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第六話:騒々劇は突然に
 


 人も集まれば圧迫感が増すものだ。
 そう、俊哉は考えていた。

 雑多に多いだけであれば離れている限り背景と同一である。
 そちらは『多い』という認識を持つだけでそこで止まってしまう。
 だが、その多い人数が一ヶ所に、かつ自分の目前にまで近づくと目に見えない手で押されているような感覚を受けるのだ。
 
 「後野、無塚。久しぶりだね、終業式以来かな」

 全く知らない人間に囲まれればそのような感覚にも陥るが、幸い知っている級友達が混ざっていた為俊哉も無用に気圧されずに済んでいた。
 
 「そうだね、でも連絡くらいはくれなかったのかな。実は縁と一緒に待ってたんだけど」

 後野 末理(こうの まつり)。
 志磨市立第二高等学校在学の男子生徒であり、俊哉の級友である。
 入学前に不幸な事件に巻き込まれた女生徒、無塚 縁(なしつか えにし)の将来の伴侶でもあり本来今日は初詣を兼ねたデートの真っ最中でもあった。
 
 「君と無塚さんの間に入るほど野暮ではないから遠慮してたんだけどね。それで、後ろの人達の紹介はしてくれるのかい?」

 流石に人の集まりが苦手であっても、視界に入る以上無視は失礼にあたると判断したのか。
 社交辞令の一環ではあるが末理と一緒に行動していた四名に興味を覚え、紹介するよう俊哉は促した。

 「あれ、近江は初めてだっけ?じゃあ、お互い自己紹介でいいかな?」

 末理は腕を組んで傍に居る縁と一緒に俊哉の視界から除けていった。
 俊哉から見て左から180cm以上はあろうかという灰白色の頭髪をした黒瞳の少年と、空の色のように蒼い長髪を風に靡かせる少女。
 俊哉と同じくらいの身長で、調子が良さそうだが憎めない笑顔を浮かべる少年とその少年に対し若干呆れた視線を送る少女が一人。
 呆れ顔の少女は細い真紅のリボンで若葉色の髪を片方に纏めている。
 俊哉はまず、自分から名乗る事にした。

 「末理と同じ学校で同じクラスの近江 俊哉だ。宜しく」

 俊哉の名乗りを受け、灰白色の髪の少年が続いた。

 「末理と同じクラスの斑鳩 豪(いかるが ごう)だ。宜しくな」

 「私、日藤 沙耶(ひとう さや)。宜しくお願いしますね、近江君」

 「え……、豪?言われてみれば確かに顔が同じだな……気付かなかった、何で髪灰色になんて染めてるんだ?」

 「いや、これが俺の地毛。普段は黒く染めてんだよ。染料買い忘れたからこんな感じで年越した」

 上手い具合に悪戯が成功して機嫌がいいのか、自身の髪を軽く引っ張り説明する豪の姿に俊哉は軽く驚いた様子だった。
 
 「似合いすぎだろ……ってそうか。地毛なら当然か……正直さ、染めない方がいいんじゃないのか?そのままの方がモテるだろお前」

 「あー、それはまぁ、そうなんだけどな……ちょっと俺の望んでるモテ方と違うからというか何というか……」

 豪は歯切れの悪い口調で赤地に白い飾りの付いたニット帽を取り出すと目深に被る。
 心なしか視線が右往左往している事に俊哉は気付いた。

 「それって、もしかしてさ。結構後ろで挙動不審になってるお子様方と関係あるか?」

 俊哉の発言に豪の体が大きく跳ねる。

 「ん?こっちに走ってきてるな。親御さんは同伴してるっぽいが遠巻きに見てるだけか……どうした?豪?」
 
 「……なぁ、俊哉。俺野暮用思い出したわ。悪いけど、また後でな?それと、後ろのお子様方と俺は無関係だから。じゃ!」

 「?あぁ、分かった。また後でな」

 挨拶もそこそこにじりじりと俊哉の隣を通り抜け、そのまま駆け出していく豪。
 姿が見えなくなるまで見送った後、入れ替わるように少女達が俊哉に寄ってきた。

 「そこのお兄ちゃん!さっきのお兄ちゃんの知りあい?」

 最初に蒼玉のように鮮やかな髪をした、捻れた二本の角を側頭部に生やしている幼女が俊哉に質問をしてきた。
 あまりの勢いに声を出す間も無く少し癖があるのか外向きに撥ねている金髪碧眼の少女と、その少女に瓜二つの逆に内向きに髪の撥ねている少女が続く。

