連載小説
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贈り物
隊長リューナ、彼はいつも通りのちょっと早い位の朝に目を覚ました。
外は未だに薄暗く星が見える程だ。
「ん・・んんっ、ああ・・もう起きた方が良いか・・。」
少しの間じっとした後、布団をゆっくりと剥がす。
目やにを気にするように何度か瞬きをし、ベッドから立ち上がった。
「ふぁ・・いけないいけない・・隊長が寝惚けてちゃ格好つかないな・・。」
顔をパン、と軽く一回叩き意識をはっきりさせた後、
朝の鍛錬をする為に槍を取り、そこに行こうとして立ち止まる。
今日が部下達三人の誕生日である事を思い付いたからだ
「・・そういえば、三人にあげる物を決めてなかったな。
確か、レナスは寝るとき腹が寒いとか言ってたし・・アレスは籠手かな。
ピリアは・・ま、鍛練やってりゃ勝手に思い付くか。」
そう結論付け、槍を携え訓練場に向かうリューナ。

いつもよりも早起きしたアレスがその後ろ姿を見つけたのは、その時だった。
彼女はリューナを見るや否や、心を打たれたかのように静かに呟く。
「おお・・流石隊長・・。
私が結構苦労して、ふぁ・・こんな欠伸をしながら起きてきたというのに
隊長はもう朝の鍛錬を始めようと言うのか・・。」
そこまで言って、彼女は武具を持ち追いかけた。
抜け駆けという訳ではないが戦いが生き甲斐ともいえる彼女の種族柄、
隊長との一対一に心躍らずには居られなかったからだ。


少し時を挟み、訓練場。
リューナは槍を振り回して木偶を倒しては起こし、
倒しては起こしというセットを黙々と繰り返していた。
「リューナ隊長!」
気の強そうな張りのある声に彼が振り返ると、
そこには大剣を背負いこちらを見つめるアレスが居た。
そんな彼女を見て、彼は感心したように声をかける。
「アレスもか・・熱心だな、こんな朝早くから。」
「いえ、隊長ほどでは。
それより、一手御指南を頼めませんか?
日々の鍛錬の成果を試したいと思ったんですが。
隊長も、その・・木偶相手だけでは、飽きるかと思って。」
彼に断る理由は無かった。
「良いのか?相手してくれるならそれは嬉しいが。」
リューナと相対しているだけで少々照れつつそう言う彼女。
彼は照れに気付いた様子もなく承諾する。
だがその承諾だけで、彼女の心は正直言って舞いあがっていた。
何度も負けているとはいえ、彼との戦いは楽しいからだ。
(良し・・!!これも考えようによってはデートじゃないか!?)
そんな彼女の嬉しさは、この後さらに加速する事になる。


==打ち合う事十分ほど==

「ふっハァッ!!どうしたアレス!この程度では無いだろ?」
自らの身の丈以上はあろうかという大剣をさらりといなし、
槍を脇に挟み、空いた片手を自然体にぶら下げるリューナ。
アレスは、ただ一本の槍を未だに破れずにいた。
しかし、そうでなくては面白くない、と
彼女の気持ちは状況とは裏腹に限りなく高まっていた。
「ええ・・!!この位で私の力と思ってもらっては困ります!」
そう言って、今までとは比べ物にならない速さでリューナに迫る彼女。
リューナはその顔を少しだけ感心に緩めた後、
高速で振り下ろされる銀色を自らの槍の中心で事も無げに受け止めて見せた。
アレスもその程度の事は予測済みであったようで、
特に驚いた様子もなく続けて何度も打ち下ろす。
力と速さの乗った連撃に流石のリューナも顔を歪め、
耐えるのではなく受け流す方法に変えた。
内心アレスはニヤリと笑う。
(戦い方を変えた・・!この時を待っていたのだ!!)

