連載小説
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・十三女がサハギンな場合

人の性格というものは実に様々だ。
活発な者もいれば、静かな者も。暴れっぽい者も、和やかな者も。
それは魔物も同じ。種族に囚われず、千差万別。当たり前のことだな。
うちの家では非常にハツラツとした騒がしくも賑やかな妹が多いのだが。
逆に、静かでマイペースな妹も勿論いるのである。

・〜ある日の朝〜


「起きてるか?スピネ」

「・・・・・・・・・すぅ・・・・・・すぅ」


静かに寝息を立てていることを確認し、足音を立てないようにベッドまで近づく。
綺麗な長髪も相まって、まるで人形のように可愛らしい寝姿だ。
布団がちょっとだけはだけており、水玉パジャマが目に映る。
ここまでなら普通の人間の子供と何ら変わりはないだろう。
袖から見える青く大きな水かき付きの手と耳ヒレがなければ。
そう、この妹の種族はサハギンだ。


「ほらほら、朝ですよ〜」フニフニ

「んっ・・・///」ピクッ、ピクッ

「ん〜」ナデナデ

「・・・ふぁ・・・・・・すぅ・・・すぅ・・・///」


ほっぺをふにふに、頭をちょっと撫でてみる。
耳ヒレがピクンとくすぐったそうに揺れる。可愛い。
カスタといい、静かに寝ている子ほどちょっとイタズラしたくなるものだ。
だが、スピネの場合、ここで終わりではない。


「そら、そろそろ起きな」ポンポン

「・・・・・・すぅ・・・すぅ・・・」

「・・・お〜い」グニグニ

「んみゅ・・・・・・すぅ・・・すぅ・・・」

「・・・起きて〜、お願い起きてー」コショコショ

「・・・・・・・・・すぅ・・・すぅ・・・」


頭をポンポンしても、頬を左右に軽くつまんでみても、脇腹をくすぐってみても。
全く全然一向に起きる気配がない。
そう、スピネは妹の中でも1位2位を争うほどの寝ぼすけなのだ。
寝る子は育つとよく言ったもの。将来的には他の妹達に劣らない魅力的な姿へと成長することだろう。
・・・それでも今は起きて欲しいんだけど。


「起きなさーい」ユサユサ

「ほらー、気持ちのいい朝だぞ〜」ペシペシ

「おーい、スピネってばー」グワングワン









「・・・・・・すぅ・・・すぅ・・・」

「ダメだこりゃ」


起きる気配が見られない。安心しきってしまっている。
この子ははたして野生でも生きられるのだろうか・・・外に放り出す気は更々ないけど。
そんな寝ぼすけさんにはお目覚めの儀式を・・・
あれ?冷水ないや。あぁ、バレスに使ったんだっけ。
しかし、スピネの場合はこれでも起きないから困りものである。
一度ジャイアントスイングをしてみたこともあったが、それでも起きなかった日もあるくらい。
起きない時は本当に起きない。そんな我が家の眠り姫なのだ。


「ん〜、どうしたものか・・・」

「・・・・・・すぅ・・・すぅ・・・」

「・・・ま、また後で起こせばいいか。たまにはゆっくり寝かせておくのも悪くない」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「それじゃ、次のとこに・・・」ギュッ



「・・・・・・むにゃ・・・にぃ・・・」

「・・・おぉぅ・・・・・・」


やられた。袖を掴まれた。早々に手を引っ込めるべきだったか。
小さいとはいえ魔物娘。力は相当なもの。
無理に引き剥がそうとすると傷をつけてしまうかもしれない。
服が。
いや、服ぐらいどうってことないんだけど、後で質問攻めされて真実が明らかになるのは目に見えている。
その時、悲しんでしまうのはこのスピネだ。自分のせいで服が敗れてしまったとへこんでしまう。
優しい子だからな。