 「ちょっと、愛紗(アイシャ)さんは急ぎすぎです。この殿方が困っているではないですか」

 「愛紗ちゃん……順序立てて説明した方が早いとおもうよ……?」

 「じゃあそれは私がやるわ。貴女達は美奈(みな)をお願い」

 この中では一番年長なのか、青い肌の蝙蝠の翼のようなものを頭から生やした少女が一歩俊哉に近寄った。

 「初めましてMr、私はメフィル・フォン・ファウト。メフィルと呼んでいいわ。貴方はなんとお呼びすればいいのかしら?」

 「近江 俊哉。近江でも俊哉でも好きに呼んで構わない」
 
 内心冷や汗を掻きながら俊哉は答えた。
 外見は藤色の髪をツーサイドアップしている大人びた口調の少女だが、身に纏う空気が合致しない。
 まるで少女の姿のまま成熟した女性を相手にしているような、気を抜けば手玉に取られそうな感覚を俊哉は感じ取っていた。
 その様子に、メフィルと名乗る少女は興味深そうに紅い瞳を細めて俊哉を見る。
 
 「ふぅん?貴方は彼とは違うのかしら。こういう反応を返されたのは久しぶりだわ……でも、こっちの用事を優先させて頂戴ね?」

 愛紗と呼ばれた少女と双子と思われる少女達が着膨れして尚震えているリザードマンの少女―――恐らく彼女が美奈だろう―――を気遣っているのを視線だけで確認すると、メフィルはまず自分達の事を説明し出した。

 「まず、私達だけど全員友人。将来的には家族になるのかしらね?先の事は分からないけど今の私達の関係はそんなところ」

 俊哉の視線はメフィルを越えてその先にある少女達に向いた。寒さで震えていたリザードマンの少女は、捻じれた角の生えた少女の用意していたであろう湯気の立つ飲み物を渡されると至福の表情を浮かべてその中身を味わっていた。
 
 「今飲み物を渡していたのがサキュバスの愛紗。受け取ったのがリザードマンの美奈よ。それと、傍に居るのは双子のエンジェルで愛生(あいお)と愛弓(あゆみ)。私はデビルね」

 関係と種族を端的に説明すると、メフィルは更に続けた。

 「私達、とある事件を通じてある男性と知り合ったのだけれど。その男性(ひと)と今日は全員でデートだったのよ。でもすっぽかされちゃって探してるの」

 ここからが本題に入るのか、指を一つずつ立てながらメフィルは俊哉へ質問を投げ掛ける。

 「私達が聞きたいのは三つ。
  
  一つ、先程貴方と話していた男性は『斑鳩 豪(いかるが ごう)』という名前だったか?
  二つ、彼は私達の存在に気付いていたか?
  三つ、何処へ行ったか心当たりはあるか?
  
  ……よければ教えて貰いたいのだけれど」

 隠すと為にならない。
 言外に圧力を込めての質問は彼女―――メフィルの本気具合を如実に語っていた。
 只ならぬ雰囲気に有麗夜と悠亜はメフィルから俊哉を遠ざける為割り込もうとしたところ、当の俊哉本人から手で制され足を止めてしまう。
 俊哉は圧力を感じながらも臆する事無く答える。

 「一つ目の質問だが、今僕と話していた人物は斑鳩 豪で間違いない。但し同姓同名の人物である可能性も否定できないから、同一人物かはこちらで断定出来ない事を断っておく。
  それと二つ目の質問だが、彼はこちらに寄ってくる集団については気付いていたが『君達に気付いていたか』は分からない。
  三つ目だが心当たりは無い。去って行ったのは向こう側だが、あちらには上る階段も下る道もあるからね。彼がどちらを選ぶかは彼次第という事になる」

 メフィルのしたように一つずつ指を立てて答える俊哉に、メフィルは意地悪そうに問い掛けてきた。

 「あら?存外あっさり教えてくれるのね。私達が彼に悪い事をするとは考えないのかしら?」

 「それはさっきの彼を心配してないのか?という意味でいいのならその通りだ。理由があるからね」
 
 「……どういう事かしら?」

 細めた眼が興味の色を取り戻す。
 俊哉は面倒くさそうな表情を浮かべたが、残る片手の指を立てて説明する事にした。

 「理由の一つ目。君等がその男性に害意が無い事だ。他人でも八つ当たりなんてしないだろうし、当人でも命に関わる事はしないだろう」

 メフィル越しに俊哉が見た少女達は、メフィルとの遣り取りが長い事が気になるのか不安げに俊哉を見ていた。
 演技なら大したものだがここまで息の合った仕込みを即興で出来るとは考え辛い。
 
