連載小説
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シロナルート1「シロ姉とデート」
歓迎会の朝、起きると目の前にシロ姉の顔があった


実に幸せそうな慈愛に満ちた笑顔で俺を撫でくりまわしている


頭にはひんやりとした気持ちいい柔らかい感触…これはシロ姉に膝枕(といっていいのか?)されてるな


「…おはよう、シロ姉」


「おはようございます♪」


周りを見ると他のみんなはもう起きてどこかに行っているらしい


歓迎会の後片付けも全部終わっているようだし、これは寝坊したのか?


「俺、もしかして寝坊?」


「そんなことありませんよ?今日はみんな早かっただけで、今は朝の9時くらいですから」


なんだ、休日にその時間なら十分に早起きと言えるな


「みんな出かけとるんか?」


「えぇ、姉さんたちは仕事やら大学やら私用やらで出かけていますね」


「シロ姉は?俺が起きるのを待っててくれたようやけど…」


「私は今日、大学は休講ですから…たくまちゃんの寝顔をたっぷりと堪能してました♪」


なるほど、機嫌がいいのはそれか…俺の寝顔のどこがいいか理解できないけど


「とりあえず朝飯…何か作らなきゃあかんなぁ」


「シルク姉さんがサンドイッチを作り置きしていましたよ、私もまだですから一緒に食べましょう?」


「なんや、先に食べてても良かったのにわざわざ待っててくれたんかいな」


「いえ、せっかくたくまちゃんがいるのに一緒に食べないなんてありえないですっ!」


ありえないらしい、まぁ俺も一人寂しく食べるよりはシロ姉とのほうがいいけど


「これからはずっと、ずぅ〜っとたくまちゃんと一緒です!朝起きる時もご飯を食べる時もお昼寝の時も、四六時中たくまちゃんと一緒に過ごして…あぁ夢のようです!」


「いや…四六時中っちゅうのは無理やろ、シロ姉大学あるやん」


「大学なんかよりたくまちゃんと一緒に過ごす事の方が大事です!」


サンドイッチを用意しながら瞳をキラキラさせるシロ姉、いやそれはそれで問題やで


「ま、大学はちゃんと行った方がええよ。いただきまーす」


「…ふふ、冗談ですよ。いただきます」


サンドイッチを食べる、流石ねぇちゃんの作ったサンドイッチは美味いなぁ


「たくまちゃんって今日は暇ですか?」


「んー、今日っちゅうかこれからは基本的に暇やね。研究も後は親父がいれば大丈夫やろうから呼び出されることもないやろうし…」


家事以外にやることないんだよなー、今までの貯金とかあるけどバイトでも探すかな


「じゃあたくまちゃん、今日はお姉ちゃんとデートしませんか?」


「で、デート…?」


デートっていうと…男女二人が、連れだって外出して一定の時間行動を共にすることで逢引やらランデブーやら別称があるアレか?


「たくまちゃんの物も色々買わないといけませんからね、ってたくまちゃん?」


具体的にデートは食事やショッピング、観光などを楽しみお互いの感情を深め合うということを目的としたもので…


「たくまちゃん!」


「おわっ、な、なんや…ビックリした」


「だってたくまちゃんが黙ってるから…たくまちゃん、もしかしてお姉ちゃんとのデート嫌ですか…?」


泣きそうな上目づかいで見てくるシロ姉に心の臓が激しく呼応する


「い、嫌やないで!せ、せやな、シロ姉とのデート楽しみやなぁ!」


シロ姉はデートと言ったけど多分本人は姉弟同士のちょっとしたお出かけ程度の認識だろうし、そんな気にするものでもないか


「ふふっ、すぐに準備しますから玄関で待っててくださいね!」


残りのサンドイッチを平らげでシロ姉が自室へ行く、俺も着替えるなり準備するかな…


と、思って部屋に来たがとくに準備するものもない


いつも通りに私服の上に白衣と、財布とかを入れた四角い革の鞄くらいだ


「ま、早めに準備できるってことは良いことやから」


玄関でシロ姉を待っておくかな、と下に降りると既にシロ姉がいた


いや俺より早いんですけどどういうことだよ


「シロ姉早いな」


「可愛い弟を連れ待たせるなんてできませんから♪」


しかも化粧もして、服もオシャレしていたりとかなり気合が入っていた(こういうのはよく分からないが、俺的には凄いイケてる)


