奥へ
「あら、この一撃では撃破できませんか」
大きな衝撃のあと、僕の目の前にいたのはレクシアではなく、オリアナだった。
「……っ、痛てえ」
恍惚とした表情で僕を見つめるオリアナ。彼女の右の拳からは、煙が上がっている。
僕に命中したのは、彼女の右の拳による殴打だった。
「おいっ! アタシの獲物を取るんじゃねぇ!」
そしてレクシアは、オリアナのその行為に怒りを燃やしていた。
「コイツはアタシの獲物だ! 勝手に手を出すな!」
「あら、レクシアさんは王子様の事がそんなにお好きなんですの?」
「な、なんだと!? 別に……そ、そんなんじゃねぇしっ!」
レクシアは語尾を震わせながら、剣を握りなおす。その様子を見てオリアナは微笑んだ。
「別に正直に言ってもいいんですよ、レクシアさん。私だって殿方を抱きしめたいと思いますし、交わりたいとさえ思います。そしてそれが叶わないなら、メスによってもたらされる快楽を教え込み、自分のものになるまで調教したいさえ思います。……それが自然なことだと思いますよ?」
「……だ、だからそんなんじゃないって言ってんだろっ!」
ムキになって叫ぶレクシア。顔を真っ赤にして切りかかりそうな勢いだったが、レンディスが間に入って仲裁する。
「そのへんにしとけオリアナ」
レンディスがそう言うと、オリアナは諦めたかのようにため息をつき、拳を握りなおした。
「あとレクシア。感情的になりすぎだ」
「チッ……わかったよ……」
レクシアはオリアナを睨みつけ、剣を構えなおす。
ドラゴンという種族ゆえなのか、レンディスはその一言で隊を従えるだけの能力を持っている。
さすがドラゴンと言うべきか。
「…………それとメイ。触手で遊ぶな」
「ふぇ?」
最後に呼ばれた彼女は、レンディスたちの後ろで触手を片結びを量産していた。
「つまらないのは分かるが遊ぶんじゃない」
「だって処女って一人で突っ走っちゃうから……」
そう言いながら隊列に戻るメイ。
「う、うるせぇ!」
そう言ったのはレクシアだった。
ただ、レクシアはオリアナにからかわれた時の様に狼狽えてはいない。
全員が僕に正対し、仕留めようと戦士の眼で見つめている。
「さて、これで全員そろったが――――」
「――――手負いのお前は私たちに勝てるか?」
にやりと不敵に笑うレンディス。
対して、僕は苦笑い。
勝てるわけがない。
でも、負けるわけにはいかない。
オリアナに殴られたのは左肩で、丁度肩につけていた盾が僕を守ってくれた。でも、左肩は痛くて、腕を上にあげられない。
だから僕は右腕一本でカタナを支え、切っ先をレンディスに向けた。
「流石だな、テツヤ」
もう一度にやりと笑う彼女。
“それでこそ私の宝に相応しい”
「えっ……?」
レンディスが、何か言ったような気がした。
しかし、その音は彼女が地を蹴る音に掻き消される。
「戦闘開始だ」
迫るレンディス。その手は赤く燃え盛り、僕を仕留めようと首元に伸びる。霧の大陸の魔導武術のひとつ、裂焦拳だ。
「くっ……」
突撃するレンディスの一撃をカタナでいなし、次の攻撃を魔術で作り上げた防御壁で防ぐ。
「こっちだ!……オラァッ!!」
そして同時に放たれるレクシアの剣戟は、籠手で剣の鎬を叩き、軌道を逸らす。
「ロロイコ家仕込みの接近戦闘術……アタシの初めてには相応しい強さじゃねぇか!!!」
レクシアの尾に燃え盛る炎が大きくなる。そのぶん、僕やレンディスの間に目隠しとなる範囲が増える。
僕はそれを利用してメイの尻尾を掴み、触手の森の木々に向かって蹴り飛ばした。
しかし、思ったように触手に絡め取られてくれない。
