連載小説
[TOP][目次]
第十五話 「ネズミーランドヘようこそ、ハハッ!」
クレバネット中央区『親魔物区寄り』

スエードを見送った後、改めてギルドのクエストカウンターに向かい依頼一覧に目を通す。

テイラ「ドラゴン討伐、盗賊団の捕縛、迷子捜索、家の娘を探してください…」
教会からの連絡を待つために町を出たり『親魔物区』に入ることが出来ない為これらの依頼は受けられない。

テイラ「新作料理の試食、新薬の実験、お婿さん募集、抱いて下さい…イタタタッ」
うん、いかにも魔物娘達らしい依頼だ。
論外、それに声に出して読んでいたのでシルクにきつく締め上げられてしまった。

テイラ「鍛冶手伝い、飲み競べ、荷物整理及び店内清掃…これにするか。」
クエストカウンターで受領手続きを済ませ、依頼者の元へ向かう。

……
………

ギルドの紹介で雑貨屋のクエストを受領した亭拉は現在午後のコーヒーブレイク中。

テイラ「ラージマウスの窃盗団?」
店主「今までも散発的にラージマウスがちょっかいだしてくることは有ったんだが、最近急に増え出してなぁ。」
亭拉の煎れたコーヒーを片手に口髭を付けた痩身の店主が頬杖をつきながらぼやいている。

テイラ「でもラージマウス位なら普通の人間でも撃退できるだろう、ここには魔物も居るんだし。」
店主「それがよ、アイツ等妙に組織だってて全然捕まらねぇんだ。」
自分の店がやられた時を思い出したのか不機嫌そうに頭をボリボリとかきむしり出す。

シルク「ラージマウスは元々集団で行動する特徴がありますが、殆どはただ集まっただけで組織的行動をとることはあまりないと聞きますが…」
亭拉の横で新聞を読んでいたシルクが顔を上げ話に加わってきた時。

ガシャーン

雑貨屋の店先で商品棚が壊される音がする。

店主「畜生!また来やがった!」
慌てて放棄を手に取ると店先に駆け出して行く。

「今だ、この豆の袋三つと干し肉、チーズも忘れるな。」「ダー!」

テイラ「『範囲指定 店内』『逃走の否定』」

「同士メリヤス、体が動きません!」「おのれ、主神信仰の豚共の罠か!」
何やら裏の物置が騒がしいので見に行ってみる。

物置にはパンパンに膨らんだ風呂敷を背負ったラージマウスが二人。
テンプレドロボウスターイルの二人が顔だけをこちらに向けて固まっている。


……
………

店内

結局ラージマウスを取り逃がした店主とテイラの向かいに二人のラージマウスがシルクに巻き付かれた状態で床にベタ座りしている。

メリヤス「おのれ主神信仰の豚共、我々にこのような真似をして無事で済むと思うなよ!」
ギリギリと歯を鳴らしながら亭拉達を睨み付ける。

テイラ「よくわかったな。」
メリヤスの言葉を聞いてベルトに挟んであった聖騎士の証をちらつかせる。

メリヤス「ヒギイッ!」
相手が本当に教会の人間だと知って今度はガチガチと歯を鳴らし始める。

テイラ「さっき逃げた奴の事も有るし、お前らには仲間の居場所を吐いてもらおうか。」
人差し指で聖騎士の証をくるくると回しながら少し見下したようにラージマウス達を見ながら尋問する亭拉にシルクと店主は少し引きつつも黙って話を聞いている。

メリヤス「我々を見くびるな!何があろうと同士を売るような真似はしない!」
目に一杯の涙を浮かべつつも強気の姿勢を崩さないラージマウス。

テイラ「素晴らしい勇気だな、感動的だ、だが無意味だ。震える尻尾は隠しながら言いたまえ、それに…」
明らかに何か良からぬことを考えている表情でニヤリと笑うと、
テイラ「吐かせる方法はいくらでもある。」
そう言うと静かに席を立ち、コツコツと歩き始める。


……
………

???「…勇敢なる同志諸君。」
暗がりの中、一人の小さな影が十数人の小さな影を前に何かの演説を行っている。

???「ラッセル上等兵、メリヤス伍長はかけがえのない戦友だった。」
演説を聞いている者達の中から啜り泣く声が聞こえる。

???「 鎮魂の灯明は我々こそが灯すもの。亡き戦友の魂で、我らの歯は復讐の女神となる!」
演説も佳境に入ったのか段々と語気が強くなってきている。

???「齧歯類の裁きの下、上顎中門歯で奴らの金庫を食い破れ!!」
???「「「ウラーッ!ウラーッ!ウラーッ!」」」

一人の小さな影の演説を聞いていた十数人の小さな影が一斉に右の拳を振り上げ雄叫びを上げる。

バターンッ!

