肉はとけてしまうように柔らかかった。脂身もジューシーでいてしつこくなく、味も濃厚で、単純に美味しくてご飯がどんどん進んだ。
炒め物だけでなく、コロッケやステーキにしても美味しそうだ。
一緒に炒めたまといの野菜もほんのりと甘く、しゃきしゃきとした歯ごたえが楽しめた。こってりした肉の油に、さっぱりとした甘みがよく合っていた。
素人の僕が適当に料理しただけでこんなにも美味しく料理出来るのだとしたら、本場の料理人が調理したらいったいどれだけのものが出来上がるのだろうか。
「ちなみに魔界豚は栄養価が高いから、食べるとインキュバスでなくても三日三晩ぶっ通しでエッチ出来るようになるみたいだよ。
まといの野菜も美肌効果と肌の活性化の効果が凄いんだって。食べすぎると肌が敏感になりすぎて服を着てられなくなっちゃうって噂だよぉ」
エンナはリスみたいに口の中を一杯にしている。かわいい。食べる姿がかわいすぎて、あまり話を聞いていなかった。
「あ、これ何」
エンナは小皿に乗った、赤みがかったグミのようなそれを見る。
「まといの野菜の真ん中にあったんだ。芯みたいなものかなぁ。食べられるか分からなかったんだけど、一応お皿に盛ってはみたんだ」
「ねぇ、私もらっていい?」
「え、いいけど」
美味しい物なのだろうか。とにかく、エンナが食べたいというならそれで構わないだろう。
エンナは楽しそうに食事を続ける。なんだかちょっと水を差してしまう気もしたが、今言っておかなければ忘れてしまう気がした。
「あ、あのさ、エンナ」
エンナはお椀から、視線だけこちらに向ける。
「さっきは、その、屋上の時は、ごめん」
「何が?」
「その、余計なこと考えてたっていうか」
「犬飼ちゃんの事考えてた事?」
僕はすぐに返事が出来ない。
「別に気にしてないよ。最初にした時にも言ったけど、実際マサルがセックスして、射精した相手は私なんだし。……でも」
エンナはちょっと意地悪で、それでいてちょっと寂しそうにも見える、何とも言えない笑顔で言った。
「浮気は、嫌かな。私の知らないところで、私の知らない女の人とエッチしてたら、嫉妬に狂ってマサルの事監禁しちゃうかも」
「それは、怖いな」
「痛がることはしないよ。でも、私の気が済むまでエッチ以外の事は何もさせないと思う。気が済むのが一週間後か、一か月後かはわからないけど」
「……まぁ、エンナ以外とする気になんてなれないんだけどね」
「ふふ、そうだよね。マサルは私にぞっこんだもんね」
「エンナだってそうだろ」
「もちろん。はい、ごちそうさま」
のろけ話ではなく、エンナは本当に食べ終わっていた。
デザート代わりか、最後に残ったまといの野菜の芯を口に含んで、舌の上で転がし始める。
しばらくそうして味を楽しむと、喉を鳴らして嚥下した。その喉の動きが精飲した時と似ていて、僕はどきりとしてしまった。
エンナはそんな僕の顔を見て、にやりと笑う。
「何か、肌が火照ってきちゃったなぁ」
僕の目の前で、ゆっくり少しずつ制服を脱ぎ始める。
「ねぇマサル、早く食べてエッチしようよぉ」
リボンを外して、ベストを脱ぐ。ブラウスは見事に大きな乳房に押し上げられていて、赤色のブラが透けて見えていた。
「学校でベスト脱いで無いの気づいてる? 脱いだら、下着透けちゃうからだよ? マサル以外には、ブラ透けだって見せたくないの」
エンナは、ブラウスのボタンも一つ一つ外してゆく。
「脱がしたくない? 早くしないと、全部脱いじゃうよ?」
見とれていた僕は、慌てて残っている料理を掻き込んだ。美味しいのにもったいない気もしたが、このまま全部脱がれてしまうのももったいない。
「ほら、ほら」
エンナはブラのホックに手をかけ始めていた。
僕は急いで最後の一口を飲み込んで、急いでエンナのもとに駆け寄った。
ベットの上がいい、と言うので、僕の部屋ですることにした。
エンナはベットに横になり、僕に流し目を送る。
裸のエンナも見てきた。制服のエンナも見てきた。けれど、脱げかけの姿もまた強く惹かれるものがあった。
ブラウスの隙間から、ブラジャーに包まれた柔らかな双丘が顔を覗かせている。食い込み気味のそれが、たまらなくセクシーだった。
「エンナ。このまましちゃおうか?」
「だぁめ。今日はマサルの身体を肌で直に感じたいの。……早く、脱がせて」
僕はエンナの上に覆いかぶさって、ブラウスに手をかける。
ほっそりした肩を、腕を滑らせブラウスを脱がせる。エンナを覆うものが無くなってゆく。
次はスカートだ。ファスナーを下ろすと、エンナは自ら腰を上げて僕を手伝ってくれた。
残るは、下着だけだ。
「マサルの方も脱がさないとね」
エンナは器用に僕のシャツを脱がす。はいていたズボンも、尻尾だけを使ってするすると簡単に脱がされてしまった。
「上手になったでしょ」
「エロい事ばかり上達してないか」
