連載小説
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第一話 悪夢、そして日常
ここは……どこ?

私は今、自分がいる場所も正確に把握出来ず、辺りを見回していた。
視界に映るのは、辺り一面雪に覆われた雪原のみ。足元は険しく、立っているのが精一杯の状態だ。

……ここは氷山の一角かしら?それなら、この真っ白い景色を目の当たりにしても合点がいく。
……いや、それでも何かおかしい。少なくともこの場所の気温はかなり低いハズ。
それなのに……寒くない。否、寒いどころか、感覚が無い。まるで全身に麻酔でも打たれた様に……感じるべき物が感じない。

何なの……これは……?それに……ここは……一体……?






ドカァン!!



「!?」

突然、背後から何かが爆発する音が聞こえた。何事かと思い、反射的にその場を振り返ってみた。
そこでは、広い雪原に巨大な亀裂が出来ていた。更に、亀裂は徐々に開き、やがて一定の大きさにまで達するとピタリと止まった。

……次の瞬間、信じられない光景を目の当たりにした。

「……な……な、何!?」

巨大な亀裂から……ゆっくりと何か巨大な物が浮かび上がって来た。そして、その巨大な物の正体を目にした瞬間、私は驚きで言葉を失った。

それは……誰がどう見ても……巨大な人間の男だった。
威圧感漂う鋭い目つき、胸元まであろう長い髭、更に右頬に刻まれている×印の傷。この巨人の姿を見た瞬間、私は体中を何かの感情に支配された気がした。その感情は……恐怖と言った方が良いか。

「……フ……フハハ……フハハハ……!」
「……?」
「フハハハハハハ!」

突然、巨人が大きく口を開いて笑い出した。その巨大な口から見える異常なまでに汚れた歯が、より一層巨人の恐怖を漂わせる。

その巨人の姿に呆気に取られている……その時!



ブオォォォォォ!!



瞬く間に景色が変わった!
さっきまでは辺り一面雪で覆われた雪原が、勢いよく燃え盛る火の海へと変貌した。しかし、こんな業火の中にいるにも関わらず、感覚が無い事は変わらず、熱いとは感じなかった。

「我は最強!我は無敵!命の灯火を消したくなければ、我に従え!我に刃向かう物は、死あるのみぞ!」

巨人は天に向かってそう言い放つと、徐に片手を私に向けて翳した。そして、その手の平から徐々にどす黒い覇気が収束されていく。


……まさか……まさか……まさか!!


嫌な予感が頭を過り、すぐに逃げ出そうとしたが、足が思い通りに動かなかった。足元に視線を移したが、そこには何も無かった。
一刻も早くこの場を離れたい。しかし、その意思に反抗するかのように、自分の足は微動だにしない。


何で?何で動けないの?このままじゃ、私……!


「死ねぇ!!」

巨人の無情の叫びと同時に、どす黒い覇気の球体が私に向かって飛んで来た……!














「キャアッ!!」

……小さな叫びと同時に、私はベッドから飛び起きた。小さく息を切らしながらも、落ち着いて部屋の中を見渡してみる。小さくてシンプルなテーブル、その上に置かれてる私のバッグ、装飾が施された照明、そしてチェック柄のカーテン。この部屋を見渡す次第に、私の昨日までの記憶が戻ってきた。

「……夢……か……」

そっか……昨日からホテルに泊ってたんだった…………。

目覚めたばかりでぼんやりしつつも、徐にベッドから降りて大きく伸びをした。そして窓のカーテンを開き、太陽の日差しを浴びてばんやりしている意識を覚醒させた。

「う〜ん!爽やかな朝!」

青い空、白い雲、小鳥の囀り、爽やかな朝を迎えるには最高のシチュエーション!
……のハズだった。

「……でもないわね……はぁ……」

ふと、さっきまで見てた悪夢が脳裏を過り、一気にテンションを落とされた。
あんな夢さえ見なければ文句ないんだけどなぁ……。

あの悪夢を振り返り、私は胸にざわつく妙な胸騒ぎを感じた。
夢で見たあの巨人、今まで見た事も会った事も無かった。でも、夢とは言えあの威圧感、そして只ならぬ恐怖……もはや夢だけで済むとは思えない……。

って、考え過ぎよね!所詮夢は夢、あり得ないものを見るのは当たり前。それに、今の時代においてあんなデカイ男が存在する訳無いわ。これ以上深く考えるのは止めましょう。
さてと、正体がばれる前に速く着替えて出かけよう!ここは反魔物領だから、厄介な事が起きる前に退散しなきゃ!

