連載小説
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第二話 ダンジョン探索
「う〜ん!着いた〜!」

お昼の三時頃、反魔物領を出てようやく目的地に到着する事ができた。
反魔物領を上手く脱出するのには問題無かった。ホテルを出る時は正体がバレなかったし、反魔物領に停泊していた海賊船から小舟を盗むのも容易かった。
でもその後が大変だった。なんたって、乗ってた小舟に穴が空いちゃって危うく沈みそうだったんだから。

「……さぁて、どうしようかな……」

目的の島まで辿りついたのは良いけど、移動手段が無くなってしまった。さっきまで乗ってた穴あきの小舟は海に沈んじゃったし……今のところ、島を出る手段は皆無と言える。

「……ま、こんな所でウダウダしててもしょうがないよね」

私は徐に木々が立ち並ぶ森林へと視線を移した。この奥に秘宝が眠っているダンジョンがある……そう考えるだけで心がワクワクしてきた。
島を出る方法は後で考えるとして、まずは秘宝とやらをゲットしちゃいますか♪

「よ〜し!ファイトー!いっぱーつ!」

自分自身に気合を入れて、私は森林の奥へと足を踏み入れた。

待っててね、究極の秘宝さん!

君は必ず私が……この女海賊メアリーが手に入れてあげるからね!





****************





「これか…………」

あの海賊たちとの戦闘から一日が経ち、俺たちは『究極の秘宝』たるものが眠る島に上陸した。そして俺はシャローナと楓を連れて島の中央に位置するダンジョンの門前に立っていた。

お宝ってのは、その価値が高ければ高い程、入手するのが困難な場所にあるものだ。俺の読みが正しければ、手に入れた海図に書かれてあった『究極の秘宝』はこのダンジョンの中にあるハズ。このダンジョン以外にお宝がありそうな場所はなさそうだしな。

「ダンジョンと言ったら、やっぱり数々の仕掛けや罠があるのでしょうね……ちょっと不安です……」

俺のすぐ右側に並んで立っている楓が不安そうな表情を浮かべながら言った。
まぁ、そりゃあ究極って言われる程の秘宝が眠ってるんだろうから、このダンジョンも相当レベルが高いんだろうな。だが、そう思うと余計にゾクゾク感が止まらない。

「いいか楓、欲しい物ってのはな、目の前に障害が立ち塞がる程余計に欲しくなる物なんだよ。命がけで手に入れたお宝程輝いてる物はないのさ」
「そんな物でしょうか……?」

俺の言葉に対し、楓は苦笑いを浮かべながら答えた。
冒険の末に手に入れたお宝なんて、まさにロマンだろう。これってそんなに理解できないものかなぁ……。

「大丈夫よ楓ちゃん、もし怪我をしたら私が治してあげるから♪」
「シャローナさん……はい!ありがとうございます!」

ふと、楓の隣に立っていたシャローナが楓の肩を軽く叩いて安心させた。
シャローナってこういう時は頼もしいよな。変な薬を作って実験台にされるのは勘弁願いたいが。

「よし!そろそろ行くか!」
「ええ!」
「はい!」

俺が先陣切ってダンジョンの中へ進むとシャローナと楓も俺の後を追うように進み始めた。

さぁて、これから何が待ち受けるんだ……?例え何が来ようとも受けてたつぜ!


