王魔界――
それは一般的な魔界である暗黒魔界の中でも最も濃密な魔力を持つ領域にして、魔物娘の長・魔王の根城。
その中心核とも言うべき地点にそびえる魔王城の一角にある大きな部屋で、少女の姿をした者はいた。

無論、その者が人間である筈は無い。

頭に山羊のような角を生やし、ぬいぐるみのような手と蹄を有した足を持つ、魔物娘の一人なのだから。
少女の姿をした魔物娘は頬杖をつきながら、不機嫌な表情を隠さない。
そんな彼女へ報告にやってきた魔女が声をかける。

「あのぉ、バフォさま。一体どうなされたのですか？　この所ずっとそんな顔をされてますが……」
「ふん、黒宝玉の行方が掴めたが、どうも腑に落ちん」
「……と、申しますと？」
「わしが作った途端に消えて、それが人間界、しかも小僧の手にある」
「どうするおつもりで？」
「少し様子を見ていたが、養子縁組したみたいじゃ。それに、養子縁組先にいる娘も上手くいけば、魔物娘としても逸材になるじゃろうて」
「はあ。しかし、養子縁組と魔物娘に何の関係が？」
「この家族の行き先、あやつの管轄のようじゃ。よし、見張りを付けよう。おーい！」

思い立ったように別の者を大声で呼び寄せる。
やって来たのは紫色の髪に悪魔とも獣ともつかない手足が特徴的な幼女の姿をした、ファミリアと呼ばれる魔物娘であった。

「は〜〜〜〜い！　何かご用でしょうか！」
「人間界にいる、この小僧と小娘をサバトに引き入れるよう、あやつ……エルノールに伝えよ」
「わっかりましたぁー！」
「あ、それからこの小娘があやつが治める学校に入るようじゃから、これを渡すんじゃ」
「ＯＫですぅー！」

書簡を受け取ったファミリアは、言うが早いか駆け出して行く。
それを見送った、少女の姿をした者は意地悪極まりない笑顔で鏡を見つめる。

「さて、今暫く様子を見させて貰おうかのう。フフフ――」

そこには黒宝玉を携えた少年と白い髪の少女が映っていた――

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

凱を新たな家族に迎え入れた龍堂家は、娘の春休みの内に住んでいた町を離れ、新たな住まいに腰を落ち着ける事となった。
3LDKのマンションにはそれぞれ部屋が割り当てられた。
凱も既に元いたマンションと荷物を残らず引き払っており、あらかじめ間取りを見せて貰った事もあったのだが、一番狭い部屋に入る事を自ら希望した。
驚く養父母であったが、「家族とはいえ養子、要するに居候だから」と言って聞かず、彼らを一層困惑させた。
これを最も悲しんだのは他ならぬ瑞姫であり、許嫁である以上に自分に何かが出来たらいいのに、と歯がゆい思いをさせられる。

更に驚くべき事は制服と教科書の代金のみならず、授業料までも一切無料にし、しかも凱の仕事を斡旋するという、転校先からの異例の通知であった。
流石に制服は採寸がある為に着用する本人を向かわせねばならないが。
けれど、「採寸さえ終われば一日から二日で出来上がる」という嘘のような回答まであったのだから、驚かない方がおかしいと言うものだ。
実際に瑞姫は母に伴われて制服の採寸を行い、その翌日には制服が出来上がっていた。

二日後、信隆は転居して早々に会社勤めとなり、紗裕美は予てから決めていたパート勤めとそれぞれに多忙な日々が始まり、凱が瑞姫の制服受け取りに同伴する事となった。
彼は仕事探しをことごとく潰され続けた自分を無能呼ばわりし、「竜堂家の穀潰し」と卑下していた。
瑞姫はその事を偶然、彼と父の会話で聞いてしまっていた為、より一層支えなければと思うようになった。

多感な時期を悪意で塗り潰されて生きた少年―――
せめて自分だけは支えたいと思う一途な少女―――

そんな真逆な二人が許嫁としていられるのは、その相反する物が磁石として作用しているからだろうか？
普通ならば、女の方が先に愛想を尽かすものである。
想い続けるがゆえの事でもあるのかもしれないが…。

