連載小説
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魔物娘バトルカード「封印されし〇〇〇〇〇」
「カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

対戦相手がターンの終了を告げる。
あの伏せカード・・・おそらくトラップカードだろうが、“冥土送り”※1か?・・・いや“冥土返し”※2かもしれない。
※1:手札内のユニットカードを身代わりにして攻撃を防ぐ。身代わりにしたユニットはステータスに関係なく墓地に送られるが、ステータスの3分の1を守ったユニットに付与
※2:自陣のユニットが撃破されたとき、墓場の下級アンデッド系モンスター一体を場に召喚する

どちらにしても、ここまで相手の矢継ぎ早のユニット召喚をしのいで来たんだ。これ以上相手を強化させたくはないが・・・。

「どうした? 攻撃してこないのかい?」

相手のあざけるような声。
相手のフィールドに出ているのは“彷徨える首なし騎士《デュラハン》”一体のみ。
先ほど撃破した“メイド・ゾンビ”のスキルで強化されており、俺の壺デッキの低火力では厄介な相手。相手はそれを見越して挑発しているのだ。

「フフフ、やはり君の壺デッキじゃ、僕のアンデッドデッキには敵わないようだね」
「・・・」

「アンデッドデッキはスタンダードなバランスタイプ! コストの安い下級ユニットから高火力の上級ユニットまで揃っているし、人気シリーズだから新しいカードもぞくぞくと追加される! マイナー不人気な壺デッキなんかで、敵うはずないじゃあないか。ハハハハハ」

くそっ、言わせておけば、調子に乗りやがって。
・・・ほえ面かかせてやる。見てろよ!

「・・・手札から“蟲毒の壺”を墓場に送り、“暗闇の壺・ファムツポット”召喚!」
『我、夢より出でし者。力を貸そうぞ』

手札の一枚を魔力還元し、残りの魔力ほとんどを使ってユニットを召喚する。
フィールドに土偶のような装甲を身にまとい、大きな壺を担いだ妙齢の女性が現れる。

「な、なにい!? 上級ユニットだと!? ウソだろ!」

そう、俺はすでに壺系ユニット唯一にして最強の上級ユニットを引いていたのだ。
しかもこいつは範囲攻撃持ち。
これなら相手がさっきまでのように下級ユニットを連打してきても、ユニットごと相手のHPを削りきれる!

「そして、“彷徨える首なし騎士《デュラハン》”に攻撃だ!」
まずは低火力と侮り攻撃表示にした敵ユニットを撃破する!
これが俺と壺デッキの、反撃の狼煙だ!

『壺式波動砲!』
“暗闇の壺・ファムツポット”が肩に壺を構え、その壺から凄まじい量の水流がほとばしる!

「ク、クソオーっ!?
・・・なーんちゃって。リバースカードオープン!“墓土から伸びる腕”! ファムツポットの攻撃は中断だァ!」
「ぬう!?」

しまった! 伏せカードはさっきまで多用していた犠牲強化系ではなく、攻撃阻害系だったのか!
だが、いくら強化されているとはいっても、中級ユニットの“彷徨える首なし騎士”の攻撃では“ファムツポット”はびくともしないはず。

「ターンエンドだ」

「クックックッ、じゃあここからは僕のターンだね。
補助カード“バトルティアラ”と“魔剣クツコロッサス”を“彷徨える首なし騎士《デュラハン》”に使用!
上級ユニット“姫騎士デュラハン”を召・喚!」

相手フィールドの首なし騎士が光に包まれ、黒ずんだ鎧が純白へと変わっていく。

「なっ!? “姫騎士デュラハン”だと!?」

召喚するためには素材となるデュラハン系ユニットに加え、2枚の専用装備カードを必要とする進化系上級ユニット! しかもどのカードも排出数の少ないレアカードで、そのデザインとも相まってショップではセットで一万以上の値がつくのがざらだと言われる。

まさか、こいつがあのレアカードを持っていたなんて!

「フフハハハ、こいつを手に入れるため、小学生の頃からのお年玉貯金を崩したのさ」

なんだと!? 俺のお年玉貯金は親に預けていたらいつの間にかなくなっていたのに!

