連載小説
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最終話 未来(あす)を決める戦い ルシィラVS邪剣の信徒エスタラニィ
 ルシィラは、エスタラニィに向かって走っていき、手に持つ剣を邪剣に向かって振り下ろす。だが、エスタラニィはそれを無視するかのように、私の剣を邪剣で受け止める。

キィン

 だが、金属音とはすこし違う音と手ごたえが返ってきただけで、邪剣自体が無傷のようだ。
 ルシィラに続き、クラウニスとファルナールも、エスラタニィに向かって走っていく。その間に、魔女達が強力な魔法を発動するため陣を展開する。邪剣に向かった2人は、手に持った武器で、邪剣に向かって攻撃する。が、2人もルシィラと同様の結果となる。

 その時、私は気がついた。武器が邪剣に命中する瞬間、その周囲が一瞬歪んで見えたのだ。あれはいったい・・・?
 私がそう考えていると・・・。

(ルシィラさん、今邪剣の周囲が一瞬歪んでいませんでした?)

 そう、私の中のクレミリアが言ってきたのだ。

「クレミリア、貴女もそう見えたの?」

(はい〜!)

 あの変な手ごたえ・・・、邪剣にはなにかある。そう私は思っていた。

 一方。周囲の魔女達の動きに気付いた邪剣は、(エスタラニィの体で)魔法を放ってくる。

「フォース・ミサイル【力場の矢】」

 エスタラニィの空に掲げた手から何本もの魔法の矢が射出され、それぞれが全て魔女に向かって飛んでいく。だが、その内の何本かをクラウニスが盾で受け止める。

「おっと、お前の相手は俺達だぜ。」

 だが、それでも何本かが、魔女達に届いてしまっている。

「っきゃ」
「っわ」

 魔法が命中したものの、それでも魔女達は陣を展開するのを諦めない。そして、周囲に展開した魔女達が、一度に同じ魔法を使用し、その力を増幅させる。

「「「アース・アスペクト・ロック【地相拘束】」」」

 魔法が発動すると、隆起した大地全体の地表が、薄い緑色の光を放つ。

「よくやったぞ魔女達よ。さあ邪剣よ、ここら一帯の地脈の流れを拘束した、これでこの魔法が効果を発揮しているかぎり、地脈のエネルギーを操作して、何かを引き起こすことはできんぞ!」
「ほう。」
「クラウスデルの街を壊滅させた隕石を呼ぶ能力も、地脈のエネルギーを操作しなければ使えないようじゃしの。手品のネタさえ分かっていれば、対策の取りようなどいくらでもあるのじゃ。」
「ならば簡単な事だ・・・、お前達全員を殺し魔法を解除するだけでいい・・・。」

 そう言うと、エスタラニィ(の体)は剣を空に向かって掲げると、その剣に闘気を纏わせはじめる。あの技は・・・!

「みんな、邪剣から離れて!」

 そして、邪剣が振り下ろされそれが地面に到達すると、そこから周囲に向かって衝撃波が放たれる。間一髪、私達はエスタラニィから距離を取ることができ、吹き飛ばされることは無かった。

「この技は・・・。」
「そう、たしか《爆裂波》とか呼んでいるそうだな。貴様の妹も、姉に少しでも近づきたくて練習していたようだぞ。」
「うあぁぁぁぁ」

 私は邪剣に向かって、再び走りだす。クラウニスさんも、それに続く。そして、邪剣に向かう私達の後ろから、ファルナールとミシェリスの2人が魔法を放った。

「ファイアー・ボール【火の球】」
「ライトニング・ブラスト【電撃波】」

 いくつもの魔法の矢が邪剣に向かっていき、たしかに邪剣に命中したのだが・・・。魔法の矢は、そのまま邪剣を突き抜けてしまう。だが、邪剣に穴が開いたのではなく、邪剣そのものは無傷である。

「なんじゃと!」
「うそ〜」

 後ろからそんな声が聞こえてきたとき、私とクラウニスさんが邪剣の元に到着する。それを、エスタラニィの体は邪剣を横に薙ぎ払って牽制しようとする。
 そのサイドスィングを盾で受け止め、クラウニスは気なっていたことを聞いた。

「よう。なんでまた、教会の連中に妙な知識を与えたんだ?」

 すると、邪剣はこう答えた。

「簡単なことだ。我も武器である以上、宿主となる我を振るう者がいたほうが、我も真の力を発揮できるというもの。お前達が教会とよぶ連中に知識を与えたのも、我が宿主にするに相応しい存在を教会に作らせようとしたためだ。もっとも、その教会の連中は、せっかく教えた知識を十分活用できずに、自滅したようだがな。」
「っち・・・、やはり一連の事件の背後に居たのは貴様だったのか。」

