連載小説
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・十二女がカラステングな場合

子供というものはついつい問題を引き起こす。
それは魔物娘でも同じことだ。ハプニングのない子供なんていない。
でも、そんな失敗や経験の積み重ねによって、子供は成長していくものだ。
失敗を反省しなくちゃいけないのは、大人でも変わらないことなんだけれどね。
それは誰でも理解しているはずなのに。
大人はずるいから、ついつい忘れてしまうものなのかもしれないな。

・〜ある日の朝〜


「・・・おはよーございまーす」ススー・・・

「・・・・・・・・・」


部屋の扉をゆっくりと開け、中を観察。
内装に散らかっている様子はなく、綺麗な部屋だ。
落ち着いた装飾やジパング産の小物から、和風な雰囲気が漂っている。
このような寝起きドッキリみたいになっているのは訳がある。


「・・・んん〜?」

「・・・・・・・・・」


ベッドは掛け布団がこんもりと膨らんでいる。
今からこの部屋の妹を起こすのだが・・・
果たして今日は何を『仕掛け』てくるのやら


「・・・あ〜さ〜だ〜ぞっ!!」バサッ!


布団を勢いよく捲り上げる。
そこにいたのは・・・







「・・・抱き枕?」







「目標をセンターに入れて・・・」

「!?」





しまった!?背後を取られt





「スイィィィィィィィィィィィィィィィィィィッチ!!!」





ドゲシャァ!


「えばぁっ!?」ゴフッ


背後のクローゼットから、今起こすはずであった妹からの奇襲を受けた。
割と遠慮のない飛び蹴りを回避することができず、腰にクリーンヒット。
そのまま妹のベッドにダイブする形となった。
そこに着地することまで想定された、比較的美しい蹴りである。


「・・・おはよう、カリナ」

「おはよう。にぃに」ニシシ


振り向くと「してやったり」とも言わんばかりの満足気な表情を浮かべている。
黒い翼で器用に腕を組み、俺を蹴り飛ばしたであろう鳥の脚をプラプラと揺らしている。
この妹はいたずら好きなカラステング。
朝の起床時間は、カリナの俺に対する奇襲の時間なのである。


「まさか身代わりとはな。恐れ入ったよ」

「ふふふ、私は常に成長し続ける可能性の『カマタリ』だからね」フフン

「ほー、随分と大層なものでできているんだな。知らなかったよ」

「ふふーん、だからにぃにはダメなんだぞぉ。もっとあたしを見なさいよねっ」

「善処するよ」


ちょっとお調子者なところもあるけれどね。言葉間違っているし。
奇襲とは言ったが、これが家族としての好意故の行動であることは分かっている。
あまり妹に構う時間が取れない手前、こういう悪戯も少しは容認しているという訳で。
忙しさにまみれている時は、流石に制したりもするが。
そこはカリナも理解しているから問題はない。


「でも飛び蹴りはやめような。危ないから」

「にぃににしかやらないから大丈夫大丈夫」

「・・・・・・・・・」

「ご、ごめんなさい」


こんな風に、根はいい子だからね。悪いと思ったことはすぐに謝ることができる。
でも意地っ張りなところもあるから、譲れないものがあると衝突しちゃうこともあるようだけど。



「しかし、こうやって一人でも起きられるようになったなんて、流石だなぁカリナは」

「えへへ、そんなに褒めないでよ。照れるじゃん///」

「他の妹達にも見習って欲しいくらいだ」

「いやぁ〜そんなそんな///」デヘヘヘ・・・





「じゃあもう俺が起こしに来なくても大丈夫だな」

「ゑ・・・?」ピシッ


あれ、何か今亀裂の走る音が聞こえたような・・・
俺の常備している時計にひびでも入ったかな。後でチェックしとこ。


「それじゃ、俺は他の妹も起こしに」

「ちょちょちょちょぉーっと!待って欲しいかなぁー!!」

「ん?どうした。もうそろそろ行かなきゃ」

「そ、その発言は見逃せないかなーって。えと、さっき、なんて?」

「それじゃ、俺は他の妹も起こしに」

「その前!!」

「んー、『もう俺が起こしに来なくても大丈夫だな』」

「それぇっ!!いやその理屈はおかしい!」

「えっ」


理屈がおかしいとまで言われた。
え、普通じゃないの。俺としては一人分の時間が減るだけでも充分有難いし、何より妹の成長を非常に喜んでいる一言なんだけれども。
まあ、朝のやり取りがなくなると考えると、結構寂しいかなぁ。
でもそれ以上に、自立の道を歩み始めた一人の妹に感動を覚えて・・・


