連載小説
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オークション開始
 ーーとある屋敷・控室ーー

 屋敷に迎えられた子ども達は疲れを癒やすべく、ふかふかのベッドで熟睡した。その後朝8時頃に起こされ、大抵の者にとって初めての豪勢な朝食を振る舞われた後、大浴場にて入浴し、身を清めた。

「何するんだろうね?」
「さあ?」

 そしてあの忌々しい男色家の奴隷商人に剥ぎ取られた粗末な衣服に代わり、新しい服を与えられた少年達は屋敷の控室に集められていた。
 もうすぐ正午になる。控室にいた少年達は知らなかったが、ぞくぞくと“客”が集まりつつあった。

「もう一回さっきのローストビーフが食べたいなあ」
「ハハハ! デン君お腹すくの早すぎでしょ!」

 あの奴隷商人どもと違い、魔王軍は少年達をかなり丁重に扱っていた。朝食においては“精がつくように”わざわざ牛や豚、羊などの肉類を、これまた精力増進に効果大なハーブ類で味付けした料理が振る舞われた。彼等は貧しい農家の子や浮浪児などが大半であり、肉類は滅多に口に出来ないため、現実離れした光景に放心した子さえいたほどである。
 当然、皆がっついて食いまくり、育ち盛りなのもあって用意されていた肉もパンもスープもデザートも食い尽くしてしまった。そんな美味い食事に加え、風呂と服まで用意してもらえたのだから、まさに至れり尽くせり。あの地獄から一転、皆幸せを感じている。

(はぁ。ノンキでイイよな、こいつら……)

 皆、幼い子どもばかり。一応精通こそしているが、恋愛も、どうやって生き物は子どもを作るのかさえ知らない。
 しかし、そんな幼い子ども達の中で1人、妙にませた、あるいは擦れているというべき少年がいた。

(魔物が善意で行動するわけねーだろ。こんなに良くしてくれるのはあくまでオレ達を扱い易くするために決まってんだろうが)





「おっ、ヒナじゃ〜ん」
「ランか」

 “開始”までまだしばらくあったため、屋敷の庭に出て時間を潰していたヒナ一行。そこへ別働隊を率いていたハイオークのラン・ドレースがやって来た。

「そっちの方が早かったみたいだな」
「手こずったのか?」
「まさか」

 ランは頭を振る。

「変態野郎ども相手に苦労なんざしないよ。それより一人イキの良いガキンチョがいてねぇ、そいつが抵抗するもんだから時間がかかったのさ」
「あぁ、たまにいるな。我々を人食いと勘違いする者が」
「ガキンチョ相手に手荒な真似はしたくないよ。そんなことすりゃますます勘違いされるからねぇ」
「違いない」

 相槌を打ったヒナは笑う。

「なんか嬉しそうだねぇ。良さそうな子がいたのかい?」
「ああ」
「! そりゃおめでたいねぇ! 良かったじゃないか!」

 同僚がようやく番を見つけられたことを喜び、ランはヒナの腰をバシバシ叩いた。

「お前さんはどうだい」
「残念ながらアタイは収穫ナシさね。さっき言った小僧も好みじゃないしねぇ」
「気が強い子を探していたじゃないか?」
「確かにあのガキンチョは気が強いけど、それ以上に悪ガキすぎて話にならないさね」

 ハイオークはうんざりした様子でため息をつく。










 ヒナが奴隷商人チキンレッグ・カルパスを成敗したのと同刻、ランの一隊は悪名高き奴隷商人プレーンズ・ダイビングビートルのアジトに侵入していた。

「おらぁー!」
「グワッ(ウルトラマン風)」

 魔物娘達は向かうところ敵なしであり、奴隷商人達を薙ぎ倒していく。

「ここがボスの部屋か……」

 そうして、組織のボスであるプレーンズの部屋に辿り着いたがーー

「クソッ、開かねぇ! アタイでも開けられないとは、なんて硬い扉さね!」

 ハイオークは魔界銀製の両刃のバトルアックスを何度も叩きつけるも、扉は分厚い特殊合金製で通じない。さらに部屋も頑丈に作られている上防音仕様になっており、中の様子も全く分からなかった。