「あー、どうしたものか・・・」

「・・・・・・すぅ・・・・・・たくにぃ・・・・・・」ギュオッ

「おわっ!?」グイッ

「・・・・・・・・・・・・」

「お、起きたのか?スピネ・・・」












「・・・・・・すぅ・・・すぅ・・・」

「まだ寝てんのかい」


いっそのこと上着だけ器用に脱いで退散しようかと考えついた矢先。
スピネに腕ごと掴まれて引っ張られてしまった。
だが起きている様子はない。寝ぼけて動いただけのようだ。
これじゃまるで、不思議の国にいるという眠りネズミだな・・・


「・・・かえって好都合かな」

「・・・・・・すぅ・・・すぅ・・・」ギュゥ~~



「んん〜〜〜、よいしょぉぉっぉぉぉぉおぉぉぉぉおぉぉおぉぉおお!!!」グリン



「・・・・・・すぅ・・・すぅ・・・」

「これで良し」


現在の状況を説明すると、スピネを俺の腕にしがみつかせているだけ・・・なのだが。
いつの間にか足まで腕に絡みつき、必死に落ちまいとしている体勢にもかかわらず、見事に寝たままだ。
器用すぎる。何か、こんな人形なかったっけ。
急に落ちそうになることにだけ気をつければいい。俺としては片腕が重いが、動けるので問題はない。
腕が重い?関節がつらい?大丈夫、いつものことだから。
この『抱っこちゃん』状態は、別に初めてのことじゃないからな。
でもこれ以上成長すると、いつか肩脱臼するだろうから・・・今しかできない技でもある。
それまでには、寝ぼすけが治ってくれないものかね。


「さ、次の妹起こそっと」

「・・・・・・すぅ・・・すぅ・・・♪」






(・・・・・・・・・・あったかい・・・・・・・・・たくにぃ・・・・・・・・・すき・・・・・・♥
・・・もうすこしだけ・・・・・・・・・・・・・・・・・・この、まま・・・・・・・・・・・・・・・zzz)



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



・〜ある日の釣り日和〜


「う〜む、どうしよっかなぁ・・・」


お昼も過ぎてすぐに、今日の晩御飯のことを考える。まだ何を作るか決めてなかったのだ。
毎日家族のことを考えて献立を考えて組み立てるのは、意外と大変なのである。
一人暮らしならその日の気分で決められるから、そうでもないのかもしれないが。
こんな時は、妹達に聞いてみるに限る。何でもいいよと言われると返答に困るが、妹達ならばそんなことはまずないだろう。


「なあ、今日の晩御飯何がいい?」

「ん?今日は私たちが決めていいのか?兄よ」


リビングにいた適当な妹達に声をかける。
いたのはフルー、アコ、ティーナ、タムタム、そしてスピネだ。
フルーは本を片手にソファーでくつろぎ。アコはティーナに勉強を教えている様子。
タムタムもそれを見ながら二人の隣で何やら唸っている。
スピネはフルーの膝の上で座り、ゆったりと寄りかかっている。


「とんでもないものでない限りはリクエストに答えるぞ」

「そうだな・・・私は肉がいいな。肉。かぶりつきたい気分だ」

「んー、私は最近お魚を食べていませんので・・・魚介類が良いですわね」

「私もお魚がいいかなぁ。お肉は昨日も食べたしね」

「できればジパングのお魚が食べたいんやし!」


フルーのお肉派と、アコ達の魚派に見事に分かれる。フルー、現状不利。
髪をさらさらを手櫛しながら、フルーがうとうととしているスピネに尋ねる。
どうやらこの場で一番小さいスピネを味方につけようとするつもりらしい。


「なあ、スピネは何がいい?お肉か?お肉だよな?お肉がいいよな?」

「・・・・・・・・・・・・」

「なぁ、ちょっとだけ『お・に・く』と三文字言ってくれるだけでいいんだ。
そうすればゆっくり膝の上で寝れるぞー」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


フルーが必死に説得している様を見て、スピネも少々困り気味。
スピネは中々無口だが、思いやりのある妹だ。言い出そうかどうか、少し悩んでいるのだろう。
だから、ちょっぴりだけ助け舟だ。


「スピネ、好きなのでいいぞ」

「・・・・・・・・・・・・おさかな」

「じゃあ、魚料理にしようか。」





「・・・・・・・・・(´・ω・`)」

「・・・大人気ないわよ、フルー姉ェ・・・」

「わ、分かっている。ちょっとした冗談だ」

(その割には、落ち込み方が『がち』というやつですわ・・・)