「きょ、今日はたまたま!本っ当に偶然!目が冴えちゃったから、起きられたってだけであってぇ!
明日からは、多分、絶対、にぃにが起こしに来ないと、一日中寝ているかもしれないという危険が危ない!」

「少し落ち着いて。言葉がおかしい。俺も頭痛が痛くなっちゃう」

「つ、つまりね」

「つまり?」



「あ、あたしを起こしに来ないにぃには、『死刑』に値しちゃうの!!!///」

「えーーーーーーーーーーーーーー!?」


妹を起こしに来ないと死刑かぁ・・・知らなかったなぁ、それは。
カリナはカラステングということもあってか、何やら罪状をつけたがるところがあるんだけど。
重いな、今回は。死刑か。起こさなかったら死ぬのか俺は。
・・・冗談はさておき、リアクションも大げさに取ってはみたけれど。
まだ起こしに来て欲しいってことは、十分に伝わっているよ。
理由はよく分からないし知らないけれど、今まで他の妹達もそうだったからねー・・・


「うーん、死刑はやだなぁ」

「そうでしょっ!そうでしょっ!?」

「仕方がないなー、明日も起こしに来るとしますか」

「ホントっ!?ああ、いや、当然だよねっ!!」パァァア!

「・・・ま、今日は起きれたんだから顔洗ってきなさいね。残りも起こしに行くから」クスッ

「あっ・・・はいっ!」パタタタ・・・


成長した一面を垣間見れて、喜びもある日々だけど。
ああいう姿を見ると、まだまだ子供なんだなぁって思ってしまうね。
さて、次の妹は、と・・・









(ヒャッハーーーーーーーーイエーーアーーーーーーーーー!!!
にぃにといっぱいおしゃべりできたよぉぉぉぉぉおおおお!!///♥
やったぜあたし!よくやったぜあたし!!
しかも!笑ってたよね!?にぃに笑ってたよね!!?
クールな顔したにぃにのスマイル!いただきましたっ!!///
これだけでご飯のオカズになるよぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!!♥♥)



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



・〜ある日の行水〜


「・・・・・・・・・・・・・・・」ペラッ


家事の一休みである、自由時間。現在俺は静かに読書中である。
本を読むことは、忙しい家事の中でもできる数少ない趣味の一つだ。
栞をはさんでおけば、いつでも読み返せるからね。
読書が趣味、と聞くとインドア派な印象を持たれるが、アウトドアも結構好きだ。
落ち着きたいという意味では、何か集中できることの方が良いのだけどね。
ちなみにこの本は推理小説。今月発売されたばかりの最新刊。
冒険譚も好きだが、思いもよらないトリックが展開されていくのは読んでいて楽しい。
旅のハプニングや出来事の書かれた冒険譚もワクワクしていいんだけどね。
また、作家は人間である。リャナンシーをはじめとする魔物娘が関わると、どうにも官能要素が入っていることも多いからな。
そういうシーンよりも純粋な物語として楽しみたい俺にとっては、本を選ぶことも慎重に行わなければならない。
何より女性が多いこの家で、そんな本は易々と読めないしなぁ。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・んー」ググッ


集中して読み進めていたからか、喉が渇いたな。
少し水を飲んでから、また続きを読み始めようか・・・
にしても、本当に今日は静かだなぁっ・・・!


「・・・・・・・・・」パシィ!

「・・・・・・・・・!」グググ・・・!




