連載小説
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み〜んな女の娘なのっ!? byキュアリス

フォルヘストに戻ってきた俺達は、山のように積んだ盗品を台車に乗せて、意気揚々と役所まで向かった。
取り返してきた盗品の中には金、銀、財宝だけでなく木製のバケツ、包丁、ボロボロになった斧など妙に生活感を感じるようなものも多い。
他にもどこかの家のドアノブ、鳥につつかれてボロボロになったカカシ、子供達が遊んでいたであろう泥まみれのボールなどのガラクタもある。
確かにこの貴金属、宝石類は盗まれると困るだろうが、他のガラクタは盗んでもそれほど困らないだろう。
この台車を役所の人間に見せたところ、困った顔で首を傾げ始めた。
話を聞いてみると、確かに盗まれた物もあるにはあるのだが、大部分はこのゴブリン達が所持していた中にないらしい。
盗難届が出されていたのは包丁、井戸のバケツ、ドアノブぐらいで、ほとんどは届出もされていないのでただのガラクタらしい。
更に金銀財宝は全て盗難届にないものだと言う。
住人達が盗難届を出している貴金属類は一つも出てこなかった。

「う〜ん、おかしいなあ。」

「確かにおかしい。このゴブリン達が持っていた高価なものが全て盗まれた物じゃないとすると、一体盗まれた貴金属類はどこに・・・。」

「なあ、お前ら。これで全部なんだよな?」

「そうでさー、兄貴!!これがあたし達が集めてきたもの全てです!!」

「リッパの持ってきたボールもカカシもちゃんとあるよ。」

「ミーがダンジョンからくすねてきたキラキラコレクションもちゃんと渡したもん。」

前回麻痺霧玉を投げてきたゴブリンはうっとりした瞳で宝石を撫でる。
おっと・・・、そうだコイツ等の紹介がまだだったな。
首巻きを巻いた礼儀正しいゴブリンがチャム。
この三人のまとめ役で、近接戦闘が得意らしい。
前回俺が頭を撫でてやった娘がリッパ。
結構おバカで三人のムードメーカー的存在。
で、宝石に頬ずりしながら幸せそうな表情を浮かべているこの娘がラッツ。
一番頭が良く(ずる賢い?)、ブーメランを武器として使っている。
良く言えば個性豊か、悪く言えばクセモノ揃いな三人組だ。

「みんなごめんねー。ボク達の勘違いだったみたい。」

「いえいえ、姉御!!どうかこれを売って姉御達の旅の足しにしてください!!あたし達一生ついてきやすぜ!!」

「ありがとうっ、チャムちゃん!!」

「姉御ぉっ!!」

ひしっと抱き合う二人。
どうでもいいが、俺とキュアリスの事を兄貴とか姉御と呼ぶのはやめてくれないか?

「売るって言ったってこの中で売れそうなのは金銀宝石ぐらいだな。このハニワみたいな変な像とか、何に使うのかわからない気持ちの悪い置物なんてのは売っても金になる気がしない。」

「案外そういうのが高く売れるかもしれないぞ、クレス。こういう腕が三本ある人間の像とか、な。」

渇いた笑みを浮かべながらガルダはそう言う。
どうやら彼もこのガラクタ達に価値があるとは思えないらしい。
俺達とは対照的にゴブリン三人娘は自信満々に『大丈夫』と胸を張った。

「しっかし、女の子だけでよくダンジョンとか入れたな。」

「あたし達も一応魔物ですからねっ!!いつか姉御みたいに強く・・・。」

「ボクはそんなに強くないよぉ。他のドラゴン達の中で一番弱かったもん。」

キュアリスは隊の中のドラゴンで最も小型で、最も非力だった。
訓練を受けているぶん野生のドラゴンよりは強いが、隊長のガルマジアーや副隊長のウラガルスなどと比べると雲泥の差。
唯一勝てるとすれば飛ぶスピードと身のこなしの軽さぐらい。
パワー、耐久力、ブレスなどは完璧に他のドラゴンに遅れをとっていた。