 その2人(?)の会話のさなか、盾で動きが止まっている邪剣に向かって、ルシィラは剣を振り下ろす・・・。だが、先ほど同様に妙な手ごたえで剣が防がれてしまう。

「やはりだ、私の剣が邪剣に当たる瞬間、その周囲の景色が歪んで攻撃が弾かれてしまう・・・。」

そして、後ろから2人が同じ魔法を放つ。

「「スコーチング・レイ【焦熱の光線】」」

 だが、その魔法の光も、再び邪剣を通り抜けてしまう。

(ルシィラさん、魔法の場合は、魔法の光自体が剣を避けて行っているみたいですよ。)

 そう、私の中のクレミリアが言っていると。今度は、魔女達から邪剣に向かって魔法が放たれる。

「ロック・ボルト【岩の矢】」
「ウォーター・ボルト【水の矢】」
「ウィンド・ボルト【風の矢】」

 今度は、私も見た!たしかに、魔法の力が邪剣の剣身を逸れて行っている。

(ほら!また!)

「ええ、確かに私も見たわ。」

 立て続けに魔法を受けた邪剣は、一旦私達から距離を置く。

「すこしは・・・、数を値引きした方がいいようですね。」

 そう言って、エスタラニィは片手を空に向けると、魔法を発動させるための呪文を唱えはじめる。

「我は告げる使者の理、上天の光、降り注ぐ柱にて受けるは絶望の輝き・・・」

「セレスティアル・ミサイル【上天の矢】」

 エスタラニィの手から魔法が放たれると、一筋の光が空に向かって昇っていく。その光がある程度の高さまで昇ると、そこに巨大な魔法陣が出現する。その魔法陣を中心に、小型の魔法陣が周囲に出現し、その小型の魔法陣から地上に向けて、幾筋もの光が射出された。

ドゴォォッドコォォッドゴォォ・・・

 地上に射出された無数の光は、地表に到達すると爆発を引き起こした。
 エスタラニィの魔法を食らい、数人の魔女が倒れる。倒れた魔女達は、まだ戦える魔女達の手によって、ファルナールのサバトに負傷者として転送されていく。その様子を見ていたイエルは・・・。

「ファルナール様・・・、このままでは。」
「これは・・・、エスタラニィを死なない程度に、戦闘不能に追い込んで足止めしないといかんの!」
「そんな・・・。」

 そう言い、ファルナールはエスタラニィに向かって手を突き出し、その手に魔力を集め始める。

「っく、エスタラニィ・・・、多少の傷は覚悟してもらうぞ!」

 そう言って、ファルナールは魔法を放つ。

「レゾネイティング・ボルト【共鳴の矢】」

 ファルナールの開いた手から、途轍もない音の衝撃波が解き放たれ、邪剣とエスタラニィに命中し周囲に土埃が舞う。その魔法は、対象と周囲の物体の両方にダメージを与えることができる魔法。邪剣にダメージを与えつつ、エスタラニィにも傷を負わせることで、その動きを止めようというのだ。だが・・・。

「どうじゃ?」

 土煙が晴れた先には、傷一つついていない邪剣と、平然と立ち続けるエスタラニィの姿があった。衝撃に巻き込まれたエスタラニィも、多少は傷を負ったようだが・・・。それを見た、ファルナールが声を上げる。

「ばかな、あれ程の魔法を受けて、あの程度の軽傷ですむはずが・・・。」

よく見れば、エスタラニィの傷がみるみるうちに消えていく。それを見たエレリーナが、呻いた。

「あの邪剣は、振るう者に力や魔力を与えるけど、まさか高速再生までさせる程なんて・・・。いったい、どれ程の力を彼女に与えているのよ・・・。」
「っくっくっく・・・、お遊びはこれまでだ!」

 エスタラニィは、間合いに誰もいないのに、邪剣を横に振るう。これは・・・、あのとき私達を敗走させた衝撃波の攻撃!
 今度もまた、私達が避ける事ができないよう広範囲に放ってきた。

「ウォール・オブ・フォース【力場の壁】」

 私が身構えて間に、ファルナールがエスタラニィの攻撃に対応して魔法を使用する。すると、こちらに向かってきた衝撃波が私達の直前で拡散し、私達の周囲だけを吹き飛ばして行く。

