連載小説
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励む宇宙恐竜 第三勢力の台頭
 ――アイギアルム郊外・卑猥の森――

 ただ今の時間は午前十時ほど。しかし、朝日の差す美しい森には不似合いな剣戟が、とある男女の間で繰り広げられている。

「うおおおお!」

 男の見た目は短く切り揃えられた黒髪に黒目、そして大柄で筋肉質。服装は所々に金の刺繍が入った黒い拳法着、同じく黒のカンフーシューズというもの。
 ただ、比較的簡素な服装に反し、得物だけはその体格を反映してか、幅広の朴刀という重武装である。

「フン…」

 一方、女は人間離れした端正な容貌で、ほんのり桃色がかった白い肌に、肩まで届く銀髪のストレートヘアと真紅の瞳がそれに拍車をかけている。
 だが、女はその美貌には似つかわしくない目玉を所々にあしらった不気味な鎧を着こみ、それと比べれば小ぶりなロングソードで青年の打ち込みをいなしていた。

「甘い!」

 女はかなりの剣の腕前で、青年が次々に打ち込む剣撃を次々に捌いていく。やがて彼が上段より振り下ろした朴刀を、僅かに遅れて振り下ろしたロングソードで峰を叩いて打ち落とし、返す刀で青年の首を狙った。

「せりゃっ!」
「おっ!?」

 しかし、青年はよろけながらも反射神経と動体視力でこれを潜り、身体を捻りつつ剣撃を返す。
 躱されたことに女は一瞬驚くが、右逆手に持った剣で難無く防ぐ。それと同時に右腰から左手で抜いた短刀を青年の眼前に突きつけ、その行動を制す。

「うっ!」

 反撃はしたものの、そのまま体勢を崩して倒れていた青年に突きつけられた刃を防ぐ術は無い。

「……」
「ま、参った…!」

 彼は負けを認めざるをえず、両手を上げた。

「か〜っ、畜生! まだ勝てねぇか!」
「……」

 悔しがる青年。一方、無表情の女は黙って長剣と短刀をそれぞれ鞘に収めると、地面へ座り込む男を見下ろす。

「…そうでもない。ゼットンよ、案外お前が私に勝つのは……そう遠くないかもな」

 ゼットン青年が戦っていたのは、デュラハンのヘンリエッテである。彼女は暇な時、彼に剣の稽古をつけてくれるのだが、そこは戦闘に長けたデュラハン故か、ゼットンは一度も彼女に勝てた事は無い。
 せめて首が外れれば勝てるのだが、そうなった時も結局彼が下に組み敷かれてしまうだろう。

「へっ。慰めでも、そう言われりゃあ嬉しいよ」

 目を細めるデュラハンだが、それを皮肉と受け取ったのか、青年は残念そうにため息をつく。

「そう邪推するな。私は本当にそう思ったのだよ」

 そう思われるのは心外だったらしい。デュラハンは困ったとばかりに目を細める。

「ただ…」
「ただ…何だ?」

 言い澱むデュラハンに青年はわけを尋ねる。

「昔よりマシになったとはいえ、今日のお前の太刀筋には何か乱れがあるな。何かあったのか?」

 稽古時の仏頂面が嘘のように、心配そうな顔で尋ねるヘンリエッテ。腕があると、そういった事も分かってしまうらしい。

「あるなら話してみろ。力になれるかもしれんぞ?」

 魔物娘は、夫が困っている時には絶対に手を差し伸べる。そして、それはこのデュラハンも例外ではない。

「いや、まぁ…あるにはあるが」
「もしや、クレアとアイギアルムの件を引きずっているのか?」
「……そうだ」

 そう語ると頭を掻き、浮かない表情となるゼットン。確かに妻を危うく殺しかけ、街も彼の行動が遠因で凍りついたとなれば、気にする気持ちも分かる気はする。
 一応住人達と和解したとはいうが、内容が内容だけに彼の中では未だに引きずっているのだろう。

「なるほど。責任を感じているというわけだな」

 ヘンリエッテは何故か感心した様子で何度も頷き、それを訝しんだゼットン青年は渋い顔で見やる。

「…褒めるところじゃねぇだろ」
「綺麗さっぱり忘れているよりはいい」

 このデュラハンとしては、あれだけの事をしでかしておいて夫がそれを忘れていたら、怒って張り倒していたところだ。
 しかし、彼なりに責任は感じているならば、制裁を加える必要がひとまずは無くなる。

「一生引きずれとは言わんが、己がやった事は心の片隅には常に留めておけ。これを戒めとし、今後軽率な振る舞いを慎めば、再び悲劇は起きぬだろう」
「…ご忠告、痛み入る」

 ゼットンはヘンリエッテの言葉に感謝し、座ったままながらも頭を下げる。どうやら、彼女の言葉を聞いたおかげで少しは気が晴れたようである。

「少しは気が晴れたか?」
「あぁ、ありがとうよ。確かに楽になった気はする」

 心の晴れた夫が笑顔を見せた事で、ヘンリエッテもようやく安堵する事が出来た。

「ならば、刃の迷いも消えただろう」
「そうだな」

 座っていた青年は立ち上がると、ズボンの誇りを払う。そして姿勢を正したゼットンの顔からは笑みが消え、神妙なものとなる。

「とはいえ、どこまで食い下がれるか…だな」

 ここ七年で青年の剣の技量はかなり上がったが、それが通じるのはあくまで人間相手であると自覚してはいる。
 魔物娘が人間と比べれば力も技術もずっと上回るのは今更説明の必要も無い。ましてやデュラハンから見れば、この青年の剣の腕など子どもが木切れを振り回してくるのとそう変わらぬのかもしれない。
 腕の上達を一応は褒められたが、結局のところヘンリエッテの発言がどこまで本当なのか自分には分からなかった。

「なぁに、今は無理でも地道に鍛錬を重ねれば、いずれ私やクレアに追いつけるはず。
 やはり強くなるのに近道は無い。私は今回の件で改めて自覚したのだよ」
「まぁな……」
「そう嘆くな。止めなかった私にも非はある」

 ヘンリエッテも夫を諌めるどころか、捜索隊としてむしろ鎧の探索に協力してすらいる。もっとも、当時彼女は暗黒の鎧が強力な力を秘めた代物だという認識しかなかったので無理もないが。

「おっと、話がそれちまったな」

 気を取り直したゼットン青年は鞘に収めていた朴刀を抜くと、中段でかまえた。

「ん?」

 しかし、ヘンリエッテは何故かそれを眺めるばかりで何もしようとしない。

「疲れた。今日はもうやりたくない」
「ハァ!? これからって時にそれはねーだろ!?」

 悩みを告白して気が晴れた故に、より一層の熱意をもって稽古に励めると思った矢先にこの仕打ち。
 当然ゼットン青年は不服であり、激しく抗議する。

「結構な時間励んでいたではないか」
「いや、休憩はもう済んだじゃんよ!?」
「私はお前ほど体力が無いのだ」
「嘘つくな!」

 嘯いていると分かる程の大嘘である。首が外れさえしなければ、デュラハンの持久力は魔物の中でも上位に位置するという事実をゼットン青年は知っていた。

「察しが悪いな…」

 勘の悪い夫に呆れつつも、ゆっくりと彼に近づくヘンリエッテ。そして、そのまま青年の体にしだれかかると、ズボンの上から右手で彼の物を掴む。

「伴侶を得た魔物娘が、剣の稽古など長く続けられるわけがないだろう?」
「ハァ……」

 目を瞑って溜息をつく青年をよそに頬を紅潮させて息を荒くし、舌なめずりするヘンリエッテ。
 彼女はゼットン青年に稽古をつけてくれるのはいいが、戦闘による感情の昂ぶりがそのまま夫への発情に繋がってしまう事が多々あった。大抵は我慢出来るのだが、このように時折暴走する事もあるのだ。