私はそそくさと備え付けの大きな鏡の前に立ち、普段着に着替え、愛用のバンダナを頭に巻いて身だしなみを整えた。

「うん!今日も決まってる!さて……!」

鏡の前で身振りを確認し、テーブルの上に置かれてるバッグの中から地図を取りだした。

「次の目的地は……ここね!」

私はこの国から北東に位置する、×印が付けられてる島を指差して目的地を確認した。

この印が付いてる島には、私が求めているお宝が隠されてる可能性が高い。なんせ、この島は海賊が隠したお宝が眠っているダンジョンがあると言う噂だ。今まで数多くの冒険者や海賊が挑んだものの、これまでにお宝を手に入れられた人は誰ひとりとして存在してない。更に、この島には魔物が数多く住んでいる。

ダンジョンと魔物……この組み合わせからパッと頭に浮かぶのは……エキドナ!

私の予想が正しければ、そのダンジョンにはエキドナが待ち構えている。しかし、ダンジョンに挑んだ数多くの挑戦者たちは、エキドナに対面する前に他の魔物たちに襲われた……と、個人的な解釈だとそうなる。あくまで個人的な解釈だけどね。

でも行ってみる価値は十分ある!本当に海賊が隠したお宝なら信憑性も高いわ!そこに私が求めている物があるなら、尚更行くっきゃないでしょ!

「よっし!行きましょ、そうしましょ〜!」

私は冒険の準備を進めた…………。




**********************




午前10時頃、俺の愛船『ブラック・モンスター』は今日も問題無く大海原を進んでいた。
そして、その船内のダイニングにて…………。

「…………」
「…………」
「……はい、チェックメイト♪」
「あぁ!?ちょ、待っ……だぁあ!負けた!チキショー!!」

俺は妻のシー・ビショップ……サフィアとチェスと言うボードゲームで遊んでいた。だが、たった今サフィアの白いナイトの駒によって逃げ道を塞がれて、見事にチェックメイトを決められてしまった。

「くっそ〜!まだ一度も勝ってねぇよ……これで5連敗だ……」
「あら、違いますよキッド。5連敗じゃなくて6連敗です」
「言わないでくれ……余計惨めになる……」
「ウフフ……ごめんなさい」

負けっぱなしで気落ちする俺に、サフィアは優しく微笑んだ。その温かい笑顔を見ていると、負けて悔しい気持ちが晴れて来る気がした。
はぁ……サフィアにはどう足掻いても勝てないな……ゲームにも、その愛おしい笑顔にも。

「お姉ちゃん、強ーい!やんや、やんや!」
「フフ、ありがとうピュラ!」

サフィアの隣でチェスを観戦していたピュラがサフィアに歓声を送った。それに対し、サフィアは誇らしげに片手でVサインを示して歓声に応えた。
こうして見ると、例え血が繋がってないとはいえ本当の姉妹に見える。この二人、本当に仲が良いよなぁ…………。

「まぁ確かにサフィアさんも強いけど、キッドは戦術のパターンが極端過ぎるんだよ」

俺の隣でチェスを観戦していた副船長のヘルムが話してきた。
……極端だと?今のは聞き捨てならねぇな。そこはきっちり理由を聞かせてもらわなきゃ素直に納得できねぇぜ。

「おい、極端ってなんだよ、極端って?」

俺の質問に対し、ヘルムは学校の教師みたいな口調で説明した。

「言葉通さ。相手のキングを追い詰めるのに前方に攻めすぎて守りがガラ空きになるし、今度は守りに集中し過ぎてチェックメイトの手段が無くなるし……さっきからその繰り返しだよ」
「じゃあどうすりゃ良いんだよ?攻めも守りも両立しろって言うのか?」
「そうとは言わないさ。そこは上手く相手の行動を読んで、自分が有利になるように動かなきゃ。ボードゲームって、ある意味一種の心理戦だからね」