「・・・そろそろ仕掛けてくるんじゃないかなーと思っていたとこだ」

「・・・流石にぃにだね。本は奪い取れなかったか」


気配もなく、音も立てずに本を強奪しようとしてきたのはカリナ。
本を置き、席を立とうとした瞬間を狙い、足を伸ばしてきたようだが俺がそれを掴んで阻む。
家の本は家族共有が基本。故に取り合いになることも稀ではあるがある。
そして言わずもがな、カリナは推理小説が好きなのだ。
いたずらのトリックの参考になるとの理由ではあるが、真剣に本を読む姿を見てしまっては、咎めるのも筋違いというものだろう。


「本を足で掴むのは行儀が悪いなぁ。ちゃんと手を使わないと」

「それってあたしに対する当てつけかな。翼の手で掴めるわけないじゃん」

「それは失礼したね。でもカリナは器用に翼を使って読めるじゃないか」

「えへへ、バレたか。それに関してはごめんなさい、だね。でも仕方ないんだよ」

「何が仕方ないって?」

「あたしだって、読みたいんだからさ」


順番は守るようにと勿論言い聞かせてはいる。
だが単に怒ったりしないのは俺がこういったやり取りが楽しいというのもある。
親にも近い立ち位置にいる俺だって、形だけだとしても兄妹喧嘩に少しの憧れを持っているのだ。


「いつもにぃにが先に読んじゃうしさ。この前なんて最後の展開バラシそうになるし」

「だってカリナが慌てふためく姿が面白いからな」

「うわー、ひどいね。まるで鬼みたいだ」

「残念ながら人間だよ」







「ん?今俺のこと呼んだか?」

「「呼んでない」」



「・・・(´・ω・`)」

「ほらほらバレス、今日はティーナに料理教えるんでしょ」

「・・・おう」



クラリネとバレスが通りかかった気がするが、気にしないことにする。
今はこちらに集中しないと、本が盗られてしまう。すまんな二人共。
どうやら料理を教えるらしいが・・・晩御飯前までには片付いていればいいんだが。


「どうしても譲る気はないって?」

「ここで引くべき理由がない」

「じゃー仕方ないね。仕方ないんだ」

「ああ、仕方ないな。それじゃ一丁」

「戦らせていただくよっ」



・・・・・



「ふー・・・お疲れ様。日に日に、腕が上がってない?」

「にぃ、に、こそ・・・はぁ、はぁ、あい、っ変わらず、だね」ゼィ、ゼィ


長く苦しい戦いだった。
実際は30分程だけども。
喧嘩という表現はするものの、場面としてみれば俺がカリナの攻撃を躱し続けていただけである。
俺から手を出すことはないが、どうしてもという時だけ受け止めていなす。
組み手のようなやり取りだな。多分。
魔物娘には力じゃ勝てないが、まだまだ子供のカリナくらいなら、どうということはない。
・・・チェロとかは別格だけども。フルーやバレスレベルでは勿論無理だよ。俺人間だもの。
ワイバーンとかドラゴンとかに力で勝つなんて、流石に無理にも程がある。


「・・・大丈夫か?床に突っ伏してるが」

「へ、へーき、だよ」ハァ、ハァ・・・


カリナの方は満身創痍、疲労困憊といった様子。
宙をあれだけ動き回ったら、それは疲れるだろう。
汗もだくだく。なるべく早く流す必要があるな。


「あー、いい汗かいた。だけどこのままだと冷えちゃうし、お風呂入ってきなさい」

「・・・今、ちょっと、動けない・・・」

「しょうがないなー」ヒョイ

「わ、ちょ、待って!にぃにが先に入ってきてよ!///」

「俺はそこまで汗かいてないから後でも大丈夫」

「そ、それに汗だくの女の子の体に触れるのは犯罪なんだよ!?///
お、おろして!降ろしてよっ!!///」

「むぐ・・・」


抱っこで持ち上げたら怒られてしまった。
うーん、確かに汗だくで触られたら嫌だよな。俺としたことが。
妹達への配慮が足りないんだな。気をつけねば・・・


「あ、あたしは、しばらく、休んでいるから・・・は、早く、入ってきてよねっ///」ドキドキ
(お姫様抱っこお姫様抱っこお姫様抱っこお姫様抱っこお姫様抱っこお姫様抱っこ///♥)

「ああ、すぐに流してパッと出るさ。ほいタオル。とりあえずそれで拭いてて」

「ありがと・・・///」
(お姫様抱っこお姫様抱っこお姫様抱っこにぃにがお姫様抱っこお姫様抱っこあたしに///♥)