「いいのかな? 私の要求を呑まねば、二度と稽古をつけてやらないぞ?」

 こうして発情したデュラハンは目を潤ませ、夫のズボンの上から股間を執拗になぞるのをやめようとせず、自分の要求を呑むようゼットンに言い聞かせるかのようであった。

「あぁ、分かった分かった…」

 剣の稽古におけるこのデュラハンの助力は大きく、そう簡単に代わりを見つけられるものではない。
 故にゼットン青年は仕方なく了承せざるをえなかったが、内心かなりの不満があるようで、その顔は苦虫を噛み潰したかの如く渋いものであった。
 だが、ヘンリエッテにはこの青年が自分の要求を呑むという事は分かっていた。
 何故なら、インキュバスである以上夫の性欲は旺盛。さらには、どんなに高圧的な態度を取ろうが、“彼の妻の中で一番魅力的な”自分の要求を断れるはずがないからだ。

「よろしい。交渉成立だ」

 青年が要求を呑んだ事で、勝ち誇ったような笑みを浮かべるヘンリエッテ。一方、ゼットンはそれを苦々しい顔で見たのだった。





 ――アイギアルム・ヘンリエッテ宅――

「んっ、ハァッ……!」
「……!」

 ヘンリエッテの自宅は風呂トイレ付きの、十畳ほどの木造平屋建て。調度品もそう多くないのを含めて、魔王軍の精鋭にしてはわりと質素で殺風景な家と言える。
 しかし、そんな事は愛を交わす事には何の関係もない。現に、部屋の隅にあるベッドの上で、ゼットン青年とデュラハンは激しく交わり合っているからだ。

「んっふっ、私の体はどうだ?」
「あぁ、最高だ! 肉厚の穴のギッチリ締めつけてくる上に、ヒダの一つ一つが俺のモノにキュウキュウ吸いついて、極めつけは別の生物みたいにうねってきやがる!」

 ヘンリエッテはゼットン青年へ性交の感想を尋ねるが、最高の賛辞を得ることが出来た。もっとも、快楽に耐える彼の顔と、荒々しく自身の雌穴に激しくピストン運動を繰り返すのを見れば、まさに愚問愚答とでも言うべきだろう。
 青年の方も、犯せというのが条件なのだから、このデュラハンへ遠慮はしない。彼は四つん這いになった女の大きな臀部を指が食い込むほど掴みあげながら、その露わになった秘裂目がけ、そそり勃つ逞しい巨根を何度も叩きつけている。
 この怒涛の責めに女は切なそうに声をあげるか、または歓喜の喘ぎ声を漏らした。さらに、その綺麗な白い肌は男の熱を帯びて紅潮し、その端正な顔には性の快楽を貪る浅ましい雌の表情が浮かんでいる。

「……まだだ。こんなものじゃ、まだまだ私は満足しないぞ!」

 今の調子では物足りないらしい。女はベッドの男へ、さらに自分の体を荒々しく犯すよう命令する。
 とはいえ荒々しく、また淫靡ながらも、これだけならばあくまで魔物娘との普通の性行為だろう。しかし彼等の性交には、異様な要素が一つだけあった。
 それは女の首がその胴の上に無く、代わりに部屋の中央にある机の上に鎮座しているのである。淫靡な表情を浮かべる女の生首は、屈強な男に己の胴体が激しく犯される様を眺めているのだ。
 そして、胴体の方は首元に金属製の蓋がはめられ、精が抜け出るのを防いでおり、夫からの精を逃さぬよう万全の準備がなされている。

「もっと激しく…獣のように私を犯し、蹂躙しろ!」
「……っ!」
「ん、ふぅ! いいぞ、もっと…もっと吸うのだ!」

 女の言葉に触発され、男は繋がったままながらも女を己の逸物を軸に反転させ、己に向けられた大きな乳房に吸いつく。
 ヂュウヂュウと下品な吸引音を立てながら左乳房をしゃぶられ、さらには乳首を甘噛されるが、生首は嫌がるどころかむしろ興奮し、さらに容赦なく攻めるよう告げる。

(はぁ、やれやれ)

 青年は心の中で溜息をつくが、そんな事などこのデュラハンは知る由もない。なにせ、普段抑圧された性的欲求を解放させた魔物娘には、他の事を考える余裕など無いのだ。
 ヘンリエッテにとって、今は他の事などどうでもいい。
 戦闘には到底向いていないはずのムチムチとした豊満な肉体。そしてアンデッド特有の少し冷たい体を、愛しい夫の熱によって温められ、犯される事が今の彼女にはただ何よりの喜びなのである。

「♥」
「うおっ!」

 ヘンリエッテの胴体は夫の温もりをもっと欲しいと言わんばかりに己の体を起き上がらせると、対面座位の体勢となる。
 とはいえ首無し胴体が抱きついてくる事はゼットン青年も未だ慣れず、一瞬驚いてしまった。

「ふっ、情けないな」

 夫が未だ自分の体に慣れぬ事を、ヘンリエッテは鼻で笑う。

「いちいち驚いていては、私との性行為を愉しめないだろう!」

 密着したヘンリエッテは自分の体に夫の熱が伝わるのを愉しみつつも、今度は自分が腰を激しく上下させる。

「うおぉあっ!」

 逸物をギチギチと締められ、情けなく声をあげるゼットン青年。

「いいぞ…! その情けない表情をもっと私に見せてみろ!」

 魔物娘にとって、夫が自分の攻めで悶える表情はたまらないものである。左横からそれを眺めるヘンリエッテの生首は嗜虐的な笑みを浮かべ、胴体に夫の逸物をその強靭な括約筋で扱き上げるよう指令を送る。

「うっ…くっ…!」
「なぁに、我慢するな! 魔物娘に夫が屈服するのは別に恥ずかしいことではないのだぞ!」

 そして、首からの指令に胴体がすぐに反応し、途端に貪るような腰使いで抱きついた男の熱を体に伝える。
 胴体の白い肌は紅潮し、夫の熱によって温められた体からは玉のような汗が噴き出ると、ベッドのシーツを濡らしていく。

「うぉ、ちょっ…激しすぎ…!」
「あぁん♥ イイ〜〜ッ♪」

 夫の巨根の味わいに、たまらず嬌声をあげるデュラハン。彼女等は元々が戦闘種族なせいか、その腰遣いは攻撃的で激しく、さらには前後左右にも若干の捻りを加えるなど、技術も併せ持っている。
 しかも、それだけではない。鍛え上げた体のおかげか膣の締めつけは力強く、さらには魔物娘らしく吸引力も半端ではないのだ。

「んふっ♪ どうだ、私の中はひんやりしているのに柔らかくうねって、最高にキモチイイだろう?
 別に我慢することはないぞ。お前の熱くて美味な子種と精を、私の中へ存分に吐き出せ!」