「フルー姉やん・・・よしよし、やし〜・・・」








「時間もまだあるし・・・そうだ、折角だから釣りにでも行こうか」

「「「「えっ」」」」」

「♪」



・・・・・



「ウェミダーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」


「あんまり奥まで言っちゃダメだぞー!!」


という訳で、近くの海の釣り場スポットまでやってきました。
メンバーはリビングにいた五人。
他の妹達はそれぞれ出かけていたり用事があったりしたので、今回はお留守番。
そもそも食料調達という名目もあるから、全員連れてくるわけにもいかないしな。
少人数なら、フルー(竜化)の背中でひとっ飛び。
次は家族みんなで釣りとか海水浴に行きたいね。


「大っきいんやしー!広いんやしー!」

「・・・・・・っ!・・・・・・っ!」ピョンッ、ピョンッ


小さい子は元気があっていいねー。タムタムもスピネもはしゃいでいる。
海辺に向かって駆け回る少女が二人。ほっこりするね。








「で、君達は一体何でそんな格好をしているのかな」

「ど、どうだ兄。似合っているだろう?」


目の前には、大胆な水着を身に纏うフルーの姿。
物怖じしない堂々としたその佇まいは、その着衣と相まって、周囲に威圧感と開放感を与えるとこだろう。
青色の髪とマッチした、大人の雰囲気を漂わせる紺色のスリングショットである。
紐、とまでは行かずしっかりと布地が広く隠せる部分は隠れているのは幸いだ。
たわわにこぼれそうだが。


「な、何か仰ってくださると嬉しいですわ・・・」


その隣には、眩しいくらいの白いビキニトップと白いスカートタイプのボトム姿のアコ。
まるで清純さ、純粋な気持ちを形にしたような錯覚すら受けるが、大胆にもヘソ出しスタイル。
手を後ろにもじもじしている姿勢が、より胸の谷間を強調させている。
とても恥ずかしそうな様子と声の震え具合ともマッチしている。破壊力高ぇ。


二人共、非常に似合っており、しかしながら目に毒だ。
兄は正直思うことがある。












「二人共、寒くない?」外気温−2℃


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」ブルブルブルブル・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」ガタガタガタガタ・・・








季節が季節でなかったなら、似合っているとの一言目も間違いではなかったであろう。
だが、『寒期真っ盛り』の冷たい海を前にして。
真っ先にするべきは羞恥ではなく心配である。根性はある意味賞賛したいとこだ。
魔物とはいえ、二人共爬虫類型。寒さには弱いはずである。
ドラゴンはともかく、ラミア種である白蛇は特に。
本来ならば、太陽の熱や昂ぶりで赤く染まるはずの顔も青い。
それを見てこっちも真っ青だよ。


「・・・何で水着来てきたの。さっきまでの防寒着をちゃんと着なさい」

「ふっ・・・海では水着を着るものだろううう」ドヤッ

「そんな体を全力で震わせながらドヤ顔で言われても説得力は皆無だからな?時期考えて」

「わわわわわたたくしししたちのみみみみずぎぎぎすがたたたたででででで、
ああああにあにうえさままあままをとととりこにににに・・・」ガチガチガチ・・・

「呂律回ってない!?風邪ひくでしょう!これ着て!見てるこっちが寒くなる!!」バッバッ

「はふん・・・あったかぃ・・・・・・♥」ホッカホカ・・・

「ず、ずるいぞアコっ!い、いや、私は寒くないんだがなっ!?」ブルブル


すぐさま着ていたコートをアコに掛けさせる。
俺も寒いが・・・ちゃんと他にも防寒具は持ち合わせているからすぐにそっちを装備しよう。
ぶきやぼうぐはそうびしないといみがないぜ!というやつだ。
さっさと釣具も準備してしまおう。これが今回の武器だ。