・・・・・



あぁー温水が気持ちええ・・・
うちの家は魔術式で自動に湯沸しが可能だから、すぐにお湯が使える。
温度調節も可能。便利な世の中になったものだ。
世の中とは言ったが、これは母さんが確立した『日常魔導技術』。
技術者の関係もあって世の中にはまだ広く浸透してはいないみたいだけどもね。
未来では今よりももっと便利になっているんだろうか。
ボタン一つでお湯が出ることだけでも、十分に便利すぎる気もするが。


「さて、そろそろ出るか・・・」


カリナも待たせてしまっていることだし、風邪をひかせてしまっては元も子もない。
体も温まった。カリナももう動けるくらいには回復しているはずだ。


ガラッ


「ん・・・?」














(にぃに!にぃに!にぃに!にぃにぅぅうううわぁああああああああああああああああああああああん!!!♥
あぁああああ・・・ああ・・・あっあっー!あぁああああああ!!!にぃににぃににぃにぅううぁわぁああああ!!!♥
あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ・・・くんくん♥
んはぁっ!にぃにんの栗色の髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!
間違えた!モフモフしたいぞ!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ・・・きゅんきゅんきゅい!!♥
さっきのにぃにんかっこよかったよぅ!!あぁぁああ・・・あああ・・・あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!♥
小説読めて良かったねにぃにん!あぁあああああ!かっこいい!にぃにん!くーる!あっああぁああ!♥
お姫様抱っこもされて嬉し・・・いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!♥
ぐあああああああああああ!!!あたしがお姫様なんて現実じゃない!!!!あ・・・にぃにんの性格をよく考えたら・・・
に ぃ に ん は 王子 じ ゃ な い?にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!
そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!レストオールぁああああ!!
この!ちきしょー!やめてやる!!現実なんかやめ…て…え!?嗅い…でる?にぃにんが着ていた服を今あたしが嗅いでる?
にぃにの服があたしを見てるぞ!♥にぃにがあたしを見てるぞ!♥にぃにのインナーがあたしを見てるぞ!!♥
毎日にぃにがあたしに話しかけてるぞ!!!♥よかった・・・世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ!♥
いやっほぉおおおおおおお!!!あたしにはにぃにがいる!!やったよチェロ!!ひとりでできるもん!!!♥
あ、今入浴中のにぃにああああああああああああああん!!いやぁあああああああああああああああ!!!!♥
あっあんああっああんあクラリねぇねえ!!フ、フルーねぇねー!!ホルンねぇねぁああああああ!!!コルねぇねぁあああ!!
ううっうぅうう!!あたしの想いよにぃにへ届け!!入浴中のにぃにへ届け)















・・・。
カリナが俺の服に顔を突っ込みながら振動している。
遠くだから、よく見えないが、うん。
洗濯のかごがひっくり返っているのを見るに、あれはさっき着ていた服だろう。
うん。






>そっとしておこう。






・・・・・



「にぃに。出たよー」

「おう」


カリナの入浴も終わり、すっかり汗を流しきった。
さっぱりした。早めのお風呂もいいものだ。
え?さっきのカリナはなんだったのかって?
俺の記憶(ログ)には何もないな。

カリナは割と几帳面でキレイ好きなこともあり、入浴時間は長い方だ。
『烏の行水』というジパングの言葉があるが、短いなんてことは決してない。
母の指導の賜物である。一体どんな指導をしたかって?
知らん、そんな事は俺の管轄外だ。
流石に兄とはいえ、そんなデリケートな部分まで踏み込むことはできん。

という訳で、入浴時間に関しては問題ないのだが。
問題はここからで。


「で、カリナ。体はちゃんと拭いたか?」

「拭いたよー」ポタポタ

「どこがだ。まだ濡れているじゃないか」

「そうかなー。これで十分じゃない?」
(濡れているだなんて・・・にぃには大胆だなぁ///♥)

「・・・・・・・・・・・・」


何故かカリナは水を拭いたがらないのだ。
入浴時間に特化した分、代償として入浴後の始末ができなくなってしまった・・・
なんて、そんなことはないのだろうが。
結局のところ、理由は分からん。