〜〜〜数分後〜〜〜





「…………」

ダンジョンに入ってから数分が経ち、俺たちは石造りの長い通路を歩き続けていた。

「……なぁ、一つ言いたい事があるんだが……」

長い通路は薄暗く、足元がよく見えない。

「はい……なんでしょうか?」

ただ、壁の至るところにランタンが掛けられてるのが唯一の救いかもしれない。

「俺達さ……結構歩いてるよな……」
「え?そ、そうね……」

しかし、それでも何か心に引っかかるものがある。

「歩いて数分は経ってるよな……」
「そうですね……」
「……で、それがどうかしたの?」

ダンジョンの入り口から中に入ったのは問題ない。この通路を歩いているのも問題ない。
でも、でもさぁ……。

「……なんで……なんでさぁ……」
「ん?」









「なんで何も起きないんだよぉぉぉぉぉ!!」



「ちょ、船長さん!いきなり大声出さないでよ!」
「わりぃ……あまりにもおかし過ぎてつい……」
「……えっと……船長さん、何も起きないって……どういう事ですか?」

苛立ちが募り大声を上げたところでシャローナに宥められ、俺は徐々に心を落ち着かせた。そして俺は楓の質問になるべく丁寧に答えた。

「よく考えてみろ。ここはダンジョンだろ?何かしらの障害物とかトラップとかが仕掛けられてもおかしくない」
「まぁ、それは確かに……」
「それなのにさ、俺たちは障害物に立ち塞がれるどころかトラップにも引っかからない。至って順風満帆。『究極の秘宝』が眠ってるダンジョンにしてはあまりにもレベルが低過ぎないか?」
「言われてみれば……」

俺の説明に対し、シャローナと楓は二人揃って納得したかのように首を頷いた。
今言った通り、ここまで問題無く進めるのは逆におかしい。秘宝が眠ってるダンジョンにしては全くもって大した事ない。ここまで上手く行き過ぎると、返って後が怖くなる…………。

「あの、とにかく先に進みませんか?こんな所で立ち止まっても仕方ないですし」
「ああ、そうだな」

楓に奥へ進むように促され、俺たちは再び歩き始めた。
まてよ……ここまで何も無かったのは事実だが……もしかしたら、これから何か起きるかもしれない。俺たちが油断した瞬間にトラップとかが作動したり……やっぱり油断は禁物だな。
改めて気を引き締めつつ、俺たちは更に奥深くへと歩き続けた。
すると…………。

「……ん?」

下へと繋がる階段が見えてきた。
ほう、やっと何かありそうだな。正直なところ、こんな所に秘宝なんてあるかどうか疑わしくなってきたが、それも杞憂に終わる訳だ。

「さ〜て、何が待ち受けてるんだろうな……」

俺たちはゆっくりと慎重に階段を下りはじめた。
そして階段を一段降りる度に心臓の鼓動が激しくなるのを感じた。これから何が待ち受けてるのかと思うと妙に胸が熱くなる……!

「お!」

階段を下りきったところで、すぐ目の前に大きな扉が見えた。この扉の奥に何かがある……そう思えてならなかった。

「この奥に何かありそうね……」
「もしかして、早くも秘宝とやらとご対面でしょうか?」
「いや、そう甘くはないわよ。宝の番人とかが私たちを待ってるのかも」
「二人とも、こうなったら行くしかないだろ」

後ろでコソコソと喋る二人に付いてくるように手を振って促し、扉に近付き取っ手に手を掛けて扉を少し開いた。
すると…………。

「……あ……あ、あぁん……」

…………ん?

「あ、あ……きゃん♥気持ちいい……」
「な……何だぁ?」

扉の隙間から何やら卑猥な喘ぎ声が聞こえた。何事かと思い、扉の隙間から中の様子を覗いてみると…………。





「ん……んあ、あ、ああ……いい……そこ、いいのぉ……」

……えぇ〜……マジかよ……。

なんと、そこそこ広い部屋で一人の女がベッドで自慰に耽っていた。しかもその女は人間じゃなかった。青みがかかった肌で、下半身が蛇……そう、あの女はエキドナだった。

「はぁ、はぅん♥気持ちいい……気持ちいいのぉ!もっとぉ!」

覗かれてる状況に全く気付かずエキドナは自慰を続ける。右手で自分の秘部を優しく撫で回し、快楽に身を任せるかのように喘ぎまくっている。

……つーか、まさか最後の最後でエキドナが待ち受けているとはなぁ……しかもこんな淫らな光景を見る羽目になるとは……。

「あぁん!ふぁ、いいよぉ!気持ちいいよぉ!」

エキドナは自分の秘部に蛇の尻尾の先端を入れて激しく擦り、更に空いた手で自分の胸を激しく揉みしだいた。クチュクチュと卑猥な水音が部屋中に響き渡る。

今更こう思うのもアレだが……もしかしてあのエキドナ、未だに夫がいないのかもしれない。ここまで辿りついた男との性交を妄想しながら自慰してるとか……可能性は否定できないな。
でも参ったな……出るに出れない雰囲気になっちまった……どうすりゃいいんだ……。

「あ、あぁ!あぁん!もうダメ!イッちゃう!イッちゃうよぉ!」

もうすぐ絶頂に達しそうなのか、秘部を擦る尻尾の動きが激しくなり、胸を揉んでる手に力が増していく。

「ひゃあん!あ、ああ!あはぁん!も、もうダメェ!」

秘部を愛撫する尻尾が動く度に、徐々に卑猥な水音のボリュームが上がっていく。
そしてエキドナは身体を大きく仰け反らせ、遂に…………!

