連載小説
[TOP][目次]
受肉する宇宙恐竜 皇帝の再臨
 ――ジパング東部・とある竹林――

 ある日のお昼過ぎ。そこでは美しい形部狸の親子がタケノコ採りに興じていた。

「けっこう採れたわ」

 夏ではないが、ジパングは高温多湿の陽気故、まだ辺りはジメジメとしている。
 そんな陽気の中、タケノコを掘り続けるのに疲れた母は土掘り用の鋤と鎌を置いて額の汗を拭う。日差しは未だ強く、暑いので着物の袖をまくっているが、そのせいで白い肌は赤く焼け、多少土も付いてしまっていた。

「ま、これぐらいにしておくかね」

 彼女の傍に置かれた背負い籠が大きなタケノコで満杯となっているのを見て、形部狸のふさふさとした耳はピコピコと嬉しそうに動く。

「ふふっ」

 最近、海の向こうの教団圏の国々ではジパングの食材及びジパング料理が密かなブームとなっており、タケノコもその例に漏れず需要が増しているという。
 当然、商売に敏い形部狸達も商っているが、今採っている分はあくまで自分達の食事のためのもので、輸出用ではない。一般的には金銭にがめつく、悪どいという印象を抱かれる彼女等だが、愛する夫と娘に手料理を振る舞うなど、家庭的な面もあったりするのだ。
 ただし、この形部狸は料理があまり上手くなく、煮たタケノコを食べさせる度に夫が閉口する事もしばしばであった。

「…あら? あの子ったら、また奥の方まで行ったのかねぇ?」

 一息ついていたところで、母は幼い娘の姿が見えない事に気がつく。疲れたのでしゃがんでいたが、娘を探すために再び立ち上がり、竹林の奥に進んでいった。

「これこれ、どこにいるの?」

 声をかけながら竹林を歩き回る母狸。そうしている内に、段々と薄暗い所に入っていく。

「ん?……かあさま〜!」
「もう、ダメじゃないの」

 やがて少し歩いたところで、鬱蒼と茂る竹林の中にいた娘は母の存在に気づき、手を振り尻尾を揺らしながら走り寄って来る。

「こんな所で採る必要は無いの!……うん? どうしたの、それは?」

 母は娘を叱るが、その途中でタケノコのぎっしり詰まった、娘の小さな背負い籠の上に見た事の無い花が一輪載せられている事に気づく。
 それは一見稲穂に似ているが、違うのは小さな花弁が赤と紫の混ざった毒々しい色合いである事。何の変哲も無い植物にもかかわらず、何故か不吉な印象を受けるものだった。

「…見た事の無い花だわ。どこで摘んできたの?」
「うん、あっちのほうでみつけた。みたことないおはなだからもってきたんだー」

 母と違い、娘はこの花へ特に悪い印象は抱かなかったらしい。

「あっち?」
「うん」

 あまり良い印象は無いが、これが何の花かは分からないので、母狸は興味を持った。
 そこで、これが一体何の花かを確かめるべく、娘に導かれるまま竹林の中をさらに進んでいく。

「あそこにはえてたんだー」

 やがて二人が辿り着いた竹林の奥には、普通の竹の倍近い長さの青黒い巨大な竹が群生していた。昼過ぎにもかかわらず、その大きさ故に薄暗い程である。

「…ん!?」

 しかし、その中でもはっきり分かる程、それらの葉の一枚一枚全てに、不吉な雰囲気を放つ毒々しい花々が咲き乱れていたのだ。

「ひっ!! さ…さざめ竹…!」

 やがて母狸は大竹を眺めている内に、自身の知るジパングの伝承を思い出す。この花はそれに登場するもので、その正体に気づいた母は愕然とする。

「かあさま?」

 一方、形部狸特有の黒い目元を真っ青にする母を見て、娘は首を傾げた。この幼い形部狸は何も知らない故、無理からぬ事であるが。

「……帰るわよ」
「え〜、なんで?」
「いいから!」

 突然の事で不可解故、両耳と尻尾をピンと逆立てて不満を訴える娘だが、母はきつい視線を向け、それ以上有無を言わせなかった。
 そして、そのまま母は怯んだ娘の籠からさざめ竹の花を投げ捨てると、娘の手を引いて慌ててそこから離れたのだった。





 やがてこの形部狸の母娘によって、さざめ竹の開花が近隣一帯に知らされる事となり、大凶事の前触れかと、その地の者は恐怖した。
 ジパングでは昔から竹の開花を不吉な事として忌み嫌っており、特にさざめ竹の開花はその中でも最悪の部類とされていたのである。
 竹の種類によっては、開花が約百二十年という非常に長い周期のものがある。さらには開花を迎えた竹は一斉に枯死して植生に大打撃を与える上、その実を餌として異常繁殖した野鼠が鼠害を引き起こすので、竹の開花は忌み嫌われている。
 このように、普通の竹の開花は飢饉や疫病の予兆だが、さざめ竹の場合はさらに厄介なものだ。
 他の竹と違い、この竹の開花周期は不定期で、いつ花が咲くのか予測がつかない。そして、その花が咲き誇る時には、いつも天変地異か大きな戦が起きていたという。
 開花記録が昔の文献に残されているが、いずれの年も数えきれぬ程の死者が出るものばかりなのだ。その最古の事例は、各地の大名によってジパング地方の半分を灰燼に帰した程の大乱が引き起こされた年である。
 次の事例はこれまたジパングが壊滅しかかる程の大地震と津波が起きた年で、同じく相当数の死者が出ている。他には霧の大陸に巨大隕石が衝突した年や、魔都と化す前のレスカティエと他の教団圏国家との間に戦争が起きた年にも、さざめ竹の花は咲いた。そして、エンペラ帝国と魔王軍との死闘が起きた年もまた例外ではない。
 そんな凶兆の花が、再びジパングの地で咲き誇った。それが暗示するのは、多くの無辜の民が殺され、あるいは抗いようもない大自然の怒りに呑み込まれていく未来か?
 ――竹林の奥地に咲く花々は、己の持つ意味を何も語ろうとはしない……