テイラ「勝手に殺してやるな。」
アジトの扉を蹴破りネゴシエーターを担いだテイラと二人のラージマウスを絡め取ったシルクが入ってくる。

部屋の中に光が入り十数人のラージマウスの姿が照らされている。
彼女達の目線は一斉に亭拉達に向けられ、その瞳には明確な敵意が感じ取られる。

???「メリヤス伍長、貴様を同士達を売るような奴だとは思わなかったぞ!?」
演説をしていたラージマウスはシルクに巻き付かれたラージマウスを睨み付け、亭拉達と同様の敵意を向ける。

メリヤス「すまない同士、余りにも過酷な拷問に耐えきれず…」
涙と鼻水を滴ながら答えたラージマウスの顔をシルクはハンカチで優しく拭いてやっている。

拷問と言う言葉を聞いて演説を聞いていた方のラージマウス達がざわざわと騒ぎ始めた。

???「発言を許可した覚えはないぞ、メリヤス伍長!」
しかし演説をしていたラージマウスの一喝で全員黙り込んでしまう。

ラッセル「しかし大尉、この教会の騎士は我々二人の前で…」
大尉と呼ばれたラージマウスに発言を拒絶されるも感情を押さえきれなかったラージマウスが強引に話を続けようとする。

ラッセル「この騎士共は、我々を縛り付けた目の前で…」
大きく見開いた瞳に溢れんばかりの涙を称え、

ラッセル「チーズフォンデュを始めたので有ります!!」
その言葉を聞いた瞬間ラージマウスのアジトが怒号に包まれる。

同士の受けた拷問に怒り飛び掛かろうとする者、その場に泣き崩れる者、拳を握りしめ歯を食い縛り肩を震わせる者、涎を垂らし呆然とする者。

サハロフ「サクサクのライ麦パン、プリップリのソーセージ、青々としたブロッコリーにアスパラガス、、更にはプチトマトまで!!」
怒号は更に大きくなりアジト全体をビリビリと震わし始めるまでになった。

大尉「黙れ!」
またも大尉の一喝でアジトは静まり返るが、依然啜り泣く声だけは残っている。
大尉もその声にはあえて触れず亭拉にのみ怒りの矛先を向ける。

大尉「同士二人の処遇は今は問うまい、でもその前に。」
少し俯き、右手で顔を被い人差し指で額をトントンと叩きながら、

大尉「オイタの事は謝って貰わないと…なぁ騎士殿、とりあえずそこに跪きなさいな? 」
話し方こそ穏やかだが顔に影が射しており表情は読めない。

テイラ「おいおい、争うつもりは無いんだ…」
大尉「 ひ ざ ま づ 『ドゴキャッ!!』…け?」
亭拉を睨み付け最後の一声を発した瞬間、亭拉は今まで担いでいた『ネゴシエーター』をアジトの石造りの床に『全長の半分ほど』まで突き刺し笑顔をままでラージマウス達に話しかける。

テイラ「争うつもりは無い、この通り武器は捨てた。」
笑顔のまま話続ける亭拉と床に突き刺さった黒くて太くて固い物を交互に見比べ、現状を理解するラージマウス達。

テイラ「さぁ…は な し を し よ う じゃ な い か ?」
我が子の成長を見守るような慈悲深い笑顔の背後に地獄の釜の底の様なドス黒い揺らぎを見せる。

バキィッ

床の石材にヒビが広がる音と共にラージマウス達の心も折れ、数人のラージマウスの足元には湯気のたつ水溜まりが出来ていた。


……
………

中央区 親魔物区寄りの雑貨屋

店の一角の商品を移動させ、ラージマウス達全員が正座し微動だにしていない。
漏らしてしまったラージマウスはタオルを腰に巻いている。(ズボンとパンツは裏で店主が洗濯している)

テイラ「全く、何故わざわざ中立領で魔物の評判を落とすような真似をしてしたんだ?」
この世界の魔物は一応人間に対して友好的である。
一部は行き過ぎた対応をする者達も居るが大抵は彼女達にとっての愛情表現である場合が多い。

大尉「中立領や親魔物領の魔物娘だからと言って、皆が安穏と暮らしている訳ではない。」
腰に巻いたタオルの隙間から白くてスベスベした太股がかなり際どい位置まで覗いている大尉が、亭拉に問われ意を決したように語り始める。

大尉「魔物には其々特徴や特技がある、基本的に食事を必要としない者、高度な技術を持つ者、商才を持って富を得る者、絶大な権力や魔力を持って他を従える者と様々だ。」
淡々と話しているように見えてその言葉には悔しさが滲み出ている。

大尉「しかし、我々の様な矮小で繁殖力以外に取り柄の無い、魔力も録に扱えない者達は…他人からなにかを奪って細々と生きて行くしかないのだ…」
俯く大尉の太股の上に乗せられた握り拳にポタポタと涙の雫が落ちる。

テイラ「バカな奴等だ、全く持って馬鹿馬鹿しい。」
今まで黙っていた亭拉だが、ラージマウス達の盗みを働いた理由を聞いて心底呆れたように切り捨てた。

大尉「キサマッ!ならば我々に死ねとでも言うつもりか!?」
亭拉の態度に激昂し膝立ちになった瞬間、腰に巻いたタオルがパサリと落ち一切毛の生えていない秘部が露になるがそれさえ気にならないほど彼女の怒りは強かった。

