連載小説
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第七話・決戦はサービスデイ!=その3=閉店編
ここは紳士の社交場、娼館『テンダー』。
時に抑えきれない欲望を叶えに、
時に冷たい心の隙間を埋めに、
時に運命の導きのままに、紳士たちが集う秘密…でもない場所。
今日も紳士たちは心にやり切れない寂しさを持ち寄って、
魔物という名の天女たちに会いに来る。

さて…、今日はどんなお客が来るのやら。

…うん、やっぱりこのくだり、前にもやったような気がする。
これって、デジャブ?


―――――――――


【閉店二時間前】

今日も忙しかったぁ。
やっぱりサービスデイはお客が混む…。
うちの店の立地条件は決して良くはないけど、色々アイディア出して今日まで生き残ってきたもんね。割引サービス日だったけど、売り上げ自体は大幅に伸びていそうだ。ルゥさんと相談して、オッケーが出たら女の子たちに臨時ボーナスを出してあげよう。
今日も彼女たちが頑張ってくれたから、僕も食べていけるんだし。
おや、閉店ギリギリのお客さんですね。


「もう一軒行くぞ〜〜。」
「先輩、飲みすぎですよ!」
「バカモン、俺ぁ、ぜ〜んぜん酔っちゃいねぇって〜の。」
どうしてこうなったんだろう…。
僕は松井電衛門。
名前の通りジパングから大陸に留学してきた、学者志望です。
親しい人は短縮して『マツD』と呼んでいます。
今夜は先輩の研究が学会に認められて、そのお祝いがあり、現在酔っ払いと化した先輩のお供ではしご酒の真っ最中。
…先輩が何かしら粗相をしそうなので、安心して酔えない。
「よし!次はココ行くぞ〜!!」
「こ、ここ…ですか?」
飲み屋街のはずれに佇む、5階建ての建物。
周りの喧騒から逃れるように、その建物は建っていた。
小さなランプの灯りに『テンダー』という文字が見える。
研究仲間の間で聞いたことがある。
娼館『テンダー』、色々な魔物娘が在籍するという風俗店。
一度入ったが最後、抜け出せなくなるとか何とか…。
「せ、先輩、やめておきましょうよ…。」
「だいじょーぶ!俺を信じろ!!」
信じられないから言ってるんですよー!
静止を振り切って、先輩は扉に手をかけた。