「その攻撃は二度も見せてもらったからの。いつでもこの魔法が発動できるように、準備しておったのじゃ。物理攻撃では、その壁を貫けぬぞ!」
「なら、お遊びはこれくらいにするまでだな・・・。」
「お遊びじゃと?」

 エスタラニィが、衝撃波が拡散した地点にむかって歩いて来る。それを見ていた私は、ある事に気がついた。

「何?剣身の表面が、やや歪んで見えるんだけど・・・?」
「む?言われてみれば・・・、その様な気もするがの〜・・・、蜃気楼か何かかの?」

そして、魔法の壁の直前にまで来たエスラタニィが、軽く剣を振るうとガラスの砕けるような音と共に、不可視の壁が壊れた。
 エスタラニィは、そのまま私達に近づいて来ると、ファルナールをあざ笑うかのように言い放つ。

「『ウォール・オブ・フォース』の壁といえども、一度ヒビが入ると脆いものだな。」
「馬鹿な!物理攻撃ではあの壁は突破できぬはずじゃぞ!」

 そのファルナールの声に、エレリーナさんが答えた。

「あの邪剣は刃がない代わりに、空間に歪みを発生させ・・・、その歪みで敵を空間ごと斬り裂く力。力場の壁だけじゃなく、攻撃にも使用できるのね。」
「そうか・・・、剣身が歪んで見えたのは蜃気楼ではなく、空間そのものが歪んでいたからか・・・。」

でも・・・、それって基本的に斬れないモノは無いって言わない?

「なるほど・・・、その空間の歪みを使って、敵の攻撃を防いでいる訳か。おいミシェリス、魔法攻撃で空間の歪みを突破できないのか?」
「無理ね、魔法そのものが空間の歪みにそって、相手をそれて行っちゃうのがおちね。」

 ミシェリスの答えに対し、わたしがファルナールに意見を言う。

「さっきの魔法で、力場の壁のように中和はできないの?」

 それに対しては、イエルが答えた。

「剣の周辺に展開している空間の歪みからは、魔力を一切感じません。あの力場の障壁とは、発生のさせかたのパターンが違うのでしょう。アンティ・マジック・フィールドの魔法で中和できる可能性は、かぎりなく低いと思われます。」
「そう・・・」
「それに、仮に中和できたところで、こちらの魔法も一切使用できなくなりますからね。先ほどの衝撃波を連発されたら、こちらが全滅するのは必至です。」
「ならば!」

 そう言って、ファルナールがまた手に魔力を集め始める。

「空間の歪みで攻撃してくるのなら、その空間そのものを固定してくれるのじゃ!」

「ディメンジョナル・アンカー【次元間移動拘束】」

 ファルナールはその手から緑色の魔法の光を放つが、邪剣に命中するものの、その緑の光が拡散してしまう。

「っく、この魔法は、空間の歪みに影響されずに相手まで届くのじゃが・・・。バフォメットのワシの魔力を持ってしても、奴の抵抗力の方が遥かに上だというのか!」

 どうやら、剣そのものに魔法は届いたものの、剣自身が持つ抵抗力によって魔法が弾かれたようだ。
 あらゆる攻撃を、空間歪曲と魔法抵抗によって阻まれたファルナールは・・・。

「イエル!」
「はい。」
「分かっておるな。」
「ええ、言わなくてもわかっております。」

 そう言って、イエルは他の魔女達に指示を飛ばす。指示を受けた魔女達は、先ほどの魔法で崩れた陣形を直すべく、再び邪剣を取り囲むように配置していく。

「何を思いついた所で、全ては無駄だ!」

 そう言って、エスタラニィは私達に向かって、薙ぎ払うかの様にサイドスィングを繰り出す。今度は、盾で受ける訳にもいかず、皆後退することで攻撃を避ける。
 エスタラニィは、追撃するかのように、さらにサイドスィングを繰り出してくる。それを、ひたすら避わし続けるルシィラ達。

「どうした!逃げているばかりでは、私は倒せんぞ!」

 そう言って、今度はクラウニスに向かって突きを繰り出してくる。
 クラウニスはその攻撃を、体を真半身にして避わし、邪剣の剣身に向かって斜めから斬り下ろす。
 が、やはり攻撃は空間の歪みに阻まれ届かない。