いや、そう言われてもなぁ……第一、心理戦っつっても、人の心を読めるような超能力者じゃあるまいし…………。

「あら、そこまで仰るのなら、一試合お願いしてもよろしいですか?」
「え?」

ふと、サフィアが片手を小さく挙げてヘルムに一戦申し出た。

「それ程までに述べるのであれば、チェスの腕前には自信があると見受けられますので……是非一戦いかがです?」

サフィアの申し出に対し、ヘルムは不敵な笑みを浮かべて答えた。

「ふむ……親友の奥さんからの挑戦とあらば、拒否する訳にはいかないね……」
「おいおい、マジかよ……」
「ああ、マジだとも。さて、交代してくれないかい?」

幾らサフィアでも、頭脳派のヘルムに勝てるのか……?
些か心配だったが、俺は渋々とヘルムにチェスの席を譲った。

「では、手加減無しですよ?」
「勿論。どうぞお手柔らかに」

そして今、サフィアとヘルムのチェス勝負が始まった…………。



〜〜〜数分後〜〜〜



「……さぁ、どうします?」
「え?いや、ちょ、待って……」

勝負の行方は最早一方的だった。それも……サフィアが完全に有利な状況だ。

「……えっと……こっちを、こう……いや、ここは敢えて……あ、それでもダメだ……」

完全に追い詰められたヘルムは必死になって勝利への手段を探っているが、もう既に手が無くなっているのが窺えた。その証拠に、ヘルムの表情には完全に焦りが生じている。
それに対し、サフィアは余裕綽々たる笑みを浮かべ、ヘルムの出方を静かに待った。

「…………」
「…………」

暫くの沈黙が続き、辺りに静寂が漂う。
そして…………!

「……参りました」
「……はい!ありがとうございました!」

えぇ!?マジかよ!?サフィアが勝った!
遂に、ヘルムが頭を下げて降参した。数分間のチェスの行方は、サフィアの圧倒的な勝利で幕を下ろした。

「わ〜い!またまたお姉ちゃんの勝ち〜!やんや、やんや〜!」
「ウフフ、ありがとう!」

ピュラの元気いっぱいの称賛に応えるように、サフィアはピュラの頭を優しく撫でた。

「いやぁ、本当にスゲェな!うちの船の副船長を打ち負かすとは……見事なもんだ!」
「そんな……そこまで褒められる様な事は……」
「いやいや、流石は俺の愛妻だ!俺も鼻が高いぜ!」
「……もぉ、キッドったら……嬉しいです♥」

俺の絶賛に対し、サフィアは頬を真っ赤に染めながら、両手で頬を挟んで照れてる仕草を見せた。

……おい、何だそのポーズは……!ヤバい……それヤバいだろ……可愛いじゃねぇか!畜生!
サフィアを抱きしめたくなる衝動を必死に押さえていると…………

「……ん?」

負のオーラを感じ取り、ふとダイニングの隅に視線を移すと、ヘルムが膝を抱えて凹んでいた。

「……おいおい、負けたからってそんなに落ち込まなくてもいいだろ?」

俺はヘルムの下まで歩み寄り、励ますようにヘルムの肩を叩いてやった。すると、ヘルムは俯いたまま答えた。



「いや、なんて言うか……あれだけ偉そうな事言っておいてこのザマだよ……悔しさを通り越して、もう恥ずかしい……」

「つーか、実際に戦ってみて分かっただろ?ヘルムが弱いんじゃなくてサフィアが異常なまでに強いんだよ」

「それもあるけどさぁ、僕の戦略が甘かったのも原因だよ……フ、フフフ……僕ももう老いたなぁ……」

「お前、まだ20年しか生きてないだろ!?てか、もっとデカい声で喋ろ!」

「……長い付き合いなのに冷たいね……やっぱり自分のお嫁さんが圧勝したのが嬉しいんだね……」

「いや、誰もそんな事言ってないだろ……」

「ううん、いいんだ、いいんだ……奥さんを大切に想うのは素晴らしいよ……そしてリア充なんて下半身がもげちゃえば良いと思うよ……」

「なに怖い事言ってんだ!?てかリア充って何だ!?」

たかがボードゲームとは言え、負けたのが相当悔しかったのかヘルムは未だにドヨ〜ンとした黒いオーラを醸し出しながら落ち込み続けている……。
ま、すぐに立ち直るだろうさ。こいつの心の脆さはガキの頃から十分に理解している。放っとけば自ずと元に戻るだろうよ。
俺は落ち込んでるヘルムをその場に残し、サフィアとピュラの下に戻った。

「……私、マズイ事しちゃったでしょうか……」

ヒソヒソと呟くように訊くサフィアに対し、俺はキッパリと答えた。

「気にすんな。勝利があれば敗北もある。勝負ってのはそういうものだ」
「でも……あの落ち込み様は普通じゃないような……」
「すぐに元気になるさ」

こんな他愛も無い会話が続けられていると…………!