「“姫騎士デュラハン”の能力は元ユニットの二倍! “彷徨える首なし騎士”にかかっていたバフも二倍だ! この攻撃耐えられるかなぁ? “暗闇の壺・ファムツポット”に攻撃ぃ!」

『活路は私が切り開く。皆のもの続け! 必勝!涅槃斬り!』
姫騎士デュラハンの華麗な三連撃で、ファムツポットのHPはゼロになる。

『我、再び夢の内へと還る。いずれの夢の国にて、つかの間、まみえることもあろう・・・』
撃破されたファムツポットは泡となって消え、カードが墓場へと送られる。

「そんな、ファムツポットが、負けるなんて・・・」

俺の切り札ともいえるカードだったのに・・・、こんな、金で集めたデッキに負けるとは・・・!

「フフフ、君もこれに懲りたら壺デッキなんてやめて、高貴で耽美なアンデッドデッキに替えるべきさ。今ならこの僕のダブリカード、“生まれたてのゾビ子”もあげよう」
こちらが戦意喪失したと見て、アンデッドデッキへの鞍替えを勧誘してくる。

「ハッ“生まれたてのゾビ子”だと? 本気で言っているのか?」

墓場から顔を出した少女の目が、カード越しにこちらを見つめている。
“生まれたてのゾビ子”はスキルも有用な中級レアカードで、簡単に他人に譲渡するようなカードではない。・・・馬鹿にするにもほどがある。

「もちろん本気さ。姫騎士デュラハンを手に入れるため、いったい何度パックを開けたと思う? いったい幾つの店をまわったと思う? その成果がこのデッキさ!」

「なん、だと?」

俺は、勘違いをしていた。
こいつはレアカードを、金を積んでトレードしたんじゃない。

こいつは、地道にパックを買って、自力でレアを手に入れたんだ!
店舗ごとの購入制限が厳しいこのゲームで、それがどれほどの苦労か・・・
下級カード中心の壺デッキでさえ、ここまでそろえるために隣の市までめぐったのだ。
姫騎士デュラハンとなればおそらく県外まで・・・

「それに、マイナーデッキでここまで僕のアンデッドデッキと渡り合ったんだ。その腕、このまま腐らせておくには惜しい。どうだい? 君も僕と一緒にアンデッドデッキの可能性を探らないか?」

「何を、バカな。俺は・・・」

「アンデッドデッキなら、君はもっと上を目指せる。そう、こんな小さな店ではなく、全国大会や・・・世界で活躍する、一流デュエリストとして!」

俺が、一流デュエリストに?

「俺に、そんな力が?」
「もちろんだとも。さあ、“敗北宣言”を。そして、僕の手をとりたまえ」

そう言って手を差し伸べてくる。
一流デュエリスト。
プロとなって世界の強豪たちとしのぎを削る。そんな、テレビの中にしかないと思っていた世界が、俺にもあるというのか?

俺は、全力で戦った。
序盤を“悪魔な壺”の即死スキルと補助カードで優勢に進め、
中盤に相手が要注意の進化系ユニット“高貴なる吸血姫《ヴァンピール》”を召喚してきた時は、“不幸姉妹《アンラックズ》”シリーズのセット効果を崩してでも速攻撃破した。セット効果が発動不能になったのは痛いが、あの時の判断は間違っていなかったと思う。
そして、アンデッドデッキの特徴である“半裸の死人占い師”を使った下級ユニットの連続召喚も、HPを削られながらも凌ぎきった。
それも、切り札であるファムツポットをドローする為に――。

だがその切り札が倒された今、俺の手札に残されているのは下級ユニット一体。デッキの山に残っているユニットもそれと大差ないだろう。
あとは補助カードが数種、それと・・・・・・?

「・・・本当にそのカードを俺に?」
「ああ、本当さ」

相手が朗らかに答える。

「本当に、俺が一流デュエリストになれるのか?」
「もちろん。この、アンデッドデッキを使えばね」

確信に満ちた顔。
そして見上げる俺に、手を取るよう優しく目で促す。

「だが断る」

「よし、なら・・・何!?」

俺はプロになりたいのか? 企業だとか、国だとか、そういう下らないスポンサーを背負って。
No。
好きなデッキを組めないくらいなら、俺はアマチュアでいい。

俺はデュエリスト(決闘者)になりたくてこのゲームをやっていたのか?
Noだ。
俺はただ、プレイヤー(遊戯者)になりたかっただけだ。

好きなカードでデッキを組み、そのデッキで勝つために試行錯誤を繰り返し、勝てば喜び、負ければ歯軋りするほどの悔しさを押し殺し、相手の勝利を称え再戦を誓う、そんなプレイヤーに。