 どうにか左腕以外の体調を回復させたゼットン青年は、なりゆきから契を結んだ魔王の第五十二王女たるリリムのガラテアの導きにより、交わった翌日に早速王魔界へと赴いた。
 二人の帰還は帝国残党からの追手を恐れたのはもちろんだが、それは娘を攫われて不安になっているであろう両親を一刻も早く安心させたいというリリムの願いでもあったのだ。
 その頃王魔界ではケイトとナイアの発案により、ガラテア奪還部隊が編成されていたが、肝心の王女の居場所が割れておらず、その事で幹部達が一体どうするかで揉めていた。
 しかし、そこへリリムがどうにか自力で戻ってきた事で、その存在意義が消えた奪還部隊は結局何の働きも無いまま解散させられてしまったのだった。
 娘が無事であった事に両親は安堵したが、同じく攫われていた男も伴って帰ってきた事は二人を驚かせた。
 ただ連れて帰ってくるならそれだけの話だが、問題なのはガラテアとその男が“できていた”事だ。これは新しい家族が魔王夫妻に出来た事を意味し、魔王城は喜びに包まれたのである。
 帰還した翌日の朝、魔王夫婦はガラテアとゼットン青年を早速呼び出し、謁見を行った。娘の様子が気になるのはもちろん、新しい婿がどのような男か両親は気になったのだ。
 そのため早い話、謁見とは名ばかりで、実質的には義両親への挨拶と言える。そして、五十二番目の娘に出来た男を見た両親は、特に拒否反応を示す事も無く、むしろ好意的な反応を示してくれたため、二人は安心した。
 特にゼットンは魔王の姫を犯してしまったという問題から、気に入られなかった場合の末路を想像し、内心相当に怯えていたのであるが、これも杞憂に終わったのだった。





 さらにその日の午後。ゼットン青年は魔王夫婦の厚意により、サバトの医療部門で治療を受けさせてもらえる事になった。そこの魔女達の言うところによると、なんと腕の完全再生は可能で、しかも大した代償も無し、という具合である。
 そんな治療を受けない道理は無く、青年は喜んで手術室に向かった。
 こうして、早速手術台に寝かされた青年に手術担当の魔女達は麻酔を打ち、左肩の切断面から肉を切り取る。それを魔術的調整の施した培養液が入った容器に漬け、怪しげな呪文を皆で斉唱し出す。
 そして三十分ほど唱えたところで肉片が成長を始め、さらに一時間後には新たな左腕に変貌を遂げたのである。
 最後に、魔女達は左腕を培養液から取り出して切断面にくっつけ、回復魔術でそのまま筋細胞及び神経を融合させ、左腕の再生を完了させたのだった。

「! 治ったのね、良かったわ」
「ゼットーン! 会いたかったよ〜〜!」
「!?」

 こうして治療が済み、気疲れを感じたゼットン青年がそのまま滞在用に与えられた部屋に戻ってきたのだが、既に二人先客がいた。その部屋の本来の主たるガラテアと、ゼットンが戻ってきたのを聞いてすぐに駆けつけたクレアである。
 手術前、ガラテアには療養のために少しの間逗留するよう進言され、彼もそれに同意した。なにせ、家は洗脳時に自ら破壊してしまっていたので彼には帰る家が無い。
 しかもアイギアルムの街は帝国残党の襲来により被害を受けたので、ある意味それに関わっているゼットンがどの面下げて帰れるのか、という状態であったからである。

「う……」

 久しぶりに会った妻の顔を見るなり呻き声をあげ、ゼットンはその顔を急速に青ざめさせる。そして、すぐさま部屋の戸を閉めると、そのまま土下座したのだった。

「す、すまねぇ!! 操られていたとはいえ、俺はお前を殺そうとしちまった!!」

 罪悪感のあまり、床に這いつくばるゼットン青年。しかし、夫を咎める気などクレアには微塵も無いようで、彼女は穏やかな笑みを浮かべた。

「うぅん……いいよ、別に。お互い生きて帰って来れたんだからさ、もう水に流そうよ」

 寛大にもゼットンを許したクレアは、這いつくばる夫に近づくと、優しく抱きしめた。
 この様を見れば分かる通り、彼に殺されかけた事などクレアは恨んではいない。彼本人の意思でないのは承知していたし、そもそも街を氷漬けにしたのはグローザムである。
 家を破壊したのだけは残念であるが、また建てれば良い事だし、何より幸い犠牲者が出なかったのは幸運だろう。

「ただ、一つだけ約束してね。あぁいう道具頼りの安易なパワーアップはしちゃダメ。OK?」

 強くなる事に早道は無い、とクレアは考えていた。強くなる方法を模索する事自体は否定しないが、あの鎧はそれと違う。
 確かにゼットン青年は手の付けられない強さで暴れ回ったが、所詮はあの鎧の力の産物であって、彼はその乗り物だったにすぎない。
 とはいえ、己の意思で身に付けた事でないのは分かっている。
 しかし帝国残党の暗躍が無くとも、暗黒の鎧を使用目的で盗掘したのは元々ゼットン青年の意思である。そしてクレアと戦うためにあの鎧を自ら纏い、途端に暴走した事も十分ありえたのだ。
 幸い悲劇は回避されたが、彼の軽率さは反省させるべきだと彼女は考えた。しかし、そのせいでお互いの関係を悪化させたくはない。
 夫は未熟で馬鹿だが、クレアはそこも含めて愛している。だから反省させこそすれ、嫌いになる事はない。

「わ、分かった…!」
「うん! また地道に強くなっていこうよ!」

 ゼットン青年は面を上げ、慌てて何度も頷くのを見た妻は嬉しそうに笑みを浮かべ、頭の触角をピコピコと動かす。
 こうして、引き離されていた夫婦は再会し、その溝もまた修復されたのだった。

「私からも一つ言わせてちょうだい。強くなろうとするのは結構だけれど、あまり周りに迷惑をかけるようなやり方は駄目よ?
 今回は幸い死者が出なかったけれど、あなたが使おうとしていたのは、かのエンペラ帝国の秘宝アーマードダークネス。本来は到底あなたの実力では扱いきれぬものなのだから」
「重ね重ね申し訳ございませんでした…」

 一応自分も釘を刺しておこうと考え、クレアとは逆に厳しい表情で青年の過ちを指摘するガラテアに対し、重ね重ね詫びるゼットン。
 彼も一応ツテを辿って堕落神側に鎧の鑑定を頼むという対策は取っていたが、それだけでは甘すぎたと、遅ればせながら実感したのだった。

「それと……あなたが暴れた事だけど、お母様達は罪を問う気は無いと仰せになってるわ」
「!」

 それを聞いて僅かに安堵した表情になる青年だが、彼以上に安心したのはクレアであった。夫が罪に問われて牢屋にぶちこまれるのを、このベルゼブブは見たくなかったのである。
 もっとも、本人の意思ではないという時点で、情状酌量の余地はあった。なにせ、ゼットン青年はいくつかの都市を帝国残党と共に襲っていたが、洗脳に対する抵抗と鎧の力がせめぎ合いを起こして、かえって行動に支障をきたす破目になっていた。
 そのせいで交戦の際、相手に不覚を取る事が多々あり、その度にしびれを切らしたメフィラス達が街ごと殲滅していたのである。
 結局のところ、青年はあくまで鎧との適合率を上げるために無理矢理戦闘を行わされていたに過ぎず、しかもその度に問題を起こしていた。そのため、途中からは帝国残党にも戦力として見なされなくなっていった。

「まぁ、暴れたのはまずかったけど…そもそもあなたの意思ではないしね」
「………………」

 このように、青年は襲撃の際に大した役割は果たしていなかった。しかし一瞬安堵はしたものの、青年の中で一つの考えが浮かび始めていた。

(あの間意識が操られていたから、暴れても罪には問われなかった。だがしかし、俺は僅かなりとも殺戮に加担していたんだろうか?)