「ふ、ふんっ、軟弱モノめ。それでは兄を堕とすことだどとうでい」ズルッ

「・・・鼻水出てきてるわよ、フルー姉」ピトッ

「ひゃぁん!/// つめっ、冷たぁっ・・・ぅぅ・・・!」

「はぁ・・・」


ティーナは呆れ顔でコートを羽織っていた。大量に。
双子でも、こういうところでイメージに差がつくのだろうな。




(・・・アコやフルー姉に便乗して脱ぎ出さなくて良かった。しっかり水着きちゃってるもの)

「あぁ・・・もう私・・・冬眠してしまいそうですぅ・・・♥」コートクンカクンカ






「・・・・・・・・・」クイッ、クイッ

「ん?ああスピネ。もう少しで釣りの用意できるから、待っててな」ナデナデ

「♪」ナデラレ



・・・・・



ザザァー・・・ーン
            ザザァー・・・-ン


さっきまでのドタバタとは打って変わり、それぞれ椅子に座って並んで静かに釣り糸を垂らしている。
潮風が冷たいが、母さん&サバトでの共同開発された防寒シートがあるため、体が冷えることはない。
「上空の冷たい気温の中でも、低魔力でぽっかぽか!」という売り文句で制作されたものだ。
正式名称は『ホットスカイ・ローエナジー』。略して『ホッカイロー』。
熱の性質を持つ魔界鉄が細かく入ったシートをこすると、熱すぎない程度に発熱する代物。
現状はある意味、母の温もりを感じながら、釣りと格闘しているわけだ。


「よっと、ヒットだ。これで12匹目だな」

「・・・・・・・・・っ!・・・11ぴきめ」

「っと、これで7匹・・・タク兄たちには追いつきそうにないわね」

「兄やんとスピネ、すごいんやし。ウチまだ6匹目なんやし」

「・・・・・・海のお魚さんたちも、悩殺できないでしょうか」←3匹

「・・・・・・網引き漁なら自信はあるのだ。こう、空中から網を投げれば」←0匹



「それだと面白くないでしょー。第一、『一番釣れた者が勝者だ!』なんて言いだしたのフルー姉じゃない」

「バレス姉上様がここにいなくて良かったですわ・・・」

「うぐぅ・・・」

「まだ時間あるんやし!もっと釣ってみるんやしー!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・頑張って」グッ


何だかんだで皆楽しめているようだ。
ここは結構穴場だから、これでも結構釣れている方なんだがな。
全員分で合わせれば今39匹だし。希望があふれてきそうな数字だ。
まあ、これでも足りないんだよね。よく食べるから、我が妹軍は。
家族分の魚を時間内で釣り上げるのは難しいだろうから、帰りにお魚を追加で買っておこうかとは思っているけど。


「・・・・・・・・・」スクッ

「あれ?スピネ、どうした」

「・・・・・・・・・足りない、だろうから・・・・・・とってくる」

「えっ、でも寒いz」ドボーン


釣竿を置いて椅子から立ち上がり、スピネ愛用の銛と網を手に取り上着を脱いで海に飛び込むまで、この間わずか数秒。早業である。
スピネは、どちらかといえば体を動かす方が好きだ。本来ならば釣りよりも、直に取ってくる方が得意だし、楽なのだろう。
のんびりと釣り糸を垂らすのも、嫌いじゃないみたいだけど。
寒い季節に海に飛び込むなど自殺行為にも等しいが、そこは水棲の魔物娘。
水の冷たさなんて、全く意に介さない体なのだ。
それでもちょっと心配になるのは、保護者心、兄心故というものだろう。


「たくましいなぁ、本当」

「スピネはこんな寒い海でも泳げるなんて、すごいんやし!」

「寒中水泳なんてしたら、文字通り硬直して動けなくなる自信があるわ・・・」

「ラミア種なら、それが普通だろう」

「あら、つまりドラゴン種であるフルー姉上様なら突き落としても大丈夫だと」

「冗談でもやめてくれ」



・・・・・



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」ザバァ


数十分後、海から上がりこちらに戻ってきた。
その表情は一見無表情にも見えるだろうが、どこか満足そうで充実感に溢れた表情をしているのが分かる。
それもそのはず。右手にはそのまま5匹ほど突き刺さったままの銛と、左手には大漁という二文字が正しく当てはまるほどの魚が入った網を引きずっていれば、一目瞭然だ。
俺と目が合うと、銛を持ったまま右手でVサインをしていた。