『敵襲!敵襲だー!海賊船が来たぞー!』

甲板の方向から部下の叫び声が聞こえた。
やれやれ……折角の楽しい一時を邪魔しやがって…………。

「こうしちゃいられないな。僕たちも速く行かないと」

さっきまで部屋の隅で落ち込んでいたヘルムがいつの間にか立ち直っていた。

「……ほらな、何の問題も無かっただろ?」
「フフ、そうでしたね。ちょっと安心しました」

「……二人とも、何か言った?」
「ああ、いや、何でもない」

ヒソヒソと小声でサフィアと話していると、ヘルムに怪訝そうに尋ねられて何気なくはぐらかした。

「……まぁ、いいけど。それよりキッド、僕たちも速く倒しに行こう。急いで戦況を把握しないと」
「そうだな。よぅし!いっちょ暴れてやるか!」
「あ、あの!キッド!待ってください!」

ダイニングを出て行くヘルムの後を追う様に、俺も船の甲板へ向かおうとしたら、急にサフィアに呼び止められた。

「……キッド、先に行ってるよ」
「あ、ああ、分かった」

少し長引くかと察したのか、ヘルムは先にダイニングを出て甲板へ向かって行った。
……にしても何だ?今、心なしか温かい目で見られたような……?

「ピュラ、あなたも先に部屋で避難してください」
「え?お姉ちゃんは?」
「私もすぐに戻りますから、ピュラは先に行っててください」
「う〜ん……分かった!」

ピュラは椅子から下りると、魚の尾びれで器用に歩いて行った。そして、ダイニングを去り際に俺に向かってグッと親指を立ててエールを送った。

「お兄ちゃん!頑張ってね!」
「……おう!任せとけ!」
「……えへへ!」

俺がお返しに親指を立てて応えると、ピュラは人懐っこい笑顔を見せてから自室へ向かって行った。
やっぱり、ピュラの笑顔は何時見ても癒されるな。戦闘前の良い励みになったよ。

「あの……キッド……」

ダイニングに残ったのは俺とサフィアの二人だけとなり、サフィアは俺の目を見つめながら寄りかかって来た。

「必ず帰ってくると信じてます……でも、お願いですから無茶だけはしないでくださいね?」
「大丈夫だ、俺は戻ってくるさ」

俺に身を預けているサフィアの頭を優しく撫でた。
ここまで身を案じてくれてる嫁さんは滅多にいないよな……俺は海賊という無法者の癖にとんだ果報者だよ、ホントに。

「それじゃあキッド……」

サフィアは徐に顔を上げ、俺の頬を両手で挟み…………。





チュッ



「はい、パワー充填完了♪」
「…………」

唇を奪われて呆気に取られる俺に、サフィアはほんのりと顔を赤く染めながら微笑んだ。
なんで呼び止めたのかと思えば、これがやりたかったのか……してやられた。

「……ふぅ、お陰で今日は一段と頑張れそうだよ」
「本当ですか?それじゃあこれからは戦闘が始まる前には、こうやってパワー充填しましょうね♥」

……てことは、戦闘が始まる度に同じ事をやるのか?
……うん、それ良いな……って、惚気てる場合じゃねぇ!!

「うっし!それじゃあサフィア、行ってくるぜ!」
「はい!どうかご武運を!」

笑顔で見送ってくれるサフィアに手を振りつつ、俺は急いでダイニングを出て船の甲板へ向かった…………。











「おーい!待たせたな……って、んん?」

船の甲板に着き、急いで敵の海賊たちを把握しようとした……が、何やら様子がおかしかった。
敵の海賊船はすぐそこまで迫っているのに、こっちは全くと言って良い程被害を被っていなかった。
いや、それ以前に何やら敵の船が騒がしく感じた。まだ戦闘すら始まってもないのに…………。
すると、俺に気付いたヘルムが慌てて俺の下へ駆け寄った。

「あ、キッド!やっと来たんだね!」
「おう、ヘルム……で、どうしたんだ?なんかさ、まだ戦ってもないのに敵の海賊船が騒がしいが……」

俺の質問に対し、ヘルムは苦笑いを浮かべながら答えた。

「いやぁ、それが……待ち切れなかったのか一人だけ先陣切って、飛んで敵船に乗り込んだ戦闘員がいてさぁ……敵が直前まで迫ってくる前に殆ど倒しちゃったみたいなんだよ」
「……あ〜、成程……」

ヘルムから事情を聞いて納得した。
多分……あいつだな。よし!こうしちゃいられねぇ!