 記憶が無い故、それは自分自身にも分からない。だが一つ言えるのは、この青年は善人ではないものの、それでも無辜の人々を害して平気でいられる程悪人でなく、気丈ではないという事だ。
 心の中に浮かぶ澱みにより、例え罪に問われずとも、青年は素直に喜べなかった。

「……別に、誰も殺してはないと思うよ」
「………………」

 夫に対する深き理解故か、それとも今まで繰り返した闘いの経験故かは不明だが、クレアは青年の心中を見事に察して慰める。
 しかし、夫はそれに対して何も答えなかった。

「クレアさんの言う通りよ。余計な心配をする必要は無いわ」
「……何故分かる?」
「殺人者にはね、殺した相手の怨念が纏わり付くものなの。でも、あなたにそれは無い。
 つまりあなたの考えている事は全て無駄、それこそ杞憂と言ってもいい程にね」

 青年の抱える切実な疑問を見かねてか、ガラテアは神妙な面持ちで自身の見解を語った。

「……信じて……良さそうだな……」

 リリムの様子から、その言葉が真実であると考え、ようやくゼットン青年は安堵した表情となった。
 そして、クレアもまた夫の疑念が晴れたのを見て、嬉しそうな笑みを浮かべたのだった。

「まぁ、あなたにも悪い点があるけれど、情状酌量の余地は十分ある。そして私からの厳重注意はしたし、あなたも十分反省の態度を見せている。
 だから、辛気臭い話はこれで終わりにしたいのだけれどね」
「そうそう!」

 ガラテアはいい加減話を終わらせたく、そしてそれにクレアも同調した。
 確かに青年の気持ちは解らぬでもないが、そもそも彼の体より何の霊的反応も感じられぬ時点で、彼は余計な事を気にしているだけにすぎなかったのだ。

「そうか……でも、その前に御礼を言わせてくんねーか」

 罪に問われずとも、関係各方面に多大な迷惑をかけたため、けじめはつけたいと青年は考えていた。

「もう、水臭いわね! そんなのいらないわ」
「そうそう、言葉なんて無粋だよー!」

 しかし妻達にとって、それは余計な気遣い。そんなものいらないとばかりに、ゼットン青年の手をギュッと握り、二人はにっこりと笑う。

「……?」

 だが、彼女等の様子がどこか変な事に青年は気づいた。

(この流れは…)
「御礼はこっちで良いんだよぉ♥」

 そして、青年が感じた僅かな不安は的中する。
 淫靡な笑みを浮かべるクレアはゼットンを起き上がらせると、慣れた調子でズボンからベルトを引剥がし、さらにズボンを下着ごと下ろして奪い取ったのだ。

「そうそう。魔物娘はね、ダラダラとした前置きが嫌いなの♥」

 同じく淫蕩な笑みを浮かべるガラテアは青年の体を背後より優しく抱きしめると、慣れた手つきでシャツを脱がせて奪い取る。
 この二人の連携により、青年は瞬く間に全裸となってしまった。

「あぁ、成程…」
「「そういう事♥」」
「ははっ……」

 青年に思い知らせるかの如く、いつの間にやら発情しきって蕩けた表情を浮かべる二人の魔物娘。
 この手際の良さに青年は溜息をつき、乾いた笑いを浮かべるしかなかった。

「御礼なんていらない。その代わり、気持ち良く犯してくれればいいのさ」
「そう…濃厚で、激しく、深い愛のあるセックス」
「そして、中に注がれる精と子種がい〜っぱい♥」
「美味しい上に、子どもも出来ちゃうかもしれないなんて素敵だわぁ」
「そう、魔物娘はそのために生きていると言っていいかも」
「だから、それ以外には」
「「何もいらない」」

 示し合わせたかのように順序良く夫に語りかけるクレアとガラテア。そしてなぜだか二人の声は、急速に生殖本能を昂ぶらせ、一気に発情させるかのような危険な甘みがあった。

「さぁ、来なさい♥」
「早くブチこんでよぉ♥」
「あぁ……分かったよ」

 二人はこれまた早い手際で服を脱ぎ捨てて全裸となると、部屋の端にあるベッドで、苦笑する夫を誘うかのように跳び乗る。
 そしてガラテアが下に寝そべり、クレアがその上で四つん這いになると、共に濡れそぼった秘部を彼へ見せつけ、さらにはそれぞれが羽と翼を羽ばたかせ、夫へ向けて淫臭を振り撒く。

「もう……一ヶ月近いお預けなんて気が狂っちゃうよォ……」
「あら可哀相に……私なんて数日だけでも狂いそうだわぁ……」

 快闊な美少女と妙齢の美女、それがいやらしくベッドの上で絡み合う姿に、青年のなけなしの理性は砕け散り、発情度合いは一気に最高となる。

「反省してる証拠にゃぁならねぇが……確かに魔物娘との仲直りにはうってつけか」

 青年は一見冷静であったが、それは見た目だけだった。女どもの恥態を魅せつけられたせいで、頭の中は既にこの雌二匹の穴を如何に味わうかしか考えていない。
 全裸の青年はベッドに跳び乗り、その狂暴な分身を二人に向ける。

「詫びと御礼と言っちゃぁなんだが――――妊娠させてやるからなぁッッ!!」

 そして二人のだらしなく開く秘裂に、青年はそのはちきれんばかりに膨れ上がった己の分身を突き挿す。

「んんああァッッ!! 熱ぃぃ♥ 深いぃぃっ♥」
「あぁん♥ 久しぶりの極太旦那様チンポしゅごいよォォッッ♥」

 飢えた青年は二人の魔物娘のとめどなく濡れる二つの膣目がけ、交互にその男性器を激しく叩きつけ、その度に二人は獣じみた嬌声をあげる。
 それから一体どれだけ彼女等を犯し、味わったのか彼は覚えていないが、相当の間部屋から喘ぎ声が響いていたのは確かで、急に静かになった後もベッドの軋む音は続いていたという。





 ゼットン達が逃げ出してより二週間ほど経ち、療養を終えた彼はアイギアルムの街へ一旦帰った。そして迷惑をかけた街の住人達へ必死に謝り、なんとか和解する事が出来たのである。
 ただ、家が無いので長居は出来ないのが問題であった。そして宿賃がかさむのもあまりよろしくない。
 しかも連日浮気相手達からも状況の説明を求められ、彼はそれを鬱陶しく思っていた。
 そこで宿賃の軽減を兼ね、朝昼には家の建て直しに従事し、夜はご機嫌取りを兼ねて彼女等の家を転々としたのである。
 ところが、これがクレアの耳に入ってまた逆鱗に触れ、それを契機に手合わせが再開される事となってしまった。とはいえ、焦ったが故の悲劇を経たため、夫が以前のように力の固執する事は無くなっていたのをクレアは感じ取っていた。