「あ、ああ!ひゃああああああああん!!」

……遂に絶頂を迎えたようだ。びくびくと身体を痙攣させながら大量の潮が噴出され床に飛び散る。

「あ、はぁ、あふぅん……はぁ……はぁ……」

自慰で果てた後でも、エキドナはベッドの上で力なく横たわり激しく息切れしながら快感の余韻に浸った。

「……あらまぁ、激しいこと……」
「あ、あはは……」

ふと、俺のすぐ傍でシャローナと楓が苦笑いを浮かべながら扉の隙間を覗いていた。
あ〜そうだった……こいつらもいたんだった……って!

「ちょ、ちょっと待て!そんなに寄りかかったら扉が開いちまうぞ!もう少し離れ……」

俺は二人掛かりで扉に寄りかかってる二人に呼びかけたが……時既に遅し。






ドォォォォォン!!


「「きゃあ!」」


「ふぇ!?な、なに!?なに!?」

……あぁ、もう遅かった…………。
二人分の重みによって扉が開かれ、シャローナと楓は二人揃って前のめりに倒れてしまった。それが原因でベッドに寝そべっていたエキドナが異変に気付き、上半身を起こして服装を整えこちらに視線を移した。

「……あ……!」
「あ、いや、えっと……」

俺の存在に気付いたエキドナは、少し驚いた表情で俺を見つめてきた。その一方で俺はどうすれば良いのか分からず必死に思案に暮れる。
どうしよう……とりあえず覗いてた事を謝るしかないな……。

「えっと……す、すまなかった!俺たち、悪気があった訳じゃ……!」
「……男……」
「え?」


「男だーーー!!」


突然何事かと思うと、エキドナは物凄く嬉しそうな笑みを浮かべながら、シャローナと楓には目もくれず俺に駆け寄って来た。

「きゃああ♥男よ!男!遂に私にも旦那様が出来るのね!」
「あ、いや、あの……」
「あ、ごめんなさい。自己紹介しなきゃね♥私はアン!エキドナのアンよ!」
「そ、そうか……ってか、あの……」
「ねぇねぇ!あなたの事は何て呼べば良いのかな?やっぱりお名前で?それとも、ダーリンとか?夫婦間での呼び方って大事よね〜♪」
「いや、ちょっと……俺の話を……」

エキドナ……いや、アンはこちらの事などお構いなしに一人ではしゃいでる。
この反応……よっぽど男が欲しかったのか。
てか、まさか俺を旦那にする気か?それだったらお断りしたいところだ。俺には既にサフィアがいるし、サフィア以外の女を愛する気にはなれない。

「はいは〜い!ちょっと落ち着きましょうね〜!」

すると、俺に助け舟を出すかの様にシャローナが俺とアンの間に割り入った。

「アンちゃん……だったかしら?少し落ち着いて船長さんを見て。あなたには悪いけど、船長さんはインキュバスなのよ。もう既にシー・ビショップの子の夫になってるの」
「え!?そ、そんな……」

シャローナの説明を聞いた途端、アンの表情が一気に曇り始めた。そして真偽を確かめる為に、冷静になって俺を見つめ直した。

「……あ、本当だ……別の魔物の魔力を感じる……それじゃあ、あなた……」
「あ、ああ……全部本当だ。俺、既に嫁がいるんだよ」

ようやく俺がインキュバスだと気付いたのか、アンはガクッと肩を落としてその場に座り込んだ。

「……うぇえん!そんなぁ〜!こんな展開、あんまりよ〜!」

すると、アンは指で床をなぞりながら落ち込み出した。

「やっと……やっとここまで男が来たと思ったら……既にインキュバス化してたなんて……なんて酷い仕打ちなの……」
「……えっと、あの……」
「今までだって沢山の挑戦者が来たのに……ワーバットとかミミックとか、ダンジョンに配置した魔物たちに横取りされるし……」
「そ、そうか……」
「それで未婚の魔物が減ったかと思えば……今度は挑戦者たちが次々とトラップに引っかかってダンジョンから追い出されて、島や海の魔物に取られて……」
「は、はぁ……」
「そしてもう我慢の限界が来て……思い切ってダンジョンの魔物を追い出して、トラップも外して男が来るのを待ってたのに……もう何なのよぉ……」