「お前には正義の鉄槌でその腐った心を矯正してやる。こっちへ来い!」

 黒い作務衣に、怪しいマスクを付けた男。この男こそ人身売買組織の長にして、商品である少年をつまみ食いするのを趣味とする男色家(ガチホモ)ーーその名をプレーンズ・ダイビングビートルといった。

「縛られてるんだから動けるわけねーだろバカ!!」

 そんな変態野郎に抵抗する、全裸の上に縄で亀甲縛りにされた少年。彼は今日の栄えある生贄(オモチャ)に選ばれたのだが、当然受け容れるはずもない。

「この野郎! 私に対して失礼な態度!!」

 もっともらしいことを言って怒るプレーンズだが、この場合悪いのは少年を攫って縛る彼の方である。

「けしからん、私が喝を、入れてやる」

 チキンレッグと同じく台詞をたどたどしく言う奴隷商人。

「正義執行!」

 プレーンズは少年の口にゴムパッチンを噛ませ、それを引っ張った。

「ーーぐあぁっ!!」

 ーーが、少年が大人しくそれを喰らうはずもない。伸ばしているところで少年は口を開けたため、逆にプレーンズの方がゴムパッチンの制裁を受ける。

「ん゛ん゛ん゛ん゛、がわ゛い゛い゛な゛ぁ」

 倒れたプレーンズだが、目を血走らせ、くぐもった声を発しながらすぐさま起き上がる。その様は謎の強キャラ感を出していた先ほどよりもむしろ恐ろしいものがあった。

(何だコイツ、急に雰囲気が変わりやがった……!)

 強気な態度を装いつつも、少年は内心では恐れ慄いていた。男の変貌ぶりはまるで奴隷商人からコミュ障キモオタに変わったかのようだったからだ。

「クソッ、クソォァ!」

 少年は必死でもがくが、亀甲縛りは緩まない。

「フォォーッフォッフォフォッフォ!! フォォーッフォッフォフォッフォ!! 無゛駄だよ゛」

 そんな少年の足掻きをプレーンズは、甲高い笑い声からのくぐもった呟きという不気味な調子で嘲笑う。

「まずお前にはこれで……遊んで見たいと思う」

 そして狂気の笑み(マジキチスマイル)を浮かべ、天井から吊り下げていた縄を引っ張り少年を持ち上げる。

「おいテメェ何をするんだヤメロ!!!!」

 慌てる少年の必死の制止も虚しく、プレーンズは少年の金玉(リンゴ)にヒモを巻き、部屋の隅に置いてあった重装備の台車(プレーンズ・チャリオット)に繋ぐと、自分はその上に乗る。

「そのお前のチンコに括り付けたヒモで、台車(これ)を引っ張れ」
「頭おかしいんじゃねぇのかテメェ!? 頭ん中にフェアリーでも住んでんのか!?」

 滅茶苦茶な要求をされ、当然少年は怒り狂って面罵する。それが気に障ったのか奴隷商人は台車から降りるとーー

「ぶべらっ!?」

 少年の顔面にガチビンタをくらわせる。

「今この時は私が主人だ。受け答えは全て『はい、ご主人様』だろ?」
「くたばれ!!」

 少年は気丈にも男に唾を吐くがーー

「がっ!!」

 罰として今度は胸にヤクザキックをくらわせられる。

「そんなことではお前を買ってくれる主人は現れないぞ」
「うぅ……」

 ヤクザキックに怯む少年。だが、その心はまだ折れていない。

「ホラ暴れんなこの野郎」
「チクショー!」

 しかし抵抗虚しく、縛り上げられた少年は変態野郎(プレーンズ)の玩具(オモチャ)にされていく。

「やめろぉぉぉぉ」
「あ、ドーナツみーっけ! いただきまーす!」
「さわるなああああ」
「今度はチミも気持ちよくしてあげるのだ!」
「うああああああ」
「田舎少年はスケベな事しか考えないのか」
「うおお……」
「効くじゃろ? この媚薬入りのお茶は三杯飲むと一生勃起が収まらぬのじゃよ」
「ぐああああああ……」
「まるで鍾乳洞のようじゃ……」
「ライダー助けて!」