これは、ちょっとしたお出かけではなく完全にデートをする気だ


「…」


俺の姿を見返す


「…いや、あかんやろ」


ちょっと自分に絶望した


「ごめん、もうちょっと気合い入れた格好にしてくるわ。確か表彰式用のスーツが…」


「たくまちゃんはそのままで大丈夫ですよ、気にしないでください」


シロ姉がそうフォローを入れてくれるが…


「いや、これじゃ釣り合わないやろ…」


月とすっぽんにごめんなさいしないと


「大丈夫、たくまちゃんはカッコいいんだからもっと自信を持ってください」


「いやせめて白衣だけでも!」


いつも研究施設で着ていたから気づかなかったけど、私服で着るもんじゃねえわこれ


「いいから行きますよ!」


「…はい」


しかし強引に外に連れてこられては頷くしかない


「さぁお姉ちゃんとお出かけしましょうね♪」


手を握られる、暖かいお姉ちゃんの手だ


「あ…シロ姉の手、こんなに小っちゃかったんやな…」


「たくまちゃんが大きくなったんですよ」


昔は包み込むような手だったのに今は俺の方が包み込んでいる


「ここらへんって何か買い物できるとこあるん?」


「駅の方に結構色々あるんですよ、小さい頃に行ったの覚えてませんか?」


「うーん、駅の方も昔に比べてだいぶ変わっとったから…あまり覚えてないなぁ」


「…そうですか」


少しだけ寂しそうな顔をするシロ姉


「ま、まぁあれや…昔のことを覚えてない分、これからシロ姉とそれ以上に思い出を作っていけばそれでええんちゃうかな」


「たくまちゃん…嬉しいです!」


ギュウッと全身で抱きしめてくるシロ姉、人通りが多くなったために視線が痛い


「ちょっ、シロ姉!周りに注目されとるから!」


「あ…ごめんなさい、あまりにも嬉しくて…」


ただでさえシロ姉は美人だし魔物だから注目されやすいのだ


「駅近くは繁盛しとるの、流石は都会やな」


「たくまちゃん、迷子にならないようにお姉ちゃんの手を離さないでくださいね?」


「いや、そんな子供やないんやからさ…」


「たくまちゃんに変な虫が寄り付かないか不安なんですよぉ…」


いや、シロ姉はともかく俺みたいなのに声かける人はいないだろう


無駄に高身長だし、身なりもそんなに気にしてないし、容姿にも自信があるわけでもない


「あれー、シロナさんではございませんか?」


「まぁ、御機嫌よう。奇遇ですね、こんなところでお会いするとは」


なんだかシロ姉が知らない美人な魔物に話しかけられる


あの尖った耳と頭の巻いた角はサキュバス…多分大学の知り合いだろう


「あら、こちらの白衣の男性は?」


「弟です、10年ぶりに帰ってきてくれたんですよ」


「あぁ、これがシロナさんのいつも話している…へぇなるほどぉ」


いつも話してるのかよ…なんか納得されてるし


「なんだか母性本能が擽られますねぇ、シロナさんがいつも話題にするのが分かりますわ」


スッと頬に手が寄せられる


「え、あ、あの…?」


「こら、あまり長く触るのはダメですー!」


「あらあら、ふふっごめんあそばせ。つい可愛らしくて、ね」


「たくまちゃんは私のです、ちょっかいかけないでください!」


「はいはい、では御機嫌よう」


そういってシロ姉の知り合いの魔物は去っていった


(ん?白衣のポケットに何か紙が…)


何か番号が書かれている、あの人の携帯番号か?


「たくまちゃん、大丈夫ですか?変なことされてませんよね?ああいう人がいるからお姉ちゃんの側を離れてはいけませんよ!」


シロ姉がさっきの人の匂いを上書きするようにすりすりしてくる


「せ、せやな…」


「うんうん、たくまちゃんはいい子ですねー♪」


撫でられてしまった


(あれ、さっきの紙がなくなってる?)


「それじゃあ気を取り直してデート再開ですよ!」


シロ姉がポイッと丸めた紙切れを近くのゴミ箱に投げた


いつの間に抜き取ったんだ…


「まずたくまちゃんの日用品を揃えましょうか、無い物たくさんありますよね?」


「いや別にわざわざ買わなくても、家にあるお客さん用のでも…」


「ダメです、ちゃんとした物を買います!」


「いやでも、俺そういうのはよく分からんで…」


「お姉ちゃんがちゃんと選んであげますから大丈夫ですよー」


大丈夫らしい


「じ、じゃあ…よろしく」


「はいっ、お姉ちゃんに任せてください♪」


こうしてシロ姉がデートをエスコートしてくれる、なんか立場が逆なんだけど…


しかもところどころでシロ姉が「疲れてない?」だとか色々気を遣うというか、甘やかしてくれるわけ


「し、シロ姉…荷物くらいは持たせてよ」


「危ないからダメですよー、たくまちゃん」


買った荷物も持たれてしまってる、あんまり買ってないはずだがそれでも女性に持たせるというのは男としての尊厳が…


ちなみに買う物全部シロ姉が払おうとしてたからそれは全身全霊で阻止した、俺の良心の意地だ


「もっともーっと、私を頼ってくれていいんですからね」


「ほ、ほどほどで勘弁してや…」


これまで自分のことは自分でやってきた身、今でもこんなに甘えてしまっているのにこれ以上どうしろと言うのか


献身的過ぎるのも問題なんじゃないかこれ、ダメ人間製造機か何かで?