「どうした?先ほどみたく盾で防いでみたらどうだ?」
「っく」

 だが、その挑発に乗る訳には行かない。挑発に乗ったところで、盾ごと体を貫かれるか、体を真っ二つにされるのが落ちだ。そこへ、ミシェリスも魔法を放つ。

「ダーク・ボルト【闇の矢】」

 だが、結果は変わらなかった。

「やっぱりダメ、魔法も物理攻撃も全部ふせがれちゃう。」
「このままじゃ、じり貧だぞ!」
「剣身の空間を歪めるなら!」

 そう言うと、ルシィラはエスタラニィに走り寄ると、邪剣を持つエスタラニィの手の甲に向かって柄頭で突きを放つ。が、その攻撃すらも空間の歪みに防がれた。

「残念だったな!空間を歪ませる事ができるのは、剣身の表面だけではなく、剣そのものの周辺もできるのだよ!」
「・・・」

 だが、ルシィラは攻撃が防がれた事を考えていなかった。ルシィラは、アヌビスの預言者が言っていた言葉を思いだしその事を考えていたのだ。

(デュラハンであるお主が魔剣を追うこともまた運命)

 そう、それはもしかしたら、私が、妹がデュラハンであることも、なにか意味のあることではなかったのか。
 そして、ルシィラは叫んだ。

「誰か、一瞬でもいいから・・・、エスタラニィの動きを止めて!」

 そう言う私に対し、一人の者が名乗り出た。

「それなら、私にまっかせなさ〜い。」

 その言葉にしゃしゃり出てきたのは、ミシェリスだった。

「食らいなさい!」

 そういって、ミシェリスの目が赤く光った。
 彼女の使える能力の一つ。『麻痺凝視』である。はたして、これが邪剣に力を与えられているエスタラニィにどれ程の効果が与えられるか・・・。

 その能力を受けて、エスタラニィの動きが僅かに止まる。だが、直ぐに麻痺を振り切ったようだ。
 だが、その一瞬でも私には十分だった。
 私は、エスタラニィに向かって突っ込み、サイドスィングを繰り出す。

 私の一撃が命中し、エスタラニィの首を刎ねた。
 もちろん、エスタラニィは私と同じデュラハンだから、首を刎ねられても死ぬことはない。
 だが、邪剣はそうはいかなかったようだ。

「ぐおおおおォォォォォン」

 邪剣からすさまじいうめき声が聞こえる。
 私は、刎ねたエスタラニィの首を拾って抱き寄せる。すると、エスタラニィは気がついたようだ。

「ん・・。お姉ちゃん?」
「まったく・・・、貴女は馬鹿よ・・・。」
「ご、ごめんなさい・・・。でも、私・・・、どうしてもお姉ちゃんを助けたかったから。」
「・・・、分かっているわよ。」

 そういって、私は首だけのエスタラニィを抱きしめた。そして、私はエスタラニィの体の方を見たのだ。
今、妹の体の首があった所から、すさまじいエネルギーが抜けて行くのが分かる。邪剣は、持ち主に力を与えると。そして、魂を食らうことで、力を蓄えると。なら、その力は無尽蔵では無ないはず。
そして、持ち主に力を与えるのなら、持ち主に邪剣から力を与えるパイプラインが形成されているはずである。ならば、そのパイプラインを通して、力を放出してしまえばいいのだ。
 そう、今邪剣は首の無い妹の体という、いわば詮の壊れた蛇口からそのパワーを止めることなく出しているのである。
 そういった状況である以上、邪剣の取るべき行動は一つ。すなわち、妹の体から邪剣を離すことである。だが、妹の体は邪剣を握ったままだった。

「よくも、私の体を好き勝手に使ってくれたわね!この私が、そう簡単に離すと思う?」

 私が抱えた妹の首がそう言った。どうやら、やられた分はきっちりやり返す気らしい。まったく、エスタラニィらしいというか。

「おのれ、我が邪魔をすると言うのなら!」

 そう言うと、邪剣から魔力が解放された。

「アイシクル・シャワー【降り注ぐツララ】」

 その魔法により、邪剣とエスタラニィに向かって無数のツララが降り注ぐ。邪剣は空間の歪みによりツララを防ぐが、エスタラニィはツララの直撃を受けてしまう。

「っきゃ」

 ルシィラの手の中にエスタラニィの首があるとはいえ、感覚が繋がっている彼女は思わず悲鳴を上げ、その体は邪剣を手放してしまう。
 邪剣が、ようやくエスタラニィの腕から脱出するのを見計らい。私は、彼女の首を胴体につけた。

「大丈夫?」

 あれだけのエネルギーが通り抜けたのだ、体のほうは大丈夫なのかと思ったが。

「ええ、どうやら、ヤツは自らを振るう者を自動的に防護する能力があるみたい。それに。ヤツから送り込まれたエネルギーがだいぶ残っているから。色ボケせずには済みそう。」