「いらっしゃいませ、ようこそ『テンダー』へ。」
僕たちを出迎えたのは、僕とそう年が変わらないようなやわらかい空気を持った男の人だった。
外の寂しい雰囲気とは違い、ロビーは明るく、フカフカの赤い絨毯とシャンデリア、綺麗に飾った色取り取りの花が娼館という雰囲気も微塵も感じさせない。娼館とは、どこか設備的にもみすぼらしいものを想像していたけど、ここなら下手なホテルよりも品がある。
「おう、予約していないけど、いいかい?」
「ええ、構いません…が、お客様。泥酔しておいでですね?」
「酔っちゃいないで〜すよ〜。ガッハッハッハ。それとも何だい?酔ってたらこの店は、客を門前払いするのかね?」
「いいえ、そういうことは致しませんが、当店の女の子は全員、激しい娘たちばかりなので、泥酔されているお客様の命の保障を出来かねないだけです。」
「はい、酔ってます!」
さすがに先輩も死にたくないらしい。
「でも性欲を持て余して、如意棒は戦闘形態であります!」
「…そうですねぇ。では女の子にお客様のプレイは負担をかけないように頼んでおきましょう。お好みの女の子は……。」
「おおなめくじの女の子いる!?」
「…おおなめくじの女の子ですね?ええ、います。少々お待ちください。んんっ、あーあー。こちら店長代理、こちら店長代理。おおなめくじ希望のお客様です。シグレさんにスタンバイ要請してください。どーぞー。」
店長代理という男の人は天井に向かって大きな声を出した。
そして、しばらくすると。
『ぴんぽんぱんぽーん、こちらセイレーン、こちらセイレーン。シグレさんのスタンバイ完了しました。ロビーまでは間に合わないと思いますので、3階プレイルームにてスタンバイしてくれています。どーぞー。(ブチ)』
美声のアナウンスが返ってくる。
セイレーンの声って初めて聞いちゃった。
「店長代理、ラジャ。なお、お客様はお酒が入っていますので、プレイ内容はあくまでソフトにとシグレさんに伝えてください。健闘を祈る、メリークリスマス(地獄で会おうぜ)。」
『メリークリスマス(地獄で会おうぜ)。(ブチ)』
「と、いう訳ですので、お客様。こちらのエレベーターに乗って3階までお行きください。エレベーターを降りて左の4号室にておおなめくじの女の子のが待機しておりま…。」
「ひゃっほーーーー!!!ヤヴァ!ダヴァ!ドゥゥゥゥゥ!!!!!」
獣のように走り去る先輩。
「やれやれ、話を聞かない人だ。」
「すみませんすみませんすみません、本当に困った人ですみません!」
「いえいえ、お気になさらず。さて、お客様の方はいかが致しましょうか?」
「へ?あ、あの、僕は…、ただの付き添いなので…。」
「せっかく来ていただいたのに、何もしないでここで待つのは苦痛かと思いますよ?それでしたら日頃の溜まったものを出して行かれた方がよろしいかと思いますが…。」
溜まってない訳が…、ない。
留学してからというもの女友達は出来たけど、恋人なんて皆無だった。僕としても、そういうことに興味がなかった訳ではないのだが、朝も夜も研究に没頭するあまりそんな時間に恵まれなかった。
…言い訳か。
本当はそんなことじゃなくて、心のシコリがまだ取れないだけ。
「お客様はジパングから来たのですね。当店にはジパングからスカウトしたサキュバスがいますが、いかがでしょう。たまには母国の言葉で存分に会話なされるのも、良い息抜きになると思いますが…。魔物娘はお嫌いですか?」
「え、いえ、そんなことは…。故郷では魔物とか一度も見たことがなかったですけど…。すごく魅力的ですし…、じゃあ、その…、お願いします。」
「はい、では女の子に確認を取りますので、こちらの待合室にてお待ちください。冷たいお茶などいかがですか?」
お願いします、とだけ言って待合室の椅子に腰をかける。
店長さんはセイレーンの声と打ち合わせ中。
何故だろう。
童貞でもないのに、胸がドキドキと高鳴っている。
ジパングからスカウトしたと聞いて、故郷に残してきた…、いや、残してすらいない。一方的で思いも告げなかった片思いの初恋の相手を思い出した。
今、あの人はどうしているだろうか。
「お待たせしました、お客様。こちらへどうぞ。」
エレベーターの前へ案内されると、そこにいたのは艶やかな黒髪の黒いドレスを着たサキュバスが一人。
「本日、お相手をさせていただきます。サキュバスのサギリです。よろしくおね…、おや?もしかして、富士野村の電衛門じゃないのか?」
「もしかして…、狭霧姉さん!?」
思わぬ土地と場所で、初恋の人に…、出会ってしまった。


「そうか…。電衛門も、こういう場所に来る歳になってしまったか。君の子供の頃を知っているだけに些かショックだな。」
「狭霧姉さん、それは誤解だってば!」
「ふふ、わかっている。冗談だ。」
狭霧姉さん。
僕の故郷、ジパングの富士野村に暮らしていた時に村の子供たちの面倒をよく見てくれた5歳年上の女の人。僕が村を出て、この大陸に留学に出る時にくれたお守りは、今でも異国で一人勉学に励む僕の心の支えだ。
「狭霧姉さんは…、どうしてここに?それといつから人間を…。」
「よくある話だよ。君があの村を出て4年経ったくらいだったかな。ジパングでは大飢饉が起きてね。口減らしのために売られたのさ。そうでもしないと家族も生き残れなかっただろうし、半ば運命と思って受け入れたよ。私の妹とか弟もまだ小さかったからね。私が行かなきゃ、みんな飢えて死んでしまっただろうね。」
だからって同情はいらないよ、と狭霧姉さんは僕の頭をクシャと撫でた。
子供の頃にそうしてもらったのを思い出し、懐かしさに胸が詰まる。
「そこからは色々転々とした。廓から廓へ、幸い待遇の悪い廓には売られることがなかったから…、そこは運が良かったのかもしれないね。年季が明ける頃に…、当時の男に騙されてね。途方にくれていたところに、ここのスカウトにスカウトされたって訳さ。人間を辞めたのは、その方が生きていくのに都合が良かったからだよ。2年前にレッサーサキュバスからサキュバスに転生したけど、電衛門は私が怖いのかな?」
何も言えないけど、僕は大きく首を横に振る。
「…やさしいな。電衛門は相変わらず。」
狭霧姉さんは、子供の頃のように頭を抱き寄せ、僕の髪に頬を摺り寄せるように抱きしめた。姉さんの体温が、あの頃とは比べ物にならないくらい、薄いドレス越しに近く感じる。
「あ、姉さん…、これ…。」
あの日くれたお守りを姉さんに見せた。
姉さんは、嬉しそうに目を細める。
「何だ、まだ持っていたのか?そんなに汚くなった物、捨てても構わなかったのに…。」
「捨てられる訳が…、ないだろう?狭霧姉さんが、くれた物なんだから。」
「…君は、いつでも私が欲しい答えを知っているのだな。」
「僕は…!」
何を言おうとしているのか。
勢いで告白してしまおうとしている。
あなたが、好きでした。
今でもあなたが好きです。
例え、人間をやめてしまっても…。
そんなことを口走ろうとしている。
彼女の思いも無視して、独りよがりに叫ぼうとしている。
すると姉さんは人差し指を僕の唇に当てる。
「それ以上…、言ってはいけない。」
「姉さん。」
「…今は、私たちはお客と遊女なんだ。」
野暮なことは言わぬが華だ、と言って僕を抱きしめていた姉さんは、そのまま唇を押し当てる。貪るようなキスではなく、長い時間を埋めていくような暖かなキス。
「…君と、こうするのは2度目だな。」
「…うん。」
僕が村を出る前夜、月もない真っ暗な夜に僕は姉さんに呼び出された。
姉さんの家の納屋、思い出の匂いは姉さんの甘い匂いと埃の匂い。
そこで僕の初めては奪われた。
明け方、目を覚ますと姉さんの姿はなく、見送りにも来てくれなかった。
ただ、手の中には姉さんのくれたお守りだけ。
思いを告げることも出来なかった、僕の心残り。