 一方、所変わって王魔界。一時は隠密裏とはいえ魔界や親魔物派の都市襲撃を繰り返したエンペラ帝国の残党であるが、リリムの誘拐をしてからは全く姿を現さない。
 それ故、初めこそ彼等を恐れた魔物娘達も時が経つにつれ、次第にその存在を忘れていったのだが――魔族の長である魔王は違った。
 彼女はエンペラ帝国の脅威を味わった世代の一人であり、その残党が四百年余りの時を経て姿を現したのは何か意味があると考え、軽視してはいなかったのだ。そして何より、現れた帝国残党の動きが軽率過ぎたため、かえって怪しむと共に、何か不吉な予感を感じていた。
 そこで、魔王軍から探索部隊を選りすぐって世界中へ送り込み、彼等の行方を捜させた。けれども、彼女等の懸命な努力にもかかわらず、一向に残党の行方は分からなかったため、彼女は焦りつつあった。
 そのせいか、どこか不安気な様子の妻を夫も心配し、夜にベッドで慰めてやったりもしたが、彼女の心中に広がる不安は消えなかった。
 そんな日々が続いたところで、ある時魔王は『ある一人の男の手により、世界が業火に包まれ、大勢の者が死ぬ』という悪夢を見た。「いらぬ心配の生んだもの。気にする事は無い」と夫は勇気づけるが、皮肉にも彼女はその夢のおかげで真相に辿り着いてしまった。

「私は夢から醒めた。でも、彼等の野望(ユメ)はまだ終わってはいないということね」

 かつて魔族の前に立ちはだかった最強の敵にして、神をも恐れさせた最悪の覇者。それが魔王の夢に現れた男の正体であり、同時に彼女は帝国残党の恐るべき目的もまた悟った。
 故にそれを果たさせてはならぬ、と彼女はより一層の決意で、彼等の行方を追い続けたのだ。
 しかし、運命とは残酷であった。結局何の成果も出ず、それどころか魔王である己の魔術すら帝国残党には躱される有様。
 時間は容赦無く過ぎてゆき――――そして、ついに世界は“太陽の消える日”を迎えたのである。










 ――浮遊島・王城前広場――

 ゼットン青年の帰還より一ヶ月ほど経つ。この日は皆既日蝕の起きる日であり、世界中の人間が空を見上げている。
 しかし、今日という日を一番望んでいるのは、エンペラ帝国の残党と断言出来よう。

『グオオ……これは中央だな』
『その通りですが……デスレムよ、割らないようにゆっくり置いて下さいね』

 時刻は現在午後一時ほど――皆既日食、そして“儀式”の開始より二時間前ほどになる。
 メフィラスは多数の兵士達を指揮して王城前広場の石畳の上に長さ50mはあろうかという巨大な金属板を敷き、その上に巨大な魔法陣を描いていた。

『承知している。手荒くは扱わぬわ』

 その中央へ、デスレムは担ぎ上げた『水槽らしき円筒形の物体』をゆっくりと置く。

『宰相閣下、陣の仕上げは全て完了いたしました』
『おお、そうですか。どれ……』

 次いで兵士より報告を受け、メフィラスは魔法陣の各所を回り、紋様が完璧かどうか調べ始める。
 悪臭を放つ赤黒い塗料で描かれた直径40m近い陣は五芒星を円で囲んだ型で、各所に古代文字による呪言や数字などが多数刻まれたものだ。
 
『ふむ、問題ありませんね。よろしい、後は供物だけですが……あれは君達では扱いきれぬでしょうから、我々に任せておきなさい』
『ありがとうございます』

 絶対に失敗出来ぬもの故に兵士は恐る恐る尋ねたが、メフィラスからは機嫌良さそうな答えが返ってきたので、彼は安堵することが出来た。

『君達の作業はこれで終わりです。後は我々が引き受けますから、君達は所定の場所で待機していなさい』
『はっ!』

 メフィラスの指示を受けた兵士は仲間達に声をかけつつ、そのまま城の中へ駆けて行った。
 彼を始めとする兵士達がいる事から分かる通り、エンペラ帝国残党の治めるこの島の住人は七戮将の生き残り五人だけではない。この城には雑用や掃除などを担当する使用人がおり、それなりの人数が住んでいる。
 島自体も城以外には都市や農地や森林など、一国として通じるだけのものはあり、人口も百万人を超える。
 住民にはかつての帝国民の末裔もいるが、メフィラス達がこの島で労働に従事させるべく、世界中から攫ってきた浮浪者や孤児なども多い。
 彼等は戸籍が無いために誘拐されても放置される事が多くて攫いやすい上、それなりの賃金を得られる仕事を与えれば喜んで働くため、使い勝手が良いのだ。そうして攫われた者達は街に迎え入れられた後、己の適性に応じて農業や牧畜、繊維業、あるいは金属加工業などに従事している。
 中には兵士や密偵になる者もおり、その類の者達はメフィラス達によって厳しく鍛えられる。
 その内の厳しい選抜を潜り抜けた者は、やがてどこに出しても高給で迎えられるであろう程の戦士となり、栄えあるエンペラ帝国軍の兵士として働くこととなる。

『陣は済んだが、“こいつ”がいなければ始まらん。ま、しっかりやってもらおう』

 いつの間にかグローザムも魔法陣の中央におり、目の前にあるデスレムの置いた物体を眺めていた。

『あの小僧が逃げたと聞いた時には心底慌てたが……クク、慮外な事に左腕をわざわざ残してくれるとはな』
『グフフ……おかげで余計な手間はかかったが、儀式は滞り無く行えるだろう。まさに不幸中の幸いだった』

 愉快気に笑いを漏らす二人が魔法陣の中央で眺めるのは、デスレムによって運び込まれた円筒形のガラス水槽である。
 基部には何らかの機械が取り付けられたそれの直径は2m、高さは4m程もあるという大きなもので、中は濁った黄緑色の液体で満たされている。
 そして基部より送り込まれる酸素によるものか、“中身”が時折不気味に蠢動する。しかし、まことに奇怪としか言いようがないが――なんとその液体に浸かっているものは、逃げ出したはずのゼットン青年にそっくりであったのだ。