「いらっしゃいませー！」

然したる会話も無いまま制服取扱店に到着した二人を妙に明るい声で出迎えたのは、角と翼、尻尾を生やした女性店員であった。
特徴から、サキュバスであろう事は判断出来る。
不意打ちを食らうかのような状態となった凱は顔が引きつり、瑞姫はただただ困惑するばかり。
もっとも、瑞姫はアルビノであるがゆえに長袖の服にぶかぶかのパーカーを羽織り、
更にフードを被った上でマスクとサングラスまでして、皮膚に光が当たらないようにしなければならない為、
表情を窺い知ることは容易では無く、何処かの引きこもり娘と勘違いされそうな出で立ちとなってしまっているのだが…。

「あら、あなたが今度転校してくる子？」
「は、はい。龍堂です。こ、これを……」

瑞姫が注文書の写しをサキュバスの店員に見せると、店員は笑顔で応対する。

「出来てるわよぉ〜。はい、これ！」
「わ…っ、箱、意外とおっきい……」
「……ところで、隣の方は？」
「……兄だ」

嫌な物を見るかのようにサキュバスは凱に話を振る。
話を振られた側の凱は彼女のあからさまな態度を感じ取ったのか、不機嫌そうに無作法な口調で答える。
兄である事に（一応）戸籍上の間違いは無いのだが、それでも瑞姫にとっては何よりも悲しい言葉であった。
だが、邪推するように凱を見下すサキュバスの視線が彼の心を逆撫でる。

「嘘はい・け・な・い・ぞ〜？　正直に言いなさい、制服マニアのキモオタくん。今なら、お姉さんも警察に言わないであげるから、ね？」
「……何だとぉ？　仮にも初対面の者に向かって言う言葉がそれか。売女如きが舐めた口利きやがって！」

憎悪を込めた目と怒りを静かに乗せた口調がサキュバスのプライドに斬りかかる。
見ず知らずの初対面の者を勝手に犯罪者呼ばわりするのだから、凱でなくとも無礼極まりない応対だろう。

仮にも店員として働く者が同伴した異性を嘘つき・キモオタと決めつけて罵り、挙句に警察にたれ込むと脅すのだから堪ったものではない。
凱の顔は憤怒に染まり、よもや本気で反抗されるとは思わなかった店員は「ハァ？」と言わんばかりに露骨に嫌悪の表情を見せる。
おまけに売女呼ばわりされるのだから、魔物娘の側にしてみれば侮辱もいいところだろう。
しかし、その一触即発の事態を制したのは瑞姫であった。

「お兄さん……。もう、私の用事は済んだから……、早く家に帰ろう？」

凱とて武術を学ぶ者の端くれ。
18の小僧とサキュバスでは、凱に勝ち目が全く無い事は嫌でも知っていた。
だがハッキリと言わなければ、いつまでも舐められたままだ。
かと言って、瑞姫の言葉を無視する訳にも行かず、凱は自分が先に一歩引く事で終わらせる形を取った。

「礼儀もなってねぇ店だな。何様のつもりなんだか」
「ふん！　冗談も分かんないなんて、そんなんじゃ彼女出来なくて当然だわ。隣の子も襲われないように気をつけなさいね」

去り際に再び返された文句に、凱の我慢は限界を超えてしまった。

「何でも冗談で片付けんじゃねえ！」

店員に向けて怒声を張り上げ、すぐさま踵を返しながら凱は店を立ち去った。
瑞姫も慌ててその後を付いて行く。
店員は思わずポカーンとした後、我に返ったと同時に電話をかける。
電話の相手は制服取扱店の本店だ。

「もしもし、客から一方的に暴言を受けました。本当に怖かったです、何とかして下さい！　住所は分かります！」

彼女は自分のやった事を一切隠しながら「客から一方的な暴言を受けた」と報告した。
仕返しとばかりに搦め手に打って出たのだ。

ところがこの翌日、何者かが本店に送りつけた手紙と同封のCD-Rによって、一部始終が暴露されていた。
サキュバスの店員は後日、本店に呼び出され、こっ酷く怒られる事になる。