 魔物娘ですら目を覆うような惨劇の数々が繰り広げられた。

「ナメ…ん…な、コ…ラァ……」
「まだ逃げようとするのか? 無駄だよ。その扉は私の『どうぞ』という声にしか反応しないのだ」

 ひとしきり弄ばれぐったりするも尚心の折れぬ少年。そんな彼の心をへし折り奴隷とすべくプレーンズは説明するがーー

「あ」
「「「「「「「「あ」」」」」」」」

 奴隷商人の言葉に反応し、扉が開く。すると、そこで扉を開けようと四苦八苦していた魔物娘達と目が合った。

「なにィィィィ敵襲!? 何故部下どもは連絡しなかったッ!?」
「ハッ! 連絡用のモバイルクリスタルは全てアタイらが奪っていたのさ!」

 ランは奪取済みのモバイルクリスタルの数々を床にぶち撒いた。

「奴隷商人プレーンズ・ダイビングビートル! お前を人身売買その他諸々の容疑で逮捕する!」
「フン! 私を捕まえるために魔王軍がわざわざお出でになるとはな!
 いいだろう。君達には私の【悶絶少年調教術】を見せてあげよう」

 多数の魔物娘達に踏み込まれて尚、プレーンズは余裕の態度を崩さない。それどころか怪しげな構えを取り、挑発する始末である。

「下がってなお前ら。アタイがやる」

 その態度が気に食わなかったのか、ランは部下達を下がらせ一人前に進み出る。

「余裕だな!」

 そんな余裕ぶった黒豚女にプレーンズは素早く突進する。

「ほら手ェ!」

 そしてハイオークの顔面に左掌でガチビンタをくらわせ、

「ほら足ィ!」

 さらには右足でのヤクザキックをくらわす。

「効かないねぇ……」

 しかし、くらったランはニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる。このコンボもハイオークの耐久力の前には無力であったのだ。

「ならば!」

 プレーンズは台車(チャリオット)の方に走っていく。

「これならどうだぁ!!」
「「「「「「「「!」」」」」」」」

 【悶絶少年調教術】とは一体何だったのか。プレーンズは台車に飛び乗り、据え付けられた6連装ガトリングガンを魔物娘達目がけて撃ちまくる。

「「「「「「「「うわああああああ!!!!」」」」」」」」

 さすがの魔物娘達も大口径弾を連射されては逃げ惑うしかない。

「コンニャロ!」

 しかし、そこは隊長。ランだけは弾丸の雨を掻い潜り、台車に肉薄。

「何ィ!?」

 斧をガトリングガンに叩きつけ、銃身を破壊する。

「このブター!」

 ヤケクソ気味の怒りの右拳がハイオークに炸裂する。

「ふんっ!」
「ア゛ッー!!!!」

 しかし、もちろん効かない。直後、背後を取ったランは折れた銃身の一本を投げつけ、それがプレーンズの肛門に突き刺さってぶちこまれた。

「ほりゃっ! もう一押し!」
「ああああああああああああああああイグウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ」

 駄目押しとばかりにハイオークが斧の石突で銃身を突いて深く挿入すると、激痛と快感にプレーンズはクソきったない絶叫を上げながら絶頂。股間から多量の白濁液を噴き出す。

「堕ちたな…」

 ハイオークはその醜態を上から見下ろし、感慨深げに呟いたのだった。





「おぉーい少年、大丈夫か?」

 部下達に腰砕けのプレーンズを運ばせた後、放心状態の少年にランは声をかけるがーー

「! おっと」

 いきなり少年がぶん殴ってきたので、拳を掴んで受け止める。

「うがああああああああ!!!! 殺゛じでや゛る゛〜〜!」

 涙目の少年は錯乱し、折れたガトリングガンの銃身の一本を持って振り回した。

「落ち着け!」

 ハイオークは少年を羽交い締めにする。

「!」

 すると、少年の背中一面に入れられた入れ墨が目に入った。

「ははぁ、そういうことか。不良少年だったんじゃ、尚更今の場面は見られたくないわな」

 それを見て、ハイオークは得心がいった。アジトで保護された他の同世代の少年達と違い、この少年は体も大きく、力も強い。何より背中一面に入れ墨を入れているぐらいだから、元よりかなりの悪ガキだったのだろう。
 しかし、結局人攫いに遭い、おぞましい調教を受けてしまった。プライドの高い彼には耐え難いことだったはずだ。

