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パァァ……。 転移方陣が輝く。同時にルミルの持つリストに記された名前の一つが輝きを持ち始めた。 その名前は――ナルシャ=クインゴート。 「ほう、'あの'ナルシャも呼んだのか」 「来るとは思いませんでしたけどね」 サバトの中でも、特に兵器の研究開発に力を入れるため、ミノタウロスやケンタウロスなどの、本来サバトには属さない魔物が多数所属しているのが彼女のそれの特徴である。彼女自身も普段から白衣を着用するほどの研究熱心ぶりを示す。 その彼女が、ルミルの呼びかけに応じた理由、それは……。 「大祖様、お久しぶりで御座います。……心にもないことをよくもしゃあしゃあと口に出せるのう、ルミル。主は言うたよの?『そう言えば主が前から欲しがっていた書物が幾つかあったのう。今儂の手元に揃っているのじゃが……』と思わせぶりに誘ってからに」 「はいはい、コレじゃろ?『メサーオ=ヴぁ〇ス〜その遺産と組成の謎』『伝記:ウッドストック=アンデージ』そして『年刊鉱物永久保存版』じゃ。言うまでもないが紛失するでないぞ?」 大祖に対する挨拶も早々にバッグを取り出すナルシャに、ルミルは本を数冊取り出して渡す。その全てが研究に関係するもの……かどうかは分からない。特に真ん中が。だがあくまでもナルシャは研究目的で本を貰っている。 「分かっておるわい♪……ふふ……ふふふ……これでようやく卑金属を用いた比較的安価な、魔力機動の身体能力強化が可能になる兵器の製造に……一歩……また一歩……!」 口振りこそ怖いが、笑顔は至って純粋である。思わず手を貸したくなってしまう笑顔を振りまきながら、ナルシャは本をバッグにしまった。 その一部始終を目にした大祖が、ルミルに白い視線を向ける。 儂にも何か無いのか、と。 「大祖様は頂いてませんか?『特撰:デルフィニウムセット』。『蓬莱湯』や耳掻き、扇子やタオルなど最高級のグッズを取り揃えて本部開発局宛にお送りしたのですが」 しれっと返答しつつ、見本品をすぐさま取り出すルミル。用意周到というか何というか表現に困る状況である。 「むぅ……」 見本品をしげしげと手に取りつつ、それに類する物はなかったか記憶を探る大祖をそのままに、ルミルはナルシャが先程からバッグをごそごそとやっているのをそろそろ突っ込もうと口を開いた。 「……で、何をいつまで探しておるのじゃ?ナル……シャ……?」 声をかけたルミルの脳内で、謎の警鐘機がガンガン鳴り響いた。何故鳴り響くのか理解できていないルミルだが、知らず一歩後退りする。 その手をがしり、と握り締めるナルシャの目は……80年代少女マンガ張りに光り輝いていた。もう片方の手は、何故かカードホルダーらしき物が付いたベルトを持っている。恐らくこれを腰に巻き付けて、カードか何かをスラッシュするのかもしれない。 壮絶な悪寒。ルミルはそれをひしひしと感じながら、心ウキウキ瞳キラキラのナルシャの言葉を待っていた。ここで他のギフトの中に混ざって置かれていたアレがそうだったことを思い出した大祖が、ルミルの方に一言文句を言おうと近付いて……ナルシャの発明品に気が付いた。 「……ほう」 ――ナルシャに、異様な緊張感が走る。何せ相手は、ナルシャのサバトを独立企業とするならば、最大手にしてリーディングカンパニーというスペック過剰の会社を率いている社長のようなものである。 同じリーダーでも格の違う、畏敬の対象に、自らの発明品を品定めされている……これほど緊張する事はそうそうないだろう。 大祖に言われずとも、発明品を渡すナルシャ。捕まれた手が外されたことで安堵するルミルの横で、大祖はしげしげとベルトを眺め、カードを……そこに込められた魔力も含めて確認していた。 「ふむ……」 粗方見終えた後で、ナルシャに丁寧に返す大祖。そのまま瞳を閉じ、さながら判決を告げる裁判官の如く口を開く。 「……中々面白い発明ではないか。量産して使えるかは知らぬが、自制が効く限りどんな難場にも対応出来るようじゃのう。 流石'兵器のナルシャ'と名高き主じゃ♪」 「――!?」 その瞬間のナルシャの表情の変わり様!緊張が解れるのと同時に喜色満面となり――そのまま事態の重大さに少し恥ずかしげな照れ顔へと変化する。 「ッ!?」 ナルシャの夫である元勇者:曰く『この表情をリャナンシーに描いてもらって何枚もコピーしてハーピーを使って全世界にばら撒けば世界は平和になるんじゃなかろうか?いや、なる』と言わしめる照れ顔に、思わずルミルはときめいてしまい、密かに不覚と思うのだった……。
11/05/08 22:48 up
腐乱死巣氏より、ナルシャ=クインゴートをお借りいたしました。 小ネタ ウッドストック:森石術→石ノ森 アンデージ:アンダーエイジ→ショタ→正太郎 4/28、ここまで。例によって後の展開は考えておりませぬ。 何かやって欲しいことがあればコメント欄にて。 初ヶ瀬マキナ
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