 激しいグラインドを続けるヘンリエッテに、ゼットン青年はなすすべが無い。
 ドロドロに濡れそぼったデュラハンの雌穴は、咥え込んだ愛しい雄の逸物を放そうとせず、ただひたすらに騎士と思えぬ下劣な腰使いを繰り返す。結合部周辺は漏れ出した多量の愛液でびしょ濡れになり、小刻みに振られる彼女の尻からは破裂音が絶え間なく鳴り響く。
 さらには腰使いだけではない。彼女の体はゼットン青年の肉棒に合わせた変化を遂げ、その膣壁の襞は夫に最も快感を与えられるであろう形となっている。
 それが激しくも前後左右に動く彼女の絶妙なグラインドと凶悪な相乗効果を発揮し、彼の一番の弱点たるカリ首を締めつけ、撫で上げ、扱くのである。それらが夫に最高の快感を与え、ひいては魔物娘がこの世で一番欲する夫の精と子種を最短時間で吐き出させる事となる。

「早く早くぅ♥」
「うぁ、あ、ぁあ……で、出る!」

 こうして十分ほど突き合ったところで、頃合いと見たヘンリエッテの胴体は腰を止め、限界の迫った剛直を根元まで呑みこみ、子宮口に密着させる。
そして肉厚の膣壁に苛まれ、ゼットン青年はたまらず射精してしまう。

「んひいぃっ! 熱い、熱いぃ♥ 子宮が灼けちゃうぅぅ♥」

 灼熱の白き濁流の心地よさに、たまらずアヘ顔を晒すヘンリエッテの生首。一方、胴体は膣全体を収縮させ、夫の剛直より噴き出す極上の甘露を貪るように吸い上げる。
 尿道から直に吸われるような刺激は、まさに魔的な快楽としか言いようがない。さらには、別の生き物の如く蠢く膣はその動きを止めず、やがて射精した分の精液全てを飲み干されてしまったのである。

「うふっ、さすが我が夫。お前の体と精は、アンデッドの冷たい体でも芯から温めてくれるのだな♥」

 ヘンリエッテは嬉しそうに夫を褒めそやす。吐出された精液はインキュバスらしく大量で、それを呑んだ彼女の子宮は膨張し、それに伴い下腹部も大きく膨らんでいる。

「だが、言ったろう? これだけでは足りないと、な」

 しかし、彼女は性欲旺盛な魔物娘。いくら大量とはいえ、射精が一回だけでは足りはしない。

「あぁ、分かってるよ」

 ゼットンも幾人もの魔物娘と交わったことで、その習性は熟知している。当然、魔物娘は一回の膣内射精などでは決して満足しないことも知っている。
 しかし、彼女等の体は人間の女などとはわけが違う。射精すればするほど消耗するのではなく、むしろ精力が満ちていくのである。そのため、いくら犯そうが疲れはしないし、いくらでも射精出来る。
 それはデュラハンを始め、ベルゼブブ、オーガ、妖狐、サキュバス、ワーキャット、ダークプリースト、そしてリリムであろうと変わりはしない。飽きるまで魔物娘を犯す事が出来、さらにはいつ飽きるのかすら分からないのだ。

「さぁ、おいで♥ もっと二人で愉しもう」

 傍らのヘンリエッテの生首が甘い声でさらなる性交を誘う通り、彼女の胴体はとても高潔な騎士とは思えぬポーズを取る。寝転がった胴体は両腕を本来の頭の辺りで組み、一方脚はM字に開いて淫臭を放ち、注がれた大量の精液を零しながら極上の名器を見せつけてくるのだ。
 離れた首が話しかけてくるのはまことに不気味な光景だが、美しい肢体はそれを差し引いても淫靡極まりない。いや、むしろ首が無いからこそ体の方に目がいき、その美しさが際立つ。

「おう!」

 そして、ゼットン青年もまた一回の射精では収まりがつかない。そのだらしなく開いた膣に萎えぬ逸物をそのまま突き刺し、彼女の肉体も喜んでそれを受け入れたのだった。

「あひぃぃっ! ふ、深いィ♥」

 嬌声をあげるヘンリエッテ。机の上の生首は、潤んだ瞳でベッドの上の肉体を見つめ、悶えていた。
 豊かな二つの乳房を鷲掴みにされながら、鉄を打つ金槌の如く腰を打ちつける夫へ、ヘンリエッテは先程とは逆に被虐の喜びを覚える。

「い、いいぞ! それでこそ我が夫というもの! 遠慮はいらん!
 私はお前のもの、お前は私のものだ! 私の体を好きなだけ嬲り、好きなだけ私の穴を味わったところで文句は言わん!
 存分に精を放ち、子種を好きなだけ注ぎ込め! そして、私を孕ませろ!」

 ヘンリエッテは己の本心を声高に叫ぶ。一糸纏わぬ裸体を晒している以上、普段は高潔な仮面の下に隠す本音もまた、今は一切隠す必要はない。

「あぁぁ! いいぞっ! もっと、もっと犯してぇぇ!」

 正常位で乱暴に犯され、ヘンリエッテは被虐の悦に浸る。そして、デュラハンだけが可能とする視点より性交を眺めて下劣で淫らな実況を繰り返し、精を何度放たれてもそれはやめなかったのだった。










 ――アイギアルム・クレア宅――

「ようやく完成か…」
「うん、そうだねっ♪」

 再建された我が家の前に立ち、感慨深そうに呟くゼットン青年とクレア。彼が浮遊島より逃れて数ヶ月ほど経ち、ようやく彼等の家の建て直しが終わった。

「俺のせいとはいえ、長かったなぁ〜」

 より大きくなった我が家を見て、うるうると嬉しそうに涙を流すゼットン。設計にも建築にも携わったものが出来上がった事により、感動もひとしおらしい。

「ねぇ、中に入ろうよ」
「そうだな」

 妻に促され、ゼットン青年は共に中へ入る。

「わぁ〜!」

 中に入るなりクレアは歓声をあげ、目を輝かせる。

「とってもステキなおうちだよぅ!」
「気に入ってもらえたようだな。そんな風に喜んでもらえるのは俺も嬉しい」

 クレアは嬉しそうに屋敷の隅から隅へと、その羽で飛び回る。そんな妻の様子を見て、自慢気に頷きながら夫は呟いた。
 前の屋敷は二階建てであったが、今回は三階建てとなり、各種設備も前より最新、もしくは規模が拡張されたものとなった。さらにはバー・カウンターなど、普通は個人の家では付かないような設備も追加されている。

「旦那様、またお仕え出来て嬉しゅうございます」
「嬉しゅうございますニャ」

 そして、台所に詰めていたエリカとリリーが見慣れたメイド服姿で現れ、二人に恭しくお辞儀をする。

「おう」
「……」

 しかし、その様子を見た途端にクレアは不機嫌になった。何故なら、エリカとリリーの血色が妙に良かったからだ。
 さらに二人は挨拶が済むとクレアそっちのけでゼットン青年にもたれかかったのも、彼女の疑念を強くした。

(コイツ、私の目を盗んでせっせと密通してたな…)