「ほいっ」
「うっ」

 ハイオークは暴れる少年の腹にパンチし、気を失わせる。そのまま担ぎ上げ、部屋から運び出したのだった。





「そんな感じでガキンチョの扱いに手を焼いてねぇ。あいつ他の子にも脅したりすかしたりとつっかかかってさ、面倒臭くてもぅ」
「そりゃ周りの子も大変だな」
「でもな、そもそも周りからナメられまくってなぁ」
「何でだ?」
「入れ墨のガラだよ」
「柄?」
「ボソボソ……」

 ハイオークはアマゾネスに小声で耳打ちする。

「マジか!?」
「あいつ多分彫師に嫌われてたんだよ。じゃなきゃあんなファンシーなガラにはならないって」
「……それならギリギリ、ジパングの銭湯には入れるな」

 二人は銭湯に入ったことがないので実際のところは分からないが、そんな気はした。





「そろそろ時間か」
「アタイらも見張りに行かなきゃな」

 そして正午となった。ヒナとランの隊はそれぞれ屋敷の正門、裏門に向かい、警備の任についた。





「皆の衆ご注目なのです!」
「んー?」
「なになに〜?」

 同刻、控室でのんびり過ごしていた子ども達の所に呼び出し係のファミリアがやってきた。

「今から呼ぶ子はワタシについてくるのです☆」

 そして一人、子どもを連れて行った。

「何するのー?」
「オークションなのです!」
「オークションって何?」
「君のお嫁さんを決める儀式なのです☆」
「?」

 ニッコリ笑って答える使い魔。しかし同じぐらいの背丈でも彼女と違ってまだ幼いからか、少年はファミリアの言うことが分かっていなかった。





「まだかしら」
「楽しみだねぇ」
「ウヒヒヒヒ……」

 屋敷中央にある大きな舞台。その前の客席には魔物娘達がひしめいていた。世界のあらゆる地域から参加者達は集まっており、反魔物領も親魔物領も、さらにはジパングや不思議の国などから来た者もいる。

「皆様、大変長らくお待たせいたしました! 本日のショタ・オークション! 開始です!」
「「「「「「「「キャアアアアーーーーッッッッ!!!!」」」」」」」」

 司会の客席の魔物娘達から悲鳴にも似た歓声が上がる。

「まずご紹介いたしましょう! エントリーナンバー1! ファーストコークスくんです!」
「????」

 ワケも分からずステージに上がらされたファーストコークス少年。辺りを見回すと血走った目をした魔物娘達が自分のことを舐め回すようないやらしい視線で見ているのに嫌悪感を覚えた。

「ファーストコークスくんは一見ポワポワした感じの可愛い赤茶髪坊や! しかし内に秘めた意思は熱いタイプです!!
 チキンレッグのメモに書かれていた希望小売価格は150万ゴールド! 我々もそこから始めたいと思います!!」
「170万!」
「185万!」
「205万!」
「出ました205万! 他に誰かいませんかーっ?」
「1500万」
「え…」

 司会のセイレーンは一瞬言葉を失う。周りの魔物娘達も同様に、信じられないものを見る目付きで一斉に提示者を見つめた。

「1500万です」

 ニコニコと朗らかに笑うホルスタウロス。

「な……なんと早速1500万ゴールドォ!? 他に誰かいませんかー!?」

 しかし、それ以上の額を提示する者はいない。彼を狙っていた他の女達も恨めしそうにホルスタウロスを睨むばかりだった。

「では、1500万でファーストコークスくん落札ですー!!!!」
「????」
「うふふ、大丈夫よ。何も心配しないで」
「では、お部屋にご案内ですー!」

 ファーストコークスくんの手を引き、ホルスタウロスは早速部屋に連れて行った。

「では次に参りたいと思います! エントリーナンバー2! デンジーくんです!」
「????」

 デンジー少年もワケが分からぬ内にステージに上がらされた。同様に、魔物娘達の視線に嫌悪感を覚えたのも同じである。

「デンジーくんは一見気怠げなパツキン少年! ですが内に秘めた心は熱いタイプです!
 チキンレッグのメモに書かれた最低小売価格は120万ゴールド! 我々もそこから始めたいと思います!」
「150万!」
「200万!」
「350万!」
「おぉーっと! さっきの例があるせいか提示額の上昇速度が早めです!」
「400万!」
「550万!」
「フン……1200万だ!!」
「「「「「「「「!?」」」」」」」」