「あれだよにぃに、水も滴るいい女っていうじゃん?///」テレテレ

「・・・・・・・・・・・・」





「シャラーーーーーーーーーーーーーープッッッ!!!」ゴシゴシゴシゴシゴシゴシ・・・

「わきゃぁぁああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!??」





問答無用で頭をふく。翼をふく。体もふく。
何が水も滴るだ。熱でも出たらどうするんだ。


「ちょちょちょ、まっ、いひっ、あひゃひゃひゃひゃひゃ!!??」

「聞こえません」ゴシゴシ

「そこっ、翼はっ、ダメ、くひっ、うひひひあはははははは!!!」

「我慢してー」フキフキ


カリナの抗議などお構いなしに拭きまくる。
タオル越しの感触なんてものはお構いなしだ。
気にしないし気にならない。心配と憤怒の隙間に、情欲なんて感情は抱かない。
そもそも妹に欲情してたまるか。カリナにだって家族以上の感情はないだろう。


「く、くすぐったいってば・・・んっ♥」

「もう少しで終わるからなー」ワシワシワシワシ

「そんな、ひぅっ♥ お腹、を・・・もにゅもにゅ・・・しな、いでぇ・・・あぅ♥」ハァハァ

「魔導式熱風機かけるからなー、動くなよー」ブォォォォォ

「くぁ・・・はぁぅ・・・気持ちい・・・・・・♥」フゥ、フゥ


平常心。心の中心を決して崩すな。
油断したら一瞬でやられる。
ちょっとカリナの口数が減ってきたから余計に熱風機の音が際立つが。
ここで意識しない。沈黙に慣れないことが重要である。
あ、ちなみに扱っているのは魔導式熱風機『ドライクール・アドマイヤー』。
風魔法を応用したカラクリ用品であり、冷風・温風の両方を出すことが可能である。
我が家では主に髪を乾かしたり、乾ききらなかった洗濯物を乾かしたりするのに使っているな。
略して『ドライヤー』と呼んでいる。


「にぃ、に・・・ねぇ・・・♥」ハァハァ

「どしたどしたー」ワシャワシャワシャ






「もっと・・・優しく、してぇ・・・♥」






「そぉい!!」バフゥ

「あふんっ!?」


しまった。
思わずタオルでカリナを包みあげて洗濯かご(大)へ投げ入れてしまったぞぉ。
子供が余裕で入れるサイズで、中には洗濯済のタオルがぎっしり詰まっており、ふっかふかだったから良かったものをー。
はっはっは、全くコイツァうっかりしちまったぜぇ。
いやっはっはっは・・・
はぁ・・・


「・・・拭き終わったから、早く自室で着替えてきなさい」

「ふぁーい・・・♥」モフモフ




正直、ちょっと危なかった。






(にぃにの手で・・・あたし・・・全身まさぐられちゃった・・・♥
しっかりとした、手つきで・・・あたしのことを・・・♥ はふぅ・・・♥)



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



・〜ある日の傷だらけ〜


日も傾き始めた夕暮れ時。
太陽の光が、我が家をオレンジ色に照らしている。
そろそろ晩御飯の支度をしなくっちゃね。
外に遊びに出かけていた妹達も、お腹を空かして帰ってくる頃だろう。


「た、ただいまーー!!!」


噂をすれば影がさす、とはまさにこのことだな。
今日も元気に遊んできたようだ。
・・・ん?でも少しだけ焦っているような声だったな。
様子を見る意味も兼ねて玄関先へ行って、迎えることにするか。


「おう、おかえ・・・っ!?」

「ぐす・・・ひっぐ・・・ううう・・・」


玄関先にいたのは外に遊びに行っていた下の妹達。
一際目立つのは、おろおろしているチェロとなだめようとするベル。
そして、何故かボロボロの格好で泣いているカリナの姿があった。


「おい!どうした!!一体何があったんだ!?」

「に゛ぃ、に゛っ・・・!!ずずっ、うあ、うわああああああああああああああん!!」

「怪我はないか!?痛いとことかないか!?」


俺の顔を見るなり、大きな声で泣き出すカリナ。
俺はカリナが泣き止み、落ち着くまで。
優しく抱きしめることしかできなかった。



・・・・・



「・・・落ち着いたか?」

「・・・う゛ん」ズビ


しばらくして、カリナは少し落ち着いたようだ。
エプロンが涙鼻水まみれになっているが、こんなもの屁でもない。
それよりも、一体何でこんな状況になっているのか。
それを知ることが先決だ。


