風の運ぶもの
触手の森の奥から風が吹く。
ひんやりとした風は私の頬をかすめ、そのなかに水の魔力が含まれていることを教えてくれる。
だから、この森の奥で誰かが水の魔術を使ったのだとすぐにわかる。
おおかた、水の魔術を使ったのはメリーアだろう。我が主はエルメリア様との訓練の際、火の魔術のみを学ばれていた。それはテツヤ様の魔術適性が検査を用いても不明であったため、汎用性の高いものを教えようという事になったからである。
私はその魔力の風を浴び、一つ小さな溜息をついた。
森の中ではメリーアとテツヤ様が居る。そしてその相手はメイとレンディスだ。双方とも強さはきっとこの学園の中でも上のほうだとは思うが、私が行かなくても大丈夫なのだろうか。
一抹の不安が脳裏をよぎり、最悪の結果を想定してしまう。
この戦闘でテツヤ様が倒されれば、班長の撃破によって相手チームの勝利はより近いものとなる。そうなればテツヤ様はあのレンディスという女に……。
「いや、そんなことはないはずです」
私は首を横に振り、妄想を吹き飛ばす。
きっとテツヤ様はあんな女には負けないはずだ。
私はもう一度吹く風を肺いっぱいに取り込み、深呼吸をする。
私の装備は突撃による負傷を防ぐための重装で、この森での戦闘には圧倒的に不利なものだ。それに加えてケンタウロス属は馬体の後脚が弱点となるため、四方を触手に囲まれているこの森の中での戦闘行為は非常にリスクが高い。
白兵戦であれば後ろを取られないような対処が可能だが、女に対して強い正の走性を持つ触手すべてに対応できるかと言われれば、無理がある。
そしてさらに、私の行動は監視されているのだ。
故に、彼を助けたいと思ってはいても、この場所から動くことができない。
私は女王のフェリーナ様からの密偵によって常に行動を記録され、女王の掌の中から抜け出すことができないのだ。
今朝、始業式の始まる前に私の部屋に届いていた手紙には、今日私が何をすべきか、そして、私がテツヤ様をこの学園に送り届けるまでに『何をしたか』という事が書かれていた。もちろん、私が道中にテツヤ様を襲う寸前までになったことも、そこには記されていた。
要するに、これは女王による脅迫なのだ。
だから、この指示に従わなければ、私はきっと……。
私はぐしゃぐしゃになった手紙を取り出し、もう一度読み返す。
そこには確かに女王の筆跡で二つの指示が書かれている。
「今学期最初に行われる演習では敗北寸前になるまでテツヤに敵を引きつけ、その後の勝利を単騎で援護せよ」
つまり一つ目の女王からの注文は、私とテツヤ様の二人で敵を倒し勝利することだ。これを達成し、騎士と主君の信頼関係を築け、ということらしい。なお、他の班員は勝利時に撃破されていることが望ましいとされている。その理由としては、テツヤ様と私の二人っきりで勝ち残ることで、テツヤ様により私の印象を植え付けるためだと言う。
しかし、この状況でテツヤ様を助けに入れば、私は触手に絡め取られて足手まといとなり、メリーアが撃破されずに残れば、目的は達成されなくなってしまう。故に私はもどかしく、この場所から動けない自分に腹が立っていた。
私がケンタウロス属でなければ、きっともう既にテツヤ様を助ける事ができたはずなのに。
そして、私がバイコーンでなければ、もう一つの指示に、あんなことは書かれなかっただろう。
私は、もう一枚の便箋を取り出し、その内容に目を通した。
「テツヤを犯せ。実力でねじ伏せ、強姦せよ」
たったそれだけの文章。それだけで私は女王の意図を知り、失望した。
彼女は国家統一の存在としてテツヤ様を祭り上げ、ハーレムを私に作らせて貴族たちをまとめ、その存在を生贄の如く使い捨てようとしているのだろう。
私は女王に対する深い失望の中で、私自身の血と業を呪った。
テツヤ様とは一緒に居たい。けれど、こんな形で一緒にいるのは嫌だ。
私が襲ってしまったあとのテツヤ様は、きっともうテツヤ様ではなくなってしまう。そんな気がしてならなかった。
けれども、私は……きっと。
しばらくして、また風が吹いた。
今度の風も肺いっぱいに取り込んで、深呼吸する。
今度の風の中には、一人の男の魔力がある。
私はその風を忘れないように体にしみこませてから、槍を持った。
ひんやりとした風は私の頬をかすめ、そのなかに水の魔力が含まれていることを教えてくれる。