「野郎ども!戦闘だぁ!!」
「ウォォォォォォ!!」

俺の戦闘開始の叫びと共に、戦闘要員の雄叫びが大海原に響き渡った。そして俺は勢いよく走りだし、助走を付けて高く跳び上がり敵船に乗り込んだ。

「ひぇぇぇ!!お助け〜!!」
「どうなってんだよ……ここは海だぞ!なんでこんな魔物がゴハァッ!!」

敵船の中心部から悲痛な叫び声と共に、聞き慣れた声が上がった。急いで叫び声が上がった方向へ向かうと、そこには赤い鱗を全身に纏ったドラゴンが数人の海賊を相手に暴れまわっていた。

「Boring!歯応えの無い連中だな!」
「……やっぱりあいつか」

独特の喋り方で相手を威圧する姿を見て俺は確信した。
さっきヘルムが言ってた先陣切って乗り込んだ戦闘員ってのは…………間違いなくオリヴィアだった。

「……お!Hey、キャプテン!あんたも来たのか!」

オリヴィアは俺の存在に気付くと、軽く手を上げて挨拶した。

「オリヴィア……先陣切るのは構わないけどな、あんまりやり過ぎるなよ?」
「しょうがないだろ?こいつら弱過ぎるから、いくら加減しても自然と勝っちまうんだよ」
「ああ、そうかい……じゃ、しょうがないか!」
「だよな!あっははは!」

両手を広げて余裕を見せるオリヴィアに、俺は不意にも同意してしまった。しかし、それが気に食わなかったのか周りにいる海賊たちが怒りに震えながら怒鳴り散らした。

「てめぇら!さっきから好き勝手に言いやがって!只で済むと思ってんじゃねぇぞ!」
「そうだ!お前らまとめて地獄へ突き落してやる!」

周辺にいる海賊たちはそれぞれ武器を構えて戦闘の構えに入った。
え〜っと……俺たちを取り囲んでる敵は……ざっと10人程度か。とりあえず、まずはこいつらをぶっ飛ばすとしよう。
俺は徐に、腰に携えている長剣とショットガンを抜き取り、何時でも戦える姿勢に入った。

「オリヴィア、まだやれるか?」
「No problem!見ての通り、全然いけるよ!」
「よし、上出来だ」

俺とオリヴィアは互いに背を向けて、周辺の敵を迎え撃つ体勢に入った。
そして…………。

「よっしゃあ!一人残らず蹴散らすぜ!」
「OK!It's show time!!」

オリヴィアの叫びを合図に、俺とオリヴィアはそれぞれ敵に突撃した。

「調子に乗りやがって!今に見てろよ!」

しかし、敵も黙っちゃいない。俺の目の前にいた一人の男が剣を構えて襲って来た。
だが……動きが見え見えだな。動作が大きく構え過ぎてる。

「遅いんだよ!」
「え!?ぐぁ……ごふぁあ!」

雑魚一人は俺を横切りで仕留めようとしたが、俺は身を低くして横切りをかわし素早く長剣で男の腹を斬り、おまけに男の顎を力いっぱい蹴り上げた。顎を蹴られた男は痛みに悶えながらその場で倒れ込んだ。

