連載小説
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序章
「はぁ・・何故・・ああも・・」
親魔物領国家・・酒場。
騎士団所属のケンタウロス、レナス・ネリアは
その長い髪をカウンターに寝そべらせ溜め息をついていた。
「何故にああも、隊長殿は・・!!
普通二人っきりになりたいと言ったら、デートの誘い辺りだろう・・!」
何故なら意中の彼・・同じ騎士団所属かつ隊長のリューナ・デュクスに
せっかく勇気を出して誘ったデートを断られたからだ。
それも、今日は無理だ、等というものではない。
いやむしろそのほうが彼女にとっては諦めがついたろう。
一方的な勘違いの挙句、なし崩し的に約束を出来なかったという感じだ。
「どうして・・決闘だとか、試合がしたいという方向に受け取るのだ・・。」
悩む彼女の元に黒い衣装を身につけた一人の魔物が寄ってくる。
同じくリューナに恋心を抱く騎士団のダンピール・・ピリア・シエラだ。
彼女は先程レナスが嘆いていた内容に続けて口を開いた。

「仕方ないよ・・隊長、相当の事じゃないとあんまり反応しないし、
それに、私含めて3人も落としてるくせに本人無自覚だもん・・。」
水を注文した後カウンターに頬杖をつくピリア。
その視線はどこか遠くを見ている。
「・・シエラ、まさか・・お前の素直さをもってしても無理だったのか?」
「まぁね・・今度どっか行きませんかって言って、
構わないぞって言われたとこまでは良かったの。
でも・・その後ね・・なんて言ったと思う・・?」
ゆっくりとレナスの方を向き
乾いた笑顔を浮かべるピリアに、彼女は短い思考の後答える。
「・・鍛冶場に寄るのか、辺りか?」
「はは、ならまだ良かったかも。
隊長ね・・予定があるから十分も無理かも知れんが、って言ったの。」
「それは・・何とも・・御苦労さまだったな。」
「ほんとだよ・・あの人隊長だからそもそも時間取れないんだよ。」
もはや諦めの境地まで達した様子で
二人で笑い合っているとさらにもう一人が寄って来た。
先程話に出ていた三人目、リザードマンのアレス・カティオだ。
彼女は二人の傍まで来るとフッと笑って話し始めた。

「・・もう全員集まっているのか。
その様子では、お前達も駄目だったようだな。」
その言い回しに自分達と同じ匂いを感じたピリアが
やっぱりかといった感じで訊き返す。
「そんなとこかな、お前達もって事は・・アレスも?」
訊かれたアレスは肩を竦め、席に座ると
ピリアと同様にどこか遠い所を見ながら言った。
「食事に誘ってみたんだけどな・・カレーが良いと言うので辛さを聞いたら、
その・・激辛の上の超辛を食べると言ってな。
・・気圧されてしまったよ、情けない・・。」
その言葉に噂話が好きな為情報通な一面のあるピリアが驚く。
「ええ!?あの、イグニスとサラマンダーが共同製作して
ドラゴンを食後三十分火を吐けなくしたあの超辛を!?」
その話に反応して、微笑みながらレナスも加わってくる。
しかしその微笑みにはどこか暗さがあった。
「ああ、それなら私も知っている。
マーボー豆腐を食べる時も凄く辛いのを頼むぞ。
噂では甘いものも食べれるらしいが・・」
「うわ・・そりゃ・・。」
また一つ想い人の強烈な一面を知ったことで、三人はぐったりとした表情になってしまう。
そんな雰囲気に耐えられなくなったのか、ピリアが笑って話題を変えた。

「あ・・でもさでもさ、隊長って結構優しいよね。
私ね・・この間力んで木偶を壊しちゃったんだけど、
その時に、俺も力を込めすぎていたから一緒に謝りに行けば良い、
って言ってくれたんだ・・あれ嬉しかったな・・」
思い出しつつ、宙を見つつニヤニヤとする彼女。
するとそれが功を奏したのか、レナスも笑った。
「ああ・・!そうそう、この間はお菓子を作ってきてくれただろう?
その時の事で、甘いのが苦手だと言ったのを覚えてくれていたようでな。
私のだけ少し甘味を抑えているのを渡してくれたのだ。
ああいう気遣いも私達を離さないのだろうなぁ・・」
「確かに・・それに付き合ってくれないと言っても
隊長の都合もあるし、考えようによってはデートと取れない事も無い・・か。
よし、レナス、ピリア!」
そこまで言った所で、アレスが何かを思いつき席をスッと立った。

「明日は隊長の仕事を皆で手伝うと言うのはどうだ?
それならば隊長も断ったりはしないし、一緒にも居られるぞ。」
その言葉に、二人もハッとした表情で顔を上げる。
「良いねそれ!隊長にいつもありがとうって出来るし!」
「そうすれば隊長と話す暇も幾らか生まれてくれるか。」
結論は出、そこから先はいつもの会話に戻っていく。
彼女達はかなりの間話しこんだ後、部屋へと戻って行った。



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所変わって、リューナの部屋。
彼はいつものように書類の整理に追われていた。
「良し・・備品は何も壊れていない。
人員についても問題なし・・。
隣国への合同訓練は、当分無し・・か。
うむ、これといった問題も無いな。」
そして彼はその長い銀髪を結わえている盾をあしらった髪飾りを外す。
これは以前彼が髪の毛が邪魔だと言ったのを憶えていた
レナスが誕生日に贈ってくれたものだ。
しかもかなりの出来栄えで、かつ手作りである。
それは相当の好意の表れなのだが、彼は気付かずに受け取っていた。
しかし、しっかりと手入れをして使っていることからは
レナスを大事には思っている事が分かる。
そして、スケジュールの管理に、とアレスが贈ってくれたカレンダーを見、
そういえば、という顔になった。
「明日は・・レナスとピリア、それにアレスの誕生日だったか。
普段から誘われているのに断っている分、明日は三人に付き合うとするか。
しかし、どうしていつも俺を誘うんだ?
試合をしたいなら他にも相手は居るだろうに・・。」
そう呟き、ベッドに向かうリューナ。
彼は鈍感だと言うよりは、どちらかというと勘違いが多い男である。
どの程度かというと、「二人で行きたい場所がある」と言われて
「分かった、剣と槍と弓・・どれで相手をした方が良い?」と
答える程度には勘違いが酷い。
そのせいか、隊長でかなりの強者かつ性格も優しいのに彼女等はいなかった。
そしてそれはますます、彼を女性の感情に疎くさせ・・後はお察しの通りだ。

「ふぅ・・明日は少し仕事を急いでこなすかな。
三人には何か贈った方が良いだろうが・・何が好みなんだ?」
考えつつベッドに寝転がるリューナ。
何だかんだ言っても三人の事を考えてはいる。
しかしいくら考えても答えは出ず、いつしかその瞼はずり落ち、
彼は気付けば眠っていた。







13/11/19 21:59更新 / GARU
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■作者メッセージ
鈍感ってこんな感じですか、分かりません。

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