 そう言って、立ち上がったのだ。

「んっふっふっふ。このまま、済ますつもりは毛頭ないわよ。」
「エスタラニィこれを。」

 そう言って私は、エスタラニィに彼女の剣を渡した。

「ありがとう、お姉ちゃん。」

 一方の邪剣は、エスタラニィの手を離れると、そのまま切っ先を下に向けた姿勢で空中に浮いている。

「さあ・・・。」
「今度は私達の番よ!」

 そう言って、エスタラニィはルシィラから受け取った剣を抜き、邪剣に向かって走り出す。ルシィラもそれに続く。

「ミラー・イメージ【鏡像】」

 それに反応した邪剣が魔法を放つと、その姿が7つに分裂する。

「幻を出すっていうのなら・・・、全てを攻撃するまでよ!」

「パルス・エクスプロージョン【瞬間衝撃爆発】」

 エスタラニィが放った魔法の爆発が、7つに分かれた邪剣全てを一度に巻き込む、それにより全ての幻が残り、1体だけ残った本体にルシィラが斬撃を入れるが、やはり空間の歪みに阻まれる。
 だが、ルシィラとエスタラニィの攻撃を受けて、邪剣の動きが止まったところへ・・・。

「今じゃぁぁぁ、イエルゥゥゥ。」
「「「「「ディメンジョナル・アンカー」」」」」

 ファルナールの掛け声と共に、いつのまにか邪剣を囲むようい配置していた魔女達が一斉に同じ魔法を放った。その魔法は、本来なら空間の歪みを補正し、効果範囲内での空間を越えた移動を阻害する魔法。だが、イエル達がその魔法を使用したのは別の目的があったからだ。
 先ほど、ファルナールが放ったときは、邪剣の魔法抵抗で効果が無かったが・・・、今度は届いた。

「なに!」

 そこへ、邪剣に向かって跳躍したルシィラが、思いっきり剣を振り下ろす。

 ガキィィン

 手元に感じる金属どうしがぶつかる感触。攻撃が・・・、届いた!
 先ほど、魔女達が放った魔法は、空間を固定させることで空間の歪みによる次元移動を制限する魔法。歪みの発生を防ぐ効果で、邪剣の空間の歪みを生み出す力を封じたのだ。

「思った通りじゃの。力の大半をエスタラニィによって流出され、さらに魔女達が同時に力を合わせて放つ合同魔法によって魔力を増幅された魔法は、さすがに防ぎきれんかったようじゃの。」
「魔法が届くというのでしたら・・・。」

 そう言って、エレリーナさんも魔法を放った。

「リベレーティング・ソウル【魂の解放】」

 彼女が魔法を放つと、空は厚い雲に蓋われているのに、邪剣に光が射す。その光を邪剣が浴びると・・・、邪剣の中からいくつかの光が飛び出す。

「貴様・・・、我が食らった魂を・・・。」
「貴方が魂を食らうことで力を回復するのなら、私はその魂を解放します。」

 彼女が放った魔法は、本来ならば自縛霊や死霊術師に操られた霊魂を解放し、昇天(成仏とも言う)させる魔法だ。この場合、邪剣に捕らわれた魂を解放し救う事で邪剣の力を弱める、まさに一石二鳥の魔法だ。
 だが、その魔法を見たクレミリアは、ますますルシィラの体から出られなくなってしまった。

(はう・・・、今回私は出番なし・・・。)