「地形効果を利用した作戦……見事ですがそんな小細工は私達には通用しませんよ?」
オリアナは蹴り飛ばされたメイを受け止め、その手に炎を持っている。
また烈焦拳か。
霧の大陸の魔導武術は、素手での格闘から剣術、槍術、軟器械術まで幅広い分野があるが、この烈焦拳は火の魔力を用い、なおかつ素の力の強いドラゴン達にはうってつけの術だ。だからこそ彼女たちはこの技を使うのだが、この技を使うには肉薄しなければいけないし、手に火を灯している間は他の術が一切使えなくなるという弱点がある。
しかし、使用するのに起動術式の必要ないこの術は、ドラゴン達の体に有り余る強力な火の魔力によって強化され、一撃必殺の威力を誇る。魔物に流れる魔力は人間を傷つけず、相手の戦意をそぐだけだとしても、迫力は抜群だし、素早い彼女たちが使えば大きな脅威となり得た。
……しかし、不意打ちでもないのにこの技を見せびらかしているのは何故なのだろうか。
オリアナはメイを下ろすと、楽しそうに手のひらに宿る炎を見つめ、にやにやと笑っている。
自分のスピードにそれほど自信があるのだろうか?
……そう思った時だった
「チェックメイト、かな?」
後ろからそんな声が聞こえた。
そしてその声に反応して後ろを見ると、そこには手のひらに炎を宿したレクシアが居た。今まで握っていた剣を鞘に入れて背負っている。
そして、左右を見ると、そこにはメイとレンディスが居た。
もちろん、彼女たちも手のひらに炎を宿している。
いつの間にか僕は囲まれていたようだ。
「さぁ、これからどうする?」
レンディスは冷静な声で僕に尋ねた。
「どうするって何を?」
「降参するかしないか」
「あー」
「早く決めて」
「降参はしないよ」
「そう」
彼女はそう言うと、三人に目配せをして合図をした。
その合図とともに、彼女たちは駆け出す。
僕を仕留めんとするために。
そして僕はそれに合わせてカタナを地面に捨て、しゃがみ、手を地面にあてる。
そして、迫る四人のうち、オリアナ以外の三人の正面に壁ができるようにイメージをしながら叫ぶ。
「火生土、 地脈隆起!」
五行魔術のうち、一番基礎的なものの一つだ。
木→火→土→金→水という相生という五行の流れに合わせ、空気中に漂う火の魔力を変換し、地脈を隆起させる。
それだけのものだが、今までレンディスたちがこの触手の木々を焼いたときの魔力や、烈焦拳で放出された魔力などで、この森には火の魔力が充満している。
だからこそ、僕の生み出した土壁は堅固なものとなり、オリアナ以外の三人の行く手を阻む。
「えっ、あっ……!?」
オリアナは状況が飲み込めないまま、歩みを止められずに突っ込んでくる。
僕は彼女が目の前に到達するのを見計らって、もう一度術を唱えた。
「火生土、 地脈隆起!」
「キャッ!」
オリアナの足元から伸びる土壁によって彼女は上空に打ち上げられた。
そして彼女が落ちてくるタイミングですぐさま落ちているカタナを拾い上げ、上方を斬りつける。
これでまずは一人。
オリアナの鎧と肌着が真っ二つに切り裂かれ、バラバラと地面に落下する。
しかし、彼女の体には傷ひとつついてはいない。
魔界銀のカタナは鎧と戦意を断ち切り、他人を傷つけないのだ。
「ああ……私の負けね」
彼女は裸になった体をくねらせ、恥ずかしそうに僕を見つめた。
その頬は幾分か紅潮している。
僕は彼女の裸を見ないように目を逸らし、触手の森の奥へと進んだ。
レンディスに勝つには、触手の森の中層ではだめなのだ。
大きな衝撃のあと、僕の目の前にいたのはレクシアではなく、オリアナだった。