 そこでヴァンパイアが勝負を決すべく、八桁の高額を提示する。

「おぉーっと! 1200万が出ました! 他に誰かいませんか!?」
「「「「「「「「………………」」」」」」」」

 周りが悔しそうにヴァンパイアを睨むがどうしようもない。そんな負け犬達の無様な面を吸血鬼は満足そうに見回す。

「その子は我に相応しい故、相応の額を出しただけのこと」

 得意げに語り、ヴァンパイアはステージに上がる。

「………?」
「そなたは我が伴侶となるのに相応しい」
「?」
「まぁ、今ここで理解しろというのは難しかろう。よろしい部屋でたっぷり……」

 そう妖艶に笑いながら語りかけていたが、そこまで言ったところで客席後方の扉が破壊された。

「うわああああ!!!!」
「なっ、何だぁ!!??」
「デンくん、こんな所にいたのね!!!! 探したんだからもう!!!!」

 扉を破壊し、ずかずか踏み入ってきたのは短い金髪で軽装の女剣士。周りの魔物娘達には目もくれず、ステージに遠慮なく上がる。

「マキーマおねえちゃん!」
「何だお前は!!」

 女が手に入れた少年に馴れ馴れしく語りかけてきたので激昂するヴァンパイア。しかし、少年が名前を知っていた以上、知り合いであるのには間違いない。

「私はこの子の許嫁よ!!!!」
「……そうなのか?」

 ヴァンパイアは少年に尋ねるが、

「いいなずけって何?」

 少年はその言葉の意味すら知らなかった。

「この痴れ者め! 何が許嫁だ! 貴様はこの子のストーカーだろう!」
「シクシク、ひどいわデンくん………二年前に『おねえちゃんと結婚するー』って言ってくれたじゃない」
「そうなのか?」
「ん〜〜………おぼえてな〜い」
「ほら見ろ! 貴様の思い込みだ!」
「ウソよ!! そんなはずない!! デンくんはウソをついているんだわ!!!!」

 女は思い込みが激しいらしく、髪を振り乱し目を見開いて頑なにこう主張した。

「貴様のようなメンヘラサイコストーカーにこの子はやれん!! 私が引き取る!」
「ふざけないでよ!!!! デンくんは私に中出しするのよ!!!! 両親に売られたデンくんを八方手を尽くしてようやく探したんだもの!!!! 逃がしてたまるもんですか!!!!」
「えっ!!!!」

 しかし、女は迂闊にも少年の知らぬ事情を喋ってしまう。

「このっ!!!!」
「きゃっ!!」

 女の自己中心的で無神経な振る舞いに怒ったヴァンパイアは頬に平手打ちし、女はステージに倒れた。

「行こう」
「………………」

 ヴァンパイアは悲しみのあまり涙を流すデンジー少年を優しく抱き締めながら部屋に連れて行った。

「うぅ……」
「来い!」

 最初こそ警備を突破されたが、今は気落ちして大人しかったため、ヒナは容易に女を連行出来た。

「あいつダンピールだってさ……」
「ひえ〜〜、ここの警備突破するのはスゴイねぇ」

 しかし実力はあっても、好いた男への思いやりが足らなかった。それは誰の目から見ても明らかである。

「気を取り直して、オークションを続けましょう! エントリーナンバー3! トルボくんです!」
「????」

 前の二人と同様、トルボ少年も以下略。

「先ほどのデンジーくんと同じパツキン少年ですが、トルボくんは明るいいたずらっ子です!
 プレーンズのメモによると、最低小売価格は100万ゴールド! それではオークションスタート!」
「150万!」
「220万!」
「350万!」
「430万!」
(これ以上値段上がらないでくれ!)
「510万!」
(させるかぁーーっ!!)
「うっ…!」