 一方、邪剣に斬撃を入れたルシィラは、振り下ろした剣を返し、斬り上げる。

キィィン

 今度は、そのまま振り下ろす。

キィィン

 その全ての斬撃が邪剣に届く。だが、邪剣もやられる一方ではないようだ。

「そのような事をしたところで、貴様達が苦しむ時間が延びるだけだと言うのに。」

 そう言うと、邪剣の体に変化が訪れた。今までは、空間の歪みによって対象を切り裂いていたので、剣身の縁には刃がなかったのだが・・・。

「はて、幾世紀ぶりだろうか、我が肉体によって敵を切り刻むのは・・・。」

シャァァァァ

 奇妙な音と共に、邪剣の剣身の縁が剣先から柄に向かって刃に変わったのだ。

「っふっふっふ・・・、行くぞ。」

 邪剣は、自身を横に回転させながら、私達に向かって突っ込んでくる。

ガキィィィン

 だが、その攻撃をクラウニスの盾が止める。

「どうした、伝説の邪剣の割には切れ味が悪いんじゃないのか。」

 そして、そのまま右手の剣を振り上げる。

「空間ごと切り裂く能力に、頼りすぎなんだよ!」

 そう言って、剣を振り下ろす。

ガキィン

 金属音が鳴り響き、クラウニスの攻撃も邪剣に届く。そのクラウニスの攻撃に続き、ルシィラも邪剣に攻撃を加えて行く。

「マジック・ウェポン【魔法の武器】」

 エスタラニィは、自身の武器に魔法を付与し威力を高め・・・。

「食らいなさい。」

 片手に持った剣で邪剣に斬りつける。

キィィィン

 エスタラニィの攻撃も邪剣に届き、さらにエスタラニィは剣を持っていない手で続けて魔法を放つ。

「マジック・ブラスト【魔力衝撃】」

グオォォ

 その魔法を食らい、邪剣が吹き飛ばされる。

「ヘイスト【加速】」

 クラウニスも、ミシェリスから援護魔法をもらい、邪剣に連続的に攻撃を叩きこんでいく。そこへ、背後にいたファルナールが魔法を撃ちこんだ。

「シャッター【破砕】」

 その魔法を食らい、邪剣に衝撃が走る。

 そして、邪剣の剣身に僅かなヒビが入いる。

「ば、馬鹿な!我が器に傷がつくなど!」
「どうやら気付かなかったようね。」

 そう、私の剣が最初に邪剣に届いたあと、私は邪剣の同じ場所に攻撃を入れ続けたのだ。私だけではない、エスタラニィやクラウニスさんもその意図を察し、2人とも私が攻撃し続けた場所を重点的に斬りつけていたのだ。
 周囲の魔女達も邪剣を破壊するべく、ファルナールが放ったのと同じ魔法を次々に打込む。

「「シャッター」」
「「シャッター」」

 魔女達による魔法の一斉攻撃を食らい、邪剣の体に走るヒビが全体に及んでいく。

「ならば、ここは一度引かせてもらうとしよう・・・。」
「な、お主逃げる気じゃな!」
「どういうこと?」
「簡単な事じゃ、あ奴め邪剣の肉体を捨てて、今一度狭間の世界に逃げる気じゃ。おそらく、以前の戦いでもあ奴は肉体を捨てることで消滅を免れたものの、逆に次元の狭間に幽閉されることになったのじゃろう。」
「そう、あの時は不覚を取ったが、この場に我を次元の狭間に幽閉させられる者はいない。我は、新たな肉体を手に入れ、今度こそ我が“方割れ”を呼び寄せすぐにでもこの世界に舞い戻ろうぞ。」
「ファルナール様、いくら私達の合同魔法でも、ディメンジョナル・アンカーでは肉体を繋ぎとめるのが精いっぱいです。肉体を捨てての、精神だけの転移を妨害することはできません!」
「そんな事はさせないわ!」

 そう言って私は邪剣の前に出る。
 そうやって、私は手の中の両手剣に意識を集中しはじめる。今、奴を逃す訳には行かない。なんとしても、この場で仕留めなければ!
 私は、剣に教えられた、力を解放するコマンドワードを唱えた。

「シュヴェーアト・ベフライウング(剣解放)!」

 クレージュさんは言った、この剣は魔剣の一部を託した者が一緒にクレージュさんに渡した物だと。ならば、魔剣の一部を彼女に渡したのが私の先祖なら、剣を渡したのも私の先祖という事になる。私はクレージュさん・・・、もといクレージュさんにこの剣を託した私のご先祖様にこたえるために、この剣の力を解放する。だが、その能力の制限上、チャンスは1回だけ、外すことはできない。
 私の言葉に反応して、「天獄の剣」が力強く光を放つ。その光と共に、剣の周囲の空中に複数のルーン文字が浮かび上がる。ルーン文字は、1文字で一つの意味が込められている。今、剣の周りに浮かんでいるルーン文字は「束縛」や「拘束」を意味するものだった。

「はああぁぁぁああぁぁぁ」

 私は気合を込め、邪剣に向かって走り出す。そして、邪剣を袈裟に斬りつけた。

ガキィィィィン

 激しい金属を鳴り響き、私は一度後退して邪剣に間合いを取る。

「やったのか!」

 クラウニスさんが、そう私に訪ねてくる。

「いや、まだよ!」

 そう、今の一撃は相手を破壊するためのモノではない。完全に邪剣を滅するための、布石なのだ。見れば、私の手にある「天獄の剣」は相変わらず力づよい光を放っている。だが、その周りからルーン文字が消えており、代わりに邪剣の周りにルーン文字が纏わりついていた。
 そして、虚空から無数の白く透明な鎖が邪剣目がけて舞い降りてくる。白く透明な事からも、その鎖が実体の無い霊的なものであることが分かる。その鎖は邪剣・・・、もとい邪剣に纏わりつくルーン文字目がけて一直せんに伸びて行く。その速さはすさまじく、あっというまに邪剣は天から伸びる鎖に拘束されてしまった。