「そういえば女の子だけで生活していたのか?他に男の子とかいないのか?」

「何言ってるのー、兄貴ー。リッパ達は魔物なんだから♂とかいるわけないよー。」

「私が考えるに、きっとクレスは男を捕虜にしていなかったのかと聞きたかったんだと思う。だろ?」

「いやいや、ゴブリンの♂はいないのかって・・・。」

場がシィンと静まりかえる。
さっきまでの楽しい空気が嘘のようだ。
俺・・・、何かまずい事いった?
場の雰囲気に危険を感じた俺はとっさに話題を変える。

「ああ、そうそう!!この国って亜人さんが多いよな!!猫耳族とか水人族とか!!俺達の国では滅多に見られないから、初めて見た時は驚いたよ!!」

「そういえばそうだよねー。ボク達の国ではあそこに歩いているような尻尾が生えた人間なんか見た事ないよっ。いるのはワーキャットぐらいだもんね。」

更に空気が凍りつく。
どうやらキュアリスが二度目の地雷を踏んだようだ。
背中に冷たくて妙にムワッとした汗が流れる。

「あれがワーキャットだよ、姉御・・・。」

「へっ!?だってワーキャットと言ったら毛むくじゃらの猿みたいな上半身と猫というより虎のように大きい下半身を持った・・・やつだよね?クレス。」

「ああ・・・、少なくとも俺達の世界ではそうだった・・・。」

「俺達の世界=H」

しまったと思い両手で口を覆う。
すごい疑念が満ちた視線を向けられ、苦笑いを禁じえない俺達。
ここはもう正直に話すしかないようだ。
俺とキュアリスで今まで起こったことを説明する。
自分達が前にいた世界のこと。
戦場でわけもわからない穴に吸い込まれたこと。
そして気付くとこの世界にいたこと。
バラバラに散らばっている言葉のピースを不器用ながらに組み合わせて、一つの文にする。
もしも自分が逆の立場なら、その人物の正気を疑うようなものだ。
こんな眉唾な話を信じる人間なんているはずない。

「なるほどな。それなら全部納得がいく。」

「だろう?信じてくれるはずが・・・、今なんて言った?」

「全部納得いくって言ったんだ。ゴブリンの件はあれだとしても、魔物が♀しかいないというのは町の子供でも知ってる事。それを知らないなんて本来ありえない事だからな。」

「兄貴って違う世界から来た人間なんですね!!かっこいいです!!」

「・・・信じてくれるのか?」

「騎士隊長という役柄のせいなのか、それとも神様が私に与えた才能なのかはわからんが、こう見えても人の嘘には敏感でね。俺からすればクレスが嘘を言っているように見えなかっただけさ。」

凛々しい笑みを浮かべるガルダ。
こういう表情の彼を見ると、騎士隊長の肩書きに恥じない人間だと実感する。
おそらく若いなりに積み上げてきた経験からくる自信が、彼にカリスマめいた何かを感じさせるのだろう。
何故かウチの隊長の顔とガルダの顔が重なって見えた。

「じゃあ、私達もこっちの世界の説明をしよう。この世界ではクレス達が思い描いているような魔物は一匹もいない。この世界の魔物は基本、人間を殺さない。」

「ふむ。」

「魔物は魔力の源である人間の『精』を得て生きているんだ。『精』を動力源として動く生物と言った方が正しいか。」

「はい、そうです!!あたし達も人間の精を自分の魔力の源として生きています!!別に精がなくても死にはしませんが、魔物の本能みたいなものがあたし達に精を求めて行動するよう身体を動かすんです!!人間はその魔物特有の理性を失った状態を『発情』と呼んでいますが。」

「なるほど。どうやって人間から精を得るんだ?血でも吸うのか?」

「男の人の精液からだよぉ、兄貴ぃ。」

「・・・へ?」

リッパの返答に思わず聞き返す。
今・・・、何て言った?
最初は何かのジョークかと思ったが、ガルダの真剣な表情がジョークではないことを物語っていた。
どうやらリッパの言ったことは本当らしい。

「ミー達は性交などを通じて男の人の精液から精を体内に取り込むの。」

「バンパイアという種族は血から精を取り込むというが、ほとんどの魔物は男性の精液から精を得る。」

「・・・?せーえきって何・・・?」

キュアリスの頭に特大の『?』マークが浮いている。
このままだとキュアリスに余計な知識がつきそうだから、小声で「後で説明してやる」と耳打ちをした。
もちろん後で説明する気などさらさらない。
その場しのぎって大事だよな。
とりあえず精液や性交などという言葉をオブラートに包むこともなく、平気で話すガルダ達を見ていると何故か俺が恥ずかしくなってくる。
悪かったなどうせ童貞だよ俺は。

「だから、魔物が人間を殺すなんてのはよほどの事がない限りありえない。クレス達の世界にいるような残虐な魔物は、この世界に一匹もいないんだ。」

「そ、そうなのか・・・。」

あまりに俺の常識から逸脱した世界。
もし元の世界に帰れたとしてもこの世界を隊長達にどう説明したら良いのか、皆目見当がつかない。
おいおい・・・、俺達はもしかしてとんでもない世界に来てしまったのではないだろうか。
だが、同時にこの平和な世界に愛着が沸いたのも事実だった。
こういう世界も悪くはないな。


―――――――――――――――――――――――――


「これ・・・、ちょっと動きにくいよぉ・・・。」

試着室からフリルのついた服を着て、出てくるキュアリス。
その姿を見てゴブリン達から歓声が上がった。

「可愛いです姉御!!」

「えへへ・・・、そう・・・かな?」

「うん。姉御とっても可愛いよー。リッパももう少し背丈があればなぁ・・・。」

キュアリスは照れくさそうにはにかみながらクルリと一回転する。
黒いロングスカートがふわりと波打った。
思わず心臓が一度大きく脈打つ。
山のようなガラクタを全部売却した俺達は、キュアリスの服を購入すべく服屋に来ていた。
幸いなことに、生活費としては充分すぎる額が皮袋に入っている。
ガラクタだと思っていた変な像・置物シリーズが金銀財宝よりも高く売れたからだ。
どうやら芸術的センスは俺達より、ゴブリン達の方が上のようである。
おそらく俺には芸術など一生かかっても理解できないだろう。

