連載小説
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第二話 ムード・アンノウン
「ダメだ」

フラグ立ってたよね。知ってた。

「なあ、そこを何とか……」
「よそ者は、ダメだ」

現在、俺がいるのはコミュニティの一角、って、これはもういいか。
 この村は、切り立った崖のような大岩に幾つもの横穴を開けたような、集合住宅のような形態をとっている。外見的には巣穴の密集地帯だな。巣穴の数は30弱。5メートルから20メートルくらいの高さの範囲で点在している。少し高めになっているのは砂に埋もれないようにするためだろう。

 さて、その中でサハリの家は比較的低い位置にある。そこで俺は宿交渉をしたのだが、すげなく断られてしまった。
 ……どうしよう?
好感度が明らかに負値である女性のとこに泊まり込みを頼むとか、流石に頭おかしいか? 

 しかし、ここで諦めてしまったら他に当てがなくなる。さっきシレミナが言っていたことは本当のようなので、他の家でも門前払いは確実だろう。
 そうなったらもはやエロゲルートではなく冬眠ルートだ。せめてラヴコメルートにはいりたい。

「あー、本当、何でも言うこと聞きますんで、何でもさせていただきますんで」

 肩だろうが足だろうが胸だろうがどこでもお揉みしますんで。

 ギンッ!

 翡翠色の瞳から、一睨み飛んできた。Fカップに届きそうな胸を強調するように腕を組み、顔を近づけて睨み殺さんばかりの眼力だ。

「……本当だな?」

 あまりの迫力に思わず気圧されそうになるが、ぐっ、と踏みとどまる。
 ここで後ずさってはいけない。相手の目を見て堂々と返答し、意思を伝えなくてはいけない。
 俺は冷や汗を垂らしつつも、ぶんぶんと首を縦に振り、肯定する。

「は、はい」
「……そうか」

 しばしの沈黙。サハリはそのまま腕を組みつつ、俺から視線を逸らす。鬼気迫る威風を出した余波か、その頬は若干赤みがさしているように見える。

「……わかった。泊めよう」
「! あざますっ(ありがとうございます)!」

 ぼそりとしたサハリの呟きに、俺は90度の最敬礼で返礼する。
 おお、マジか。半ば諦めてたよ。いやあ、やっぱ言ってみるm

「これで、その、私たちは番だな。うん、これからよろしく頼むぞ」

 ――サハリが何やら、によによとした微笑みを浮かべて何か言っている。
 ツガイ? 番? 番ってなんだっけ?

 番――動物の雄と雌の一対。夫婦、めおと。
 以上、キョウスケ脳内ライブラリより抜粋。

 って、いやいやいやいやいや……。

「はい? 何を仰っているのですかサハリさん?」
「うん? この村に入れて欲しいのだろう、ヒムロキョウスケ?」
「えあ? え、あの、一泊だけのつもりなんですが?」
「一泊だろうが十泊だろうが、ここで一晩明かす以上、部外者はダメだ。番になれ」
「いやその理屈はおかぶぼおっ!?」

 否定しようとしたら尾先を口内にぶち込まれた。
 どろりとしたものが、折れた針先から喉の奥へと入って来る。
 くそ、こうなったら俺の物理チートボディでこのエロゲ展開をぶち壊す。お泊りになる以上、一晩のアバンチュールぐらいは期待していたが、流石にいきなり婚姻とか超展開すぎる。ヤるだけヤってトンズラすれば? という脳内意見もあるが、そこまでド畜生になる気はない。
 三十六計逃げるに如かず、だ。

 しかし、そんな倫理観豊な決意は無駄に終わった。
 何故か突然、足から力が抜け、膝立ち状態へとなってしまった。
 Why?

「ああ、よかった。『毒』は効くのだな」
「ッ!?」

 マジかよ!? 弱点多過ぎだろこのチート!
 今のところ『絞殺』と『毒殺』だけが有効みたいだが、探せばもっとありそうだ。
 いや待て今はそれどころじゃない。

「ど……く……?」
「心配しなくても、死ぬようなものじゃない。ただ、体の自由がほんの少しの間、きかなくなるだけだ」

 『しかし、針が折れていてもきちんと毒は出るようだ。よかったよかった』と自分の尾を撫でながら漏らすサハリ。
 さて、ここで少し考えてみよう。
 一つ、部外者は一泊もできない超排他的コミュニティ。
 二つ、どうしても泊まりたいならコミュニティの一員、つまりはこの村の誰かと夫婦にならなくてはいけない。
 三つ、この村、巣穴はあれども文化的建物は魔女の家を除き、一切ない。つまり、挙式のための教会なんかもない。式も挙げずに結婚とは、ナニをするのか。
 四つ、俺の動けないという現状(状態異常:麻痺)。