「マサルに言われたくないなぁ」
僕はエンナの腰元にしゃがみ込んで、彼女の膝を押し広げて股間に顔を近づける。
エンナの強い匂いがする。クロッチの部分が、もうぐっしょり濡れていた。
指先でなでると、エンナは太ももを震わせた。指を離すと、糸を引いた。
試しに軽く舐めてみると、エンナの強い味がした。パンツ越しなのに、愛液がねっとりと舌にまとわりついてきた。
「マサルのせいだからね。ネバリタケなんて使うから」
僕はエンナの脚を抱え上げてパンツを脱がせる。
薄い生地の下で、エンナは粘つく涎を垂れ流しながら、僕を求めてあそこをひくひくさせていた。
「お願い。今すぐちんぽ入れて」
あまり聞いたことのない、エンナの切羽詰まった声だった。
「ごめんね。いつもみたいに舐め合ったりしたいよね。でも、なんか今日はおちんちん欲しくてしょうがないの。一秒でも早く、欲しいの」
いつもの余裕がどこにもなかった。ただ必死で雄を求める雌の姿に、僕はすぐに獣に堕ちてしまう。
胸元ににじり寄り、ブラのホックを外して口で咥えて取り外す。真っ白なおっぱいの谷間に顔を埋めながら、僕は腰の位置を合わせる。
粘つく蜜に濡れた柔肉が先端に触れる。僕はそのまま、腰を突き込んでゆく。
「あ、あ、あっ。あああぁー」
エンナの艶っぽい吐息が理性を更に蕩けさせてゆく。
獣毛の生えた両腕が、更に強く僕を胸元に抱き寄せる。脚も腰に絡みつかれて、僕は身動きが取れなくなるほど、強く深くエンナの身体に囚われる。
「しあわせぇー」
エンナは蕩けきった表情で僕を見下ろす。
さっきまでの必死さはどこへ行ったのか、すべて満たされて今にも微睡んでしまいそうな顔だった。
「マサルぅ、もっとおくぅ」
エンナの脚が締まる。腰が奥まで招き入れられる。僕の先端が、エンナの最奥を擦りあげる。
エンナは声にならない声を上げて、キュッと膣を締め上げてくる。
身体の外から、中から強く抱きしめられ、僕の方もまた強い充足感に満たされ始める。
そして、それと同時にいつものような獣欲もまた湧き上がる。
僕は本能に身を任せ、腰を振ろうとする。しかし、腰が、身体が上手く動かせなかった。
膣と男根がぴったりとくっついて離れたがっていないみたいだった。エンナの締め付けが強すぎるのと、彼女の愛液と僕の我慢汁の粘り気が強くなりすぎて、ねばねばと接合部に絡みついて、かなりゆっくりと動かさないと抜き差しすることも出来なかった。
「エンナ、これ、まずくないか?」
「何がぁ? いいじゃないぃ、一晩中、こうしてよぉー。朝も変わらなかったらぁ、明日も続ければいいんだしぃ」
エンナは僕の頬を両手で包み込んで、口づけしてきた。
唾液も、いつもよりねっとりと絡みついてくる。それは僕の方も変わらないようで、僕達はすぐに顔じゅうべたべたになった。
「気持ちいいねぇ、マサルぅ」
確かに、気持ち良かった。
入れているだけではあったが、エンナの膣は精子をねだるようにゆったりと蠕動し、ねっとりとした愛液に濡れた柔襞が繊細に揉み解すように動き続けていた。
勿体つけるような感触に、逆にいつも以上に追いつめられてゆく。動かないことによって、エンナの形が、動きが、細やかに伝わってくる。
膣の動きだけでは無い。呼吸の音、心臓の鼓動、肌の震え。
たまらず、最初の一発を吐き出した。
「あっ。くぁあ、マサルのせぃえき、濃くて、粘ついてる」
僕は彼女の背に強く腕を回して、抱きしめる。
「凄い、どろどろ。膣の奥に、子宮の中に張り付いて……。中に、入ったまま、出て、来ない。これ、やばい」
彼女の肌が少しずつ汗ばんでくる。その汗さえとろみを帯びて、ローションみたいに僕達の肌の滑りを良くさせた。
エンナの顔は、お酒を飲んだみたいに真っ赤になっていた。その目はもう獣欲に濁り切っていて、本当に酔っぱらってしまっているみたいだった。
肌も敏感になっているのか、少し肌が触れ合っただけでもエンナはびくんと肌を震わせた。
僕は目をつむって、彼女の身体をゆったりと抱きしめる。今日は激しく動くより、こうやって静かに互いの身体を抱き合っていた方が楽しめそうだった。
僕達は一晩中ずっと、身体の外側も内側も、貝みたいにぴったりくっつきあって過ごした。
膣の動きはもちろんのこと、僕達はお互いの息遣いや体温で、少しずつ少しずつ時間をかけて大きな快楽へと上り詰めて行った。
そして二人で頂上へとたどり着き、いつ終わるともしれない長くて深い絶頂を迎えた。
僕の止まらない射精を、エンナは全て優しく受け入れ、貪欲に飲み干してゆく。そして彼女の声が、匂いが、味が、鼓動が、僕に降り注いで、また力を与えてくれた。
愛欲は循環し、終わらない快楽に僕達は延々と酔いしれつづけた。
15/09/05 22:48更新 / 玉虫色
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