「バ、馬鹿なのか君は!? このレアカードの価値が、そしてこの僕が誘う意味が、わかっているのか!?」

「うるせえ、プレイ(遊戯)はまだ終わってない。それよりターンエンドが聞こえないな。行動が終わったならこちらのターンに移らせてもらうぞ」
「ぬっぐう、まだだよ! カードを一枚場に伏せ、ターンエンド!」

再度伏せカードを設置する相手。勝ちがほぼ決まっても抜かりはないか・・・

〜敵陣:“姫騎士デュラハン”+伏せカード〜
〜自陣:なし〜

「こちらのターン。山札よりカードを1枚ドロー」
頼む、来い!
・・・違うか。だがこれは。

「いま引いた“欲しがり魔人”を使用。山札からさらに2枚ドローだ」
「ふん、下級カードがいくら集まっても無駄さ」

『カードちょうだい! カードもっとちょうだい!』
ドロースキルのカードを使い、手札を増やす。
そして・・・よし! やはり運はまだ俺を見捨ててはいない!

「場に“可憐な牡丹百合《ゲスネリアナ》”を防御表示で召喚。ターンエンド」

『ボクの出番だね? 御主人様』
こちらの場に可愛らしい花型の壺をつけた美少女が現われる。

さっき引いたカードは場に出した下級ユニットと“封印の髪留め(右)”。
そして、デッキにある“封印の髪留め(左)”と“封印の腰の壺”、“禁断の解呪”・・・

あとひとつだ! このデッキから、あと一枚のカードさえ引ければ、勝てる!

〜敵陣:“姫騎士デュラハン”+伏せカード〜
〜自陣:“可憐な牡丹百合《ゲスネリアナ》”〜

「まったく、信じがたい阿呆だな君は。まあいい、壺デッキとかいう理想を抱いて溺死するがいいさ」

そう言ってやつはデッキからカードを一枚引く。

「クククク、君はとことん運に見放されたようだね。“麗しの貴腐人”を防御表示で設置だ」

“麗しの貴腐人”? 枠からして中級ユニットだが・・・。ステータスも下級ユニットである“可憐な牡丹百合《ゲスネリアナ》”より低いし、何か特殊効果でも持っているのか?

「そして! “姫騎士デュラハン”で敵ユニットを攻撃!」
『オークなんかに負けない! 必殺!涅槃斬り!』

『痛い、けど・・・気持ちいいから、イイ・・・』

“可憐な牡丹百合《ゲスネリアナ》”がこちらを振り返り消えていく。
これは所詮ゲームだ、それはわかっている。だが・・・

・・・必ず、お前の犠牲には報いてやるからな。

「ではターンエンドだ。どうぞ、カードを引いてくれたまえ」

〜敵陣:“姫騎士デュラハン”+“麗しの貴腐人”+伏せカード〜
〜自陣:なし〜

「・・・俺のターン、デッキよりカードをドロー」

山札からカードを一枚引く。・・・違う、こいつじゃない。
だが今の状況にはそう悪くない。

「“怨念深き壺姫”を防御表示で召喚、ターンエンド」
『よぉくもぉぉ、だぁましたああああ!』

壺からのぞく美女の顔といった外見のユニットが場に召喚される。
こいつは被撃破時に相手の能力を下げる効果を持っている。
相手ユニットの攻撃力から言って、こいつを撃破するには“姫騎士デュラハン”で攻撃しなければならないはず。
今の“姫騎士デュラハン”の攻撃力では、俺に直撃すれば一撃でゲームが終わってしまう。
・・・それはなんとしても避けねば。

〜敵陣:“姫騎士デュラハン”+“麗しの貴腐人”+伏せカード〜
〜自陣:“怨念深き壺姫”〜

「フン、小ざかしいカードを・・・では僕のターン、カードを一枚引き・・・ふむ」

相手はカードを一枚引いて手札に加える。場に出さないところを見るとユニットカードではないらしい。
今は下級ユニット一体追加されるだけでも危険な状況だ。
ひとまずは命拾いしたというところか・・・

「さて、“麗しの貴腐人”の特殊スキル、“貴腐人の嘆願”発動! 1度だけ、防御したターン数に応じて中級以下の貴族ユニットをフィールドに召喚する!」
「なっ、なにィ!?」
「1ターン防御したから1体だけだが、それでも君相手には充分だ」