……成程、そう言う事か。
不本意ながらも、アンの愚痴を聞いて事情は一通り把握できた。

要するに、このアンって言うエキドナは夫が欲しかったのだが、別の魔物に横取りされたり、トラップに引っかかってダンジョンから追い出されたところをまた別の魔物に取られたりして、なかなか夫が出来なかったって訳か。
それでいい加減に痺れを切らしたのか、ダンジョンの魔物を全員外へ移し、トラップも外して男が来るのを待ってたって事か。
道理で手応えが無さ過ぎだと思った。そりゃ全部取っ払ったら何も起きない訳だ。

だが、なんだろう……この罪悪感は……今ものすごく申し訳ない事しちゃったような……。

「あの……夫が欲しいのは分かりますけど……なにもダンジョン内を空っぽにする事は無いのでは?それであなた好みの男の人が来るとは限らないと思うのですが……」

アンの機嫌を窺いながら楓が訊ねてきた。
考えてみれば……それは尤もだ。そりゃ仕掛けを無くせば難なく男が来るだろうけど、それで好みの男が来るとは思えない。いや、それどころか……逆に好みじゃない男の方が来る確率が上がるのでは?
そう思っていると、アンは楓の質問に答えた。

「うん、その通り……でもそこら辺はちゃんと考えてるわ。仮にも気に入らなかったらダンジョンの仕掛けを作動させたり、私の魔術を使ってダンジョンから追い出すつもりだったの」
「へ、へぇ〜……そうだったのですか……」

アンの答えに対し、楓は少々戸惑いながら愛想笑いを浮かべた。
しかし、今の答えからして……このアンと言うエキドナ、魔術には相当自身があると見た。こりゃ敵に回さない方が良いかもしれないな…………。

「……それで、あなたたちは何の用でここまで来たの?」

やや不貞腐れながらも、アンの方から話しかけてきた。
ここは素直に白状するしかないようだな……。

「ああ、俺たちは究極の秘宝を探しにここまで来たんだが……」

俺の言葉を聞くと、アンは納得したかのように何度も頷いた。

「あぁ〜!成程!あれが目的ね……!でも残念だけど、あなた達には譲れないわ」

アンは俺に手のひらを翳して拒否の意を示した。
やっぱり何もかも上手くいくわけないか……。

「……金を払っても?」
「ダメ」
「宝石でも?」
「ダメ!」
「……だよな……やっぱりダメか」
「そりゃそうよ。こちとら早く夫が欲しいのに、その餌をタダであげる訳にはいかないわ」

まぁ、そりゃそうか。何のメリットも無く夫を手に入れる為の餌をみすみす渡す訳ないよな。




……ん?まてよ…………お!そうだ!良い事思いついた!


「なぁ、ちょうど今良い事思いついたんだ!ちょっと聞いてくれないか?」
「え?な、何?」

アンは戸惑いつつも、俺の話に耳を傾けてくれそうだ。俺は軽く咳払いをしてから話し始めた。

「あのさ、アンタは出来るだけ早く夫が欲しいんだよな?」
「ええ、そうね……早く旦那が欲しいわ」
「だったらさ……何時までもこんな所にいないで、自分で探せば良いじゃねぇか!」
「え?それって……どう言う意味?」
「つまり、このダンジョンから出て、自分の夫を探そうって事だ」
「あ〜成程……って、えぇ!?」