「こりゃあ大漁だ。よく頑張ったな、スピネ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・えへん」


タオルを取り出し、すぐにスピネの元へ駆け寄る。
頭を拭きながら褒めると静かに、だが嬉しそうに返事をした。


「これだけ獲ったんだ。疲れたろ?そろそろ時間もいいし、帰ろっか」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・がんばった」

「おう、ありがとう。今日の夕食は魚づくしで豪華にできそうだ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・たくにぃ」

「ん〜?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えらい?」

「ああ。スピネは働き者の頑張り屋さんだ。とっても偉いぞ」ナデナデ

「んん・・・・・・・・・・・・、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えへ///♥」

「家に帰ったらちゃんとお風呂入って温かくな」

「・・・・・・・・・・・・・・・♪」コク








「結果は直ではスピネが1位、釣りではタク兄が1位ね。何よ数時間で27匹って」

「そういうティーナだって、14匹も釣っていますわ。私はやっと10匹ですのよ?」

「ウチ、15匹なんやし!頑張ったんやし!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・私も、直捕りするべきだったなぁ・・・」成果0匹



「・・・釣りでの成果ゼロのこと、なんて言うんだっけ?」

「確か・・・『ハゲ』ではありませんでしたか?」

「ええと、多分『ヅラ』なんやし」

「ヅラじゃないッ・・・・・・!!『カツラ』だっ!!!」

「・・・『ボウズ』だよ、フルー」

「・・・・・・・・・・・・・・・」


さて、スピネも無事に戻ってきたことだ。日も落ちてきたし、帰ることにしよう。
頑張ってくれたスピネの為にも、張り切って夕食を作らなくっちゃな。
これだけの量を新鮮なうちに全部捌いて調理するのは大変だけれども。
スピネの努力は無駄にしたくない。むしろこっちもパワーを貰った気分だね。
いっちょ、やってやりますか。


「っと、結構な量だけど、フルー姉飛べる?」

「これくらい軽い軽い。何の問題もないな」


「にぎゃぁぁー!タコいるっ!!墨を吐かれたんやしぃぃぃ!!やぁぁぁぁぁあ!!!」

「ひゃぁああっ!?こっちに向けないでくださいましぃぃぃいい!!!」


楽しく過ごした午後の時間。たまには、また釣りにでも行きたいな。






(・・・・・・・・・たくにぃ・・・よろこんで、くれた・・・・・・うれしい・・・///
ごはん・・・・・・楽しみだな・・・・・・・・・・・・・・・いぇい・・・・・・ふふっ・・・♪)



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



・〜ある日の付き添い〜


コンコンコン・・・  コンコンコン・・・

「ん?」


自室で寝るための準備をしている頃、部屋のノックの音が響いた。
もうすでにかなり遅い時間だ。皆、寝静まっている頃である。
一体誰だろうか?有無を言わさず部屋に入ってくるコルネッタ以外であることは間違いないだろう。


「・・・スピネ?どうしたんだこんな遅くに」

「・・・・・・・・・・・・」


ドアの前に立っていたのは、スピネだ。
ふむ、下の方の妹達の就寝は確認したんだがな。
スピネはよく眠る妹だ。一度眠れば朝になっても起きないくらいに眠りが深い。
それなのに、夜中に目が覚めたなんてよっぽどのことなのだ。
そんなまさかの来訪にちょっとドキッとしたが、表面上の動揺は見せないようにする。


「こんな遅くに起きるなんて珍しい。一体何があったんだ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・」フルフル

少し、体が震えている。顔も少し紅潮しているのか、ほんのりと赤い。
もじもじとした仕草も見える。まるで、何かを我慢しているか、にも見えるが・・・
言い出そうと口元がもごもごと動いているが、中々言葉にできないようだ。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」モジモジ・・・

「スピネ。ゆっくりでいいから、話してごらん?」

「・・・・・・・・・・・・・・・あの」

「うん」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・その・・・・・・たくにぃ・・・・・・」

「何だ?」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・ぅみゅぅ・・・・・・」

「・・・・・・」


さっさと話さんかい!!と思う人はまずいるだろう。進まなくて、もどかしくて仕方ないはずだ。
しかし、慌ててはいけない。人には人のペースというものがある。
スピネは無口で口下手だ。でも、一生懸命に話そうとしている。
何とか、考えていることを頭の中でまとめて、頑張って伝えようとしてくれているのだ。
その頑張りを無下にする訳にはいかないだろう?