 「二つ目。これは一番大きい理由なんだが、『君達は僕に話し掛けるべきではなかった』。お陰で充分時間が稼げたよ。彼の足なら、捜索は今からしてもかなり範囲を広げないと見つからないだろうね。逃げる事が目的なら逃げ切れるだろうさ」

 それを聞いてメフィルの背後の少女達は驚きに目を見開いた。
 話し掛けたのが少女達から故違和感を感じず、何か情報を得られるかもしれない、という期待が彼女達をその場に釘付けにしていた事に気付いたからだ。
 俊哉は豪から『彼女達が自分とは無関係だ』と言われていた為、関係しており何らかの理由で逃げねばならなかったというところまで推察していた。
 よって彼女達を足止めする為、わざと彼女達のペースで受け答えし豪の身体能力から考慮して安全域に到達出来るであろう大よその時間を考え時間稼ぎに徹したのである。
 メフィルは片手で顔の上半分を隠すとがっくりと項垂れた。
 
 「やられたわね……気付かなかったわ」

 「どういう……事……だ……?」

 メフィルの後ろから小さく声が掛かる。
 寒さで代謝が落ちているのか、あまり元気のない声で美奈と呼ばれた少女が声を上げていた。
 メフィルは振り向き答える。

 「言葉通りの意味よ。彼が時間稼ぎをしてくれたお陰で豪は今、私達の手の届かないところに行った可能性があるわ」

 「なん、だと……?貴様……なぜ邪魔をする……?」

 寒さに震えながらも俊哉の行為が不服だったのか、剣呑な雰囲気を纏い始める美奈に俊哉は答える。

 「聞かれたから答えただけだ。君は質問した答えが返ってきたのに不服なのか?それにさっきもその子に言ったが、『同一人物とは限らない』んだよ。当たりと外れで確率が1/2だったんだから恨まれる筋合いは無い筈だね」

 「貴様……っ!」

 理詰めで返されたのが気に食わなかったのか。
 未だ幼い少女である美奈には想い人に会えぬ苛立ちを抑える事が出来なかった。
 険悪な空気が漂い始める中、流石に遠巻きに見ていた彼女達の親が数人駆け寄ってくる。
 頃合と判断して、俊哉は沙耶に問いを投げ掛けた。

 「日藤さん、この娘等は豪の知り合いで間違いない?」

 視線すら投げず声だけで問う。
 急に質問されたからか、若干慌て気味で日藤 沙耶は返答した。

 「へ?え、あ、そ、そうよ。去年のクリスマス頃から豪と知り合った娘達で間違いないわ」

 「分かった。有難う。……君達、ちょっと待っててくれる?」

 後半部分は愛紗達に向けて言い放ち、俊哉はポケットから携帯を取り出した。
 電話帳から豪の連絡先を表示すると、そのままコールをする。
 4コール程で当の本人が電話に応答したのを確認すると、そのまま用件だけを伝える。

 「あぁ、もしもし豪?今何処に居る?え?僕等は君が行く前と同じところに居るよ。合流したいんだけど場所教えてくれない?」

 突然の裏切り行為にその場にいる全員が呆けた顔を浮かべる。
 周囲の開いた口が塞がらない状態を無視して俊哉は何事もないかのように続けた。

 「彼女達?あぁ、別のところを探すと言ってたよ。この人ごみだからそうそう見つからないと思うけど、僕等まで撒かれると困るからね。―――うん。社の前の門辺りか。じゃあお守り売ってるところ辺りで会おう」

 話し終わったのか通話を切ると、俊哉はわざとらしく少女達に向けて言い放つ。

 「あれ?君達まだ居たんだね。……困ったな、さっきの場所、聞いた?」

 「貴様、何のつもりだ……?」

 頭に血が昇った事で幾分寒さを忘れたのか、今度ははっきりとした声で美奈は疑問を口にした。
 その場の殆ど全員の声を代弁する形となったのだが、若干名は納得した顔になっている。
 その中で一番早く俊哉の言いたい事を理解したであろう、メフィルが答えた。
 
 「―――いいえ。これだけ人が多いとよく聞き取れなかったわ。でも、よくよく考えれば私達も参拝に来た訳だから。人の多い所に行けば『偶然』会えるかもしれないわね?」

 「そうだね。じゃあ、ここからは別行動でいいかな?もしかすると後で『偶然』また僕達と会えるかもしれないけど」

 「そうね。でも、貴方は大丈夫?これって裏切ってる事にならない?」

 「ご心配どうも。でも僕はきちんと義理を果たしてるから文句は言われないよ。ただ偶然にまで責任は持たないから。敢えて責任を追及するなら、それは当人達の問題だよ」

 そこまで聞いて更に幾人かの人物は得心いった表情となる。
 俊哉は彼女達に再度追跡させる機会を設けているのである。
 俊哉の返答にメフィルは外見相応の笑顔に、外見にそぐわぬ声を殺した笑い声を上げた。
 