瞬間、彼女の動きもさらに鋭いものへと変わった。
受け流すには限度がある事を幾度もの闘いで知っていたからだ。
それを感じてリューナも気持ちを引き締める。
(一気に押し切るつもりか・・!!)
横に、縦に、様々な角度から斬り込んで来るアレスに対して
リューナは距離を取った。
しかし避けるのと同時に身を翻し跳んだため
完全に背を向けることとなってしまう。
アレスは好機とみて一気に上段から斬りかかった。
「隊長、貰った!!」
一瞬とはいえ敵に背を向けること。
それはつまり負けを意味するようなものである。


「・・っ!?」
だがそれは、あくまで’意味するようなもの’であって’意味するもの’ではない。
彼の体を斬り抜ける筈だった銀の大剣は彼の持つ銀の槍によって阻まれていた。
あろうことかリューナは背を向けたまま、気配だけで槍を動かし
アレスの大剣を止めて見せたのだ。
「貰った・・か。
この程度の状況下で勝ちを確信するようでは、まだまだだなアレス。」
そう言ってニヤリと薄く笑うリューナ。
アレスは軽い戦慄と共に、感動すら覚えていた。
そんな彼女にリューナは後ろを向いたまま素早く槍の穂先を整える。
狙いは彼女の喉元、その一点だけだ。
ここでようやくアレスもその狙いに気付くが、如何せん遅すぎた。
咄嗟に腕で掴もうとする・・がそれも虚しく
槍は彼女の喉の寸前まで迫りピタリと止まった。
驚くアレスにリューナは銀の髪を揺らしながら短く告げる。

「勝負ありだ。」

その瞬間、アレスはガクンと糸が切れた人形のように地に膝をついた。
その息は、荒い。
「はぁ・・隊長・・凄いですね、相変わらず・・。」
対してリューナはさらりと言ってのける。
「まぁ、これでも隊長だからな。
お前達三人と同時に戦って負けない自信程度ならあるぞ?」
アレスは思った。
この人には、敵わないなぁ・・と。
とここで、思い出したように声をあげるリューナ。

「あ・・そうだ。
ピリアが欲しがりそうなものって何だ?
今日何かプレゼントしてやろうと思っているんだが。」
「え・・?ピリアに・・ですか?」
言った途端、彼女の表情が暗くなる。
それもそうだろう、三人の中から一人だけ名指しで呼ばれたのだから。
しかし流石はリューナというべきか、気付きすらせず続ける。
「そうだ、お前達三人は今日が誕生日だろ?
お前やレナスにあげる物は決まったんだが、
ピリアにあげる物だけはどうしても思いつかなくってな。
あいつ意外と遠慮するから、何が欲しいと訊いても言ってくれないんだよ。」
それを訊いた瞬間、アレスはほっとした。
他の二人と共に、絶対に三人一緒に認められよう、と誓っていたからだ。
ピリアだけでなく他の二人にも贈り物が考えられていると知れて、
その誓いは果たせぬものではなさそうだ、と安心したのである。
「そうですね・・それなら、逆に
隊長があげたいものをあげたら良いんじゃないですか?
思いつかない時はそうするのが一番良いかと思いますが。」

リューナに会うまで色恋沙汰とは程遠かった彼女だったが、
何とか気の利いた事を言おうと頑張った。
そして好きな人にもらったものならば大体のものは嬉しいという
彼女なりの答えに至ったのだ。
「俺のあげたいもの・・耳飾り辺りか?
あいつはあの衣装にこだわりが有るとかないとか言ってたからな。
服の邪魔にならないものなら良いだろ。」
首を傾げそういう彼に彼女は頷く。
「良いと思いますよ、じゃあまた後で会いましょう。」
そう言って、そそくさと出ていくアレス。
その姿がリューナには何処となく嬉しそうに見えた。


=====お昼時=====
リューナは三人への贈り物を買った後
昼食を軽めに終え、書類の管理を行っていた。
幾つにも分けて積まれた大量の資料と報告を
リューナはたった一人でチェックしていく。
「えーっと・・こっちが、サバトの被害報告で、
こっちはそのサバトの活動報告か。
・・なんだってこんなのの管理を・・。
自分の部署は自分で受け持ってくれればいいのに。
・・ん?末尾に何か書いてある。
こんなのとか言うな?・・あの人は・・!!」
何処かから見てニヤニヤしてるであろうバフォメットに怒りを覚えながらも
仕事を続けていると、不意に扉がノックされる。
「・・誰ですか?」
客人かも知れないと思い咄嗟に敬語を使う。
聞こえてきたのは、馴染みある部下達三人のものであった。

