連載小説
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飛んで火を吐く友のツレ 中編
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「悪い、見苦しいとこ見せたね。」
「い、いえ……。」

一頻りくすぐって憂さ晴れて大満足。横腹を羽で押さえてプルプル震えてるひなはさて置き、立ち上がって目的の迎え相手らしき少女を見据える。薄い灰色の髪をポニーテールにしたワイバーン…よし、間違いないようだ。

「清の彼女さんだよな?」
「あ、はい。『星川 凪(ほしかわ なぎ)』って言います。私を知ってるって事は、貴方が栴さん?」
「おう。…まぁ、早速だけど清んチ向かおうか。先方は一刻も早く会いたいみたいだし。」
「え、あ、はい!」

視界の端に物凄くドス黒いオーラを纏って走って来るミヤ姉が見えたので、取り敢えず不機嫌の元凶を遠ざける為にひなを脇に抱えて愛車を停めてある駐車場へと先んじて歩く。
…まぁ、急がなきゃならんのも事実だし。
ミヤ姉に捕まったオッちゃんの叫び声がどんどん遠ざかっていくのを背中で聞きながら、陽炎揺蕩うアスファルトを踏みしめる。ご愁傷様。

「にしても、清に彼女なんてなぁ。凪…ちゃんだっけ?」
「え?」
「あいつ、基本ズボラな癖に変なとこ几帳面だしその上人見知りするやろ?良く付き合う気になったもんだ。」
「そんな事無いですよ!キーくんは細かい所にもちゃんと目が行く利発で格好良い人なんです!」
「……利発…ねぇ。」
「はいっ!」

……あいつのアレは利発ってかただ細かいだけだと思う。まぁでも、この子がそう思うんならそうなんだろう。この子の中では。
そう心の中で一人ツッコミを入れていると、いつの間にか二代渡っての愛車である軽トラックの前まで来ていた。

「まぁ、後は車ん中で話そうか。きり、悪いけど今日は荷台に乗って貰うからな。あんま暴れんなよ。」
「……………はーい。」

くすぐりのくだりから背中にずっとしがみ付いていたきりといつの間にか眠っていたひなをトラックの荷台に敷いてある親父の古い布団の上に降ろし、ついでに助手席のドアを開ける。…鍵?んなもん掛けたら不便だろーが。

「荷運びに使うようなトラックで申し訳ないね。ま、狭っ苦しいが寛いでくれ。…酔い止め要るかい?」
「お気遣いありがとうございます!でも、車酔いはしないので大丈夫です!」
「ん、分かった。」

凪ちゃんが助手席に座るのを待ち、羽を挟まないように扉を閉める。

「……暴れんなよ?」
「………………?うん。」

一応、念には念を…まぁきりだから大丈夫だろ。……多分恐らくきっと。

「さ、んな事より速く行かねぇとな…。」

運転席へ回り込んで扉を開け、鍵を回して愛車のエンジンを吹かす。
……暑っ。ほんの10分程しか席を空けてないのにこの室内気温の上がりよう、今月も魔電代は六万の大台を崩す事はないな。……はぁ。
若干ナイーブになりつつも、月末の心配より今この時の一働き。
つか俺だって命惜しいし。
クーラーの電源を入れてセレクトレバーをドライブまで下げ、ブレーキを上げてアクセルを開け、車体を郷までの道へ向けてペダルを押してゆっくりと発進させる。

「…そう言や、凪ちゃんと清は何がキッカケで付き合い始めたんだい?サークル?」
「いえ、入学式のオリエンテーションで知り合いました!」
「へぇー?したらもう三年近く付き合ってんのか。」

……あのヤロー二年半以上も黙ってたってか?いよいよ持って言い逃れ出来

「違いますよー。まだ3ヶ月程しかお付き合いしてません。」
「え?じゃあ凪ちゃん…。」
「はい!大学一回生です!」

あー……成る程、読めた。アイツ、人見知りの癖に面倒見は無駄に良いからな。そこに惚れたか。

「キーくんは上京したてで右も左も分からなかった私を優しく案内してくれて…。」

ほれ見たことか。

「…栴さん、顔怖いですよ?」
「ダイジョブダイジョブ、ナンデモナイアルヨー。……ん?上京ってぇと、凪ちゃんは中央の出じゃあないんかい?」
「え、あ、はい。北関東出身です。」
「へぇ、なら実家通い?」
「下宿です。流石に飛行種族でも、片道3時間は疲れちゃいますよー。」
「そう言うもん?」
「そう言うもんです♪」

此方を見る凪ちゃんの快活そうな笑顔は、今日の青空によく映えていた。
……良い女モノにしやがって、改めて思うわ。爆ぜれ。



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「あ、あの栴さん。」
「んー?」
「キーくんのご家族ってどんな方々なんですか?」
「んー…女将さんと親父さんはアイツそっくりだなぁ。」

余程不安なんだろうな。清の家が近付くにつれ口数がどんどん減って清に関しての限定的な質問しかしてこなくなる。

「良かった、ちょっと安心しました。」
「もしかして、馬鹿みたいに厳しそうな人想像してた?」
「……ちょっとだけ。」

心底安堵したような苦笑いする凪ちゃん。……まぁその予想、『当たってるっちゃ当たってる』んだけどな。

「さ、着いたぞ。清んチこと『弓張鮮魚』だ。」
15/06/20 22:10更新 / 一文字@目指せ月3
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■作者メッセージ
暑くなって参りました。愛猫とチビさんもうだっております。

企画はもう少しお待ちください。
(風呂炊くときにまとめた紙を燃やしちゃったので…)

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