「・・・・・・・・・・・・そのね?・・・」

「うん」

「・・・・・・・・・・・・///」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・見つめられると、恥ずかしい・・・///」

「・・・早く言わないとずっと見てるぞー」

「・・・・・・・・・・・・・・・それでも・・・・・・・・・ぃぃ・・・」

「何もないなら、俺も寝たいんだけどなぁ」

「っ!・・・・・・・・・・・・あのね、たくにぃ・・・・・・・・・」

「何だい?」







「・・・・・・・・・・・・・・・・・・おしっこ・・・・・・」

「・・・うん?」

「・・・・・・・・・・・・あの・・・おしっこ・・・・・・・・・・・・いきたい、から・・・・・・///」

「うん」

「・・・・・・・・・いっしょに・・・・・・きて、ほしい・・・・・・・・・///」

「・・・一人で行けない?」

「・・・・・・・・・・・・おねがい、します・・・・・・・・・・・・おねがい・・・・・・」ギュッ


より顔が赤くなり、服の裾をギュッと掴まれる。
要は、トイレに行きたいらしい。なんとなく、分かっていたけれど。
ただそれだけのお願いを言うのに、随分と時間がかかったが、これでも頑張った方なのだ。
察してすぐに連れて行ってしまうことは簡単だが、それはスピネのためにはならない。
必要なことはちゃんとはっきり言えるような妹として、成長してもらいたいからだ。
誤解のないように付け加えるならば、スピネは勿論一人でもトイレに行ける。
こうやって頼まれること自体初めてだ。だからこそ、恥ずかしくて中々言い出せなかったのだろう。


「・・・・・・・・・・・・・・・おねがい・・・・・・だからぁ・・・・・・・・・っ・・・///」プル、プル

「分かった。一緒に行こっか」

「っ!・・・あっ、ぅぅ・・・・・・っ・・・・・・///」


パァっという効果音が聞こえそうなほど、笑顔(スピネ基準)になったがすぐに俯いてしまう。
多分あれだ。尿意を我慢しているところに少し気が抜けそうになったのだろう。


「ほらっ、行くよ?我慢は良くないから」

「・・・・・・・・・そろそろ・・・限界・・・っ」

「頑張って!お願い!!おもらしはシャレにならないからっ!」



・・・・・・



何とか無事にトイレまで間に合い、その扉の前の壁に寄りかかっている。
周りが静かなため、液体の放出音とそれが何かに当たる反射音が響き渡るが気にしてはいけない。
気にしたら負けだ。男として。
どんな音か、なんて決して俺に聞いてはいけない。
もし聞くような奴がいれば、『前が見えねぇ』顔にしてから自衛団に突き出してやる。


・・・・・んっ・・・・・・・・・・・・・・・ふあ、ぁ・・・・・・///♥」ショロロロロ・・・


いいか、何にも聞いてないし、聞こえないからな。



・・・・・



ガチャ

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おまたせ・・・」

「ん。間に合ってよかったよ」

「・・・・・・・・・うん・・・///」


数分後、スピネがトイレから出てきた。
・・・どこか満足そうな顔だ。
しかし、今の季節の廊下は意外と寒いもので。体が少し冷えてしまった。
早く布団に包まりたいところだ。


「・・・・・・・・・ありがと・・・・・・・・・ごめんなさい・・・・・・」

「大丈夫だよ。でも・・・今日は何で一緒に行きたかったんだ?」


いつもなら、寝る前にトイレに行くし、その上朝まで起きないような妹だ。
少しくらいの尿意では目が覚めないし、おねしょだってしないはず。
それなのに、わざわざ俺の部屋まで来て、付き添いを頼んだこと自体が気になった。
兄の俺でなくとも、お姉ちゃんである他の妹達に頼めば良いのだ。