 「悪い人ねぇ……気に入ったわ。どう?私の知り合いなら紹介出来るけど、会ってみない?」

 少女の外見を裏切る色香を振りまき、妖しく微笑むメフィル。
 俊哉が何か発言しようとしたところ、辺り一帯に響くくらいの大きさで異を唱える者が居た。

 「絶っ対、駄目ーーーーーーっ!!!」

 大股で近づき俊哉の腕を抱く少女が一人。
 警戒心を通り越して自分よりも背丈の低い少女を威嚇する、有麗夜の姿があった。

 「駄目に決まってるでしょっ!?俊哉は私のなんだから!」

 「誰がお前のだ」

 「じゃあ私のかな?」

 いつの間にか空いたもう片方の腕を抱き、メフィルに負けず劣らずの艶やかな視線を俊哉に投げる少女が一人。
 さりげなく自己主張し妹ごと周囲を牽制する悠亜の姿が映りこむ。

 「……悠亜さんも、少し落ち着いて下さい」

 「除け者は寂しいなぁ、俊哉。私に構ってくれないと寂しくて離したくなくなっちゃうじゃないか」

 「すみません。ちょっと腕の感覚がなくなってきたので力を緩めてくれません?」

 「生涯ずっと私が君の片腕になるよ。大丈夫さ」

 「何かを組織する気はないので。出来ればこれからも普通に接して貰えると助かりますね」

 「浮気しないでこっち見てよ、俊哉っ!」

 「付き合ってないから浮気はしてない。というか静かにしろよ有麗夜。他の人の迷惑だろ」

 「うー……、俊哉のいけず……」

 文句は言うものの、腕を離さずにくっ付いたままの有麗夜は不服そうに押し黙った。
 
 「悠亜さんも。腕が壊死しかねないので緩めるか離すかして下さい」

 「……そのどちらかなら、緩める方かな。でも、無理矢理振り払っちゃ駄目だよ?」
 
 既に周囲からは微笑ましいものでも見るような視線を受けており、先程までの険悪な空気は一切払われてしまっている。
 末理や縁、近江家、真崎家の人間からしてみれば日常茶飯事の光景だが、出会ったばかりの年少組とその親達はその場の空気にどうすれば良いのか分からず固まっていた。
 全く動こうとしない少女達に向かい、俊哉が声を掛ける。

 「行くといいさ。豪はもう少し階段を上った先のお守り売り場にいるから。行って驚かせてやるといい」

 その言葉に当初の目的を思い出し大きく頷く少女達。

 「ありがとう!お兄ちゃん!」

 「恩に着る……」

 「ありがとお兄さん!お兄さんも頑張ってねー!」

 「あ、あの……ありがとうございます!」

 「ありがとう、お兄さん。その子達泣かせちゃ駄目よ?」

 愛紗、美奈、愛生、愛弓の順に、口々に礼を言っては去っていく少女達。
 最後のメフィルに至ってはウィンクと投げキッス込みである。
 漸く圧力から開放され一息つく俊哉に有麗夜が撫しつけに問うた。

 「俊哉……もしかしてああいう背も胸も小さい娘の方が好みなの?」

 「お前は何を言ってるんだ」

 じっとりとした目線を向ける有麗夜にうんざりした様子で俊哉は答えた。

 「そうだよ有麗夜。俊哉のお母様をご覧よ、大きいだろう?俊哉もきっと大きい方が好きさ」

 一昔前の男性俳優のように白い歯を輝かせながら己の豊かさをこれでもか、という程俊哉の腕に押し付ける悠亜。
 ズレた回答に頭痛を覚えながら、俊哉は漸く同行者が終始静かであった事に気が付いた。

 「そうだ、末理。家の父さん達はどうしてる―――」

 やんわりと組んでいる腕を解いて貰いながら振り向く俊哉が目にしたのは、長閑に談笑している親達と痴話喧嘩を繰り広げている同級だけだった。
 俊哉はまず、痴話喧嘩をしている同級に話しかけてみる事にした。
 