件の手紙とCD-Rの出所は社外秘にされたが、手紙の文末には"ある印と花押"が成されていた…。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「ごめんなさい、お兄さん。わたしの制服を受け取るだけだったのに…」
「あんな事言われて我慢して、相手に良いだけ舐められるのは……、もう沢山だ」
「早く、帰ろ。わたし、この制服に袖を通してみたいし」
「……ああ」

怒り心頭の凱を懸命に宥めながら、瑞姫は家路を急ぐ。

「……今日、義父（とう）さんも義母（かあ）さんも帰り遅いだろ？　飯、俺が作るよ」
「え？　え？」

どうにか心を落ち着かせた凱は瑞姫に家事をする旨を伝えると、当の彼女は意外そうな声で訊いてくる。

「父さんと二人だったからね。家事も父さんから習ったんだ。料理は殆ど俺の担当だった」
「お兄さん、お母さんとどっちが美味しく出来る？」
「義母さんには勝てないよ、きっと」
「どうして？」
「『実の』娘の好みを知ってる人に、敵うとでも思う？」
「……！」

驚きと後悔が瑞姫の心に襲いかかる。
地雷を踏み抜いてしまった、という表現が相応しいだろう。

フードとマスクに覆い隠された彼女の表情は、一気に悲しみに沈んでしまった。

「……ごめんなさい」
「どうした？　謝る事無いじゃないか」
「だって……、お兄さんに酷い事、言っちゃった、から……ぐす……」
「泣かないで。頑張って作るから、それで無しにしよう」
「……うん」

そうして家路についた二人。
瑞姫は部屋にこもり、出来上がった制服を見て、うっとりしていた。

凱は冷蔵庫の中身を入念に調べ、どんなおかずが良いかと思案していた。
そこに多少足りないものを感じ、自分の財布から食材を買い出す為に近くのスーパーへと駆け出していく。
義父も義母も会社と主婦の集まりでそれぞれ遅くなる、と事前に連絡を受けていた事もあり、あらかじめ米を研いでおき、買い物に行く事を義妹に告げた上での行動だ。

エリンギやアスパラ、ベーコンなどを買い揃えながら早々と帰宅しての下ごしらえにかかる凱の料理は、
ある物でどれだけの物を作るか、という、生きる為に学んだ料理である。

「もう……春、なんだな」

悲しみがまた一つ、凱の心に刻み込まれる。
けれど、亡き父の言葉が彼の背中を押してくれた。
だから、せめて《義妹（いもうと）》を笑顔にさせたい。
そんな思いが伝わったのか、作った料理は殊の他上手に出来ていた。

「おーい、瑞姫ぃー、ご飯出来たよぉー！」
「うん、今行くー！」

呼び声に元気に応える瑞姫の声に心なしかホッとしてしまう凱ではあったが、今後の事を考えると、自分の存在が瑞姫の為にならないのではないかと考えさせられてしまうのもまた事実だった。

瑞姫が居間に行くとテーブルには料理が数品置かれていた。
簡単そうで意外と手の込んだ料理を見た彼女は、驚きながら義兄を見る。
しかもエプロン姿が妙に様になっている。

「お兄さん」
「ん？　どうした？」
「似合ってるよ、エプロン」
「そう？　これは父さんが初めて俺に買ってくれた物だから……」
「あ……」

凱に他意は無いにしても、瑞姫にとっては辛い思い出を掘り起こしてしまうものなのだろうか。
三度も彼の暗い過去を掘り下げる真似をしてしまった事に、瑞姫の心は暗く沈む。

「そんなに気にするな、瑞姫」
「え？」
「ありがとうな、似合うって言ってくれて」
「お兄さん……」
「早く食べよう。冷めたら美味しくなくなるぞ」
「うん、それじゃあ…」

二人は向かい合わせに座ると手を合わせ、同時に声を発した。

「「いただきます」」

母とはまた違った形での手作り料理を瑞姫は堪能していた。
生きる為に身に付けた技術とは言っても、彼女にとっては「家族の時間」を作ってくれる物であったから。
料理を男性が作るというのは、外食の店でしか見た事が無い瑞姫にしてみれば、凱の料理と言うのは非常に新鮮であり、温かな心を感じる事が出来たのだから。