『頼むぞ』
『グオオオオ……お前の働き次第で我等の運命が決まるのだからな』

 だが、それを奇怪に思う者はこの場に誰もいないようだ。二人が水槽の中の青年に語りかける態度からして、それが分かる。

『ふむ、さすがにそっくりですね、“Z-2(ズィーツー)”は』

 魔法陣の最終確認を終えたメフィラスもいつの間にか水槽を眺めており、感心した様子で呟いた。

『当たり前だ。“体細胞クローン”というらしいが……ようは奴の左腕の細胞を用いて作った、遺伝子的に同一の個体だそうだからな』

 グローザムも製法を厳密に理解しているわけではないが、大雑把な概要は知っている。しかし、自分達が生命への冒涜とも言える行為に手を出した事はあまり自覚していない。

『いやぁ、ヤプールの技術力は毎度毎度素晴らしい。全く同一の人間を作り上げるのは、私でも出来ない事ですからねぇ』

 本来ならば数百年後に生まれるであろう技術。それを実感し、メフィラスは感嘆する。
 彼も魔術を用いて、自他問わず寸分違わぬ分身を作り上げる事は出来るが、それはあくまで魔力の塊で出来た偽物であり、生物ではない。
 分身やゴーレム作製など、生命の模倣ならば簡単に出来るが、魔術的要素の絡まない純粋な生物を作る事は“魔術師元帥(グランドマスター)”と呼ばれた彼でも出来ないのだ。

『遺伝子は一致しても、完全に同一の存在とは言い難いだろう。こっちの方はインキュバスでないからな』

 グローザムが否定する通り、この水槽に浸かっているのはゼットン青年――ではなく、当の本人は何も知らずにアイギアルムの街で暮らしている。ならば、この培養液中にいる男は何者か?
 ――その正体は、ヤプールがゼットン青年の左腕の細胞より培養し、作り上げた彼の体細胞クローンである。彼は帝国残党に便宜上、“Z-2(ズィーツー)”と呼ばれていた。
 しかし、遺伝子的には同じでも、実は完全に同一の存在とは言えない。オリジナルであるゼットン青年が魔物の魔力に冒されたインキュバスであるのに対し、Z-2はヤプールによって科学的及び魔術的処置を施され、普通の人間に戻っているからだ。
 何より、Z-2は生きてこそいるが、意識が目覚める事は無いよう調整されている。
 
『グオオ……“器”に魔物の要素など、塵一つ混ぜられぬ』

 いずれにせよ、これは本人も同じ末路を辿る予定であった。帝国残党は儀式の際、仮にゼットン青年本人を用いるとしても、インキュバスより人間に戻す処置を施すつもりだったのだ。

『宰相様』
『おぉっと、遊んでいる場合ではありませんね』

 兵士の一人に促され、慌てて身を翻すメフィラス。日蝕は刻一刻と近づいているため、準備は整っても遊んでいない方が良いのは彼等も自覚するところである。

『アークボガール将軍、ヤプール将軍共に準備は完了しておられます!』
『おぉ、そうですか。時間は既に後一時間ほどですからねぇ、さすがに準備は終わっておらぬと困りますが』
『早速、お呼びいたしますか?』
『えぇ。それと、例の物を持ってくるように伝えるのも忘れずにね』
『はっ!』

 メフィラスは兵士に二人を呼んでくるよう指示し、自分達は魔方陣の五芒星各頂点に立ったのである。





 そうして魔法陣完成より一時間後ほど経った頃。金属で出来た杖らしきものを携えるメフィラスと、分解した“アーマードダークネス”の各部位を両脇に抱えた四人は、それぞれが五芒星の頂点に陣取って日蝕の刻を待っていた。
 そして、帝国残党に仕える次世代の若手達もまた、城より何百mか離れた場所より遠巻きに眺め、儀式の始まりを今か今かと待ち望んでいる。

『さて各々方、準備はよろしいか?』
『『『『応!』』』』
『愚問でしたねぇ』

 威勢良く返事を返されて苦笑するメフィラス。そして、彼はふと感慨深げに目を閉じる。

『それにしても、ここまで…長かったですねぇ……』
『『『『………………』』』』

 主と共に歩み、創り上げたエンペラ帝国の歴史。血塗られながらも輝かしい日々だったが、前魔王による致死の呪いにより、主が身罷った日よりそれは崩壊を始めてしまった。

『我等が今まで魔王軍の脅威を防ぎ続けたにもかかわらず……いや、それ以上は言うまい』

 グローザムはかつて受けた仕打ちを思い返す。
 彼等の努力も実を結ばず、皇帝の死後、領土は急速に狭まっていき、ついには帝国などとは呼べない規模になってしまった。それでもまだ二十五万の兵力を擁してはいたのだが、当時勃興したばかりの魔物娘との戦争に敗れ、それすら丸ごと失ったのだ。
 メフィラス達は敵に囚われる前にどうにか逃げ出したものの、兵力も領土も失った彼等は長い雌伏の時を強いられる事になる。
 しばらく放浪を続けた彼等は追手をかわすため、魔物娘にも教団にも見つからないような土地を発見し、そこを根城とした。

『グオオ…皮肉にも、忘れられたが故に生き延びられた』

 デスレムの語る通り、時が経つにつれて人々の記憶からは帝国の存在が消えつつあったが、皮肉にもそれは帝国の残党である彼等には好都合だった。
 だがそれでも、“その時”が来るまでは自分等の存在を隠し通さねばならない。例え彼等の事を覚えている者がもう一人もいなくなっていたとしても、である。
 しかし、危険はすぐそこに迫っていた。
 
『だが、それも時間の問題。今代の魔王になってより、我等が大分駆逐したはずの魔物どもの支配圏が、これまでで最大と言えるところまで拡がりつつある』

 ヤプールが悔し気に歯噛みするのも無理はない。なにせ、彼等が根付いた頃にはいなかったはずの魔物娘という存在が、その生息域を急速に広げつつあったのだ。それは自分達が発見されるのも時間の問題だという事であり、彼等は早急な移動を迫られた。
 だが、今更新しい土地を見つけるのも困難であり、かと言ってこの場所に留まるのは危険が大きい。
 けれども、少ない人手を使って造った城塞を始め、莫大な費用と時間を投じて造った研究施設と設備、敗北時に持ち出していた貴重な品々をむざむざ捨てていくのも忍びない。
 どうすべきか頭を抱えたが、やがて彼等は妙案を思いつく。『全部持っていけば良い』――彼等は造り上げた城塞を土地から丸ごと切り取ると、それに浮遊魔術をかけて運び出したのだ。

『実にくだらねぇ時代だ。反吐が出るほどにな…!』

 アークボガールは怒りを籠めて呟く――改めて本拠地として選ばれたのは南極海域上空、高度約10000mの『対流圏下層』であった。
 そもそもこの海域は水温・気温共に低い人跡未踏の海域で、周囲に島も無いので定住している人間がいない。つまり男がいないので魔物娘もここには近づかず、ましてやそのさらに10000m上を訪れる者などいようはずもない。身を隠すという意味では、この上なく適した場所であったのだ。
 そうして、彼等は新しい場所での生活を始めた。浮かぶ城塞は初めこそ抉り取られた岩礁とでもいった風の姿だったが、各地から土や岩を盗み出したりして増強していき、四百年余りで島長200kmを超える大きさにまでなった。
 さらには各種施設や設備も度重なる改良・増築がなされ、今では世界最高どころか未来を先取りしたレベルの軍事技術力を備えるに至る。