 以上の四つより、導き出される結論は一つ。
 エロゲ展開(フラグなしでの結婚ルート)。

「愛って……なんだ?」
「肉欲の快楽なら教えてあげるよ」

 性欲と愛は違うものだと思っていたが、現実はそこまでロマンチックではないらしい。


◇ ◇ 


「……昼か」

 朝ちゅんではなくただの昼。
 それでも『昨日はお楽しみでしたね』ってやつだ。
 相手の思うが儘に蹂躙されたがね。初キスの味なんてわかりゃあしない。初っ端からディープだったし、きっとサハリの辞書にはムードなんて言葉は載ってないんだろう。昨日の夕方まで童貞だったやつが何抜かしてんだと、自分でも思うが。ちなみに、それで朝に睡眠姦で仕返ししようとして、あっさり反撃されて再度轟沈してしまったのだが。

 ふと、上体を起こして隣を見る。
 そこにいたのは下半身蠍の褐色美女だ。
 そして、出会ったその日の内に行為に及んできた信じられないやつだ。

「こんなんで、本当にやっていけると思ってんのかねえ、こいつは?」

 子作り、妊娠、出産、育児、教育、食事。
 結婚というのは悲しみを半分に、喜びを倍に、そして生活費を四倍にするものだという。

 俺は自信なんてねえよ、馬鹿野郎。
 高校生だぞ。彼女すらいなかったんだ。そんな諸々、考えたことすらねえよ。
 不安しかねえ。
 けど、

 バキッ、と手の平の中で青銅色のナイフが砕ける。――刺殺実験の折、シレミナから貰ったもんだ。俺は砕けた刃をハンカチに落とし、そのままくるむ。

「――ま、このチートな力があれば、サハリ一人くらいは問題ないか」

我ながらフラグだなあ、と思いつつも着替えを済ませ、未だに寝ているサハリを置いて、一人、外に出た。


◇ ◇


「俺、今すげえ臭いと思うんだけど?」
「そやなあ、精と汗の香りに混じって、何やら消化液と腐肉の臭いがするで?」

 それって半端なく臭いってことじゃないですかヤダー。
 現在、魔女の家の前。俺は昨日のカニの唾やらサハリとの行為の臭いを洗い流そうと、魔女っ娘シレミナのところに相談に来ていた。
 そうすると実は彼女、基礎五大属性(火、水、土、風、無)を修めたウィッチ(男性の場合はウィザード)という称号を持つ、割りとすごい人らしいということがわかった。

 シレミナの説明を要約すると、この世界で『ウィザード』とは書道でいうところの一級にあたり、基礎五大属性以外の派生属性というものを一つ修めるごとにアリア級、デュエット級、トリオ級、っといった感じにウィザードの前に称号が増えていくらしい。いわゆる初段、二段、三段だな。
 ちなみにシレミナの正確な称号はデュエット級ウィッチだそうだ。
 閑話休題。

 ともかく、今俺は、火属性と水属性でお風呂ができるんじゃないかと待機中なわけだ。
 wktk!

「……その臭い、お湯で流した程度では落ちへんと思うんやけど?」

 シレミナが顎に手をやって首を傾け、だらりとその三つ編みの髪を垂らしている。
 いやまあ、そのぐらいは承知している。でも多少なりとも落としたいのだよ。

「今日俺、シレミナさんが言ってた街に行って服買おうと思うんすよ。流石に、もうこの服の臭い落ちないと思うし、手持ちの服もこんだけだし。多少でもいいんで、おなしゃす(お願いします)!」
「いや、せっかくだからきちんと落とそか」

 彼女は急に指をパチンと鳴らすと、

「『ストーンキャンプ』」

 たったの一言だった。ただそれだけで、目の前の砂の中から岩が突き出てきた。そのまま半瞬の間に岩は勝手に粘土のように造形を行い、そこに鎮座した。

「……なにこれ?」
「釜土やね。さ、服だけ脱いでさっさと入りい」

 いや、そうじゃなくてですね。

「これは、あれか? 魔法なの? え、魔力さえあればそんなチープな一言詠唱で全部完了なの?」

 すげえなファンタジー、それなら俺でもウィザードに成れるな。
 来いや魔力! ギャ●ック砲をかましてやんぜ! 波●拳さえ夢ではない!

「な訳あらへんで……」

 ですよね。

「今のは『セレクトキャスト』や。事前に登録してある魔法を簡易的に発動できて、尚且つ消費マナの増大なんて副作用もない、基本的な魔法技術のひとつやね。いわゆる『魔法を使うための魔法』。ま、このまま講義してもうてもええけど、街に行くのがまた明日になるかもやさかい、止めとこか」

 さ、入った入った〜、とシレミナに促されて服を脱いでから中に入る。っつか、何となくこの後の展開が予想ついたな。

「あ、そや、一応言っとくけど、『さん』はいらんで」
「?」
「わてを呼ぶ時は『シレミナ』でええで、お・義・兄・ちゃ・ん❤」

 直後、轟音と業火が俺の身を襲った。
15/08/13 20:39更新 / 罪白アキラ
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