「・・・・・・・・・・・・・・・こわいの、見た・・・」

「怖いの?」

「・・・・・・・・・・・・ゆめ見た、の・・・・・・・・・・・たくにぃ・・・いなくなっちゃう・・・ゆめ・・・・・・」

「・・・そっか」

「・・・・・・・・・・・・」ギュッ

「・・・大丈夫。俺は、ちゃんとここにいるから」ナデナデ

「・・・・・・・・・グス・・・ヒッグ・・・・・・・・・うん」


俺がいなくなってしまう夢。それを見て、飛び起きてしまったようだ。
俺の部屋まで来たのは、本当にいなくなっていないか確認したかったんだな。
・・・家族がいなくなる、か。想像しただけで、俺も怖いよ。
もしもって思うと、正直鳥肌が止まらなくなる。
スピネにとっては、泣くほど怖いことだったみたい。心配かけちゃったな。


「大丈夫だ。大丈夫。俺は、兄ちゃんは、突然いなくなったりしないから」ポン、ポン

「・・・・・・・・・ほんと?」ズビ

「本当さ。スピネも、勝手にいなくなったりしないだろ?」

「・・・・・・・・・うん」

「だから大丈夫。信じてるからね。近くに見えないときがあっても、ちゃんといるってね」

「・・・・・・・・・・・・うん」

「それでも何かあったときは、全力で守ってやる。スピネ達は、俺の幸せだからな」

「・・・・・・しあわせ?」

「ああそうさ。スピネは、信じてくれるか?兄ちゃんはいなくなったりしないって」

「・・・・・・・・・」コク

「なら大丈夫だ。約束だよ?スピネとの約束だ」

「・・・・・・・・・やくそくっ」


いつも一緒にいることが当たり前。でも、世の中何が起こるか分からない。
誰だって急に、ちょっとしたきっかけで心配になることもあるだろう。
絶対なんてない。でも、その絶対を守れるように。
妹達の笑顔が、家族の笑顔が消えないように。
これからも、いつまでも。頑張らなくっちゃね。


「・・・・・・・・・・・・・・・たくにぃ」

「何だい?」

「・・・・・・・・・・・・いっしょに、ねてもいい・・・?」

「・・・今日だけだぞ?」

「うんっ」






(たくにぃも・・・みんなも・・・・・・いっしょ・・・・・・ずっと、いっしょ。
いなくなったりなんて、しないから・・・・・・わたしも・・・・・・だから、しあわせ・・・・・・♪)






・・・・・



また、ある日の夜の話だが。


「なあ、兄よ。私はお前がいなくならないように、見張ってやるぞ!さあ!一緒に寝よう!」

「駄目」

「なんでっ!?」




まあ、そうなるな。
14/12/25 22:26更新 / 群青さん
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■作者メッセージ
はい。お読みいただきありがとうございます。
十三女の『スピネ・オーケスティア』
サハギンです。
年齢は11歳。
無口だけど基本的には素直な良い子です。他の姉妹のことも大好きですっ。
いつも以上に三点リーダ(・・・)の多いお話となってしまいました。読みにくかったら真に申し訳ありません。

お久しぶりの更新です。最早忘れた頃にやってくることに定評がありそうです。
時間がかかった、というよりはずっと書けない時期が続きました。
というより現在進行形でこれからも続きます。気長に待っていてください。
何故更新できたのかと理由を付けるならば、クリスマスなので色々と削って頑張ったのです。
せめてものクリスマスプレゼントとなることを願って。

名前の由来は撥弦鍵盤楽器『スピネット』から。
外見は小型のピアノっぽいですが、弦を弾く撥弦楽器の構造なので、高音で柔らかい音色です。
耳に優しい良い音ですよ。詳しいことは各自でお調べくださいませ。


・・・次は・・・・・・・・・・・・・・・十四女の、お話。
来年中には、残り二人が出せると良いですね・・・

次回もお楽しみに。

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