「美味しい！」
「よかった。嫌いなのがあったら、どうしよう、って不安だったけど」
「初めて……会った時、みたい」

ホットミルクを作ってくれた時の思い出がふと、瑞姫の記憶に蘇る。

「ホットミルクを作った時、か？」
「覚えててくれたんだね……」
「あれから少しずつ、思い出したからね」

苦笑する凱の表情にどことなく悲しさが滲み出ていたが、すぐにそれを奥に押し戻し、食事を進めていた。

「あ……、あの……」

瑞姫が恥ずかしそうにしながら、上目遣いで凱に訪ねてくる。

「ん？」
「ご、ご飯、おかわり……しても、いい？」
「え？　うん……、いいよ。茶碗、貸して」

よく見ればおかずを少し多めに残していた。
おかわりを頼んだのは、そういう事でもあるだろう。

凱は自分のおかわりする分を瑞姫に譲り、ご飯をよそって渡すと、台所に引っ込んだり、部屋から何かを持ってきていた。
冷蔵庫を開け閉めする音やガシガシと何かをかき混ぜる音が聞こえたり…と不思議に思う瑞姫だったが、
その疑問はすぐに解ける事になる。

凱は代わりになる物は無いかと、再び冷蔵庫を物色していたのだ。

卵と牛乳が目に入った事で閃いた彼は早速、ある物を作り出す。
ボウルに入れた卵黄と砂糖をかき混ぜ、自分の部屋から持ってきたバニラエッセンスをふり、牛乳を少しずつ混ぜながら再びかき混ぜる。

そう、凱はミルクセーキを作っていたのだ。

そうして出来上がったミルクセーキをグラスに注ぐ前に氷を入れ、
口当たりを良くする為に茶漉しで原液を濾しながら注ぎ、居間に戻ったのは瑞姫が食事を終えたと同時だった。
綺麗に食べ終えた彼女の姿を見つつ、凱は自分で作ったミルクセーキを飲み始めるのだが…。

「ごちそうさまでした……って、あぁー！　お兄さん……、ずるい！」

瑞姫は、自分が食べている間に飲み物を作っていた義兄に少し不満を感じる。

「分かった。作るから、待ってて」
「むう……」

すっと飲み干して、再び台所で作業を始める凱の背中を瑞姫はそっと見つめる。
彼女は自分の為に夕食を作り、食後の飲み物が欲しいという我がままを文句も言わずに聞いてくれる義兄の姿を見たかったのだ。
勿論、当の凱も瑞姫が見ている事を察してはいたが、見られて減る物では無かったのもあり、敢えて何も言わずにいた。

先程と同じ工程を、量をかなり増やした上で行いながら１〜２杯のおかわりに対応出来るようにしつつ、
手を抜かずにきっちりと作り上げる姿勢に瑞姫はうっとりとし出す。
やがて出来上がったミルクセーキの入ったグラスをトレーに乗せると、凱は告げた。

「出来たよ」
「え？　お兄さん、気付いてたの？」
「うん。でも別に見られちゃダメな物じゃないし、ちゃんと作りたかったから」

凱は顔を真っ赤にして照れる瑞姫にほんの少し遠慮しつつ飲むように促す。
すると瑞姫は待っていたかのようにグラスを取り、あっという間に飲み干してしまう。

「美味しい！　これ、すっごく美味しい！」
「そうか、よかった」
「おかわり！」

間髪入れず、しかも笑顔で催促してくる義妹に何故か顔をほころばせてしまいながらも、
多めに作ったミルクセーキを注いで再び渡す。
だが、瑞姫はあっという間に作った分を丸々飲みきってしまう。

「もう、無いの？」
「また作ってあげるよ」
「約束だよ？」
「ああ」
「あ、そうだ！　お兄さんに見せたいのがあるから、まだここに居てね！」

何を見せる気なのだろうと思いつつ、五分ほど経過した頃に瑞姫は居間にやってきた……のだが――

「これ、今度通う学校の制服なんだよ」

瑞姫は受け取った制服に袖を通し、それを見せる為に部屋に戻ったのだ。
その姿はとても初々しかった。
制服は濃紺のシングルブレザーと黒地に赤いチェックの入ったスカート、
何よりも目立ったのは薄いグレーのボーダーが入った濃紫のネクタイだった。
凱は思わず見入ってしまった事を恥じるが、肝心の瑞姫はそう思っていなかった。