俺の話を聞いたアンは、一瞬だけ納得したかと思うとすぐに驚きの表情へ切り替えた。だが、俺は構わずに話を続けた。

「俺たちはさ、暫くの間この島で身体を休ませたら親魔物領である『マルアーノ』へ向かう予定なんだ。だから『マルアーノ』まで俺たちと同行して、そこで自分好みの夫を探すってのはどうだ?親魔物領は魔物に対して友好的な人間が沢山いるから、夫を見つけるのも難しくはないぞ」
「成程……確かに……」
「そうするんだったら、俺たちも協力するぜ。その代わり……」
「……もしかして、その代わりに秘宝を譲って欲しいと?」
「そう!これはフェアな取引だ。どうだ?悪い話じゃないと思うが……」

アンの問いかけに対し俺は大きく頷いてみせた。しかし、アンは未だにどうすれば良いか迷った表情を浮かべている。

「善は急げって言うだろ?こうしている間にも、嫁のいない男は他の魔物に次々と貰われていく。それに比例してアンタは夫を見つけられなくなる。そんな状況だけは避けたいだろ?」
「ええ、そうね……」
「それに、夫が見つかった後でもまだ秘宝なんて持ってたら、それを求めてやってくる挑戦者たちによって折角の夜が台無しになる。それなら早いとこ手放した方がアンタの為にもなると思うが?」
「うぅ……確かに……」

俺の説得に納得するかのように、アンは相槌を打って納得の意を示した。
よしよし、この調子なら上手く成立できそうだ……!

「……悪いけど、ちょっと考える時間をくれないかしら?」
「え?」

予想の斜め上の答えに思わずズッコケそうになったが、俺は姿勢を正してアンの言葉に耳を傾けた。

「ちょっと言い方が悪いかもしれないけど……初めて出会ったあなた達を今すぐ信じろと言われても無理だし……」
「……あ〜、そうか……そりゃそうだよな……」
「あなた達も、今日中に島を出る訳じゃないんでしょ?それまでには考えておくからさ、少し待っててくれるかしら?」

確かに得体の知れない人を信じるのは無謀だな。ある意味賢明な判断だ。やっぱりアンは敵にしたくない。
まぁ、一応考えてはくれるんだから良いか。それに、俺たちには答えを強要する権利を持ってないし……ここは大人しく待つ事にしよう。

「分かった。それじゃあこの件はお預けって事で」
「ええ、了解」

俺の提案に対し、アンは小さく頷いて賛同の意を示した。
さて、それじゃあここに居てもしょうがないし、一旦船に戻るか。

「それじゃ、俺たちはお暇するか。二人とも、行くぞ」
「ええ」
「はい」

俺はシャローナと楓を連れて一旦海賊船に戻る事にした。踵を返し、部屋を出て階段を上がり通路に出たところで、背後からアンの声が聞こえた。

「あ、そうそう!このダンジョンって、今はここまで来るまでのトラップは何も無いけど、帰り道には男を逃がさない為のトラップが作動する仕組みになってるから気を付けてね!」
「おーう!忠告痛みいる!」
「成程ねぇ……捕まえた男を逃がさない為に帰る時に仕掛けが作動するのね」
「それなら捕まえられた方は逃げたくても逃げられませんね」
「いやー、それって大変だよな」



「「「アハハハハハハ!!」」」














…………って、ナニィ!?


「どわぁあ!?」

突然、俺の頭上から巨大な鉄球が落ちてきた。
危ねぇ……もう少しで当たるところだった……つーか、こんなのアリかよ!

「船長さん、危なかったわね……きゃあ!?」

今度はシャローナの足元から槍が飛び出て来た。だがシャローナは間一髪のところでかわして致命傷を避けた。

「お、お二人とも!お怪我は無いですか……ひゃあん!?」

お次は楓が俺たちに駆け寄ろうとした瞬間、楓の頭上から白い液体が降って来た。咄嗟の出来事で対処出来なかったのか、楓はその白い液体を頭から被ってしまった。

「ふぇ〜ん!酷いです〜!」

涙目になりながらも楓は顔や髪に掛かった白い液体を服の袖で拭った。
よく見るとこの白い液体、ドロドロしてるな……楓の顔もまるで大量の精液を浴びたみたいに……って、何馬鹿な事考えてるんだ俺は!