 クレアが睨む通りである。夫は彼女の目を盗み、屋敷の再建に励む傍ら、この二人との関係を続けていたのだ。
 とはいえサキュバスの性質上、エリカは最早ゼットン青年無しでは生きる事が出来ない以上、仕方のない話ではある。それに、もしゼットン青年の帰還がもう少し遅くなっていれば、餓死していたのは間違いない。
 主人と使用人という立場の差はあるが、ゼットン青年の妻というのは両者変わらない。故に二人はライバル関係とさえ言えるが、それでもメイドが餓死するのを見過ごす程クレアは冷酷でなかった。

「はぁ…」

 溜息をつくクレア。

「ま、しょうがないか」

 この男を選んだのは自分だし、その決断に後悔はしていない。彼の精はとても甘く濃厚で香ばしく、そして美味なのは事実だ。
 何より、彼は自分の我儘を聞いてくれている稀有な存在だった。本来、クレアの闘いぶりを見た者は大抵諦めてしまうだろうが、この青年は良くも悪くも諦めが悪く、彼女の強さに追いつく事を一向に諦めようとしない。
 そこを彼女は気に入っており、また誇りとしていた。ゼットン青年は馬鹿ではあるが、それを含めてクレアは愛している。

「「「「御主人様〜♥」」」」
「!?」

 しかしそんな考えが吹き飛ぶほど看過出来ない事がクレアの目の前で起きる。それはエリカとリリーの他に、同じくメイド服を着た『見慣れた』魔物娘達が台所からぞろぞろと出てきたのである。

「バーテンダーの麗羅です♥」
「堕落神教会派遣修道女のシスター・ミカです♥」
「ボディガードのミレーユです♥」
「同じくボディガードのヘンリエッテです♥」
「こ……の…っ!」

 整列してお辞儀をしてきた四人の魔物娘を見るなり、クレアは激怒の表情となり、額に青筋を浮かべる。そして、隣のゼットン青年の胸ぐらを掴んだ。

「へぇ〜、堂々と女を引き込むとはねぇ! 家主が私なの忘れてんじゃないのぉ!?」
「い、いやこれは俺も知らない! 知らねぇ! マジで、リアリー!」

 阿修羅の如き表情のクレアに怖気づき、両手を上げて必死に弁明するゼットン青年。それは嘘でなく、実際彼も何が起きているか分からない。

「嘘をつくなぁー!」
「お、お助けー!!」

 怒ったクレアは夫の命乞いを無視して右拳を振り上げるが――

「このっ!」
「ぎゃんっ!?」

 主人に狼藉は許さぬとばかりに、ミレーユはクレアの後頭部に右踵落としを叩きこむ。たまらず床に落ちたクレアは悲鳴をあげ、悶絶する。

「うああ…!」
「御主人様に何すんだ!」
「アンタこそ何すんだよ! それにこの家の家主は私だよ! だから私が御主人様だろ!」

 後頭部を押さえながらクレアは抗議するが、ミレーユはどこ吹く風であった。
 それどころか、家主に対してそっぽを向いて口笛を吹くという舐め腐った態度であり、しかも男の方にもたれかかっているのも癪に障る。

「私の主人はゼットンだよ! お前じゃねーんだ!」
「はぁ!? ワケ分かんない事言ってんじゃないよ鬼女!
 お前の角を両方引っこ抜いて、大根おろし器にしてやろうか!?」
「寝言は寝て言えよ! 貧相体型のガリガリブス!」
「無駄な筋肉と脂肪を付けたブスはお前だろ!! ブス、ブス、ブース!!!!」
「お前以外に誰がいるんだよドブス!!」
「あー、もういい!! コイツは殺す!」
「上等だオラァ! その無駄な人生に終止符を打ってやるよ!」

 あまりの惨状にゼットン青年もメイド達も唖然として見ている。その上、主人とメイドの罵倒合戦が殺し合いになりかけたため、仕方なくゼットンが仲裁に入った。

「やめろ。俺の前だぞ」
「あぁ、悪い悪い。御主人様の前だったな」
「だから私が家主だろ! 給料も私が出してんだろーがぁーっ!!」

 理不尽な扱いをされる怒りのあまり、真っ赤になって口汚く叫ぶクレア。妻の激怒ぶりに夫も眉をひそめるが、メイドの方は全く悪びれていない。

「えぇい、喧嘩はやめろ!」
「いいや、コイツを殺さないとゼットンと安心してセックス出来ない!!」
「ふぅん……いいのかな? 悪い子は犯してあげないぞ?」
「ご勝手に。そもそもベルゼブブが夫を犯す時にいちいち同意を求めると思ってんの?」
「………………」

 クレアの冷たい切り返しに悲しくなるゼットンだが、実に魔物娘らしい答え方であるとも思った。
 考えてみればベルゼブブは性交の際、別に相手の同意を必要とするような魔物娘ではない。単にクレアがその中でも相手の意志を尊重するタイプであったに過ぎなかっただけだ。

「ともかく喧嘩は」
「「オラァーッ!!」」
「…するなって言ってんだろーが!!」

 ゼットンの仲裁も虚しく、結局殴り合いの喧嘩を始める二人。怒った青年は怒鳴るが、彼の意識はここで途絶えてしまう。
 七年ほど前、二人は銭湯で大乱闘を繰り広げた。その時止めに入ったゼットン青年には運悪く風呂椅子が投げつけられ、それを顔面にくらって昏倒したのだが、今回もそれと同じように物が投げられたのであった。

「御主人様!」

 慌ててゼットン青年に駆け寄るエリカ。彼は失神し、白目をむいてしまっていた。
 ちなみに当時と違うのは、投げつけられたのが風呂椅子でなくヘンリエッテの頭だということだ。彼は妻の顔面ヘッドバッドをくらい、そのまま気絶したのである。

「死ねぇ!」
「お前が死ね!」

 口汚く叫び合い、殴り合うベルゼブブとオーガ。完成した新居の一階は早速傷だらけとなり、後の修理が面倒となった。
 一方、残ったメイド達は昏倒した主人、ヘンリエッテの頭と胴体を拾うと、素早く二階に退散した。そこで恐る恐る喧嘩の様子を見守ったのである。
 そして、この喧嘩の終止符は新居の完成祝いに訪れた魔王の第五十二子ガラテアが打つことになる。

「もう、うるさいわね。一体何――ぶっ!?」
「「あっ!?」」

 ここで顔面蒼白になる二人。ドアを開けて入ってきたのは花束を持ってやって来たガラテアだったが、飛んできた椅子が顔面に直撃してしまい、彼女も昏倒したのである。
 しかし彼女はリリムで、二階にいる農民崩れとはワケが違う。王族を傷つけたのだから、死刑にされても魔物娘である彼女達は文句を言えない。

「王女殿下〜?」
「何を騒いでいるんだ――で、殿下!?」

 続いて入ってきたのは、同じく新居の完成祝いをしに来たケイトとその夫ザンドリアスだった。しかし二人は床に倒れ伏すリリムと、その下手人達を発見することになる。

「き、貴様等これは一体どういうことじゃい!?」
「い、いやこれはアクシデントだよ! この鬼女が」
「ち、ちげぇよ!」
「姫〜!」
「殿下! しっかりしてください!」
「う…う〜ん…」