姉さんがドレスを脱ぐ。
きめ細かい綺麗な肌。
全体的に細い影。
人間でない証の角と蝙蝠の翼と黒い尻尾。
「…あまり、見ないでくれ。恥ずかしいだろう。」
「狭霧姉さん…。」
僕は姉さんを何も考えずに抱きしめる。
姉さんはそっと抱き返してくれた。
「身長、いつの間にか大きくなっていたんだな。」
「そうだよ…。もう何年経ったと思ってるんだよ。」
あの頃、姉さんの肩までなかった身長が、今は顔が近い。
「電衛門…。頼みがあるんだ。」
「お金以外のことなら。」
冗談で返す。
クスッと笑って、姉さんは微笑む。
「君も言うようになったね。」
「…一人が長かったからね。異国でこんな風に誰かに寄り添うなんて…、誰かに抱きしめてもらうなんて考えもしなかったよ。」
「お金のことじゃないから、安心していいよ。」
もう一度、触れるようなキス。
「私のことを…、姉さんを付けずに呼んでくれないか。」
「姉さ…、狭霧…さん。」
「それで…、いい。それで、私は君を客と…、割り切れる。」
脱いで、と言われ服を脱ぐ。
僕は…、あの日と違う状況でもう一度、好きな人に何も言えないまま身体を重ねる。


君は何もしなくて良い、と言われて、僕は狭霧さんにされるがままにされた。
大きくなった僕の分身を口一杯に頬張った狭霧さん。
まるで溶かされるように僕の分身が嘗め回される。
うっかり彼女の口の中で果ててしまったが、狭霧さんは何も言わず飲み込む。口元から垂れる涎とも僕の精液と判断のつかない液体を指ですくう仕草に背中に不謹慎ながら電気が走る。狭霧さんの姿に萎えかけた分身が、節操なく痛いくらいに硬さを取り戻す。
「ごめん。」
「いいさ、ここはそういう場所なんだから。」
と言って、狭霧さんは僕の上に跨る。
彼女の秘所に僕の分身を迎え入れる。
触れてもいないのに、すでに太股にかけて流れるほど濡れて、熱い。
「あぁぁぁぁ!」
「んんっ、以外…に、大きい、じゃないか。」
馬乗りに狭霧さんが上下に激しく動く。
膣の中もドロドロに熱くて、溶かされそうになる。
でも…。
狭霧さんの目の端に…、涙を見てしまった。