「……あら、これドロドロに変質させた髭そりクリームよ」

シャローナは楓に付着した白い液体を指で抄くって液体の正体を暴いた。
髭そりクリームってあんな状態にできるのか?てか、どうやってそんなの作ったんだよ……。

「ヤバいな……こんなダンジョン、早く出た方がよさそうだな。二人とも、急いで外へ……」

ガチャッ!

「…………」
「……船長さん、今のガチャって何の音?」
「……えっと……足元でなんか踏んじゃったような気はするんだが……」
「ようなじゃないです……絶対に何か踏みましたよね!?」
「……先に言っておこう……すいませんでした」




ドォォォン!!




「…………」
「来ましたよ……後ろから降って来ましたよ……巨大な岩が!」
「……準備運動するヒマは無さそうね」
「……そんじゃあ、とにかく……逃げろぉ!!」



ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ!!


「「「いやぁぁぁぁぁ!!」」」

俺たちは後ろから転がってくる巨大な岩石から必死に逃げた。

……あーもう……なんつーかもう……



「なんでこうなるんだぁぁぁ!!」



*****************



「……と言う訳なんです」

俺の目の前にいる下っ端はその場で膝を付いて事情を詳しく説明した。なんでも、秘宝を手に入れる道中で海賊を発見し、そいつらに挑んだ結果無残にも負けてしまったとか。
ふと、俺の隣で豪華な椅子に座り、黙って事情を聴いていた海賊団の総大将、ラスポーネルが口を開いた。

「……で、君は自分を縛ってる縄を懐に隠しておいたナイフで切って、死に物狂いでこの本拠地まで泳いできたと言う訳だね?」
「はい、ラスポーネル船長。途中で他の部下はスキュラやカリュブディスに連れて行かれましたが、探索船の責任者である俺だけでも生き残らなければと思いまして……」
「フム、成程成程……」

ラスポーネルは変にカールが掛かった髭を撫でつつ相槌を打った。
……しかしまぁ、探索船とはいえ、それなりの装備はさせた船だ。それに打ち勝つとはどれ程の海賊なのか中々興味深い。
俺が口元を覆っているマスクを撫でながら思案にくれてると、突然ラスポーネルは部下に訊いてきた。

「……君、吾輩が君に託した依頼内容を言ってみたまえ」
「え?は、はい……『島に眠っている秘宝を入手せよ』」

下っ端の答えを聞き、ラスポーネルは愛用のステッキの端を下っ端に向けて言った。


「そうだよね?そうだよねぇ!?それがなに!?秘宝を持って帰るどころか、多くの部下を捨てた挙句、宝の海図まで奪われるなんて!これは立派な反逆だよ!」
「も、申し訳ございません!秘宝だけじゃなく別の海賊から奪ったお宝もお土産にすれば船の為になるんじゃないかと……」
「黙りたまえ!この海賊界一の紳士、ラスポーネル様に対して言い訳なんか許可しない!」

ラスポーネルは偉そうに自分の胸に手を翳して言った。


どこが紳士だ、どこが!見た目がそれっぽいだけだろ!


心の中ではそう思ったが、決して口には出さなかった。
俺とこいつ……ラスポーネルとは主従の関係ではない。いや、それ以前に俺はこいつが率いる海賊団の一員ではない。俺自身が賞金稼ぎで、こいつに金で雇われただけの事。だから何を言おうとも取り分け問題はないのだが、出来る限り厄介事は起こしたくなかった。後が面倒になるからな。

「……まぁ、良かろう。吾輩は紳士だからねぇ、一度くらいの失敗は大目に見てあげよう」
「おぉ、ラスポーネル船長……」
た〜だ〜し!

ラスポーネルは手に持ってるステッキを床に叩きつけて下っ端に威圧しながら怒鳴った。

「今回は命拾いしたと思いたまえ!仮にもまたミスを犯したら、首根っこに縄を括りつけて海に沈めてやるからね!」
「ひぃ!ぎょ、御意にございます!」
「うむ!では、サッサと失せたまえ」