だから、この森の奥で誰かが水の魔術を使ったのだとすぐにわかる。
おおかた、水の魔術を使ったのはメリーアだろう。我が主はエルメリア様との訓練の際、火の魔術のみを学ばれていた。それはテツヤ様の魔術適性が検査を用いても不明であったため、汎用性の高いものを教えようという事になったからである。
私はその魔力の風を浴び、一つ小さな溜息をついた。
森の中ではメリーアとテツヤ様が居る。そしてその相手はメイとレンディスだ。双方とも強さはきっとこの学園の中でも上のほうだとは思うが、私が行かなくても大丈夫なのだろうか。
一抹の不安が脳裏をよぎり、最悪の結果を想定してしまう。
この戦闘でテツヤ様が倒されれば、班長の撃破によって相手チームの勝利はより近いものとなる。そうなればテツヤ様はあのレンディスという女に……。
「いや、そんなことはないはずです」
私は首を横に振り、妄想を吹き飛ばす。
きっとテツヤ様はあんな女には負けないはずだ。
私はもう一度吹く風を肺いっぱいに取り込み、深呼吸をする。
私の装備は突撃による負傷を防ぐための重装で、この森での戦闘には圧倒的に不利なものだ。それに加えてケンタウロス属は馬体の後脚が弱点となるため、四方を触手に囲まれているこの森の中での戦闘行為は非常にリスクが高い。
白兵戦であれば後ろを取られないような対処が可能だが、女に対して強い正の走性を持つ触手すべてに対応できるかと言われれば、無理がある。
そしてさらに、私の行動は監視されているのだ。
故に、彼を助けたいと思ってはいても、この場所から動くことができない。
私は女王のフェリーナ様からの密偵によって常に行動を記録され、女王の掌の中から抜け出すことができないのだ。
今朝、始業式の始まる前に私の部屋に届いていた手紙には、今日私が何をすべきか、そして、私がテツヤ様をこの学園に送り届けるまでに『何をしたか』という事が書かれていた。もちろん、私が道中にテツヤ様を襲う寸前までになったことも、そこには記されていた。
要するに、これは女王による脅迫なのだ。
だから、この指示に従わなければ、私はきっと……。
私はぐしゃぐしゃになった手紙を取り出し、もう一度読み返す。
そこには確かに女王の筆跡で二つの指示が書かれている。
「今学期最初に行われる演習では敗北寸前になるまでテツヤに敵を引きつけ、その後の勝利を単騎で援護せよ」
つまり一つ目の女王からの注文は、私とテツヤ様の二人で敵を倒し勝利することだ。これを達成し、騎士と主君の信頼関係を築け、ということらしい。なお、他の班員は勝利時に撃破されていることが望ましいとされている。その理由としては、テツヤ様と私の二人っきりで勝ち残ることで、テツヤ様により私の印象を植え付けるためだと言う。
しかし、この状況でテツヤ様を助けに入れば、私は触手に絡め取られて足手まといとなり、メリーアが撃破されずに残れば、目的は達成されなくなってしまう。故に私はもどかしく、この場所から動けない自分に腹が立っていた。
私がケンタウロス属でなければ、きっともう既にテツヤ様を助ける事ができたはずなのに。
そして、私がバイコーンでなければ、もう一つの指示に、あんなことは書かれなかっただろう。
私は、もう一枚の便箋を取り出し、その内容に目を通した。
「テツヤを犯せ。実力でねじ伏せ、強姦せよ」
たったそれだけの文章。それだけで私は女王の意図を知り、失望した。
彼女は国家統一の存在としてテツヤ様を祭り上げ、ハーレムを私に作らせて貴族たちをまとめ、その存在を生贄の如く使い捨てようとしているのだろう。
私は女王に対する深い失望の中で、私自身の血と業を呪った。
テツヤ様とは一緒に居たい。けれど、こんな形で一緒にいるのは嫌だ。
私が襲ってしまったあとのテツヤ様は、きっともうテツヤ様ではなくなってしまう。そんな気がしてならなかった。
けれども、私は……きっと。
しばらくして、また風が吹いた。
今度の風も肺いっぱいに取り込んで、深呼吸する。
今度の風の中には、一人の男の魔力がある。
私はその風を忘れないように体にしみこませてから、槍を持った。
17/11/03 05:01更新 / (処女廚)
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