「狭霧さん…。」
気が付くと僕は彼女を押し倒すように繋がったまま彼女の上になっていた。
「ど、どうした。」
「僕は……。」
「それ以上言って…はぁ!」
遮るように彼女を突く。
「僕は…、あなたが好きです。子供の頃から…、今でも…、人間を辞めてしまったあなたも…、好きです。」
「だ、ダメ!…わらひ、と…キミ!もう…、離れすぎ!」
「じゃあ、近付けばいい!身請けだってしてみせる。金で解決できるならやってやる!どんな形でも、僕はあなたなしの人生は、もう嫌だ!もう会えないと思っていた場所で会えたんだ!もう…、離れられない!!」
「…っ!!」
狭霧さんが強く抱きしめてくる。
爪が背中に突き刺さっているのがわかる。
僕の胸に顔を埋めて、顔を見せてくれないけど震え具合と息遣いで泣いているのがわかる。僕は腰を振るのをやめて、少しだけ力を込めて彼女を抱きしめた。
「僕を…、信じてください…。」
「もう…、騙されるのも…、流されるのも…、ごめんだ。」
「狭霧さん…。」
「だから…、証拠を残してくれ。愛していると…、言ってくれ…。もっと…、君を…電衛門を忘れられないくらい…、愛してくれ!」
返事の代わりに再び彼女を突き上げる。
「あぁ!」
「何度だって言います。あなたが好きです!もう…離さない!!」
彼女の唇を奪う。
足りないものを求めるように、舌を絡めるキス。口を離せば、何度も糸が引く。それでも息が続く限り、僕たちは求め続けた。
部屋の中には水がぶつかる音と、肌がぶつかる音だけが響き続ける。
「狭霧…さん!もう!」
彼女の中に精液を吐き出さないように、腰を引いて抜こうとする。
すると彼女は身体に足を絡めて、離れないようにさらに身体を密着させた。
「構わないから…、電衛門で私を染めてくれ!!」
離れられないまま僕は彼女にすがり付く。
「で、出る!」
「ああ、来て!」
そして間髪入れずに彼女の膣の中を僕の精液で満たしていく。
彼女は歯を食い縛って自分に襲い来る絶頂に身を震わせる。
何度も往復して、彼女の中に擦り付けるように精液を一滴残らず出す。
「…終了のアナウンス、ないな。」
「うん。もう一回、良いかな…?狭霧さんの中で動いてたら…、その…。」
「…ふふっ。ああ、おいで…。何回でも愛してくれ。」
むせ返る淫靡な匂いの中での誓いのキスを僕らは何度も交わし続けた。




店の看板のランプの火を吹き消す。
今日の営業はこれで終わり。
「あ、お先にあがりまーす。」
「お疲れ様でーす!」
店の扉を出てきたのは、bPのディオーレさんとアルバイトでアナウンスをしているセイレーンさんだった。ディオーレさんは半袖のTシャツに破れたジーンズというラフな格好。綺麗な人は何を着ても綺麗だと再認識。セイレーンさんは対照的にギャル系の格好…。君は時代考証というものを考えたことがありますか、と問い詰めたい。小一時間問い詰めたい。
「お疲れ様です。今日は2人ともお疲れ様でした。」
「いえ、私はルゥさんや店長に休憩を多めに頂いたので大したことは…。」
「店長代理ー、良かったんですか?最後のお客さん…、終了のアナウンス入れなくて。」
「ええ、良いんですよ。」
時には商売抜きのサービスを…。
またお店の女の子がいなくなるので、スカウトが大忙しになるだろうなぁ。
まぁ、大事な人たちが幸せを掴めるのなら、それも良いかもしれない。
「これから遅い晩御飯ですか?」
「え、ええ…。いつもの居酒屋に2人で行こうかと…。」
「あたしも合コン失敗の憂さ晴らしにぃー!」
「そういえば、ディオーレさん。先日の休みの日にカフェでご一緒していた男性…、恋人ですか?随分と仲が良さそうで声をかけられなかったのですが。」
「え、見てらしたんですか?恋人…ではないですよ。ただの昔馴染みのお客さんですから…。」
セイレーンさんの目がキラリと光る。
「…もしかして、これから居酒屋で待ち合わせ!?だからさっきからソワソワしてたんだ!!」

こうして夜が更けていく。

明日はどんなお客が来るのだろうか。

もし、夜に迷い込んだのでしたら

是非当店にお立ち寄りください。

娼館『テンダー』

あなたのお越しを

いくつものドラマをご用意して

いつでもお待ちしております。
10/10/15 00:18更新 / 宿利京祐
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■作者メッセージ
リクエスト企画、終了〜!
今回はエロ控えめでシリアスに決めてみました。
物語のイメージはBOOWYの『Only you』です。
え、古い?

そして第五話、第六話、第七話とゲストで出演していただいた
佐藤 敏夫様、他肉類の旦那様、マディーン様
リクエストありがとうございました。
これにてサービスデイは終了させていただきます。
それぞれプラトニック、逆レイプ、純愛と
キレイにジャンルがばらけたので書いてて楽しかったです。

さて次回から本編を再開します。
実はこの話のどこかに、
前作から今までの物語への小さな矛盾を仕込んでいます。
それがこれから最終話までの鍵になる…だと良いな。

最後にここまで読んでいただきありがとうございました。

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