「隊長・・入っても構いませんか?」
恐らく気を遣ってそうしたのだろう小さな声に、短く答える。
「ああ」
いつもぶっきらぼうだ、と言われる言い方をしてしまったが、
三人は気にしていない様子で、失礼します、と入ってきた。
「どうしたんだ?訓練場で問題でもあったか。」
作業の途中であった為、少々申し訳ないと思いつつも
彼は後ろを向いたまま話す。
「え?違いますよ。
隊長は仕事が次から次へと来るから、少しでも手伝わせてもらえればと。」
返ってきたのはピリアの驚いたような声と、思ってもみない申し出だった。
その内容に、彼は作業を一段落させた後思案する。
(いつも一人で終わらせているような内容だしな。
確かに手伝ってくれるのは有難いが、それでは俺の面目というものが・・
いや、手伝ってくれるのをわざわざ断るのもこいつらに悪い。)
「隊長・・駄目、ですか、やっぱり・・。」
余程考えている時間が長かったようで、ピリアが困ったように見上げてくる。
それは並みの男であったなら、ニヤけて考えが纏まらなくなる程の代物だ。
(信頼できるし・・それにあれを渡すにもちょうどいいか。)
「・・悪いな、印を押すだけだが頼めるか?」
しかし、それに気付いた様子もなく、アレス、レナスに確認を取った後、
(ちなみに二人とも二つ返事だった。)
リューナは平素ピリアを見る時と同じように見つめる。
先に色仕掛け紛いの事をしたのはピリアのはずなのに、
逆にその思考回路をショート寸前まで追い込まれていた。
「は、はい・・頑張り、ますね・・。」

やっとの思いでそれだけを言い、書類に対峙する。
かなりどころではない量だったが、彼女にとっては
先程見つめられた事の方が衝撃的だった。
それはそうだろう、想い人にまじまじと正面から瞳を射抜かれたのだ。
如何に素直な彼女と言えども、ドギマギせずには居られなかった。
(隊長・・♪カッコよかったなぁ・・)
惚けながら書類を見ていると、横に並んだ二人から声が掛る。
(・・おい、よくも平然としていられるな。
私なんて、正直顔が熱くて熱でも出たかと思ったくらいだぞ?)
とレナス。
続いてアレスも入ってくる。
(はや、速く続けろ・・全く、瞳を見るだけでここまでとは・・!)
どうやら二人も同じくやられたらしい。
しかも、いつもより挙動が忙しなくなんというかばたついている。
ここまで露骨であったならばおかしいと思う筈だが
元凶のリューナはと言うと、環境が違うし仕事内容も違うからな、
くらいにしか思っておらず黙々と作業を続けていた。
ともあれ手伝いが三人も増えた資料の整理は、
いつもよりも速いペースで進んでいく。
とはいえ・・


=====夜前=====
いくら速いと言っても、いつも真夜中までしなければ終わらないそれは、
かなりの時間をかけて行われた。
「う〜〜・・これがラストの一枚・・。」
相当疲れた感じで、整然と並べられた上に最後の一枚を乗せるピリア。
それらをリューナが紐で纏めた。
その手際には殆ど疲労が感じられない。
「・・よくこんなの毎日続けられますね。」
しっかりと立ちながらも、手を頭に当て
疲れ切った表情で訊くレナスにリューナは答える。
「慣れだ」「ああ・・そうですか」
そしてフッ、と笑って彼女達に言った。
ちなみに三人はこの時点で沈みかけている。

「だがいつも通りにしていたら絶対夜までに終わらなかっただろうな。
正直助かったよ、ありがとうな、アレス、レナス、それにピリア。」
そして更なる笑みと共に彼女達に礼を告げた。
リューナ本人にとっては単なる礼のつもりでも、
彼に特別な感情を抱いている三人にとってはそうではなかった。
まず、アレス。
「それは良かったです。」と一見冷静だったが
その尻尾はまるで犬が嬉しい時そうするように振られている。
次にピリアだが、いつも通りの笑顔を浮かべつつ
「え、えへへ・・隊長に褒められちゃいました。
うれしいなぁ・・。」
と嬉しさを体中から滲ませていた。
「い、いえ・・いつも頑張っている、た、隊長の役にたてたなら、幸いです。」
そう言って真っ赤な顔で言ったのは、実は最もダメージを受けているレナス。
どもりながら何とか言葉を発した彼女だったが、
その顔が真っ赤に染まっていたばかりに更なる追撃を被る事になる、