 ぐったりするガラテアを介抱するベイテーテ夫妻。一方、ベルゼブブとオーガは互いに責任をなすりつけ合っていた。

「ともかく、貴様等はタイホじゃ!」
「うわぁぁ! 違うんだよ!」
「アタシが悪いんじゃないよ〜!」
「弁明はブタ箱でいくらでも言わせてやるわい!」

 言い訳も虚しく、二人はすぐにケイトが魔術で作った手枷をはめられ、王魔界に連行されたのである。そして、そのまま魔王城の牢屋に入れられてしまったのだ。





 しばらくして目が覚めたゼットンは、二人がガラテアに狼藉を働いたと聞いて仰天し、慌てて王魔界に赴いた。
 そしてすぐさまガラテアに面会して謝罪し、二人の許しを乞うた。さらには彼女の親で自分の義両親でもある魔王夫妻にも謁見し、そのまま土下座して許しを乞うたのだった。
 娘婿がここまでした上、ガラテアも二人を罰する気は無かったのもあり、魔王夫妻は二人を厳罰を与えるのは中止した。こうして、夫の尽力によりクレアとミレーユは幸いにも『一ヶ月性交禁止』だけで済んだのだ。
 二人は釈放され、騒動は幕を閉じた。しかし、屋敷は早速傷だらけとなり、その美観は損なわれてしまったのがゼットン青年には残念であった。





 突然女達が住み着くなど、騒がしくはあったが、ゼットン青年は今の明るく、そして淫らな生活に満足していた。
 彼女等はなんだかんだで優しく、献身的であり、何より彼を愛してくれたのである。そこまでされて、不満を抱く男がいようか。
 当然ながらゼットンは彼女等に感謝し、報いたいと考えた。故に、より一層妻達との性交に励んだのだ。
 そうして、彼の生活は以前同様に戻りつつあったかに見えた――――しかし、世間はそうではない。
 蠢くは邪悪の徒。そしてそれらの齎す脅威は、確実に迫っていたのである。










 ――フリドニア東部、イール平原――

 教団圏では現在最強と言われる、宗教国家『フリドニア教国』。レスカティエ陥落後に出来た空白を埋めるかの如く、その国力を伸長させた巨大国家である。
 広大な国土は肥沃な土地に恵まれ、かつ気候も温暖故、教団圏でも突出した農業力を持つ。そんな高い農業力によって生産される豊富な食糧と、レスカティエ陥落に危機感を覚えた教団上層部により多額の資金援助がなされた結果、今では総兵力十七万という数を誇るに至る。
 これはレスカティエですら実現出来なかった程の軍隊の規模であり、同時にその質も強兵という評価が相応しい強さだ。さらには勇者の数も充実しており、その産出数こそ劣るが、それでもその数はレスカティエに次ぐ。
 このように精強な兵士と勇者を多数抱えるとあっては、魔王軍ですら簡単に手出し出来る相手でない。
 実際、魔王軍の侵攻を何度か退けた実績を持っている。一方、魔物娘達にとってはレスカティエに代わる新たな脅威となっていた。
 最近は大規模な戦こそ起きてはいないが、それでも魔王軍と年に数回以上は小競り合いを起こしており、魔王軍の上層部には頭痛の種であったのだ。そこで、魔王軍では近々リリムかバフォメットを総大将とした大規模な遠征軍を送り込む事を計画しており、その準備に着手していたところだった。
 一方、フリドニアの方も魔王軍がいずれ大規模な遠征軍を送り込む事は予想していた。そのため、フリドニアの要所要所にはまとまった数の兵力を配置しており、有事に備えていたのである。
 しかし魔物以外にも、フリドニアは思わぬ相手に目を付けられていた。
 




 それを知る事になったのはつい一ヶ月ほど前のことだ。ある日ふらりと王都に現れた『エンペラ帝国』からの使者だと名乗る男から、突然降伏を迫る内容の書簡が国王に届けられたのだ。

『エンペラ帝国皇帝より、フリドニア国王に手紙を送る。
 かつてこの国はエンペラ帝国の、即ち余の領土であった。だが今は独立し、余の支配下には無い。
 しかし余は慈悲深く寛大である故、これを今更責めようとは思わぬ。余が死んだ時、その時の王は身の程を知らぬ小物にでも唆されて、このような事をしでかしたのであろうからな。
 ところが今、余はこの現世に帰ってきたのだから、かつてのように余の下へ戻ってくるべきだと思う。
 今の世は乱れ、民衆は怯え、そして疲れきっている。しかし余の下へ戻ってくれば、再び民草に心の安らぎと身の安全、そして豊かな暮らしを与える事が出来るだろう。
 だが、万が一余の言葉を聞く気が無い、もしくは返事が無ければ、余に逆らったと見なす。それは即ち、かつてこの国が犯した罪を、余が裁かねばならぬという事だ。
 その時は余とエンペラ帝国の持ちうる戦力をもって、この国に攻め入り、お前達を断罪するしかない。
 けれども、断った途端に相手の不意を打って攻めるのは、世界を治めていた皇帝として恥ずべき事。貴君らとは正々堂々と戦いたいと思う故、一ヶ月の猶予を与えよう。その間に戦支度をするがよい。
 だが、フリドニア国王は賢く、そして民衆を慈しむ君主だと聞き及んでいる。それ故、賢明なる答えを聞くことが出来ると期待している』

 当然、その内容を見た国王も大臣、貴族達も質の悪い悪戯だと皆一笑に付した。そもそもエンペラ帝国は五百年も前に滅んだ国家であり、現在はその痕跡が僅かに存在するばかり。
 仮に幽霊からの手紙だとしても、魔物というもっと恐ろしい相手と戦い続けてきたフリドニアにとっては取るに足らぬ相手だ。
 彼等は手の込んだ悪戯だと考え、その内容を気にも留めなかった。とはいえ、国へ余計な影響を与えられては困るので使者の首を刎ね、街頭に晒すことで、これを真似せぬよう国民に知らしめたのである。





「うわぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」

 そして書簡の到着から、ちょうど一ヶ月後の事である。隣国との国境に位置する、イール荒野に駐屯していたフリドニア東方方面軍二万五千は、敵勢力の突然の襲撃を受けていた。
 しかし、その様子は普段と違う。強力な魔物娘を相手どっても一歩も引かないはずのフリドニア軍であるが、今日の彼等は非情すら生温いほどの徹底的な攻撃を受け、ありえないほどの被害を受けていたのだ。

「か、体が……おも…!――――ギャバッ!?」
「ヒギッ! つ、つぶれ!!」

 今また二人のフリドニア兵が地面にめり込み、やがては自重に耐えきれずに肉が潰れ、次いで骨が折れ砕け、そして体から臓腑をはみ出させながら圧死してしまう。
 激しい戦闘が続く中、その現象はひっきりなしに起きていたが、当人達には何をされているのか、そして何故起きているかすら分からない。ただフリドニア兵達は次々に体が重くなり、奇怪な死に様を見せていくばかりであった。