「て、てめぇ!ふざけんじゃねぇ!」

遠くにいるもう一人の敵の男が怒鳴りながら剣を構えて襲って来た。
……なんだか、今日は血気盛んな敵が多いな。

「別にふざけてねぇさ!これが俺の戦闘スタイルってやつだ!」

俺は敵が迫ってくる前に左手のショットガンで敵を撃ち、敵を足止めした。

「うぐっ!」

撃たれた痛みで思わず立ち止まる敵に駆け寄り追撃を与えた。

「おぅらよっと!!」
「ぎゃああ!」

俺は敵の脇腹を長剣で斬り裂き、おまけと言わんばかりに敵の胸元目がけて回し蹴りを喰らわした。後方に蹴り飛ばされた敵はそのまま仰向けの状態で気絶した。

「やれやれ、もっと強い奴はいないのか?」

そう呟くと、またしても敵が剣を構えて俺の前に立ちはだかった。
しかも今度は……3人で。

「イッヒヒヒ!この数を相手に勝てまい!」
「少しばかり強いからって、図に乗ってんじゃねーよ!」
「覚悟しやがれ!今すぐ八つ裂きにして、海に投げ捨ててやる!」

……おいおい、数で勝負かよ……そうきたか……。

「「「くたばれ、オラァ〜!!」」」

……まぁ、問題ないけどな!

「よっと!」
「な、何!?」

俺は群がってくる敵の間を上手く前転ですり抜け、3人の敵の背後へ回った。
よし!一気に決めるぜ!

「背中がガラ空きだ!」
「ぐわぁ!?」
「がっ!」
「かはぁっ!?」

俺は3人の敵の背中に向かってショットガンを何度も撃ちまくった。背中を撃たれた3人組はその場で跪き、大きな隙が生じた。

「うおおおお!!」

俺は勢いよく3人組の下へ駆け寄り、時計回りに回転して勢いを加え、力任せに長剣を横に振って敵の3人組をまとめて斬り倒した。背中を斬られた3人は、そのまま気を失ってその場で打つ向けに倒れた。

少し待ってろ……戦闘が終わったら海に沈めてやる。その後魔物の夫になって幸せに暮せよ。

「Very cool! 流石だな、キャプテン!」

心の中で敵に情けの念を送っていると、オリヴィアが感心したように声を掛けた。その声に釣られて視線を移すと、オリヴィアが一人の敵の男の胸倉を片手で掴み上げていた。すると、掴み上げられてる男が手足をジタバタと振って抵抗しつつ声を荒げた。

「チキショウ!は、放せ!放しやがれ!一方的に殴り飛ばすなんてずるいぞ!暴力反対!」
「ああん!?そっちから勝手に襲っておいて、よくそんな減らず口が叩けたもんだな!!」
「ひぃ!?ちょ、待って、ぎゃあああ!?」

敵の言葉が癪に障ったのか、オリヴィアは敵に顔を近づけて腹の底から努号を上げた。そして片手で掴んでいる男を容易く海へ放り投げた。
だがまぁ、オリヴィアの言ってる事は尤もだな。危害を加えようとしておいて、その仕打ちに返り討ちにされた途端に文句を並べるなんて図々しいのにも程がある。


「ええい!ドラゴンがなんだ!俺たちは無敵の海賊だぞ!」
「そうだ!こんな怪力女、秒殺してやる!」

すると、遠くから敵の海賊が二人掛かりでオリヴィアに襲いかかって来た。
あっちも数で勝負してきたか……まぁ、加勢する必要は無さそうだな。

「……あんたら、燃やしてもいいよな?」
「あん!?何言って……」
「答えは聞かない!」

オリヴィアは大きく息を吸い込み、敵に向かって…………!






ブォォォォォォ!!




「ぎゃあああ!あ、熱い!熱いよー!!」
「み、水!水はどこだー!?」

オリヴィアの口から吐かれた灼熱の炎が敵を二人まとめて包んだ。炎に包まれた敵の2人組は熱さに身悶えながらも自ら海へ飛び込んだ。

「Yeah!今日も調子が良いねぇ!」

炎攻撃が決まったオリヴィアは右手の拳を高々と挙げてみせた。
相も変わらず見事な活躍だ。俺も負けてられないな!

「よぅし!オリヴィア!この調子でサクッと片づけるぞ!」
「OK!Let's go!!」

この調子で戦闘が続き、俺たちはひたすら敵の海賊たちを次々と倒していった…………。



〜〜〜10分後〜〜〜



「キッド、今回も御苦労さま。相変わらず見事な戦いぶりだったよ」
「なぁに、毎度ながらヘルムもよくやってくれたよ」

あれから僅か10分後、戦闘の結果は俺たちの完勝で幕を下ろした。
その後、敵の海賊船にて食料やお宝などを漁り、戦利品の仕分けを行っている最中だった。

「さて、肝心の食料とお宝なんだけど……」
「ああ、こりゃお世辞にも多いとは言えないな……」

今はヘルムと一緒に愛船ブラック・モンスターの甲板に戻り、敵船から没収した食料や戦利品を見物していたが……これが異常なまでに少なかった。

「まぁ、敵の人数から見て多少の少なさは予想してたが……まさかここまでとはな……」
「あはは……やけに手応えがないと思ったのは、敵の人数が少なかったのが原因かもね」
「つーか、あいつら本当に海賊か……?」