 「君等は、ええ……と」

 「お、終わったか。俺、加木 三郎太(かぎ さぶろうた)。宜しくな、それじゃ!」

 調子の良さそうな少年は痴話喧嘩―――もとい一方的に何か言われていたらしく、俊哉が話し掛けてきた事を好機と見たのか自己紹介だけ済ませると瞬く間に逃走を開始した。

 「あ、ちょっと!まだ話は済んでないんだからね。逃げるな!」

 彼よりも小さい、下手をすると先程の少女達と同じくらいの背丈の少女が、若葉色の髪とそれを括っているリボンを靡かせて後を追っていく。
 見る見る小さくなるその背中に、俊哉は残っている同級の日藤 沙耶に状況説明を求める。

 「どうしたんだ?彼等は」

 「えぇ、実はさっき加木君がエフィルちゃんの投げキッスを見て『うっは、俺ヤベえ。ロリに目覚めそう!』って口を滑らしちゃったんですよ」

 「……先程の娘も似たり寄ったりな姿だったような気がするんだけど」
 
 口調と声まで真似て沙耶は説明したが、姿形が異性の好みに合致している魔物娘が何故あんな風に怒るのが理解できず俊哉は首を捻った。
 だが、その疑問は続く沙耶の発言で立ち消える事となる。

 「追いかけてったあの娘、加木君の幼馴染で清野(すみの)つづらっていうんですよ。加木君に『じゃあ、あたしは?』って聞いたんですが……」

 「あぁ、何となく分かった。『お前は違う』とかそんな感じの事言ったんじゃない?」

 頷きながら更に少し沙耶は訂正を加えた。

 「でも意味合いは違うんですよ。ちゃんとつづらちゃんを女の子として見てはいるんです。つづらちゃんが加木君が浮気したって思ってるだけなんですね」

 「成る程、前後の行動が加木の伝えたい心情を180度変えて伝えてしまったと」

 調子の良さそうな少年だったが、普段の行いからか本当に大切な人に本心を伝えるのが苦手なのだろう。
 つづらからしてみれば加木は自分が居るにも関わらず自分より年下に浮気した不心得者という事だ。
 魔物と人間の体力差から考えると捕まるのも時間の問題だろうが、上手く誤解が解ける事を俊哉は祈った。

 「で、末理と縁が居ないのは?」

 「それなんですけど……ホラ、縁ちゃんてゾンビになったじゃないですか。歩くのにも声を出すのにも精が必要な身体だから……」

 若干顔を赤らめながら俯く沙耶。
 俊哉は仕方なく携帯電話を取り出した。

 「あ!駄目、俊哉っ!二人の邪魔しちゃいけないんだからねっ!!」

 携帯電話を奪おうと手を伸ばす有麗夜を避け、俊哉は構わず操作を続ける。

 「メールを打つだけだよ。こういっちゃなんだが向こうが自分の都合を優先するなら付き合う事も無い。向こうだって気にするし僕等だって時間を浪費してしまう。一言断って先に行こう」

 簡単に参拝を済ませて家族で帰る旨を入力し送信をする。
 返信は来ないが、有麗夜の言うとおり邪魔をしては悪いと考えた俊哉は携帯電話をしまいながら状況確認を再開した。

 「それと……母さん!ちょっといいですか?」

 息子に呼ばれ、俊哉の母親である春海が同じく有麗夜と悠亜の母親であるエリスティアとの会話を止めてそちらを向いた。

 「何かしら?俊哉。まだエッチな事は禁止だから明日にしなさいね?」

 「確かに思春期真っ盛りですが別段持て余していません。それより、家のオメデタニンジャは何処に行きました?」

 「お父さん達なら確か、あの辺りで観光客と一緒に写真に写ってたような……」

 ここまで順応されると最早罰ゲームとしての意味があるのか。
 寧ろ身内として巻き込まれている分本当に罰ゲームを喰らっているのは自分ではないのかと思い、新年の願い事を頭痛の種を減らす事に決めながら俊哉は春海が指差した方向を見る。
 そこには、ただ人の流れがあるだけで撮影をしている人物など見当たらなかった。

 「……あら?」

 童女のように首を傾げながら疑問符を浮かべる春海だが、次の瞬間急に拍手と喝采が鳴り響く。
 厳粛な境内の中、大道芸を披露されたかのようなこの大音響に嫌な予感を覚えた彼等は、目線だけで意思疎通するとそのまま参拝客の集中する本殿へ駆け上がって行った。


14/01/19 00:12更新 / 十目一八
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■作者メッセージ
若干時間オーバーでの更新となってしまいました。十目です。
今回は過去作及び去年登場予定だった作品の登場人物達に参加して貰いました。

予想外に長く書いてしまい一話をまた分割。
戦闘シーンは次々回というところです。
今回と次回はその前フリとさせて頂きたく考えております。
まだまだお目汚しは続きますが、宜しければお付き合い下さいませ。

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