『貴族の誇りある方よ。この窮地を救えるのは、あなただけなのです!』

「そして、“貴腐人の嘆願”は対象がアンデッドであれば墓地から選ぶこともできる・・・墓地から“高貴なる吸血姫《ヴァンピール》”召喚!」

『我が血と命ある限り、貴方のために力を振るおう』
さっき必死の思いで撃破したユニットが、再度相手の場に召喚される。

「フフフのフ、僕が“麗しの貴腐人”を召喚した時、無理にでも撃破しておくべきだったね・・・。まあ、壺デッキの貧弱なユニットを攻撃表示にした瞬間、僕の“姫騎士デュラハン”が勝負をつけるけどね! ハハハハハ!」

くそっ、やつが“麗しの貴腐人”を引いた時に勝負は決まっていたというのか?
・・・いや、まだだ。さっきより状況が悪くなっただけに過ぎない。
それに“高貴なる吸血姫《ヴァンピール》”は最終強化こそ強力だが、素の状態では“怨念深き壺姫”を撃破できない。

まだ、あきらめちゃダメだ!

「そのユニットのデバフ効果は厄介だからね。このターンの攻撃はやめておくよ。その代わり、“高貴なる吸血姫《ヴァンピール》”にこの2枚のカードを装備してターンエンドだ」

やはりすでに強化カードを引いていたか・・・。
ヴァンパイア専用強化アイテム“血の魔装”と“AB型トマトソース”を使用して、“高貴なる吸血姫《ヴァンピール》”の攻撃力と防御力が強化される。
それでもわずかに“壺姫”の防御力には届かないが、油断はできない。

〜敵陣:“姫騎士デュラハン”+“麗しの貴腐人”+“高貴なる吸血姫”+伏せカード〜
〜自陣:“怨念深き壺姫”〜

「俺のターン、カードを一枚ドロー・・・」

どうだ!?・・・っ!

「・・・“涙目のルスラ”を防御表示で召喚、場にカードを一枚伏せ、ターンエンド」
『が、がんばりまひゅ!』

戦闘するには明らかに頼りない少女が場に出現する。
目に涙をため膝を震わせながら相手に向かう姿は、悲壮感をこえて痛ましさしか感じさせない。

〜敵陣:“姫騎士デュラハン”+“麗しの貴腐人”+“高貴なる吸血姫”+伏せカード〜
〜自陣:“怨念深き壺姫”+“涙目のルスラ”+伏せカード〜

「ハッ、もうそんなユニットしか残ってないのかい? あまり長引かせても可哀想だ。ここらで一気に終わらせてあげよう!」

相手は山札からカードを引きつつ勝利を宣言する。
アンデッドデッキの攻撃能力を考えれば、それはけして過剰な自信とはいえない。
このターン、はたして凌げるか・・・

「まずは“高貴なる吸血姫《ヴァンピール》”に“マシマシギョウザ”を使用! 防御力をゼロにして、その分を攻撃力にプラス!」
『くっさ! ググ、ガ、ハナガアアアアア!』

先ほどまでの貴族然とした佇まいからは一転し、目を赤く染め牙をむき出す“吸血姫《ヴァンピール》”

「こいつはもう不要だな。リバースカード“冥土送り”と“麗しの貴腐人”を魔力還元し、“カブキ座の怪人《ファントム》”召喚」
「ぐうっ」

『ああ〜捗るわ〜、ユートピアはここに・・・あら私の出番?』
貴腐人が消え、怪しげな仮面をつけた怪人が現われる。
まずい・・・さらに中級ユニットを召喚してくるとは!

これで相手フィールドにはユニットが3体、リバースカードは無し。
こちらにはユニット2体にリバースカードが1枚。

カード枚数では同じだが、相手は上級ユニット1体+中級ユニット2体でこちらのユニットはどちらも下級ユニット。
・・・ぶつかり合えばどうなるかは、火を見るよりも明らかだ。

「まずはその目障りな壺娘から処理しよう。“高貴なる吸血姫《ヴァンピール》”で“怨念深き壺姫”を攻撃!」
『RRRRRRRYYYYYEEEE!!』

『地獄の底まで、一緒よ・・・』
撃破された“壺姫”の髪が、“吸血姫《ヴァンピール》”に絡みつく。

「ふん、下げられた能力はまたアイテムで上げればいい。それに、本命はこっちだ!“カブキ座の怪人《ファントム》”で“涙目のルスラ”を攻撃、そして撃破ァ!」

『枯れゆくものこそ美しい。貴方をかぐわしき枯れ専の世界へ!“果てしなき妄想”!』
『ひぃっ!?』

っ! 今だ!

