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飛んで火を吐く友のツレ 後編
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「………………。」
「……………。」
「……………。」

普段の『弓張鮮魚』からは考えられないあまりにも息苦しい静寂の中、店舗二階にある清の父ちゃん母ちゃんの部屋兼宴会スペースに置かれた長机。
目の前に座る清と凪ちゃん、この二人の対面…つまり俺の隣には神妙な面持ちをした着物を着た河童が一人、正座していた。

「……………。」
「…………。」
「…………。」

この静寂が部屋を支配して早5分、言葉一つどころか身動き一つすらない。……つか、これ俺居る意味あんのか?

「……水奈さん、俺帰っちゃダメ?」
「ダメ。」

一蹴されてしまった。因みにこの人は下月 水奈(しもつき みな)さん、清の『ばあちゃん』でこの郷の生き字引の一人だ。
…はぁ、つかどうしてこうなった。今日は魔電代の支払日だからこのまま帰って決算しないとなのに…。

「ば、ばあちゃん…。栴はこの件とは関係無いんだs」
「関係あります!赤子の頃から寝食を共にして来た兄弟とも言える親友の節目!今居らずして何時居ますか!!」
「は、はい…。」

……駄目だ、この分だと清の助け船は期待出来ない。凪ちゃんは……。

「………………。」

あ、駄目ですわコレ今にも貧血で倒れそうな顔してる。…そりゃそうだよなぁ、優しい両親の後にこれだからなぁ……。ショックも跳ね上がるってもんだ…。

「…はぁ。」

面倒くせぇから、サッサと要件言っちまえ。そうアイコンタクトで清に伝えるが、帰って来るのは『無理。これシメられるってレベルじゃない。』という表情だけ。……仕方ない、アイツの為にはならないが膳立てくらいしてやるか。

「そもそも、水奈さんは何で二人の交際に反対なんです?」
「交際もとい、清が中央ん大学ば行くんもざーま反対がやったばってん!波美と清一さんがどうしてもちたけん…!何より、清自身がおっに反論ばしち迄行きたかとこやっけん仕方な〜く了承したがよ!」
「了承したんでしょ?したら恋愛くらいするって予想出来たでしょうに。」
「ばってんこげん急に連れて来っちや思わんがぞー!!」

早くも素の方言に戻り、滝のように涙を流しながら年甲斐もなく駄々っ子宛らに腕を机に何度もぶつける水奈さん。でもそれに関しては同感。

「清、オメーもオメーだ。なぁんで今まで碌すっぽ連絡入れなかった?電話も携帯もあったろ。」
「そ、それは…ほら、色々…色々、な?」

冷や汗だっらだらの清。側から見なくたって分かる、こりゃ何か隠してんな。

「その色々って何だ。ハッキリ言え。」
「えーっとぉ…。」
「…………。」
「……………忘れてました…。」
「こぉん親不孝もん!!」

案の定、水奈さんの見事な左ストレートがまるで吸い込まれるかのように清の頬っ面へと叩き込まれた。
流石ハブ殺し、持ってるモノが違う。…餌食にならないように気を付けないと。

「き、キーくん!?大丈夫!?」
「おっどんがどんだけ心配ばしちょったち思っか!?見知らん土地で右往左往しちょかんせん、あっぱか不良に襲わりゃせんかち気ぃ揉んどったち言うに肝心のお前と来たら…!」
「ば、ばぁちゃんごめんって!ごめんなさい!!」
「まぁまぁ、清もこうやって謝ってるんだし水奈さん落ち着いて。」
「コラ栴、離さんね!」
「今日は『話し合い』なんですから、話さなきゃ意味ないで…しょ!っと。」

今にも二発目を打ち込みそうな水奈さんの両肩を後ろから掴み、無理矢理座らせる。
すると水奈さんが振り返り、鋭い眼光で此方を睨んできた。

「栴も清の説得ば手伝わんね!!もしかしたらずっと向こうばおるち言うやも知れ」
「それはそれで良いんじゃないですか?」
「な……。」

もう堅苦しいのも面倒くさいのでポケットから煙草を取り出して咥え、胡座で座りながら水奈さんの言葉を遮る。つか、何時から俺は交際反対派に加担している事になっていたのだろうか。

「な、何を言うん!?栴は兄弟同然の清ん事、心配やないん?!」
「だからですよ。コイツだって、もうケツの青いガキじゃあない。手前の道くらい手前で見極めるでしょ。」

信じられない、といった表情の水奈さんをさて置きライターで煙草に火をつけ、煙を深く吸う。

「で、でも…」
「水奈さんが中央で『色々』あった事、中央が危険な事は以前貴女自身から耳にタコ出来る程聞きました。でも今は水奈さんが居た時代とは違って治安は良いみたいですし、大丈夫ですよ。なぁ清?」
「え?あ、あぁ!こっちと違って夜も明るいし近くに交番あるし…。何だかんだこの三年間、ヤンキーに絡まれた事はない!」
「そ、そうなん?………。」

先程までの威勢は何処へやら、しかしまだ難しい顔をしたままの水奈さん。…後一押しか。

「ま、交際に関しちゃ俺は一切口出しする気はないですし水奈さんのお好きにどうぞ。」

…まぁ、その一押しは俺じゃなくて二人がするべきだし俺が聞く事じゃない。
少々勿体無いが、携帯灰皿に半分も吸えてない煙草を押し込んで蓋を閉める。そして立ち上がり、先程一時の喧しさが嘘のようになった部屋を出た。

「…さて。」

一階で波美さんに電話借りて帰るか。
15/07/05 23:40更新 / 一文字@目指せ月3
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■作者メッセージ
はいどうも、一文字です。
気温も高くなって参りましたね。

さて、今回はちょっと解説をば。
清のばぁちゃん、水奈さんは河童なのに清は人間で男…これは栴達のいる世界では割とある事です。
何故かと言うと、この世界線では魔物化する条件に「魔力の蓄積」と言うものを追加してあります。
これは人間同士で人間の女性を産んでも様々な要因で魔力が溜まり、それがある一定を超えた状態で男性とまぐわうと魔物化する。と言うものです。そして「ある一定」は個人差があります。
つまり、裏を返せばある一定まで魔力が溜まっていなければヤっても魔物化せず、男児を産める確率がある訳で、その結果産まれたのが清なのです。
因みに清の母親も元人間の河童です。

ま、そんな感じ。

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