「し、シロ姉…買う物は買ったしもう買い物はええんやないの?」


「んー、もっと選んであげたいんですけど…」


「ほら、ここで全部済ますと次が無くなるやろ?またシロ姉とデートしたいし、その時のお楽しみってことで…ねぇ?」


「たくまちゃん…なんて可愛いことを仰るんでしょう!分かりました、では買い物はこれくらいにしましょうか♪」


よしよし、うまく誘導できたぞ


「それじゃあ休憩も兼ねて少しお茶して帰りましょうか、疲れたでしょう?」


「あ、あぁ…まぁな」


確かに慣れないショッピングとやらは疲れたが一番の原因はシロ姉なんだよなぁ


肉体的には疲れないけど精神的にはだいぶ辛いぞこれ


「ここは学校の皆さんとよく来るんですが、美味しいと評判ですよー」


「へぇ…俺は喫茶店なんか入らんからよく分からんけど」


現役女子大生がそういうなら期待できるんじゃないだろうか


「お姉ちゃんの奢りだから好きなもの頼んでいいんですよ」


「うーん、よく分からん…とりあえずコーヒー?あとはシロ姉に任せるわ」


メニュー見てもフラペチーノやらよく分からない単語が並べられている


化学物質とかの名前とかなら分かるんだけどなぁ


「分かりました、じゃあ頼みますよ」


そういってシロ姉が注文してくれる、ホットコーヒーが二つとチョコレートパフェが来た


「たくまちゃん、チョコレート好きでしたよね」


「シロ姉…そんなこと覚えてたんか」


「そんなことじゃないですよ、たくまちゃんの好物や趣味はちゃんと覚えてますよ?」


「ふーん…」


ちょっと背伸びして何も入れずにコーヒーを飲む、熱めで苦い


「あ、たくまちゃん!コーヒーはまだ熱いですから、お姉ちゃんがふーふーして冷ましてあげますよ」


「え、いや大丈夫やでこれくらい…」


「もう、ブラックだなんて背伸びしちゃって…はい、お砂糖とミルクです。一つずつですね?」


こ、この姉…いつも俺が飲むコーヒーを熟知しているっ!?


「な、なんで知ってるんや…コーヒー飲み始めたの2、3年前からやで?」


「姉として弟の舌を熟知するのは当然ですよ?ほら、パフェもどうぞ」


シロ姉がチョコレートパフェをスプーンですくいこちらに向ける


「はい、あーん」


「え、あ…それは自分で…」


「あーん」


「いや、恥ずかしいんやて…シロ姉」


「これくらい普通ですよー?」


「そ、そうなんか…?」


「そうですよー」


どうやら「あーん」は普通らしい


「あ、あーん?」


「はい、あ〜ん♪」


美味いけど…やっぱり恥ずかしいぞこれ


「ふふ、あむっ♪」


シロ姉もパフェを一口、ってそれは俺がさっき食べたやつのスプーンで…


「し、シロ姉…か、間接キスでは…」


「これくらい普通ですよ?」


「そ、そうなんか…?」


「はい♪」


そんな感じで、食べ終えた


「それじゃ、そろそろ帰ろうか」


「そうですねー、ってこらたくまちゃん!めっ!」


パシッと手を叩かれた


「なんで自然に伝票持っていくのですか、お姉ちゃんの奢りって言ったじゃないですか」


「ご、ごめんなさい…」


「買い物の時もそうでしたけど、もっとお姉ちゃんを頼ってくださいよ…独り立ちは立派ですけどお姉ちゃん的には寂しいですー」


「わ、分かったよ…ごちそうさまシロ姉」


「はい、分かればいいんですよ♪」


撫でられた、今日はよく撫でられる日だ


「それじゃあ帰りましょうか、そろそろ皆帰って来る頃ですよ」


「お、もうそんな時間か…今日はありがとうなシロ姉」


「いえいえ、私が誘ったことですから…私も楽しかったです」


確かに疲れたものの、なんだかとても満たされた楽しい一日だった


10年くらい出かけて遊ぶなんてことはしなかったからなぁ…


「ふふ、これからは沢山時間がありますし…一緒にいろんな所に行きましょうね」


「あぁ、楽しみやね」
15/03/18 18:24更新 / ミドリマメ
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■作者メッセージ
ミドリマメです、こんな感じのとことん甘やかしてくれるお姉ちゃんが欲しいです


いつもより書く量が多かったので少し遅くなってしまいました


こんな感じで各お姉ちゃんごとのルートを書いていきたいと思います。

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