「……っ、痛てえ」
恍惚とした表情で僕を見つめるオリアナ。彼女の右の拳からは、煙が上がっている。
僕に命中したのは、彼女の右の拳による殴打だった。
「おいっ! アタシの獲物を取るんじゃねぇ!」
そしてレクシアは、オリアナのその行為に怒りを燃やしていた。
「コイツはアタシの獲物だ! 勝手に手を出すな!」
「あら、レクシアさんは王子様の事がそんなにお好きなんですの?」
「な、なんだと!? 別に……そ、そんなんじゃねぇしっ!」
レクシアは語尾を震わせながら、剣を握りなおす。その様子を見てオリアナは微笑んだ。
「別に正直に言ってもいいんですよ、レクシアさん。私だって殿方を抱きしめたいと思いますし、交わりたいとさえ思います。そしてそれが叶わないなら、メスによってもたらされる快楽を教え込み、自分のものになるまで調教したいさえ思います。……それが自然なことだと思いますよ?」
「……だ、だからそんなんじゃないって言ってんだろっ!」
ムキになって叫ぶレクシア。顔を真っ赤にして切りかかりそうな勢いだったが、レンディスが間に入って仲裁する。
「そのへんにしとけオリアナ」
レンディスがそう言うと、オリアナは諦めたかのようにため息をつき、拳を握りなおした。
「あとレクシア。感情的になりすぎだ」
「チッ……わかったよ……」
レクシアはオリアナを睨みつけ、剣を構えなおす。
ドラゴンという種族ゆえなのか、レンディスはその一言で隊を従えるだけの能力を持っている。
さすがドラゴンと言うべきか。
「…………それとメイ。触手で遊ぶな」
「ふぇ?」
最後に呼ばれた彼女は、レンディスたちの後ろで触手を片結びを量産していた。
「つまらないのは分かるが遊ぶんじゃない」
「だって処女って一人で突っ走っちゃうから……」
そう言いながら隊列に戻るメイ。
「う、うるせぇ!」
そう言ったのはレクシアだった。
ただ、レクシアはオリアナにからかわれた時の様に狼狽えてはいない。
全員が僕に正対し、仕留めようと戦士の眼で見つめている。
「さて、これで全員そろったが――――」
「――――手負いのお前は私たちに勝てるか?」
にやりと不敵に笑うレンディス。
対して、僕は苦笑い。
勝てるわけがない。
でも、負けるわけにはいかない。
オリアナに殴られたのは左肩で、丁度肩につけていた盾が僕を守ってくれた。でも、左肩は痛くて、腕を上にあげられない。
だから僕は右腕一本でカタナを支え、切っ先をレンディスに向けた。
「流石だな、テツヤ」
もう一度にやりと笑う彼女。
“それでこそ私の宝に相応しい”
「えっ……?」
レンディスが、何か言ったような気がした。
しかし、その音は彼女が地を蹴る音に掻き消される。
「戦闘開始だ」
迫るレンディス。その手は赤く燃え盛り、僕を仕留めようと首元に伸びる。霧の大陸の魔導武術のひとつ、裂焦拳だ。
「くっ……」
突撃するレンディスの一撃をカタナでいなし、次の攻撃を魔術で作り上げた防御壁で防ぐ。
「こっちだ!……オラァッ!!」
そして同時に放たれるレクシアの剣戟は、籠手で剣の鎬を叩き、軌道を逸らす。
「ロロイコ家仕込みの接近戦闘術……アタシの初めてには相応しい強さじゃねぇか!!!」
レクシアの尾に燃え盛る炎が大きくなる。そのぶん、僕やレンディスの間に目隠しとなる範囲が増える。
僕はそれを利用してメイの尻尾を掴み、触手の森の木々に向かって蹴り飛ばした。
しかし、思ったように触手に絡め取られてくれない。
「地形効果を利用した作戦……見事ですがそんな小細工は私達には通用しませんよ?」