『しかし、それも今日で終わります。我等の屈辱も、苦難も――そして魔物どもが跋扈する、この時代も!』
『『『『………………』』』』

 これまでの日々と訣別するかの如く、複雑な気持ちを含むメフィラスの言葉に四人は賛同し、首肯する。

『失礼、興奮し過ぎましたね……そろそろですよ』

 我に返り、いつも通りの冷静さを取り戻すメフィラス。そして五人は上空を見上げ、太陽を眺める。

『! 陰ったぞ!』
『おぉ…!』

 時間は午後二時十四分。ついに彼等が数百年間待ち望んだ瞬間が訪れた。太陽は月によって遮られ、徐々に黒い影へ覆われていったのを見た五人は一様に歓喜する。

『ギッシシッシシー!! きたきたきたきたきたきたァァァァ!!』
『おぉ! 俺達が四百五十年余り待ち続けた、この時が!!』
『グオァァァァ……! またその御姿を拝む事が…』
『今こそ、我等の悲願を果さん!!』

 辺りが暗闇に覆われるのを見て、アークボガールは抱えた鎧の胴を、ヤプールは草摺を、デスレムは臑当てを、グローザムは篭手を天に掲げる。

『刻は来たれり!! さぁ、今こそ復活の儀を!!』

 そして、メフィラスもまた手に抱えた“レイブラッドの杖”を天へと向ける。

『いきますよ諸君!!――――【エンペラ霊術】!!』
『『『『『【皇帝再臨】!!!!』』』』』

 四人は己の掲げる鎧の各部位に自分の魔力を注ぎ込む。そして、その影響を受けた暗黒の鎧は赤熱し、その邪悪な力を励起させる。

『シェェエェェェェ!!!!』
『ハァァァァァァァァ!!!!』
『ギャアァァガガガガ!!!!』
『グオァァァァァゥゥゥゥ!!!!』

 各部位が魔力を放つのを確認したメフィラス以外の四人は奇声をあげ、今まで天に掲げていた鎧のパーツを五芒星に内接する正五角形の頂点へ各自叩きつける。
 すると、赤熱した各部位より魔力が魔法陣全体に浸透し、魔力を巡らせた魔法陣は明滅を始めた。

『さぁ、天の牢獄よ!! 現れいでよ!!』

 メフィラスは正五角形の残る最後の頂点を、魔力を充填させた【レイブラッドの杖】で叩く。
 すると、彼等の邪悪な祈りと魔力に応えたのか、励起していた魔法陣は明滅を終息させ、そのまま極太の赤黒い光線を天に向かって放った。

『!』

 最早計測出来ぬほどの膨大な魔力を秘めたそれはそのまま島全体を覆う結界を貫通し、一筋の光も無い闇を照らしながら空を昇り続けると、やがて轟音と閃光を放ちながら炸裂する。

『おぉ、あれが…!』

 それから島の遥か上空で露わになったのは、割れた陶器やガラスの破片の如く開いた次元の孔。さらにそこから覗くのは眩いばかりの聖なる光に満ちた空間で、漏れ出す光は太陽が遮られた地上をあまねく照らしている。
 本来ならば見る事すら叶わぬ、神々の創りし【窮極の幽閉空間】――地上と天界の狭間にありしそれは、神々が“ある男”の魂を未来永劫封じておくために創った牢獄だという。

『フッフッフッフッ……ハッハッハッハッハッハッハッハァァ――――――――ッッ!!!!
 ついに、ついに孔が開きましたよ!!』

 しかし、その眩いばかりの空間は急速に光を失い、やがて消え去ってしまうと、そこに残ったのは割れたガラスの如き孔のみ。
 それを見たメフィラスの喜びは尋常でなく、漆黒のローブを震わせながら高笑いをあげた。

『さぁ、我等が主!! 偉大なる皇帝エンペラ一世よ!!
 臣下たる我等の祈りに応え、その御魂をお現しください!!』

 祈りを捧げるかの如く跪く五人。最早説明するまでもないが、彼等が解放しようと数百年努力し、そして今その封印が解かれようとしているのは――彼等の主、エンペラ一世の霊魂である。
 前魔王の呪いにより皇帝は命を落としたが、肉体を失い、魂だけとなっても尚、彼は強大な力を持っていた。
 そして、神々が何より恐れたのは、彼がその自我と力を保ったまま転生する事であり、何も手を打たないのならば、恐らくそれは既に実現していたであろう。
 エンペラ帝国の治世は五十年以上に及び、その間に主神信仰は大打撃を受けた。帝国崩壊の過程で、神々の支持基盤にして信仰の拠点である教団圏国家群はその支配より解放されたものの、もし皇帝が再びこの地上に現れた際、その悲劇が繰り返される恐れがあった。
 そこで神々はその連鎖を断つべく、復活の刻を待ち続けていた皇帝の魂を捕え、そのまま天と地の狭間に封じたのだ。
 こうして皇帝の復活は防がれ、屋台骨を失った帝国及びその影響力もやがて消滅したかと思われた。
 しかし幸か不幸か、皇帝の死後数十年で前魔王も亡くなり、現魔王が後を継いだ際に誕生した魔物娘が入れ替わるように勢力を拡大してしまう。今度はそちらを相手せねばならず、その内神々は前の敵のことなど忘れていった。
 このように先手を打てたが、それがかえって神々に油断を招いたのだろう。
 その施した封印が幽閉された囚人の力に耐えかね、次第に弱まりつつあるなどとは思いもよらなかったのだ。
 さらには、その封印が神々の力が大いに弱まる日蝕の日ならば、然るべき手段を用いれば人間にすら破られるものである事もまた自覚していなかったのである。

『ギィ! 現れた!』
『グオオ、あれが…!』
『相違ない!』
『陛下の御魂!』

 孔の中で封じられているものが目にし、どよめく五人。眩き光が消えた空間の中で、数十本もの白い鎖で雁字搦めにされる、ゆらめく“漆黒の火の玉”が見えたのだ。

『道を!』
『『『『応!』』』』

 現れたものの姿を見るや否や、五人は再び正五角形の頂点を杖と鎧の部位で叩く。すると、水槽を囲むように今度は正五角形の光が上に放たれ、そのまま孔を照らすと、鎖が砕け散り、ついに皇帝の霊魂が解放されたのだ。
 そして、霊魂は正五角形の光で出来た道を辿り、島へフワフワと降りていく。

『『『『『………………』』』』』

 彼等が出来るのはここまで。五人はちょうど魔法陣より城を挟んで正面にする位置まで下がると各々跪き、火の玉が下の水槽へ導かれるのを見守っている。

『…!』

 やがて舞い降りた火の玉がZ-2の浸かる水槽まで辿り着くと、そのまま姿を消す。

『消えた!?』
『いや…』

 驚いたグローザムが立ち上がるが、デスレムが腕を引っ張って再び跪かせる。

『無礼ですよグローザム。あそこにおわすのは、最早辺鄙な寒村の青年の複製ではない。
 …あの御方は“陛下”なのです』

 同僚を諭しながらも、歓喜の混じった声でメフィラスが呟く。それとほぼ同時にZ-2の水槽の培養液が沸騰し始め、さらに彼は開けるはずのない眼を見開いた。
 それも彼の身体的特徴ではありえないはずの真紅の瞳、奇しくも暗黒の鎧に乗っ取られた時のゼットン青年と同じものであったのだ。