「そのようなモノで器を拘束した所で、我が行くのを阻止することは・・・。ば、馬鹿な!なぜ次元移動ができない!この鎖は我が精神ごと拘束しているというのか!ま、まさかこの能力は・・・!」
「そう、その天から伸びる鎖は、肉体はおろかその精神をも拘束し、肉体を自由に転移できる存在を、その器ごと捕縛することができる。故に、この剣に付いた名がソード・オブ・セレスティアル・プリズン!」

 そして、私は両手で「天獄の剣」を空に掲げると、剣のもう1つの能力を解き放つ。

「断罪の刃よ!」

 その言葉と共に、今まで以上に剣の光が強まり、その光ははるか上空まで伸びて行く。その光景を見た邪剣は、驚愕の声を上げる。

「ば、馬鹿な!これらの能力は、聖剣『デイブレイクブリンガー』や『エルウィンデリバー』が持つ力のはず・・・。なぜ、聖剣ではないその剣が持っているのだ!」
「それは、この剣が教えてくれたわ。聖剣も邪剣も、もともとは異世界の人の手でつくられたモノだった。それが、長い時間をかけて神格を得たもの。だが、貴方が前の世界で戦ったその2振りの聖剣の器は、その戦いの直前に造られた物だったのよ。」
「なんだと・・・!」

 私は、話ながら剣の力がどんどん高まって行くのを感じていた。

「聖剣の神格自体は、何処からきたのかは分からないわ。でも、聖剣の器を作った人達はその戦いのさなか、確かに居たのよ。その人達は、戦いが終わった後も、散らばった邪剣に対抗するために、聖剣と同じ力を持つ剣をいくつか作り上げたの。これが、そのうちの1本よ!」

 その言葉と共に、私は剣をただ上空にむかって突きだす姿から、上段の構えに以降する。

「さっきまでは、貴方にこの能力を届かせることなんて、できなかったでしょうね。でも、私の仲間が・・・、皆がいてくれたからこの力をお前に届かせることができる。覚悟しなさい、邪剣『ルーインアンセマー』!ここが、貴方の存在の終着点よ!」

 そう言って、私は邪剣に向かって走りだした。
 そして、その光の刃を鎖に拘束され、避けることができない邪剣に向かって振り下ろす。

「やああぁぁぁぁぁぁ」

 手元に感じる、微かな抵抗感。でも、私は剣を止めず、地面にまで振り切った・・・。
 地面まで振り切ると同時に光の刃が拡散し、「天獄の剣」の剣身が砕け散った。本物の聖剣は、その器に神格を宿すことで耐えることができるのだが、この剣ではそれが不可能。故に、この能力は一度しか使えない、チャンスが一度だけの能力なのだ。

「グオオオォォォォ」

 あたりに、邪剣の叫びがこだまする。そして、空中に浮遊していた邪剣が地面に向かって落ち、そのまま地面に突き刺さる。

 そして、その剣身に無数のヒビが入っていく。

「ば・・・か・・・な・・・、我が、我が聖剣の偽い物ごときに・・・。」
「やったの・・・?」

 邪剣の剣身に走ったヒビから、前に邪剣が吸い込んだのと同じ無数の光が飛び出して行く。どうやら、邪剣に食われた魂が解放されていくようだ。

「最後に一つ教えてやろう・・・。我は、自らの意思でこの世界に流れ着いたのではない・・・。」
「どういうこと?」
「我は・・・、我を呼ぶ声に導かれて・・・、この世界に、・・・、たどり着いたのだ・・・。我が・・・同胞の・・・声が・・・聞こえ・・・。」

 そして、まるでガラスが砕けるかの様な音をたて、邪剣はその精神ごと跡かたも無く砕け散った。

「た、倒したの?」

 そうエスタラニィが聞いてきたので、私はこう答えたのだ。

「ええ」

 私がそう答えると、私達の立っていた場所に光が差し込んできた。空を見上げてみると、空を覆っていた厚い黒雲は消えて行き、太陽の光が差し込んできたのだ。
 おそらく、邪剣が消滅したことで力場の壁が消滅し、そこに溜めこまれていた魔力が拡散して行ったのだろう。