「一番最初に見せたかったの」
「どうして……」

「許嫁である前に……兄としてじゃなく、男の人として、恋人として好きなの。わたしの……彼氏になって欲しいの」

「だからって、どうして制服を？」
「だから、これは、その、好きな人に一番最初に見て欲しかったから」
「義理とはいえ兄妹だぞ？　それでもいいのか？」
「わたし達は本当の兄妹じゃないでしょ？　だから関係ない！　わたしと……付き合ってください！」
「こんな無能を好きになってくれて……ありがとう」
「無能なんて……言わないで……」

瑞姫は凱の体にひしと抱きつく。
真新しい制服の感触と彼女の息遣いが、凱の体に伝わる。
凱はもう一度、ありがとうと告げて抱き返す。

許嫁である前に二人はここに改めて、恋人として共に歩んでいく事を誓い合った。

歩み行く未来の為に――。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

暫くして信隆と紗裕美が戻ってきた。
二人はそのまま歓迎会に引っ張られて遅くなったのだ。
瑞姫は両親を待っている間に自室のベッドで眠ってしまっている。

「お帰りなさい」
「おう、凱君。起きてたのかい？」
「ええ。眠れなかったので」
「あら、良い匂いがするわね」
「今日の夕飯で余った卵白を使って、ラングドシャを作ったんです。良かったらどうぞ」

凱はお茶を出しながら、瑞姫と許嫁である前に将来に向けた交際をし、彼女を大事にする事を二人に告げた。
義両親は凱の意外な才能と娘との交際に二重の驚きを隠さなかったが、将来の為になると確信し、改めて公認したのだった。

翌日、紗裕美が不用意にも凱が焼いたラングドシャを一緒に食べた事を瑞姫にばらしてしまい、すっかり機嫌を損ねた彼女の為に、ミルクセーキとラングドシャを作り直す羽目になったのはちょっとした余談なのだが――

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

遡る事、凱が義両親と会話していた頃と同時刻――

「義理の兄妹にして許嫁同士、か……。これはまた奇妙な関係じゃな。この二人を我が学園に招聘する事になろうとはのう……」

立派な机や椅子が置かれた部屋で、
山羊の角を頭に持った魔物娘――バフォメットが書類を眺めながら呟く。
その視線の先にあるのは二人分の調査書類。

丁寧に写真まで貼られている。
その写真に写るのは何と、凱と瑞姫であった。

「不届きな対応をしてくれおったサキュバスも、ちっとは懲りてくれればいいんじゃがな……」

バフォメットは尚もぼやく。

「あそこまで男をおちょくるから、男に敬遠されるというに……。冗談にも限度があるじゃろうに、それを自覚しておらんのが問題じゃなぁ。《学園（うち）》の制服を取り扱ってくれておるとは言え、過去にも付き添いの男性客から苦情が来とったのを全く覚えとらん。あの方からの通達も今のところは順調じゃが、はてどうなるやら……」

書簡に目を通し直すバフォメット。
そこにはこう書かれていた。

――この書簡と共に届くであろう書類に目を通せ。
　　書類は二人分の調査報告書だ。
　　その書類の二人を速やかに確保せよ。
　　男の方は就職が出来ておらんので、用務員辺りで雇え。
　　娘の方は父親が運良く、我ら魔物娘の会社に出向するとの事。
　　制服代や授業代等、諸費用を免除させる旨を伝え、編入させよ。
　　どこに配置するかは、そちの判断に任せる。――

書簡の最後には正式な書類である事を示す印が成されている。
それはサキュバスの店員が後日、本社で怒られる原因となる手紙にあった物と同じであった――

■作者メッセージ
以前のものを加筆・修正しました。
もう少し魔物娘分を出したかったのですが、進行上これが限界でしたorz