連載小説
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対決
 触手の森の最奥での戦いは、防戦一方という感じだった。
 触手の木々はレンディスやメイに反応を示し、彼女たちを絡め取るべく何度も触手を伸ばすが、ドラゴンの圧倒的な力の前に次々とはじき返されていく。
「王子さまも諦めが悪いですねぇ。そんなに一緒に触手エッチしたいんですかぁ〜?」
 メイは軽口をたたきながらも確実に僕を追い詰めようと、木々の間を分け入ってくる。
「わたしならいつでもいいんですよぉ。レンディスちゃんと違って人間嫌いじゃないですしぃ。おっぱいくらいならいつでも吸わせてあげますよぉ♥」
 彼女は火を吐きながら僕ににじり寄り、いつでも僕を仕留められる距離まで近づこうとする。
 その様子をレンディスは後方から眺めている。彼女は『私が手を出すまでもない』とでも言っているかのように、突っ立っているだけだった。
「早く仕留めろ、メイ」
「え〜、もうちょっと遊ぶ〜」
 相手が非力な人間ならどうとでもなると言うのか。腹の立つ奴だ。
「フォイエ!」
 しかし、そんなメイの余裕も、誰かの叫び声でかき消された。
「くっ……!」
 横から飛来する火砲。その対処に遅れ、メイは一瞬怯む。
 その隙に僕は攻勢に出て、鞘に納まった刀を抜く。
 神速の如く、とまではいかない。しかし、前かがみになった状態から引き抜く一太刀は死角からの超接近攻撃となり、相手を焦らせ、余裕を喪失させる。
「小癪なっ!」
 メイの声は荒々しくなり、魔弾を煩わしそうに左手で受け、僕の剣を右手で受けている。
 しかし、森の奥から次々と発射される高速詠唱の火砲は、左手だけでは防ぎきれず、メイの服を焼き、彼女の足に命中し、そして周りの木々を焼いた。
「大丈夫ですかっ!」
「メリーア!」
 触手の森の木々を薙ぎ、そして焼きながらメリーアが姿を現す。
 入り口の防衛に回ったレクシアを倒したのか、それとも入り口で隙をついてここまでやってきたのか。そのどちらかは分からなかったが、分の悪い2対1の状況において、彼女の援護は願ってもない幸運だった。
「これで2対2です」
 メリーアはレンディスたちに向かってそう言い放ち、胸元から短剣を取り出した。
「そんな短剣で私たちを倒せるとでも?」
「ええ。私には秘策がありますので」
 メリーアはにやりと笑い、短剣の切っ先をメイに向けた。そしてその行為に反応するように、後方のレンディスもにやりと笑う。
「じゃあその秘策、見せてもらおうかっ!!!」
 そう叫ぶとともに、レンディスの口元が赤く光る。
「まずい!」
 ブレスが来る。しかも周りを触手に囲まれた閉鎖空間に。
 防ぎきれない、そう思った時だった。
「我が土地、我が水脈に加護を!」
 メリーアが叫び、その叫びに同調して地表から水柱が上がる。
 そしてその水柱に飲まれ、レンディスのブレスは遮られた。
「テツヤ様、これが私の秘術です」
 彼女の起こした大きな水柱から出た水は、火を飲み込み、あたりで燻る触手の焼け跡に流れ込んでいく。意思を持つかのように火に反応し、そして蒸発していく。
 しかし水の精霊の加護を感じさせる水の挙動に、僕は違和感を覚えた。
「メリーア、まさかこれって……」
「ええ、そうです、古代のものですよ」
 やっぱりか。
 彼女の扱う魔術は、とても古い、魔物がまだ凶暴な存在で、人を殺し、その肉を食らう存在であるとされた時の魔法だ。あの時代はまだ水の精霊たちは魔物と言われる存在ではなく、れっきとした水の元素の集合体であった。
 そしてあの時代は、誰もが水を扱う高度な魔術を精霊たちから教わり、伝え、繁栄していたのだと言う。
 もちろん今でも彼女たち、水の精霊たちは僕らの様な人間や魔物娘たちに水の魔術を教えてくれてはいるが、高度な魔術を使うためには彼女たちと契約を結び、精霊使いとなるほかないのだ。
 それは古の魔術駆動式が忘れ去られてしまったためでもあり、私たちの魔力が現代の魔王一族の影響で変質してしまったためでもある。
 魔力の変質の問題は重大で、古の魔術の駆動式が存在し、伝えられていたとしても、発動しない場合があったり、過度に反応して暴発してしまう場合がある。そのため、術の一つ一つにあわせて魔力を変換し最適化させる必要がある。
 しかし、そのような古代魔術をメリーアは発動させ、そして成功した。
「すごいな、メリーア……」
「恐縮です……。でも、最善の戦闘を行うために戦闘のスキル、戦闘の一手一手を見直し、改善するのは軍師として、当たり前の務めですから」
 彼女ははにかみながら言った。
 
 



18/09/07 09:56更新 / (処女廚)
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