オリアナは蹴り飛ばされたメイを受け止め、その手に炎を持っている。
また烈焦拳か。
霧の大陸の魔導武術は、素手での格闘から剣術、槍術、軟器械術まで幅広い分野があるが、この烈焦拳は火の魔力を用い、なおかつ素の力の強いドラゴン達にはうってつけの術だ。だからこそ彼女たちはこの技を使うのだが、この技を使うには肉薄しなければいけないし、手に火を灯している間は他の術が一切使えなくなるという弱点がある。
しかし、使用するのに起動術式の必要ないこの術は、ドラゴン達の体に有り余る強力な火の魔力によって強化され、一撃必殺の威力を誇る。魔物に流れる魔力は人間を傷つけず、相手の戦意をそぐだけだとしても、迫力は抜群だし、素早い彼女たちが使えば大きな脅威となり得た。
……しかし、不意打ちでもないのにこの技を見せびらかしているのは何故なのだろうか。
オリアナはメイを下ろすと、楽しそうに手のひらに宿る炎を見つめ、にやにやと笑っている。
自分のスピードにそれほど自信があるのだろうか?
……そう思った時だった
「チェックメイト、かな?」
後ろからそんな声が聞こえた。
そしてその声に反応して後ろを見ると、そこには手のひらに炎を宿したレクシアが居た。今まで握っていた剣を鞘に入れて背負っている。
そして、左右を見ると、そこにはメイとレンディスが居た。
もちろん、彼女たちも手のひらに炎を宿している。
いつの間にか僕は囲まれていたようだ。
「さぁ、これからどうする?」
レンディスは冷静な声で僕に尋ねた。
「どうするって何を?」
「降参するかしないか」
「あー」
「早く決めて」
「降参はしないよ」
「そう」
彼女はそう言うと、三人に目配せをして合図をした。
その合図とともに、彼女たちは駆け出す。
僕を仕留めんとするために。
そして僕はそれに合わせてカタナを地面に捨て、しゃがみ、手を地面にあてる。
そして、迫る四人のうち、オリアナ以外の三人の正面に壁ができるようにイメージをしながら叫ぶ。
「火生土、 地脈隆起!」
五行魔術のうち、一番基礎的なものの一つだ。
木→火→土→金→水という相生という五行の流れに合わせ、空気中に漂う火の魔力を変換し、地脈を隆起させる。
それだけのものだが、今までレンディスたちがこの触手の木々を焼いたときの魔力や、烈焦拳で放出された魔力などで、この森には火の魔力が充満している。
だからこそ、僕の生み出した土壁は堅固なものとなり、オリアナ以外の三人の行く手を阻む。
「えっ、あっ……!?」
オリアナは状況が飲み込めないまま、歩みを止められずに突っ込んでくる。
僕は彼女が目の前に到達するのを見計らって、もう一度術を唱えた。
「火生土、 地脈隆起!」
「キャッ!」
オリアナの足元から伸びる土壁によって彼女は上空に打ち上げられた。
そして彼女が落ちてくるタイミングですぐさま落ちているカタナを拾い上げ、上方を斬りつける。
これでまずは一人。
オリアナの鎧と肌着が真っ二つに切り裂かれ、バラバラと地面に落下する。
しかし、彼女の体には傷ひとつついてはいない。
魔界銀のカタナは鎧と戦意を断ち切り、他人を傷つけないのだ。
「ああ……私の負けね」
彼女は裸になった体をくねらせ、恥ずかしそうに僕を見つめた。
その頬は幾分か紅潮している。
僕は彼女の裸を見ないように目を逸らし、触手の森の奥へと進んだ。
レンディスに勝つには、触手の森の中層ではだめなのだ。
17/06/19 04:06更新 / (処女廚)
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