「リバースカードオープン! “オクトパストラップ(verバリア)”! あらゆる攻撃を3回まで防ぐ!」
「んがっ!?」

涙目の少女を覆うようにタコツボが降って来て、怪人の攻撃を防ぐ。
攻撃でタコツボにひびが入るが、中の少女は無傷。

「こっ小癪な真似を! “姫騎士デュラハン”! その磯臭いバリアを破壊だッ!」
『ヴァルキリーにこの座は渡さぬ・・・。必殺!涅槃斬り!』

華麗な三連撃を繰り出す。が、それはあくまで演出。攻撃は1回としてカウントされる。
とはいえ二度の攻撃を受けたタコツボは大きくひびが入り今にも崩れそうだ。

「・・・フン!ターンエンドだ。次のターンで止めをさしてやる」

〜敵陣:“姫騎士デュラハン”+“高貴なる吸血姫”+“カブキ座の怪人”〜
〜自陣:“涙目のルスラ”(バリア残り1)〜

なんとか敵のターンを凌ぎきったか・・・しかし、

「・・・俺のターン」

もう後がない。

ここで、あのカードを引かなければ・・・
いやせめてユニットカードであったなら、防御表示で相手ターンをやり過ごすことができるかもしれない。
だがそれでは・・・

「早く引きたまえよ。どうせ君が勝つ確率なんて、万に一つもないんだからさ」

万に一つも、か――いや


勝つ方法は、ある。
それも一万分の一なんて低い確率じゃない。
この残り十数枚になったカードの山から、たった一枚のカードを引き当てればそれでいい。

俺は、その確率に賭けたんだ。

山札に手を伸ばす。
カードに触れた手が震えているのがわかる。

さあ、来い!

「デッキよりカードを一枚ドロー!」


引いたカードを見た瞬間、体中の力が抜けた。


「その様子だと、大したカードは引けなかったみたいだね。もっとも、そのデッキにこの状況をひっくり返すようなカードがあるとは思えないけど。・・・さあ、潔く負けを認めたまえ」

終わりか・・・。
思えば10分そこらの対戦時間だったはずだが、まるで百年、いや千年も戦い続けていたような気さえする。

「ターンエンドだね? それじゃあ、総攻撃だ! まずは“高貴なる吸血姫《ヴァンピール》”で“涙目のルスラ”を攻撃ぃ!」
「まだだ! 俺のターンはまだ終わってない!」

そう、俺はまだターンエンドを宣言していない。

「チェッ、いいかげんにしなよ。ここまで来ると悪あがきも見苦しいだけだよ。とっととリバースカードなりなんなり設置しなよ」

手札から4枚のカードを出す。

「? なんのつもりだい?」

「“涙目のルスラ”に“封印の腰の壺”“封印の髪留め(右)”“封印の髪留め(左)”を使用。そして、“禁断の解呪”で全ての封印を解除!」

『だ、だめ! それは――』

少女がこちらを振り返り叫ぶ。
だがそれと同時に少女が身につけた3つの壺が砕け散る。
少女は動きを止め、驚愕の表情を浮かべていた顔からは、一切の表情が消えていく。

そして俺は最後のカード・・・ついさっきドローしたばかりのカードを出す。

「“涙目のルスラ”を触媒に、“封印されし古代の魔神”を召喚」

露わになった少女の肌に、光る幾何学模様が刻まれていく。
腰から広がるそれは手足から指の先へと伸び、そして首や顔、薄く閉じられた瞼まで覆う。

『我我我我を呼ぶ呼ぶ呼ぶ呼ぶ呼ぶ者は誰ぞ誰ぞ誰ぞ誰ぞ誰ぞ誰ぞ』

不気味なエコーのかかった声が響き、少女は目を開く。
そこにあったのは、先程までの透き通った空のような青い目ではなく・・・暗い、海の底のような・・・見る者を吸い込むような瞳だった。