怒鳴られた下っ端は怯えながらも大慌てで他の部下たちの大衆へと戻って行った。
この言動、もはや紳士ではなくただの暴君だろう。所詮、海賊は海賊と言うわけだ。

「……さて、やるべき事が決まったねぇ」

すると、ラスポーネルはすっくと椅子から立ち上がり、大勢の下っ端たちに向かって大声で言った。

「諸君!早速だが、例の秘宝が眠る島に赴いてもらうよ!今度こそ秘宝を持ってきたまえ!」
『イェス!ジェントルメーン!!』

「それと、そこに吾輩の宝の海図を奪った憎たらしい海賊がいるかもしれない!見つけ次第一人残らず潰したまえ!」
『イェス!ジェントルメーン!!』

下っ端たちの奇妙な掛け声が上がると、下っ端たちは一斉に出航の準備を始めた。

……この掛け声だけはどうにかならないものか。変に頭に響いて嫌になる。

「さて、青年君。いや、口元をマスクで覆っている茶髪頭のバジル君」

突然、ラスポーネルが俺の名前を呼んできた。
……まさか、俺まで行けと言うんじゃないだろうな?それにしても一言多い。

「……俺も行くのか?」
「当たり前だよ!使えないカスな部下だけじゃ心許ないからねぇ。君の槍捌きでスタコラサッサと行ってきたまえ」

ラスポーネルは俺の背中に掛けられてる二本のランスを指差して言った。

「……貴様は同行しないのか?仮にもこの海賊団の大将だろ?」
「テキパキと命令を下すのが吾輩の仕事だよ。何も部下と一緒に動き回る必要はない。それにねぇ……」
「それに……なんだ?」
「さっき聞いた通り、どうやら宝の海図を奪った海賊は船に魔物を乗せてるらしいのだよ。吾輩、あんなクズ共とは関わりたくないからねぇ」

ラスポーネルはハエでも追い払うかのように手を振ってみせた。
そう言えば、こいつは極度の魔物嫌いだったな。

「……一つ聞こう。何故そこまで魔物を嫌う?魔物が貴様に何をした?過去に何かあったのか?」
「別に、何かされた憶えはないよ。でもよく考えてみたまえ。あいつらは生きる為に人間の男の精を欲しがってるんだよ?」
「それがどうした?」
「精が欲しい故に男の下半身に群がる生き物だよ?あぁ……なんてお下劣!なんてお下品!全く、考えるだけで気持ち悪くなる!なんであんなのがこの世にいるのか理解し難いねぇ!あぁ、やだやだ!」

ラスポーネルはあからさまに悪意を込めながら厭味を並べた。

……この男の言動は胸糞悪い。
それでよくも自らを紳士と名乗れるものだ。魔物だって、俺たちと同じ生き物だろうが!やはり命令するばかりで偉そうに威張ってばかりの人間は好きになれない。

「ホラホラ、バジル君!金が欲しかったら、無駄話は止めてさっさと出航の準備をしたまえ!」
「……金が手に入ったら貴様の首も狩ってやる」
「んん?何か言ったかね?」
「いや、別に」

偉そうにふんぞり返って命令するラスポーネルに俺は聞こえない様に小声で宣告してやった。そして話がややこしくなる前に俺からスタスタと船の方向へと歩いて行った。




さて、秘宝の探索か……正直言って面倒な仕事だ。身体を動かす仕事なら戦闘の方が性に合ってる。


いや、まてよ……運が良ければ、下っ端が話してた『魔物を乗せてる海賊』に会えるかもしれない。


それなら好都合だ。仮にもそいつらに出くわしたら……俺がその実力を見定めてやる!

12/08/07 18:10更新 / シャークドン
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■作者メッセージ
さて、二作目に突入でしたが……いかがでしょうか?

今回で秘宝が手に入れそうでしたが、まだ秘宝は手に入れられません。これから波乱が起きますし、手に入れた後でも物語は終わりませんので……。

さて、前回から存在をほのめかしていた人物、メアリーですが……次回でやっと目だちます。彼女が何をするのかは後ほど……。

そして最後に登場した自称『海賊紳士』のラスポーネルと賞金稼ぎのバジル。
彼らの再登場はもう少し先になります。ただ、バジルは一足早く出番が来ますけど……先に一言。彼は根っからの悪ではありません。彼がこの後どうするのかは後ほど……ってさっきから同じこと言ってすみません(汗)

では、ここまで読んで下さってありがとうございました!
誤字・脱字、指摘したい部分があれば遠慮なくご報告下さい。

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