「ああ・・ところでレナス。
顔が真っ赤だぞ・・熱でもあるのか?」
そう言ってつかつかとレナスに歩み寄るリューナ。
対するレナスはしどろもどろになっていた。
「へ、い、いえ熱などは、ありま、せんよ!?
で、ですからその・・ほ、本当に大丈夫ですので・・ひゃ、隊長!?」
軽いパニック状態に陥っている彼女の額に、突如彼の手が添えられる。
彼女の顔は真っ赤ではあったが、実際に熱は行っていなかったようで
彼はその手を離した後こう言った。
「・・うん大丈夫だな、熱は無い。
だけど、体調には気をつけろよ?風邪ひいたら大変だからな。
・・どうした二人とも、怖い顔して。」
思考が完全に一時停止したレナスをよそに、振り返ったリューナは
アレスとピリアが自分を睨んでいるのに気がついた。
だが、二人は無意識だったらしくハッとなって表情を戻す。

「い、いいえ何でも。
と、ところで隊長?・・その・・」
ピリアが少し言いにくそうに口を開く。
自分の誕生日だと言うのは、流石に言いにくいのだろう。
「今日お前達三人は誕生日だったな。
ちょっと待ってろ・・。」
それを察してか、(恐らく察してなどいないだろうが)
リューナはそう言い、部屋の倉庫をゴソゴソとあさる。
「お、あったあった・・。」
そしてアレス以外の二人が不思議そうに顔を見合わせる中、彼は振り向いた。
その手には温かそうな布団がある。
それを持ったまま、リューナは未だに顔の赤いレナスに近づき手渡した。
「はいこれ。
この前、寝るとき腹寒いって言ってただろ?」
何とか平静を装っていたレナスだったが、
意中の隊長が贈り物をくれたという事実にまたもやにやける。
「あ・・はい・・ありがとう、ございます。
だ、大事に使わせていただきます。」
今度は喜びだったのでそこまでの崩壊は免れたようだ。
「ああ、買ったもので悪いがな。
それと・・アレス、次はお前にだ。」
そう言ってリューナはまた倉庫の中に手を突っ込み緑色の籠手を取りだす。
それを見た途端アレスは「あっ!」と声を上げた。
丁度この前壊れたばかりのものと同じだったからだ。
「・・驚いたか?
これも買ったもんだが、お前がお気に入りだって言ってたんでな。」
「あ・・!あ、ありがとうございます。
・・憶えててくれたんだ・・。」
そう言って籠手をはめ満面の笑みを浮かべる彼女。
その幸せそうな表情を見て、満足げに顔を緩めた後リューナは最後のプレゼントを取りだす。
それは、地味とも言える白の耳飾りだった。
「それ・・私に、ですか?」
「ああ・・悪い、やっぱり地味だったか?」
戸惑うような声に彼がばつが悪そうな顔をするが、ピリアの顔は次の瞬間
パッと輝いた。
「いいえ!とっても嬉しいです!!これ、私の服に合わせてくれたんですか?」
「ああ・・黒っぽいから、白で良いかなと。」
そのまま耳につけるピリア。
それだけではなく、愛しむように何度もうっとりとした顔で撫でていた。
その様子を見て、リューナはホッと息を吐いた。
「良かった・・贈り物なんてした事無いからな。
気に入られたんなら何よりだ。」
そう言って彼はドアに手をかける
「あ・・ちょ、ちょっと待ってくださ・・」
「悪いな、この報告書は今日中提出だから。
いつもギリギリだけど、ほんとに助かったよ。」
そう言って出て行こうとするその背中に三人同時に声をかけた。
「「「待って下さい!!」」」
流石に不審に思い、振り返るリューナ。
三人の目は本気である。

「隊長・・私は、いえ・・私達はですね!」
「隊長の事が好きなんです!!」
「だから、こうやって来たのに、ちょっと・・その・・」
だと言うのに、リューナは、はは、と笑って答える。
「あ・・そうだ、明日三人同時に見てやるよ、ひさし振りにな
ああ、俺だってお前達の事は好きだぞ?
全員大切だって思ってる。」
「え・・?」
三人の驚いた顔をよそに出ていくリューナ。
対して三人は・・

「ああ・・もう・・!!!」
表情は違えど、かなり怒っていた。
それはそうだろう。
リューナの「好き」と、三人の感じている「好き」は違うものなのだから。

「こうなったら、勝ったら結婚して下さいって言うしかないな!」
「え・・アレス、それはあんまりじゃ」
「そうだな、私もそう思う!」


=====廊下=====
「・・しっかし、なんであんなに怒ってたんだ?
確かに、手伝わせるのには多すぎる数だった気がするが・・」
そしてこの男は、いつになったら気付くのだろうか。
13/12/08 16:33更新 / GARU
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■作者メッセージ
ISを見てたら、こんな感じになった。

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