『いまだ人と魔物は力の塔の頂きを目指し、七つの封印を求めて争うか・・・』
魔神となった少女は、フィールドを睥睨して呟く。

俺は息を吸い込み、“封印されし古代の魔神”の能力を宣言する。

「“封印されし古代の魔神”の能力、“《トゥ・ヴォス》降り注ぐ光が世界を滅ぼす”・・・フィールドもろとも全てのユニットを破壊し、戦闘を終了させる」
「ふ、ふざけるな! そんな能力あってたまるか!」

あるのさ。5枚のレアカードを手札に揃え、フィールドに触媒となる壺系ユニットを召喚しておく必要があるが。

『命震えよ、虚無こそ真実。すべてをあるがままの姿に』

魔神の手に光が集まってゆく。
その光はまるで太陽が地上に堕ちたかのように輝き、俺たちの視界を覆っていく。

「ぐっ」
「へあー!? 目がー!」

白い光の中、魔神の声だけが響く。

『千夜の彼方に沈め・・・。究極魔神砲《ウルティメイト・スペル》!』

『ああ〜還暦過ぎが女装して・・・何の光ぃ?――』
『ニンニクハアカンテユウタヤロガ――』
『くっコロ――』
相手フィールドのユニットが声だけ残して消滅する。

光がおさまるとフィールドもなにもかも消えた虚空に、小さな魔神の背中が浮かんでいた。

『――我を呼ぶな。我を起こすな。我を我を我を我を我を我を――』

魔神の声が残響とともに遠くなっていき、姿が光に包まれる。

ポフン

消えてゆく魔神と入れ替わりに、“涙目のルスラ”が姿を現す。
砕けた壺も元通りになった少女は、辺りを不思議そうにキョロキョロと見回し、

『・・・私たち、二人だけになっちゃいましたね』

こちらを向いて恥ずかしそうに微笑んだ。


―このデュエル、ジンジャー・ブレット氏の勝利!―
音声が俺のデュエルネームを告げる。

「ぼ、僕の姫騎士デュラハンがぁ・・・」

向かいでは対戦相手が敗戦のショックに打ちひしがれている。
茫然自失する姿は、お世辞にも格好のいいものではない。
だが俺にそれを笑うことはできない。
あれは、俺の姿であったかもしれないのだ。

「ネクロフィリア」

俺は対戦相手に手をさしのばす。

「・・・なんだよジンジャー・ブレット、同情なんかいらないぞ」

この感情は同情なのだろうか? いや、それは違う。

「ありがとうございました」
「フン・・・」

お決まりの挨拶とともに、俺たちは短く握手を交わす。
勝負に言葉は不要。
俺は早々にカードを片付け、荷物をまとめる。

どのみち、勝者が敗者にかける言葉などないのだ。
俺が相手に感じた感謝の念は、どれだけ言葉を尽くしたところで伝わるものではないだろう。
とくに負けた直後の本人には。

―さらば強敵(とも)よ。また会う日まで―

心の中で彼に告げ、席を立つ。


「おじさんたちさー、アニメや漫画じゃないんだから、カードバトル中に大声出さないでよ」
「あ、ゴメン」
「おじさんではない、お兄さんと呼べ!」

席を立った瞬間、隣でデュエルをしていた子供に怒られた。

* * *

店を出ると午後の太陽が町を照らしていた。
穏やかな風が吹く。もう春も近い。

ポケットの上からカードに手を触れると、デュエルの熱を帯びたカードは人肌のように温かかった。
17/02/20 01:03更新 / なげっぱなしヘルマン
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■作者メッセージ
テーマ
ぼくのかんがえたさいつよでかっこいいつぼまじん

元ネタ
封印されしエグゾディア+FF12のマジックポット。
なお「壷姫のつくりかた」で検索すると、つぼまじんが卒倒するので注意しましょう。

〜参考〜
FF12のマジックポットの説明文(抜粋)
『かつては神々に対敵する巨大な悪魔として頂点に立つ存在であった。しかし彼らの凄まじい魔力を恐れた神により姿を変えられ、壺の中へ封じられたとされている。
力を奪われ柔和な性格になった今でも想像を絶する魔力を持つ』


〜投稿前(2017/2/19夜)〜
さあて、あとは最後の校正、と。
ん・・・?

『誘☆拐☆王デュエルモンスター娘ズ』(黒尻尾さん)デデーン!!

直近でネタかぶり・・・だと・・・?
どうする、もう少し練り直してから・・・
いいや、限界だ!押すねっ! ポチッ!(投稿ボタン)

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