「しかし、心配したぞ・・・こんなにボロボロになって・・・」

「う゛ぅ・・・ごめんな゛ざい・・・」

「謝らなくていい。それよりも、何があった?」

「・・・うー」



「あ、あんちゃん・・・」

「チェロ?何か知っているのか?」

「その・・・カリナは・・・カリナが、友達とケンカしちゃって・・・」

「喧嘩ぁ!?何でまた」


カリナは優しい子だ。
いたずらや、俺や兄妹と軽いおふざけ程度の喧嘩をすることはあっても、こんなに傷がつくほどになるまでにはならない。
それに、自分に非があるときは、素直に謝ることもできる。
そんなカリナが、ここまでの大喧嘩をするなんてな・・・


「・・・相手は?」

「・・・イリーちゃん」

「あのサンダーバードの子か!?ますます分からんな・・・」


確か、カリナと一番仲のいい子だったはずだ。
二人でいたずらを計画し、仕掛けるほどに仲良くしていた記憶がある。
しかも、普通のサンダーバードと比べると大人しい子で、それこそ喧嘩をしている姿が想像できない。


「・・・だって、イリーが悪いんだっ」

「カリナ・・・?」

「イリーが、にぃにのごど、ばがにずるがらぁ・・・!」ヒッグ

「・・・俺のこと?」

「イリーが、じぶんのがれじのじまんするがらぁ!
にぃにだっで、にぃにのほうが、ひっぐ、ずごいっで、いっだら!
にぃにが、家にいるだけじゃんっでっ!ばがにっずる、がらぁっ!!」

「そっか・・・」


どうやら、カリナは俺のために喧嘩をしちゃったらしい。
俺のことをその子が馬鹿にしたから、という理由で。
自慢の対象にするほどの兄であれたことの嬉しさと、原因を作ってしまった悲しさで。
何だか気分は複雑だ。
だけど、話を聞く限りでは少し引っかかるところもある。


「カリナ、本当にその子は、馬鹿にするつもりで言ったのかな」

「えっ・・・」グシュ

「その子に悪気はなかったのかもしれない。カリナがそこまで怒ると思わなかったのかもしれない。
でもカリナは、そうは思わなかった。カリナはそれを、ちゃんと伝えられたかな?
だから、カリナもその子もつい熱くなっちゃって、喧嘩しちゃった。違うか?」

「うぅ・・・」

「もしかしてカリナも、相手を傷つけること、言っちゃったんじゃないかな。
カリナがそこまで思っていなかったけれど、向こうにとってはすっごく嫌なこと。
それって、体が傷つくことよりも痛いことだよな」

「!・・・う゛ん」


やっぱり、二人のやり取りの中で誤解、すれ違いが生じてしまっていたようだ。
そうでもなければ、友達同士の喧嘩が起こることなんて、あまりないだろう。
しかし、カリナがこの様子となると、おそらく向こうも・・・


「なあ、カリナ。カリナはどうしたい?」

「あだし・・・?」

「イリーちゃん、だっけ。その子と仲良かったよな。
でも喧嘩しちゃった。傷つけちゃった。
何か、言わなきゃいけないこと。あるんじゃないかな?」

「あたし・・・あたしは・・・」


子供同士の喧嘩なんて、珍しいことじゃない。
むしろ、喧嘩をしないで。誰かと衝突しないで生きてこられた奴なんていない。
そういうのも、大事な大事な経験だから。
たくさん失敗して、反省して。それで自分がどうしたいか。どうするべきなのか。
一つずつ、一歩ずつ。子供は学んでいくものなんだ。
そして大人は、それを時には怒り、時には抑え。
時には見守る義務がある。


「あたしっ、イリーに謝りたいっ。ひどいこと、言っちゃって!引っ掻いちゃったことも!
全部謝っで、仲直りじたいっ・・・!ごめんなざいっで言いだいっ!!!」ズビッ

「うん。それじゃ、今から謝りに行こっか」

「う゛んっ」



・・・・・



「御免下さーい」

「・・・・・・・・・・・・」


辺りが少し暗くなってしまったが、日が落ちきる前にカリナの友達、イリーの家にたどり着いた。
普段は近くの森で遊んでいるようだが、家は街にあるんだな。
もしかしたら森暮らしかなぁとも思っていたけれど、家があるってことは街に家族がいるということ。
さて、どうなるかな。