 510万を提示したバニップが突如意識を失って倒れる。

「!? お客様!?」

 客席の背後に控えていた医療スタッフ達がバニップを慌てて抱えて運び出す。

「他に誰かいらっしゃいませんかー?」

 司会のセイレーンが尋ねるも、誰も手を挙げない。

「では、先ほどのお客様は倒れられたので無効となります」
「よっしゃ!!」

 バニップのすぐ背後で430万を提示していたクノイチはガッツポーズをする。

「????」
「さぁ、部屋に行こうかフフフフ」

 ワケが分からぬままトルボ少年もクノイチに手を引かれ、部屋に連れて行かれた。





 このような感じでオークションは進んでいった。そして、最後の商品である不良少年の番となった。

「それでは本日のトリ! 不良少年カツキーくんです」
「………………」

 ステージに上がってきたカツキー少年。しかし、今までの子ども達と違って明らかに荒んだ雰囲気であった。そして他の少年達と違い、自身が買われるという状況がある程度分かっているのか、魔物娘達に敵意の眼差しを向けている。

「カツキーくんは不良少年! 今まで地元でブイブイ言わせていたそうです! ええとプレーンズのメモでは……」

 しかしそこまで言いかけたところでセイレーンは黙ってしまう。

「……最低小売価格100万からスタートです!」

 今までと違い、セイレーンは最低小売価格を偽った。カツキー少年は性格が荒々しく従順でないため、売れればいいということで最低小売価格があまりにも安すぎたのだ。当然、そのまま発表すれば少年の精神衛生上良くないため、セイレーンは価格を引き上げたのだ。

「「「「「「「「………………」」」」」」」」

 しかし、誰も手を挙げない。不良ということで、大人しめの少年を狙う層が多いこのオークションではウケが悪かったのだ。

「え、ええと………」
「600万」
「あっ、600万ゴールド出ました! 他に誰かいらっしゃいませんかー!?」

 そんな中600万を提示したダークエルフ。結局彼女以外に手を挙げる者は誰もいなかったため、その場で落札が決まる。

「あら、じゃあ私の物ね♥ 早速部屋に行きましょうか♥」
「触んじゃねぇ!!」

 今までの例と同じく手を引こうとしたダークエルフ。しかし、カツキー少年はその手を払い除けた。

「ふざけんなこのクソアマが!」
「あら、イイ感じ♥ このクソガキっぷりがたまらないわね♥」

 しかし、ダークエルフは怒るどころかむしろ淫蕩な笑みを浮かべる。

「調教のし甲斐がありそうだわ♥」
「!? 放せー! ぶっ殺すぞー!!」

 ダークエルフは取り出した魔法の縄であっという間にカツキー少年を縛り、ウキウキ気分で部屋に抱えていった。

「これにてオークションはお終いです! 旦那様の見つかった方はおめでとうございます! 見つからなかった方も次回のオークションにご期待くださいませ!」










「おい、お前の上にはボスがいるんだろ。話してもらおうか」
「フン」

 オークション終了後、ランは屋敷の独房でプレーンズを尋問していた。しかし、当然知りたい情報を彼が吐くはずはない。

「私がボスだ」
「それは支部の話だろ? チキンレッグもイルトリートもそれぞれの支部長でしかない」

 チキンレッグ、プレーンズ、そして同じく今回捕まった悪名高き奴隷商人イルトリート・アンクルは“三銃士”の異名を持つ。彼等三人が並び称されているのは、ただ同時期に活動している悪名高い奴隷商人なだけではなく、文字通りの“三幹部”だからだ。

「お前達があの最低最悪の奴隷商人ギルド“野獣の結社”の所属だってことは分かってんだよ!!」
「………………」
「お前達は所詮手足。頭であるボスを潰さないと活動は止まらない。だからボスの所在を吐いてもらうぞ」
「ククククッ、無駄だよ」
「なにっ」

 ニヤニヤ笑うプレーンズ。

「ボスは非常に用心深い。向こうから接触してこない限り、我等三幹部でも会うことすら出来ない。そして、仮に出会えたとしてもボスを捕まえるのは不可能だ。ボスの強さは奴隷商人としてありえないレベルなのだ」
「はぁ?」
「例え今世間を騒がせているエンペラ一世であろうと、ボスには勝てない。ボスは強すぎる。それこそアダ名である“野獣”そのものだ」

 近年暗躍する男子専門奴隷商人ギルド“野獣の結社”。そのボスの正体は魔王軍ですら把握出来ていない。三幹部を捕らえたからこそ、今ここでボスも捕らえ、組織を壊滅させねば犠牲となる少年や青年は増えるばかりだ。

(ちっ、徹夜明けで眠いってのに面倒臭え!!)