『そう、陛下の魂は無事肉体を得られた。そして、その一部始終を見届けるのもまた、臣下の務めですよ』

 Z-2の水槽は沸騰し続けるが、その中で起きている変化はその比ではない。青年の肉体は憑依した魂に合わせて変化を起こし、その細胞及び遺伝子は急速に書き換えられていった。

『オ……』

 月が動いて太陽が顔を出し、今回の日蝕が終わった。それとほぼ同時に肉体の変化が完了したのか、沸騰する液体の中で青年“だったもの”が呻き声をあげる。
 そして強化ガラス製の水槽に亀裂が入り、熱水を噴き出させながら粉々に砕け散った。

『『『『『!!!!』』』』』

 ガラスが四方八方に飛び、培養液が全て流れ出ると、蹲っていた中の男が立ち上がる。
 そこにいたのは目覚めないように調整されていた青年の複製などではなく、彼等が仕え、崇め、そして憧れた者――エンペラ一世その人であったのだ。

『………………』

 意識がまだ浮つきつつも、辺りを睥睨する男。
 その見た目は軽くウェーブのかかった黒髪と、精悍な表情ながらも髭の無い細面、一見憂いを帯びた黒い瞳、筋肉質ながらも若干細身の肢体という姿である。
 どう見ても儀式前の青年とは明らかに異なり、年齢も明らかに中年以上だと思われる。
 しかし男は洗練された気品と神々しさ、それに相反する侵し難い威厳、そして桁外れの禍々しい魔力を全身より放ち、見る者にそのような疑問の一切を挟む余地を与えない。
 それは魔物を超える怪物である七戮将達ですら例外でなく、感動を超える畏怖により彼等は動くことが出来なかった。

『……』

 男はメフィラス達を視界に収めると、そのまま歩み寄ってきた。全身がずぶ濡れで全裸という姿であるが、誰もそれを咎める者などいない。
 そして、メフィラス達は平伏したままそこから動けず、さらには本能的恐怖から全身を小刻みに震わせている。それは化け物じみた巨体であるデスレムとアークボガールですらそうだった。

『…おい』
『! は、はい!』

 メフィラスが集団のリーダーだと見たのか、男はこの魔術師に話しかける。それに対し、ついメフィラスは上ずった返事をしてしまうが、男は別に気にも留めなかった。

『いくつか尋ねたい。ここはどこか? そして、お前達は何者だ? 今は一体いつなのだ?』
『はっ! ここは南極圏暗黒海域上空10000m、エンペラ帝国領の【浮遊島ネオヴァルハラ】にございます!』
『時代は?』
『陛下がお亡くなりになられてより507年後にございます!』
『………………』

 場所と時代を聞いた男は頭を巡らせるが、やがて得心が行ったらしく軽く頷いた。

『…なるほど、この島は余の領土なのだな?』
『ははっ! その通りでございます!』

 唐突過ぎる質問だったが、男は数百年ぶりに地上へ放り出されたので仕方ない。そして、帝国残党の方にもそれに答える義務があった。

『そういえば、其の方等は?』
『申し遅れましたが、お久しゅうございます陛下! メフィラス・マイラクリオンにございます!』
『グローザム・ヴァルキオ!』
『デスレム・ガミリア!』
『ヤプール・ユーキラーズ!』
『アークボガール・ディオーニドでございます!』
『『『『『我等臣下一同、陛下の復活を心待ちにしておりました!!』』』』』

 ようやく主と話す事が出来、五人は感極まって嗚咽を漏らしつつ大泣きする。

『……おぉ、久しいのぅ! 姿が変わっていたので気づかなんだが、貴様等もまだ生きていたか! ならば、余の帝国は健在か!?』

 今までの記憶を色々と思い出してきたらしく、喜色を見せるエンペラ一世。しかし、その後に続く言葉を聞いた彼等の顔は凍りつく。

『いえ、それが……その……』

 つい言葉を詰まらせるグローザム。それを皇帝は鋭い目つきで睨む。

『…ほう? その返事からして、滅びたか?』

 不穏なものを感じ取り、喜色から一転、皇帝の言葉に怒気が宿る。それと共に、全身から爆風にも似た邪悪な波動が噴き出し、七戮将達は吹き飛ばされそうになった。

『い、いえ…』
(ば、馬鹿! 復活させて早々に陛下を怒らせるな!)

 無言ながらも必死で地に留まるデスレムが隣から左肘で何度も小突くが、それすら頭に入らないほどグローザムは狼狽していた。

『申し訳ございません。残念ながら、我等では支えきれませんでした』

 グローザムを見かね、メフィラスは地に頭を擦りつけて皇帝に許しを乞うた。

『グオオ……どうかお許し下さい』

 デスレム、ヤプール、アークボガールも同様に頭を地に擦りつけて詫びる。元々彼等は五人で活動している以上、連帯責任で罰せられるのは免れない故、覚悟は決まっていた。

『……まぁ、仕方のないことか。帝国滅亡の発端は余の死、さらには余の不明にある。
 そんな状況の中から貴様等がどうにか逃げおおせ、隠れ潜む中で貴様等が余を復活させるのに費やした苦労と時間は、恐らく口では語れぬほどであろう』
『『『『『………………』』』』』
『余の復活までのお前達の尽力に免じ、それは不問とする』

 家臣が一斉に頭を地に擦り付けたため、バツが悪そうな顔をするエンペラ一世。ある程度の領土は保有しているが、それは帝国と呼べる規模ではない。
 それを皇帝は察したが、そもそも帝国の崩壊の発端は自分の死にあるのもまた理解した故に、彼等の罪は問えなかった。

『その体勢で話すのも辛かろう。面を上げよ』
『『『『『はっ!』』』』』
『それと、余もいつまでも裸で話すのは、ちと辛い。早う服を用意させよ』
『はっ!』

 寒がる皇帝を見たメフィラスは頭を下げると、遠巻きに眺めていたメイド達を呼び寄せ、エンペラ一世のために特別に誂えた帝衣を持ってこさせた。そしてメイド達は初めて見る主君に恭しく挨拶をすると、彼の身体の水分をタオルで拭き取り、衣装を着させたのだった。

『ふむ、なかなかだ』

 メフィラス達が服の寸法を記録に残していたのか、数百年ぶりの衣装にもかかわらず、実にピッタリ合っている。

『実にお似合いでございます』
『おぉ、そうか?』

 メイドの一人に褒められた皇帝は悪い気がしなかったのか、満足気な笑みを浮かべる。
 ちなみに帝衣といっても戦乱の世の皇帝らしく、比較的簡素な作りで無駄な装飾も極力省かれた活動的なものであり、あえて言うなら『ズボンを履いたカエサル風』であろうか。また、服は上下黒い生地を紫と金で所々縁取られており、なかなか個性的と言えた。