「どうも、こんばんは・・・おや、もしかしてイリーのお友達って・・・」

「はい、うちのカリナがそうです。この度はご迷惑をおかけしたようで・・・」


扉が開き出迎えてくれたのは、若い人間の男性だった。
父親・・・にしては若すぎるな。歳は俺と同じか少し下くらいか。
しっかりとした体つきから見て、職種は兵士だろうか。


「いえいえ、こちらこそですよ。怪我して帰ってきたときは驚きましたけれども、子供同士のケンカですしね」

「そう言っていただけると助かります」

「ほら、いつまでも後ろにいないで。カリナちゃん来たんだから」


男性の後ろにいるのは、少々ビクビクと怯えた様子のサンダーバード。
カリナと確か同い年で背も小さいから、突然現れたようにも見えた。
目つきも柔らかく、露出も少ない。本当にサンダーバードなのかと少し疑わしく思うのだが。
妹達のような『例外』を見ていると、図鑑絵基準で全てそうだと考えるべきではないな。
しかし包帯やガーゼ、男性の言動からもあった通り、やっぱりこの子も傷だらけだったか。
本当に申し訳ない。でも、この言葉は俺が今言うべきではない。


「・・・あの・・・イリー。えーと・・・」

「・・・カリナ、ちゃん・・・・・・」


だから俺は見守る。
カリナ、頑張って。


「ご、ごめんなさい!」

「!」

「ひどいこと言ってごめんなさい!引っかいちゃってごめんなさい!
ムキになっちゃってごめ゛んなざいっ!!だいじなひどなのに゛、ばがにじてごめ゛んなざいっ!!」ポロポロ

「カリナちゃん・・・わたしの方こそっ・・・ごめんね・・・!」ウルウル

「イ゛リぃ・・・ともだちで、い゛て、くれるのっ・・・?」ヒッグ、ヒッグ

「もちろん・・・当たり前だよっ・・・!わたしのこと、ゆるしてくれる・・・?」ズズ、ズビ

「えへへ・・・あったりまえじゃん!」グシュ


良かったな、仲直りできて。
二人の絆は多分一層強まったことだろう。
こうやって子供というのは、大事なことを学んでいくのだと、俺は思っている。


「いいですね。こういう子供同士の友情って」クス

「ええ、そうですね・・・ええと、失礼ですが、貴方はイリーちゃんのお兄さん・・・ですか?」

「いいえ、婚約者ですよ」








「えっ」



え?今なんて言った?
『婚約者』?こんな幼い子供の?
狙ってるの?家族じゃないの?ロリータ・コンプレックスなの?
合法なら分かるよ?でもカリナと同い年ということは12歳ですよ?
流石に魔物とはいえ、幼すぎやしませんか?
好きなのはまあ、人それぞれだと思いますよ?
俺が何か言うことではないですけれどもね?


「? どうか、致しましたか?」

「い、いえ、こ、婚約者、ですか・・・少し、驚いてしまって・・・」

「あぁー驚きますよね。でも妻といっても過言ではないのですが、法的には・・・」

「つ、『妻』ですか。それはまあまた、大胆な」

「大胆といえば、イリーも最近になって大胆になってきたようで。昨日も絞られてしまいましたよ」ハハハ

「しぼっ・・・!?」


あれ、俺がおかしいんかな。
流石にアウトだと思うんだけど、俺がおかしいんかな。
何?もうこの人、契ってるの?睦言交わしてるの?
こんな小さい子に?手ぇ出しちゃったの?
小さい子に興味アリ?もしかしてもしかするが。
さっきの「いいですよね」って発言は意味深なの?
・・・カリナも狙われちゃってるの?
アカンよ。それはアカンよ、キミ。
まだ名前も知らないけれども。それはマズイですよ。
兄が許しませんよ。ええ。許してたまるものですかよ。
危ない人には近づかせませんことよ。


「いやぁ、流石に怪我して帰ってきたときは驚きましたけれども。ちょっぴり興奮もしてしまいましたね」

「・・・・・・・・・・・・」

「傷を舐めるプレイとかもあるらしいじゃないですか。消毒にもなりますし、今夜楽しみですねぇ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「その友達にひどいこといっちゃった、と泣き顔も可愛かったですが、笑顔が一番ですね。
ああやって仲直りできてほっとしましたよ。カリナちゃんも可愛いですね」クス

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」ピキ

「ああ、すみませんね。私の方ばかり話してしまって、お恥ずかしい限りでs」





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ





「ええっと・・・何か先ほどより身長と肩幅が大きくなっているように見えるのですが」



∩(・ω・)∩スッ

「えっ、何で座っt」





タク斗無情破顔拳骨





「せめて痛みを知らず安らかに逝くがよい・・・」

ゴチィィィィン!