 思わせぶりで語るプレーンズ。だが、この男を逮捕してからの警備任務、さらには今の尋問まで仮眠なし。いくら体力お化けの魔物娘であっても今の状態でそんなことを言われればイライラする。

(チクショ〜〜、ヒナの奴今頃見つけた子どもとしっぽりしてるんだろうな〜〜!)

 一方、休みを貰った同僚はついに見つけた生涯の伴侶とよろしくやっているだろう。独身である自分だけ貧乏くじを引かされた感じがする。

「さーて、あんまり時間かけたくないからハードにいくよ」

 だからこそ、さっさと帰って寝たいので、一刻も早くこの男から情報を吐かせなければならない。

「ふん、私が簡単に口を割るとでも」
「ほい!」
「ああああああああああああああああイグウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ」

 ハイオークによって再びアナルに金属棒を突き刺され奴隷商人は絶頂、独房にはクソきったない絶叫が響き渡ったのだった。
21/07/20 01:42更新 / フルメタル・ミサイル
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■作者メッセージ
備考&登場人物紹介

ラン・ドレース(♀、23歳)

 魔王軍所属のハイオークで、ヒナの同僚。未婚だが、彼女と違い今回の任務では番を見つけられなかった。とはいえ、ヒナと違って少年好みではないため、守備範囲は彼女より広いので気にしていない。もっとも、そんな彼女でも変態野郎のプレーンズは好みではなかったようだ。

プレーンズ・ダイビングビートル(♂、年齢不詳)

 チキンレッグ・カルパスと同じく悪名高き奴隷商人で、野獣の結社の分派の首領。ただしチキンレッグと違い、表の稼業もいくつか持っている様子。同僚と違いテンション低めで落ち着いている……と思われたが二重人格並のハイテンションに豹変することも。少年の睾丸にヒモを巻き、台車を引っ張らせようとするなど、クレイジーなプレイを好む。大人しめの美少年を好み、不良系は好きではないらしい。

カツキー(♂、14歳)

 通称:ス○ーピー。誘拐児の中では例外的に体も大きく力も強い。金色の短髪で、背中一面に入れ墨の入っている悪童。性格は不良らしく生意気で攻撃的、プライドが非常に高いが、背中の入れ墨の柄(極めてファンシーらしい)のせいで周りの小さい少年達からはナメられまくっている。その入れ墨のせいでプレーンズに目をつけられたのかは不明。

ボス

 通称“新説野獣(ナイアルラトホテップ)”。チキンレッグ・カルパス、プレーンズ・ダイビングビートルら奴隷商人の元締めにして師匠。今まで数々の奴隷商人を育て上げてきた男。謎の多い男で魔王軍ですらその正体を把握出来ていない。恐ろしいほどのカリスマ性の持ち主らしく、奴隷商人達はかなりの忠誠心を見せ、尋問にも相当抵抗した。
 分かっていることは彼もまた男色家(ガチホモ)であり、それ以外にはアイスティーが好きなことぐらいしか判明していない。プレーンズ曰く「恐るべきレイプ・テクニックの持ち主」。
 戦闘能力もかなり高いようだが、現魔王とその夫を圧倒したエンペラ一世並と評したため、これについてはさすがにプレーンズの妄言だと思われる。

野獣の結社

 男性奴隷専門の奴隷商人ギルドで、名前の由来は率いるボスの異名から。何故か幹部は皆男色家(ガチホモ)であり、また恐るべきマジキチプレイ愛好家が多いが、奴隷獲得のためには殺人も辞さない凶悪集団でもある以上、魔王軍とは敵対している。
 幹部はチキンレッグ・カルパス、プレーンズ・ダイビングビートル、イルトリート・アンクルの“三銃士”を筆頭にガッバァーナ・ダディ、デーヒー、オークション・マン、アオキなど凶悪な賞金首も多い。
 彼等は男色(ガチホモ)という女性を介さない恋愛、性交を是とする。そのため、魔物娘とは対局の位置にある。

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