『ところで陛下。現在の世界と、帝国についての説明をさせていただきたいのですが……』
『ふむ、聞こうか。しかし、城の中でなくてよい。天気が良いからな、少しこの地を見てみたい』

 日蝕が終わり、遥か雲の上故に浮遊島の天気は見事な晴天だった。そこでメフィラス達は皇帝の希望通り、領内を歩きながら話す事にし、簡潔にだが帝国の崩壊、教団の復活と腐敗、魔物娘の台頭について説明を行なったのである。

『ご理解いただけましたでしょうか?』
『………………』

 やがて説明を終えたメフィラスは皇帝に尋ねるが、彼は答えなかった。それどころか、その態度にはあからさまな怒気を孕んでおり、今にも怒り狂いそうに見える。

『陛下…?』
『メフィラスよ、今の魔王は“人間と魔族を一つに統合する事”を目的としていると申したな?』
『左様で…』
『くっくっくっく…』
『え?』
『まことに度し難いものよ。
 人肉を喰らい、汚物の如き穢らわしい魔力を地上に撒き散らす下劣で腐りきった下等生物、出来損ないの最たるものが、万物の霊長たる人類と交わり、挙句種族として一つになるだと?……笑わせおる』

 笑いを漏らすが、皇帝の中では怒りが燃え盛っているのは明白であった。
 なにせ彼は魔物を嫌い、蔑み、憎み、そして恨んでおり、そして魔物には生きる価値も、資格も、意味さえも無いと思っていたのだ。
 これはかつての魔物が彼の世界征服を幾度も邪魔したというのもあるが、それ以上にかつての魔物の残虐非道さ、人肉を喰らう人類の天敵という生態を熟知していたからである。
 そしてそれは、魔物が雌だけになり、その雄である人間の男に対して今更媚を売ってきたところで変わる事は無い。

『甦るよう手を打っておいたのは正しかったな。連中にこれ以上地上を好き勝手されては、人の生きる領域など残るまい。
 それだけは絶対に防がねばならぬ』

 魔物をこれ以上地上に蔓延らせては人類の衰退、いや絶滅を招くだろう。皇帝はそう確信すると共に、己の使命をより自覚した。

『やはり奴等は余が滅ぼしてやるしかあるまい! 無能で怠慢な神々に代わり、このエンペラ一世が奴等の息の根を止め、その骸を我が帝国の繁栄の礎としてくれようぞ!』

 燃える怒りから一転、皇帝は愉快そうに笑いを浮かべると身を翻し、城へ向かう。

『メフィラス、諸将を集めよ!
 最大最強の国家建設を再び誓い、帝国の新たな門出を祝おうではないか!』
『おぉ、陛下! 我等臣下一同、地獄の底までお供いたします!』

 闘志を燃やす皇帝を見たメフィラス達は歓喜し、改めて彼に忠誠を誓う。

『おう、この世の栄華を味わいたくば、者どもよついてこい!
 この世の全ては余のものぞ! 地上天界魔界、地果て海尽きるまで蹂躙し征服し、その全てを我が手中に収めよう!』

 こうして甦った皇帝は再びその強大な野望を露わにし、この世の全てを手に入れる誓いを立てた。

『今、ここに再び! エンペラ帝国の建国を宣言する!!』
『『『『『オォ――――――――――ッッ!!』』』』』

 そして、その臣下達もまた誓いの咆哮を上げたのである。
16/11/13 02:39更新 / フルメタル・ミサイル
戻る 次へ

■作者メッセージ
備考:デスレム・ガミリア

年齢:不明(推定550歳以上)
身長:315cm
体重:510kg
肩書:エンペラ帝国七戮将
   エンペラ帝国軍・爆炎軍団長
異名:無双要塞
   激怒せし活火山
   焔獄の暴獣
   爆炎の喧嘩王
技:閻婆爆炎砲(えんばばくえんほう)
  雨炎火石(うえんかせき)
  大焦熱界(だいしょうねつかい)
  火山拳 大・爆・掌(だい・ばく・しょう)
  火山拳 千脚万雷(せんきゃくばんらい)
  火山拳 紅刀無頸(こうとうむけい)
  など

 かつては世界最強の戦闘集団と呼ばれた帝国七戮将の一人で、インペライザー合金製の鎧に身を包んだ巨躯の戦士。当代随一の炎魔法の使い手であり、さらにはその見た目に違わぬ圧倒的膂力と頑強さの持ち主でもある。
 口数は少ないので一見物静かに見えるが、実際は自身の操る炎の如く激しい気性の持ち主で、一度火が点けば止まらない。仮に彼を怒らせた相手が敵ならば、原型を留めぬまで徹底的に攻撃を加え続けるという程である。とはいえ、破綻者だらけの七戮将の中では分別がある方で、部下や民衆には寡黙で冷静な振る舞いをしたため、まだ無害な部類に入る。
 戦闘では主に超重量級の打撃武器による殴打を好む。武器自体が数十kgもの重さを持つのに加え、その圧倒的な膂力も加わった上段からの振り下ろしは、殴られた相手の上半身が丸ごと破裂四散するほどの威力を誇る。
 しかしそれ以上に脅威なのは、口から吐く2500℃を超える火炎放射“閻婆爆炎砲”と、空間を捻じ曲げあらゆる場所より出現させる火球“雨炎火石”である。特に火球は相手を視認してさえいれば発動可能で、さらにはその性質上相手の死角より攻撃出来、その上無数に出現させられるため、敵には非常に恐れられていた。
 若かりし頃から人並み外れた巨躯と人間離れした膂力を持ち、炎魔法を得意とした。しかし不可解な事に、成長期をとっくに過ぎたはずの彼の肉体は五百年を経て衰えるどころか、さらに巨大化し続けている。その理由は、彼がメフィラスによって施された、禁呪の中の禁呪と蔑まれた魔術“異形進化魔法エボリュウ”の効果による。
 “エボリュウ”の効果によりパワー、頑強さ、生命力、再生能力はさらに怪物じみたものとなり、何より“生命の危機に応じて無限に進化する”という驚異的な能力を得た。ただし、その副作用で彼の外見は人間からかけ離れたものとなってしまった。彼はそれを恥じた故、鎧で全身を隙間無く覆い、けして人前で脱ぐ事は無い。
 実に四百年余りの長きに渡り、雌伏の時を過ごし続けたデスレムだが、激動する歴史の流れにより、再びこの地上に解き放たれようとしている。寡黙な彼だが、そうであるのは味方の前だけ――その圧倒的な力と、何者をも焼き尽くす爆炎は、敵の前では何の遠慮も無く振るわれるのだ。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33