「さて、エルよ、ワシはこの者達を連れて行くから。お主達は、自力で先に戻っておるがよい。」
「「「は〜〜〜い」」」

 そう言って、魔女達は次々と姿を消して行く。

「さて、皆のモノ、帰還魔法を使うのでの、どこでもいいからワシの体につかまるのじゃ。」

 そう言うと、皆が一斉にファルナールの手につかまる。

「な、なぜに皆そろって手に?」
「いや、なんとなく・・・。」
「モフモフです〜〜。」

 こうして、ファルナールの魔法で私達は彼女のサバトへと期間したのだった。

・・・

 ファルナールのサバトの施設に戻った私達は、残っていた魔女や、負傷し先に戻っていた魔女達の歓迎を受けた。
 そして、今私はベッドの上に横になっている。他の人達は、明日にでも出発してそれぞれの帰路につくのだろう。私も、ひと段落ついたことだし、実家に帰ろうと思っていた。
 そんな事を考えていると、部屋のドアをノックする音がした。昨日は、エレリーナさんが来たけれど、今日は誰だろう?

「どちら様?」
「お姉ちゃん、私〜。」
「どうぞ〜」

 私がそう言うと、手に枕を持ったエスタラニィが部屋に入ってきた。

「どうしたのよ?」
「ねえ・・・、今日は一緒に寝てもいい?」
「・・・」
「・・・」
「っふう・・・、しょうがないわね〜。」
「やった〜!」

 そう言うと、彼女は私の隣に潜りこんできた。

「変な事するんじゃないわよ。」

 そう言いつつ、私も彼女が入れるだけのスペースを開けてやる。
 そして、彼女が私と並ぶと、こう言ってきたのだ。

「やっと、全部終わったんだよね。」
「そおね・・・。まったく貴女ったら、無茶ばかりして・・・。」

 そう言って、私はエスタラニィの頭を撫でてやる。すると、彼女は目を閉じて嬉しそうな表情をした。

「だって、お姉ちゃんが旅立った時、本当に帰ってくるか心配だったんだもん。窓からお姉ちゃんを見てて、もう二度とその姿が見れなくなるんじゃないかなって・・・。」

 そう、私もあのときは、生きて再び家に帰ることができるのか分からなかった。

「でも・・・、もう・・・、心配いらない・・・ん・・・だよ・・・ね・・・」
「ええ、だからお家に帰りましょう。」
「・・・」

 頭を撫でているうちに、エスタラニィはそのまま眠ったようだった。
 そして、彼女の頭を撫でているうちに、私もいつのまにか眠りについていた。

・・・

 次の日の朝。

「さて、皆はこれからどうする気かの?」

 皆が遅い朝食を取り終えた頃を見計らない、そうファルナールが切り出してきた。
 それに私はこう答えた。

「私は、一族にかけられた呪いの一件が一段落ついたし、一度家に帰るわ。そうでしょ、エスタラニィ?」
「うん。」

 妹は、元気よく答えた。

「それじゃあ、ルーカストの街までご一緒しますわ。私は、自分の研究をほっぽり出したままですからね。」

 そう答えたのは、エレリーナさん。考えてみれば、彼女は私がルーカストの街を出てから、ずっと一族の呪いのことを調べてもらっていたんだった。

「俺は、また教会連中が何を考えているのか、追いかけるだけだ。今回の一件で、ダスクハイムの国で何が起こったのかは、分かったが。教会が関与しているのは、どうもあれだけじゃないようだしな。」

 そう言ったのはクラウニス。そのクラウニスに続いて、ミシェリスも答える。

「私はいつもどおり、クラウニスにひっついていくだけよ。そうでしょ、ボディーガードさん?」
「へいへい、せいぜい妙な事はしないでくれよ雇い主様。」

 そう言った2人の表情は、明るいものだった。

「ん〜。私はどうしようかな〜。」

 そう言ったのは、クレミリア。彼女の事情は、クラウニスさんから聞いた。でも、彼女自身が自分の事を取り戻さない限り、彼女が成仏することはできないのだろう。

「では、私と一緒に来てはいかがですか?」
「え、いいの?」

 そう申し出たのは、エレリーナさん。

「はい、貴方のような実体の無い方が研究を手伝って下さると、大いに助かりますし。」
「やった〜。」

 今、なんか不穏な単語が出たような気がするが・・・、気にしないでおこう。

 そして、その日の昼に、皆はそれぞれの家や、それぞれの目的に向かって、ファルナールのサバトの施設を出たのだった。
11/06/11 07:12更新 / KのHF
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 エピローグに続きます。

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