連載小説
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『アオゴオリタケ』と『ソライロダダラゴケ』
『アオゴオリタケ』はジパング地方のジメジメした洞窟に生えるキノコである。
青い傘と毒々しい色合いの見た目とは裏腹に毒性はない。
しかし強すぎる弾力を持った食感だけでなく、味も形容しがたいほどひどいものである。
加えて栄養価も乏しいため、食用として使われることはないだろう。

このアオゴオリタケで特筆すべきは、その臭いである。
このアオゴオリタケは強い臭いを発する。
硫黄のような臭いが強く、虫すらその臭いを避けるほどである。
そのため、アオゴオリタケに虫がつくことはなく清潔である。

『ソライロダダラゴケ』はアオゴオリタケと同じく、ジパング地方の湿気の強い洞窟に生える苔の一種である。
これも鮮やかな青色の苔であり、アオゴオリタケの近くに生えていることが多い。
ここで注意しなければならないのは、アオゴオリタケと違って強い毒性がある事だ。
皮膚に触れるだけで、かぶれや蕁麻疹を引き起こすので注意が必要である。

私がこの2種類の調査をしていた時、運悪く足を滑らせて、ソライロダダラゴケに触れてしまった。
触れた部分は猛烈なかゆみと灼熱感に襲われ、その毒性を肌で感じた。
患部は真っ赤になり、ところどころ膨れている。
これは皮膚には良くないものだ、帰って治療せねば。
そう思った私が洞窟を出ようとしたその時、運悪く「大百足」と鉢合わせてしまった。

大百足は最初、私に飛びかかろうとしたが、私の腕の患部を見ると洞窟の奥へと手を引いていった。
まず彼女はアオゴオリタケを持ってきた。
この時の私は患部の処置のことしか頭になく、「申し訳ない、すぐ治療したい」としきりに言っていた。
すると大百足は、自身の毒腺から出る毒液をアオゴオリタケに染み込ませた。

そして、毒液のついたアオゴオリタケを腕の患部に塗りつけた。
もちろん、私も大百足の毒液のことを知っていたので、咄嗟に腕を引き戻し「何をするのか」と叫んだ。
「私は患部の処置がしたいだけだ、この後もう一度戻ってくる。その時に…」
ふと自分の腕の患部が目に入った。
膨れもなくなっており、かゆみも灼熱感も消えている。
私は驚いた。

大百足はこう言った。
「…ふふふ、ソライロダダラゴケに触れたのでしょう。でしたら、私が直せますよ」
私は目を丸くして、彼女の話を聞いた。
なんとソライロダダラゴケの毒性は、大百足の毒液で中和できるというのである。
大百足達は昔からそれを知っていたため、この苔が生えている環境でも生活ができるらしい。
私は大百足に頼み込んだ。
「その毒液を少しばかり分けてはもらえないだろうか。持ち帰って、研究してみたいんだ」
大百足は私との性交を条件に快諾してくれた。
正直に話すと、私はこの時の事をよく覚えていない。
頭の中には研究のことしかなかったからだ。

こうして大百足の毒液と、ソライロダダラゴケ、アオゴオリタケを持ち帰ると、驚くべきことがわかった。
実は大百足の毒液とソライロダダラゴケの毒を混ぜると極めて、極めて消臭性に優れる液体ができるのだ。
この液体をアオゴオリタケに塗りつけると、防虫・殺菌効果が高い天然の虫除けができるのだ。
私はこの消臭性の高い液体を「ミカゲ液」と名付け、アオゴオリタケとともにジパング中に広めた。
現在もダニ・ノミなどの害虫除けとして、ジパングだけでなくいろいろな地方で人気を博している。

これは余談だが、「ミカゲ液」の名前の由来は、この時の大百足の名前である「ミカゲ」からとった。
この大百足のミカゲは現在の私の妻である。
彼女は、今もなお「ミカゲ印の防虫剤」というブランドで商売を行っているのだ。
17/12/01 00:06更新 / アカフネ
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