『ギシシシシシシ!!』

 そして、その現象の元凶たる巨人が、血飛沫の舞う戦場の真ん中で不気味な哄笑をあげる。

『おうおう、実に哀れなものよ! 一ヶ月前の時点で素直に降伏していれば、お前達もこんな苦痛を受けずに済んだものをなぁ!』

 スルメの如くペシャンコになった二人の哀れな犠牲者を見下ろし、巨人は嘲笑を浮かべる。

『まぁ、断るとは思っていたがな!』

 教団圏最強であり、教団圏国家群の盟主を自認するフリドニアである。どこぞの馬の骨がいきなり降伏の書簡を送りつけてきたとて、受けるはずがない。

『だが何にせよ、偉大なる皇帝の降伏勧告を受けなかったのは事実! ならば、俺達はこの国を攻め落とすだけよ!!』

 七戮将アークボガール・ディオーニドは、降伏勧告に従わなかったフリドニアを攻め落とすよう皇帝の命を受け、自らの軍勢を率いてこのフリドニア東部にやって来ていた。
 アークボガールはフリドニア東部に到着後、早速激しい攻撃を加えて上手く二万五千の兵を二つに分断。一万を自身の手勢に当たらせ、残りの一万五千人をなんと自身だけで相手したのである。
 恐るべき事に、彼はその自信に違わず、強兵として有名なフリドニア兵を瞬く間に壊滅状態に追いやった。さらには将としてこの地に駐屯していた複数の勇者を殺害したのだ。
 そして、それを実現させたのはその奇怪な能力。メフィラスの雷撃、グローザムの冷気、デスレムの火球のように目に見えるものでなく、兵士達はおろか勇者ですらその正体を一切把握出来ず、さらには何の対処法も見出だせぬまま殺されていったのである。

「「「「「「「「ウオオオオォォォォ!!!!」」」」」」」」
『おっ、まだいるのか!』

 一万五千人をほぼ一人で相手しているため、壊滅状態に追い込んだとはいっても比較的戦力を残していた部隊もあったらしい。それらの生き残り達は鬨の声をあげ、最期はせめてこの不埒者に一矢報いようとしたのか、突撃を敢行してきた。
 ところが、振り返ったアークボガールは怯むことなく、むしろ彼等のその哀れな運命を愉しみ、弄ぶかのような邪悪な笑みを浮かべた。

『玉砕覚悟の特攻か。なら、潰し殺すのは失礼だなァ』

 アークボガールは攻撃を加えないどころか、なんと防御体勢すら取らない。両手を広げ、まるで朋友でも迎え入れるかの如くである。

「「「「「「「「オオオオォォォォ――――――――――――ッッ!!」」」」」」」」
『ギシシ…』

 彼は10m近い身長という人間離れした巨人であるが、それでも槍などの長柄武器を用いれば下っ腹程度の高さには刺さるし、弓やボウガンを使えばその巨体故にむしろ良い的である。にもかかわらず、アークボガールは迫るこれらの武器に対して不自然なほどの余裕を見せている。

「死ね豚野郎!」
「仲間の仇だ!」
「くたばれぇ!」
『……』

 やがて、殺到した兵士達の剣、槍、斧、戦鎚、矢弾など、斬撃・打撃・刺突を問わずありとあらゆる武器がアークボガールの体に叩き込まれる。それらは彼の体にめり込み、突き入れられたのだ。

「え…!?」
「な、何!?」
「刺さらない…!?」

 驚くフリドニア兵達。生き残りのフリドニア兵十数人による攻撃は両腿や下腹部、背中や腰など、この巨人の体の各所に余すところ無く命中している。
 にもかかわらず、この巨人の体から受ける手応えは、まるで水の入った革袋でも殴った如く頼りないものであった。

『……そんなナマクラじゃぁ、俺は殺せねぇなァ』
「「「「「「「「!!」」」」」」」」

 ズブズブとめり込む兵士達の武器はアークボガールの贅肉の中に取り込まれ、やがて奪い去られる。そして呆気にとられる哀れな兵士達の顔を満足そうに眺めると、アークボガールは彼等の運命の悲哀を嗤ったのだ。

『ギッシャァ〜〜ッッ!! “拳法殺し”!!!!』
「ぶがっ!?」
「ギャッ!?」
「ぐげ!」
「びっ!!」
「ゲベッ!」

 その次の瞬間、贅肉に取り込まれた武器は勢い良く弾き出され、持ち主達の顔や胴体などに突き刺さる。兵士達は各々血を勢い良く噴き出し、そのまま絶命したのだった。

『ギシシシシシシ!! 俺様の体は特別でな!
 特殊な皮脂は武器を滑らせ! 強靭な皮膚は刺突や斬撃を通さず! 分厚い脂肪が衝撃を完全に分散しちまうんだよォ!』

 そして、そこへさらに全身の強力な筋肉が加わる事で、武器を肉に取り込み、弾き返すという殺人芸を可能としている。

『しかし、揃いも揃ってコイツら弱すぎるぜ。これじゃあ、なんで俺達七戮将が派遣されたのか分からねェよ…』

 いい加減ウンザリしてきたのか、失望混じりに吐き捨てるアークボガール。いくらこの男が殺人狂とはいえ、歯応えの無い雑兵を蹂躙するのも飽きてきていたのだ。

『…ん? うおっ!?』

 そう嘆いていたところ、突如アークボガールの頭上へ槍状の魔力弾が投げつけられる。彼はすんでのところでそれを察知し、巨体に似合わぬ機敏な動作で躱したのだった。

「チッ!」
『なんだテメェは!』

 いつの間にやらアークボガールの頭より20mほど上空に、きらびやかな銀の鎧に身を包んだ青年が現れていた。

「それはこちらのセリフだ! よくも我が同胞達をこんな目に!!」

 空に浮かぶ金髪の青年は長身ながらも、どこか中性的で優美な雰囲気の優男といった風。そのため、化け物じみた風貌のアークボガールとは好対照と言える。
 しかし故郷が蹂躙されたせいか、その整った顔に似合わぬ激しい怒り、そして敵意と憎悪をこの巨人へ向けている。

「“光槍連弩(ジャベリン・ランチャー)”!!」

 当然、青年はこの不届き者を生かしておくつもりは無い。彼は問答もそこそこに白く光り輝く魔力の槍を両手より生成、そのままアークボガールの頭目がけて投げつけまくる。

『ギィ!』

 アークボガールは地面を大きく揺らしながら素早く跳び上がると、光の槍の雨は彼の少し下を通り過ぎて地面に着弾、大爆発を起こす。

「!」
『ガァッ!!』
「ぐぁ!」

 青年と同じ高さまで跳び上がったアークボガールは、そのまま巨大な右手で青年の体に張り手を食らわせる。青年はその衝撃に耐えきれず吹っ飛んでしまい、焼け焦げた地面にたたきつけられた。