「姉御、姉御ー。こっちの服も似合うと思いますよー。」

「これ?」

チャムが一着の紺色の服をキュアリスに渡す。
キュアリスは一度それを不思議そうな顔で見つめた後、再び試着室へと入っていった。

「で、兄貴ー。ミー達にこの服買ってくれるのー?」

黄色のラインが入った服を手に持ちながら、ラッツが俺にそう聞いた。
俺は大きく首を縦に振る。
チャム達にも一着ずつ服を買ってやることにしたのだ。
彼女の服には黄色のラインがついているが、チャムもリッパも同じデザインでラインが色違いの服を手に持っている。
チャムは赤、リッパは水色。
色で三人を区別できるし、一石二鳥だな。

「あとチャムにはこれ。」

俺は赤いスカーフをチャムの首に巻いてやる。
彼女がつけていた首巻は相当な年季が入っていて見るも無残なくらいボロボロになっていた。
さすがにこれはかわいそうだと思い、代わりの物を用意したのだ。

「いいんですか、兄貴ぃ・・・。」

「ああ、もしかしてこのスカーフ気にいらないか?」

「そ、そういう訳じゃないです!!あたしがこんなのもらっちゃっていいのかなって思っただけで・・・。」

「気にするなよ。元はと言えばお前らの金なんだからな。」

「あ、ありがとうございますぅ!!」

嬉しそうにスカーフを見つめるチャム。
彼女にとっては少し長めなのでマフラーにも見えてしまうのはご愛嬌だろう。
自慢げにスカーフを広げて、リッパ達に見せている。

「ね、ねぇ!!チャムちゃん!!こ・・・、これでいいのかなぁ!!」

試着室のカーテンごしにキュアリスの声が聞こえる。
その声は戸惑いと羞恥の色が感じられた。
チャムはそのカーテンの下から頭を突っ込み、中の様子を見る。
彼女に続いてリッパ、ラッツとカーテンに首を突っ込んだ。

「か、可愛いです!!」

「うん!!姉御のその服を見せたらきっと世界中の男の人を脳死させるよぉ!!」

「それを言うなら悩殺でしょ、リッパ。」

ラッツの的確なツッコミ。
男を脳死させる服・・・。
何だ?キュアリスは最終兵器でも武装しているのか?
二人のやりとりがツボに入ったのか、俺の隣でガルダが声を上げて笑っている。
ゴブリン達の反応で決心がついたのか、試着室のカーテンがシャアッという音を立てて開いた。

「ぶっ!!?」

「ど・・・、どう?クレス?」

試着室から出てきたキュアリスの姿に思わず噴出してしまう。
彼女がまとっているのは騎士団初等教育所で女子が着用する水着そっくり。
紺色のワンピースタイプで、胸元には名前を書くための白いスペースがある。
初等教育所ではしっかり名前が書いてあったなぁ、あれ。
世界が変わっても、変わらない物があるという事を思い知った。

「似合うかな?」

キュアリスが照れくさそうに手を後ろにくむ。
似合うことには似合うのだが・・・。
何故だろう。
そこはかとない犯罪の臭いがする。

「却下。」

「えぇっ!?二文字!?」

「あったり前だ!!そんな服着て町を歩けるのか、お前は!?」

「んんと・・・、ちょっと恥ずかしい、かな?」

だろうな。
俺はカーテンを乱暴に閉めると、選んどいた服を投げ入れる。
ゴブリン達はブーブー不満を漏らしていたが、あんな格好で町を歩かれたら即座に俺は別行動だ。
まあ、そういうのが好きな人間もいるだろうけど。

早々に着替えを済ましたキュアリスは試着室から出てくる。
俺が渡したのは黒のタンクトップと茶色のハーフパンツ。
ボ−イッシュな服装だが、旅をする上ではなるべく動きやすい格好の方がいいかなと思ったのだ。
普段はこの上にパルフィンを羽織らせる予定。

「これ、動きやすいよ!!さっすがクレス!!ボクの好みをわかってるね!!」

思いのほか、キュアリスも気に入ったようだ。
俺は店員を呼び、キュアリスとゴブリン達の服の代金を支払う。
最初蜘蛛の下半身が見えて驚いたが、この世界のアラクネらしい。
俺達の世界のアラクネを思い出し、ふとため息が漏れた。
俺は彼女に銀貨を15枚ほど手渡し店を後にする。
ゴブリンもキュアリスもひどく上機嫌だ。

「・・・さて、これからどうするんだ?」

店を出て数歩歩いた後、ガルダにそう問いかける。
彼は歩き続けながら一言こう言った。

「これから君達には、私の仲間達に会ってもらう。」






10/09/09 21:22更新 / アカフネ
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■作者メッセージ
タイトルにマディーンさんのアイディアいただきました。
ごちそう様でした。
この話を書く上で多くの人々にご迷惑をおかけしました。
深くお詫び申し上げます。

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