俺は徐に敵船にて戦意を失って縄でまとめて縛られてる海賊たちへ視線を移した。
まぁ、見た感じ海賊に見えなくもないが……それにしたって、終わるのが早過ぎないか?

「キッドー!」
「お兄ちゃーん!」

急に声が聞こえたかと思うと、サフィアとピュラが安堵の笑みを浮かべながら俺に駆け寄って来た。

「キッド、大丈夫でした?怪我は無いですか?」

サフィアは俺の身体を見回したり、所々触ったりして怪我が無いか確認してきた。
やれやれ、大丈夫だって言ったのに……でも、心配してくれるのは嬉しいけどな。

「心配し過ぎだぞ、サフィア。そう簡単にくたばって堪るかよ」
「私は心配なんかしてないよ!だってキッドお兄ちゃんは悪い人たちになんか負けないもん!」
「ハハ、ありがとよピュラ!」

元気いっぱいの笑みを浮かべるピュラの頭を優しく撫でてやった。

「おーい!キャプテーン!」
「ん?」

ふと、珍しい武器を見つける為に敵船内を物色していたオリヴィアが俺の下へ飛び移って来た。そしてオリヴィアは一枚の丸められた紙きれを持っていた。

「どうした?目ぼしい武器は見つからなかったのか?」
「ああ、残念だけど、欲しい武器は無かった。でもな、その代わりと言ってはなんだが、面白い物を見つけたんだ!」
「面白い物?」
「ああ、これさ!」

ニヤリと意味ありげな笑みを浮かべながらオリヴィアは持っていた紙きれを俺に手渡した。俺は徐に渡された紙を広げて見た。それは……間違いなく海図だった。しかもちょうどこの辺りの海域の海図だ。

「これは……海図か?」
「そうそう!それでな、ここを見てくれよ」

オリヴィアは海図のとある一点を指差した。そこには現在地から西に位置する小さな島があり、その右側には目立つ様に赤いインクで○印が付けられていた。
だが、驚くべき点はそこではなかった。その丸印の傍に補足のような説明が書かれていた。

「…………!?」

その説明は、こう書かれていた。






この島に究極の秘宝あり



「究極の……秘宝!?」

秘宝と言う言葉を聞いた途端、俺の海賊の血が一気に騒ぎ始めた。そして俺はやっと気付いた。今俺が持ってる地図は……宝の地図だと……!

「だぁぁあ!?ま、ままま待ってくれ!頼む!それだけは持って行かないでくれ!」
「……はぁ?」

突然声が聞こえてその声の方向へ視線を向けると、そこには戦意を失って縄で縛られていた敵の海賊が何やら慌てふためいた様子で俺に懇願してきた。

「た、頼む!お宝も食料も全部渡すから、それだけは勘弁してくれ!頼む!この通りだ!」

どうやら、こいつらは海図に記されてる『究極の秘宝』とやらを頂く為に海を渡っている最中だったようだな。
……それにしても、この慌てっぷりから見てそれほど渡したくない程重要な物なのか。だとしたら、その『究極の秘宝』とやらも相当価値の高いお宝に違いない。
しかも肝心のお宝がある島ってのも、ここからかなり近い位置にあるし……これはもう、行くっきゃないだろ!!

「なぁ、頼むよ!それだけは、それだけは……!」

この状況においても、敵の海賊は尚も食い下がってくる。

……まぁ、盗られたくないのは分かるけどな……俺たちだって海賊だし、襲って来たのはそっちだし……。

「……オリヴィア」
「ん〜?」
「あいつら……投げちゃえ」
「……オッケ〜♪」

軽い返事をした後、オリヴィアは悠々と縄で縛られてる海賊たちの下へ飛び移り…………

「うぇ!?ちょ、ま、待って……」
Good bye!!

力いっぱい海へ投げ飛ばした!