『ギッシッシ! いい攻撃だぜ小僧!』

 巨人は青年を賞賛するが、それは情けをかけるという意味ではない。アークボガールはそのまま彼目がけ躊躇無く落下、その巨大な両足が青年に迫る。

「くっ!」

 地面に叩きつけられて痛む体を青年は無理矢理右に転がらせる。その数秒後にアークボガールは着地し、轟音と共に地面が砕け、辺りが揺れた。

「バ、バケモノが!」
『失敬な! 俺様は人間だぜ!』

 憤慨したアークボガールは、続けざまにその巨大な右脚で青年にサッカーボールキックを叩きこむ。

『グワァ――――――――――――――――ッッ!!!!』

 その恐るべき威力に体をくの字に曲げ、青年は絶叫をあげながら吹っ飛ぶ。

『ん?』

 やがて勢いが衰えてそのまま地面に叩きつけられ、青年はゴロゴロと転がるが、ふらつきながらも起き上がる。その様を見たアークボガールは目を丸くした。

『ほう、こりゃ素晴らしい! 生きてるとはなァ!
 手加減したとはいえ、俺様の攻撃に耐えるとはやるじゃねぇか!』

 アークボガールは尚も青年を賞賛するも、その殺意は一向に衰えない。しかもそれに反し、その“効率”は悪く、それが彼の残虐さを物語っていると言える。

『お前ぐらいのレベルだったら使えそうだな。どうだ、俺の下に入らねぇか?』
「!」

 自身の攻撃に耐えたのだから、それなりの戦力になるとアークボガールは判断し、この戦士を自軍に勧誘し始めた。

「貴様の下につけだと…!」
『そうだ。我がエンペラ帝国軍は優秀な戦士を欲しているんだよォ。
 そして、お前はその資格がある。なにせ俺の攻撃に耐えられるぐらいだから、うちの兵士と同等以上の強さはあるだろうと思ってなァ』

 しかし、この青年の態度は明らかに否定の意を示していた。

「断る! 何ゆえ我が国に攻め込んできたのかは知らぬが、あれだけ残虐な殺戮を平然と繰り返した貴様が、正義も何も無い暴虐の徒であるのは明白!
 勇者である私の使命は神の敵を撃ち破り、そして我が国と民衆に安寧をもたらす事だ! 断じて貴様等のお先棒を担ぐような真似をしたりはせん!」
『ふ〜ん。ご高説どうも、勇者君』

 一方、アークボガールは白けた顔でこの勇者の熱い口上を聞いていた。

「何がおかしい!」
『ギッシッシ! いや何、いつの時代も勇者という奴等は、皆くだらねぇ使命感に燃えているらしい! それがおかしくてよぉ!
 しかし、考えてもみろ。何故強大な力を持つはずの神々が、何故自分達で敵を撃ち破らない!? わざわざ非力な人間に力を与え、代わりにやらせる事もあるめぇよ!
 なにせ、“神”というぐらいだ。次元の違う力を持っているのは間違いねぇ! 自分達で戦った方が遥かに早く、そして効率も良いだろうよ!
 ところが、毎日お前等が熱心に祈りを捧げている神様は、何故か一向に助けに来てくれねェ! 俺達みてーな悪党なんざ、それこそすぐに滅ぼせると思うがなァ?』
「貴様…!」

 考えれば考えるほどにおかしかった。かつてエンペラ帝国軍は主神教徒の言う神敵に当たり、それこそ神罰の下るような行いを繰り返してきたが、結局世界の七割が彼等の手に堕ち、その治世は実に数十年近く続いた。
 こうして隆盛を極めたエンペラ帝国だが、魔物との争いに疲弊し、やがて瓦解した。しかし、そもそも彼等を滅ぼしたのは利害の対立した魔物であって神々ではない。
 では神々が何をしたのかというと、ただ魔王の呪いによって死んだエンペラ一世の魂を天と地の狭間に封じただけだ。そして、その封印もここ数ヶ月前に突破されてしまい、現在のフリドニアの惨状を招いている。

『それについては神々の従僕たる勇者殿に、納得のいく答えをいただきたいな!』
「………………」

 しかしアークボガールの疑問に、勇者は答えることなく黙ってしまう。

『おいおい、だんまりかァ!?』
「……悪党と問答する時間は無い。そして、国を荒らす貴様を討たぬ理由も無い!」
『ギシシシシシシシシ!! 誤魔化し方がヘタだな! そんな感じで何回か勇者に尋ねたことがあるが、大体半分の奴にはそんな風に答えをはぐらかされちまった!
 とはいえ、別に「いやいや戦っている」とか「無理矢理やらされている」と言っても、俺は貴様を軽蔑することは無かったんだぜ? なにせ、本人がどう思っていようが、勇者ってのは戦わされる運命にあるからなァ!』
「貴様…!」
「まぁ、そういきり立つな」

 勇者は身の上を馬鹿にされたと感じたが、アークボガールは彼をなだめる。

『勇者君よ、ふざけた神々と教団のバカどもに便利に使われるのも癪に思わねぇか? だが、エンペラ帝国軍でなら有意義な力の使い方が出来ると思うぜェ?』
「貴様等に加担し、無辜の民への殺戮を行えというのか!?」
『オイオイ、バカかオメーは? テメェら教団は創設以来、異教徒や非正当の他宗派の国家に対して最もな大義をでっち上げては侵攻や略奪、殺戮を繰り返してきたのは周知の事実、ガキでも知ってる歴史だろーが!
 分かってねーようだから言っておくがな、俺達とテメェらには大した差なんかねェよ。むしろ、その無辜の民に理不尽な暴力を振るってる歴史はテメェらの方が遥かに長ぇじゃねェか?
 そして肝心の大義名分も、実際怪しいモンばかりだったよ。ま、所詮は教団のお偉い方が自分の欲望を満たそうと、そして哀れな神の信徒どもを都合良く動かすために急ごしらえで作った理由だからなんだろうけどなァ』
「……!! それ以上の侮辱は許さんぞ貴様ァァァァ!」

 彼等の振るう暴力の本質は同じだとアークボガールに呆れた顔で告げられ、勇者は激昂する。そして、すぐさま左右の手に光の槍をそれぞれ発生させ、巨人に斬りかかったのだ。

『やれやれ。理解力の無い奴の説得は本当に手間がかかる』

 アークボガールは目を細め、面倒臭そうに言い放つと、ため息をつく。

「うっ!?」

 途端に勇者の体へ重圧が加わり、彼は地に伏してしまい、輝く光の槍も消滅してしまう。

「ぐっ……がっ!」
『ギッシッシ! そう身構えずに、よ〜く考えた方がいいぞ?
 フリドニアもレスカティエ同様勢力を伸ばしつつも、実は国内の不満も相応に高まっているのは聞いている。貧富の格差は増えるばかりで、さらには年々軍事費がかさんで、それが重税に繋がっているらしいな。
 ところが王を始め、国の治める連中はそれを一向に改めるつもりは無い。なにせ教団圏の重鎮であるが故に、国家の要職は皆教団関係者。しかもそいつらは清廉潔白どころか、地位を利用して美味い汁を吸っている有り様だから、金と物が入って来なくなるのは困るってワケだ。
 しかし、我等が陛下は民衆を慈しむ御方。んで、逆にそういう腐敗とか、神の威光を盾に威張り散らす無能な奴等が大嫌いなんだよ。
 だから、この国を掌握した際はそいつらを一掃して綱紀粛正を図り、税を減らし、さらにはあらゆる余計な中間搾取を無くす。そしてゆくゆくは民衆の誰もが飢えず、幸福な日々を過ごせるような国づくりをお考えよ。
 どうだ? 清廉潔白を旨とする勇者にとっちゃ、悪い提案じゃねぇだろう?』

 アークボガールは勇者を押さえつけつつも優しく諭した。

「私は神に、そして王に忠誠を誓った身!! 裏切る真似など出来るかァ!!」

 しかし耳触りの良い誘惑の言葉も、彼の耳には結局届かなかった。
 奮い立った勇者はなけなしの力を振り絞ってなんとか立ち上がると、再び生成した光の槍をアークボガール目がけて投げつけたのである。