「痛ぁあーーーーーーーーーーーーーーーー!!?」



タク斗無情破顔拳骨。
この拳骨を受けた者は、逝く前に地獄(のような痛み)を感じる気がする。
これが、私の使うタク斗真拳骨だ。



「えぇーーーーーーーーーーーーーっ!!?」

「にぃにーーーーー!?何してんのぉっ!?」






後日。
菓子折りを持って今度は俺が謝罪しに行ったことは、言うまでもない。
何故あんなことができたのかは記憶にないが、とりあえず何かが。
そう、俺の体の中で何かが切れた・・・決定的な何かが・・・
多分妹を守るための防衛本能的な何かである。
カリナの友達にさらに警戒されることになったが、理由もしどろもどろになりつつも何とか説明でき、許していただけたので良しとしよう。
・・・イリーちゃんとその旦那さん、本当にすみませんでした。






(にぃにがいきなり怒ったときはびっくりしたけれども・・・
つまりは、あたしのためってことだったし・・・///♥ あうぅ・・・///♥
それに、にぃにもちゃんとごめんなさいできたから、めでたしめでたし、だねっ。
・・・あたしのために、ああた、あたしの・・・のおおおああああああああああ!!!♥♥)





・・・・・





ちなみに、妹達に相談してみたところ。
「えっ、兄さんたまにああなるけれども」とビクビクされながら答えられ。
一週間ほど凹んでいたのは、妹達には秘密である。
14/05/08 00:06更新 / 群青さん
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■作者メッセージ
はい。お読みいただきありがとうございます。
十二女の『カリナ・オーケスティア』
年齢は12歳。
十一女のチェロから一年かからずに生まれた子ということになります。
エキドナをはじめとする魔物娘の妊娠期間について色々と疑問はつきませんが、
子供が出来づらいという基本を元に、生まれやすいオーケスティア家の母から見ても、
大体最低でも10ヶ月間が空いていれば大丈夫かなという結論に至りました。
誕生日などはぼやかしておりますし、おそらく矛盾は生じないと思っております。

しかし、今回は色んな意味で時間がかかる妹でした。
だってこの十二女、ネタが尽きないのですもの。
今回は『表面上はちょっぴりクールぶっているが、内面はムッツリな性格』。
いたずら好きな面もあり、はっちゃけさせることが非常に書いていて楽しかったです。
その分展開がたくさん想像でき、まとめることに難儀致しました。
十女、十一女よりも先にお話が固まっていたのに時間がかかるなんて・・・
どうしようもない作者で申し訳ありませんね。
『兄タクトがサンダーバードの電撃をゴム棒で打ち落とす』という展開も予定しておりましたが、
文字数の関係で泣く泣く没に致しました。それでも一番文字数が多いです。
タク斗の拳骨もその名残です。タクトキさんは妹を危険に晒す者に容赦はしません。
『妹達には平等に』という姿勢なのですが、筆が進んでしまったならば致し方なし。
ですがなるべくラインは越えないようにしたいですね。

名前の由来は木管楽器『オカリナ』から。
『オカリィ』にして中二病キャラにしようかな、とも考えましたが。
きっと兄タクトからの矯正が入ると思われるので止めました。
キャラが濃すぎて扱えなくなりますよ、おそらく。

まだまだ非常に忙しい時期が続いており、時間が少しだけ空いたためにこの時期の更新となりました。
次はいつ頃になるか、皆目見当もつきませぬ。
それでものんびりと、忘れた頃にでもやってきますので。
これからもよろしくお願い致します。


次は十三女のお話なんじゃない?
残り3人・・・頑張りますっ。

次回もお楽しみに。

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