テイラ「盗むか死ぬかなんて不毛な二択にしか辿り着けない事がバカだって言ってんだ、お前らにはその数とすばしっこさと統率力が有るだろう。」
そう言うと席を立ち商品棚へ向かう。

テイラ「おーい店主、この赤い生地をもらうぞー。」
棚から一巻き五十メートルの羊毛で織られた赤い生地を片手で引っ張り出す。

店主「おーう、ちゃんと金は払えよー。」ジャブジャブ
店の裏でパンツを洗っていた店主の返事を聞くと鞄から裁縫セットを取り出し、
テイラ「『失敗の否定』」
生地から焦げ臭い臭いが立ち込めるほどの高速でハサミを振るうと瞬く間にパーツを切り離して行く。

テイラ「アータタタタタタタ!」
残像すら残さないスピードで時折音速の壁をブチ破る音を出しながらある物を縫い上げていく。

テイラ「…ふぅ。」
やり遂げた顔で一息着くと額の汗をぬぐう。

そしてテーブルの上には十数個の赤いベレー帽が山積みになっており、亭拉はその中から一つだけ金色の糸で縁取りのされた防止を手に取り大尉の頭にそっと被せる。

大尉「これは?」
テイラ「大尉、君を本日付で『独立御用聞き部隊 レッドキャップ』の隊長に任命する。この雑貨屋を拠点とし小包の配送等の軽作業を一手に引き受けること。」
そう言うとくるりと後ろを向き両手を背中の腰の位置で合わせ二、三歩前へ進むと後ろ話振り向かずに一言付け加える。

テイラ「復唱は?」
すると大尉は立ち上がり、踵を揃えて敬礼する。
大尉「了解しました、本日より『独立御用聞き部隊 レッドキャップ』行動を開始いたします。」
大鼠達「「「ウラーッ!ウラーッ!ウラーッ!」」」
自分達が必要とされている事ともう盗みを働かなくて済むことに歓喜したラージマウス達が立ち上がり一斉に歓声を上げる。

テイラ「早速だが大尉。」
大尉「ハッ、何なりとご命令を!」
敬礼を解き亭拉に注目するラージマウス達。

テイラ「パンツを履きたまえ。」
キャッと可愛い悲鳴を上げて顔を真っ赤にして両手で秘部を隠す大尉を見てラージマウス達は一斉に笑いだし、何事かと駆け付けた店主は大尉のプリケツを見て同じく赤面するのであった。

――――――――――――――――――――――――――――――――

レッドキャップ

後に大きな町には必ずと言って良いほど組織される小型魔物娘達の御用聞き集団。

他を圧倒するほどの能力を持たない彼女達は組織的に行動することによって互いの短所を補い、長所を生かすことで業績を上げた。

その業種は幅広くラージマウス達の運送業の他、ワーキャットの高所作業、バブルスライムの下水清掃等。

積極的に人間の役に立つことで人間達の偏見も少なくなり、結果的に人間と魔物の橋渡し的な役割を担うこととなる。

その第一号が『クレバネット』の雑貨屋の一角にできた『レッドキャップ第一部隊』。
結成後間も無く大尉と店主は結ばれるが、店主は生涯大尉に頭が上がらなかったと言う事を亭拉達は知ることは無かった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
13/03/18 14:09更新 / 慈恩堂
戻る 次へ

■作者メッセージ
どうも、慈恩堂です。
かなり時間が空いてしまいました。
主な原因はラージマウス二人の名前が決まらなかったせいです。
しかし回を増す毎に亭拉君が親魔物派になっている気がしてなりません。


週刊魔物娘

【ラージマウス窃盗団あらわる】
ここ最近ラージマウスによる食糧の盗難事件が多発している事を受けクレバネット自警団は警戒を呼び掛けている。
犯行手口は様々で壁や床に穴を開けて侵入する他、囮を使った犯行や集団での一斉窃盗等多岐にわたる。
読者の皆様もくれぐれも食糧の保管には気を付けていただきたい。

【カンバスにて新薬開発】
サバト『カンバス支部』にて強力な魔力を持つマンドラゴラが採取されより強力な魔法薬の製造が可能となった。
まだ量産には至っていないが魔物娘達の熱い夜の生活を支える日もそう遠くは無さそうである。

【連続幼女誘拐事件発生】
クレバネット内で魔物娘の幼女を狙った誘拐事件が多発している。
現在教会の犯行か奴隷商人の犯行かも解っていない為、お子様をお持ちの片はくれぐれも目を離さないでいただきたい。

【人間の ぶらり旅話】

皆様は旅をするとき何に気を付けますか?
教会?盗賊?悪徳狸?
私は自然災害に気を付けたいと思います。
と言うの『ブラジア』から『クレバネット』へ移動中に酷い砂嵐に遇いまして危うく死ぬところでした。
幸いにも私と旅仲間は勿論、旅荷物も無事着地出来ました。
クレバネットからは離れてしまいましたがお陰で面白そうな町に辿り着くことが出来ました。
次回はそちらでの話を書かせて頂こうと思います。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33