「ぎゃあああ!お〜ぼ〜え〜て〜ろ〜!!」

お決まりのセリフを吐きながら、海賊たちは大きく弧を描きながら海へと落下していった…………。

……安心しろ、アンタらの努力は無駄にはさせない。俺たちが代わりに『究極の秘宝』を手に入れるからよ!

「……さて、航路変更って事でいいんだね?」

俺の後ろからヘルムが確信したように話しかけてきた。
もうヘルムには俺の考えに見当がついてるようだな。だが、その方が手っ取り早くて助かる。

「おうよ!次なる目的地は名も無き島だ!」

次の目的地が決まり、俺は既に船に戻って来た仲間たちに向かって大声で叫んだ。

「野郎ども!すぐに帆を張れ!航路変更だ!ここから西に向かって全速前進!お宝が眠る島を目指して出発だ!!」
「ウォォォォォォォォォォォォ!!」

仲間たちの雄叫びと共に船の帆が張られ、徐々に船首が西の方角に向けられた。そして愛船ブラック・モンスターは、食料やお宝を盗られて空っぽになった敵の海賊船をその場に残し、お宝がある島に向かって進み始めた。

「ウフフ、仕様の無い人ですね。私たち、親魔物領の『マルアーノ』に行く予定だったのに」

サフィアが聖母の様な温かい笑みを浮かべながら言った。

「悪いな……秘宝って聞くと、海賊の血が騒ぎ出すものでな」
「いいえ、それでこそ私の夫です。それに、その秘宝が眠る島も『マルアーノ』への航路の途中にあるみたいですし……どこまでも付いて行きます」

そう答えるサフィアの表情には一切の戸惑いも無かった。
ここまで甲斐甲斐しく尽くしてくれて……感謝してもし切れないな。

「その代わり……」

サフィアは口元に手を翳して、徐にヒソヒソと俺の耳に囁いた。

「……今夜はいっぱいセックスしましょうね♥」

……そうきたか……全く、サフィアには敵わないな。

「上等だ!何度も何度もよがらせてやる!」
「ウフフ、夜が待ち遠しいです♥」

お返しとばかりにサフィアの頬を優しく撫でると、サフィアはほんのりと頬を赤く染めながら嬉しそうに微笑んだ。
この笑顔は俺の宝物。それは紛れもない事実だし、胸を張って言える。
すると、何やら隅の方でヒソヒソと声が聞こえた。

「仲良しって良いよね!」
「ああ、そりゃ良い事だけど……ありゃもうバカップルなんてレベルじゃないだろ……」
「いや、ホントにねぇ〜。一度でもいいからブチッともげちゃえばいいのに」
「Wait!ヘルム、乾いた笑みでドスを聞かせながら言うの止めてくれ!本気で怖いぞ!」
「ああ、ごめんごめん。思わず微量の悪意を込めながら言っちゃったよ」
「それで微量レベル!?It's fearful……」
「ねー、オリヴィアさん。もげちゃえって何が?どういう意味?」
「え!?あ、えっと、それは……そ、それよりピュラ!暇なら一緒にトランプで遊ぶか?」
「うん!遊ぶ!それじゃあ、みんなで神経衰弱やろう!」

が終わると同時に、ピュラ、オリヴィア、ヘルムの3人がダイニングへ向かって行くのを他所に、俺は未だに甘えて来るサフィアの相手を続けた。

そして、俺の海賊船ブラック・モンスターは『究極の秘宝』たるものが眠っている島へ進み続けた。
マストのてっぺんに立っている海賊旗を、風に靡かせながら………………
12/08/04 17:02更新 / シャークドン
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■作者メッセージ
どうも、シャークドンです!
ここ最近、読み切りばかり投稿していたので、思い切って久々に連載を投稿しました。

と言うのも、私の処女作である『海賊と人魚』の設定を引き継いだ作品を書き続けて早くも半年と数カ月が経ちました。あの時はまさか処女作の設定をズルズルと引っ張り続けるとは思ってもいませんでしたが……おかげで『海賊と人魚』シリーズは今回で10作品目となりました。

と言うわけで、記念すべき(?)10作品目はちょっと長めの連載を始めます。しかし、そんなに長引かせる予定はありませんが……最期まで読んでくださったら幸いです。

それでは、まだ始まったばかりですが、完結まで頑張りたいと思います!

誤字・脱字、指摘したい部分があれば遠慮なくご報告お願いします!

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