『それが答えか。ならば、しょうがねぇ…』

 しかし、無駄な抵抗であった。アークボガールは口を開けると、その爆発的な肺活量によって大きく息を吸い、この勇者の生成した魔力ごと周囲の空気を呑み込んだのだ。

「ば、馬鹿な…」
『ンゲップ!』

 強力な魔力を体内に取り込んだせいか、アークボガールは大きくゲップをする。一方、自身の技が通じないという事実に勇者は呆然としていた。

『ギィ〜〜! なかなかのエネルギー量だな! さすが勇者なだけはある!
 だが、残念だ。味方にならん以上、俺はお前を殺さにゃならん!』
「くっ…!」
『せめてもの情けだ! 俺の最高の能力で葬ってやろう!』
「うっ――ギャアアアアアアアアアアッッッッ!!!!」

 それがアークボガールなりの強者に対する礼儀だったのか。そう宣言した途端、絶叫する勇者の体は折れ曲がって地面にめり込み、数秒もしない内に肉が潰れ、さらには骨が砕けて絶命したのだった。

『ギィ〜〜〜〜! 冥土の土産としては最高だろう!
 この世で最も近くにありながら、誰もその目で見ることは叶わねェ“力”!! それこそが七戮将最強たるこの俺様の能力!!
 かつて偉大なる学者はこう名付けた――――“重力”となッッ!!』

 “重力”――それは地上の全ての物質に対し、普遍的に作用する力。質量がある限り、物質はこの地上に引き寄せられるのである。
 アークボガールはそれを操り、そしてこの地上の生命で唯一その支配から逃れているのだ。
 彼は物体の重さを何倍にもすることが出来、一方でその支配から逃して質量をほぼ0とすることも出来る。つまり、この能力によって敵の自重を増加させて内臓を破裂させ、一方で己は空中を自在に飛び回ることが出来るのだ。

『重力はこの地上の全てに作用する! 例え魔王であろうと物質的な存在である限り、重力の鎖からは逃れられねェ!!』

 アークボガールが高らかにそう宣言する通り、魔王ですら何もしなければその法則からは逃れられない。文字通り、魔族の王ですら逃れられない力なのだ。

『失礼します、将軍!』
『おう、どうしたァ?』

 勇者も多数撃破し、いよいよ戦いも終結が見えてきたところで、伝令の兵士が一人やって来た。

『今さっき報せがありました。それによると氷刃、爆炎軍ともに制圧を完了させたとのことです!』
『ほほう、そうかァ。これで三方を制圧したってことだな』

 報告を受け、上機嫌そうにニンマリ笑うアークボガール。
 皇帝の命によって攻めこんでいたのは、実はアークボガールだけではない。グローザムは北方から、デスレムは南方から手勢を率いて攻めこみ、同様にフリドニアの各所を制圧していたのである。

『よ〜し、もうここには用は無い! 手はず通り三軍は首都で合流、そのまま陥落させるぞ!
 貪婪(どんらん)軍よ、他の二軍に遅れるなよ!! ギシシシシシシッッ!!!!』
『『『『『『『『オォ――――――――――――ッッ!!!!』』』』』』』』

 軍団長の言葉に、軍団員達は鬨の声をあげる。そして、それを阻む者は、もうこの平野には残っていなかったのである。





 その四日後に首都は陥落し、全土を制圧されたフリドニアはエンペラ帝国に降伏した。
 すぐさま王族や貴族、教団関係者は敗戦の責任を問うという名目で残らず処刑され、フリドニア教国はエンペラ帝国領フリドニアと改名され、その支配下に置かれたのである。
 さらに数日後、異変を察知した魔王軍の一隊が占領されたフリドニア西部より攻め込んだが、それ以後の彼女等の行方はようとして知れない。忽然と消えてしまったのだ。
 ただ、恐らくはあまりに一瞬の出来事だったので苦痛は無かっただろう。彼女等の前に現れた『黒く禍々しい鎧に身を包んだ男』の左手が光ったのが見えただけだからだ。
16/12/09 02:31更新 / フルメタル・ミサイル
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■作者メッセージ
備考:アークボガール・ディオーニド

年齢:不明(推定550歳以上)
身長:1065cm
体重:5230kg
肩書:エンペラ帝国七戮将
   エンペラ帝国軍・貪婪(どんらん)軍団長
   ボガール一族・現当主
異名:“星喰い”のアークボガール
   重力の支配者
   戦慄の暴食王
   貪婪の巨人
技:重力異常(グレートアトラクター)
  加重パンチ
  100倍重力プレス
  無重力(ゼロ・グラビティ)
  ブレス・ストーム
  超々重力砲(ブラックホール・キャノン)
  など

 かつては世界最強の戦闘集団と恐れられた帝国七戮将の一人で、その中でも最大最重の肉体を誇る戦士。「とにかく大きく、そして太っている」としか言いようがない程の醜悪な見た目だが身体能力は非常に高く、そしてその戦闘力は同僚達に引けをとらない。
 その性格はメンバーの中でも特に我儘で怠惰、かつ残虐。さらにはその見た目通りの桁外れの大食漢で、一日に1t近い食事を平らげる上、ドラゴン属や悪魔、アンデッドなどの魔物の肉でも平然と食らうなど非常に悪食である。
 そんな彼であるが、皇帝には非常に忠実であり、同僚達と同じく五百年経った今でもそれは衰えない。ちなみに、元はとある大陸の東半分を支配する軍閥「ボガール一族」の長であり、その身一つで仕えたグローザム、デスレムと違い、外様の家臣である。
 かつては大陸の西半分を支配するヤプールと熾烈な争いを繰り広げていたが、エンペラ帝国軍がその大陸に侵攻するにあたって和睦、協調して反抗した。しかし、皇帝の圧倒的な力の前に結局両者共に屈服し、以降は忠実な部下として仕えることになる。
 希少な重力系の能力者で、戦闘ではそれらを用いた奇怪な戦法を取る。非常に鈍重そうな見た目であるが、自身にかかる重力を軽減して軽快に動き回ることが出来、一方で敵は自滅するほどの高重力をかけることも出来るなど、応用の幅は広い。
 そもそも、重力系の魔術は魔物でも使い手がほとんどおらず、原理すら理解していない者も多いため、それだけで圧倒的な優位を誇っている。さらには重力以外にも多彩で希少な能力をいくつか持つ。
 その内の一つが極めて強力に発達した免疫系であり、人間には致命的なはずのありとあらゆる毒や細菌・ウィルスその他の微生物及び寄生虫は彼に効果を及ぼさず、淫魔の魔力ですら防ぎきってしまう。これによって毒を含むある種の魔物の肉を食べても効果が及ばず、さらには王魔界で魔力遮断の対策無しに動き回ることも可能であるとされている。
 また、本人曰く『食えば食うほど強くなる』と語っているが、詳細は不明。ただし、そんな彼でもかつて皇帝と戦い、噛み付いて血を少量飲んだ際には消化出来ず、苦しんだ。
 皇帝曰く『愚劣な下等生物』たる魔物娘が跋扈するようになって久しいが、彼のやることはかつてと変わりない。ただその道を阻むものは飽きるまで殺し尽くして、残ったものを喰らい飲むだけである。

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